タイトル:青い空と紅蓮の業火マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/13 00:26

●オープニング本文


 さざめく波の音に、浜辺で遊ぶ子どもたちの声が混じる。

 熱く燃える太陽が地面を焦がし、白い波間に海鳥が浮かぶ。


「ねえ、あれなーに?」
 黒く波打つ髪を掻き上げ、一人の少女が波打ち際で空を見上げ、立ち止まった。
 共に遊ぶ少年たちは、ふざけ合い、はしゃぎながら、砂の上で走り回っている。
「何だろう‥‥?」
 問い掛けには一片の興味も示さず、変声前の甲高い声で叫びながら夢中で遊ぶ少年たちを顧みて、少女は、ませた表情で一つ、溜息をついた。
「あなたたちって、本当に子どもね」
 腰に手を当て、少女が言うと、少年たちはじゃれ合うのを止め、キョトン、とした表情で動きを止める。
 
 そして――大声で笑った。

「何言ってんだ。お前だって同い年のくせに!」
「そーだそーだ! 見ろよ、まな板みたいな胸して偉そうに!」

 大笑いを返されて、少女の顔は、見る見るうちに真っ赤に染まる。
「な、何よ!! あんたたちがガキだからガキって言っただけよ!」
 少女が怒鳴れば怒鳴るほど、少年たちは面白がって、舌を出したり笑い合ったりしながら、彼女をからかった。
 少女は、怒りに震える拳を握り締め、羞恥に頬を紅潮させて、上目遣いに彼らを睨みつける。
「おい、あれ何だ?」
 ふと、一人の少年が天を仰ぎ、声を上げた。
「何だ? 何か飛んでるぞ?」
 すると、残りの少年たちも『それ』に気付き、ざわめき始める。
「ほら、何かいるでしょ?」
 やっと気付いたか、と、少女はようやく肩の力を抜き、不安げな表情で空を見上げる少年たちを一瞥すると、ツン、とした声音で言い放って、体の向きを変えた。

 穏やかに波打つ、青い海。
 どこまでも晴れ渡った、水色の空。

 少女は、その景色の中に、異質なものを見た。
 さっきまでは、黒く、小さく、鳥のように見えた、『それ』。
 少女の目の前が翳り、一瞬にして紅く染まる。

「‥‥恐‥‥竜?」

 紅蓮の業火が、浜辺を灼いた。

 白い砂、青い海、砂で造った小さなお城。
 全てのものを飲み込んで、緋色の炎が渦巻き、空を焦がす。

 燃え上がる体を地に横たえ、少女が最後に見たものは、大空を舞う赤い竜。


 ――巨大な体躯が空を駆け、狂喜の咆哮が大地を震わせた。


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●依頼内容
・南米、太平洋沿岸の狭い地域で、ワイヴァーン(=翼竜)型キメラが、街や漁船を襲っています。
 KVを使用し、殲滅してください。
・最初に被害に遭った港町から沖に約100?の無人島をねぐらとしているようです。
 本土へ近付かせないように戦ってください。

