タイトル:【DR】弐番艦、凱旋!マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/06/15 06:27

●オープニング本文


 ユニヴァースナイト弐番艦。
 北米を本拠とするドローム社の技術の結晶であり、壱番艦と並んで人類の希望たる艦。
 ラインホールドとの激戦を演じ、捨て身とも言えるドリル突撃を以て其れを制したその艦は、長い修復期間を終え、極東ロシアから飛び立とうとしていた。


    ◆◇
「ブラット准しょ‥‥ああ、あかんあかん、今はブラット少将になりはったんでしたね。お待たせしてすみません」
 ラスト・ホープ内の喫茶店にやって来たUPC本部食堂従業員・飯田 よし江(gz0138)は、テラス席に座って自分を待っていた人物に向け、そう声を掛けた。
「おお、よし江さん、お久し振りですな。なに、以前の肩書に戻ったに過ぎません。気遣いは無用です」
 そこにいたのは、UPC特殊作戦軍少将のハインリッヒ・ブラット(gz0100)であった。彼はよし江の姿を確認すると、立ち上がって向かいの椅子を引く。よし江は軽く会釈をして、そこに腰を下ろした。
「年末年始はお世話になりました。いつ、ロシアから戻りはったんです?」
「最近ですな。中々戦後処理が進まず、難儀しておりました」
「弐番艦、ていいましたっけ? 大きい戦艦に乗ってはったて聞いて、心配しとったんです」
 そこまで聞いて、ブラットは、よし江にドリンクのメニューを渡しながら、僅かに表情を崩してみせる。
「私はこの通り、無事です。弐番艦の方も、無事修復を終え、現地に残る兵員とともに間もなく北米へ帰国すると聞いております」
「ほな、まだ現地に残ってはる兵隊さんがいてるんですね?」
「極東ロシア軍の者は当然おりますし、後は、負傷や戦後処理で留まっている各地からの援軍が残っております」
「‥‥‥‥」
 ブラットの話を聞いて、よし江は急に押し黙った。
 このヒョウ柄のオバチャンが10秒以上黙っている場面も珍しいため、ブラットは、怪訝な表情で彼女を見る。
「どうされましたかな?」
「実は‥‥‥今日お呼び立てしたんは、その、ロシア戦線のことなんです」
「? と、いいますと?」
 言い出しにくそうに話し始めたよし江を、ブラットが促した。彼女は、クルクルパーマの髪を揺らして顔を上げ、口を開く。
「食堂の皆で話し合うたんです。寒いロシアで頑張ってはる兵隊さんたちに、あったかいもんを作りに行ってあげたいて。でも、危険やから言うて、今まで本部に止められとったんです」
 神妙な顔つきで話すよし江を、ブラットもまた、頷きながら真っ直ぐ見返していた。
「ほんならせめて、最後まで残ってはった人や、怪我して帰られへんかった人たちに、祝勝会みたいなんしてあげられへんやろか‥‥って思ったんです。今回ぐらいは、現地に出向いて‥‥」
「‥‥なるほど。仰りたいことは、良くわかりました」
 よし江の話を聞いて、ブラットは、うーむ、と暫く考え込む。
 UPC本部食堂の従業員がの心意気は、オセチ大作戦の時に思う存分聞かせてもらった。負傷兵や最後まで現地で働くてくれた兵を気遣う気持ちもよくわかる。それに、ささやかでも祝勝会を開くことができれば、疲弊し、帰国していく兵士たちの心の励みになるだろう。
「もうバグアの襲撃は落ち着いていますが‥‥ラスト・ホープに比べて危険であることには、変わりません。能力者でない皆さんには‥‥」
「お願いします。そんな危ないところには近付きません。基地でも病院でもどこでもいいんです。とにかく現地に行かせて下さい!」
「‥‥‥」
 身を乗り出して懇願するヒョウ柄。
 ブラットは、しばらく黙って考え続けていたが、やがて、根負けした。
「あなたのお気持ちはわかりました、よし江さん。ヤクーツクのUPC軍基地に連絡し、祝勝会の手配をしましょう」
「ほ、ほんまですか!?」
 よし江は表情を輝かせ、目の前に座るブラットをじっと見つめる。
「修復を終えた弐番艦が、一度ヤクーツクにて物資を積み込み、そこから北米へ帰国する予定になっております。弐番艦の側であれば、バグアもおいそれと手出しはできません。念の為、護衛と手伝いを兼ねた能力者の傭兵を雇っておきます」
 ブラットはそう説明すると、テーブルの上のコーヒーを一口、口に含んだ。

