●リプレイ本文
「はぁい、胡蝶さん。相変わらず美声ね」
皇 千糸(
ga0843)が無線に応えて言った。
「貴女もネ。千糸いけるアルか?」
荘胡蝶が凛とした声で言った。
「ゲートが開き次第出れるわよ‥‥ホント続くわね」
ご飯の種が定期的に現れるのは有り難いんだけど、と機器をチェックしつつ少女は述べる。
「ここは楔みたいな形になってるからネ。そろそろ反撃もしたい所ヨ。現状だと無理そうだけど。ともかく、今回もよろしく頼むネ」
「了解、任せておいて」
中国が河南省麦県、キメラ接近の報を受けた荘胡蝶は迎撃を選択し、それを受け鉄騎衆はKVで出撃した。鋼鉄の翼は空へと飛び立ち、やがて街の北方に広がる古戦場へと舞い降りた。バーニアが黄砂を巻き上げ、砂が広がり、そして風に吹かれて東へと流れてゆく。西からの風が強い。
ガンメタにイエローの稲妻模様のラインが入ったS‐01はその眼窩を以って彼方をみやった。
「風が強いが、スナイパーとしちゃあ、燃える状況ではある」
醐醍 与一(
ga2916)はメインカメラが映し出す映像に対し淡々と呟いた。西よりの風は傭兵達に希望を運ぶだろうか。
地上に降り立った各機のカメラは、黄塵吹き荒ぶ荒野の彼方より来る体長五十メートルをこえる超大型キメラの姿を捉えてた。四足の首長の竜を象ったキメラは、その体躯に無数の砲門を備え、地を揺るがして歩いている。
「今、バグアに密かな恐竜ブーム‥‥? まあ、こう言う類の恐竜を砲台でハリネズミにするとは、連中もなかなか浪漫が分かっているよねェー」
先日も恐竜キメラを相手に戦ったという獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)が無線に向かってそんな呟きを洩らした。バイパーに搭乗している。
「確かに、こりゃまた。玩具にしたら人気が出そうなキメラですな。残念ながら敵役ですが」
と言うのはナイチンゲールを駆る稲葉 徹二(
ga0163)だ。
「流石に規格外の大きさですね‥‥」
少年と同じくナイチンゲールに搭乗する夕凪 春花(
ga3152)が感嘆の呟きを洩らした。
「当てるのは容易そうですが‥‥耐久力はありそうです‥‥」
まだ新しいコクピットの中、覚醒した朱色の瞳でみやってシエラ(
ga3258)が言った。今回、彼女に配備されたのは長らく相棒を務めたS‐01、アインツに変わり新鋭機のPM‐J8アンジェリカである。愛称はリラと名付けた。白と紫でカラーリングされ、肩にはユニコーンの紋章が入れられている。
「あの砲門数だ。楽には接近できないな」
真紅のディアブロに搭乗する月影・透夜(
ga1806)が考えるようにしながら言った。巨体に大火力、移動要塞のつもりか、とそんな事を思う。
「子供の頃に夢見た気がしますよ。恐竜にでっかい大砲がついたら最強じゃないか‥‥とか、ね。実際に相対してみると、かなり攻めづらい‥‥まぁ、最強では無いでしょうが」
というのは魔天楼の名を持つLM‐01に搭乗する宗太郎=シルエイト(
ga4261)である。
「そうだな、まだゴーレムが中から出てこないだけマシだ」
月影が頷いて言う。
「情報によればブレスが一番ヤバイ。兆候に気づいたら教えてくれ」
「溜めはあるそうですが、一秒だけだそうです。一秒で有効な注意を飛ばせますかね?」
雷電を駆るクラーク・エアハルト(
ga4961)が言った。
「ふむ‥‥そうだな、短めの単語にした方が良いか」
「全員で注意を喚起しても、同時に発声すると無線が混ざって上手く伝わらない可能性もあります」
「人数は少なめにした方が良いかもしれないな」
「それじゃ後衛がやった方が良いかねェー」
という訳で相談の末、獄門、皇、醐醍、クラークが注意を担当する事になった。