●参加者一覧

シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
望月 千夜(gb2201
19歳・♀・EL

●リプレイ本文

「大丈夫‥‥シュミレーション通りにやれば‥‥」
 まだ握り慣れないアンジェリカの操縦桿と、高速で流れていく風景を見つめながら、赤宮 リア(ga9958)が小さく呟き、自分を奮い立たせる。
「ナイトフォーゲルで竜退治、ね。お姫様に憧れたことはあるけど‥‥」
 V字の編隊を組んで航行する7機のKV、その右翼最後列に位置するラウラ・ブレイク(gb1395)は、軍服に身を包んだ自分の姿をチラリと見て、嘆息した。
 空を見上げれば灼熱の太陽、地を見下ろせば真っ黒に焼き尽くされた村々。
「これは‥‥えらい好き放題やってくれたな」
 ラウラ機のすぐ前を飛ぶディアブロのコックピットでは、烏谷・小町(gb0765)が村の惨状を見下ろしつつ、顔をしかめていた。
「犠牲者も出ている以上は全力で掃討しましょう。幸い戦うには都合のいい状況です」
 アンデスを背に出撃した7機は、シア・エルミナール(ga2453)機を先頭に、間もなく太平洋へと到達する。
 愛機のバイパー改『ルーク』の調子を見るように機体を反転させ、少しの間背面飛行を試していた左翼のジェイ・ガーランド(ga9899)は、遠い地上に焼け落ちた小学校らしきものを見るなり、息を吐いて再び機体を反転させた。
「怒りの炎は、トリガーを引く指に。奴らを討つ一撃に乗せましょう」
「全員無事に帰還してこそ作戦成功‥‥って事にしますか」
 静かに湧き上がる激情を表には出さず、厳しい目で前方を見据えながら、S−01『Sid』を駆る紫藤 文(ga9763)が、冷静な口調でそう呼び掛ける。
 その時、少し高度を下げて数秒間編隊を離れ、焼けた砂浜の様子を見に行っていたラウラ機が、再び上昇して編隊に加わった。
「敵の炎は、相当な高温みたいね。KVも溶かすかもしれないわ」
「機体もそうですが、熱によるパイロットへの影響が厄介です。当たるわけにはいきません」
 シア機は、後続の6機にハンドサインで合図し、前方の洋上に視認した無人島群へと真っ直ぐに飛びながら、徐々に高度と速度を落としていく。
 それを受けたシャロン・エイヴァリー(ga1843)は、横一直線に散開して行く他の皆と同様、愛機の速度を調整すると、
「OK、絶好調。行きましょう!」
 明るい声で気合いを入れ、くるりと横転してみせた。


    ◆◇
 大小いくつもの無人島が点在する海の上を、7機のKVが低速で飛行する。
 キラキラと輝く海面に黒い影を落として飛ぶ一行は、極力航行音を押さえ、万が一の不意打ちに備えて覚醒状態を保ったまま、索敵を続けた。
「レーダーを過信せず、視認を怠らないようにね」
 自分自身を含め、今回はKVによる戦闘にも、バグア側のジャミングにも不慣れな者が多い。ラウラは、そう皆に警戒を促すと、神経を研ぎ澄ませて周囲の様子を窺った。
「味方にワイバーンがいないのは幸いだ。紛らわしくて」
「‥‥こちらもワイバーンで対抗した方が、気が利いていたかしら?」
 同じく島の上空を飛びながら苦笑して言ったジェイに、シアがクスリと小さく笑って言葉を返す。
「なあ、あの岩陰とか怪しないー?」
「‥‥確かに。わたくし、見て来ます」
 烏谷が目を付けたのは、やや大きめの島の中央に位置する、切り立った岩山であった。周囲に木が少なく、体の大きなワイヴァーンが身を隠すには適した地形だろう。
 赤宮機が機首を上げて上昇し、上空から回り込んで岩陰を偵察する。

