●リプレイ本文
「なぜ僕はこんな仕事にばかり行かなくっちゃ行けないんだー!」
船の縁に手を掛け、速攻で嘆声を上げたのはビッグ・ロシウェル(
ga9207)12歳。今回は、とってもキケンな予感が山盛りだ。
「それでは大漁豊作を祈って私のもじが。高知伝統舞踊シットロト踊りを踊りつつ豊漁を祈願★レッツ祈願させてでんじゃらす」
船首のあたりでは、どっから調達したのか大漁旗に鉢巻で海の男感満載な阿野次 のもじ(
ga5480)が、いつも通りのテンションでエンジョイしている。スク水にTシャツでも寒くないらしい。
「あ、メラッサ。めらっさ。ふーばばばっば。――うにゅにゅにゅ〜うにゅにゅにゅ〜」
「凄い擬音だネ! ソレ呪術?」
なんかスライム出そうな擬音使用で踊り狂うのもじを見物しつつ、ラウル・カミーユ(
ga7242)は、爽やかに伝統舞踊を誤解した。悪魔的なモノが召喚されないうちに、とりあえず滑る甲板で靴を脱ぎ、裸足になる。これで、何が出ようが転びはしない。
「楽しみですね、色々と♪」
「うん? 平坂も見学? お茶飲むー?」
双眼鏡片手に、ニコニコと一同を見守っていた平坂 桃香(
ga1831)に、操舵室あたりの屋根に登ってゴロゴロしていたヴィンセント・南波(gz0129)が、緑茶の入った水筒を投げてよこした。
――桃香の企みなど、知りもせずに。
「明石のタコは、有名ですが、さて食べられるんでしょうか? キメラですが、たまに食べられるのが、いるみたいですが」
「‥‥ん。タコ食べるの。楽しみ。食べ応えありそう」
軍のみなさんが次々と機械で巻き上げている蛸壷群を眺めながら、顎に手を当てて呟く榊 紫苑(
ga8258)。彼の中の一抹の不安をよそに、お腹がタコを欲して大変な最上 憐(
gb0002)が、待ちきれない様子で海面を覗き込んでいる。
その時、いい加減蛸壷も見飽きちゃった軍のみなさんの間に、どよめきが起こった。
「うわぁー。蛸のキメラっていっても性質は蛸なんだねー。ちゃんと蛸壺に入ってる♪」
――神崎・子虎(
ga0513)の視線の先には、巨大な蛸壷の中からはみ出した、ピンクのリボン(レース付)があった。
◆◇
『全く何なのよ! いきなり叩き起こして失礼な人達ねっ!』
メガホン使用の南波のアテレコとともに蛸壷から登場したのは、引き締まったスペシャルボディにリボンで華を添えた、なんかもう嫌になるくらいデカいタコであった。
「‥‥おしゃれサン!」
無理して褒めたラウルの声に、バッチリよそ行きの大ダコが振り返った。人間だったら艶めかしいと思われる動きで一同を見渡すその様子に、ビッグは、若干の寒気すら覚え、慌てて覚醒する。
「コレは絶対に嫌な予感しかしないんですがっ」
そして、他のメンバーも危機感を覚えて次々覚醒していく中、甲板後方の操舵室付近の桃香と南波は、温泉まんじゅうの箱など開封しつつ、優雅なティータイムに突入していた。
「アレをオトメとは、私は断じて認めない。‥‥なんかこう、行動が羞恥心のぶっ壊れたオカマみたいな感じなんですよねぇ」
「そう? 10回ぐらい自己暗示かければ、可愛く見えてくるよー?」
「そこまで無理はしたくありませんねぇ」
頑張りすぎな南波に水筒を返し、紙コップの緑茶を啜りながら、桃香はその場に腰を下ろす。完全に、見物する気満々だ。
「大・漁・豊・作☆ ぴっちぴち食材到着♪」
真紅のルベウスを高く掲げ、七色オーラ満開で身構えるのもじ。持参したマイ炊飯ジャーが、大ダコの足を待っている。
そして、大ダコが動いた。南波のアテレコと共に。
『行くわよ男共っ! 大人しくしてたらすぐ終わるわっ』
