タイトル:【RoKW】レッドドラゴンマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/28 20:56

●オープニング本文


 二○○九年、晩春、カリマンタン島。
 ULTの傭兵達や第五軍団の活躍により硬直状態を打破したUPC軍は、島の敵の最後の砦ともいえるバンジャルマシンを陥落させるべく八十機からの航空師団を再び編成し出撃、大規模な爆撃をかけんとしていた。
「ん‥‥?」
 航空師団の先頭を飛ぶKVのパイロットが呟きを洩らした。
 もう敵の航空戦力はろくに残っていなく、反撃などない筈だが――しかし、空の彼方から赤い光が近づいてきていた。数は四、レーダーに映るそれも同じく四つ。
「‥‥特攻野郎か? 馬鹿め!」
 男は呟き師団に報告を入れ、KVを加速させる。

 そして――その日、島の空に無数の爆裂が生まれた。

●空に散った者ども

 ――俺は必ず帰ってくる。

 奴はそう言った。
 昔、といってもほんの数年前だ。S‐01やR‐01が実戦に投入された頃、そう‥‥能力者が登場した初期も初期の頃合いだ。北米の空は激戦の最中にあった。
 ま、今も変わらず激戦区だがな。あの頃も、やはり毎日のように無数の戦いが起こり、数多くの英雄が生まれ、そしてその多くが散っていった。
 俺は当時、北米軍でS‐01乗りのパイロットだった――試験的に投入されたS‐01が限定空域とはいえ制空権を取り返したって話は知ってるか? 結構有名な話なんだが‥‥ま、その試験的に投入されたS‐01に乗ってたのが俺達だった。
 KVの近接戦の戦闘能力は従来機とは比べ物にならないものがあった。しかし相手は慣性制御で飛ぶヘルメットワーム。強敵だ。最新鋭のS‐01でも俺程度の腕じゃあまったく歯が立たなかった。隊員の多くも似たようなもんだった。
 そこで俺達の隊長は三機で一機に当たらせる戦法をとらせた。「一機で防がれるなら三機で叩きこめ」単純な理屈だ。単純な理屈だが、これが結構効果的だった。三機で連携すればなんとかHWとも渡り合えたんだな。
 隊長は旗下のパイロット達を三機で連携させ、自身は一騎撃で次々とワームを墜としていった。真紅のS‐01、レッドドラゴンのエース、鮮やかなもんだったよ。ただ一機で、誘導弾と機銃を駆使し空飛ぶカブトガニを爆砕してゆく――芸術的とさえ言えた。共に空を飛ぶ相手としては頼もしい限りだった。
 あれでもう少し歳をくってて性格がまともだったら英雄と呼べたんだが‥‥生憎とうちの隊長殿は頭のイカレタ餓鬼だった。
 赤いマントを翻して「俺はこの世の覇王になる男だ! うわははははは!」と来たもんだ。どう考えても頭の配線が五十本ばかしイカレてる。戦場にあっては頼もしい隊長だったが、日常にあっては痛すぎる隊長だった。
 まぁな、それをさっぴいても悪い隊長ではなかった‥‥か、どうかは微妙だが、はなもちならねぇ俺様ヤローだったが、軍人として筋は通して生きた。その点だけは俺は評価している。
 俺達は一度バグアどもを空から叩き出したが、今度は連中はさらに大軍でやってきた。空も地上も戦況は最悪に逆戻り、味方の部隊は総崩れで敗走ってな事になっちまった。
 俺達は数倍の数のワーム相手に突っ込む事になった。足止めだ。「地上の味方を逃がさなけりゃならん」隊長はそう言っていた。
 状況はどう考えても絶望的だった。特に先頭で突っ込む隊長は死ぬも同然だった。
 だがその時、隊長は、ルウェリン・アプ・ハウェルは言ったんだ。
「俺は死なん。俺はこの星の覇王になる男だ。俺は必ず帰ってくる」
 ってな。本気でそう思ってたのか、皆の士気を高める為にはったりかましたのか、今となっちゃ知る由もないが、奴はそう言った。
 かくて俺達は敵の大軍に突っ込み、ルウェリンのS‐01は六機のワームに袋叩きにされて爆散した。俺もやられた。仲間達もやられた。俺は運が良かったんで命だけは拾ったがな。ルウェリンの生死はどう考えても絶望的だった。
 あの時に奴は死んだんだ。
 そう思っていたし、それで間違いはないと思う。
 だがルウェリンを名乗る馬鹿が帰ってきやがった。今度は敵として――ファームライドだかレッドデビルだかに乗ってな。
 赤竜のルウェリンは死に、悪魔のルウェリンが帰ってきた。

