タイトル:【神戸】Moonriseマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/20 04:08

●オープニング本文


 兵庫県。
 そこは、北に日本海を、南に瀬戸内海を望み、緑豊かな中国山地を中心に、変化に富んだ地形を有する近畿地方の一県。
 そして、同時に、近畿地方制圧を狙うバグア勢力と、それを駆逐せんとする人類側勢力との激戦のいち舞台でもある。
 臨時首都・大阪府と隣接する南部では、現在、ポートアイランド・六甲アイランド・伊丹の三大駐屯地に兵庫UPC軍が配置され、瀬戸内海沿岸地域の防衛、および、中国山地より北に位置する競合地域の攻略にあたっている。


――兵庫県南部・兵庫UPC軍ポートアイランド駐屯地。

「本日、君たちに課せられた任務は、兵庫県中西部山岳地帯に出現したキメラによる被害状況の確認任務だ」
 基地内の会議室に集められた傭兵たちの前で、兵庫UPC軍大尉・ヴィンセント・南波(gz0129)は、資料片手に今回の任務内容の説明を始めた。
「現在、中国山地周辺では、野良キメラによる被害が散発している。我々正規軍も対応にあたってはいるが、現状、全てのキメラを駆逐するには至っていない。そして先日、山間のいくつかの集落が被害を受けたとの情報が入った」
「――私共UPC北中央軍では、目撃情報から、この大型キメラを新種の希少キメラと推察し、兵庫UPC軍の協力の下、捕獲作戦を計画しています。‥‥あなたたちにお願いしたいのは、その事前調査」
 南波の隣に座るキメラ研究者・琳 思花(gz0087)が、傭兵たちのほうへと顔を向け、各KVに搭載する調査機材概要を記した紙を配る。ちなみに彼女は兵庫UPC軍ではなく、北米主力軍であるUPC北中央軍のほうに所属しているらしい。
 南波は、再び一同を見回すと、壁に貼られた地図を指し、言った。
「各機、散開してキメラ生息地域上空を低空で飛び、軍が用意した機材を用いて、現地の被害状況、地形、およびキメラの痕跡を詳細に調査・記録すること。以上」


    ◆◇
――兵庫県中西部・中国山地上空

「思ー花ー、ちゃんと見てるー?」
「‥‥見てるから」
 傭兵たちと分かれ、中国山地をやや北のほうまで移動してきた思花は、自機の前でくるくると宙返りをする一機のウーフーを、冷静に観察していた。
 調査自体は傭兵に任せ、思花の乗るバイパーと南波のウーフーは、緊急事態に備え、競合地域に近い北側の警戒にあたることにしたのだが‥‥
 南波大尉は、最近貸与されたばかりのウーフーが、嬉しくてしょうがないらしい。
「思花、雷電貸してもらったんじゃなかったっけ? 置いてきた?」
「うん‥‥慣れないから‥‥。‥‥ていうか、落ち着こうよ。あなた‥‥もう大尉なんだから」
「おかげさまでー! 思花も兵庫UPC軍に来ればよかったのになぁ」
 遊ぶのをやめて思花機の横につき、南波が子どもっぽい言い方でゴネ始める。
 というのも半年前、傭兵だった思花がUPCに所属することになったきっかけが、南波と共にこなした幾つかの依頼の功績を認められてのこと、であるからだ。
 当時、まだ少尉だった南波は、当然思花も兵庫軍に入るものと思っていたわけで、ガッカリもいいところである。
「‥‥南波と一緒は嫌なんだ」
「なんでぇっ!?」
 ショックな心境を器用に機体全体で表して飛ぶ南波は、『墜落するふり』をしてみたりと、実に楽しそうである。

