タイトル:【Gr】衝突マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/08 18:36

●オープニング本文


 UPCキメラ研究所――それは、サンフランシスコ近郊にひっそりと存在する研究機関である。
 一部を除いてその所在を秘匿され、外界から遮断された研究所の内部には、最新の研究機材や各地から集められた希少キメラが豊富に揃う。
 ヘルメットワーム、タートルワームなどと並び、バグアの主力ともいえる生物兵器・キメラは、未だ、その生態や作成方法など多くの点で謎に包まれており、早急な解明が求められている。
 そう、UPCキメラ研究所とは、最高峰の頭脳を持つ研究者たちが、現代科学の粋を決してキメラの謎に迫る、北米主力軍・UPC北中央軍の重要研究機関なのである。


 その日、UPCキメラ研究所の内部には、かつてない緊張が漂っていた。
 北米を離れ、各地に出向していた研究員たちが召喚状を手に続々と帰還し、他の者たちとともに一堂に集められた。
 並居る研究者たちの視線の先に立つ、厳しい顔つきの女性。
 それは、UPC中央軍中将にして、先の五大湖解放戦の最高責任者、ヴェレッタ・オリム(gz0162)であった。
 彼女がUPCキメラ研究所の所長を兼ねているという事実は、まだ外部にはあまり知られていない。その上、このように彼女自ら研究員全員を緊急招集するなど、前例のないことであった。
「今日、諸君らを招集したのは、他でもない、グラナダ決戦に関することだ」
 皆が着席したのを見て取り、オリム中将は、檀上で腕を組み直しながら、そう切り出した。
「単刀直入に言おう。諸君らのうち、ナイトフォーゲルに搭乗できる者を10名、マドリードにおける敵主力の迎撃部隊として徴用する。異議は認めん」
 動揺を隠せない研究員たちを前に、オリム中将の言葉は続く。
「作戦内容は至って単純だ。ULTの傭兵部隊と組み、マドリード上空に押し寄せるキメラ、ヘルメットワームの群れを正面から迎撃、殲滅する。尚、諸君らの背後にはユニヴァースナイト弐番艦がいる。これにより、攻め込んでくる敵勢力の数は、恐らく想像を絶する数になるだろう」
 ユニヴァースナイト弐番艦――つい先日完成したばかりの、戦闘母艦の名前である。これがグラナダ決戦に出撃するというのだから、一同は色めきたった。
「諸君らの役割は、ナイトフォーゲル陸戦形態で地上に展開し、上空の傭兵部隊が叩き落とすキメラの群れの息の根を止めることだ。なにしろ敵の数が膨大すぎる。傭兵たちには敵の飛行能力を奪うことのみに専念させる」
 要するに、地上で待機し、次々と落下してくる敵に止めを刺せ、ということらしい。ナイトフォーゲルに搭乗した経験はあれど、普段は室内に篭りっ放しの能力者研究員たちは、その作戦内容にやや安堵した様子を見せる。
「作戦に参加する者を発表する。ジェニファー・ブロウ、キース・ロドリー、パク・ウヘン‥‥」
 マドリードへと出撃する者たちの氏名が読み上げられていく。
 そこに自分の名を聞き、表情を曇らせる者、高揚する戦意に心躍らせる者――反応は様々だ。
「――最後に、琳 思花(gz0087)」
 10人目として指名されたのは、本日、日本より帰国したばかりの、女性研究員。彼女は、元ULTの傭兵であった。 
「搭乗機体は雷電だったな。琳には、皆とは別の任にあたってもらうつもりだ。上空迎撃部隊に加わり、傭兵たちの監督を行え。これについても、一切異議は認めん」
 きっぱりと、僅かな反論の隙も与えずに、オリム中将が言い放つ。大会議室の隅にいた思花は、別段顔色を変えることもなく、それを聞いていた。
 そして最後に、皆の顔をゆっくりと見渡し、オリム中将は、満足気に口端を上げ、言った。
「敵の半数は、他に類を見ない機械化キメラだ。楽しみだろう?」


