タイトル:【RoKW】地下施設の攻防マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/29 00:52

●オープニング本文


 東南アジアがカリマンタン島、激しく攻防を繰り広げるパランカ・ラヤの街。
 激闘の末、地上では第五軍の面々が同市の大部分を制圧していたが、今だに頑強に抵抗を続ける者達も存在していた。
 バグア軍の一隊が地下施設の一角に籠り、キメラを放ち、頑強に抵抗を続けていた。これに対し力攻めを行った一隊は激しい損害を出し、撤退の憂き目を見るはめとなった。入れ替わりにやってきたのが現在村上顕家大隊隷下の四六小隊である。
「‥‥ったく、しぶとい、ってレベルじゃないぞ」
 通路の曲がり角で壁に背を預けつつその小隊の隊長が嘆息して言った。隊を率いている士官の名はディアドラ=マクワリスという。階級は中尉、二十代後半の金髪碧眼の女だ。柔軟な肢体をUPC軍の士官服に包み、小銃を手に眉根を寄せている。
「うちは守備は得意だけど、突撃とか突破とかは苦手なんだよなぁ」
 ディアドラ=マクワリスは犠牲を嫌ってか、部屋に陣取るキメラを前に攻めあぐねていた。
 部屋にはバグア兵の姿は見えないが、代わりに槍を持った成人男子程度のサイズの蟻人兵が六匹ほど陣取っていて、部屋に踏み行った者へと容赦のない攻撃を加えていた。槍だけでも厄介だが、この蟻人兵は酸を吐く。僅かな隙間からでも染み込んでくる酸が相手では、強固な装甲も意味を持たなかった。
「少佐も解ってるんだろうけど、得意な隊は得意な隊で別の拠点を攻めてるからね。芸風広げろって事なんじゃない?」
 年の頃十五、六の小柄な少年が突撃銃を担ぎながら言った。黒髪黒瞳で緑色のヘルメットを深くかぶっている。その脇からさらさらした髪が覗いていた。名を山門浩志という。
「素敵れでぃ〜としてはご期待にお答えしたい所なんだけど、どうしたもんかなヤマト軍曹。良い知恵あるかい?」
「部屋の中にありったけの火力を叩きこんで爆殺」
「生憎とその火力が残っていない。弾薬切れだ」
「じゃあ人間火力で」
「能力者、か?」
「ここまで来たら正面から押すしかないよ。僕の分隊が突っ込む。それでキメラは倒すから後はよろしく」
「‥‥勝算は?」
「ULTの傭兵は無敵さ。だよね、皆?」
 少年はくるりと振り返り、傭兵達に言ったのだった。

●参加者一覧

フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

「やれやれ、人間火力呼ばわりたぁ、人遣いが荒いぜ」
 軍曹のヤマト少年の言葉を受けてアンドレアス・ラーセン(ga6523)が肩を竦めてみせた。
 一方の、アッシュ・リーゲン(ga3804)はひゅうと口笛を鳴らす。
「ハッ! 言ってくれんじゃねぇの。そんじゃあその期待に応えさせて貰うぜ」
 しかし軽口を叩きつつも胸中は複雑だ。若者が戦争に染まってゆく姿を見るのは、そう好きなものでもない。
(「ますます兵隊の顔になっちまいやがってー」)
 フェブ・ル・アール(ga0655)もまたそんな事を思った。
「‥‥気に喰わねーな」
 女はぼそっと呟く。それは他の誰にも聞こえぬ程度に小さな声であったが。
「ヤマト殿にそう言われると‥‥何か癪だな。まぁ、期待に応えれるよう頑張るさ」
 皐月・B・マイア(ga5514)が言った。
(「言うようになったな‥‥不覚にも、頼り甲斐を感じてしまうなんて‥‥はぁ」)
 と胸中で呟き嘆息する。
「その期待には答えないといけないな? 勝利し、美女をこの手に抱くのが真の勝者と言う者だよヤマト軍曹?」
