タイトル:森の悪魔マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/13 03:08

●オープニング本文


 刈り揃えられた芝生の庭を、真っ白な子犬が尻尾を振りながら駆け回る。
 それを追う子どもたちの、きゃあきゃあと甲高い声を聞きながら、若い母親は、リビングで本を片手に午後の紅茶を楽しんでいた。付けっ放しのテレビの中では、バグアとの大規模な戦闘による緊迫した状況が、連日のようにニュースで流されている。
 ふと、母親が顔を上げると、庭で遊んでいたはずの子どもたちの声が止んでいた。
 不審に思って庭に出てみると、二人の子どもたちは庭の隅にしゃがみ込み、しきりに茂みの中を覗き込んでいる。
「何? 何かいるの?」
 カナダの田舎町では、街中であっても野生動物を見かける機会が多い。彼女が茂みを覗いてみると、やはり、ふかふかとした毛皮に覆われた動物がうずくまっていた。
 暗がりでよく見えないが、その大きさから、猫か、このあたりでよく見かけるアライグマのようにも見える。
「触ってはダメよ。野生の生き物は病気を持っているかもしれないの」
 そう言って彼女は嗜めたが、好奇心旺盛な子どもたちにその声は届かない。子どもたちは手に手にお菓子を持って、その動物の口元へと腕を伸ばした。
「こら、餌をあげてはダメ‥‥」
 彼女が子どもを止めようと手を伸ばした、まさにその時。
 茂みの中から灰色がかった物体が飛び出し、一人の子どもの片腕が消えた。
 泣き叫ぶ子どもの右肘から先が無くなり、噴き出す鮮血が緑の芝生を真っ赤に染める。
 後ろを振り返ると、小型犬ほどはあろうかという大きさのリスのような動物が、小さな腕をその口に咥え、威嚇するように毛を逆立てていた。
「い‥‥いやあぁぁぁぁっ!!」
 気がつけば、周りには同じような生き物が何匹も集まってきている。
 彼女たちは、キメラに囲まれていた。


   ◆◇
 最初の犠牲者が出てから、一週間。
 凶暴極まりないリス型キメラの群れに占拠された小さな町は、もはや無人と化していた。
「こりゃ、思ったよりひどいな‥‥」
 多くの住民が避難した隣町の警察官は、静まり返った町にパトカーを走らせながら、絶望の呟きを漏らした。
 攻撃対象である人間たちがいなくなれば、キメラも自然と町から離れるだろうと考えられていたのだが、現実はそうではなかった。
 住民が出て行った後も、キメラたちは変わらず町に居座り、野生動物を襲い、鋭い前歯で家屋を齧って侵入しては、台所に残された食糧を貪り食っているという。キメラに齧られて倒壊した住宅や木々が道路を塞ぎ、もはや人が住める場所ではなくなっていた。
「奴らをなんとかしないと‥‥次はうちの町がやられるな」
 彼は一言そう呟くと、アクセルを目一杯踏み込み、キメラの巣と化した町を後にした。

●参加者一覧

沖 良秋(ga3423
20歳・♂・SN
真紅櫻(ga4743
20歳・♀・BM
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
ノエル・イル・風花(ga6259
14歳・♀・SN
クーヴィル・ラウド(ga6293
22歳・♂・SN
ステイト(ga6484
21歳・♂・GP
要 雪路(ga6984
16歳・♀・DG
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG

●リプレイ本文

「あ〜、こんなに自然豊かで綺麗な場所なら仕事以外で来たかったよね・・・・」
 ワゴンの窓から景色を眺めつつ、真紅櫻(ga4743)が嘆息する。そのすぐ隣で、黙々とガイドブックを読み漁っているのは、ノエル・イル・風花(ga6259)である。
「せっかく本場に来たので・・・・良品があればよいのでありますが・・・・」
 彼女は、メープルシロップ特集のページに夢中になっていた。
 そして、要 雪路(ga6984)はというと、リスキメラのサイズを想像しながら、首を傾げていた。
「なんや、リスっちゅーより、カピバラやな。齧歯類やし。・・・・そういえば、カナダじゃ、リスは普通に食用みたいやね。鶏肉みたいで、美味しいらしいで?」
「・・・・まさか、カピバラ級のリスキメラまで食材として見てませんよね・・・・?」
「い、いや、そんなんちゃうよ〜?」
 フォル=アヴィン(ga6258)の鋭いツッコミに、要は、視線を宙に泳がせる。
 沖 良秋(ga3423)は、聞き込みの結果がまとめられたメモを片手に、町の地図を広げていた。
「それにしても、50〜80cmというと‥‥ぬいぐるみ位ですね。意外に的が大きい様で助かります」
 全員で手分けした甲斐もあり、キメラの情報はもとより、野営時の一般住宅の使用許可まで入手することが出来たのだ。
「‥‥町の者の話では、食堂や商店、町外れのワイナリーなどで、頻繁にキメラが目撃されているという事だったな」
 シートに背中を預け、サヴィーネ=シュルツ(ga7445)が言う。
「やっぱ、食べ物がありそうなとこ捜すのがいいみたいやね」
「しかし、数が明白でないのは厄介ですね」
 無線を調整していたステイト(ga6484)が、ふと顔を上げ、そう呟いた。すると、隣にいたクーヴィル・ラウド(ga6293)が、即座に応える。
「どれだけの数がいるか分からんが、掃討するしかあるまい」
「そうですね‥‥ところで」
 ステイトは、一旦そこで言葉を切り、振り返った。
「今日のご飯は何にしましょうか」
 一瞬の沈黙。
 そして、
「私、洋食がいい! 絶対メープルシロップ入り!」
「‥‥デザートが欲しいであります‥‥」
「いやいや、人数おる時は粉モンやって!」
 一同は、異様な盛り上がりを見せたのだった。

   ◆◇

●A班
 沖と真紅がワゴンを降りたのは、町の北端にある小さなワイナリーの前だった。
 キメラの捜索方法については複数の案が出されたが、まず一日目の作戦として、三班が三角形に町の外周を取り囲み、それぞれ円を描くように移動しながら町の中心部を目指し、その後は各班の判断で方法を変える、という案が採用された。
「どこから襲ってくるか、わからないんだよね‥‥」
 言うなり、真紅の瞳が金色に煌いた。銀の髪の隙間から猫の耳がのぞき、尻尾と獣爪が姿を現す。
「‥‥猫」
 早速覚醒した真紅を見て、猫好きの魂が揺さぶられてしまったのか、沖は、小さく呟きを漏らした。
「外にはいないみたいだね。中に入ろっか?」
 真紅が小銃「S−01」を片手に提案し、沖もまた、スコーピオンに持ち替えて頷く。
「雪が積もっていないのは有難いけど、キメラが隠れる場所も多いってことだね、AI君?」
 沖が自分のAIに話すように、一言にカナダといっても、この地方の三月に氷点下の寒さはなく、足元の芝生も家屋の軒下も、雪に覆われることなく露出している。除雪という重労働は免れたものの、この気候は、キメラにとっても有利だろう。
 ワイナリー内部を隅々まで探索し、ワイン販売所、ワインセラーまで歩き回ったが、いるのは小さなネズミ程度で、キメラの姿は見えない。
 ワイナリーでの探索を二人が諦めかけた、その時。
「見つけた!」
 真紅が叫び、瞬速縮地で加速すると、一瞬で沖の隣から姿を消す。
 そして、銃声と共に、キィッと甲高いキメラの悲鳴が響き渡った。
 同時に、沖の瞳が青い光を帯び、瞬時に黒い幾何学模様が浮かび、その眼を囲う。
 銃創から真っ赤な血を撒き散らし、やや小柄なリスキメラは、ワイン樽の隙間へと飛び込んで行く。
「確かに、素早いですね!」
「気をつけて! 走り回ってるよ!」
 猫耳を小刻みに動かしながら、真紅が沖を振り返る。その瞬間、彼の真横から、灰色の影が飛び出した。
 鋭い前歯が沖の左腕を裂き、着地したキメラは、もう一撃加えようというのか、素早く二人に向き直る。
 しかし、その姿は既に、沖の銃口に捉えられていた。
「では、胴体に一発撃ち込みましょうか」
 二発目の銃声と、キメラの断末魔の悲鳴が木霊した。 

