●リプレイ本文
コミレザ前夜、はるばるL・Hからやってきた傭兵たちは、日本橋近辺のホテルの一室に集合していた。
「これは聖戦よ! 自分をアピーるアピ−ルしまくって新規ファン格闘、大阪を我が領土に染め上げるのっ!! 」
ダンッ、とテーブルの上に飛び乗り、天井に向けてガッツポーズと取っているのは、阿野次 のもじ(
ga5480)。
「そのとーーりっ! 女装にきょぬーにロリにショタ、お色気担当もどっさりよ! もはやこれは勝ち戦!!」
お気に入りのショタっ子、白虎(
ga9191)を始終捕まえて、のもじと同様、拳を振り上げるアウローラ。
「俺の名前は蓮沼千影。営業の仕事と聞いて黙ってられず手伝いにきたぜ‥‥!」
盛り上がる二人を尻目に、部屋の隅では、元営業マン・蓮沼千影(
ga4090)が、礼儀正しくジャンと名刺を交換していた。
「ごめんねぇ、アウローラ、今、普通に会話できない状態だから‥‥。明日はよろしくね」
「ああ、必ずや好成績を残してみせるぜ」
ジャンとアウローラ、二人分の名刺を受け取り、蓮沼は、いそいそと付けっ放しのTV前に戻って行った。もちろん、夜を徹して『萌えっ子魔女★ぷりてぃマキちゃん♪』DVDを観るためである。
「ジャンさんー、このクーラーBOX借りてヨイ? 僕、みんなの分もジュース買ってくネ♪」
明日、最も暑いであろう衣装を選んだラウル・カミーユ(
ga7242)が、気の利いた台詞と共に立ち上がり、部屋を出てコンビニへ向かう。
「こういう仕事も楽しいですわね。ボンテージと言うの、一度着てみたかったんですの♪」
TV画面をチラチラと見ながら、明日の衣装を広げて楽しげなのは、鷹司 小雛(
ga1008)。もちろん、衣装に合わせて眼帯も黒無地を調達済みだ。
「コスプレかー。色んな服着れるといいんだけどな☆ 楽しみだ〜♪」
「これは、また、たくさん作りましたね? とりあえず、日没までに売り切れば、OKですか?」
既に自前のセーラー服で女装中の神崎・子虎(
ga0513)と、チャイナドレスがセクシーな神森 静(
ga5165)の二人は、どっちゃりと持ち込まれた商品の山を整理中である。
そんな中、唯一戸惑いを隠せずにいるのは、ジュリエット・リーゲン(
ga8384)だった。
「これが『コスプレ』‥‥アニメや漫画、ゲームのキャラになりきる、という事なのですね? シウヴァ様? この、萌えっ子魔女? ぷりてぃマキちゃん‥‥とはどの様な作品なのかお教え頂いてもよろしいでしょうか」
「ふっ、甘いわジュリエット!! そんなもん、語り出したら夜が明けるに決まってるじゃない!!」
現在コミュニケーション能力がガタ落ちのアウローラが、意味もなく偉そうに、キッパリ言い放つ。怯むジュリエットに、見兼ねたジャンが、『マキちゃん公式ワールドガイド』なる本を、そっと手渡した。
「女子中学生の変身モノよ。どっからか湧いた悪者を、必殺技で倒したり。あと、仮面の男にピンチを救われたりって、お約束」
全話鑑賞で完璧を目指したかったジュリエットだが、DVDが余裕で10巻を超えているため、悔しいが妥協する。
