●リプレイ本文
砂塵舞い、風が吹き荒ぶ荒野の地。ここはユーラシア大陸がインドの辺境。天井の空けられた二台の軍用車が、真夏のぎらつく陽の元を並走し、土煙をあげて走っている。風を切るように。
「でかい樹に続いて今度は巨人ですか‥‥最近大きなものに縁がありますねぇ」
車両の後部座席に座る二十歳程度の青年が向かい風に黒髪を暴れさせながら呟いた。名を叢雲(
ga2494)という。先日は九州で天をも貫く大樹を切り倒してきたが、今度は八本の刀を持つ体長五メートルを超える巨人が相手だという。
「巨人の兵は八つ手を持つと‥‥出来るならKVで対峙したい相手ですが、出せないなら仕方ありませんね」
黒いグラスを光らせ、銀髪の少女が言った。名をヴァシュカ(
ga7064)という。アルビノである為、常にサングラスをつけていた。敵は巨大だが、戦力の配置の関係で今回はナイトフォーゲルは出せないらしい。傭兵達は生身で体長五メートルを超える巨人を相手どらなければならない。
「巨人、ねぇ‥‥場所柄的にも、何かの神様が元なのかな? バグアも色々考えるね」
ヴァシュカと同じく銀髪を持つ不知火真琴(
ga7201)が首を傾げつつ呟いた。二十半ば程度に見える女性だ。叢雲とは幼馴染らしい。
それにこれまた銀髪の青年が言った。斑鳩・八雲(
ga8672)である。
「インドのものをモチーフにしたのでしょうかね? 阿修羅‥‥は六本でしたか」
青年は車両の助手席でふむ、と唸る。多腕の神というのは結構いる。KVの阿修羅は四脚獣だが、神仏の阿修羅は六本腕で描かれる事が多い。無論、八本の腕を持つ仏もいた。
「八本と言うと、色々いますが‥‥バグアは本当に神話や伝承好きと言いますかー、人の弱い部分をついてきます〜からね〜信仰深い者は「神罰」とでも思いそうですよー」
ラルス・フェルセン(
ga5133)が言った。グラスをかけた金髪の若い男だ。スウェーデン出身で、大家族の大兄である。
「うぅ、強そうだよっ、倒せるのかなぁ‥‥」
そう不安そうに眉を寄せるのはクラウディア・マリウス(
ga6559)である。イタリア出身の少女だ。元は良家のお嬢様だという。しかし家は、バグア襲来により没落してしまったとか。
そんなクラウディアに対してラルスは言う。
「生憎とー私はぁ〜目に見える神は信じませんからね〜速やかに、お引取り願いましょう〜あの世へとー」
「わぁ、強気ですねっ」
少女は碧眼をぱちくりとさせて答えた。
「まぁ、これだけの手練れが揃っているのなら、きっと何とかなるはずよ」
二代目の車両に乗る小鳥遊神楽(
ga3319)が言った。表情の変化に乏しく、淡々と素っ気なく喋る女だ。まだこちらも若い。二十歳程度だろうか。
「話によると、五メートル以上、だっけ? 生身でそこまで大きいキメラと戦った経験はさすがにないけど‥‥及ばずながらあたしも力を尽くさせて貰うわ」
「相手にとって不足無し!! 鍛えに鍛えた「刀」の冴え、見せてやるッスよ!!」
小鳥遊の言葉にうんうんと頷き、拳をふりあげて六堂源治(
ga8154)が言った。総髪の若い男だ。凄味のある外見をしているが、女子供には優しい。
「そうだな。俺達の力を見せてやろうぜ」
緋沼 京夜(
ga6138)がコキコキと首を鳴らしながら言った。今回は親しい友人も多い。断じて傷つけさせるわけにはいかない。盾役の本領を発揮せんと気合を入れている。
「相手はパワーがありそうです。近接戦闘の際には注意してくださいね」
スナイパーのソード(
ga6675)が言った。黒髪の若い男だ。
「了解。そっちも援護はよろしく頼むぜ」
と答えて緋沼。
「ええ、こう言ってはなんですが、狙撃相手としては面白そうな相手です。どこまでやれるか試させてもらいますよ」
ソードは言って、全長1369mmのアンチマテリアルライフルの銃身を撫でる。俗に対物狙撃銃と呼ばれるそれだ。銃種としての破壊力はトップクラスの恐るべき兵器だが、SES兵器としての威力はどうか。