「了解。S‐01を一撃で落とすブレスか。怖いわねぇ」
皇が感想を漏らした。巨竜のブレスは軍のS‐01を一撃で消し飛ばしたという。彼女が登場しているのもそのS‐01だ。こちらは大分改造されてはいるが。
「まったく、厄介なものを作ってくれたもんだ」醐醍が言った「ま、相手が強力な程燃えてくるもんだがな」
漸 王零(
ga2930)が愛機XF‐08D雷電の腕を翻して言った。
「ヨーロッパの竜にはひどい目にあったが、その借りをこの戦いでかえさせてもらうとしよう」
雷電の手には切っ先が螺旋の形状と化している剣が握られていた。破壊力は折り紙つきだ。
「ジャイレイトフィアー‥‥乖離剣とでも呼ぼうか‥‥こいつの試し斬りを兼ねてな」
しかし、威力は高いが大層扱いにくい武器だと噂されている。滅魔の当主は使いこなせるか否か。
一同は軽く手筈の最終確認をすると、まだ覚醒していない者も一斉に覚醒を開始した。
「さて、それでは暴龍退治と行きますか?」
エアハルトが一同に言った。
「よござんしょ、きっちり片付けてジオラマのネタにでもしちまいますか」
稲葉徹二が答える。
「総員突撃。各員役目を果たせば勝てるはず‥‥聖闇の加護を皆に‥‥あらんことを」
漸が号令を発し、十機のKVのSES機関が唸りをあげ突撃を開始する。十の鉄の巨人が後部バーニアから炎を発して、光の翼を宙に引く。巨大キメラが首をもたげ、顎を開き咆哮をあげる。大気を震わせる爆音が黄砂吹き荒れる戦場に鳴り響いた。
●竜狩
宗太郎=シルエイトが言った。
「さぁて‥‥狩猟の始まり、だな!」
傭兵達は放射状に三方へと散った。一同は十機のKVを三隊に分け、連動して包み込むように三方から接近する。
正面を走るのはスサノオ隊、皇S‐01改、稲葉XN‐01改ナイチンゲール、シルエイトLM‐01スカイスクレイパー、醐醍S‐01改雷帝の計四機だ。
数秒を駆ければ、やがて六〇〇の距離を切る。各機戦闘機動に切り替えると、横並びに巨竜へと向かって突撃する。シルエイトは速度に勝る為、速度を落とし他機に合わせて前進し、稲葉機は逆にブーストで加速して飛び出した。
巨竜の体躯は五〇メートルと巨大だ。その巨体に供えられたプロトン砲もまた巨大なものであった。タートルワームの砲門と比べてさえもも長大だろうか。竜の太くごつい前肢の付け根の左右に、一門づつ取り付けられている。超巨大な砲門が音を立てて動く。砲口が正面より迫るナイトフォーゲル各機へと向けられた。砲口より光の粒子が溢れ、爆音と共に放たれる。淡紅色の光の帯が、荒野を貫いて一直線に延びた。左右合わせて二連射。
光の延びる先を走るのはナイチンゲール、稲葉機だ。正面より四連の閃光が唸りをあげて襲いかかってくる。爆裂する閃光の嵐を稲葉機はブーストの高速機動で突進しながらすり抜けるようにかわした。
「これでも一応エース志願でね‥‥! 俺とXNを舐めるんじゃねェッ!」
稲葉機は運動性が高く、シルエイト機からジャミング中和の援護を受け、距離がある。パイロットの稲葉も戦慣れしている。動きに淀みは無い。この距離ならば回避は余裕だ。
西側から向かうのはカドモス隊が接近している。内訳は月影のF‐108ディアブロ、夕凪のXN‐01改ナイチンゲール、エアハルトのXF‐08D雷電の合計三機だ。先頭を走るのは真紅のディアブロ、次いでナイチンゲール、雷電と続く。
カドモス隊の逆サイド、東からも同様に一隊が迫っている。漸のXF‐08D雷電、シエラのPM‐J8リラ、獄門のF‐104改バイパーの三機が構成するジークフリート隊だ。こちらの先頭はアンジェリカ、続くのは雷電だ。バイパーは六〇〇程度まで間合いを詰めると機動を停止し、スナイパーライフルD‐02を用いて巨竜の砲台へと狙いを定めていた。
