タイトル:【DR】眠れる森の海象マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/20 01:58

●オープニング本文


「レナ川上流に敵だと?」
 ヤクーツクの作戦司令本部に座するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将は、その奇妙な報告に目を細めた。
「はい。比較的少数の戦力のようですが、哨戒中の部隊が発見、ヘルメットワームと交戦したとのことです。その時は大した戦闘もなく、撤退したとのことですが‥‥レナ川流域で、少しずつ位置をずらしながら何度となく同じような報告が来ています」
「つまり追い払われても懲りずに何事かをしているのか」
「はい。また、ヘルメットワームと遭遇したポイントに再度の偵察を行ったところ、そのポイントにキメラが配置されていたとのことです」
 報告にきた本部付参謀の言葉にオリムは考えをめぐらす。
 バグアが何かをレナ川に仕込み、その守りとしてキメラを配置したのは間違いない。
 だが、具体的に何をしているのかがわからない。
 ウダーチヌイへの進軍ルートからも外れるから待ち伏せの線は薄い。交戦してもすぐに逃げるのであれば、拠点を構築しているとも思えない。
 だが、この一大決戦の最中に小規模とはいえ、部隊を遊ばせておく余裕はさすがのバグアとてないはずだ。
「他に分かっていることは?」
 考えのまとまらないオリムは参謀に次の言葉を促す。
「配置されたキメラはいずれも炎をまとうタイプだったと‥‥」
「炎だと? こんな極寒の地では‥‥っ!」
 この極寒の極東ロシアで炎のキメラの話を聞くとは思いもしなかった。河川が凍りついて幹線道路になるような土地柄である。そのことに思いをはせた時、オリムの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
「水攻めか?」
 凍りついた河川は天然の堰となる。
 この地域の地勢として緯度が低い上流から氷が融け始めるので、下流の融解が遅れると洪水が起きると出発前に読んだ資料にあったはずだ。本来は、それは5月中旬頃からの話であり、勝っても負けてもそこまで作戦が長引くこともあるまいと思っていた。
 しかし、バグアが4月の今の段階で凍りついた河川を融かす手段を持っているとしたら?
「なんであるにせよ、放置はできないか」
 オリムは傭兵を呼び寄せると、当該のヘルメットワーム、並びに炎キメラの撃退を命じるのであった。


    ◆◇
 一方その頃、ヤクーツクからやや南の針葉樹林帯では、ミルーヌイへの補給部隊が敵に追われていた。
「「たぁーすけてぇーーーーーーッ!!!」」
「ななな何だ、あの化物はーーーっ!?」

 タイガを薙ぎ倒し、その身の脂肪とともに凍土を揺らして接近してくる、炎を纏った巨大怪獣。
 大地を震度3ぐらいに揺らしながら、補給車と護衛の戦車隊を追い回すそれは、ゆうに全長150mを超えていた。

「ト、トドーーーーー!? なぜにトドーーーーーーッ!?」
「違いますセイウチです、セイウチ! 牙があるじゃないですか!! 哺乳綱ネコ目セイウチ科セイウチ属っ!!」
 思わず叫んだ戦車隊隊長の間違いを、砲手のカールが即座に訂正する。
 ああそうか、俺は、非番の日は動物園とか行っちゃうお前の事、前からちょっと可愛いと思ってたんだ――などと、動物博士な砲手への個人的感情を隊長が再確認している間にも、巨大セイウチの脅威は着実に迫っていた。
 補給部隊は、なんとかセイウチの追撃を免れようと、どんどん道を外れて南下する。 
「隊長! レナ川です!」
「知ってる! 前進! 前進ーーーー!!」 
「た、隊長! また揺れが――いや前にもいるううぅぅーーー!!!」
「ぎゃああああーーー!! 挟まれるぅーーーーーー!?」
 セイウチに追われ、凍結したレナ川を渡り始める補給部隊。だが、再び車体が揺れに襲われたかと思うと、氷の上にもう一体の巨大セイウチが姿を現した。