 そして――赤宮は、視界に赤いものを捉えた。

「全機に連絡! 目標を確認しました。一頭です!」
 KVの航行音に気付き、岩陰から飛び立ってきたワイヴァーンは、一頭のみ。そのまま真っ直ぐに、赤宮機へと迫る。
「出ましたね‥‥ふふっ赤ければ良いという物では無いのですよ!」
「目標確認。ブルースペード、攻撃を開始します!」
 赤宮は、向かってくる敵を正面に見ながら、急旋回してその背後へと廻り込んだ。同時に、シア機、シャロン機、烏谷機が速度を上げ、その周囲に展開する。
「青い空に紅い色、あの大きさならかえって狙いやすいわ」
 咆哮を上げ、青一色の世界を滑るように滑空するキメラに向け、シャロン機が先制攻撃を開始した。連続して全弾撃ち出されたG‐01が、キメラの側面に着弾する。
「こちらジェイ、A班に合流する」
「B班、この空域を離脱する」
 索敵を続けるB班から、ルークが戦闘空域に突入する。Sidとラウラ機は、そのまま戦闘を回避して急激に上昇、離脱していった。
「これでも喰ろうときー!」
 一瞬煙に包まれたキメラの後方200m地点まで接近した烏谷機が、スナイパーライフルの一撃を叩き込む。キメラの左腿付近から血柱が噴き上がり、落ちた薬莢が海面に盛大な水飛沫を立てる。
 そして、烏谷機に向き直ったキメラの背後から、ブースト空戦スタビライザーを使用した赤宮機が一気に加速して接近し、至近距離から高分子レーザーを発射した。SESエンハンサーにより威力を増した二条のレーザー光が敵の背面を灼き、鱗を吹き飛ばす。
「焼き殺された人たちの痛み‥‥今こそ思い知りなさい!!」
 翼を大きく羽ばたかせ、逃げるキメラを追い越す瞬間、赤宮機に搭載されたソードウイングが、相手の脇腹を大きく斬り裂いた。
 悲鳴を上げながら、キメラは、離脱していく赤宮機、そして前方の烏谷機を怒りに燃えた目で睨みつけ、大きくその口を開く。
「‥‥くっ!」
 大空を焦がして大きく膨らむ炎に、赤宮は操縦桿を一気に引き、垂直飛行で回避した。
「こんなもん! 大したことないで!!」
 烏谷機は、一瞬視界が炎に包まれたものの、熱に軋む左翼を下げて反転し、離脱する。
「最大火力で速攻勝負、それが勝利への最短距離だ!」
 なおも攻撃を続けようとするキメラに、ルークのヘビーガトリング砲から射出された50発の弾丸が襲い掛かった。
 胸元と顎の骨肉が飛び散り、キメラが天を仰いで咆哮を上げる。そこへ、後方から間合いを詰めたシア機が、すかさず二発のホーミングミサイルを叩き込み、さらに、別方向から飛来したシャロン機が、高分子レーザー砲で敵を狙い撃った。
「リア! 行くでー!」
「小町さん! 仕掛けますよ!」
 離脱するシア機、シャロン機と擦れ違うようにして、二機の赤い機体が同時にキメラへと迫る。
「天使と悪魔のコンビネーションです! 逃げられませんよ!」
 それは、一瞬の出来事であった。
 空にXの文字を描き、赤宮機と烏谷機が交差して、キメラを挟み込むように攻撃する。
 SESエンハンサー、そして、アグレッシブ・フォースによってそれぞれ増幅された一撃がキメラの巨体を大きく抉り、血の花を咲かせた。
「ふん‥‥名付けて、クリムゾン・クリスクロスっつートコやねっ!」
「これは見事な連携! 二人に負けてはいられない」
 翼の動きを止め、急激に落下していくキメラ。
 眼前を落ちる赤い竜に照準を合わせ、ジェイは、全射撃武器の砲口を開けた。
「All weapons free!  Full open attack Fire!!」
 ヘビーガトリング砲、R−P1マシンガンが吐き出す無数の弾丸が、血煙を舞い上げてキメラの全身に突き刺さる。
 そして、爆炎とともにAAMが着弾、頭蓋骨ごと、その頭部を完全に吹き飛ばしたのだった。


    ◆◇
(「‥‥しかし続けてドラゴン退治依頼が来るとは、空戦小隊の意地を見せてやりますか」)
 やや距離を空け、ラウラ機と並行して飛びながら、紫籐は、周辺の索敵を続行していた。
「島が見えた、旋回しつつ低空に入るわ」
 少し大きめの無人島を視界に捉え、ラウラ機が速度を落として降下し始めると、Sidもそれに続く。
 
 ――だが、

「Engage! ごめん、気付かれた」
 切り立った崖の向こうから姿を現した赤い竜を視認するなり、ラウラ機は機首を限界まで上げ、後続の紫籐に警鐘を鳴らした。
 KVの飛行速度に追いつけるわけがないと悟ってのことか、キメラは、二機を追うよりも先に攻撃を仕掛けてくる。
「こちらB班、目標を確認した。戦闘に入る」
 避けきれない炎を迷わず突っ切って上昇し、Sidはそのまま、移動速度の遅いキメラを十分に引き離した。
「一気に終わらせるわよ!」
 上空から垂直に落ちるように、キメラの背中目掛けてラウラ機が突進し、射程ギリギリでアグレッシヴ・ファングを発動、威力を増したAAMを二発発射する。
「これ以上好き勝手させるか」
 爆煙が風に流されるより早く、Sidの螺旋弾頭ミサイルがキメラを襲い、スナイパーライフルが火を噴いた。
 弾け飛んだ鱗がKVの装甲にぶつかる硬い音が響き、キメラが絶叫を上げて青空を狂ったように飛び回る。そこへ追い打ちを掛けるかのように飛来したラウラ機が、再びAAMの砲口をキメラに向けた。
 赤い鱗と血肉を飛ばし、AAMが炸裂する。
 背中から夥しい量の血を流し、キメラは、コックピットまで震わせるような咆哮を上げると、突然身を翻して沿岸部へと方向を変えた。
「逃げる気か‥‥」
「無駄な足掻きね」
 たまらず逃走を始めた標的に、紫籐とラウラは、大きく旋回して、左右に散開する。
 逃げるキメラの前方の空に、キラリと光るいくつもの機影を見ながら。