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●依頼内容
・負傷や戦後処理で最後までロシアに留まっていたUPC軍兵士(ここでは主に北中央軍)に、祝勝会を開いてあげましょう。
・護衛とは名ばかりです。バグアの襲撃は考えられませんので、安心して下さい。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
如月(ga4636
20歳・♂・GP
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
上杉 怜央(gb5468
12歳・♂・ER
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
桃ノ宮 遊(gb5984
25歳・♀・GP

●リプレイ本文

 祝勝会前日、ヤクーツクの大地を一台のジーザリオがひた走る。
「わざわざ車まで持って来てもろて、ありがとうなぁ」
 助手席に収まり、運転席の黒川丈一朗(ga0776)に礼を述べたのは、今回の祝勝会の発案者、飯田 よし江(gz0138)であった。
 大量の食材を詰め込んだジーザリオが、UPC軍兵士達と弐番艦の待つ基地へと到着する。
「何、話を持ち掛けたのは俺だからな。遠慮なく使ってくれよ、おかみさん」
「頼もしいわぁ。ほな、ちゃっちゃと運び込もか!」


●作業効率を上げましょう
 夕方、基地の食堂に集まった傭兵達は、祝勝会の打ち合わせを始めた。
「初めましてー! 今回はよろしくお願いします!」
 よし江、そして他の参加者に向け、礼儀正しく挨拶しているのは、椎野 のぞみ(ga8736)である。
「明日は祝勝会かー。面白くしたいね♪」
「みーんな寒〜い北国でずっと頑張ってたんだから。パァッと派手にやらなくちゃね☆」
 ピンクのビニールひもを櫛で梳いて工作中の弓亜 石榴(ga0468)、そして花瓶に花を活けながらの愛梨(gb5765)が、楽しげに言い合う。
「凱旋ってことは‥‥お祭やな。よっしゃ、でっかい花火上げたるでぇ! 飯田はん、よろしくな!」
 ゼブラな服に身を包んだ桃ノ宮 遊(gb5984)が、アニマル仲間なよし江とガッチリ握手を交わした。
「始まった当初は本当に寒かったけど、そろそろ暖かくなっても良い頃よね」
 日が傾き、気温が落ち始めた窓の外を眺め、百地・悠季(ga8270)が言う。
「極東ロシア戦線では、【シャスール・ド・リス】の一員として、ドリル突撃タイミングの指示伝達等の情報関係を担当したんです。そう勇ましい活躍じゃなかったのですが‥‥感慨深いものがありますね」
「修理が終わったということは、また戦地に行くことになるわけか。今回くらい羽を伸ばしてもらいたいよな」
 巨大な体躯を滑走路に鎮座させ、整備員たちに最終調整をさせているユニヴァースナイト弐番艦。上杉 怜央(gb5468)の言葉に、カルマ・シュタット(ga6302)は頷きながら、作業分担表を埋めていった。
「北中央軍って言っても、北米出身とは限らないわけだし。世界各国のおふくろの味を出せたらいいな」
 その方がおばちゃん達らしいし、と言いながら、宵藍(gb4961)が、皆のメニュー案を紙に書く。
 その時、煉条トヲイ(ga0236)が、物凄く大事なことに気が付いて口を開いた。
「ユニヴァースナイト弐番艦兵士達と祝勝会か。ブラット少将も粋な計らいをしてくれる。‥‥しかし」
「しかし?」
 問うよし江。

「飯田さん達5人と手伝いの俺達10人だけで300人を捌くのは、かなりの骨だぞ‥‥?」

「「‥‥‥」」
 数秒の沈黙。
 
 その後、トヲイの提案により、祝勝会は速やかに立食パーティー形式へと切り替えられたのであった‥‥。


●第二次極東ロシア戦線
(「ユニヴァースナイト弐番艦か‥‥こんなに間近で見るのは初めてだな」)
 吐く息も白い朝の空気に、整備員たちの声が飛び交っている。宵藍はコートの前を掻き合わせ、彼らの邪魔にならないよう弐番艦に近付いた。
(「やっぱり大きいな‥‥」)
 赤と白のボディに触れ、宵藍は、そのまま艦首のほうへと歩いて行く。そして、見えてきた巨大なドリルに目を奪われた。
 うっかり整備員に肩がぶつかり、立ち止まる宵藍。年配の整備員は彼を振り向くと、
「危ねえぞ、坊主。積み荷に轢かれるなよ」
「あ、すみません――って『坊主』じゃない!」
 俺は成人だーー! と騒ぐ宵藍だったが、整備員は笑いながら去って行った。


