タイトル:【弐番艦】エンジン輸送マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/26 05:31

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。


    ◆◇
 ラスト・ホープより海を越え、一機の貨物機が北米の空へと突き進む。
 一般貨物の輸送用といった外観を持つそれは、護衛のナイトフォーゲルに周囲を護られ、ロッキー山脈を越えた地点で北東へと進路を変えた。
「皆さん。ここからが勝負です」
 競合地域がすぐそこまで近付き、傭兵たちの間に緊張が走る中、貨物機の前を行く一機のアンジェリカから、全機に通信が入る。
 北米を代表するメガコーポレーション、ドローム社の社長、ミユ・ベルナールである。
「現在、ダミーを含め、いくつもの輸送部隊がオタワへ向かっています。この事態、北米バグア軍が見逃すとは思えません。警戒を強めていることでしょう」
 眼下に広がる、豊かな自然が作り上げた風光明媚な風景には目もくれず、ミユは言葉を続けた。
「ガリーニンほど目立ちはしませんが――この輸送機も、遅かれ早かれバグアに目的地を看破されるでしょうね。そうなれば、黙って見逃してくれるとは思えません」
 そう、傭兵たちのナイトフォーゲルに囲まれて飛ぶこの機体は、ただの貨物機ではない。
 3機ものガリーニンが動き、目を光らせているであろう北米バグア軍の目を欺くため、一般貨物機に偽装した軍用輸送機である。
 
 彼らが護るもの――それは、ユニヴァースナイト弐番艦建造の要となる部分。
 輸送機に積載されたコンテナに眠るはずの、重力制御エンジンである。
 無論、ガリーニンが出張っている以上、ここにあるものが本物であるかどうかは、甚だ疑問だろう。
 だが、他の輸送部隊の陰に隠れて静かに進められるこの作戦が、『ダミー』である、という確証もまた、何処にも無いのであった。

「カナダ側を迂回すれば、より安全ですが――あまり時間をかけるわけにもいきません」
 他の貨物機や旅客機に紛れ、目立たぬようラスト・ホープを出た一団は、ここから、アメリカ北部を競合地域ギリギリのラインで航行し、五大湖を越えてオタワを目指すことになる。
 当然、続々と集まってくる輸送部隊に警戒したバグア軍が、攻撃を仕掛けてくる事も予想される。
 まして、対バグアという視点から見て十分な兵装を持たないこの輸送機では、傭兵部隊の戦力に頼らない限り、単独でオタワまで逃げ切ることは難しいだろう。
 今回、ミユがあえてガリーニンには搭乗せず、自らアンジェリカを駆って輸送機の護衛を申し出た理由も、そのあたりにあった。不安材料の多いミッションほど燃えてしまうのは、彼女の研究者としての挑戦心の表れなのか、それとも、単に生まれもってのそういう性格なのか。
 ――ともかく、揺れる魔乳をピッチピチのパイロットスーツに押し込み、愛機を持ち出したミユ社長を止められる者は、誰一人としていなかった。
「私は、ドローム社を代表する者として、何としてもユニヴァースナイト弐番艦を完成させます。そのためにも、その中枢となる重力制御エンジンを敵に奪われるような事態は、絶対に避けなければなりません。皆さん、ご協力をお願いします」
 ミユの声に応え、傭兵部隊は大きく陣形を変えると、周囲の警戒と索敵を開始する。

 青く輝く五大湖はまだ見えず、オタワは遠い。
 誰の手も入らぬ美しき大地を見下ろして飛べど、敵の目光る競合地域は、もはや地平も隔てぬ目と鼻の先。
 敵機の気配は、静かに、だが確実に迫っていた。


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●依頼内容
・今回の任務は、ユニヴァースナイト弐番艦に搭載する『重力制御エンジン』の輸送です。
 貨物機に偽装した輸送機を護り、オタワまで行きましょう。
・他にも、ガリーニン3機を含むパーツ輸送部隊が続々とオタワを目指しており、どれが本物でどれがダミーであるかは知らされていません。
 また、補給部隊や支援部隊も動いておりますので、北米バグア軍は警戒状態にあります。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
ヤヨイ・T・カーディル(ga8532
25歳・♀・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