 SMGを担ぎつつクラーク・エアハルト(ga4961)が言った。
「僕の分隊とは、山門君も立派になってお兄さんは嬉しいですよ」
 ラルス・フェルセン(ga5133)がグラスを直しつつ言う。
「‥‥と言ってる場合ではありませんね。素敵れでぃ〜のご期待に副うべく、力を尽くしますか」
 傭兵達は状況の確認を開始する。
 翠の肥満(ga2348)は通路の曲がり角まで進むと、その壁に背を預ける。フェイスマスクは引き上げている。煙草を咥えつつ手鏡を使って部屋の中の様子を窺う。
「確認された蟻は六匹程度‥‥ここから視認できるのは一、二‥‥三匹、か」
「通路は‥‥あんま激しく動くには向かないッスね」
 六堂源治(ga8154)が地形を確認しつつ言った。なかなか狭い。部屋の中はもう少し高いが、通路などでは剣を上段にふりかぶるのは難しそうだ。
「虫型キメラにはあんま良い思い出が無いんスよね‥‥また泥仕合っぽくなりそうッス」
 かつてのバルカン半島での戦いを思い出し六堂は溜息をつく。
「室内戦は野外とは勝手が異なるだろーから、注意しねーとな」
 突撃銃を背負いノビル・ラグ(ga3704)。ちらりとヤマトを一瞥する。
(「それにしても、ヤマトって俺とそんなに年齢違わないのに、分隊長ってスゲーな〜。きっと裕子みてーに強いんだろーなっ!」)
 そんな事を思う。確かに、激戦地の生き死には激しい。一年以上を生き抜いているヤマトは兵士としてはそれなりだろう。が、あの破壊神並を求めるのは――些か酷なような気もする。
「バグア兵はディアドラ小隊に任せちまっても良いんだよな?」
「ええ、その予定です」
 そんなノビルの胸中を知ってか知らずか、ヤマトは少年の問いに頷いて言う。
「人間を相手にするなら、軍はプロですから。任せてもらって問題ありません」
 それにクラーク・エアハルトが言った。
「そうですね。ただ、可能ならバグア兵の掃討にも参加しますよ。我々が参加している方が、そちらの人的被害が減らせるのではないですか?」
「それは‥‥」
 ヤマトは上官を見る。
「どうですか、ディアドラ中尉殿?」
「うん、そうだな――だがその場合、人間同士の戦いになるぞ?」
 ディアドラはクラークを見据えて問いかけた。
「問題ありません」
 青年はそう答えた。
「他の皆は?」
「右に同じく」
 と翠の肥満。
「ついでだ、余力があれば奥まで一気に潰しちまうさ」
 と鈍名 レイジ(ga8428)。一同、バグア兵の鎮圧にも協力する予定のようだ。
「そうか。なら協力を頼む」
「中尉殿」
 フェブ・ル・アールが言った。
「なんだ?」
「制圧は了解しましたが、ただその前に、キメラを撃破した後は、敵兵への降服勧告を進言します」
「勧告か‥‥そうだな、解った。フェブに一任する。やってくれ」
「はっ」
 一同はさらに細部を打ち合わせ手筈を整える。
「それじゃあ姉さん。誰も犠牲にならないように頑張るから‥‥行ってきます」
 マイアがディアドラに言った。
「マイア、無理はしないようにな。退くべき時は退くように、精神力だけでは覆せないものもある」
「はい」
 少女はこくりと頷く、そしてヤマトを見ると。
「では行くぞヤマト殿」
「あいよ」
「勝手に死ぬんじゃないぞ。死んだら――」
「死んだら?」
「墓前で大泣きしてやる」
 少年は少し驚いたようにしてから、
「そりゃあ‥‥死ぬ訳にはいかないね。冥土からでも呼び戻されちまう」
 言って笑い、軽口を叩いた。突撃銃を鈍い音と共にスライドさせてロードする。
「僕は、三途ライフはゆっくりするって決めてるんだ」
 傭兵達もまた己の武器を一斉に構えた。銃器が鳴らす金属の音が連続して通路に響く。