『ぶも‥‥』

 揺れが収まり、大地が静寂を取り戻す。
 隊の前方と後方には、150mの巨大セイウチ。しかも、全身にうっすら火焔を纏っている。
「たたたた隊長! 完っ全に挟まれました!!」
「わわわかってる!! かかか各車、砲撃開始ーーーッ!!!!」
 パニクった操縦手の声に我に返った戦車隊隊長が全車両に砲撃を命じ、前方のセイウチA目掛けて砲声が轟いた。
『ぶもも』
 戦車隊の必死の攻撃をものともせず、砲弾の当たった部分をヒレでボリボリと掻いては、呑気に欠伸をするセイウチA。豊満な肉体が、ぶりん、と揺れる。
『ぶも、ぶも‥‥ぶほほっ!』
「隊長! 後ろのセイウチがメッチャ見てます!」
「おのれ海の象! 霊長類ナメやが――あーーーーっ!?」
『ぶおおーーーん♪』
 上機嫌で両手(ヒレ?)を合わせ、「いただきます!!」とばかりに、勢い良く後列の戦車数台を丸呑みにするセイウチB。
『ぶも! ぶも!』
 まだまだ食べ足りないYO! とでも言いたげに、セイウチABは、キラキラした目で補給部隊を見つめていた。
 全員、蛇に睨まれた蛙状態である。
 そうこうしているうちに、針葉樹林からゾロゾロと姿を現す茶色い影。

 巨大セイウチに足止めされた車両軍の間へ侵入し、我が物顔でその場を占拠したそれは、所謂普通サイズのセイウチ軍団であった。

「た‥‥隊長‥‥‥」
 シーン、と静まり返った戦車の車内で、砲手が引き攣った声で隊長を呼ぶ。
 砲手、操縦手、装填手――皆、青ざめた顔で、縋るような目を隊長へと向けていた。
「カール‥‥」
 退路を塞がれ、砲撃も意味を為さない今、彼らにできることといえば、丸呑み覚悟で車内に立て篭もり、救助を待つか――極寒の車外に逃れ、小セイウチの群れに飛び込むか、のどちらかである。
 隊長は、ガチガチと歯を鳴らして震える砲手に目を遣り、静かにこう告げた。

「無事に帰ったら‥‥動物園に行こうな‥‥」


 ――死亡フラグ立てんなよ、と、カールは心の中で、隊長に蹴りを入れた。


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●依頼内容
・セイウチキメラが護るレナ川の氷の中に埋め込まれた、バグアの加熱装置を破壊して下さい。
・ついでに、川の上でセイウチにサンドイッチされ、ゴハンになりかけている補給部隊を救出して下さい。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
ロボロフスキー・公星(ga8944
34歳・♂・ER
クロスエリア(gb0356
26歳・♀・EP
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
御神・夕姫(gb3754
20歳・♀・GP

●リプレイ本文

●眠れる森の‥
   ぶふー ぶふふーん

「セイウチ‥でかっ!? 一発はたかれだけで終わり、ポイよーな‥‥」
「なんかあれだな。バグアも久しぶりに宇宙人らしい行動に出た気がするな。大型生物兵器的な意味で」
 ヘリで現地入りした生身班に、セイウチ軍団は、全く気付いていなかった。
 ラウル・カミーユ(ga7242)と九条・縁(ga8248)は、聳え立つ大ウチ(呼称採用)ABを針葉樹の隙間から見上げ、その巨大ップリに戦慄を覚える。

   ぶふー ぶふっ ぶごー ごー 
 
「150mのセイウチって‥‥屍骸を片付けるのも大変そうね。もう怪獣の域を超えてるような‥」
「あら、でも、セイウチの肉は食用に、確か皮も牙も有効活用できるはずよ。解体さえできればね‥」
 御神・夕姫(gb3754)が冷や汗混じりに呟くと、ロボロフスキー・公星(ga8944)もまた、大ウチの死体解体作業を脳内シュミレートしつつ、うーんと唸った。

