タイトル:純白のアイツマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/31 15:59

●オープニング本文


 夜の病院は、暗く、不気味な静寂に包まれている。
 特に、彼女のような思春期の子どもにとっては、恐怖の対象でしかない空間だ。
「うう‥‥怖い‥‥」
 薄暗い廊下を行きながら、彼女は、小さく肩を震わせた。
 彼女が入院したのは、近畿地方でも有名な大学病院。
 10階建ての建物の中には、コンビニや見舞客用レストラン、美容院にATMまで入っており、充実した施設と豊富な診療科目が人気の巨大病院である。
「なんで病室にトイレがついてないのよぉ‥‥」
 毎夜毎夜、怖がりの彼女を悩ませているのが、病室からトイレへ移動する際の、この静けさと薄暗さであった。
 皆が寝静まった後の病棟を歩いていると、TVや漫画で仕入れた心霊ネタがやたらと頭の中を駆け巡り、今にも血塗れナースやら何やらが追いかけてくるのでは、という恐怖に駆られるのだ。
 とはいえ、バス・トイレ付個室などに入院できるほど、彼女の家は裕福ではない。残念ながら、これは、子どもながらにも理解できる、変えようのない事実である。
「やっと着いた‥‥」
 小児病棟をノロノロと進み、彼女はようやく、女子トイレへと滑り込んだ。
 もちろん、個室に入ってからも、気は抜けない。なぜなら、病院の怪談において最も多いのが、個室で用を足している最中の心霊体験なのだから。
 彼女は、注意深く周囲を見回し、一番手前の個室に入った。
 狭い個室の中では、きちんと蓋が閉まった洋式の温水洗浄便座――つまり、紙要らずの洗浄シャワーと乾燥機能付きの便器が、ピカピカの白いボディに蛍光灯の光を反射させて、彼女を待っている。
「さっさと済ませて、早く戻ろう‥‥」
 個室のドアの上から、血塗れナースに覗かれたりなんかした日には、寿命が縮む。
 彼女は、大急ぎで便器の蓋に手を掛けた。
「‥‥ん?」
 思わず、彼女は声を上げる。

 手に触れたその感触が、いつもと違う。
 見た目は変わらないのに、その手触りは、いわゆる便器のそれではなかった。
 外側は少しざらつき、内側が滑らかなその感じは――貝に似ていた。

 不審に思った彼女が、蓋を開けようとした、その瞬間。
 バクン、と勢い良く便器の蓋が開き、得体の知れない液体が彼女の肩を直撃した。
「き、きゃあああぁぁぁーーーーッッ!!!」
 突然肩を襲った激痛に、彼女は、絶叫してその場にうずくまる。
 その液体は、シュウシュウと煙を上げながら、彼女の髪とパジャマを溶かし、あっという間に肩と腕の皮膚を灼いた。
「いや! いやぁッ!! 誰か‥‥誰か助けて‥‥!!」
 ボロボロと流れ落ちた涙が、焼け爛れた腕を伝う。
 彼女は、狭い個室で後退りしながら、必死の思いでナースコールを押し続けた。
「誰か‥‥――ッ!?」
 叫ぼうとした、その時。
 蓋の開いた便器の中から、人間の腕のようなものが飛び出し、彼女の頭を鷲掴みにした。
「う‥‥っ!?」
 それは、人間のものと言うには長すぎる長さの、五本の指を持つどす黒い腕であった。
 便器の中から伸びたそれは、鋭い鉤爪を食い込ませながら、力任せに彼女の頭を引き寄せる。
「いや!! いや!! やめて! やめてぇッ!!」
 頭から血を流し、死に物狂いで暴れる彼女をねじ伏せ、その腕は、彼女の頭を便器の中へと引きずり込んだ。
 強い酸性の匂いが鼻をつき、彼女は、便器の中に溜まっている液体が、ただの水ではない事を悟る。腕は、その奥の排水部から伸びていた。
 強酸の水面が眼前に迫り、彼女は、死を覚悟する。
「助けて‥‥」