 北米大陸を横断する形でオタワを目指す輸送機と、9機のKV。
 駆けつけた空中給油機団と合流し、十分な補給を受けた一行は、隊の右側に競合地域を見ながら、順調に北東へと航行を続けていた。


「社長‥‥の名前の呼び方なんだが。そろそろ、変えてもいいだろうか‥‥?」
「私の名前ですか?」
 輸送機の前方を護るミユ・ベルナール(gz0022)に声を掛けたのは、真田 一(ga0039)だった。
「そうですね‥‥呼び捨てでも構いませんが、『ミユさん』で如何でしょう?」
 ふむ、と小さく呟き、彼は、何やら考えるように黙り込む。『女将』とかも考えていたのだが。
「よう、ミユ社長、こないだぶり。しかし、相変わらず物好きな人だ」
「物好き? 私がですか?」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)の言葉に、ミユは、僅かに首を傾げて訊き返した。
「不安材料が多い方が、燃えるんだろ?」
「‥‥否定はできませんね」
 苦笑しながらのミユの返事に、ツィレルもまた、小さく笑う。そこへ、皇 千糸(ga0843)と赤宮 リア(ga9958)の声が入ってきた。
「ミユ社長、お会いできて光栄ですわ」
「ご挨拶が遅れましたが、わたくしも。今回は宜しくお願い致します」
「こちらこそ、ご一緒頂けて嬉しく思いますよ。皇さん、赤宮さん」
 見える範囲に敵の姿もなく、少し落ち着いたところで、軽い挨拶を交わす二人。すると、
「お姉さまのために 今日も頑張る〜」
「ミユお姉様! 一緒に頑張ろうねっ!」
「今回も頼りにさせてもらいますよ?」
 一気に通信が雪崩れ込んできた。ハルカ(ga0640)、水理 和奏(ga1500)、ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)の三人である。
「ええ、私も頼りにしています。これは思いの外、楽しい旅になるかもれませんね」
 クスクスと笑い、応えるミユ。勿論、危険な旅になるだろうことも重々承知してはいるが。
「分離・輸送そしてパーツ合体。これこそ、まさに友情にかける三身合体な展開! 燃える燃える展開が私達を待つ! 是非とも成功させましょう。マチ‥‥じゃなかった社長〜」
 どんな任務でもハイテンション、阿野次 のもじ(ga5480)の声が、吹き荒ぶ風の中、9機のコックピットに響き渡った。


    ◆◇
 地上、及びルート周辺の索敵を行っていた4機が敵機と遭遇したのは、丁度、ミネソタ州とアイオワ州の州境付近を航行中のことであった。
 レーダーに走ったノイズを目にしたツィレルは顔を上げ、遠い空に浮かぶ機影を見据えた。
「KVが9機も護衛についてりゃ、まぁ来るわなぁ‥」
「偵察機か‥‥今のところ、FRクラスの気配はないようだが‥‥」
 競合地域側から飛来する2機の小型HWと、熱源センサー類を見比べつつ、主に地上を索敵していた真田機が、後方の輸送機と同じ高さまで上昇する。同じく、周辺警戒に当たっていたリア機とのもじ機もまた、敵機の存在に気付いて動き始めた。
「地上に敵影はありません。どうやらHWだけのようですね」
「サーチ&デストロイ☆ 逃がさないわ!」
 こちらに背を向け、競合地域側へと進路を変えた敵偵察機に、ブーストで加速したリア機とのもじ機が空を駆け、迫った。
 リア機の放ったレーザー弾が真上から敵機を貫き、二条の光が輝き流れる。同時に、もう一機に体当たりしたのもじ機が、右翼のソードウィングで相手の装甲を切り裂き、さらに転回して今度は左翼で斬撃を加えた。耳障りな金属同士の摩擦音が響き、大空に木霊する。
 次々バランスを崩し、速度を落とす2機のHW。
 ツィレル機に搭載されたガドリング砲が唸り、下方から擦れ違い様に、無数の弾丸が敵機の腹を容赦なく抉る。そして、慌てて推力を上げようとしたもう一機もまた、至近から撃ち放たれた真田機のレーザー砲をまともに受け、大きく機体を傾けながら、遠く地面へと墜ちて行ったのだった。