「いけるわ。ディモールといける。この面子なら地獄の果てまでいって。『萌えっ子魔女★ぷりてぃマキちゃん♪』実写版取れそうな勢いだわ。みんな燃えっていくぞーおー!」
――のもじは、まだテーブルから下りていなかった。
◆◇
「ニュースでも見た事がありますが『O・TA・KU』、これに触れなければ日本文化を学んだとは言えないわね」
アスタリスク大阪全館借り切ってのヲタクの祭典・コミレザは、朝から異様な盛り上がりを見せていた。
押し合いへし合い、目当ての同人グッズを買い漁るヲタクの熱気にあてられ、ジュリエットは、思わず流れた冷や汗を拭う。
「ま、まあ、ともかく売り切ってみせますわ! 現役デザイナーによるコスプレ衣装となっております、是非お近くでご覧下さい〜」
ULTオペレーター風に扮した彼女は、ちょっと羨ましそうに他のメンバーの衣装を見ながら、イミテーションのヘッドセット装着で能力者っぽい客をメインに呼び込みを始めた。
「あ、リネーアさんの服だぁ!」
「制服萌えぇ〜!!」
何やら幅広い層に人気を博している模様である。
「いらっしゃいませ。写真ですか? こんな感じで宜しいでしょうか?」
「メイド属性ハケーン! めいどさんはあはあ‥‥」
その隣では、ロングの正統派メイド服に身を包んだ神森が、ダルダルTシャツのお客様にも怯むことなく、小道具のティーセットと椅子でポーズを決めていた。ついでに、コスプレ衣装の販売も忘れない。
「お買い上げありがとうございます。お暑いでしょう? どうぞお掛けになって下さい」
しかも購入の暁には、椅子で休憩しつつ、メイドさん神森が団扇で煽いでくれるという特典つきだ。会場の熱気に耐えられないヲタク垂涎のサービスである。
「ムハァー! も、もう一枚買っちゃおうかな‥‥はあはあ」
「ご主人様、沢山種類がありますから、ごゆっくりお選びくださいね」
パタパタと団扇を動かしながら、にっこりと神森が微笑む。
「ぷりてぃブルー参上♪ やん♪お触りは禁止だぞ☆」
「ぷりてぃホワイト♪ 虎耳バージョンだよ。ポーズは指定OK!」
そして、ぷりてぃブルーこと神崎、ぷりてぃホワイトこと白虎のショタっ子女装チームまわりはというと、すっかり人垣ができていた。 ちなみに、人垣の80%はヲタク男子である。
だが、ヲタク男子だからといって女子用コスプレに用事がないかというと、そうでもない。世の中にはコスプレモデルという人たちがいて、撮影会に持参する衣装を欲する男子もたくさん存在するわけである。
「はいはーい♪この衣装可愛いでしょ☆ 気に入ったら買って言ってくれないかなー? 買ってくれたらサービスしちゃうぞ☆」
と、神崎がスカートの裾を翻してポーズをとれば、隣の白虎がすかさず背中合わせに同じポーズでコラボを決める。
「わあ、お兄ちゃん、買ってくれるの? 嬉しいな♪ 特別に、魔女っ子集合撮影会やってあげるね☆」
何故か巨大ハリセンとこねこのぬいぐるみを装備し、可愛らしさとバイオレンス感を強化させた白虎が、ブース周りでポーズを決めていたぷりてぃピンク・のもじを呼んだ。
「よーしOK! アスタリスク大阪 de ぷりてぃ☆ちぇーんじ♪」
うおおおおおーーーっ!!