軍用車は砂煙をあげて荒野を走る。地平の彼方に巨大なキメラの影が見えていた。
●八刀巨人
「街を守る為にも頑張らなくっちゃね!」
軍用車から降り立ち、胸のペンダントを握りしめクラウディアが呟いた。亡父から贈られた星型のペンダントだ。
「パパ、私に力を貸してね」
張りのある声音で決意を込めて言う。苦境にあっても明るさは忘れないように心掛ける。
「今回は知り合いが多いですね。気心の知れた仲間は心強いものです」
出発前、ヴァシュカはそう言っていた。今回の依頼で集まった傭兵には互いに顔見知りの者が多かった。傭兵業界も広いようでいて案外狭いという事なのか。
傭兵達は手早く作戦を打ち合わせると二名一組に分かれて敵に当たる事とした。六堂と小鳥遊、叢雲と不知火、ラルスとクラウディア、緋沼とソード、ヴァシュカと斑鳩の計五組だ。
「小鳥遊さん! 今回も宜しくッス!」
六堂源治が言った。
「ええ、背中は任せて」
小鳥遊が頷く。傭兵達は車両から降りると、運転手に離れて待機するように告げて、覚醒し、得物を手に巨人へと向かった。敵の人型キメラは、情報通り五メートル以上の巨躯を持ち、八本の腕に大刀を持っている。筋骨は隆々で、手足は大木のごとく太く、引きしまっている。目鼻立ちの彫りは深く鋭く、鬼神の象によく似ていた。
「八刀流の使い手とはまた、器用なキメラもいたものですねぇ」
覚醒により紫光を左腕に纏った斑鳩が彼方を見やって呟きを洩らした。
「手が多ければ良いってものじゃありません」
額の中央に青白く光るルーンを現しラルスが淡々と言葉を返した。エイワズの文字だ。瞳も緑からダークブルーへと変化している。
傭兵達の接近に巨人の方でも気付いたようだった。巨人は天に向かって一つ咆哮をあげると、八本の太刀を振りかざし、地響きをあげて走り始める。
傭兵達が前進し、巨人が突進し、距離が詰まってゆく。
「星よ、力を‥‥」
接敵前、クラウディア=マリウスは星を繋いだ光の腕輪を出現させ、胸のペンダントを手にし呟きを一つ洩らした。六堂の刀、小鳥遊のサブマシンガン、斑鳩の刀へを視界に捉えると、超機械を発動させかける。三人の武器がそれぞれ淡い光を纏って輝き出した。
一方、ソードはアンチマテリアルライフルで狙撃を敢行せんとする。対物狙撃銃は反動が大きい為、地面に設置して撃たねばならない。動きながら射撃するのには向いていない。射程もSES兵器としては長いとはいえ七十。能力者クラスの戦いでは素早い相手では十秒以下、平均しても二十秒もあれば詰められてしまう距離だ。また設置した地点から射程外に出られてしまうことも考えられる。なかなか扱いが難しい。
青年は巨人を速度を読み、射程に入るよりも前に台座を設置し、伏せてスコープを覗きこむ。
「敵、射程内に入りました。射撃を始めます」
呟きつつ、狙撃眼と影撃ちを発動させトリガーを絞る。射程九十より二連射。全長1369mmの銃身から加速する弾丸が撃ち放たれる。猛烈な反動に長大な銃身が震えた。対物狙撃銃から放たれた弾丸は、錐揉みしながら空気を切り裂き、巨人へと向かって伸びてゆく。ソードは回転する弾丸が白い空気の尾を引いて真っ直ぐに飛んでゆくのが見えた気がした。
一発が巨人の腕に当たり、一発が狙い通り巨人の刀身へと炸裂する。メトロニウムででも作られているのか、対物狙撃銃の弾丸を受けても僅かに刃が欠けたのみだ。破壊するのは、やってやれないこともないだろうが、効率は悪そうだ。
(‥‥他を狙った方が良いか)
ソードは胸中で呟き、狙いを変える。
巨人の脚は、でかい分だけあってコンパスが長い。速度自体はなかなか出るようだ。ソードの弾丸を受けながらも瞬く間に距離を詰めてくる。
「意外に速いですね‥‥」