「何が終わるんだあぁーーーっ!」
男を求めてうねる、一抱えもありそうな太い足。縦横無尽に伸びてくる八本のタコ足に追いかけ回され、ビッグが早くも悲鳴を上げた。
一方、同じく囮役を買って出た子虎はというと、
「ああっと。危ない危な〜い☆ 鬼さんこちらっ♪」
割と生き生きしている。
そんな二人の後ろでは、紫苑とラウルが流れタコ足をかわしつつ、拭い切れない不安に苛まれていた。
(「コレは‥‥身の危険を感じる」)
(「どうも悪寒が走っているんですが、あ〜この嫌な予感外れてくれれば、いいんですがね」)
目立ったら終わりな気がする。が、攻撃しないわけにもいかないこの激しいジレンマ。
そんな中、真っ先に飛び出したのは、ハラヘリ少女・憐であった。もう我慢できない。色んな意味で。
「‥‥ん。タコ足に追い掛けられ。逃げ惑う男性陣。凄い光景。囮に夢中になってる間に。一気に距離詰める」
甲板に蠢くタコ足を掻い潜り、一息に大ダコの本体に接近する憐。どうせ料理には使わなさそうな大頭目掛けて、力の限りタバールを振り下ろす。
「‥‥ん。頑張って。生けどりにする。生きたままの方が。鮮度良さそう」
鈍感なのか男に夢中なのか、パックリ割られた頭にも気付かず足を振り回している大ダコに二撃目を加えながら、憐は、かぶりつきたい衝動を必死に抑えていた。
そして、囮役の子虎が、同じく足の付け根まで迫る。大剣を頭上から振り被り、急所突きで威力を増した斬撃を、大頭の最も柔らかい部分に叩き込んだ。
「きゃぁ♪ 捕まっちゃった〜☆ うわっとー」
――が、追って来たタコ足にとうとう胴を絡め取られ、なんだか歓声にも近い声を上げる。と、同時に、なぜか隣にいたビッグの体まで、軽く宙に浮いた。
「あー‥‥こうなるかなーって予感はしてたっ!」」
「あ、ビッグくんごめ〜ん☆」
足払いなどかけておきながら、わざとらしく謝る子虎。ビッグは、為す術もなくタコ足に捕まり、天高く吊上げられていった。
「いやあー、たーすーけーてー」
体を上下逆さまに巻かれ、粘液たっぷりヌメヌメほっぺになすり付けられるビッグ。大ダコは、もう一本の足で巻いた女装少年・子虎を抱き寄せ、まじまじと見つめた後、
「きゃあーー!!」
海に、捨てた。
「がぼぼっ! ちょっとぉー! きゃあー!!」
ぼちゃり、と音を立て、海中に沈む子虎。
だが、海から顔を出して文句を垂れ始めた子虎を、大ダコは、なぜか再び足を伸ばして絡め取る。そして――
「ぶぎゃん!!」
甲板に叩き付けた。
『べ、べつに‥‥助けたわけじゃないんだからねっ!? 勘違いしないでよね!!』
「ツンデレですか。ますますどうかと思いますねぇ」
顔面を強打して鼻血を噴く子虎。
どういうわけか顔(?)を赤らめてそっぽを向く大ダコ。
アテレコに忙しい南波。
それを眺める桃香は、冷静だった。
「‥‥‥。んふふ、堪能♪堪能♪ さて‥‥次は南波さんの番?」
「‥‥ん。明らかな。強がり」
「鼻血、出てます。無理しないでくださいね」
ボダボダと、美少年にあるまじき量の鼻血を垂らしつつも素直になれない子虎に対し、即座に突っ込みを入れる憐と紫苑。甲板全体に、『無茶しやがって‥‥』的な空気が流れる。
「帰ったら、銃を買って練習しよう‥‥絶対にしよう‥一日10時間位」
その頃、未だに大ダコに抱き締められたままのビッグは、判断力の著しい低下により、無茶な目標を立て始めていた。
「明石タコのたごんちゃん。覚悟★」
『失礼ね! アタシの名前はジョセフィーヌよっ!』
ヒマな南波のアテレコはこの際無視して、のもじはTシャツの裾を翻し、流し斬りを発動させた。滑るような動きで大ダコの側面に回り込むと、真紅の爪でタコ足を大きく斬り裂き、引き千切る。ビッグを捕えた足がボタリと床に落ち、生臭さが充満した。