「鉄騎衆が一人、獄門がお相手するー!」
鉄色に光る巨大なプロトン砲の台座をガンサイトに納め、発砲。轟く銃声と共に弾丸が飛び出した。SESの威力が乗ったライフル弾は音速を超えて飛び、東側から巨竜の身へと突き刺さった。竜の鱗が弾け飛び、その奥の肉を穿った。弾丸は命中はしたが、砲台からは外れたようだ。巨体だが、部位を狙うには少し遠いか。獄門はライフルをリロードすると、前進を再開する。
巨竜の咆哮が轟き、二門の大口径プロトンと同じく二門のプロトン砲から六連の爆光が稲葉機へと降り注がれる。ナイチンゲールは正面の巨竜から降り注がれる爆光の嵐をブースト機動で尽くかわしながら突進する。
「なァに、囮はヘルム1の本懐です。RDやステアーに突っ込むよか余程気が楽ですよ」
作戦決定時、そう述べて囮を買って出た彼であるが、あながち気休めだけの台詞という訳でもないらしい。稲葉機、恐ろしく運動性が高い。この距離ではなるほど、それこそファームライドクラスでもなければ当てるのは難しそうだ。
稲葉機はブースト機動で間断なく降り注がれる大口径のプロトン砲の放火を掻い潜り、さらに二門のプロトン砲からの放火も抜けて、前進する。相対距離、およそ二四〇。
他の機も前進している。右翼シエラ機、左翼月影機、相対距離三六〇。正面、シエルエイト、皇、醐醍、左翼夕凪の四機、四二〇。右翼漸、左翼クラークの二機、四四〇。獄門、四八〇だ。
距離四〇〇、西より迫る夕凪機はスナイパーライフルRの射程に入ると機動しながら竜の右前肢へと狙いを定めて発砲した。銃声と共に放たれた弾丸が巨竜の巨大な足を撃つ。竜の鱗が一枚弾け飛んだ。機動しながらなので狙った箇所自体からは大分外れたが、マトがでかいだけに右前足自体には当たった。夕凪機はそのまま機動を止めずに前進する。
漸機、月影機、皇機、シエラ機、エアハルト機、獄門機の六機も前進中だ。
醐醍機は巨竜に対し距離四〇〇まで詰める。風上を走るS‐01は吹き荒ぶ黄砂を背に負い、長大なライフルを構えた。雷帝と名付けられたS‐01の改造機はブレス・ノウを発動させ精密な計算によって敵の未来位置を予測する。醐醍は送り込まれてくるデータを元に意識を針のように研ぎ澄ませるとレティクルを合わせ引き金をひいた。スナイパーライフルの銃口より放たれた弾丸は、稲妻の如く一瞬で距離を制圧すると、巨竜の右側のプロトン砲の台座に突き刺さった。命中。ジャミング中和も効いている、雷帝の性能ならば、この距離でも外さない。
一方の前衛、稲葉機が相対距離六十まで一気に距離を詰めていた。長距離用のプロトン砲は当たる気配がなかったが、巨竜は近距離用の兵器で攻撃を開始していた。巨竜が長い首をもたげ、大気に爆音を轟かせ、エネルギーが急速にチャージされてゆく。
「ブレスです」
「ブレスだ!」
「ドギツイのが来るわよ!」
前進中のエアハルト、獄門、皇が注意の声を無線に飛ばした。竜の口内が眩く輝き、同時に十六門あるフェザー砲から次々に稲葉機へと向けて紫色の光線が放たれてゆく。
ナイチンゲールはハイマニューバを発動させ、素早く左にステップして四連のフェザー砲をかわし、さらに左へと駆けて同数の閃光をかわした。直後、巨竜の顎が開き、猛烈な破壊力を秘めた荷電粒子の奔流が吐き出される。回避後を狙った。稲葉機は右側方へと切り返して跳ぶ。荷電粒子の奔流が左側方を突き抜けてゆく。間一髪で回避。しかし、さらにブレスを回避した後を狙って四連のフェザー砲が降り注がれる。爆光の嵐がナイチンゲールが立つ大地を飲み込んだ。
稲葉機は光の隙間を駆け抜ける。態勢は崩れてた筈だが、全部避けた。当たらない。一瞬の間の後に、光の渦を裂いて稲葉機が飛び出す。