    ◆◇
 ――スペイン・マドリード近郊。
「‥‥偵察部隊の報告では」
 傭兵たちの駆るナイトフォーゲル隊の中央を飛び、思花は全機に通信を入れた。
「私たちとぶつかるだろう相手は‥‥中型の飛竜型キメラ、背中にロケット砲を負った鷹型キメラ、両翼に機関砲を装備した蝙蝠型キメラ‥‥それに、数機のキューブワーム、迷彩ワームを紛れ込ませた混成部隊です」
 眼下に広がる大地には、9機のナイトフォーゲルが陣形を組み、獲物の到来を待ち構えている。
 さらに後ろを顧みれば、どこまでも続く青い空を割って進撃してくる、白と赤の戦闘母艦・ユニヴァースナイト弐番艦の姿。その周囲には、数機の護衛部隊の姿も見えた。
「‥‥キメラ、機械化キメラの総数は、100を超えています。弐番艦の援護射撃は多少期待できますが‥‥かなり厳しい。一頭一頭に固執せず、翼などを狙って飛行能力を奪うことだけを考えてください‥‥」
 地平線の向こうから現れた、黒い点。
 それは見る見るうちに肥大し、南の空を黒く染め上げるキメラの軍勢へと姿を変えた。
 暗雲のように、そして嵐のように押し寄せる無数の敵影が、大音量の羽音とともに視界を埋め尽くす。

 ――マドリードの空に機影が舞い、猛り狂った竜の咆哮が響き渡った。


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●依頼内容
・マドリード上空にて、敵主力と正面からぶつかる部隊です。
・敵の数は膨大です。止めを刺すのは地上部隊の役割ですので、とにかく多くの敵の飛行能力を奪ってください。
・ユニヴァースナイト弐番艦の援護射撃が多少あります。尚、弐番艦の護衛は別の部隊が行っています。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
佐倉祥月(ga6384
22歳・♀・SN
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