さらに、その切り落とされた足とビッグに向けて伸びてきたもう一本を獣突で吹っ飛ばし、のもじは一旦後ろに退がる。
そして、覚悟を決めた紫苑の蛍火が閃き、強弾撃、そして影撃ちの効果を乗せたラウルの矢が風を裂いて命中すると、大ダコは、ビタンビタンと足をバタつかせつつ、若干頬を赤く染めて二人を見遣る。
その目は――ドMの目であった。
「‥‥んー‥‥ヒマになってきた。アレ見て来るね」
足の標的がラウルと紫苑に代わり、再びカオスと化した甲板の後ろの方では、退屈し始めた南波が屋根から降りていた。切断されたクセにイキのいい足に絞められたままのビッグを指差し、桃香に一言言って足を踏み出す。
――と。
「はい♪ いってらっしゃい!!!」
「えええええーーーーっっ!?」
いきなり背後から桃香のタックルを喰らい、うつ伏せに転倒したまま甲板を滑って行く南波。
「どうせならこっちで一緒にいましょうよ〜♪」
「なんばりん! イイところにっ!」
「お前らあぁーーっ! あー‥‥」
待ち構えていたビッグ(タコ足付)に腕を引っ張られ、さらに、ラウルが避けたタコ足に胸を絡め取られ、甲板を引き摺られる南波。
だが、
「こーなったら、お前らも来ーい!」
「ちょ、せっかく身代りにしたのにっ!!」
「‥‥なぜ自分まで?」
南波に足を掴まれ、甲板に転んだラウルと紫苑の二人が、アッサリとタコ足に捕まった。
「ぎゃーヌルヌル!」
「これは酷い‥‥臭いが‥‥」
南波と紫苑が次々に絞め上げられ、頬ずりの洗礼を受けている間に、ラウルはというと‥‥
「うわっ! ちょっと、何か僕だけキケンな感じっ!!」
キスされようとしていた。
足の付け根、頭の下に開いた、ギザギザ八重歯(?)のタコ口で。
「こうなったら最後の手段だ!」
一方、ビッグは、いきなり服を脱いでタコ足から脱出するというギリギリの手段に出ていた。やはり、相当な判断力を奪われているらしいが、それでもなんとかクロムブレイドを構え、大ダコに突進する。
そして、ラウルに迫るタコ口に一撃を加えると、瓶ごとスブロフを投げ込んだ。
「僕もっ!」
焦ったラウルが、同じく眼前のタコ口にスブロフを投入する。しかし――
タコは、酒乱だった。
「ぎゃー! 頬ずりが高速にっ!」
酔っ払って上機嫌になった大ダコは、先程にも増して凄い勢いで南波を愛で始めた。
「さあ、さっさと僕達に食べられるために負けてね〜♪」
「私は特にイクラどんが大好きだ!」
鼻血を止めた子虎がツーハンドソードを振り回して大頭を切り裂き、関係ないことを口走りつつののもじも、ルベウスを振るう。
すると、酔っ払った大ダコの股の辺り(口)から、いきなり黒い煙が噴き出してきた。
「‥‥ん。何か。出て来た。回避する」
疾風脚を使用して闇波動をかわす憐と、ギリギリ後退して伏せるのもじ。回避し切れなかった子虎とビッグ、そして、タコ足組の三人は、思いっきり直撃を受けて一瞬脱力する。その隙に、頬ずり回数もウナギ登りだ。
「‥‥仕方ありませんねぇ」
その時、男三人を交互に頬ずりしてご満悦な大ダコの様子に、とうとう桃香が動いた。その光景に飽きたとも言う。
そしてさらに、とうとう紫苑もキレた。
「ナマモノだが、しつこいな? そうとう良い思いしただろうから、覚悟しろよ? 速攻で送ってやる」
紫苑の投げた蛇剋が大ダコの眼の上あたりに突き刺さり、青い血が飛沫く。同時に、二段撃を発動した桃香が大ダコへと疾り、目にも留まらぬ速さで月詠を、そして、機械剣の濃縮レーザーを、次々と突き刺した。さらに、引き抜く代わりにそれらを大きく外側に薙ぎ、大ダコの顔面に巨大な傷をつける。