「状況を開始する。突入だ」
 ヤマト分隊の傭兵達が行動を開始した。

●戦闘の開始
「地下施設に籠城か‥‥蟻人キメラにゃ誂え向きだな」
 分岐点、北へと延びるT字路の左右に立ち、鈍名レイジが呟いた。
「『蟻』なだけあって、地下がお好みってトコか?」
 アサルトライフルを構えてノビル・ラグ。
「何の冗談か兵隊アリ、か‥‥せいぜい仲良くしておこう」
 アッシュ・リーゲンがふっと笑って言う。左手に盾を持ち、右足を地について片膝立ちでシエルクラインを構えた。
 翠の肥満とクラークはそれぞれ手鏡とナイフで通路から覗かれる敵の位置を確認し、知らせる。
 飛び道具を持った傭兵達、ノビル・ラグ、アッシュ・リーゲン、翠の肥満、クラーク・エアハルト、ラルス・フェルセン、皐月・B・マイアは通路の分岐点から身を乗り出すと、一斉に射撃を開始した。
 それぞれが構えるのは拳銃、小銃、機関銃だ。猛烈なマズルフラッシュが薄暗い通路を明滅させ、轟音が閉所に鳴り響き、銃弾の雨が北部屋の内部へと襲いかかる。
(「少しでも前衛が突入し易い様、第一射で可能な限りダメージを‥‥!」)
 ノビル・ラグは胸中で呟きつつアサルト・ライフルの反動を抑え込みながら銃弾を猛射する。
 蟻人達は初め部屋の中から酸を飛ばして反撃していたが、密度の高い射撃の前に抗しきれず、左右へと散って射線を外した。部屋内に籠る構えだ。
「流石に簡単には出てきません‥‥か!」
 ラルスが光輝く腕にSMGを構え、フルオートで射撃しながら呟く。しかし、押し込めはした。
「OK、今です! ゴー・ゴー・ゴーッ!」
 敵からの反撃が沈黙したのを見て翠の肥満が仲間達に手信号で合図を送る。
「突入ッス!!」
「よっしゃ、GOGOGOGO!!」
 六堂源治、フェブ・ル・アール、鈍名レイジの三名が刀剣を手に一気に通路へと躍り出て駆ける。手に構える武器が淡い輝きに包まれ宙に残光を引く。
「ったく、無駄に怪我すんじゃねーぞこのバトルジャンキーどもが! 援護の手ぇ足りねぇっつーの!」
 戦士達の武器を強化したアンドレアス・ラーセンはにやっと笑いつつ軽口をその背へと送った。
 北部屋の中に一番に飛び込んだのは全速で駆けた六堂源治だった。六体の蟻人は即応し、駆けこんで来た六堂へと向けて四方から一斉に酸を飛ばした。嵐の如き水柱が六堂へと襲いかかる。
「ちっ!」
 六堂は腕を掲げて顔面をかばった。酸が次々に命中する。青年は後続の楯となるべく進み、入口では酸を受け、内部に入ってからは回避を試みた。しかし数が数である、猛烈な酸が男の身体を焼き、白煙を噴き上げた。皮と肉が溶け、六堂は瞬く間に血達磨になってゆく。一気に半死半生だ。
「オラァ!! オレが相手ッスよ!!」
 酸の混じった血をまき散らしながら六堂は日本刀を振り上げ、駆ける。西側、手近な距離にいた蟻人の一匹へと肉薄する。蟻人Aは踏み込んでくる六堂に対し硝子戸を掻いたような奇声を発し、手に持つ槍の切っ先を繰り出した。
 六堂は鋭く喉元へと伸びてくる穂先に対し刀を右に払った。がぁんと鈍い音と共に槍が横へと逸れる。男は足を止めずそのまま突っ込む。蟻人は槍を引きもどしながら後退しようと動く。六堂は手首を返し、素早く踏み込みながら刀を左へと振るった。烈閃。切っ先が蟻人の腹と腰の隙間へと入る。光輝く切っ先が右から左へと抜けた。何かを断ち斬る手応え。蟻の体液が噴き出す。六堂は間髪入れずに刀を最上段へと振り上げ落雷の如く打ち降ろした。蟻人の肩に命中。体を捌いて連打、連続攻撃。振り下ろされる太刀を蟻人は槍の柄で受け流す。
「てめェの相手は俺だ!」