「――奴は馬鹿だが強い」
 かつてルウェリン隊に所属していたというUPC軍の士官はそう言った。
「無改造の初期S‐01ただの一機で、HW三機を同時に相手して撃破しやがった野郎だ。噂のジェームス=ブレスト程じゃねぇが、半端じゃねぇ。まともにぶつかるなら、覚悟が必要な相手だぜ」

●その男達阿呆につき
「た、たった四機で制空権を取り返す?! いくらなんでも無茶な!」
 髪の長い女が言った。
「無茶ではないし無理でもない。戦力は有効に活用すべきだろう」
 金髪の青年が呟いた。
「しかし、何も隊長自らがこんな‥‥!」
「俺以外に誰が出来るというのだ? それに上からの命令だ。是非もないわ」
 男はファームライドのコクピットを開き、その縁に足をかける。
「しかし隊長!」
「ククッ、まぁこの身はそういう宿命なのだろうよ。戦略の差を戦術でなんとかせねばならん、とな――‥‥だがな貴様」
 男は真紅の外套を翻して振り返り、見降ろす。
「まさか、この俺が負けると? この俺様が蟲ケラどもに負けると思うのか馬鹿モンがぁッ!」
「UPCは甘く見て良い敵ではありません! 伊達で地球の守り手をやっている訳ではないのですよッ! 貴方も知っている筈です!!」
 ルウェリン・アプ・ハウェルは牙を剥いて笑う。
「知っている?! UPC、UPC、UPCをか! 奴等が地球の守り手? 笑わせるッ!! 戦いを知る者は薄汚く、闇雲に理想を唱える者は甘っちょろいッ! 志なくば大事は成し遂げられず、力なくば塵芥に同じッ!!!!」
「ルウェリンが出会わなかっただけかもしれませんッ!!」
「ハッ! 守るべき意志を炎に変え、鉄の知恵を翼と化し、我が身を焼き尽くさんする者が奴等の中にいると? 否! 否ッ!! 断じて否ッ!!!! 俺は知っている、話にならんわUPCッ!!」
「ルウェリン!」
 風防が下がってゆく。それが降り切った時、アフターバーナーが焔を吹いた。
「アナンタ! ボイナ! クエレブエ! 狩りの時間だッ!」
『ヤー!』
 無線から声が漏れた。後方に控える赤、緑、青のヘルメットワームが浮き上がる。
「我が名はルウェリン・アプ・ハウェル! この星の覇王となる男よ! この程度の劣勢、軽く捻り潰してくれるわッ!! うわははははははーーーッ!!」
 けたたましい笑い声と共に(ご丁寧に外部スピーカーから流れている)轟音をあげて赤い機体は空へと舞い上がっていった。
「あっの馬鹿‥‥貴様は、獅子だろう‥‥! 蜥蜴の記憶にひきづられおって‥‥!」
 女は歯ぎしりして呟いた。この所、ますます酷くなってきている、本来の気性が薄れ、器の人格が前面に出てきてしまっていた。
 獅子でもなく、竜でもなく、これではまるで、
「合成獣(キメラ)め‥‥ッ!」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

