●リプレイ本文
科学を極めた現世の世、常人の力ではどうしようも出来ないバクア。
その奇怪で強大な存在に挑む、超絶不可思議な人間達がいた。
人は彼らのことを、能力者と呼ぶ。
春の某日、とある村の村長の家にULTからの八人の傭兵が到着した。いずれも並々ならぬ力を持ち、異星人バグアの勢力と戦い続ける戦士達である。
その中の一人、傭兵である阿野次 のもじ(
ga5480)は高速艇から颯爽と降り立つと、居並ぶ者達を前に、しなやかな指を天へと向け、口を開き言った。
「♪バクア撃退 ♪バクア撃退
キメラにワームに困ったときは〜
緊急通信☆
緊急通信☆
すぐに呼びましょ、能力者♪〜」
それに学生服姿の黒髪の少女――斑鳩・南雲(
gb2816)だ――もまた合わせるようにして言った。
「♪バクア撃退 ♪バクア撃退
妖怪キメラで困ったときは〜
助けてあげましょ能力者♪〜」
いえーい! と揃って声をあげる少女たち。それを見やって西園寺燐火は思った。彼女達はきっとキメラよりも危険‥‥!
「よし! やっぱ、この決め台詞は浪漫だね!」
「遺影! ということで、呼ばれてきたわよ。隣火ちゃん、よろしく!」
ビシッと何処かで見たようなポーズを取りつつ少女二名。きっとレッドランプが陰陽の彼方に輝いている。大人の事情的意味で。
「よ、よろしくですー、えぇっと、えー、よ、要請に応じてお越しいただき有難うございますです、皆さん」
挨拶する燐火の背後では東雲 凪(
gb5917)がハードゲイであるという村長の息子に声をかけていた。
「あ、もしもし、あなたが村長息子HGさん? 討伐中歌部さんの看護をお願いできるかな?」
「任せておきたまえフォーウッ!」
村長息子はノリノリだ。歌部星明、史上最大のピンチ。
「な、何やってんですかーっ!」燐火が振り向いて制止した「え、なんか面白そうだし!」と笑顔で東雲。
(「わぁ、本物のゲイなんだ‥‥初めて見ちゃった」)
潮彩 ろまん(
ga3425)が村長息子の装束を見て胸中で呟く。阿野次は意識をなくして布団に横たわっている歌部の前に膝をつくと、仏壇によくあるそれを取り出し、供えて言った。
「合掌、ちーん」
「さすがに殺さないでー! 線香あげないでー!」叫ぶ燐火。
「‥‥カオスだねぇ」
赤崎羽矢子(
gb2140)が場の様子を眺めてぽつりと呟いたのだった。
●カオス時々スギカフーン
傭兵達は一通り騒いだ後に、なんだかぐったりしている燐火から話を聞き、さらに村長やその息子へと聞き込みを行った。
(「うーん、あんまり良くは覚えてないみたいだね」)
フィオナは燐火の話を聞いてそう思った。目的の樹までの道のりはどんな感じか、問題の女性が目撃される地点から樹までの距離はどの程度かを把握しておこうと思ったのだが、いまいち要領をえない。まぁ精神攻撃を喰らっていた者の記憶などそんなものか。
(「燐火ちゃんが操られちゃった事考えると、ゲイなのは関係ないだろうから、息子さんが操られなかったのはきっと他の理由があるはず」)
一方の潮彩は三者からの話を聞いてそんな事を思っていた。村長の息子に尋ねる。
「その時の様子、詳しく教えてください」
「フォーウ!(訳:いいとも!)」
詳しい話を聞き村長と息子の差異を洗い出す。すると肉体的なものの他に身につけているものの違いがある点が浮かび上がってきた。なんでも村長息子は当時、花粉症の為くしゃみ鼻水が酷くマスクを着用していたらしい。
「‥‥もしかして、キメラは樹木型だっていうし、魅了攻撃の正体って花粉なんじゃない?」東雲が言った「だからマスクをしていた息子さんは操られなかった」