 宵藍が食堂へやって来た頃、既に厨房にはいくつかの人影があった。
 その隅で溜息をついている如月(ga4636)を見つけて、どうしたのか、と声を掛ける。
「もしかしたら、と思ったんですけどね」
 UPC北中央軍出身のマウル・ロベル少佐(gz0244)がいるかもしれないと思って聞き込みをしてみたが、彼女は既に特殊作戦軍に転属になり、ラスト・ホープを中心に動いているとの話を聞いたのだ。
「しかし、彼女がいないからといって手を抜くわけではありませんよ。ビーフストロガノフ、ロールキャベツ、白身魚のエスカベーシュ、ジェノヴェーゼ、カプレーゼサラダ、クロスタータ、ババロア、スペアリブ、コーンポタージュ‥‥あと、やはりハンバーグは外せません」
 コックコートに身を包んだ如月は、愛用の包丁セットを取り、伸びをした。
「さぁて、今日は忙しくなりそうだ。ま、その分、作りがいもありますがね」
 颯爽と厨房に入って行く如月を見送ると、宵藍は、「掃除でもしよう」とバケツを取り、食堂の隅の蛇口を捻る。
「つ、つべてぇ‥‥」
 キン、と冷えた水に雑巾を浸し、彼は根性で掃除を始めるのだった。

「次コンニャク! コンニャク切ってくれるか!?」
「了解した。マーボー豆腐の挽肉はここに置いて構わないか?」
「挽肉! あー先にこっちに持って来てー!」
 トヲイは、オバチャン三人に囲まれるようにして包丁を振るっていた。
「‥‥正に戦場だな」
 目の前に積まれた大量のコンニャクを刻みつつ、トヲイは、飛び交う指示に的確に応えている。厨房はもはや、第二次極東ロシア戦線でも勃発したかのような騒ぎであった。
 オバチャン軍団の下でテキパキと作業をこなしつつ、トヲイは、デザートの杏仁豆腐と抹茶プリンの仕込みも忘れない。
「やっぱ関西人ならお好み焼きや! 燃えてきたでぇ〜!」
 すぐ隣のまな板を使い、遊がひたすらキャベツを刻み続けていた。そういえばパンも用意しているようだが、一体何が出来上がるのだろうか。
「ほら見てー! ハリネズミっ♪」
 カンパネラ制服に青割烹着姿ののぞみが、ハリネズミのような形状のミートボールをお玉に載せて皆に見せる。如月が、まじまじとそれを覗き込んだ。
「ロシア料理ですか?」
「うん。ヨージキっていうの。出身の函館はロシアと結構交流があったから、作るのも食べるのも好きなんだよねー!」
 彼女の作るメニューは総ロシア料理で、他にもボルシチ、ガルショーク(壺焼きシチュー)、シャシリク(串焼き)などがあった。
「‥‥ん? どないしたんや?」
 よし江が、厨房の入口でキョロキョロしている愛梨を見つけて、声を掛ける。
「オバチャン、あたし、あんまり料理ってできないんだけど。それでもオバチャンたちのお手伝いしたいの‥‥何か手伝えることある?」
 明るく勝ち気に見える彼女だが、やはり料理が得意でないというのは言い辛い事なのかもしれない。よし江は、愛梨の肩をバーンと叩くと、豪快に笑って見せた。
「最初から料理が上手い人間なんかおれへん! 提案メニューはカレーやったかいな? 野菜切ってみるか?」
「うん、材料切るぐらいならできるし、手伝わせて!」