たまらず三人を離し、床に落とした大ダコに、お怒りのご様子な紫苑の蛍火が、容赦なく襲い掛かった。
生臭い鮮血を散らして暴れる大ダコ。そこへ、瞬天足で一気に間合いを詰めた憐が現れ、獲物を振り回す。超重量の斧の刃が二度に亘って叩き込まれ、大ダコは思わず動きを止めた。
そして、ようやく立ち上がった南波が、ちょっと半泣きになりつつもガンドルフを構え、叫ぶ。
「嫁入り前の男に何してくれんだっ! タコ焼きにしてやるー!」
「なんばりん、きっと嫁には行かないヨネ‥‥」
その後、全身ヌメヌメなラウルの支援射撃の中、本日の生贄・南波大尉は、怒りの限界突破を発動。
酒乱でツンデレでドMな大ダコを、文字通りタコ殴りにしたのであった‥‥。
◆◇
「タコ‥‥とチョコ?」
「結構いけるヨ? 食べれる?」
ポートアイランドに戻ったラウルは、調理場を抜け出し、琳 思花(gz0087)の病室へとやって来ていた。チョコフォンデュにしたタコの切り身、という、一見衝撃の組合わせなスイーツ持参で。
「あ‥‥本当だ。意外と美味しいんだね‥‥」
「思花サン退院いつ? もう大分元気そうだネ♪」
「‥‥もうすぐ。その後は‥‥」
と、そこで、思花は不穏な視線を感じ、ふと病室の入口へ目を遣る。
「ラヴい空気を出すのはいいけどさー‥‥」
そこには、入口ドアから半分だけ顔を覗かせた南波が立っていた。
「みんなラウル待ってるんですけどー。料理終わってるんですけどー。終わってるんですけどー!」
大事なことなので、二回言う。
彼は、ちょっと前に彼女に振られて、今とても悲しいのだ。
「お前なんかワサビ醤油に漬け込んでやるー」
皆がテーブルに着いている中、ビッグは、未だに晴れぬ恨みをタコ足にぶつけていた。
「‥‥ん。大きいから。大味かと。思ったけど。意外とおいしい」
ようやく食べ物にありついた憐の、箸の速さが尋常ではない。現地で生で食べたいと言い出した彼女をここまで我慢させるのは、とても大変であった。
「これだけ大きい蛸だし足一本ていっても結構な量があるね☆」
「さすがに、あの巨大さは、調理に骨が折れますね」
蛸刺し、蛸焼き、蛸わさびに蛸飯、蛸煮込み‥‥蛸づくしの食卓を前に、子虎と紫苑はエプロンを脱ぎつつ、伸びをする。
ちなみに、紫苑・子虎・ビッグ・ラウル・南波のタコ足拉致られ組は、タコ臭い装備を洗濯中なので、緊急措置としてジャージ姿であった。
「‥‥ん。前に。食べた事ある。タコキメラより。おいしいかも」
「触手を食す! 蛸焼き焼きたてたごんちゃん☆」
蛸飯&蛸焼きのダブル炭水化物に囲まれ、張り切って触手を食すのもじ。その隣では、ようやく席に着いたビッグに、滅茶苦茶熱い蛸焼き片手の子虎が、ビッグに迫っていた。
「はい、ビッグくんあ〜ん♪」
「熱いー! やーめーてー」
「‥‥ん。どんどん食べる。どんどんおかわりする。もりもり食べる」
もりもり食べすぎな憐の皿に、南波がわさびのカタマリを配置したりして楽しんでいる。まあ、それも気付かず丸ごと食べられてしまったのだが。
「今回は楽しかったですねぇ。何がとは言いませんが」
優雅に蛸飯を口に運ぶ桃香は、悪魔の微笑みを浮かべてジャージ軍団を見渡していた。
カメラがあれば、もっと楽しかったのに――そんな事を考えながら。
そして翌日、タコ本体は、ベロンベロンに酔わされた上に張り付けにされたり、リボンで足を結びつけられたりと屈辱的な姿で、カプロイア伯爵のもとへと送られて行った。
酒乱でツンデレでドMな大ダコは、この後、伯爵のもとで美味しく調理される運命なのであった――。