「なるほど‥‥花粉みたいのが原因でしょーか」と南雲。
「それじゃ、妖怪の力はもしかしてマスクで防げるのかな?」と潮彩。
「んー、これだけじゃ確実にそうとは言えないけど」フィオナ・シュトリエ(
gb0790)が言った「その可能性が高いなら対策しておく価値はあるんじゃないかな」
「そうですねぇ。もし違ってても損にはならないでしょうし」神代千早(
gb5872)が頷いた。
「それじゃ、とりあえずマスクだな」
鈍名 レイジ(
ga8428)が言った。
かくて一同は準備を整える為に村のコンビニへと向かい、各自必要物資を調達することにした。田舎の店は人もまばらで暇をしていた店員のおばちゃんと仲良くなったりもしたがそれはまた別の話とし、主にマスク等を購入し終えた一行はビニル袋を手に表へと出た。
「さて、準備は完了☆ いざスギカフーン退治にれっつごー!」
阿野次がそんな事を言った。
「‥‥スギカフーン?」聞きなれない単語に首を傾げる鈍名。攻撃に対して肌を晒さない為にだろう、男はボタンやファスナー等を締め直している。
「キメラ、山で木で花粉だし」
「なるほど」
その命名に頷く東雲。解りやすくて良し。緊張感は三割がた減ったような気もするが。
「燐火ちゃん修行中なんだ‥‥ボクもお爺ちゃんに剣を教えて貰ってるんだけど、お互い頑張ろうね」燐火と雑談している潮彩はにっこりと微笑した。「燐火ちゃんなら、きっと立派な神主さんになれるよ!」
「有難う! でもわたしが修行してるのは能力者的科学者であって神主じゃないから!」
「え、燐火ちゃん、そうなんだ?」
と意外そうに南雲。まぁ普通は思わない。
「うん、科学者なんだ。科学者の、筈なんだ。科学者だったら、良いなぁー‥‥」
狩衣姿の少女は自棄っぱち気味に遠い眼をしている。
「苦労なさってるんですね」
神代が苦笑しながら言った。少女は先に購入したコショウや粉末カレー粉を小さな袋に移し変えている。曰く「媚薬とか、惚けているような状態にはこれが一番効くんですよ」との事だ。
そんな事をがやがやとのたまいつつ、一行はマスク&人によってはウェットティッシュ、ゴーグルAU−KVを装着し山へと入る。
「昼間の内に退治といきたいもんだね」赤崎が言った。夜の山というのは地元民でも避ける場所だ「まぁ出る場所は解ってるから、大丈夫だとは思うけど」
一同は燐火を道案内にサクサクと山を登り、やがて件の峠へと辿り着いた。
「出来れば、キメラに対し風上を取れるように近づきたいんだが」
鈍名が燐火に言った。
「風上を? うーん‥‥」
「何か問題でも?」
「いや、その時の私少しおかしくなってたからさ、逃げる時も結構無我夢中だったし‥‥はっきりとは場所を把握してないんだ。前と同じ道を辿れば問題なさそうだけど、風はあちらから吹いてるでしょう?」
と山林を指し燐火。峠の現在地から南の方角。
「キメラがやってきたのもあちらからなんだ。これに対して風上を取るとなると、森に入って大きく回り込む形になるよね? 無事にたどり着けるかなーってさ‥‥」と燐火「実は私、地図を見るのとかも苦手で‥‥」やや申し訳なさそうにしていう。
鈍名は紅白の狩衣姿の少女を見て考える。期待値はきっと七あたりな判断の末に男の脳裏に言葉が浮かび上がった。すなわち「任せたらきっと遭難」
「止めておこう」
鈍名は回避した。歌部をなんとかして叩き起こせば可能だったかもしれないが、この弟子の少女だけではきっと無理だ。博打を張る場面でもない。
「普通に向かってくれ」
「御免ね。了解ー」
一同は、マスクやゴーグルをつけると生い茂る木々の合間へと割って入った。