「Air Warning Red! 各位、交戦に備えて下さい!」
 里見・さやか(ga0153)の声が響いた。九機のKVが空の戦場へと突入してゆく。先頭を固めるのは如月・由梨(ga1805)、南部 祐希(ga4390)、鹿嶋 悠(gb1333)の三機。爆撃機は北へと逃げている。
 戦闘機を殲滅し終えたFRと三機のHW、新手が接近して来ている事に気づいた。FRは北東へ、HWは北西へと別れる。
「騎兵隊参上! ここからの相手は俺達だ!!」戦域に入った鹿嶋、敵軍の周波数へと向かって言ってやる「グリーンランドでは世話になったな‥‥獅子座!!」
 会話の最中にも間合いは詰まってゆく。爆撃機の頭上を越えた。
「ほぉ? あの時に居た奴か! ククッ、うわははははは!」
 無線から雑音と共にけたたましい笑い声が返ってきた。八機のKVは赤HWを目指し向かう。HW達はさらに西へ逸れた。FRは北東へと飛ぶ。
「俺が世話になったようだな? 今日はルウェリン=アプハウェルが相手になってやろう! 愉快に死ね!」
 位置関係。傭兵隊を中心として北に爆撃機。南西に西へと移動しているHW群。東にFR、これは北東へと猛進している。FR、迂回して背後へ抜ける動きか。爆撃機を狙っている?
「ちっ‥‥王様は鴨撃ちで満足か? 笑わせるぜ!」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は挑発の声をあげつつ阻止に翻る。射撃はまだ届かない。ブースト点火で加速する。それを見てロッテを組む鹿嶋機も旋回しやや遅れながらも後を追う。置いて行かれるのは不味い、こちらもブーストを点火した。
 それに反応しFRのAバーナーも業火を噴き上げた。カプロイアのツインブースト。超音速で加速し弧を描いて妨害を迂回し一気に爆撃機へと接近する。後方に残っていた不破機が迎撃に動いた。
 HW方面。南部機から煙幕が放たれる。しかしHW三機はさらに西へと逸れた――逃げている? 距離が詰まらない。
「ブーストを!」
 埒があかない。如月、霞澄 セラフィエル(ga0495)、烏谷・小町(gb0765)、南部、柿原ミズキ(ga9347)、里見の六機はブーストを点火する。だがそれに反応し三機のHWも赤く輝いた。超加速。逃げる。
 不破VSルウェリン、ウーフーから二連の誘導弾が飛ぶ、FRは急加速して上昇、かわした。下降しながら機銃が一瞬だけ焔を吹いた。小爆発。不破機がバランスを崩した。錐揉みながら落下してゆく。
「っ?! 鬼神だと、でも‥‥ッ!?」
 油圧系を撃ち抜かれたらしい。制御不能に陥った不破機は山岳に激突し爆裂した。
 FRは最後尾の爆撃機に取りつくと一瞬だけ機銃を撃ちこむ。徹甲焼夷弾が火花を巻き起こし爆撃機から炎が膨れ上がる。
「メーデー! メーデー! こちらストライク10、だ、駄目だっ! 引火する、総員退避――」
 爆裂、四散。
「野郎!」
 アンドレアス機が追い付き放電装置で背後から攻撃を仕掛けた。眩い電撃が飛び出し空を焼き尽くす。
「うわははははははははは! 甘い! 甘い! 杏仁豆腐のシロップの如く甘いわーーーッ!!」
 けたたましく笑う。能力と人格は比例しない。FR、既に電撃の中にいない――読んでいたか、急降下して回避している。
 FR、ブースト継続、背後から追う二機を置き去りに先頭の爆撃機へと肉薄する。機銃が焔を吹いた。撃墜。スプリットS、百八十度進路を転じ、三機目を正面から撃墜。速い。さらに四機目へと向かう。
「てめぇ‥‥これ以上はやらせねぇっ!!」
 アンドレス機が爆撃機とFRとの間に割って入る。自機を盾にしようという腹か。機動が直線的になる。
 即座にFRの機銃が焔を吹いた。狙い澄まされた弾丸がコクピットを撃ち抜き、うちの数発が中にいたアンドレアスの身をも貫いて、致命的な何かを鈍い音と共に断ち切った。コクピットが炎に包まれる。恐ろしいまでの精密射撃。力が抜けたようにディアブロは明後日の方向へと流れてゆく。
「――っの、バカモンガァァアアアッ!!」獅子座の竜が烈火の如く吼えた。激しい反応「止めるなら火力で止めんカァッ! それらを守るならそれを囮にしろッ! 全てを守れるとでも思ったかッ!!」
 ディアブロのアフタバーナーが焔を吹いた。翼が甦る。
「うるせぇ‥‥!」血を吐きだしつつアンドレアスは呟く。結局は僚機を守ろうとして爆散したという奴に言われたくはないと思った「やかましいわくそったれ‥‥! まだだ‥‥まだ堕ちちゃいねぇ! 相手しやがれ、蜥蜴野郎!」
 炎に包まれ大気が逆巻くコクピットの中、真紅に染まったアンドレアスは操縦桿を引き上げる。急上昇して旋回する。
「フンッ! 寝ていれば良いものを! そんなに死にたいかムシケラがぁっ!!」
「仲間背負ってんでな。退けねぇんだよ!」
 炎と共にアンドレアスが吼える。ディアブロが加速する。近距離、向き合う、ヘッドオン。
「ハッ! よかろう幻想野郎! 何事も成せずに死ねッ!!」
「死ぬのはテメェだ誇大野郎! 記憶と共に逝け! フォックス!!」
 両機フルバースト。FRとKVから誘導弾が大量に撃ち放たれ、煙を噴出して飛ぶ。赤と赤が交差する。大爆発。
 瞬後、爆炎を裂いてファームライドが飛び出し、破砕されたディアブロが小爆発を巻き起こしながら火球に包まれ落下してゆく。撃墜。
「精神(こころ)だけでは、何も守れぬわ‥‥ッ!」
 吐き捨てるように、赤竜のその声は蒼空に響いた。ファームライドの背後で、ディアブロの破片が蒼空に散り、流れて行った。