 ――その時。

「‥‥思花。機影だな、これ」
 通信に混じる雑音。
 ウーフーの能力のおかげで多少は頼りになるレーダーを見ると、急接近する3つの機影が映し出されていた。
「‥‥来るよ」
 思花の言葉と同時に、山々の向こうから3機の小型ヘルメットワームが現れる。
「全機に連絡する! 対象地域北東、敵機発見!」
 プロトン砲が次々と火を噴き、空を裂いて南波機の装甲を掠めた。
 そして、上空に逃れようとして被弾した思花のバイパーに、1機のHWが執拗に追い縋る。
 機首にあたる部分に、三日月を模したエンブレム。暗色の機体だ。
「南波! こいつ、普通じゃない‥‥。当たらないし‥‥避けられない!」
 何度目かの攻撃を受けた思花が、モニターに浮かぶ『機体損傷70%』の文字を睨みながら、急減速してHWに自機を追い越させる。そして狙いを定めてミサイルを発射するが、敵機は、それを易々と回避してみせた。
『思花! ポートアイランドから援軍が発進する! もうちょっと耐えて!』
 残ったHW2機の攻撃を避けながら音声を外部に出力し、敵パイロットに対し、わざと増援の存在を知らせる南波。
 だが、初めて敵機から発せられた声は、二人を凍りつかせた。

『何だ、お前ら、思花と南波少尉じゃん?』

 知っている声だった。

「‥‥奏汰?」

 ぽつり、と思花が呟いた、次の瞬間。
 彼女の機体は、プロトン砲の光に貫かれていた。
「思花!!」
 撃墜され、墜ちていくバイパーを前に、南波が叫ぶ。

 傭兵たちの機体が続々と集まってくる中、敵3機に囲まれた南波機に、全ての砲火が集中した。
『なーんだよ。せっかく人が遊んでやろーってのに、増援?』
 全兵装を駆使して応戦する南波機の後ろを、暗色の機体がピッタリと着いて来る。
『お前、マジで上月 奏汰か!?』

 それは、死んだ者の名前だった。
 半年以上も前に、南波の依頼で兵庫県北部の偵察に赴き、帰ってこなかった傭兵の名前。

『さー、どーかなぁ、少尉?』
『今は‥‥少尉じゃないんだよっ!!』
 背後からの一撃が、南波機のエンジンを直撃した。
 黒煙を上げて墜落していくウーフーの前に、傭兵の機体が割り込んで、敵機への攻撃を開始する。
「――全機に連絡する! 援軍到着まで、持ち堪えろ!」
 通信を飛ばし、脱出レバーを引く南波。
『つまんねーの。俺、帰っちまうぜ?』
 飛び交う砲撃を異様な速度でかわしながら、暗色のHWは、あっさりと残りの2機の背後に回り、その援護の元、KVの射程外まで一気に移動した。

『ま、いっかぁ。俺、ここで見てっからさ‥‥せいぜい面白いモン、見せてくれよな?』


 ――居並ぶ傭兵たちの機体を前に、彼は嘲るような声で吐き捨て、笑った。


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●依頼内容
・兵庫県中西部・中国山地上空に、小型HW3機が出現しました。
 約2〜3分後に、増援が到着します。それまで持ち堪えるか、敵機を撃墜してください。
・思花機は大破、南波機もエンジン被弾で、戦闘不能です。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