 遠のく意識の中で彼女は、廊下を走るナースの足音を聞いた。


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●依頼内容・注意事項
・大学病院内に、(温水洗浄便座付き)洋式便器似のキメラが現れ、現在までに数名の負傷者が出ました。
 一匹残らず退治してください。数は不明です。
・依頼元は、大学病院と医科大学です。
・入院患者は近隣の病院へ移り、病院は完全封鎖され、無人です。
・非常に高価な医療器具がたくさんあります。出来る限り壊さないでください。
・病院内には、フロア案内図がたくさんあります。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN

●リプレイ本文

「お、お邪魔しま〜‥‥す」
 どこか薄暗さを感じさせる地下空間に、月森 花(ga0053)の声が響き渡る。
 霊安室は静寂に満ち、開け放ったドアの間から、ひやりと冷たい空気が滲み出してきた。
「何もない‥‥よね?」
 手を合わせる月森の横で、クラウディア・マリウス(ga6559)が室内を覗き込み、便器キメラと心霊的要素の有無を確認する。幸い、キメラもゾンビも血塗れナースも、ここにはいないようだ。
「地下にはいないようだな」
「よし、敵は上階トイレにあり、だ!」
 トイレを含め、地下を全て調べ終わった南雲 莞爾(ga4272)と蓮沼千影(ga4090)の二人は、女性二人を引き連れて階段を上る。
 通風風の音を怖がる月森の背中を軽く叩いて勇気づける蓮沼だが、そんな彼だって、微妙に膝に力が入っていない。膝カックンでもされようものなら、一撃でアウトだろう。
「そっちは頼む。何かあったら知らせてくれ」
「ああ。気をつけてな」
 1階に着き、男子トイレへと消えていく南雲とクラウディアを見送り、蓮沼と月森の二人も、女子トイレの引き戸を開けた。
「な、何も出ませんようにっ‥‥」
 ピンクのタイルに覆われた無機質な空間は、潔癖さと閉塞感の入り混じった独特の空気でもって、二人を迎える。決して居心地が良いとは言えない圧迫感は、月森の豊かな想像力を、あまり望ましくない方向へと誘っていく。
 ――そして、このピンクな空間に落ち着きを失った者が、もう一人。
「いくら人がいないとは言え‥‥女子だとこう、なんかこぅ、落ち着かねぇぜ‥‥」
 逆に落ち着く人より普通だが、水色ではないタイルに違和感と胸のざわめきを覚えつつ、蓮沼は、一番手前の個室のドアを、そっと開いた。
 デン、と構えたピカピカの便器に名刺を投げてみるが、特に変わった様子は見られない。ハズレのようである。
 蓮沼が次の個室のドアを開け、月森の投げたトイレットペーパーが、かの有名な木綿製の妖怪のようにヒラヒラした尾を伸ばしながら、便器にぶつかり――
 
 赤い光に弾かれて、ころりと落ちた。

    ◆◇
「被害があったのは、ほとんど2階と7階と5階だったみたいだよ」
 モップの柄で便器を突いて様子を見ている南雲の背後で、クラウディアは、事前調査の結果を口にしながら、トイレ用洗剤のキャップを開けた。
「移動するタイプでなければ、間違いなくそこにいるんだろうがな」
「うーん、どうなのかな?」
 南雲の背中に隠れつつ、トイレ用洗剤を飛ばしてみるクラウディア。
 便器自体は普通の便器だったらしく、特に何の反応も示さなかったが、ちょっとピカピカになったかもしれない。
「‥‥待て。何か聞こえないか?」
「え?」
 南雲に言われて、クラウディアは、耳を澄まして周囲の音を探った。
「これは‥‥剣の音かな?」
「隣からだ」