 西へと逃げるHWを追う六機。里見、霞澄、柿原の三機はやや遅れている。如月、烏谷がトップ、次いで煙幕を撃った南部だが、HWの方がさらに速い。追い付けない。このままでは徒に振り回されるだけだ。
「‥‥こちら、任せます。南部さん!」
「了解!」
 如月と南部が翻る。一撃はHWに入れたい所だったが爆撃機を放ってはおけないし、主目標はFRだ。HWは他機に任せた。
 四機はそのままHWを追った。烏谷も旋回して距離を合わせる。
 HWが慣性制御で翻った。分散し三方に散り霞機へと向かう。
 低空を飛ぶ赤HWに対し四機のKVが高空から急降下して襲いかかる。その後背へと緑と青のHWが上昇しながら旋回し回り込まんとする。
 距離六〇〇、霞澄機、下方をくぐりぬけるように向い来る赤HWに対し閃光を解き放つ。発射後、間髪入れずに急旋回する。後方から猛烈な勢いで紅色の閃光が襲い来ていた。光が翼を焼き、直撃し、重力波が乱れ、翻ってかわし、僅かにそれ、直撃し、直撃した。六発中四発命中。損傷率二割六分。タフな機体だ。
 烏谷はAFを発動させるとK‐02ミサイルを集中して撃ち放っていた。計二五○発の誘導弾が宙を埋め尽くす勢いで飛ぶ。さらに高性能ラージフレアを展開させ重力波を乱す。里見は赤の回避先を予測して逃げ場を塞ぐようにレーザーを撃ち込んだ。
 赤のHWは赤光を纏うと加速し横にスライドして蒼光をかわし、急降下しながら地表すれすれを旋回して襲い来る数百発のミサイル嵐を潜り抜ける。誘導弾が天空より来りて大地に突き刺さり紅蓮の爆裂を次々に巻き起こした。大地は赤い絨毯でもひいたかのように輝き、吹き飛んでゆく。
 赤HW目がけ柿原は機体を前進させる。HWの行く手を遮るように誘導弾が飛んできた。里見機の援護射撃だ。回避運動に入ったHWに対し柿原は小回りで旋回させて背後につける。肉薄すると撃墜を狙いHWの装甲の薄そうな部分を狙ってガトリングで攻撃を仕掛けながらAAMを撃ち放った。蒼光と共に煙を引き音速を超えて誘導弾が飛ぶ。が、HWは加速すると水平に急旋回して悉く回避した。
(「‥‥速い!」)
 新鋭のシュテルンを以ってしてもまさに桁違いの速度。自分で相手が出来るのか? 恐怖が腹の底から込み上げてくる。
(「臆したりなんか‥‥!」)
 歯を喰いしばる。絶対に生きて帰ると約束した。仲間と思ってくれた者達の為にも、弱気になどなっていられない。操縦桿を切って喰らい付いてゆく。
 爆撃機方面。当然だが鹿嶋もただぼんやりと眺めていた訳ではない。
(「御高説どうも‥‥ッ!!」)
 なるほど確かに頭が悪い、と鹿嶋は思った。黙って落とせば良い物を、二手に別れFRの機動性を駆使して捻りだした貴重な時間を結局は瀕死のラーセン相手に費やしていた。そして何より――
(「隙だらけだッ!!」)
 背後につけた鹿嶋は狙いを絞りFRをガンサイトに納めてライフルを連射する。強烈な破壊力を秘めた弾丸が飛んだ。回転する弾丸は吸い込まれるように真紅の機体に突き刺さり、展開する赤壁を突き破り、その装甲をも突き破って喰らいついた。FRの破片が飛ぶ。
「き‥‥貴様ァッ!」
 ルウェリンの怒声が響き渡った。手応えあり。FRが翻る。
(「さて、どうする?」)
 鹿嶋機も一端退き南部、如月の両機との合流を目指したい所だがそれは爆撃機を見捨てる事とイコールだ。退けない。むしろ引きつけなくてはならない。ならば、
「借り物の力を語る者が王とは笑止!」
 さらなる挑発を入れてやる。戦術的にもこの間合いならば放置できないだろう、乗ってくるはずだと鹿嶋は判断する。
「ハッ! 集う力を行使するのが王よッ!! よかろう、消し飛ばしてくれるわ風前の塵ッ!!」
――来る。
 瞬後、真紅のFRが恐ろしいまでの速さで突っ込んでくる。紅蓮が瞬いた瞬間――正確にはそれよりも一瞬速くに――鹿嶋は機体能力を全開にしラダーを蹴りつけた。ブーストした機体が横に滑る。コクピットの脇を掠めて炎の弾丸が通り抜けてゆく。かわした。
「ほぉ?! その機体でかわすか! 雑魚ではないようだなッ!!」
 一騎撃。FRと雷電が蛇絡の軌道を描いて激しく背後を取り合う。シザース。要所要所で機銃が焔を吹き、雷電の装甲が削られてゆく。
「だが俺の相手をするには無量大数早いわッ!! 虚空に死ねッ!!」
 回避に専念しているがかわしきれない。徐々に徐々に追い詰められてゆく。背後、つかれた。
(「一か八か‥‥!」)
 鹿嶋、エアブレーキ、急減速、故意の失速。刹那の間の後FRの機銃が炎を吹いた。機動を止めた雷電に次々に命中する。要所が断ち切られ、漏電と爆発が次々に巻き起こる。だがこの機動、虚をつかれたか、放たれた弾丸の数は常程ではない。まだ堕ちない。FRがオーバーシュートし頭上を通り抜けてゆく。FRの背中、無防備――!
(「もらったッ!」)
 トリガーを引いた瞬間、雷電の脇が爆裂した。破壊されている――耐えきれなかった。FRが翻った。
「惜しかったな!」
 AAM一発。爆裂が巻き起こり雷電が煙を噴き上げ墜落してゆく。
「何手か足りぬ。その機動だけでは俺には届かんわッ!」
 獅子座の咆哮が空に響き渡った。