 六堂に続いて部屋に突入した鈍名レイジは壁沿い、東へと走る。目から火花のオーラを散らし、肉厚の大剣を構え蟻人Bへと男は疾風の如く斬りかからんとする。蟻人Bは素早く槍を構えるとレイジの足を払うように薙ぎ払いを繰り出した。レイジは軽く跳躍してかわす。宙で肉厚の大剣を振りかぶり、練力を解き放って豪力を発現させる。突進の勢いと落下自重を乗せて打ち降ろした。蟻人は槍の柄を立てて受け止める。轟音と共に火花が散り、蟻人の身が後方へと吹き飛んだ――否、自ら後ろに跳んだか。蟻人は着地するとすぐさま前方へと飛び出し、流星の如く猛烈な速度の突きを連射する。レイジは大剣を立てて穂先を逸らし、身を捻ってかわし、踏み込みながらかわして、蟻の胴を流し斬った。鈍い音と共に蟻人の甲殻が陥没する。
 部屋の中央、楯を構え低い姿勢でフェブ・ル・アールが突っ込む。蟻人Cが槍を振り下ろした。フェブは楯でいなす。鈍い音と共に重い手応えが腕に伝わる。
「ちぇすとー!」
 気合の声と共に蛍火を腰だめに構え、刀身に爆熱の光を纏わせる。全開の練力、女は蟻人に肉薄すると渾身の力を込め、体当たりするようにして切っ先を繰り出した。交錯。激突。紅蓮の刃が蟻人の装甲を砕き、破り、貫き通す。フェブ・ル・アールは刀身を掻きまわして引き抜いた。腹から体液を吹き出しながら蟻人がよろめく。女は刀を振り上げ、後退しながら袈裟斬りに叩き斬った。紅蓮に輝く刃が蟻人の肩口から入り甲殻を砕き、斬り裂きながら脇腹へと抜ける。甲殻の破片が飛び、体液が噴き上がった。初撃でペースを握ったフェブは、さらに体を切り返すと、息をつかせる間も与えずに竜巻の如き猛連撃を加える。
 一方、前衛に続いて部屋の中に踏み込んだ翠の肥満は部屋の中を駆けつつ、フェブの側面へと回り込もうとしている蟻人Dへと目にも止まらぬ速度でライフルの銃口を向けていた。練力を全開にして発砲。跳ね上がる反動と共に銃声が鳴り響き、勢いよく弾丸が飛んだ。回転するライフル弾が蟻人の胴殻を突き破り、ぶち抜いて、体内へと潜り込んだ。良い威力だ。翠の肥満は衝撃に足を止めた蟻人へとさらに肩、腕を狙って連射する。命中。銃声がなるごとに甲殻の破片が散る。蟻人は翠の肥満へと顔を向け、怒りに瞳を燃やし、顎を開いて酸を放射した。元テロリストの男は部屋の中を駆け抜け、回避する。連続して吐き出される酸が乱立するガラスのケースに命中した。
「間合いに注意しつつ、撃つべし! 撃つべし!」
 部屋に飛び込んだノビル・ラグは影撃ちと強弾撃を使用しながら、翠の肥満からの攻撃を受けている蟻人Dへと射撃を重ねる。アサルトライフルから、ライフル弾丸が勢い良く放たれキメラの甲殻を強打する。一方、装備をスコーピオンに切り替え突入したアッシュ・リーゲンは蟻人Eへと急所突きを発動させつつ弾丸を連射した。甲殻の隙間を狙う。蟻人は痛撃を受けつつも顎を開き酸を放出した。アッシュは左の盾で受けてかわす。
 その間にラルス・フェルセンはSMGからエネルギーガンと蛍火へと切り替えて突入した。レイ・エンチャントを発動させ、エネルギーガンの銃口を蟻人Fの頭部へと向ける。
「通行の邪魔なんですよ」
 エネルギーガンから光が膨れ上がり、強烈な破壊力を秘めた光弾が蟻人へと向けて飛びだした。蟻人は頭部をふって光弾を間一髪でかわす。光弾は後方にあったガラスケースに炸裂し、破砕音と共に煌きを撒き散らした。硝子と液体が宙に舞う。蟻人が酸を撃ち返す。ラルスは体を沈めると横に飛んだ。左側面を酸が通り過ぎてゆく。青年は跳んだ宙でエネルギーガンを構えると連射した。二連の光弾が蟻人の顔面に炸裂し、爆裂を巻き起こす。蟻人Fの顔表面の破片が飛んだ。