   ぶーごー ぶぶー ぶごー

「セイウチ:体長270−360cm。体重500−1200kgの鰭脚類。セイウチのハレムでは、一頭のオスが、複数のメスを縄張りに囲い込n」
 『ちょっとおとなのどうぶつずかん』を読んでいた森里・氷雨(ga8490)が、いきなりそれを地面に叩きつけ、ワナワナと両手を握り締める。
「霊長差し置いて、ハレム形成‥‥!? 許せませんね!」
 彼の怒りは、バグアと無関係だった。

   ごー ぶぶごー ごー

 ところで、先程から周囲に響き渡っている重低音は何かというと。
「い、イイ顔しやがって‥‥!」
 イラッとした視線を向ける縁。
 氷上に出来た浅い池に尾鰭を沈めた大ウチAは、すっかり足湯気分でイビキをかいていた。


●動かしてみよう
『寝るなあぁーーーーッ!!』
『ぶごごぶっ!?』
 突如飛来した五機のKV編隊。先頭のクリア・サーレク(ga4864)機が、ワイヤーで繋いだ冷凍マグロを巧みに操り、大ウチAの顔面を横殴りに殴打する。
『さあ、いくらでっかくなってもセイウチなんだから、海のダイヤと呼ばれるこの餌には、絶対食指が動くはず!』
 遠心マグロパンチを喰らった大ウチA。噴いたヨダレが凍り付き、氷上を打った。
 補給部隊のそばに犇めく小ウチ達、そして、視線をそちらに向けていた大ウチBもまた、上空を飛び回るKVの姿に浮足立ち、騒ぎ始めた。
「もしもーし? 聞こえる?」
 タイガに隠れた公星が、無線で補給部隊に呼び掛ける。
 だが、
『カール‥‥実は俺、お前のこと‥‥』
『聞かずに死なせて下さいおねがいしますからああああああああ』
 繋がった先は、激しく取り込み中らしかった。
「戦車隊隊長×砲手‥‥事前調査通りですね」
 出撃前に一体何を調べていたのか知らないが、氷雨はひとり、満足気に頷いて見せる。
『もしもーーーーーし!? き こ え ま す か っ』
 業を煮やした赤崎羽矢子(gb2140)がKV無線で呼び掛けるも、
『いや俺は言うぞ! カール、愛してる‥!!』
『ぎゃああああああ!? 言った! 言いやがったこのオヤジ!!』
 野太くハレンチで不快な声が、コックピットに響き渡るだけであった。
「‥‥酷い事になってるわね」
 重体をおして助けに来た鯨井昼寝(ga0488)は、河岸に雷電を降下させ、呆れと疲れと困惑を足して三で割ったような口調で呟く。他に言いたいことは、何もなかった。
「ボク達は、無事に生きて帰ったら海鮮パーティーするんだ‥‥」
「あのおじさんたちを何とかしないと、お魚余らないかもしれないよね」
 さらりと死亡フラグを立てたクリアの発言に、前を飛ぶ忌咲(ga3867)から冷静な分析が返ってくる。
 仕方がないので、生身班のラウルが、再び輸送部隊に向けて無線を飛ばすことにした。
「あのー、大セイウチを下流側に誘導するカラ、皆は」
『カール! なぜに逃げぶぐうぉっ!?』
「皆は下r」
『もう上官とか関係ねぇッ! 返り討ちにしてくr』