 HW方面。四機のKVと三機のHWが激しく入り乱れている。集中攻撃を受けている赤HWは回避に専念して傭兵達の猛攻を凌ぎ、緑と青が後方から猛撃を加えている。標的となっているのは霞澄機、最も脅威となりそうな機種から潰す腹らしい。
「くっ‥‥!」
 霞澄、攻撃は最小限に一箇所に留まらぬようにブーストやスタビライザーを駆使して機動し対抗する。僚機の烏谷もラージフレアやスラスターライフルで援護するが、しかしHW達は執拗だった。八条の閃光が乱舞し、アンジェリカの装甲を消し飛ばしてゆく。霞澄、よく耐えているが、だが確実に追い詰められつつあった。
 里見、素早くレーダーに視線を走らせる。爆撃機、残り七機、アンドレアス機は墜ち、鹿嶋機は墜ち、霞澄機も堕ちんとしている。霞澄機が落ちると旗色は一気に悪くなるのが予想された。爆撃機、逃げているが亀のように遅い。如月機と南部機が北東へと飛んでいるが、保つのだろうか‥‥?
(「早く‥‥急いで‥‥逃げて‥‥っ!」 )
 里見は込み上げてくる焦燥を無理やり殺して柿原を援護すべくレーザーのトリガーを引いた。
 爆撃機方面、FRの機銃が焔を吹き、さらに一機を落とした。五機目を落とすべくFRが加速する――瞬間、巨弾が唸りをあげて飛んだ。KA‐01だ。FRは翻って回避する。南部機と如月機が到着した。
 如月はAFを込めた猛烈な電撃を解き放つ。明滅する電撃嵐がFRを呑みこんだ。瞬後、雷撃を裂いてFRが飛び出る。即座に狙いを定めてライフルを撃ちこんだ。弾丸がFRの赤壁を破り、その装甲を穿つ。リロード、連射。これはあっさりかわされる。回避運動の勢いのままFRが急旋回して捻り込む。速い。如月機、後背を取られる、機銃の射程。だがそのさらに背後に南部機がつけた。ガンサイトにFRを納めトリガーを引く。リロードしつつKA‐01を連射。その猛攻の前にFRは攻撃を諦め回避、螺旋のロールから旋回し翻った。
「ほぉ‥‥?! この戦、既にもらったものと思ったが‥‥!」
 無線から獅子座の声が洩れた。
「勝利、ですか」如月が言った「なるほど、貴方にはそれだけの力があるようです‥‥ですが」
 ディアブロが二機、FRへと向かって翻る。南部が短く言った。
「我々を抜ければの話だ。レッドドラゴン」
 傭兵のエース達、共にそのうちの一人。
「ククッ‥‥よかろう!」獅子座が牙を剥いて吼えた「我が名はルウェリン・アプハウェル! この星の覇王となる男よ! 我が進撃、止められるものなら、止めてみよッ!!」
 二機のディアブロと一機のFRが空で激突した。