その間に一連の攻防の間にシルエイト機もまたブースト機動で間合いを詰めていた。そちらへは生き残りの右側の大口径プロトン砲から光弾が飛んでいたが、スカイスクレイパーは前進しながら横にスライドして鮮やかにかわした。こちらも速い。
「射撃精度がいいらしいな。だが‥‥こいつの機動は優しくねぇぞ!」
シルエイトは吼え、射撃の中を駆け抜ける。巨竜の射撃精度は良い筈なのだが、ここ数秒の攻防は故障でもしたのかと思える結果に終わった。両機ともに運動性は抜群のようだった。
●交戦四〇秒から〜
(「‥‥重装備のせいか‥‥‥なかなか、距離を詰められんな‥‥」)
荒野を駆ける雷電のコクピットの中、操縦桿を握り、スクリーンに映る巨竜の姿を見据えつつ漸王零は胸中で呟いた。巨竜までの距離は後およそ二八〇、まだ届く武器がない。遠い。
(「ここは、ブーストで加速した方が良いか‥‥」)
王零は戦況を睨みつつ、そう判断を下した。
巨竜の猛攻を凌ぎ、光の渦を裂いて飛びだした稲葉機は距離六〇のラインを西側へと走り抜けながら敵の右足の大口径プロトン砲の台座を狙ってレーザー砲を連射した。猛烈な破壊力を秘めたレーザー砲の嵐が巨竜へと襲いかかり、台座を吹っ飛ばす。大口径プロトン砲の砲身が音を立てて転がり落ちた。
「行くぞ」
月影機は距離二〇〇に踏み込んだ時点でブーストを点火させ加速し、一気に距離を詰めにかかった。装輪走行を用い、真紅のディアブロが高速で荒野を走りぬけてゆく。
同様にブースト機動の装輪走行で一気に接近し巨竜の腹の下へと潜りこんだシルエイト機は、勢いに乗せて機槍ロンゴミニアトを叩き込んだ。
「でけぇ体だと、死角もでけぇ。難儀なもんだ」
豪速で繰り出された機槍が竜の腹を突き破り、深々と切っ先を潜り込ませる。シルエイトはトリガーを引いた。瞬間、穂先から爆炎が噴出し、巨竜の腹を吹っ飛ばす。大穴が開き、鮮血が撒き散らされた。さすがに巨体であるので穿った部分は一部にすぎないが、浅手とはとても言えない。巨竜の苦悶の咆哮が大気を揺るがせた。
巨竜は健在な十九門の光線砲とブレスを周囲に撒き散らしつつ、膝を折って腹の下のシルエイト機を押し潰しにかかる。圧し掛かられれば、質量差は圧倒的だ。機体は潰され、確実に大破し、パイロットは死亡するだろう。
「――っ! ブースト最大出力、回避オプション作動! 駆けろ、スクレイパー!」
シルエイト機は回避オプションを発動させると、全速で駆ける。頭上に竜の腹が迫る。スクレイパーはヘッドスライディングするようにして飛んだ。轟音が鳴り響き、大地を巨体が押しつぶし、黄砂が舞い上がる。間一髪でシルエイト機は脱出する。
「この‥‥っ!」
夕凪機は駆けながらスナイパーライフルをリロードすると、折られた巨竜の膝頭へと向けて発砲した。薬莢が炸裂し弾丸が飛ぶ。移動しながらの射撃なので狙いが上手く定まらないが、例によってマトがでかい。弾丸は巨竜の鱗を突き破り、その腿部を穿つ。鱗が一枚弾け飛んだ。
正面の皇機は三〇〇程度まで間合いを詰めるとスナイパーライフルD‐02を構え巨竜の大口径プロトン砲、生き残りの右足の台座へと狙いを定めた。同じく正面に位置する醐醍機もまたライフルをリロードし攻撃を続行する。東方より距離三六○、獄門機もまたスナイパーライフルD‐02を構えブーストスタビライザーを発動させた。鈍色の台座をガンサイトに納めて引き金をひく。連続する発砲音と共に、三機のナイトフォーゲルのライフルから回転する弾丸が飛びだした。五連のライフル弾が空を切り裂き、烈閃の如く飛び、次々に台座へと突き刺さった。火花が散り、鈍い音と共に金属の破片が飛ぶ。金属が割れてひしゃげ、台座が崩壊する。プロトン砲の砲身は自らの重さを支えきれずに巨竜の脚横から音をあげて転がり落ちていった。