    ◆◇
「――!」
 ほとんど反射的に、蓮沼の髪の色が変わる。
 ギリッ、と硬い音とともに鋭い刃が便器を引っ掻き、間髪入れずに繰り出された突きが、わずかに開いた蓋の隙間を捉えた。
「硬っ! 花ちゃん、援護よろしくッ!」
 便座(貝)の口から剣を潜り込ませて蓋を開けようとする蓮沼と、必死で口を閉じようと頑張る便器。
 拮抗する両者の力比べを強制的に終わらせたのは、月森の放った一発の銃弾だった。
「気持ち悪いのよ‥‥っ」
 硬い便器部分に命中した小銃の一撃は、床に向けて勢い良く跳弾しながらも、キメラの殻にわずかなヒビを残す。
「紛らわしい姿しやがって!!」
 蓮沼は、一瞬怯んだキメラの隙を見逃さず、便座に沿って剣を滑らせ、蓋の付け根に刃を叩き付けた。
 さらに、さすがに痛かったのか、バコッと蓋を開けたキメラの口の中目掛けて、月森のショットガンが火を噴く。内部に溜まった酸が跳ね、伸びかけていた腕(水管)が、銃弾を受けてサッと引っ込んだ。
「硬いみたいだけど、これはどう?」
 金色の両目を光らせ、月森が超機械を構えた。
 狭い個室に電磁波が渦巻き、強固なキメラを襲う。キメラは口を開けたまま、無数のヒビを表面に走らせながら、大きく体を震わせる。やがて、便座や蓋の一部が崩れ始めると、もがくように腕をばたつかせた。
「うわっ!?」
「お兄様!」
 個室では形勢不利と悟ったか、キメラはいきなり酸を噴き出しながら、腕を伸ばして個室の壁の上を掴み、勢い良くジャンプして蓮沼を飛び越え、逃走を図る。
 ほとんど頭上から降ってきた酸を、蓮沼は咄嗟に盾で防いだものの、カバーし切れなかった腕や背中が溶ける激痛に、歯を食い縛って耐えた。
 一本しかない腕を器用に使い、高速でピョンピョン跳ねながらトイレの出口を目指す便器キメラ。
 慌てた様子で引き戸を開け、外に飛び出した彼(?)を待っていたのは、目も眩むほどの光の奔流だった。
「星よ力を‥‥」
「―――敵性存在確認。R.O.C.K On‥‥」
 廊下に溢れる白い光の中、クラウディアと南雲の声が響き渡る。
 そして、照明弾を受けて動きを止めたキメラの前に、瞬天速を用いて瞬時に移動した南雲が立ち塞がった。
「―――守りに徹するまでも無い、行くぞ」
 思わぬ援軍に戸惑うキメラの理解力が現実に追いつかぬ、その間に、淡く輝く蛍火が空を薙ぎ、残像すら残さぬ速さで攻撃が繰り出される。
「天剱絶刀―――目で視る事など不可能だ」
 瞬即撃と急所突きで瞬発力と威力を高めた一撃は、一瞬のうちにキメラの腕を蓋と便座ごと斬り飛ばし、便器だけの情けない姿へと変えてしまった。
「便器に化けるなんて、トイレに行けなくなっちゃうよ!」
 色々な意味で恐ろしいキメラに対し、クラウディアは、やや離れた位置から超機械を発動させる。
 不可視の電磁波が波打ち、渦を巻いてキメラを襲い、その体を内側から崩壊させていく。
「これで終わりだよっ!」
 超機械の出力を最大まで上げ、クラウディアが叫んだ。
 抵抗することもできず、ボロボロと床に崩れ落ちる真っ白な便器。
 やがて、キメラの体は完全に崩壊し、酸に侵食された床に散らばる無数の残骸となって、その命を終えた。
「蓮沼さん、大丈夫っ?」
「大丈夫大丈夫。大したことないぜ」
 酸に灼かれた肌と溶けた軍服を気にしていた蓮沼に、クラウディアが駆け寄り、練成治療を発動させる。
「お、さんきゅ。クラウディアちゃん」
 温かなものが体内に流れ込んでくるような感覚を覚え、蓮沼の傷が癒えていった。