「A班、合流します!」
「通すわけにはいかない!」
 青い空の下、鋭い航行音を引き連れて現れた赤宮機とルークの二機が、洋上を逃げるキメラの進路を塞いだ。続いて現れた三機もまた、素早く周囲に展開、目標を完全に包囲する。
「貴方に焼かれた人たちの痛み‥‥思い知りなさいっ」
 シャロン機から発射された四発ものD−01をかわし切れず、キメラの尻尾が千切れて宙を舞った。うち一発を側頭に喰らい、キメラは絶叫する。
「ドローム社製の特別弾頭や。全部ありがたく貰うときー!」
 フラフラと飛ぶキメラの血塗れの体目掛け、烏谷は容赦なくミサイルポッドCを全弾撃ち出した。中空で爆発したミサイルが無数のベアリング弾を生み、その巨体に襲い掛る。
「紫籐さん!」
 全身に被弾し、動きを止めたキメラにホーミングミサイルの一撃を発射し、シア機は、ハンドサインを用いてSidに合図した。
 シア機は、機首を下げて一気に下降、Sidはほぼ垂直に機体を立て、高速で上昇する。
「お眠りなさい、海の底に‥‥!」
 二機は、爆煙の中動けずにいるキメラに向けて、上下から挟み込むようにブーストをかけた。
「アン・ドゥ・トロワ!」
「地に墜ちろワイヴァーン!」

 シアの合図と同時、海面に映る三つの影が一瞬、一つに交わる。
 高分子レーザーの光が閃き、ミサイルの爆音と、キメラの断末魔が重なった。

「罪には罰を。冥府で子供たちに詫びるのですね。喋る口が残っていればの話ですけど」
 天に届くかと思うほどの水飛沫を上げ、海面に叩きつけられるワイヴァーン。
 青い海を赤く染め、ゆっくりと沈んで行くその姿を見下ろしながら、シアは一言、静かにそう吐き捨てたのだった。


    ◆◇
 潮風そよぐ岬には、白い灯台が据えられていた。
 海鳥の舞う澄んだ空を見上げ、ラウラは、燃える太陽に目を細める。
「しかし、ワームよりも巨大なキメラとは‥‥。リア、小町。お互い空戦は初挑戦で御座いましたが、如何で御座いましたか?」
「う〜ん‥‥無我夢中だったので、あまりよく覚えておりません‥‥」
 ジェイに感想を聞かれ、はは、と力なく髪を撫でながら答える赤宮。
 それを聞いた烏谷は、質問に答えるのも忘れ、何やら『聞き捨てならないことを聞いた』顔で、赤宮に詰め寄った。
「覚えてへんて‥‥うちらのクリムゾン・クリスクロスを忘れたとでもゆーんかーっ!?」
「い、いえ、まさかそんなことは‥‥。覚えてます! 覚えておりますよっ!」
「ほーんーまーにー? ならえーけどー」

 海を渡る風が頬を撫で、焦げた臭いを運ぶ。
 ここからは、破壊された村が、良く見えた。

「早く、元通りになるといいわね」
 金の髪をたなびかせ、シャロンが言う。
「これで犠牲者達も安らかに眠りに着けるでしょうか‥‥」
「‥‥そうであることを、祈りましょう」
 赤宮の言葉に、シアは、黒く灼かれた砂浜を見つめ、呟くようにそう言った。

 白く残った砂浜には、小さなプラスチックの玩具が取り残されていた。
 焼け残った浜辺の木には、子ども用の服が掛けられたまま、主の帰りを待っていた。

「‥‥仇はとったからな」
 岬に飛び出した岩に腰掛けたまま、紫籐は、誰にともなくそう呟いて、黙祷を捧げた。