黄砂が吹き荒れ、爆音と銃声と巨竜の咆哮が鳴り響く中を、白と淡紫でカラーリングされたシエラ機がレーザー砲を手に駆けている。PM‐J8リラ、東方より巨竜を目指し前進中。肉薄するまであとおよそ二四○の距離。
(「少し‥‥遠い、でしょうか‥‥‥‥」)
しかしシエラとしてはブーストはいざという時の為に取っておきたい所だ。装甲がそれほど厚くない為、一撃が致命傷になる。焦りを抑えてシエラは愛機を前進させた。
一方の西側からは重装備の雷電が大地を揺るがしながら駆け、巨大ワームの撃滅を目的に作成されたという220mm6連装ロケットランチャーを構えていた。クラーク・エアハルトは三〇〇程度まで間合いを詰めると超伝導アクチュエータを発動させ、照準を巨竜へと合わせる。ミサイル、ロックオン。セーフティを外し、発射ボタンを叩き込むようにして押し込んだ。
炸薬が爆発し、六連のミサイルが、次々に煙を吐き出しながら噴出されてゆく。白煙の尾をひき、蛇のようにくねり、巨竜のどてっぱらへと横殴りに襲いかかった。ミサイルの群は狙いたがわず巨竜へと喰らいつき、連続して大爆発を巻き起こす。大気が轟き、肉片と鮮血が宙へと舞った。
猛烈な攻撃に対しても五十メートルの体躯を誇る巨竜は首を伸ばし、顎を開いて咆哮をあげ、大地を揺るがしながら四肢を踏ん張り揺らいだその身を再び起こす。身体の各所に取り付けられた砲門を回頭、駆動させ、それ用に処理された頭蓋で複数へと狙いを定めると、フェザー砲を猛連射する。さらに顎を大きく開きその咥内をプラズマの色に輝かせた。
間髪入れず後衛から注意が飛んだ。シルエイト機と稲葉機は十六門のフェザー砲から放たれる紫光を回避している最中だ。一瞬の間の後、回避機動の先を読むようにして、巨竜は首を振い、スカイスクレイパーへと目がけて、荷電粒子のブレスを薙ぎ払うようにして吐き出した。
荒れ狂う光の奔流に対し、シルエイト機は回避オプションを発動させスライドする。強力なGにシルエイトの身体が横に押しつけられ、景色が横に流れていった。スクレイパーの特殊能力、残像さえ見える動き。光が突き抜ける。当たっていない。かわした。
フェザー砲を避けきった稲葉機はハイマニューバを維持しながらレーザー砲を放つ。高高威力の六条の閃光がプロトン砲の台座を吹っ飛ばした。
月影機は敵の手前、距離二十あたりに煙幕を発射し、煙を盾にするようにして西側より突撃する。巨竜の横腹に肉薄すると、アグレッシヴ・フォースを発動させてエネルギーを極限まで集中させ、爆熱の剣を振りかざした。
「斬り裂け!!」
裂帛の咆哮と共に袈裟斬りに一閃。真紅のディアブロが振り下ろしたヒートディフェンダーは、巨竜の鱗を切り裂き、抉って、爆炎の華を咲かせた。紅蓮の光が空間を焼き尽くす。
ブレスを回避したシルエイト機は爆炎の機槍ロンゴミニアトを構えて突撃し、突き刺し、巨竜の肉塊を吹っ飛ばす。正面でも爆炎が荒れ狂った。炎の爆槍は相変わらず突き抜けた破壊力だ。
皇機、醐醍機が正面よりスナイパーライフルを構え砲台を狙って射撃する。ライフルの連弾がプロトン砲の台座へと罅を入れる。西側より接近した夕凪機がレーザー砲を構え、狙いを定め、放つ。猛烈な破壊力を秘めた蒼光の嵐が、巨竜の膝頭を焼き、爆ぜさせた。獄門機は囮の稲葉機の援護をすべく前進を再開し、東方向から前線へと向かう。
西方向に位置するエアハルトはアクチュエイターを発動させながらロケットランチャーを猛連射した。宙へと解き放たれた十二連のミサイルが嵐の如く飛び、次々に爆裂の華を咲き乱れさせる。巨竜の身が確実に削れてゆく。
漸機はブーストを発動させて前進している。肉薄するまでの距離は後一二〇。シエラ機も前進中、同様に距離は一二〇だ。