叢雲が呟きながらSMGを構え間合いを計る。距離およそ六十、マシンガンの射程に入った。男はトリガーを引き絞り射撃を開始した。轟く銃声と共に強烈なマズルフラッシュが瞬く。小鳥遊もまたドローム製SMGで攻撃を仕掛ける。二丁のマシンガンからフルオートで弾丸が発射され、猛烈な勢いで飛ぶ。巨人は八本の大刀を正面で交差させ、組み合わせて楯のようにして弾丸を受けながら突き進んでくる。
叢雲は機動しながら、小鳥遊は弾丸を集中させ剣と剣の隙間の一点を狙う。吐き出される弾丸と巨人の刃が激突し甲高い音をたてた。何割かが間を縫ってその奥へと炸裂し巨人の硬い肌を叩く。
ラルスはアルファルを光輝く両腕で構える。左手で弓身を握り、右手に矢を持ち弦を引っ掛けフルドロー。引き絞られた弓身がぎりぎりと音を立てた。銃弾の嵐を受けながらも前進してくる巨人へと狙いを定め、放つ。連射。豪速で矢が飛んだ。強烈な矢撃、破壊力は抜群だ。一本の矢が巨人の刀に弾かれ、一本の矢が肉をぶち破って突き立った。
弾丸と矢を受けながら巨人が咆哮をあげる。距離四十、不知火真琴はスコーピオンを構えて狙いをつけ、トリガーを絞り込む。反動を抑え連射。足元を狙う。二発の弾丸が巨人の腿に当たった。
「銃はあんま趣味じゃないんスけど‥‥」
六堂は右手に刀を、左手にS‐01を構え射撃。銃声と共に弾丸が飛び出す。甲高い音共に太刀に当たって弾かれた。
距離二十、ヴァシュカは巨人の動きを見据えながらレイ・エンチャントを発動させる。片手でエネルギーガンを構え狙いをつける。狙いは肩部。トリガーを引き絞る。四連射。閃光が解き放たれた。猛烈な破壊力を秘めた光弾が巨人に炸裂し、その肩を爆ぜさせる。
近距離まで巨人が迫る。どうやら、巨人に飛び道具はないらしい。八つの大剣を楯にするように互いにクロスさせたまま、地響きをあげて突っ込んでくる。
「私は、私に出来ることをっ」
クラウディア=マリウスが照明銃を取り出して構え、巨人の顔面へと狙いを定めて撃ち放つ。閃光の弾が音を立てて飛んだ。
巨人は刀で飛来する閃光弾を受ける。荒野に光が炸裂した。巨人の動きが一瞬止まる。閃光に注意を払っていたラルスやサングラスのヴァシュカなど以外は、多少、傭兵達も閃光に目をやられた。が、閃光の影響で白みがかかった視界の中でも各自散開すべく走り出す。
不知火は巨人の左手、九時の方向から回り込むように瞬天速で一気に加速して間合いを詰めた。低い姿勢で踏み込み、小太刀で巨人のアキレス腱目がけて斬りつける。閃光に巨人の動きが鈍っている。命中。巨人の皮膚が裂かれ鮮血が飛んだ。巨人は咆哮と共に大太刀の一本を不知火へと振り下ろす。少女は素早く飛び退いて回避した。大剣が大地を爆砕し、土砂が舞いあがる。
緋沼は太刀を構え、真っ直ぐに飛びだした。六堂はまた目を顰めつつ、巨人から見て十時半の方角から弧を描くように回り込む。巨人の下半身へとS‐01の銃口を向け発砲。連射。撃ちながら接近する。巨人の急所を一発の弾丸が打った。
斑鳩は側面を取るべく巨人の左側から回り込むようにして前に出る。両手で真デヴァステイターを構え、巨人の足元へと銃弾をまき散らしながら走る。斑鳩も閃光に少し目をやられたか、狙いが甘くなってる。が、元々当てるのは上手い。三連の弾丸が命中する。
射撃と閃光に巨人の動きが鈍っている。不知火は小太刀の追撃を一発入れると、敵の再反撃が来る前に瞬天速で後方へと逃れた。三時方向からスコーピオンを連射する。巨人は太刀の一本を立てて弾丸を受け止める。不知火と入れ替わるよう、緋沼が巨人の正面方向より二刀を構えて迫る。巨人が迎え撃つように太刀の一本を振り下ろした。
「来いよ、タコ野郎」
緋沼は練力を全開にし豪力を発現させる。上から襲い来る太刀に対し、右足で回転するように踏み込み右の蛍火を左へと叩きつける。甲高い音と共に火花が散り、振り下ろされる太刀の軌道がずれる。巨人の太刀が左の肩先をかすめ、服の切れ端が飛ぶ――が、それだけだ。抜けた。巨人の大剣により風圧が逆巻く中、気合の声と共に大地を蹴り、踏み込む。
「てめーの相手はこっちだぜ!」