ノリノリのもじの変身呪文とともに、三人揃ってキメポーズ。
バシャバシャと眩しいフラッシュが焚かれまくり、大人気の魔女っ子チーム。売れ行きも好調のようである。
「いい! いいわ! その調子よ魔女っ子チームっ!! さあ、お色気担当も負けてられないわよ!」
ナースコスプレのアウローラが、鼻息荒く、手近にいた『悪の女司令官』鷹司の背中を思いっきりどついた。
「ふっ、当然よアウローラ。まかせておきなさい」
コミレザ規定ギリッギリの際どい黒ボンテージに身を包み、すっかりなり切って口調まで変わっている鷹司。彼女は、長机に両手をつき、豊かなバストを強調するという、アウローラには難しい技を用いて客寄せを始めた。
「ねぇ‥‥そこのあなた。見てばっかりじゃつまらないでしょ‥‥買っていかないのかしらぁ」
「えっ、ぼ、ボクですか? ボクはその‥‥あの‥‥」
流し目でロックオンされたヲタクは、もはや心臓が口から飛び出す寸前で、白い胸の谷間に視線をロックオン状態である。
購入を渋るヲタク客に鷹司は、おもむろに小道具の革鞭を取り出し、打って変わって低い声で詰め寄った。
「あたしの言う事が聞けないの? いい度胸だわ‥‥どうなっても良いのかしら?」
「いっ、いえ! ぜ、ぜひ買わせてくださいっ!!」
肌も露わな女司令官に迫られ、ヲタク客は鼻血を堪えつつ、そこらへんにあったコスプレ衣装を引っ掴む。そして、色んな感情に震える手で、カメラを構えた。
「あら‥‥いい子ね。仕方ないわ。撮らせてあげる」
オタク客からお代を受け取ると、鷹司は、椅子に座って脚を組み、妖艶な微笑みを浮かべて写真撮影に臨む。
「そこの娘、我が組織へどうだ? ――今なら高枝切り鋏‥‥はついていないが、私の僕(しもべ)の地位を与えよう」
ちょうど良く『悪の男司令官×モーニング仮面』なる同人誌を抱えて通りかかった女子高生二人を呼び止め、勧誘という名のナンパでブースに誘っているのは、黒レザーの上下で決めたラウルである。
「えっ、ウソ、どうしよー?」
「あたし買っちゃおうかな‥‥あの、だから写真――!」
一気に色めき立ち、カメラ片手にあっさり下僕と化す女子高生+その他女子大勢。
だが――
「そこまでだっ!」
マントと翻し、颯爽と現れたのは、純白のモーニングに仮面で目を隠した謎の男。
モーニング仮面こと、蓮沼である。
「きゃーーーーーーッッ!!」
熱狂して写真を撮りまくる女子ヲタク集団を前に、蓮沼は、手にした薔薇をラウルの足元の床へ投げ放った。
「純な乙女を悪の組織に引き込もうとは――このモーニング仮面、見逃すわけにはいかない」
「――ふん、邪魔が入ったか。だがもう遅い‥‥」
ノリで悪そうな表情をするラウル。せっかくなので覚醒もして、髪も目も暗色でダークに変身してみる。
念のため言っておくが、別に、事前打ち合わせがあったわけではない。
「きゃあーーーッ! もっと寄ってーー!!」
「あたし買っちゃう! だから目線こっちーーッ!!」
「○×△★□ーーッ!!」
悪の司令官とモーニング仮面の共演に、興奮のあまり放送禁止用語まで飛び出して同人誌的展開を期待しまくる女子たち。もちろん、商品購入量もハンパじゃない。
「写真か‥‥いいだろう。その代り、我が組織の商品を買うことだ」
「きっとファンならわかる、この細部にまでこだわった衣装! オーダーメイドで作ったら物凄〜〜く高価になりますよー!」
向いのブースが見えないぐらいの人垣の中、ラウルと蓮沼は、一時休戦でひたすらフラッシュを浴びていたのだった。
◆◇
「さーあ、あと少しよっ! 売れ行き好調!!」
ここらでラストスパートをかけたいアウローラは、ナースのくせに癒されない必死の形相で皆にハッパを掛けて回る。
だが、彼らの必死の営業にも関わらず、どうしても数が減らない衣装がただ一つ。
そう、下っ端怪人衣装である。
「‥‥ふぅ」
そこへ、どこかのバンドボーカルっぽいキメポーズやら、壁にもたれて斜めのアングルやらで写真を撮られ続けていたラウルが、翳りというか憂いのようなものを含めた表情で汗を拭きつつ、戻ってきた。