「遊びは終わりだ――と言いたいが、生憎と既に全力だ」
 無線から低い男の声が漏れた。霞澄はアハトをリロードしつつ訝しむ。
「たいしたもんだよ青のアンジェリカ。だがナァしかし‥‥相手が悪かったなッ!!」
 回避に専念していた赤HWが反転する。三機のHWが一斉に赤く輝いた。
「くっ‥‥!」
 天空を焼き尽くすが如き光の奔流。十二連の爆光が炸裂した。全ては、かわしきれない。三機からの猛攻を受けてついに霞澄機が爆裂する。火球に包まれ、煙を引き、地上へと堕ちてゆく。
「あばよ御嬢さん! 大勢は決した。この勝負、俺達の勝ちだ!」
 だが焔に包まれたコクピットの中で霞澄は笑い、そして言った。
「いいえ」
「――なに?」
「貴方がたの大将が、竜の記憶に捕らわれた時点で、あなた達は負けていたのですよ」


 二機のディアブロとFRが複雑に鋭く軌道を描く。FRは積極的な攻撃に出てこなかった――否、出れなかったのだ。機銃で仕掛けようとしても如月と南部は火器を解き放ってプレッシャーをかけ、お互いをよく守った。虎の子の誘導弾は残り二発、迂闊には撃てない。消耗が響いていた。そして獅子座が攻めあぐねている間に彼等がやってきた。
「――第二航空師団佐々木大隊、これより戦域に突入する。同隊より友軍へ、援護する」
 F‐201AとA‐1を先頭に押し立てKV部隊が到着する。
 獅子座と三機のHWは退却に転じ、赤く輝きながら南の空へと高速で逃げ去って行ったのだった。