男は双刀に紅蓮の光を煌めかせ、その身に白炎を纏い、二連の斬撃を放つ。払った蛍火を返す刀で横に薙ぎ、上段から左の蛍火の切っ先を打ち込む。左右から繰り出された蛍火が巨人の胴を切り裂き、突き破り血風の華を咲かせた。
巨人の反撃。二本の太刀で弾丸を防御し、一歩後退しながら竜巻の如く六本の大太刀を振う。緋沼へと大太刀が襲いかかる。緋沼、二刀の蛍火を掲げ待ち受ける。一刀目、左の蛍火で豪力にものを言わせて払う。際どいタイミングで打ち払ってかわす。二刀目、袈裟斬り気味の薙ぎ払い、角度的に逸らせない。右の蛍火を立てて正面から受け止める。刀と刀から火花が散り、鈍い音が鳴り響く。押し切られた。ガードをぶちやぶられ、刃が胴に喰い込み、猛烈な衝撃が身を突き抜けてゆく。青年は自ら後方に飛んだ。緋沼の身が後方へと勢い良く弾き飛ばされる。宙で体を捌き、足から着地。レザーブーツが大地を擦り、土煙が上がる。
巨人が咆哮をあげ、三刀目を振り上げて踏み込む。振り下ろされるよりも早く、弾丸が飛来した。ソードの対物狙撃銃だ。アンチマテリアルライフルの豪弾が振り上げられた巨人の肘に命中、強力な衝撃と共に肉片を飛ばす。
「どう動く? 誰を狙う? よく見るんだ‥‥」
ソードは神経を細く絞り込み、正面の位置の後方より、対物狙撃銃の台座の角度を調節しながら狙いをつける。二弾目、今度は肩を狙って放つ。命中。強力な衝撃力が巨人の身を穿つ。
その攻防の最中、六堂源治は右に太刀を構え、十時半方向から巨人に接近し、一気に踏み込んだ。
「無銘の刀だからって甘く見てたら怪我するッスよ?」
荒野の太陽に照らされた刀がぎらりと輝いた。相手の足元、親指へと狙って切っ先を振り下ろす。命中、刃が食い込む。引き斬る。血飛沫が噴き上がった。その苦痛に対し巨人は刀ではなく、膝を飛ばした。文字通り巨木の幹のような膝が青年の眼前に迫る。
咄嗟に太刀をブロックにあげる。間に合わない。顔面を猛烈な打撃が襲いかかる。鼻骨が鈍い音を立てた。衝撃に仰け反る。巨人が太刀を振り上げる。振り下ろす。
大太刀の刃先をマシンガンの弾丸が叩き、巨人の軸足を斑鳩が抜刀ざま流し斬った。
「斑鳩流抜刀術、空断! ‥‥なんて言うとカッコイイですね」
デヴァステイターの射撃の後、弾丸を追いかけるように青年は飛び込んでいた。噴き上がる鮮血を尻目に、男は呟きを残しそのまま風のように駆け去ってゆく。
弾丸と斬撃の衝撃に巨人が振り下ろす太刀の切っ先がぶれた。六堂は左のS‐01を手放すと左手を日本刀の背に当て、掲げるように斜めに持つ。コンマ数秒後、刃と刃が激突し、滑って火花を散らし、斜め下方へと逸れ、大地を爆砕した。六堂、一撃を受け流すも衝撃に腕が痺れる。
「ちっ、やるなっ。だが、まだまだ喰らいつかせてもらうぞっ!」
態勢を立て直した緋沼が裂帛の気合をあげて接近し二連撃を仕掛ける。
クラウディアは照明銃を撃った直後に駆けだして距離を取った。巨人から見て一時半の方向、射程の関係上、距離はおよそ三十程につけた。超機械を発動させ緋沼に一重、六堂に二重に練成治療をかける。
「いま、回復します! ‥‥癒しの光よ‥‥」
男達の傷が癒え、その身から痛みが引いていった。
「これはボクからのプレゼントです。お釣りは結構です‥‥よっ!」
三時方向へ駆け、位置取ったヴァシュカは、小さく十字を切ると左手に装着した盾を構え右手にエネルギーガンを構え、狙いをつけて射撃する。光の弾丸が巨人の最も上にある腕の付け根に突き刺さり、それを爆ぜさせ血しぶきをとばした。
その間に叢雲もまた九時方向へと走り、貫通弾を装填し、練力を全開にして敵の側頭部へと狙いをつけていた。
「でかけりゃいいってものじゃありません‥‥いい的ですよ!」
青年は吼え声をあげてマシンガンをフルオート射撃する。強烈なマズルフラッシュが荒野に瞬いた。弾丸が次々と巨人の頭部に直撃し、鮮血を吹きあがらせた。巨体が揺らぐ。