「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥それにしてもアンジェリカ多いわね、今回」
「流石に、このまま終わらせてくれそうもないですね」
 敵偵察機を撃墜し、一行は間もなく、五大湖へと差し掛かる。
 千糸機は和奏機とともに輸送機の左舷を、ヤヨイ機はハルカ機とともに右舷を護り、偵察班と定期的に連絡を取りながら、敵襲に備えていた。
「ルートも分散してるし、本命はガリーニン。FRやシェイドもそちらを優先せざるを得ない。上手くいけば最終ライン、ミルウォーキー配備の戦力突破だけでいけそうね」
「うん。しっかり索敵してるし、早めに対応すれば逃げ切れるかな?」
 さすがにシェイドと遭遇すれば、全員タダでは済まないだろうが――単なる輸送機に対し、敵がそこまでの戦力を割くとも思えない。のもじの言葉に、ハルカは、正面の地平に輝き始めた五大湖を望み、応えた。
「ミユ社長、現在、この辺りを飛んでいるKVの類は――他の輸送部隊ぐらいでしょうか?」
 リアの問いに、ミユはしばらく考え、口を開く。
「そうですね‥‥輸送部隊の他、恐らく輸送ルート確保などの任務に当たっている部隊もあるかと思いますが」
「一見味方でも怪しいかも‥‥ミユお姉様の暗殺とか!?」
「和奏、私は、そう簡単に暗殺されたりしませんよ」
 急に色々想像して不安気な声を上げた和奏を、ミユは、柔らかな口調で宥めた。
 その時。
「ジャミング確認‥‥敵襲だ」
「来ましたね‥‥輸送機には指一本触れさせませんよ!」
 偵察班の真田とリアの声が、大きく雑音の混じる通信電波を介して、皆に届く。
 そして時を同じくして、南東の空に姿を現したのは、こちらを遥かに凌ぐ数の機影であった。
「敵機補足! 迎撃をっ」
「敵戦力、中型HW1機、小型13機、CW5機確認! 行くわよっ!」
 ヤヨイとのもじの声を合図に、迎撃態勢に入る9機のKV。
 CWから発せられる怪電波が全員を襲い、割れるような痛みが頭の中を駆け巡った。
 合計19機の敵機を前に、輸送機は大きく舵を取り、北へと進路を変える。
 もはやこれ以上の偽装は無意味と判断したか、その巨体を覆う鉄板を次々と脱ぎ捨てた輸送機は、本来の姿と速度を取り戻し、退避行動へ移行した。
「ミユお姉さま、気をつけてー!」
 敵機の多さにやや前へ出たミユ機を横目に、ハルカは、ブレる照準を命中力の高いスナイパーライフルで補い、HWの間に浮かぶCW目掛けてそれを撃ち放つ。方形の一角を吹き飛ばされて高度を落とす敵を前に、彼女は休むことなく次弾を装填して発射、確実に撃ち落とした。
 ミユ機から連続して発射された4発の弾頭ミサイルが、ハルカ機の攻撃を受けて墜ちるCWの頭上を越え、すぐ側にいた別のCW2機に突き刺さり、爆散させる。
 そして、大きく旋回して輸送機の後部へ回ろうとするHWの進路に侵入し、真田機が高分子レーザー砲を構えた。
「悪いが‥‥通すわけにはいかない」
「唸れ! 双怒☆羽韻倶〜」
 レーザーが火を噴き、敵機の装甲を灼き切る。そこへ、ブースト接近したのもじ機が加速しながら突進し、ソードウィングで相手の機体を機首部分から見事に一刀両断、撃墜した。
「この数は‥‥少し厳しいですね!」
 同じくブースト加速を使い、前衛を突破しようとした1機のHWを、SESエンハンサー効果を付与したレーザー砲の2連射で止めて、リアは苦い表情で周囲を見渡す。止め切れない数機のHWが輸送機側へと回り、周辺空域は、敵味方の攻撃が入り乱れる混戦状態と化していた。
 最後列の中型HWのプロトン砲が空を裂き、前衛2機とヤヨイのウーフーに迫る。リアは即座に操縦桿を左に切って回避し、和奏機がヤヨイ機を護って被弾、装甲の一部が弾け飛んだ。
「ようこそ蟲野郎共、撃墜スコアになりにきてくれたのかい?」
「ここは通らせてもらうわよ!」
 残る1発を被弾したツィレル機は、それでも怯むことなく加速をかけると、最も手近にいたCW、そしてリアの攻撃で弱り切ったHWにガドリング砲を向け、一気に掃射する。
 機体に無数の穴を穿たれ、墜ちていくHW。さらに、千糸機から撃ち出された2発のAAMが、攻撃に耐え抜いたCWに命中、四散させた。
 HW群から放たれるプロトン砲の光が絶え間なく9機を襲い、和奏機の展開したラージフレアが、辛うじて輸送機を護る。敵機の間をすり抜けて飛び回り、砲撃を回避する前衛班に対し、身動きが取り辛い護衛班から次々と被弾していった。
「あと少しで離脱できる! 引き離して!」