大口径二門、通常口径二門、プロトン砲は全て沈黙させられている。巨竜はブレスを吐き、フェザー砲をまき散らし、尻尾と前肢を用いて反撃する。稲葉機はかわした。これは、当てられる気がしない。シルエイト機は振るわれる尻尾を掻い潜り、脚を跳躍してかわす。月影機は爆雷のごとく頭上から降り注ぐ荷電粒子のブレスを間一髪でかわす。しかし、続くフェザー砲の嵐に捉えられた。ディアブロの赤い機体へと四連の紫光が鋭く襲いかかる。
が、損傷率一割以下。月影機、硬い。
ロケットランチャーを撃ち尽くしたエアハルト機は前進を開始する。漸機はブースト機動で突進しながらヘビーガトリング砲を連射した。嵐の如く撃ちだされる弾丸が巨竜の身を穿つ。漸機の後方より続くシエラ機もまた煙幕銃を放ちレーザー砲で攻撃を仕掛け漸機の突進を援護する。アンジェリカから放たれる蒼光が竜の鱗を焼き焦がした。
(「ブレスを潰すには‥‥口か?」)
稲葉機、勘で狙いをつけ、レーザー砲を巨竜の顔面、正確には口内を狙って放つ。竜の歯が削れて飛んだ。その間にも月影機の爆熱剣が巨竜の身を切り裂き、シルエイト機の機槍がどてっぱらに大穴を空けてゆく。
皇、醐醍の二機からスナイパーライフルの弾丸が飛んで最期のプロトン砲の台座を破壊する。夕凪機のレーザー砲が連射されて巨竜の足を撃ち抜いた。さしもの巨大竜も肉片が飛び、血が撒き散らされるごとに動きを鈍らせてゆく。
「この乖離剣で捻じ斬ってくれる‥‥!」
ブースト機動で走る漸機はジャイトフィレヤーを構え、側胴めがけて突撃した。突進の勢いと共に雷電の機重を乗せ、右手に持つ剣を繰り出す。螺旋の切っ先が空を裂いて伸び、竜の鱗に突き当たり、抉り、突き破り、赤塊を巻きながら深々と喰い込んでゆく。巨竜の咆哮が荒野に鳴り響き、ついにその膝が折れた。
シエラ機は金属の筒を引き抜くとその手に長大な蒼光の刃を輝かせた。眩いばかりのレーザーブレード、雪村だ。SESエンハンサーが常のそれよりもさらに威力を増幅させ、強烈なエネルギーが迸る。白と淡紫のアンジェリカは巨竜に肉薄すると、素早く踏み込み心臓を狙って巨竜の胸を突きこんだ。長大な高圧縮のレーザーブレードが深々と竜の身を貫いた。竜の咆哮が鳴り響く。が、まだ動くのを止めない。切っ先が心臓まで届かなかったのか、それとも。
だが、大ダメージには違いない。月影機の爆熱剣が竜の身を切り裂き、シルエイト機の機槍が巨竜の身を爆裂させ、稲葉機と夕凪機のレーザー砲が降り注ぐ。
漸機のジャイトフィレヤーが巨竜の肉を抉り、シエラ機のビームアクスが身を切り裂き、ブースト機動で突っ込んできた皇機が蒼光のレーザーブレードで斬りつけ、醐醍の雷帝がブレイクホークを叩き込む。距離を詰めた獄門機からヘビーガトリングが撃ちだされて身を穿ち、エアハルト機から放たれた120mm砲弾が竜の頭部を撃ち砕いた。 巨竜は四肢を振い最後の力を振り絞ってブレスを吐いたが、シエラ機と皇機にそこそこ被害を与えた程度で、他はかわされるか、当たっても僅かな損害しか与えられなかった。
巨竜は持ち前の生命力で粘りに粘ったが、傭兵達の猛攻の前にやがて荒野に沈んだのだった。
かくて麦県に迫った巨竜は撃退され、街は束の間の平和を取り戻した。
「折角狩ったんですから、食べないと勿体無いです」
五十メートルの巨躯を誇る巨竜の身は宗太郎=シルエイトの提案によって解体され、その肉は夕食とそして各人の土産とされた。
とりあえず調理はしてみたものの、竜の肉は頑丈過ぎて、上手く調理出来ず、人間が食べられるものではなかった。
麦県のシェフ曰く「一か月と少し程度干しておけば、ジャーキーのように食べられようになるカモネー」との事で、九月頃に食用は期待されるところである。なお味の方は牛の干し肉を数倍濃くしたような味になるだろう、との事だ。
了