「アレを全部墜とす‥‥か‥壮観だね」
「こちらゲシュペンスト、敵機確認。ドリルの女神様のエスコートに入る」

 シェスチ(ga7729)、そして夜十字・信人(ga8235)の声を掻き消すかのように、UK弐番艦の砲撃が始まった。
 大地を揺るがす轟音が連続して響き渡り、三連装衝撃砲が発射される。
 渦巻く烈風を伴い、天地の狭間を切り裂いて進む衝撃波が、敵群中央を正面から貫き、迫るキメラたちの巨体を木っ端微塵に千切り飛ばした。
「これでCWも巻込まれればラッキーだが」
 バラバラと地面へ落ちて行く、幾つもの細かな肉片。それらを見つめ、リュイン・カミーユ(ga3871)が呟いたと同時、背後で再び砲撃音が鳴り響く。そして、それに呼応するかのように、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が、K−01小型ホーミングミサイルの発射レバーを引いた。
「多いなぁ奴さん等」
 無数の子弾が舞い、突出した最前列のキメラたちに襲い掛かる。溢れる爆煙を吹き飛ばし、弐番艦から飛来した長射程ミサイルが、群中に隠れたCWと迷彩HWを捉え、一纏めに爆散させた。
「たまーや」
 そして、阿野次 のもじ(ga5480)が呑気な声を上げた直後、浮足立つキメラの群れ目掛けて、全機が一斉に動き始めた。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
「行くぞ、緋室。精々遅れるなよ?」
 緋室 神音(ga3576)と御影・朔夜(ga0240)の機体が、空中で半円を描いて敵群に接近する。
 迫る11機に向け、敵前列に広がった鷹型キメラが十数羽同時にロケット砲を発射し、空に幾筋もの軌跡を描く。そして、黒くわだかまるキメラたちの隙間から、プロトン砲の光が連続して閃いた。
 CWの発する怪電波が激痛を伴って能力者たちに牙を剥き、判断力を鈍らせる。
「――ハ、鈍感め。それで当たると思うか‥!」
「へへ、弐番艦も派手にやってくれるじゃねーか。いくぜ‥‥片っ端から叩き落とす!」
 僚機が次々と被弾していく中、並外れた回避能力を見せたのは、朔夜のワイバーン、そして鈍名 レイジ(ga8428)のディスタンであった。飛来する砲弾をギリギリまで引き付け、最小限の機動を以て紙一重でかわして行く。
 一方、琳 思花(gz0087)の雷電、そしてレイジ機の背後に隠れた御坂 美緒(ga0466)は、ウーフーのコックピットから冷静に、敵の動きを観察していた。
「CW、右舷に2機、左舷に1機います!」
 キメラたちの動きと、光線の出所を確認しながら、美緒が全機に通信を入れる。飛竜や鷹、蝙蝠の陰に隠れ、宙を漂う四角い物体。じっくりと目を凝らして見れば、それらCWの後ろに潜む、迷彩HWの姿が微かに浮かび上がってきた。
「アグレッシブ・フォース起動‥‥目標ロック完了‥‥落ちなさい」
 群がるキメラたちの間をすり抜け、神音がCWの姿をその目に捉える。機首を下げ、急降下とともにレーザー砲を叩き込むと、そのまま相手の直上を通過し、すぐ後ろの迷彩HWへと迫った。
「この程度の頭痛――効くと思うなよ」
 間髪入れずに現れた朔夜機のソードウィングが、大きくヒビ割れたCWの側面を襲い、抉り取るようにして切り裂く。揚力を失って墜ちるCWをそのままに、朔夜は前方の神音機を追った。
「見えているわよ‥‥逃さない‥‥!」
 見下ろした景色の中の、不自然な歪み。丸く浮かび上がる迷彩HWへと真っ直ぐに飛び、神音機のバルカンが乾いた音を立てた。
 飛び出したペイント弾が空の一部を彩り、広がる。そして次の瞬間、色付けされたその部分を狙い、朔夜機のスラスターライフルが火を噴いた。
 損傷部を晒し、よろめいた敵機に回避の隙すら与えず、朔夜機の剣翼が閃く。ディアブロとワイバーン、2機が通り過ぎた後の空間には、黒煙を上げて墜落していくHWの姿があった。
「さぁ、やろうぜ信人!」
「バディ、てかヴァディ。俺はお前の後ろに付く。‥‥さて、ダンスの時間だ」
 瞬く間に視界を埋め尽くしたキメラの大群を前に、ヴァレスの雷電がヘビーガトリングの砲首を上げる。愛機のディアブロをその背後につけ、信人は、周囲を取り囲む敵影を見据えながら、バルカンの引き金に指を掛けた。
「さて、程々に景気良くばら撒くか‥‥往くぞ」
 信人の合図のもと、2機の前方に無数の弾丸が発射される。
 ヴァレス機のヘビーガドリングが、突進してくる2頭の飛竜を捉え、硬い鱗に包まれた巨体をズタズタに切り裂く。そして、機首を縦横無尽に動かし、180度半転を繰り返しては嵐のように弾を吐き出す信人機が、周囲を取り囲むキメラたちを次々に叩き落としていった。
「信人、頼む!」 
 ヴァレスの声に、信人機が再び前方に向き直る。雷電のリロードの隙をついて飛来する蝙蝠を撃ち落とし、信人は、視線を前に向けたまま、静かに口を開いた。