 山中に投げ出され、木々の間から黒煙を上げる一機のウーフー。
 少し離れた山の斜面には、胴体部分をほとんど分断された状態のバイパーが、生い茂る緑の中に垣間見えた。
「二人が落とされるって、どんな敵が来たんや?」
 HWの出現を受けて現場に駆け付けた烏谷・小町(gb0765)は、既にそこにいた7機の東側に自機をつけ、呟きを漏らす。
「思花さん! 南波大尉! 応答して下さい! 大丈夫ですか!?」
 赤宮 リア(ga9958)の必死の呼び掛けに対しても、二人からの応答はなかった。
 それは、墜落するKVから二人が無事に脱出できた事を示しているのか、それとも――。
 不安が頭を過り、下唇を噛んだリアの耳に、霞澄 セラフィエル(ga0495)の静かな声が、雑音を交えて飛び込んでくる。
「二人の事も気になりますが‥‥今は、この場を持ち堪えることを考えましょう」
「エース機ですか。所詮はヘルメットワーム‥‥なんて、甘いものじゃないでしょうけど」
 8機の登場に一旦攻撃の手を止めて後退した2機のHWと、その背後で悠々と高みの見物を決め込んでいる暗い灰色のエース機を前に、平坂 桃香(ga1831)は、少し他人事めいた口調でそう口にした。
「あかん‥‥あれは、強い。ウチの知らない経験がひしひしと教えてくれとる‥‥」
「相手に戦う意思が無いのであれば、手を出す必要はありません。それよりも、思花さん達が心配です‥‥できる限り早く、終わらせましょう」
 低い声で唸るように言う小町に、シエラ(ga3258)は、赤い視界の中にエース機を見つめ、事務的ともとれる口調で言葉を返す。
「‥‥‥これ以上、好きにさせるわけにはいかないね‥‥‥。悪いけど‥‥時間稼ぎさせてもらうよ」
「ああ。神戸のバームクーヘンと缶珈琲は、俺の大好物なんだぜ。全力で護るぜ」
 中央に位置取ったシェスチ(ga7729)とエルガ・グラハム(ga4953)がそう言い合うなり、2機のHWがエース機を離れ、こちらへと向かってくる動きをみせた。
「見物だと? 気に入らねぇな」