 食堂の飾り付けのほうはというと、こちらも順調であった。
「よし、できたわ」
 キュキュキュ、と音を立ててマジックを滑らせていた悠季が、『祝・DR完遂祝勝会』と書いた大きな模造紙を広げ、壁の高い位置に貼りつける。
「手前半分のお掃除が終わったみたいなの。あっちから紙テープを飾るなの」
「それ、誰のマネ?」
 UPC軍服を着込み、髪をツインテールにした怜央に、悠季が尋ねた。
「白瀬留美(gz0248)少尉なの。ちょっと恥ずかしいけど、一人前の男になる度胸を付ける為にも、頑張るなの‥‥」
 彼なりの愛情表現なのかもしれない、と悠季は納得し、天井を飾る作業に入った。
「さあ、そろそろ配膳だな。といっても、立食だから簡単だが‥‥」
 テーブルクロスを敷き、愛梨が活けた花を置くカルマ。一通りテーブルを整えてから、そうだ、と厨房横の倉庫へと駆けて行き、紙ナプキンやコースターを大量に持って出てきた。
「あとは、飲み物もいくつかテーブルにあった方がいいな」


●パーティーです
『皆さん今日まで本当お疲れさまでした! まだ戦いはこれからも続きますが、今日は騒いで飲んで楽しみましょう!!』
 のぞみが開会の挨拶を宣言し、食堂に集った300人の兵士達は、グラスを高々と掲げて乾杯した。
「俺が運ぼうか?」
「おお、すまんな。なんせバイキングは戦争同然――って、えぇーー!?」
 料理に群がる兵士達の皿を運んでやる宵藍だったが、両手と肩と頭に乗せた皿の数は8を超えている。
「お好み焼き〜お好みバーガーいかがっすかー! 豚玉イカ玉どっちも焼けてんでー!」
「お好みバーガー? ビーフパティじゃなくて?」
「へー、面白ぇ。お姉ちゃん、一つくれる?」
 バイキングスペースの隣に鉄板を設置した遊が、小さめのお好み焼きを焼いている。興味を持った兵士達が、何だ何だと集まって来た。
「これが意外とイケんねんて! ほい、一丁上がりやー!」
 できたてのお好み焼きを焼きそばと一緒にパンに挟み、兵士達に渡していく遊。フワフワのパンに、表面がカリっと焼けたお好み焼きの食感が新鮮で、甘めのソースが絡んだ焼きそばがアクセントになっている。
「うおお!? なんだこれ、新しいな!」
「なんという異文化交流‥‥!」
「何やったら、ミックスジュースも飲まへん?」
 差し出されたミックスジュースを取り、またも歓声を上げる兵士達。
 そんな中、
「う‥‥っ!?」
 突然、シュークリームを食べていた一人の兵士が、口を押さえて苦しみ出した。
「どうした! 大丈夫か!?」
「み、未知の味が‥‥がくっ」
 バッシングした皿を置いて駆け寄って来たトヲイに支えられ、彼は半分死んだ。
「ふっふっふ‥‥当たりを引いたね! これぞロシアンわさびシュー!」
 死に掛けの兵士に水を渡し、石榴は実に満足気に当たり(?)を宣言する。
「当たりを引いた人は、もれなく極東でヴィンセント・南波大尉(gz0129)とアフロを被れるチャンス権が!」
「誰だそれはあぁぁぁーーーーッ!?」
 意外と、日本の若き大尉は無名らしい。
 やれやれ、と作業に戻るトヲイを尻目に、ノリノリの石榴は、アフロに加工したポンポンつけた風船を膨らませ、何かまた企んでいた。
「‥‥こんなことはやったことがないけど、慰安ということで一つやってみようかな」
 やんややんやで舞台(?)に迎えられたカルマは、京劇風の衣装に身を包み、純白のセリアティスを芝居がかった動きで大きく振るう。
「すげー! 槍すげー!!」
 非能力者の正規軍では「槍使い」自体が珍しい。京劇も知らない者が多く、1.7mの槍を軽々と振り回す彼の姿に感嘆の声が飛んだ。
 舞台を降りるなり数人の兵士達に囲まれたカルマは、彼らと料理を楽しむことにした。
「あなた、弐番艦のクルーなの?」
「そうなんスよ。いや〜、ドリル突撃するなんて聞いた時は、もう俺終わりだって思っちゃいました〜」
「骨折で済んでよかったわ。あら、これ美味しいわね」
 取って来た料理に舌鼓を打ちながら、兵士と談笑する悠季。彼は、弐番艦の突撃でうっかり転倒し、足を骨折してしまったらしい。
 楽しく会話しながらも悠季の目はテーブルの上を滑り、空いた皿を重ねて片付け、さらに追加で料理を取って来てあげる心配りも忘れなかった。
『つ、次はお歌なの。IMPののぞみさんなの』
 マイクを取った怜央が司会を始め、左右に置いたスピーカーからロック調のロシア民謡が流れ出す。
「のぞみさんかわいー! それアフロケット、発射ーーー!!!」
 のぞみが登場するなり、怪音を伴うピンクのアフロが会場を縦横無尽に飛び回った。風船にアフロポンポンとつけたものだが、謎のモサモサが次々と兵士の顔面を襲う光景は、もはやシュール以外の何でもない。
 のぞみはロシア民謡とカントリーミュージック歌手のカヴァー数曲を日本語、英語、ロシア語の三ヶ国語で歌い上げ、拍手が巻き起こった。
『お耳汚しすいません、ありがとう御座いました!』
「よしっと‥‥この間にあっちを片づけて‥‥」
 バイキングの料理はあっという間になくなっていく。如月は、空いた大皿を手早く下げて追加のロールキャベツを置くと、次に空いたスープ鍋へと手を伸ばす。
「お、新しいのが出たぞ! うおー、マジ美味そう‥‥」
「今作戦、本当にお疲れ様でした。あなたがた正規軍と自分たち傭兵部隊。二つ揃ってこその勝利です」
 群がって来た兵士達に出来たての料理を出しながら、如月は、極寒の地での厳しかった戦いの日々を思い出すのであった。
『次は宵藍さんの中国舞踏なの』
 石榴の手によって猫耳を装着させられた怜央が、恥ずかしそうに司会を続けている。当の石榴はというと、厨房に入り込んでよし江の百科事典級な腹肉の分厚さを確認中だった。
 音楽に合わせ、衣装を着替えた宵藍が軽やかに舞う。足音一つしない演舞に溜息が洩れ、続いては中国刀を用いた演武だ。
 ダイナミックに、跳躍を交えて繰り広げられる舞は美しいの一言で、最後に剣を雄々しく構えてポーズを決める。
「よっ! いいぞ坊主ーーー!!」
「だから『いいぞ坊主』じゃないって言ってるだろぉぉぉ!! 俺は成人だぁぁぁ!!」
 宵藍は必死だったが、悲しいことにジョークだと思われてしまったようだ。
「愛梨ちゃんって言うのかー。いやぁ〜可愛いねぇ‥‥えへへ」
「ほんとに? ありがとー。私、モデルやってるんだ! よかったら雑誌買ってね♪」
 どう見ても将来有望そうな愛梨にお酌されて、鼻の下が伸びきっている兵士多数。彼女が手伝ったカレーを褒めてくれる者もいて、愛梨は素直に嬉しいと感じていた。
「よっしゃ、見せモンの最後はバトルモップの舞や! え? そんなんない?」
 モップを持ち出して剣舞のマネを始めた遊に、兵士達は大ウケだ。そこは関西人のノリで、モップに跨って飛ぶ振りをしてみたり、遊は持ち前のサービス精神でパーティーを盛り上げるのであった。