 1機のHWから輸送機に向けて放たれた攻撃を、ハルカ機が硬い装甲で受け止める。そして、和奏がG放電装置を使い、空中に発生させた強烈な電撃がHWを捉え、その場に押し留めた。
 だが、そのさらに後ろから現れた、妙に速い小型のHWが、止めようとしたツィレル機に一撃を加え、続けて2発のプロトン砲を輸送機へと撃ち放つ。咄嗟に前衛ののもじ機が飛び出して一発を受けたものの、もう1発は防ぎ切れず、離脱していく輸送機の尾翼に直撃した。
「和奏! 今です!」
 最後のCWを叩き落としたミユ機が、HW群の進路を阻んで和奏機と中型HWの間の空間を、一時的に無機状態にする。その好機に、和奏機は、ハルカから借り受けたM−12強化型帯電粒子加速砲の砲首を上げた。
「ミユお姉様、行くよっ!」
 シェイドにも対抗し得るという強力な一撃が、反動を伴って和奏機から撃ち出される。
 真っ直ぐに飛んだその光は、迫り来る中型HWの右舷に命中、見事に機体の一部を爆裂させた。
「あとはわたくしが!」
 前衛のリア機が、黒煙をあげて傾き、後退する中型HWを追って空を滑る。
「攻撃が来ます! 回避と防御を!」
 ヤヨイが叫び、輸送機周辺に煙幕装置の煙を充満させた。その一瞬の後、数機のHWが同時に砲首を上げ、輸送機と周辺のKV目掛けて次々と砲撃を開始する。
 煙幕の中を逃げる輸送機を数条の光が掠め、ハルカ機が受け止めそこねた一撃が、背後から左舷に命中、大きな破片がいくつも宙に舞った。
「こんなもので‥‥!」
 回避が間に合わず、機体の背の装甲をもぎ取られながらも、真田は操縦桿を強く握り、急旋回して二撃目を避けた。
 右翼の一部を飛ばされ、一瞬墜落しかけたツィレル機が、推力を調整してなんとか態勢を立て直す。彼の目が向いた先、遠い空に現れたのは、いくつもの黒い点――機影だった。
「おいおい、ありゃ何だよ? 増援か?」
 その時、戦闘空域の只中で、眩い光が炸裂する。
 煙幕が十分に広がったら撃ち上げると、あらかじめ千糸が皆に伝えて用意しておいた照明銃の光であった。
「少なくとも‥‥HW以上のものはいないと判断していいのかしらね?」
 煙塊をスクリーン代わりに映し出された影には、FRらしきものは見当たらない。確認作業として十分とはいえないかもしれないが、今の段階まで姿を現さないところから見ても、最新鋭機がこちらの戦域に来ているということはなさそうに思えた。
「皆さん! 増援到着前に、一気に引き離しましょう!」
 SESエンハンサーを発動させたミユ機が、レーザー砲の3連射でHW2機を地面に叩き落とし、ブースト加速で一息に輸送機の側へと駆け戻る。そして、Gに押し潰されそうな魔乳に若干の息苦しさを感じたミユは、速度を落とすなりパイロットスーツのファスナーを下ろし、こぼれ落ちそうな胸元を少しだけ解放してやった。
 しつこく追い縋るHWの機首部分を、アグレッシヴ・ファングで威力を増したハルカ機のヘビーガトリングの弾丸が無残に抉り、黒煙と炎が敵機を包む。
「追わせません!」
 さらに接近してきたもう1機を、ヤヨイ機と和奏機が同時展開したG放電装置の電撃が足止めした。青白い輝きが辺りを支配し、そこに囚われたHWの左舷下部を、千糸機のライフル弾が完全に吹き飛ばし、撃墜する。
「ハードね、全く! 戻るわよ!」
 追撃してくる敵機を墜とし尽くした護衛班の3機は、息つく間もなく加速をかけ、もはやHW群の射程外へと離脱した輸送機を追い、戦闘空域を離脱していった。
「わたくしたちも、いつまでも戦ってはいられませんね!」
 前衛のリア機は機体を急下降させ、ふらつきながらも応戦する中型HWの下に潜り込むと、相手を見上げるような形で上昇し、SESエンハンサーで増幅させたレーザー砲の攻撃を叩き込んだ。強力な2発のエネルギー弾が敵機そのものを貫通し、揚力を完全に奪い取る。
「お前もいい加減、墜ちるんだな‥‥」
 先程輸送機に一撃を加えた強化小型HWを射程に捉えた真田機が、同じくSESエンハンサーを発動させ、側面からレーザー砲を撃ち放つ。そして、真正面からツィレル機が発射した8式螺旋弾頭ミサイルが、空中で一瞬動きを止めたその隙を突き、機首に襲い掛かった。
 空中で機体爆発を起こして四散するHWの横をすり抜け、真紅のリア機が輸送機を追う。
「よし、追撃を蹴散らしつつ、俺らもそろそろ離脱するぜ」
「そうだな‥‥」
 南東から接近する敵増援部隊を睨みつつ、真田は目の前に飛び出してきたHWに一撃を浴びせ掛けると、ツィレル機を追って転回、速度を上げて一気に空を駆け抜けた。