 最初に飛び出したのは、鈍名 レイジ(ga8428)の駆るディスタンであった。
 
 機首を下げ、向かって右から飛来する1機のHWの下に潜り込むようにして接近すると、今度は敵機の腹を見上げるような形で急上昇し、ミサイルの発射ボタンを押す。
 上向きに真っ直ぐ放たれたUK−10AAMが炸裂し、大きく機体を揺らして回避態勢に入るHW。だが追い縋るレイジ機から逃れることは叶わない。
「今はテメェ等に構ってる時間はねぇンだ!」
 両翼を固めるソードウィングが、逃げ切れずに慌てて方向転換しようとしたHWの側面を力任せに薙ぎ斬り、金属同士の擦れる嫌な音が空に木霊した。
「二手に分かれますよ! HWくらい、瞬殺しちゃいましょう」
 左側のHWを狙う桃香の声に、霞澄、シエラ、シェスチの駆る3機が彼女に続き、残るエルガ、リア、小町の3機が、それとは逆の右側へと進路を変える。
 桃香機は、一旦左側に大きく逸れたかと思うと、右翼を急激に下げて旋回、ほぼ真横からロケット弾ランチャーでHWを狙った。
(「‥‥まだ動きはありませんねぇ」)
 2連装のランチャーが火を噴き、敵機の装甲の上で爆煙を上げる。桃香は、爆発の衝撃に自機が巻き込まれぬよう機首を上げ、斜めに擦れ違いながら、チラリと敵エース機の動きを垣間見た。
 やや高い位置にふよふよと浮かび、こちらを見下ろす暗色のHW。それは、射程の長い桃香機が接近して来るにも関わらず、全く動く気配を見せなかった。
「やってくれましたね‥‥! 絶対に許しませんよ!!」
 琳 思花(gz0087)とヴィンセント・南波(gz0129)の撃墜を目にして怒りに燃えたリアのアンジェリカが、ブースト空戦スタビライザーを発動させ、急加速をかける。
 全身に掛る重力をものともせず、リアは操縦桿を切って大きく旋回すると、右側を守るHWに背後から肉薄した。
「墜ちなさい!」
 SESエンハンサーの作動で威力を増した高分子レーザー砲が、至近距離からHWの後部を直撃する。バランスを崩して空中で半回転した敵機に向け、リア機の更なる攻撃が降り注いだ。 
『へーえ。結構当ててくれんじゃん? あと何秒保つかな、コイツら』
 一体何がそんなに楽しいのか、上月の笑い声が響き渡る。
『人間社会の落ち零れが敵機に乗ってエース気取りか? とことん見下げた野郎だ』
 敵機からの声に反応したのは、やや上空から2機のHWの頭上を狙っていたエルガだった。上月の態度が気に入らないのか、それとも覚醒の影響か、彼女は、侮蔑を込めた声音で、言葉を続ける。
『こちとら名古屋戦から腕を頼りに生き延びた。駄目男は何をしても駄目だな』
 沈黙するエース機と、それを睨むエルガ機。不穏な空気を頭上に感じつつ、リアは3発目のレーザー砲を撃つべく、引き金を引いた。
『てめぇを産んだ腐った腹の持ち主に問いたい。生きてて恥ずかしくないか?』
 エルガの声が響き、ピンと張り詰めた緊張感が辺りを支配する。そんな中、リア機の放ったエネルギー弾が、HWの装甲を真上から貫いた。
 揚力を失い、遠く地面へと墜ちていくHW。
 大地を揺るがす墜落音を切り裂いて、上月が嘲笑った。
『だったら勝手に訊いて来いよ。さっさと戦えっての。‥‥それとも』
「――っ!」
 桃香の雷電が、咄嗟にロケット弾ランチャーをエース機に向けた、その時。
『お前、俺にケンカ売ってんのか?』
 突如、加速したエース機が、桃香が引き金を引くより早く、プロトン砲を撃ち放った。
「ちっ‥‥動き出したでー!」
 攻撃を背に受け、装甲の破片を空中に散らして後退した桃香機の前を翔け抜け、暗色のHWが一息に戦闘空域の真中へと躍り出る。小町が皆に警鐘を鳴らし、空に鋭い緊張が走った。
「エルガさんを狙うつもりですね‥‥」
 高度を下げていくエルガ機を追い、さらに加速するエース機を目にして、霞澄機が動く。だが、もう1機がその進路を阻むように立ち塞がり、霞澄は、機体を大きく傾けてそれを避けた。
「エルガさん、避けてください!」
「わかってる!」
 敵機の気配に、エルガが操縦桿を切る。だが、エース機から撃たれた一条の光は、凄まじい威力で空を裂き、真横を向いて回避しようとしたエルガ機の後部に命中した。
「クソッ! この野郎!」
 『機体損傷40%』を示すモニターを一瞥し、エルガは、自機の射程外から砲撃してくる厄介な相手を、コックピットの中から仰ぎ見る。
 彼女は、もう1機のHWを迂回してエース機に接近する霞澄機を目にすると、急旋回して方向を変え、機体を上昇させた。
「霞澄、頼む!」
 ブレス・ノウを発動させたエルガ機がエース機を射程に捉え、スナイパーライフルD‐02を発射したのと、2発目のプロトン砲が火を噴いたのとは、ほぼ同時であった。
『当たるかよ――ッ!?』