ラルスは一時半の方角へと走り、クラウディアの前に立った。巨人へと向き直ると狙いを定め、洋弓を引き絞る。布斬逆刃を発動させて一射。矢が宙を飛び、巨人の肩に突き刺さる。威力の違いを見ようと観察する。正確なところは解らない。が、なんとなく刺さり具合がこちらの方が鈍いような気がした。普通にファングバックルで撃った方が良さそうだ。
小鳥遊は四時半方向に走っていたが、途中、六堂への援護射撃に足を止めていたので位置についたのは少し遅れた。ポジションにつくと、巨人の目を狙ってマシンガンの弾丸を集弾する。巨人は咄嗟に顔を逸らして回避した。肩部へと狙いを転ずる。弾丸が巨人の皮膚を強打する。たまらず巨人は左の一刀を立てて防御した。
叢雲は巨人の側頭部へとフルオートで猛射する。巨人は大剣の一本を顔の側面へと立て防御した。弾丸が甲高い音と共に弾かれる。
不知火は瞬天速を発動させると、瞬間移動したが如き速度で巨人へと突っ込む。鈍く輝く小太刀を翳し、巨人のアキレス腱を目がけて滅多斬りに斬りつける。巨人の右足から血が吹き出し、身が傾き、膝をつく。
小鳥遊は巨人の目を狙ってマシンガンを猛射した。弾丸が巨人の左の眼球を突き破り、鮮血を吹き上げさせる。巨人が咆哮をあげて顔を振った。ラルスは獲物をマシンガンに切り替えると、巨人の右目へとその銃口を向けた。腰溜めに構えて狙いを定め、フルオート射撃を開始する。嵐の如く降り注がれる弾丸が、苦痛に激しく頭部をふる巨人の顔を追尾し、うちの一発がその右の眼球を貫いた。
巨人は両眼から血液を流し、咆哮をあげながら八本の腕をめちゃくちゃに振りまわす。緋沼は真っ正面から向かってくる肉厚の刃に対し、屈みこむように踏み込み、避ける。髪の先がされて宙を舞った。刃を抜けると、素早く駆けて肉薄し、巨人の胴体へと斬りつける。二刀を振っての怒涛の四連撃。烈閃が巨人の身を切り裂いた。
斑鳩は距離を置き、その顔面へと目がけてデヴァステイターを猛射する。巨人の顔が放たれた銃弾に穿たれ血しぶきが飛ぶ。衝撃に巨人の動きが鈍った瞬間に踏み込み、大刀の間合いの内側へと入って、右手に持つ刀で斬りつけた。鈍い手ごたえと共に深々と肉を断ち切る。
「貴方の命日教えてあげます。それは‥‥今日です」
小さく十字を切ってヴァシュカが言った。最早勝敗は明らかか。ヴァシュカはエルギーガンを構えると巨人の腕の付け根を狙い閃光を解き放った。光の奔流が空を焼いて飛び、巨人の腕の付け根を二箇所、吹き飛ばす。鮮血をまき散らして千切れ、太刀と共にその腕を大地に落とさせる。
満身創痍の巨人に対し、六堂源治が練力を全開にして飛び込んだ。振るわれる太刀を掻い潜って踏み込み、身を崩した巨人の膝へと跳躍する。さらに巨人の膝を蹴りつけて上空へと飛ぶ。宙で体を捌き両手に構えた日本刀に爆熱の輝きを巻き起こす。
「【八刀巨人】‥‥その首頂くぜ!!」
裂帛の気合と共に叫ぶ。空から落下し全体重と練力を込めて巨人の延髄へと太刀を叩き込んだ。研ぎ澄まされた無銘の太刀は巨人の肉を切り裂き、骨を砕き、深々とその刃を喰い込ませた。
しかし一息に切断とはいかなかった。二本刀を首に喰い込ませ、それにぶらさがった六堂は、足を振って大きく身を振る。体の反動を利用して、刀を抜きながら、引き斬る。
「我流・首狩り‥‥!!」
刃が上から入って下へと抜けた。噴水の如く、血柱が噴き上がる。巨人の首が荒野に落ちた。一瞬の間の後に、主を失った胴体もまた、鮮血をぶちまけ、地響きをあげて地に倒れる。かなりの生命力を見せた巨人だったが、さすがに絶命したらしくピクリとも動かない。
「はうぅ‥‥怖かった‥‥というか、今も結構すぷらったぁ‥‥」
クラウディアが放心したように、大地に膝を落とし、ぺたんと尻もちをついたのだった。
かくてインドの荒野に現れた八刀の巨人は退治され。街は危機を脱した。
巨大キメラをも相手に圧倒する傭兵達の強さは、基地でも評判となり、ラストホープの名はインドの辺境にも知れ渡ったという。