 クラーク・エアハルトはSMGから45口径リボルバー・アラスカ454へと得物を変更している。撃鉄を上げ、両手で肘を伸ばし構える。蟻人Dへと狙いをつける。発砲、発砲、発砲。巨大な炎が銃口から伸び、猛烈な反動がクラークを貫く。上へと跳ね上がるリボルバーを抑え込んで連射。轟音と共に弾丸が飛んだ。弾丸は蟻人の腹部の甲殻を砕き、突き刺さった。破片と共に体液が迸る。
「硬いか! だが、そんなもので止められると思うな!」
 シールドを構えて突入した皐月・B・マイアは布斬逆刃を発動させ、光輝くS‐01を片手に構える。蟻人Dの胸部へと狙いをつけ発砲、連射。光を纏った弾丸が蟻人の罅割れた胸郭を完全に撃ち砕き、貫いた。断末魔の奇声を発しながら蟻人Dが吹き飛び、ガラスケースを破砕しながら倒れる。もう、動かない。
「中央、左だ! ぶっ放すぜ!」
 アンドレアスが言って蟻人Eへと練成弱体を発動させた。見た目には変化はないので、傭兵達には解らない。しかし、入った。効いている。次いでアンドレアスは超機械から電磁嵐を解き放つ。荒れ狂う蒼光の嵐は蟻人Eを呑み込み、周囲のガラスケースを破砕し、強烈な破壊を撒き散らした。
「あ、やべ」
 飛び散るガラス片にアンドレアスは呟きを洩らす。一応、物損は抑えたく考えているようだ。その間にヤマトは腕に光を集めて突撃銃を構え、蟻人Eへと射撃している。
「OK!」
 アンドレアスの声を聞いた翠の肥満は標的を蟻人Eへと変更した。ライフルを構え、狙いをつけ発砲、リロードしながら連射。練成弱体により脆くなった甲殻を強烈な破壊力を秘めたライフル弾が次々に撃ち砕いてゆく。
 蟻人Bと斬り合う鈍名レイジ、流し斬りで攻撃を加えつつ、吐き出される酸と槍をかわし、大剣を構えて練力を全開に解き放つ。紅蓮の光が巻き起こった。
「汚ぇんだよ、とっとと黙らせてやるぜ‥‥!!」
 レイジは裂帛の気合と共に赤い旋風となって踏み込み、蟻人Bの脳天めがけて大剣を振り下ろす。蟻人Bは槍を掲げ柄で受け止める。全霊を込めた一撃は、ガードに掲げた柄をぶち折り、蟻人Bの脳天を強打し、破片を飛ばした。
 だが蟻人B、ダメージを減じさせたか、まだ動く。至近距離から酸を吐き出す。レイジは回避に動く。かわし損ねた。右肩に酸をあび、服の隙間から染み込み、肉を焼いて煙を噴き上げさせる。
 蟻人Cと格闘するフェブ・ル・アール、至近距離から放たれる酸を盾でかわし、後退する蟻人から放たれる突きを斜め前方へと踏み込みながらかわし、太刀を霞に構えて水平に払った。鈍色の刃が蟻人の首の左から入って右に抜けた。蟻の首から液体が噴出し、その頭部が宙へと飛び上がる。
 傭兵達は猛攻を加える。蟻人Eを狙い、ノビル・ラグとヤマトはアサルトライフルで、アッシュはスコーピオンで、クラークはアラスカ454で、マイアはS‐01で、アンドレアスは超機械で、猛然と集中射撃する。飛び道具の利点の一つは、複数の攻撃を一度に一点に集中可能だという事である。蟻人Eは六人の能力者の猛烈な射撃によって蜂の巣にされ、弾雨と電磁嵐の中、死の舞踏を舞いながら崩れ落ちた。
 一方、ラルスは蟻人Fへ向けてエネルギーガンを連射し、部屋内を走って反撃の酸をかわしている。蟻人いFはラルスよりの光の弾丸を受け、肩を爆ぜさせ衝撃によろめている。それに対し蟻人Eを葬った六名が狙いを転ずる。射線を問題ない。猛射。一斉に電磁弾雨の嵐を放ち、これを瞬く間に葬り去った。