「人の話を聞けええええええーーーッッ!!!」
『うお!? だ、誰だ!?』

「‥‥大セイウチを下流側に誘導するカラ、皆は一旦上流側に逃げてネ。以上」
 ラウルは、返事も待たずに無線を切った。
「ようやく仕事かよ‥‥有り得ねうおっ!?」
 うんざりしながらもお魚バケツを取った縁だった、突如として襲い来た地面の揺れに足を取られ、思わず木に倒れ込む。
 氷上の大ウチAが、クリアのマグロを追い掛けて走り出したのだ。
「きゃああ!? 危ない! バケツを置くのよ〜!」
 震度3〜4というと、車に乗っていても気付けるレベル。公星が慌てて両手のバケツを地面に置いた。
「動くだけでこんなに揺れるなんて。戦闘中は注意ね、って、きゃあ!?」
 うっかり足を滑らせて転ぶ夕姫。ひっくり返ったバケツは魚を撒き散らし、派手な音を立てて氷上に落ちた。
『ぶも?』
 一斉に生身班の方を向く小ウチ軍団。そして一拍置くと、
『ぶもも! ぶおおんっ♪』
「え、そんないっぺんに‥‥いやぁ〜こっち来ないで〜!?」
 小ウチ達は、輸送車両を押し退け横転させ、全速力で殺到してきたのであった。


「いくらなんでも、あれはちょっと大きすぎるよね」
 くるくるとS−01を旋回させつつ大ウチAを待つ忌咲。機体にぶら下げたコンテナが遠心力で大きく円を描き、操縦は思ったより困難を極めていた。
 上流側を見れば、迫り来る大ウチA。そして、大ウチBに追われるクロスエリア(gb0356)のR−01改が目に入った。
 チェーンファングの先にマグロをつけようと思っていたクロスエリア。それは無理だと言い張る頑固な整備員に時間を取られ、餌も無しに150mのセイウチに挑むことになってしまった。
 大ウチBの眼前を、煩いハエよろしく低速で飛び回る。
『ほらほら、こっちだよ〜♪』
『ぶも‥‥ぶ、ぶもーーーっくしゅん!!』
 だが、大ウチBが最初に放った攻撃は、回避不能なほどの広範囲攻撃――『くしゃみ』だった。
「え、ちょ、いやああああーーーーッ!?」
 凄まじい風圧とヨダレの雨を喰らい、バランスを崩して氷上に墜落するクロスエリア機。がんがらがっしゃん、と大音量が響き渡る。
「ち、ちょっと! 一発で撃墜!?」
「う゛‥‥悔しいけど、カメラアイがヨダレまみれで戦闘不能だよ‥‥」
 慌てた羽矢子が、生身班とクロスエリア機から離れた位置にコンテナを投下した。大喜びで魚に跳び付く大ウチB。
『皆、上流に逃げて! 基地でシーフードが待ってるから!』
 羽矢子のシュテルンが四基のバーニアを吹かし、大ウチBと輸送部隊の間に垂直降下を始めた。
『前進ーー!!』
 KV無線越しに、戦車隊隊長の声が聞こえる。今さら威厳見せたって遅い。
 輸送部隊がソロリソロリと上流へ動き始めた頃、全機のコックピットにクリアの悲鳴が木霊した。
「うわあああーーーーんッ!! 忌咲さんコンテナコンテナぁーーーッ!!」
『ぶおおーん!』
 大ウチAを引き摺って下流へやって来たクリア機。だが、マグロ付きでは操縦が難しく、全速力の巨大怪獣を引きつけながらでは上手く飛べない。
『こっちだよ! こっちにお魚置くからねー!』
「いやあああ捕まったぁーーーッ!!」
 忌咲がコンテナを投下したその瞬間、大ウチAがクリア機に装備されたマグロに食い付いた。
「早くマグロをパージして!」
 その辺の葉っぱでクロスエリア機のヨダレを拭いていた昼寝が、クリアの危機に声を張り上げる。

    『マグロをパージ』

 あまり聞かないワードだが、クリアには通じるので問題ない。大ウチAの口元から、シュテルンが一機、バーニアを吹かす間もなく氷上へと転げ落ちた。
 いそいそと砕けたコンテナに駆け寄る大ウチA。なんだかんだで補給部隊からは引き離せたようだ。
『お魚沢山だよ。全部食べて良いから、そこ動かないでね』
「うりゃぁ〜!! 復・活☆」
 大ウチAから一旦離れた忌咲機の眼下で、ヨダレを拭いて貰ったクロスエリア機、そしてクリア機の二機が立ち上がり、ガトリングナックルを構えている。
「じゃあ私は加熱装置を。ベストコンディションとは言えないけど、その分は気合でカバーってね!」
 大ウチAが去った後の池を覗き込み、昼寝機は加熱装置を探し始めたのであった。