山は薄暗く、木々の香りが強かった。緑に鮮やかに濃く、深い。木々は豊かな葉を茂らせ、下生えの草は訪れた春を謳歌している。日本の山だ。
傭兵達は草木を払いながら道なき道を進む。
(「しかし樹木型か、成長して根を伸ばして行動、索敵範囲なんかも広がったりしてないだろうな‥‥」)
鈍名は胸中で呟く。かなり警戒している様子だ。警戒心と想像力は共に戦場で生き残るのに必要なものである。
山林をゆくことしばし、強い風が吹いた。梢が漣立ち、鴉がぎゃあぎゃあと鳴き声をあげて空へと飛び去ってゆく。
「あれ!」
初めに南雲が気付き叫んだ。
風に乗り、黄金に煌めく粒子が薄暗い森の彼方より接近して来ていた。空を走る津波のようだ。
――っちへ‥‥こっちへ来て。
声が聞こえた。
段々と大きくなってくる。黄金の波の向こう、黄昏の木々の狭間に淡く輝く赤光が見えた。眼を凝らす。光の中に影があった。人の形だ。上下にゆらゆらと揺れながら、その姿を大きくしてゆく。
「こっちへ、こっちへ来て」
出た。キメラだ。真赤な唇を持つ若い女の姿。造作が整い過ぎていて恐ろしい程だった。魔性の女妖。
「綺麗な女性に誘惑って言うがな」
鈍名はふんと鼻を鳴らした。
「こっちも綺麗所が揃ったハーレムPTだ、もう間に合ってる。行くぜ!」
男は覚醒し、紅色の大剣を抜き放った。流れるように傭兵達は動き出す。否、既に赤崎は走り出していた。風は南から吹いている。キメラから放出されている黄金の粒子を迂回して避け、瞬速縮地を駆使してキメラの元へと向かう。
が、山林の中だ。大地は傾斜し、木々は所狭しと乱立している。真っ直ぐには進めない。さらに下生えの草木が足に絡み、至極走りづらかった。常よりも速度は激減している。他の迂回班のメンバーの二人、斑鳩、神代も回り込むように走っているが地形の悪さに手を焼いている様子だ。
「その恋の名はハリケーン!!」
覚醒した阿野次は力を集め解き放つと黒の衝撃波を虚空に向かって撃ち放った。爆風が黄金の粒子を吹き飛ばしてゆく。粒子は二つに別たれ、阿野次は生じた空気の断裂を通り女妖が向かい来る方向へと走る。
潮彩ろまんもまた片刃の直刀を携え、注意を惹くべく走る。風向きに注意を払い、やや回り込むような動きだ。鈍名もまた同様の動きで向かう。フィオナはグッドラックを発動させるとタンクを振って水をまき散らした。黄金粒子の残りが水に巻き込まれて地に落ちる。東雲は正面から女妖へと向かった。
大まかにはU型に囲い込む形か。中央先頭の阿野次と女妖の距離が詰まる。ある程度まで接近すると女妖は動きを止めた。誘い込むように後退する動きへと移る。退路を断つよう横合いから縮地で飛びだし赤崎が細剣を手に間合いを詰める。駒のように半回転、弧を描く動きで薙ぎ払いを繰り出す。円閃だ。鈍い手応え。刃の進路上にあった林の細木を切断し、女妖の背から伸びる根へと刃が喰いこむ。
南雲は光をまとい赤崎、神代を守るように動きつつ、女妖を殴り飛ばした。キメラの肌が砕け木端が散る――見た目は人間のそれだが植物だ。神代は間合いを詰めると喰い込んでいる赤崎の剣の逆サイドから挟みこむよう雲隠を振るった。一閃。
「うふふふっ」紅に瞳の色を変化させた少女は赤光を纏い笑った「よく切れますねぇ‥‥うふふっ」
鈍い音と共に女妖が根から切断され地に落ちた。木の葉舞い散らし樹木が音を立てて倒れてゆく。根はそのまま後退してゆく。
女妖からは光が失われ、糸が切れた様子で地面に倒れ伏している。ぴくりとも動かない。一同は根の行方を追った。本体はあちらにある筈だ。
薄暗い山の中を連立する木々をかき分けて走る。やがて、根の動きが止まる。どうやらこの先は開けているようだ。傭兵達は風上に回り踏み込んだ。