●B班
「でってこい♪ でってこい♪」
「‥‥襲ってくるリスは‥‥悪いリス‥‥あれはアライグマ‥‥可愛いであります‥‥」
 大声で歌など歌いながら、斜面に開いた怪しい巣穴に煙を流し込み、うっかりお休み中のアライグマを燻し出してしまったりしている要。そして、双眼鏡片手に、そのアライグマに魅入っているノエル。
 この班のスタートは、町の南東であった。円を描いて町の中心まで捜索し、その後、町を南北に移動しての捜索に切り替える予定にしている。
「いったい何匹いるんでしょうね‥‥きりが無い」
 フォルが、空振りに終わった商店の扉を閉め、ぼやいた。
 そう、これではきりがない。
「思ったより数が少ない‥‥隠れ場所が多すぎますね」
 捜索開始から、早三時間。彼らは、なかなかキメラの姿を発見することができなかった。
 キメラの数は不明とされていたが、こうも少ないと、かえってやりづらいものである。既に三人は、小さな町の中心へと近付きつつあった。
「あ、見てや。これ、足跡ちゃうか?」
 ふと、要が声を上げた。
「‥‥向こうに‥‥続いているであります‥‥」
「行ってみましょう!」


「!‥‥敵であります‥‥」
 足跡を辿り、一軒の民家の庭で、三人は、とうとうキメラを発見した。
「大変や! アライグマが襲われとるで!」
 まさに今からお食事タイムといったところか、一頭のアライグマが、悲痛な声を上げて、でっぷりと肥った二頭のキメラに組み敷かれている。
「敵はかなり素早いみたいです。2人とも気を引締めて行きますよ!」
 フォルはそう叫ぶと、朱鳳の刀身をやや寝かせ、正眼に構えて覚醒する。新たな敵の出現にアライグマを手放し、威嚇するキメラに向けて、彼は最前列に飛び出した。
「きっちり盾になりましょう。援護は頼みます!」
 朱鳳の一薙ぎで絶命したキメラの体が地に落ちるより早く、フォルの真後ろに回ったもう一頭の牙が、彼の脇腹を一撃し、鮮血が飛ぶ。
「了解や!」
 要が覚醒し、練成強化を発動する。淡い光が現れ、フォルの持つ朱鳳、そしてノエルのスコーピオンへと吸い込まれていった。
「援護するっ!」
 ノエルが覚醒し、長く伸びた髪が舞う。彼女は、目にも止まらぬ速さでスカートの中の銃を引き抜くと、キメラの脳天を連続して狙い撃つ。
 二発の弾丸に射抜かれたキメラは、ギャッ、と短い悲鳴を上げると、その場に崩れ落ちた。
「あんまり大きいと、可愛らしさが台無しだ」
 ノエルは、鋭い眼でキメラの死体を見下ろしてそう言い捨てる。
 だが、そのキメラの死体を眺め、全く別の感想を持った者もいた。
「美味そうやな‥‥」
「‥‥要さん‥‥?」
 思わず要の口から漏れた一言に、割とドン引きのフォルとノエル。その視線に気付き、要は慌てて片手を振った。
「‥あ、いや、ちゃうちゃう! あ、暖かそうやね、毛皮とか?」
 言い直した瞬間、要の腹の虫が鳴った。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「ほな、ちゃっちゃと、いとこうか。日が暮れてきたら、事やで」
 そう言って誤魔化そうと試みたが、気まずい空気は、当分消えなかった。