    ◆◇
「B班が、1階でキメラ仕留めたらしいよ〜。超機械が効くんだって」
 8階の個室もほぼ調べ終わり、無線機を手にしたMAKOTO(ga4693)が、他の三人に声を掛けた。
「それより、どうやって進入したかがとても気になるわ‥‥」
 個室から出て引き戸を閉め、緋室 神音(ga3576)は、割とみんな気になっていた重大な疑問を口にする。
「ふむ、病院内に地球の裏切り者でもいたかね〜‥‥」
 さらりと嫌なことを言ってのけたのは、ドクター・ウェスト(ga0241)であった。
 バグア側の人間が病院に入り込んだというのも嫌であるし、置いて行ったキメラが便器なのも嫌だ。もはや、嫌がらせとしか思えない。
「で、あるか。‥‥しかし、玄関から‥‥というのは考え難いだろうし、下水を伝って来て、その場で成長した‥‥とかになると、それこそ大問題だろう」
「謎が多いキメラだよね」
 御巫 雫(ga8942)の言葉に、MAKOTOが小首を傾げて同意した。
「名前は‥‥トイレットシェル(便器貝)かね〜」
 過去にも目撃例のない珍しいキメラに、そこそこ心躍るウェスト。もう名付け親になっている。
「便器に似ている貝のキメラというよりは、チェストイミテーター‥‥擬態するモンスターに近いな。いやしかし、馬鹿にできるものでは無いぞ。人だろうが能力者だろうが、飯は喰う。同時に排泄もな。そしてそれは最も隙のある瞬間なのだ」
「こんなのがいちゃ、トイレも行けなくなるからね〜。けひゃひゃ」
 御巫とウェストの言っている事は、実にもっともである。
 こんなもんが量産された日には、腹痛時の葛藤は計り知れないものになるだろう。
「早く終わらせましょう」
 そうして何だかんだ言い合っているうち、四人は、7階トイレ前まで下りてきていた。
「そうだね〜。調べるのは後でもいいよ」
 緋室と御巫は女子トイレ、ウェストとMAKOTOは男子トイレに分かれ、早速捜索を開始した。

    ◆◇
「内部は耐酸かもしれないが、外はどうだろうね〜」
 酸性のトイレ用洗剤をドバドバ便器にかけながら、ウェストは、ちょっと楽しそうに呟いた。
「どうかな? ‥‥最近の洗剤って、割と手肌に優しいよ」
 女性目線の意見を述べつつ、MAKOTOもホウキを使って便器を叩き、キメラかどうかを探る。
「ふむ〜、ここにはいないようだね〜」
 トイレ洗剤まみれになった二つの個室を後にして、ウェストは、洗剤のついた手を洗うべく、洗面台の前に立った。自動で流れる水に手をつけようとして、ふと、目の前の鏡に釘付けになる。
「どうしたの? あ!」
 わずかに開いた、トイレ入り口の引き戸。

 そこから、便器が覗いていた。

「けひゃひゃ、見つけたよ〜」
「キメラ発見! 7階東側男子トイレだよ!」
 MAKOTOが無線機で他のメンバーに呼びかけたのとほぼ同時に、キメラが慌てて引き戸を閉める。
「あ! 待てー!」
「逃がさないよ〜!」

    ◆◇
『キメラ発見! 7階東側男子トイレだよ!』
 無線機からのMAKOTOの声は、もちろん隣の女子トイレにも届いていた。
 だが、御巫と緋室は、駆けつけるわけにはいかない。
 7階東側女子トイレ、その入口付近に、便器と思われる破片が二つ、転がっていたのだ。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 黒耀と燐光、それぞれの翼を背中に負った二人が、獲物を構えてゆっくりと個室のドアを開ける。
 御巫がデヴァステイターを構え、緋室がトイレットペーパーを投げつけて確認するが、一つ目、二つ目の個室では、なんら異常は見られなかった。
 二人は顔を見合わせ、緊張とともに、最後の個室のドアを開けた。
「こいつだ!」
 便器の足元に酸の侵食で出来たらしき穴のようなものを見つけ、御巫は迷わず引き金を引く。
 連続して計6発の銃弾が便器を襲い、甲高い音を立てて細かなヒビ割れを生じさせた。
「逃げる気か!?」
 伸ばした腕を使って個室の壁を越え、洗面台の前に出たキメラは、いきなり大きく口を開け、御巫目掛けて酸を噴出させる。御巫は、流し斬りを発動させて相手の側面に滑り込むと、至近距離から銃弾を撃ち込んだ。
 内部の柔らかい部分に三発の銃弾を受け、長く伸ばした腕を目茶苦茶に振り回すキメラ。その鉤爪に引き裂かれ、御巫の腕から鮮血が滴った。
「口の中が弱いようね」
 緋室は、一言そう呟くと、流し斬りで御巫とは逆の方向に回り込み、急所突きを発動させて、蓋と便座の隙間から月詠を差し込むと、柔らかな手応えを感じつつ、力の限り突き刺す。
 キメラは、硬い体をビクリと震わせると、咄嗟に口を開け、大量の酸を吐き出した。
 緋室は、一旦下がってそれを回避すると、跳躍して酸の水溜りを越え、そのままの勢いで刀を一閃、便器の蓋を斬り飛ばす。
「今よ」
 緋室の合図で、御巫は再び、デヴァステイターを構えた。
「あの世へ行くが良い!」