そこに一本の巨大な樹があった。大地を割り蠢く無数の根と共に赤光を纏い屹立している。無数の根の幾つかの先には先とそっくり同じ女の姿があり、彼女達は浮遊するように大木の周囲の宙でたゆたっていた。
「おしい」東雲凪が言った「あの樹。赤い光だけなら綺麗なんだけどなぁ‥‥」
根が一斉に動いた。
「うねうねしないでよ、まったく」
地面が盛り上がり、爆砕し、蛇が頭をもたげるように広がる。しかしその数は九頭竜のそれと比べても圧倒的だ。数十を数える凶悪なまでに鋭い先端を持つ根が傭兵達へと襲いかかる。
阿野次のもじが突っ込んだ。流し斬りを発動させ、突進しながらすり抜けるようにルベウスで掠め切る。潮彩もまた駆けると身を捻り根の先端をかわしざま、月詠を振り上げて弾き、勢いを止めたところへ振り下ろして切断する。鈍名は根を見据え軌道を見切りながら接近すると狙い澄まして一撃を振るい、迫りくる根をカウンターで斬り飛ばした。
攻撃は先頭の阿野次、ついで潮彩に集中しているが根の数が圧倒的だ。他のメンバーへも攻撃が伸びてくる。フィオナは撃ちこまれてくる根の先端に対して角度をつけて盾を突き出した。ハンマーで叩きつけられたかのような猛烈な衝撃と共に鈍い音が鳴り、根の先端が弾かれて後方へと流れてゆく。身を捻りざま太陽の色に眩く輝く長大な剣――片手で扱うには破格の大きさだ。1.6メートル、フィオナの身長とほぼ同じサイズ――を竜巻の如く振るって根を真っ二つに斬り落とした。
紫黒のオーラを纏った東雲もまたシールドで根撃をかわしつつ、カミツレで反撃の斬撃を放って根を叩き切る。
「はっ。人を魅了する花にしては毒々しいね」
側面へと回り込んだ赤崎、神代は先と同様に連携して剣を振って黄金の粒子をまき散らしている女妖の根を切り落としてゆく。南雲が真紅の拳を振るって両名の背後を守った。
「アイシャル、リターン!」
阿野次が高速でバックステップした。瞬速縮地だ。間髪入れず十数の根が阿野次が先ほどまで立っていた位置へと降り注ぎ、大地を爆砕する。
「げふん!」
縮地の勢い余って背中を周囲を囲む山樹に強打していたりするが攻撃をかわした阿野次が叫んだ。
「今よ!」
――その目を見切れば、どんな巨木だって断てる。
祖父の教えを思い出しつつ、隙を捉えて潮彩ろまんは瞬天速で突っ込んだ。
「えーいっ! 波斬剣!」
瞬間移動したが如き踏み込みから目にも止まらぬ速度の瞬速撃を叩きこむ高速スキル二段撃。木目を狙って放たれたその剣撃は深々と樹木型キメラの身へと切っ先を沈み込めた。
だが、樹木キメラはまだ動く。
「‥‥とっとと焼け落ちちまいな!」
鈍名が叫んだ。練力を全開にし、長さ二メートル巨大剣を爆熱の色に輝かせると大樹の根本付近をめがけ渾身の力を込め袈裟斬りの斬撃を放ち、さらに返す刀で薙ぎ払う。
「危ない樹は切り倒しとかないとね」フィオナが言った。剣と楯を構えて走る。
「獲物には甘い夢を見せて仕留めるんだね。でも、お前が見るのは悪夢だよ」東雲が囁いた。脚部からスパークを発生させ駆ける。
大樹の身が激震に揺れた。
かくて、その山林に現れた樹木型キメラは傭兵達の一斉攻撃を受け滅び去った。
春の夜の夢、風前の塵の如く。その赤い樹は何を見たのか。きっと風だけが知っている。
凛と峠で鈴が鳴る。透き通った美しい声。振り向けば貴方の傍にも、妖しい女が立っているかもしれない。
「これであの人を誘惑したり‥‥うーん、無理かなぁ‥‥」
神代が女妖から出ていた粉を手に呟いていたりする。
注意・キメラの悪用は止めましょう。
完