「ラウルン‥‥ここは、俺たちの出番だぜ」
「やっぱり? そろそろやっちゃおか?」
そう言い合って、ラウルと蓮沼は、こそこそと着替えスペースに消えていく。
一方その頃、少し離れたコスプレ広場では、神崎と白虎で構成される遊撃部隊が活発に活動中であった。
「お兄ちゃん、お願〜い買って? ね?」
現在ミニスカメイドな白虎が、反則的に潤んだ瞳でヲタク兄さんに縋りつく。
「で、でもなぁ‥‥」
「メイドさんは好みじゃない? じゃ、チャイナもくの一もあるよ! 買ってくれたら、着替えちゃう♪」
ハイニーソ対応ミニスカ衣装を豊富に揃えてもらった白虎は、三段階変身で多様なリクエストに対応していた。
隣の神崎はというと、肉球グローブと尻尾で猫耳ナース攻撃。
「猫耳ナースがあなたのハートを癒しちゃうにゃん☆ ふふふ、腕組むくらいならOKだにゃん♪」
「ブフォッ! 猫耳萌えええぇええ!!!」
アウローラナースの100倍の攻撃力を誇る神崎ナースは、汗ばんだヲタクの腕に飛びつくことも厭わない。鼻血を吹いて絶叫する客の前でポーズを撮り、もちろん営業も忘れない。
「可愛い? ありがと〜♪ 気に入ってくれたら‥‥ブースの方にも寄って欲しいな☆」
「ようこそ、いらっしゃいました。お嬢様方。ごゆっくりどうぞ」
「きゃーっ!! あ、あの、買います! これ買いますっ」
後半戦の神森は、黒いスーツに白手袋、すっきりと髪をまとめた執事スタイルで、女の子の前に跪き、手の甲にキスするという刺激的な撮影サービスを試みていた。
これで、「お買い上げありがとうございました」などと耳元で囁かれるのだから、もはや女の子は失神寸前である。
その時。
「イーッ!」
「イーッ!」
突如として、全身グレータイツに仮面の怪人が二体、平和なブースに乱入してくる。
「イーッ!」
ざわめくブース前の空間に並び、カサカサと怪しい鏡面ダンス(?)を始めた怪人に、真っ先に反応したのは、ぷりてぃホワイトになり切ったジュリエットであった。
「はっ! このままではコミレザが乗っ取られてしまいますわ! ピンク!」
ジュリエットは、咄嗟に怪人二人の間に入り、小道具のステッキを構える。
その視線の先には、机の上に仁王立ちのぷりてぃピンク。
「解説しよう! MAKIは愛のエミタをクリスタルに注ぎ込むことで、萌えっ子魔女★ぷりてぃマキちゃんに変身するのだ!」
いきなり謎の解説を添え、のもじは、いきなりコスプレ衣装を脱ぎ捨て、覚醒した。
紅蓮のオーラがスク水のもじを包み、振り被るは真紅のビート板サーベル。
「超・クリスタル絵可憐(中略)ザルトアチャーック!!!」
「「イーーッ!!」」
◆◇
「と、言うわけでぇ‥‥完・売!」
大騒ぎだったコミレザも無事終了、アウローラは、満足気に神森の淹れたお茶に手を伸ばした。
「いやー! 凄い人だったなー!」
「皆さん、お疲れ様でした。しかし、この人の数と熱気は、凄いものありますね?」
久々の本気営業で楽しげな蓮沼に、皆にお茶を淹れて回りつつ、ちょっとお疲れ気味の神森。
「こっそり持ってきちゃった♪ 今度こういうのどうですか〜っ☆」
白虎はというと、割と元気に持参のコスプレを披露し、アウローラの創作意欲を刺激していた。
「あー、面白かった♪ こんなイベントならいつでも呼んでね☆ むしろこのコスプレを使って僕たちで何かを作る?」
「あら、素敵ですわ。たとえばどんな?」
神崎と鷹司の会話に反応したのもじが、傭兵たちへのお礼を配って回っていたジャンに迫る。
「実写版撮るとか面白くない? んだめ?」
なぜなら、彼は広報企画部所属だからである。
「楽しそー! 僕さんせーい」
「わ、わたくしも楽しいと思いますわ!」
「そうねぇ。企画の一部として‥‥考えとくわ」
ラウルとジュリエットにも押され、ジャンは、困りながらも満更でもなさそうな表情で笑ってみせた。
「と・も・か・く! みんなありがとう! 今夜は宴会よーーッッ!!」
ばごん、とテーブルを殴りつけ、アウローラが立ち上がる。
その後、傭兵たちが酔っぱらったアウローラから解放されたのは、翌朝、日が高くなってからのことであった‥‥。