 その攻防の間にも六堂と格闘する蟻人A。後退しながら槍を繰り出す。六堂、刀で打ち払う。蟻人の連続攻撃。青年は身を捻る。穂先が胸の表面を切り裂きながら後方へと抜けてゆく。かわした。青年は左手を太刀から離すと腕を槍の柄へと絡めた。武器の奪い取りを試みる。力比べ。蟻人が口を開いた。至近距離から六堂の顔面へと向けて酸が襲いかかる。六堂は槍を手放すと、横っ跳びに飛び退いた。からくもかわす。蟻人が槍を振り上げ、振り下ろした。六堂は刀を掲げるように構え受ける。穂先が掲げた刀に激突し、刃の表面を滑って火花を散らし、鈍い音と共に流れてゆく。槍を捌きながら踏み込む。勢いのまま肩を蟻人にぶちあてる。赤壁が展開する。衝撃は通る。蟻人がよろめいた。六堂は刀を最上段に振り上げる。爆熱の輝きが刃に宿った。
「我流・兜割り‥‥!!」
 練力を全開にし、上段から頭部を狙って振り下ろす。真紅の太刀が蟻人の額に炸裂した。鈍い手応えと共に破片と体液が飛び散る。よろめく蟻人に対し刀を振って、閃光の嵐を巻き起こす。連斬。甲殻が砕け蟻人がよろめいた。太刀を横薙ぎに払う。蟻の首が飛んだ。
 蟻人Bは酸を浴びて煙を吹き上げるレイジへと向けて顎を開き、さらに酸を連射する。レイジは頭部の動きを冷静に見据える。上体を反らしてかわし、左にステップしてかわし、身を伏せてかわす。軌道を読んだ。大剣を脇構えに、蟻人の側方へと駆け酸を掻い潜る。剣の間合いに踏み込み、練力を解放し、身を捻りざま体重を乗せて横薙ぎの斬撃を放つ。コンユンクシオが蟻人の胴に直撃し、今度こそ吹き飛ばした。蟻人の体躯が部屋の壁に激突し、反動で落下する。男は床にうつぶせに倒れた蟻人へと大剣を打ち込み、叩き潰した。


「お前らの切り札は落ちた! 投降しろ!!」
 キメラを殲滅した一同は扉を破って進み、さらに奥の部屋に居る親バグア兵へと投降を呼びかける。バグア兵達は初めこれを良しとしないそぶりを見せたが、フェブ・ル・アールが説得を重ね、ついに折れた。それにより地下施設に籠り抵抗を続けていたバグア兵はUPCへと降伏し、捕虜となった。
 その際にクラーク・エアハルトは厳重なボディチェックを行い、捕虜たちの武装を解除させた。数名から隠し持っていた爆薬が発見された。火薬の量にもよるが密閉空間での爆裂の威力は言うまでもなく、能力者の生存確率は個人の頑強さによるが、非能力者の場合は生存の可能性は著しく低い。バグア兵達は騙し打ちの機会を狙っていたようだった。爆薬の発見時に彼等は暴れたが、しかし元空挺陸士は無事にそれを治めた。
「一体、何の研究をやっていたんだか‥‥」
 クラークは最後に室内を振り返り、そう呟いた。一同は資料の調査なども行ったが、重要な機密は処分されてしまっていたようだった。


 地上、茜の光が西より差し込み、大地に在る者達の影を東へと落とす。
「お疲れ様」
 UPCが仮拠点にしているビルの一室、アッシュ・リーゲンがテーブルについているとディアドラが珈琲の入ったマグカップを差し出して来た。受け取って口をつける、割と熱めだ。女はそのまま向いの席にかけ、同様にカップに口をつけていた。
「そうだ。戦場じゃあんまハデなの着けられないとは思うけど、これ位なら大丈夫だろ?」
 アッシュが木製のバレッタをディアドラへと差し出して言った。
「おおー‥‥私に? これは、髪留めかい? もしかして手作りっぽい?」
 受け取ったそれをしげしげと見やって女は言う。桜の紋様が象られている。
 アッシュは頷く。曰く、さる工房で彼自ら彫りを入れたらしい。
「凄いな。さすがスナイパー、器用なもんだぁ」
 言って、金髪の女は後ろの髪を結い上げるとバレッタで留めて、くるりと横を向いて見せた。
「どうだ、似合うか?」
 男はふと、ここで「いや、似合ってねぇ!」とか言うとどうなるだろう? という好奇心が少し沸いたが無難な答えを返しておいた。