「琳監督。色々なものが片付いたら、是非我が自室を訪ねてほしい。いつかのシチューを御馳走しよう」
「‥‥部屋においでとか」
 こんな時まで冗談を口にしてしまうユーモアのカタマリに対し、思花は、視界を塞ぐ蝙蝠をレーザー砲で切り裂きつつ、返答する。
「‥‥あなたの殺人シチューを知らない人が聞いたら‥‥誤解を与えるよね」
「誤解だと‥‥! くっ‥俺としたことが☆◎△■」
 最後の方はノイズとバルカンの発射音で全然聞こえなかったため、思花は、容赦なく通信を切り、さっさとキメラを撃ち落とす作業に戻ることにした。
「‥‥CWの頭痛より‥‥愚兄の方が頭痛い」
 コックピット目掛けて一直線に攻撃を仕掛けてきた飛竜の翼をガトリング砲で引き裂き、敵の砲撃を硬い装甲で受け止め、回避しながら、リュインは、群れの中に隠れたCWへと前進する。彼女の行く手を阻むキメラたちを薙ぎ払い、道を作るのは、のもじの駆る赤いディアブロだ。
 雷電のやや前方を飛ぶのもじ機が、飛竜の振り回す強靭な尾をソードウィングで切り飛ばし、直下から機関砲を撃ち込んでくる蝙蝠を、バルカンの一撃で叩き落とす。
「そして今!!」
「御託はいらん――墜ちろ」
 黒い群れの中に、一瞬できた穴。遮るもののない空間に無防備な姿を晒したCWに、のもじ機の放ったAAM、そしてリュイン機のスナイパーライフルの弾丸が突き刺さる。
 爆裂し、四散するCWの破片が光る中、その背後についていた迷彩HWの、爆煙を利用してキメラたちの陰へと逃げていく様子がうっすらと見えた。再び姿を眩ませたそれを捜し、リュインとのもじの二人が群中に目を凝らす。
「まるで蝿叩き‥‥いや、蜂が混ざってる‥かな」
「キリがない‥‥はずないわね。良いわ、全部撃ち落としてあげる!」
 シェスチ、そして佐倉祥月(ga6384)のワイバーンが、弐番艦の援護射撃で空いた空間を駆け、群れを左右に分断する。機首を上げ、一気に上昇していくシェスチ機につられ、一個の塊となって追い縋るキメラたちを狙うのは、祥月機のスナイパーライフル。
「同じ射程で撃ち合いして私達が負けるはずないでしょう」
 彼女に気付き、ロケット砲を撃たんと向き直った鷹を照準に捉え、祥月が引き金を引いた。無数の羽根を散らして落下していくキメラを追い、熱い薬莢が地面へと消えていく。
「‥‥それにしても、さすがに煩いね‥‥この数は」
 シェスチ機が大きく転回し、ギャアギャアと甲高い声で合唱しながら追ってくるキメラの群れと正面から対峙する。眼下で祥月機がマイクロブーストを起動し、敵影の中から無事離脱したのを確認すると、シェスチは、キメラたちの向こうに遠い地面を見ながら、急降下をかけた。
「体当たりなんてスマートじゃない‥ね‥‥近接戦はこうするんだよ」
 突出して飛来する飛竜をライフルで撃ち抜き、眼前に迫ったもう一頭の翼をレーザー砲で灼き払う。速度を緩めず真上から襲い掛かる純白の機体に戸惑い、動きを止めた蝙蝠は剣翼に裂かれ、至近にいた鷹を道連れに地面へと墜ちて行った。
 祥月機と同高度まで降下し、水平飛行に移行したシェスチ機の右翼で、鷹のロケット砲がオレンジ色の華を咲かせる。機体を傾け、二発目を回避しながら、シェスチと祥月は、再びキメラの軍勢へと向き直った。
「数が多い‥‥ね。もう少し‥‥減らさないと」
「新人育成部隊に所属してる身としては、HWに強くなられると困るのよね」
 群れを成して飛び回るキメラたちを前に、IRSTでの迷彩HW探知は困難を極める。2機のワイバーンは、計器類の反応と目視での確認を駆使して、HWの奇襲を警戒するしかなかった。
「鷹がロケット砲を背負っているなんて、なんだかファンシーなのです」
 レイジ機、思花機の後ろに隠れた美緒のウーフーが、2機の攻撃の隙をついて抜けてきた飛竜、そして蝙蝠に、至近距離からレーザー砲を撃ち放つ。
「‥‥ファンシー‥‥?」
 視界に群がるキメラたちの翼をバルカンでもぎ取り、こちらを狙う鷹に螺旋弾頭ミサイルを発射しつつ、思花は少し首を傾げた。
 レイジのディスタンが敵の砲撃を軽々とかわしながら飛び回り、ソードウィングの斬撃で次々とキメラの翼を奪い取って行く。美緒は、レーダーの反応と周囲の様子を注意深く見比べながら、空に溶け込んだ迷彩HWの姿を捜していた。
「キメラの群れ‥‥景色の切れ目は――!」
 美緒の目が、キメラの群中に不自然な空間を見咎める。次の瞬間、幾筋ものレーザー光が、揺らいだ景色の中から生れ出た。
「レイジさん!」
 美緒機を狙ったプロトン砲が空を貫き、ウーフーの装甲が剥がれ飛ぶ。咄嗟に庇い、軌道に飛び出した思花の雷電が、二条の光をその身で受け止めた。
 即座にブーストをかけ、加速したレイジ機が、目にも止まらぬ速さでキメラの群中を突っ切り、迷彩HWへと迫る。一陣の風となって駆けるディスタンを捉えようと放たれたロケット砲が、機関砲が、追い切れずにその先のキメラたちへと突き刺さり、同士討ちを引き起こす。