●白熊の気持ちで
「よーし、喰らえセイウチ! サカナ手裏剣!!」
 散らばった魚をあっという間に平らげ、補給部隊の移動に気付いてブモブモ動き出した小ウチ達。背後を取った縁が、半冷凍の魚を楔手裏剣の如く連続で投げつける。
『ぶもっ!』
「な、何っ!?」
 貴様の力はそんなものか、とでも言いたげにニヒルな笑みを浮かべ、魚手裏剣を口で空中キャッチしてみせる小ウチ。
 だが、
『ぶぐむぉっ!?』
『ぶごぐっ!?』
 他の個体と正面衝突を起こして氷上に転がった。
「‥‥まあ、所詮セイウチってところかしら。ほらお魚よ〜。こっちへいらっしゃ〜い」
「雌はどれですか!? 雌だけはレナ川のレナちゃんとして住民登録を認めても構いません!」
 超機械を構えた公星がバケツ一杯の魚を、そして、セイウチを何か別の生物と勘違いしている氷雨が、ボールやら酒瓶やらペイント弾やら、さらには石とクズ鉄までも混入した魚を、一斉にブチ撒ける。
『ぶも!』
『ぶもも!』
「い、いやああぁ〜っ!? そんな沢山お相手できないわよぉーーッ!?」
「全部雌ですか!? どうなんですか!?」
 突進してくる小ウチ四頭に踏み潰されないよう、慌てて後ろに跳び退る公星と氷雨。だがその瞬間、大地の揺れが全員を襲い、二人は氷上に転がってしまった。
 残りのバケツがひっくり返り、二人の周囲にホタテがバラ撒かれる。
「まずい。これでは下敷きコースです!」
「きゃああ〜っ!? 間に合わないわーーーッ!!」
 上半身を起こして武器を持ち、小ウチ四頭へと付き付ける二人。公星の超機械が連続して電磁波を放ち、一頭が香ばしい匂いを上げて倒れ伏す。目の前に迫った一頭の腹を氷雨の足爪が切り裂き、立ち上がりざまに放たれた弾丸が、肉に守られていない敵の頭蓋骨を打ち砕いた。
 それでも、あとの二頭に轢かれるのは避けられない。
「ほら! こっちの方が美味しいわよ!」
 ピンチに気付いた夕姫が拾った魚を投げつけ、ホタテをバラ撒く。そして、混乱し始めた小ウチ達に、今度はラウルが魚をチラつかせた。
「取りに行けぇぇぇ!!」
 とにかく遠くへ、本気で魚を投げるラウル。お陰で二頭はそちらへ向かったが、勢い余ったラウルは足を滑らせ、転倒してしまった。
『ぶっふっふ‥‥』
「い、いつの間にっ!?」
 顔を上げたラウルの視界を、豊満な肉体と髭面が塞ぐ。小ウチは体を反らせて牙を振り上げ、ラウルは必死で体を捻る。
 ズガン! と、凶悪な牙がラウルの肩を浅く裂き、氷に突き立てられた。
 穴の深さ、約60センチ。
 さあっと血の気が引いたラウル。なんとか立ち上がり、髭に覆われた半開きの口に、シエルクラインとエネルギーガンの銃口をガボッと突っ込んだ。
『ぐぼっ!?』
「はい、お口『あーん』でっ!」
 銃声が木霊して、2トン近い巨体が横倒しに倒れて行く。
「おのれ! 間抜け面のナマモノが! 立ッちはしても二足歩行の様な事はしないよな?」
「これでも! ‥‥やっぱり脂肪が厚すぎて、あまり効いて無さそうね」
 ホタテに釣られて体を反らせた小ウチの首を、縁のクロムブレイドが刺し貫く。その向こうでは、刃渡り60センチの二刀小太刀では肉の鎧に勝てないと悟った夕姫が、超機械に持ち替えて小ウチを灼いていた。
「副産物は強精丸材料にしてくれる!」
 セイウチを別の生物と間違えてはいたが、氷雨もまた、突進してきた小ウチを紙一重でかわし、ペイント弾にまみれてボールを咥えた状態の敵口腔内に、強烈な射撃を叩き込む。