●弐番艦、凱旋!
 手早く片付けを終えた傭兵達は、カルマの「これを逃すといつ見れるか分からない」という言葉に誘われ、離陸前の弐番艦を見に出てきた。
「俺もまた、戦場に戻ることになる‥‥いつかは戦争終了の宴をしたいものだな」
「ああ、また会おう。楽しかったぜ!」
 帰国準備を終え、ゾロゾロと弐番艦へと乗り込んで行く兵士達に声を掛け、カルマは、先程一緒に歓談した青年兵士と、握手を交わす。
 ありがとう、と口々に礼を述べる彼らを、傭兵達は笑顔で見送った。
「折角だ。記念写真といこう」
 青い空の下、陽光を反射して光輝く弐番艦。
 トヲイは、後ろにいたオバチャン達も誘って皆を並ばせ、持参したカメラのシャッターを押した。
 近くにいた整備員が気を利かせ、二枚目は、トヲイも一緒に写真に収まる。
「人類の希望‥・・ユニヴァースナイト‥‥か」
 トヲイは、眩しそうに弐番艦を見つめ、感慨深げに一言、そう呟いた。


 白く、巨大な艦体が空へと舞い上がり、雲の中へと消えていく。
 人類の希望、ユニヴァースナイト弐番艦は、新たな戦場を目指し、帰国の途についたのであった。