 そして、銃声と、硬いものが砕ける音が、狭いトイレに木霊した。

    ◆◇
「けひゃひゃ、追い詰めたね〜」
「もう逃がさないよ!」
 四人部屋の病室に便器キメラが入って行くのを見たMAKOTOは、引き戸を開けるなり、窓際にいた敵に向けて真音獣斬を発動させた。黒い衝撃派がまっすぐに飛び、口を開けていたキメラの内部に直撃する。
「硬い外殻は、柔らかくすれば良いのだよ〜」
 ウェストが練成弱体を使い、キメラの硬度を下げて防御を弱めた。それと同時に、練成強化でこちらの攻撃力を引き上げにかかる。ほんのりと淡い光がMAKOTOのフロスティアを包み、収束する。
「そして! ついに出番だポリカーボネート〜!」
 再びパクリと口を開けたキメラを見て、ウェストは、伊達眼鏡が変異した盾を構えて酸攻撃に備えた。
 が、残念ながら、出てきたのは腕であったりする。
「当たらないよ!」
 襲いかかる鉤爪をかわしながらも、MAKOTOとウェストは、キメラの正面を陣取り、二度と逃走と許さないコンビネーションで動き続けた。
「なんでも君は、超機械に弱いらしいね〜。興味深く観察させてもらうよ〜」
 エネルギーガンを高々と掲げ、キメラに向けるウェスト。
 彼が引き金を引くと同時、膨大な量のエネルギー弾が生じ、いとも簡単にキメラの便器を貫通した。
 ボディに開いた穴から酸を垂れ流し、キメラは、ピタリと動きを止める。貫通した部分からヒビが広がり、やがて、クモの巣のように全身を覆っていった。
 そこへ、MAKOTOの槍が強烈な一撃を叩き込む。
 練成強化を受けた彼女の槍は、あっという間に便器を打ち砕き、細かな破片と化したのだった。 


    ◆◇
「結局、侵入経路はわからないわね」
「で、あるか。‥‥確かに、今回の件がバグア側の者の仕業だとしても、証拠を残すはずがないだろう」
 キメラの破片を手に入れてご機嫌のウェストに練成治療で傷を癒してもらい、御巫は、緋室の言葉に、ため息混じりで同意した。
「要するに、キメラはどこにでも出現するかもしれないってことだね〜。あれだけの機動力があれば、自力で潜り込めた可能性もあるだろうしね〜」
「確かに、意外と動き回るキメラだったよね」
 けひゃひゃ、と笑うウェストの横で、クラウディアが頷く。
「でも、こういう怪談系は苦手だよ〜。病院とか〜」
「霊安室とかな」
 冷たく澱んだ地下の空気を思い出し、月森と蓮沼が首を振った。
「とりあえず、器物損壊だけは免れたな」
「ほんと、手術室とかに出たら、どうしようかと思ったよ」
 南雲とMAKOTOの台詞に、一同は、深く深く頷いた。
 孫の代まで弁償しなければいけないほどの高度医療機器を揃えた大学病院での戦闘など、気疲れが激しすぎる。


 便器キメラより怪談より何よりも、本当に恐ろしいのは、『弁償』の二文字なのであった――。