    ◆◇
「ドッキング〜〜!! 三身合体見たい見たい見たーいっ!」
 輸送機にダメージはあったものの、なんとか敵の追撃を振り切り、到着したオタワ。
 ミユは、『UK完成の瞬間が見たい』とゴネるのもじの首を抱えて魔乳で黙らせ、椅子に座らせた。
 その様子を見ながら、何やら複雑な表情を浮かべているのは、千糸である。
(「大きいだけならまだしも、あの張りと形を保つってどんな魔法よ‥‥。いいなぁ」)
 と、椅子に腰かけて休んでいたツィレルが、ふと、顔を上げて口を開いた。
「ああ、そうだ‥‥『斜陽企業の困窮』っていう題目で報告書が上がってる件でな‥。能力者用のバイクの話、目を通すだけでもやってくれんか?」
「バイク、ですか?」
 確かに興味はありますね、と、ミユは呟き、しばらく考えるような素振りを見せる。
「ミユお姉さま〜、お疲れさま〜」
「ええ、お疲れさま。‥‥皆さん、お疲れさまでした。よく頑張ってくださいましたね」
 スーツの腕に取り付き、キスをねだるハルカの頬に軽く口付けてから、ミユは、任務を共にした傭兵たちの顔を見渡した。
 するとすかさず、和奏がもう片方の腕に飛び付いてくる。
「ミユお姉様のためだもんっ! 僕は平気だよー」
「社長‥‥いや、ミユさん。また何かあれば‥‥すぐに呼んでくれ」
「このような重大な任務を頂けたこと、わたくしも嬉しく思います。お疲れさまでした」
 ミユは、無表情ながらどこか照れたように見える真田に頷き、疲れた顔で頭を下げたリアに労いの言葉を掛けた。
 そして、ドックに停められた輸送機に目を遣り、感慨深げに、こう口にしたのだった。

「――UK弐番艦は、確実に私たち人類の未来を切り拓いてくれることでしょう。皆さんのご協力、決して無駄には致しませんよ」