 小ウチ軍団の壊滅は、もはや時間の問題であった。


「流石に、大きいだけあって丈夫だね」
 大ウチAの背中に対戦車砲を撃ち込み、忌咲が大きく機体を旋回させる。そして、再び敵上空に戻ってきた瞬間に急降下をかけると、その頭部目掛けてレーザー砲の引き金を引いた。
『ぶもぉーーーッ!!』
「まあ、流石にあっちも限界みたいじゃない?」
 スラスターライフルの連射で大ウチBの動きを止め、羽矢子は試作型リニア砲の照準を合わせる。
 流石にKV相手では巨大怪獣といえども辛いらしく、満身創痍で怒り狂う大ウチ二頭。大暴れするたびに大地が揺れ、木々が大きくざわめいた。
「くらえーっ! 霊長類を無礼るなパーンチ!!」
『ぐぶぉっ!?』
 地上からクリア機が放った拳型弾丸が、忌咲機に気を取られていた大ウチAの顎に炸裂する。アッパーを喰らって一瞬クラリとよろめいた敵に忌咲機のレーザー砲が撃ち込まれ、頭部を貫通した。
「いくら見た目は可愛らしくても、キメラはキメラだね」
 大ウチAが力を失い、倒れた横で、クロスエリア機がGナックルからBCハープンに持ち替え、巨大な銛を放つ。打ち込まれた銛が肉を裂いて爆発し、片方のヒレが千切れて飛んだ。
 バランスを崩して悲鳴を上げる大ウチB。その大口目掛け、羽矢子は引き金を引いた。
「愛苦しい顔してるのに残念だけど、あんたの居場所をここに許す訳にいかないのよ!」
『ぶも! ぶおおーーーーーーんッ!!』
 凄まじい威力で吐き出された砲が大ウチBの後頭部を撃ち抜き、断末魔が木霊する。

 補給部隊を震撼させたバグアの巨大怪獣は、その巨体を一度だけ大きく震わせて、地に伏したのであった――。


「コレが例の装置か。気味が悪いわね‥‥」
 大ウチAの作った池から上がってきた昼寝機が、捕まえてきたものを氷上に置き、皆を見渡した。
 昼寝が水中で見つけたそれは、金属的な円盤に脈打つ蛸の足を合わせたような物体で、レーザークローを喰らっても生物のように逃げ回っていたという。
「クリア、忌咲、準備は良い?」
 昼寝の言葉に、クリア機が真ツインブレイドを、そして忌咲機が機槌を振り被る。
「せーの!!」

 昼寝機のツインドリルが加熱装置を襲い、降り下された長剣と棘球が、その不気味な円盤を完膚無きまでに叩き潰した。


●マグロと心の傷が残りました
 ミルーヌイに向かう前に、補給部隊は給油のため、途中にある小さな基地まで戻って来ていた。
「マグロまるごと解体ショー! ついでにセイウチ解体ー!」
「まずはお肉からよねぇ」
 基地の調理場には、持って行かなかったマグロと小ウチ数体が、ででん、と並ぶ。包丁片手のクリアと公星が、早速解体を開始していた。
「うーん、やっぱりホタテは網焼きだよね♪」
 その横には、ホタテをバターと醤油で網焼きにしているクロスエリア、そしてパーティ中の傭兵一同の姿が。
 そしてさらに調理場の外では‥‥
「カール! 俺は決して遊び半分で言ったわけじゃない!」
「もっと悪いわぼけええええええーーーッッ!!」



 その後、ひとり塞ぎ込む砲手の心を癒したのは、夕姫がそっと差し出したホタテであったとか。