 エルガ機の放った弾丸をかわし、傾いたエース機の死角をついて、霞澄機の試作型G放電装置が作動する。機体を包み込むように広がった電撃から逃れられず、その場に停止した暗色のHWを横目に、霞澄のアンジェリカが急減速した。
「先にこちらから、ですね」
 減速の衝撃を受け、空中でバウンドしたアンジェリカの真下を、エース機の援護に駆け付けたもう1機のHWが通過する。霞澄はその無防備な背中を、高分子レーザー砲で瞬時に狙い撃ちした。
「エルガさん、撤退してください」
「ああ。損傷が激しい。この空域を離脱して、撃墜された二人の捜索に入る!」
 2発目の砲撃で機体損傷75%に達したエルガ機は、これ以上戦闘空域に留まると、撃墜の危険性がある。霞澄の声に頷き、エルガは、2機のHWの隙をついて急激に高度を下げると、自機を山陰に隠すことで戦闘から離脱した。
 エース機の周囲を飛び回るもう1機のHWが、残る7機のKVの接近を拒むかのように、連続してプロトン砲を撃ち放つ。
 至近距離にいた霞澄機は、機首を上げてその砲撃をかわし、シェスチの駆る『クドリャフカ』もまた、左翼を上げて旋回し、ギリギリのところで被弾を避ける。だが、その2機の後ろを飛んでいたリア機だけは回避が間に合わず、翼の先に攻撃を受けて破片を飛ばした。
「こっちにも持ち帰らなきゃいけないデータと命がある‥‥。ここで墜ちるわけにはいかない‥‥」
「‥‥。あのエース機パイロットは‥‥任務よりも、感情を優先するタイプのようですね‥‥。どこかの誰かに似ているかもしれません。‥‥調子のいいところとか」
 横並びに飛んでいたクドリャフカとシエラ機が空中で二手に分かれ、エース機ともう1機を東西から挟むように距離を詰めていく。
「援護射撃行きます」
 エース機を守るもう1機に狙いを定め、シエラがブレス・ノウを発動させ、G2ミサイルを発射した。爆音とともにHWの装甲を吹き飛ばされ、赤熱する機体に、逆側から接近したクドリャフカが、高分子レーザー砲を撃ち込み、追い打ちをかける。
「こっちはフェイントだよ‥‥」
 2機の攻撃から逃れようと前方へ加速するHW。だが、それも、シェスチの計算のうちであった。
「死んどらんとは思うけど、思花の仇や!」
 真正面で待ち構えていた小町機が、もはや装甲の半ばを失ったHW目掛けて、UK‐10AAMを連続して発射する。白煙の軌跡を残して真っ直ぐに飛んだ2発のミサイルが、敵機の機首部分に突き刺さるように着弾、爆裂した。
「よっしゃー! これで‥‥あと1機、やな‥‥」
 機体の前半分をもぎ取られ、地に墜ちたHWを眼下に見ながら、小町が再び操縦桿を握り直し、一旦エース機から遠ざかる。
『ふーん。けっこー面白れーモン見せてくれんじゃねーか』
 増援到着まで、あと僅か。残1機となった暗色のエース機は、北方向にやや後退しながら、なおも砲撃を繰り返していた。
「一瞬でも‥‥チャンスさえ作れれば‥‥」
 回避しようとして傾けた機体の腹と後部をプロトン砲で抉られ、激しく揺れるコックピット内で、シェスチは『機体損傷45%』の表示を見つめ、独り言のように呟く。
「まだまだ‥‥こんなものでは墜ちませんよ!」
 同じく後部に直撃を受けながらも、アンジェリカを駆って果敢に向かっていくリア。
 エース機の背後からはブースト全開で迫ったレイジ機が、正面左下からは桃香機が、それぞれ狙いを定めていた。
「‥‥いくぜ‥‥出し惜しみはナシだ!!」
「外しませんよ!」
 レイジ機の放った3発のUK‐10AAMと、桃香機の2連装ロケット弾ランチャーが、同時にエース機に襲い掛る。さすがに全回避など無理な話で、暗色の装甲に着弾した何発かが、爆炎と煙で敵機を包み込んだ。
 そして、動きを止めたエース機を見て好機と悟り、桃香機は、ブースト加速で一気に距離を詰めると、上空からさらに弾頭ミサイルを撃ち込む。
「今です!」
 黒煙に包まれたエース機を挟み、左右から接近したリア機と霞澄機が、試作型G放電装置をほぼ同時に展開した。
 敵機が見えないほどに強烈な電撃が発生し、眩い白光が周囲を照らし出す。
「全ブースト‥‥起動‥‥相手も人間なら‥追い着けるはず!」
 ブーストの上にマイクロブーストまで発動させたクドリャフカが、放電の収束とともに急発進した敵機を追い、数秒のせめぎ合いの末に肉薄した。そのまま至近距離からレーザー砲を叩き込むと、接近する小町機を確認し、シェスチは力の限り操縦桿を引いて、垂直上昇で離脱する。
「こんなもんで落ちるとは思わんけど‥‥どんだけ効くもんなのか‥‥」
 これだけの集中攻撃にも未だ速度を落とさないエース機に、小町は歯噛みし、それでも狙いを定めてUK−10AAMを撃ち放った。
だが、シェスチの攻撃がフェイントだと気付いた敵機が急加速し、かわされてしまう。