●C班
「遮蔽物が多いな‥‥」
 周囲を警戒しながら、クーヴィルが独りごちた。
 南西を出発したこの班は、現在、町のほぼ中心付近を捜索している。無線によると、他の二班が発見、駆除したキメラの数は、計三頭。
「日も傾いてきたことですし、収穫はなくとも、今日はそろそろお開きですかね」
 ステイトは、最前列で二人を先導しながら、双眼鏡で樹上を捜す。
「‥‥なかなか上手くはいかないものだな」
 アサルトライフルを肩に担ぎ、サヴィーネが、独り言のように初任務の感想を述べた。
 その時、唐突に、ステイトが二人を止める。
「見つけました2時の方向、木の上です」
 声を潜めて指差したその先には、小さな食料品店があった。そのすぐ前に立っている三メートルほどの木の上で、何かが動いているのが見えた。
「普通のリスの大きさではないな。だが、他の動物の可能性もある」
 木の葉で隠れた目標を双眼鏡で確認し、サヴィーネが銃を構える。
「俺が囮になります。飛び出してきたのがキメラなら‥‥撃ち落としてください」
「いいだろう」
 クーヴィルがロングボウを取り出したのを見て、ステイトは、一気に駆け出した。
 すぐさま、ガサガサッ、と音を立てて木の葉が揺れ、その生物が動きを見せる。
「出て来ますよ!」
 ステイトの声とほぼ同時に、樹上から灰色の影が飛び出してくる。
 その姿を確認するなり、クーヴィルの肌は瞬時に浅黒く変化し、髪を逆立てて覚醒した。正確に、目標をロングボウで狙い、射抜く。
 キメラは、小さく甲高い声を上げ、矢の刺さった脚を庇うように着地すると、翻弄するような動きでステイトの周りを駆けずり回った。
「ちょこまかと――!」
 クーヴィルが、忌々しそうに眉間に皺を寄せ、一言呟いた。
 そして、アサルトライフルを構えたサヴィーネの目が燐光を放ち始め、覚醒と同時に尻尾のような射撃補助脚が出現した。彼女は、ただ無表情に、言う。
「さあ、狩りの時間(ヤクト・ツァイト)だ」
 トリガーを引いたサヴィーネの視線の先で、キメラは、血飛沫を上げて絶命した。

●襲撃の夜
 その夜は、周りに遮蔽物の少ない民家を借りて過ごすこととなった。
 電気やガスは止められているようだが、暖炉を使用すればそれなりに暖かく、そこで調理も可能である。それほど不自由は感じない。
 念のため、家の周囲には鳴り子と罠も仕掛けておいた。
「今日のメニューは、メープルシロップのローストチキンと、アスパラの味噌マヨシロップ焼きです」
「‥‥料理は苦手でありますが‥‥メープルシロップは仕入れてきたのであります‥‥」
 調理担当は、ステイトとクーヴィルが引き受けた。ノエルが持参したメープルシロップと、ステイトの私物である和風調味料とのコラボレーションである。
「あーあ、いい匂いだね〜」
「うち、もう夕方からペコペコやねん」
 キッチンからの香ばしい匂いに、真紅と要は、待ちきれない様子であった。
 そこへ、外で見張りをしていたサヴィーネが戻ってくる。
「交代だ。頼む」
「次はボクですね」
 沖が立ち上がり、外へと向かった。しかし、
「‥‥鳴り子の音じゃありませんか!?」
 無人の町に響いた乾いた音に、フォルは顔を上げた。
 