「雑魚は仲良く身内で殺り合ってな! 迷彩だか何だか知らねーが、テメェも逃げれると思うんじゃねえ!」
 擦れ違い様のマシンガンの一撃が、後退するHWの装甲を大きく削った。機体の前面につけられた傷は、例え装甲の色を変えて景色に溶けようとも、その居場所を晒す目印となる。
 レイジ機がキメラたちの間をすり抜け、群れの背後へと回ったその直後、今度は全く違う場所からプロトン砲の光が閃いた。
 連続して生まれたレーザー光が、歪んだ空からのもじ機とリュイン機を襲う。ディアブロが赤い軌跡を残し、空を舞いながら回避、そしてキメラたちを切り裂き、墜とす。
「攻撃すれば居場所はバレる」
 尾翼に被弾したリュイン機が向きを変え、敵機へと向かう。正面から撃ち放たれた敵砲撃を前に、リュインは操縦桿を引き、左に倒して回避の機動を取った。速度はそのままに側転する機体の背を掠め、プロトン砲が通過する。
「無双はしない――これ、人類の知恵」
 リュイン機に取り付こうとする飛竜を、のもじ機のバルカンが貫き、血飛沫とともに墜落させた。
 キメラの群中に浮かび上がる迷彩HWにリュインの雷電が迫り、マシンガンが火を噴く。大量に吐き出された銃弾がHWの装甲を削り、機体の一部を抉り取った。
 そして、リュイン機が通り過るその瞬間、横合いから飛来した神音のディアブロが、揺らぐHWの真上でレーザー砲を撃ち放つ。
 背から腹へとエネルギー弾に貫かれ、大きくバランスを崩すHW。そこへ、リュイン機の螺旋弾頭ミサイルが、容赦なく突き刺さった。
「まずは1機‥‥次!」
 爆炎の中に沈むHWを残し、リュイン機、そしてのもじ機が、次の獲物を探して空を滑る。
「‥‥目標ロック完了」
 神音機がやや離れた空に浮かぶCWを捉え、AAMを撃ち放った。着弾し、機体の側面を弾け飛ばされるCWに、神音機を追い越して現れた朔夜のワイバーンが、スラスターライフルの一撃を見舞う。
「これで――終わりだ」
 銃弾が機体中央を貫通し、黒煙を上げながら落下していくCWを避けて旋回し、朔夜機が更なる目標目掛けて駆ける。
 レイジに傷を付けられ、隠れることの叶わなくなった、最後の迷彩HW。
 慣性制御で急降下し、回避しようと試みる敵機に、転回した朔夜機が猛スピードで追い縋る。その翼に付けられた刃が敵機を薙ぎ斬り、不愉快な音を立てるのを聞きながら、朔夜は操縦桿を引いた。
「‥‥弐番艦、副砲を発射します」
 思花の声が全機のコックピットに響き、再び弐番艦の三連装衝撃砲が火を噴いた。
 数を減らし、分断されながらも群れを作って飛ぶキメラたちに向け、高威力の衝撃波が叩き込まれる。
 副砲による援護射撃が過ぎ去った後には、群れの大部分を吹き飛ばされたキメラたちが残るのみ。
「逃げるつもり? でも、そっちに行かせるはずないでしょう?」
 散り散りになって敗走していくキメラの残党。祥月機が、弐番艦方面へ逃げるそれらをバルカンで叩き落とした。
「他の戦域だってあるのよ――若葉のみんなのためにも、逃がすわけにはいかないわ」
 祥月がライフルの引き金を引くと同時、全速力で南へ飛び去らんとしていた飛竜の背に、血柱が上がる。
「サイコロステーキは既にこんがりウェルダンか‥‥ならば出し惜しみは無しだ。釣りはあの世に持って逝け‥‥」
 分からないことを口走りながら、信人が弐番艦の方に向け、ホーミングミサイルD−01を発射した。計4発のミサイルが飛竜と蝙蝠に命中し、その巨体ごと爆散させる。
 長かった戦いが、ようやく終わろうとしていた。
 シェスチのワイバーン、そしてレイジのディスタンが大空を飛び回り、剣翼が唸る。
 そして、ヴァレス機の放った大型ミサイルと、美緒機のホーミングミサイルが同時に軌跡を描き、逃走していくキメラたちを爆炎の渦に巻き込んで行ったのだった。


 
「やれやれ、人遣いの荒い。‥‥下の連中は埋もれとらんか?」
 運よく逃げおおせたキメラたちが遠い空で黒い点になるのを見つつ、リュインが深い息をついて言った。
「愛! 努力 友情そして勝利!」
 小型ギガワームを追い、飛び去る弐番艦を名残惜しそうに眺め、勝利を噛み締めているのは、のもじである。
「琳さん、リュインさんっ。リュインさんのお兄さんと琳さんって、どういう関係なのでしょうっ?」
 妙に元気な美緒の問いに、リュインは、「あー‥‥」と小さく声を漏らす。思花は、
「‥‥さあ」
 と、一言返すに留まった。
「‥‥終わった、か」
 呟き、南の空を見つめる朔夜。
 脳裏を過る記憶と既知感。浮かび上がっては消える『彼女』の幻影に、彼は静かに目を閉じた。


 眼下に広がる大地を見下ろせば、一面に積もった死骸の周囲を行き来する、9機のKVの姿が見える。
 マドリード正面――敵主力部隊の一端を蹴散らした傭兵たちは、遠く地平線の彼方にグラナダ要塞を睨み、静かに、そしてゆっくりと、降下を始めたのであった。