 こちらの攻撃の半分以上は当たっているというのに、一向に墜ちる気配のないHW。
 強化された機体の耐久性と長射程のプロトン砲にものを言わせて、悠々と飛び回っている。

 最後列のシエラが、遠い空に浮かぶいくつかの機影を見つけて声をあげた。
「増援です。‥‥退きましょう」
 離脱する仲間の機体からエース機を引き離そうと、シエラは、わざと狙いを定めず大雑把に、残るホーミングミサイルG−02とAAMの一部を空中にばら撒いて敵機の気を引く。
『上月 奏汰‥‥このままでは終わらせませんから!! 神戸の街は私が守りますっ!!』
 怒りも露わに、リアが叫ぶ。その時だった。
『つまんねーの。もう終わり?』
「――!」
 突然、味方機とともに離脱しようとするシエラ機に、敵機の砲首が向いた。
 プロトン砲の光が空を灼き、シエラのS−01改の機首部分の装甲を抉る。
「てめぇッ!!」
 間に割り込もうとしたレイジ機の左翼を掠め、2撃目がシエラ機を襲う。
 桃香機が煙幕装置を作動させたのと、3撃目の光がシエラ機の装甲を散らしたのとは、ほぼ同時であった。

『‥‥さっきのお二人とお知り合いのようですが‥‥。‥‥何か伝えておくことはありますか?』
 機体損傷80%を超えた愛機の中で、シエラは、痛む身体をどこか他人事のように感じながら、煙幕の向こうの上月へと問いかける。
 だが、その問いに対する返答は、どこからも聞こえては来なかった。


    ◆◇
「良かったー、生きとったー!」
「思花さん‥‥よかった‥‥」
 思花が目を覚ました時、真っ先に目に入ったのは、ベッドの脇で自分の手を握る小町と、泣きそうな顔で佇むリアの姿であった。
「‥‥すごい‥‥大怪我だったんですよ‥‥」
「能力者じゃなかったら、危なかったですねぇ」
 シェスチと桃香の言う通り、南波はともかく思花の方は、左腎破裂に左上腕粉砕骨折と、重傷であった。
 現場が木々の生い茂る山岳地帯でKVが着陸できなかった上、脱出ポッドが放つ光が葉に隠され、捜索と救助が難航したこともあり、あと少し搬送が遅れていたら、能力者といえど命はなかっただろう。
 そして、負傷した身体を圧して捜索に参加したエルガとシエラの二人もまた、数日間の入院を要する状態だという。
 思花の枕元には、エルガからの差し入れだろうか、スポーツドリンクが置かれていた。
「しかし、あんな場所にエース機が出るってのは‥‥何かあるんじゃねぇのか?」
 レイジが振り返った先には、窓際に佇む南波の姿。彼は、少し眉根を寄せて唸ると、やがて口を開いた。
「あのへんには、何もないな。ただ、バグアが兵庫南部への侵攻を考えてるとしたら‥‥いくつか思い当たるものはある」
「‥‥あのエース機のパイロットは、お知り合いですか?」
「‥‥‥‥たぶんね‥‥死んだはずの人だけど」
 霞澄の問いに、南波は、それ以上何も答えようとしない。
「‥‥あれが本当に、私の知り合いなら」
 代わりに声を上げたのは、思花であった。

「‥‥死ぬ前だって、十分‥‥迷惑な人だったよ」