「まさか、これって、料理の匂いにつられて来てる!?」
 仲間たちが次々と覚醒していく中、真紅は、猫尻尾をゆっくりと振りながら、動き回る敵を捜す。
「そうみたいですね。暖炉の明かりも、目印になってしまったかもしれません」
 フォルの言う通り、電気のない町に灯った暖炉の明かりは、弱いといえどもよく目立つ。料理の匂いがする家も、この町では、この一軒しかない。
「暗すぎる。敵は何匹だ?」
 ノエルが呟いた瞬間、攻撃は来た。
「‥‥うっ‥‥」
「きゃあっ!?」
 闇の中から飛来した二つの影が、ステイトと真紅を襲う。二人は傷を負いながらも反撃したが、暗闇に溶け込んでいて、全く攻撃が当たらない。
「敵は二匹か‥‥」
 サヴィーネがアサルトライフルを構えたのを見て、要が叫んだ。
「これじゃ埒があかん! 鋭覚狙撃で狙い撃ちや!」
「了解だ」
「わかりました」
 要の指示に応えて、サヴィーネと沖がそれぞれ武器を構え、鋭覚狙撃を発動する。暗闇の中、強化された視覚がターゲットの姿を捉えた。
 暗闇の中、発射された二発の弾丸が、樹上と塀の上のキメラを確実に撃ち落とす。
 そして、地面に落ち、動きを止めた黒い二つの塊を、ノエルの銃弾とクーヴィルの矢が即座に撃ち抜いた。しかし、一頭は再び起き上がり、闇に消える。
「そっち行ったよ!」
 真紅の声が、ステイトの耳に届く。
 ステイトは、暗闇に目を凝らし、飛び出してきたキメラを一薙ぎに斬り捨てた。

●お子様はゴメンナサイ
「お疲れ様〜! お茶にしようっか♪」
 真紅は、満面の笑顔で、メープルシロップケーキをテーブルに置いた。隣には、持参したポットセットで紅茶を淹れているクーヴィルの姿。
「‥‥美味しそうであります‥‥」
「残念やわ〜。田舎すぎて土産物屋がないやなんてね」
「案外、簡単な仕事だったな」
 それぞれに別々の事に対する感想を口にしながら、ノエル、要、サヴィーネは席に着いた。
 あの襲撃の夜から二日、一同はキメラを捜して町中を歩き回った。しかし、あの夜襲で倒した二頭が最後であったのか、その後、キメラの姿を見かけることはなかったのだ。
 その旨を報告し、様子見でもう一日町に滞在した後、任務完了は認められた。
「でも、名産のワインは頂けましたよ。どうぞ」
 沖が取り出したのは、四本のワインボトルであった。
「俺も頂いていいですか?」
「四本‥‥ですか?」
 ステイトと共にワインを受け取りながら、フォルが不思議そうに尋ねる。沖は、クーヴィルにもボトルを差し出し、言い出しにくそうに切り出した。
「この州は、19歳未満の飲酒に厳しいんですよね。持ってたら、怒られますよ」
『えええーーー!?』
 19歳未満が、一斉に不平の声を上げる。
「私も欲しいのに〜」
「‥‥14歳では‥‥駄目でありますか‥‥」
「も〜! こーなったら、メープルシロップ瓶ごと飲んだる!」
「大きな町に行ったら、スモークサーモンや松茸も買って行きたいな。ねぇ、AI君?」
 大騒ぎでどんちゃん騒ぎを始める一同。さらに、その横で、自分のAIに話し掛ける沖。
 そんな中、クーヴィルは、ふと窓の外に目を遣り、紅茶を口に運びながら呟いた。
「これで平和は戻ったが‥‥元の姿に戻るには時間と金が掛かるだろうな」
 彼の視線の先には、青く聳える山々と、緑生い茂る深い森。そして、その向こうには、彼らが救った小さな町がある。
 春に息吹く新芽のように、少しずつ、長い時間をかけて、小さな町は復興を遂げていくことだろう。
「よっしゃ、シロップ一気飲み、いくで〜♪」

 クーヴィルの感慨もよそに、春のカナダに、一気の手拍子が木霊した‥‥。