「ふっ、そうか、有難う!」
 アッシュの答えに、にこにこと上機嫌に笑ってディアドラは礼を言った。実際、そう悪いものでもない。
 男はその笑顔を見ながらふと思う。懐から煙草を取り出して口に咥え火をつけた。
「そういや‥‥前々から気になってたんだけど、な」
 煙を吸いながらしばし視線を彷徨わせてから言う。
「‥‥どういう経緯で軍人になったんだ?」
「軍人になった経緯?」
「ああ。話したくないってんならムリには訊かねえが」
「経緯、か」
 ディアドラは呟き、珈琲を啜った。換気扇の回る音が静かに響いていた。
「まぁ‥‥別段、隠すことでもない」
 女は瞳をあげると言った。
「よくある話さ。面白くはないし、この時代じゃたいした話でもない‥‥私は、学生時代はトーキョーの大学でそれなりに楽しくやってたんだけど、ある日、空からビームがびびーっと飛んできてね。色々、吹っ飛んだ。その時、私は、皆で楽しくやるには、世の中が平和でないと駄目だなぁって思ったんだ。命は一つ。消えたら二度と、帰って来ない。だから銃を取った」
 女は少し遠い目をしてそう言った。


「アッシュさん、ドイツに行った時に作ったバレッタは中尉に渡したかな‥‥?」
 クラークは喫煙室の方を一瞥する。壁があるので見えないが、多分、渡しただろう。そんな事を思いつつメンバーにコーヒーを淹れて配る。
「ああ、どうも」
 翠の肥満はカップを受け取ると口をつけ珈琲を啜った。適温、適濃度、この珈琲は美味い。珈琲や茶などは淹れ手で味が変わるものである。
「さすがに美味いですな」
「有難うございます」
「しかし、ありゃ何の溶液だったんだかな。どうせロクなモンじゃねぇんだろうけど」
 アンドレアスは珈琲を飲みながら施設にあったガラスケースを思い返して言う。残された試験管は回収され、検査にまわされていた。
「あの地下施設って、あからさまに何かの研究室だったよな?」
 ノビル・ラグがヤマトへと問いかけの視線を送る。
 軍曹のヤマトはしばし逡巡したようなそぶりを見せていたが、一同の視線が集まると、考えるようにしながら口を開いた。詳しいデータは消去されてしまっているようですし、本格的な調査結果まだなので、確かな事は言えませんが、と前置きしてから言う。
「キメラの生成プラントであったのではないか‥‥と我々は予想しています」
「キメラの生成プラント?」
「はい、そしてあのガラスケースの液体は、ある種のキメラの培養液であったのではと」
「培養液? ‥‥つまり、あのガラスケースの中で、キメラが育てられていたと?」
 マイアはヤマトへと問いかけた。少年は少女を見て頷く。
「まさに蟻の巣ならぬキメラの巣だったって訳か‥‥」
 レイジが呟いた。あの中でキメラの幼生が浮かんでいる姿を思い浮かべてみる。あまり気持ちの良い想像ではない。
「まぁ〜、実際が何であったにせよ〜‥‥我々はその施設を潰したのですからー、戦いは有利に進んでいる筈ですー」
 ラルスがスロウリィな口調で言った。
「そうだにゃー、まだ抵抗してる部分もあるって話だけど、中央の方もあらかた制圧したらしいし、完全制圧も時間の問題かにゃ」
 ずずーっと珈琲を啜りつつフェブ・ル・アール。
 彼女の予想通り、やがてUPC軍はパランカ・ラヤ市の完全制圧に成功する事となる。


 〇八年、八月初頭。カリマンタン島におけるバグア側の最大航空戦力を保有していたパランカ・ラヤ市および同基地は陥落した。
 航空戦力で優越したUPC軍は、以降の戦いでのイニシアチヴを握り、空陸で勝利を重ね、優位に戦いを進めてゆく。
 その夏、カリマンタン島の解放は目前だと、誰しもが思っていた。


 了