●リプレイ本文
「悪趣味ね‥‥」
闘技場の控え室に透明感のある声が響いた。黒髪緑眼の女は腰のホルスターから拳銃を抜くと弾丸を滑り込ませる。名をケイ・リヒャルト(
ga0598)といった。光芒に舞う蝶とも渾名される。
「この場も、この場に来ているあたしも」
ケイはフォルトゥナ・マヨルーに必殺の貫通弾を忍ばせると再び腰に納めた。
「どうかな。なかなかに過激な場所なようだけどね」
ミハイル・チーグルスキ(
ga4629)がケイの言葉に答えて言った。ウォッカとパイプと夜の蝶をこよなく愛するロシア生まれの脚本家だ。壮年の伊達男はゆったりとモニタを眺めている。今宵は果たしてどんな筋書きが描かれるのか。
「闘技場ですか‥‥まさか本当にあるとは」
そう述べて驚きを表しているのは鳴神 伊織(
ga0421)である。黒髪が美しい十代の少女だ。剣匠という名が自分に相応しいのかどうか、見極める為にやってきたという。
(「しかし、それだけの為にこんな場所に来る私は度し難いのでしょうが‥‥」)
目を伏せ、瞳を翳らせて胸中で述べる。
「こんな場所に二度も、とは‥‥自分で思う以上に、僕は物好きのようですねぇ」
銀髪の青年が自嘲するように述べた。年の頃は二十歳手前あたりか。名を斑鳩・八雲(
ga8672)という。斑鳩は地下闘技場へやってくるのはこれで二度目となる。
一方、蓮沼千影(
ga4090)は狼が暴れているとの噂を聞きつけこの場所へやってきた。二十代後半の長身の男で、一部では『紫の狼』と呼ばれているらしい。
「必ずや銀狼を倒し‥‥紫狼の力を示してやるぜ。謎の主催者さんに、よ」
紫色の眼光は鋭く、冷えている。常は笑えば人懐こい印象も与えるが、今日はその笑みもすっかり消えていた。空気が張り詰めている。
「あの‥‥お二人もお祈り‥‥します‥‥?」
ロザリオを手に祈りを捧げていた朧 幸乃(
ga3078)が斑鳩と蓮沼に言った。一見少年に見える短髪の少女へ斑鳩と蓮沼は視線を向ける。
「あ‥‥蓮沼さんは、こっちの方がいいでしょうか‥‥」
煙草を取り出して言う。高級品だ。彼女自身は吸わないが、偶にULT支給品として寄越したりする。
「有難う、悪いな」
にっこりと笑って蓮沼は言った。煙草を受け取ると一本咥えて火をつけ、吸い吐き出す。紫煙がゆったりと流れゆく。煙の彼方のモニタを見据える。再び鋭く眼が細められた。
「これを眺めて笑ってる奴等‥‥いる所にはいるもんだな」
同様に厳しい表情でモニタを眺め呟く少年が一人。鈍名 レイジ(
ga8428)だ。前参加者から聞き腕試しにやってきたのだという。博打絡みというのに惹かれたのもある。この場に来て感じた事は、聞いてたよりも更にヤバそうだということだ。
「観客の連中も期待してるんだろ? 番狂わせってのを‥‥やってやるぜ、癪だがな」
少年は感情を吐露するように呟いた。
「ふむ、金と暇を持て余す連中の余興だけの事は有るな」
一方、平然とした様子を見せているのは九条・命(
ga0148)だ。二十歳前半の若い男で、高密度の骨格と柔軟性に長けた筋肉をよろっている。バランスの良い打撃系格闘家の体型だ。
「同じ東南アジアの見世物賭け試合でも規模が違う。倉庫やテントも風情が有るがコレはコレで悪くは無いな」
男は不敵に言う。この大会には小遣い稼ぎに来た、というだけあって肝が据わっている。
「命掛けのスリル、この空気こそわたくしの望むもの」むしろ喜々としている少女が一人、鷹司 小雛(
ga1008)である。「さあ望美、わたくしと一緒に参りましょう‥‥!」
愛刀の望美(月詠)を手に言う。彼女は没落した名家に生まれたという元お嬢様で『人生を濃く生きる』為に戦いに身を投じているのだという。左の眼帯を除けば艶やかな黒髪と豊潤な肢体を持つ少女だが、中身は大分修羅道に片足突っ込んでる。
西島 百白(
ga2123)は無言でモニタを眺めている。銀髪銀瞳の青年だ。表情も、変化が無い。
蓮沼などがモニタを見ながら狼の動きを分析し一同に向かって述べている。狼が相手という事で匂いで攻めようと酢を用意してきた者も多く、それらを元に一同は作戦を立てる。朧は両脛、両前腕、背面にナイフ、ダガー、菖蒲を仕込んだ。
やがて控え室に黒服がやってきて傭兵達にリングへと赴くよう告げた。一同は次々に部屋を出てコロッセオへと向かう。
「さて‥‥始めるか‥‥」
西島もまた、大剣を背に担ぐとぽつりと呟いた。通路の奥へと向かう。鋼鉄の扉が、開かれようとしていた。
●銀狼人VSラストホープの傭兵達
鉄血のリングの扉が開かれた。南から現れたのは十人の傭兵。北から現れたのは五匹の銀狼。隆々たる巨躯、太刀をふりかざし、牙剥き吼え声をあげ、現れた人間たちを喰い殺さんと猛然の勢いで駆けだす。
「やれやれ、これまた手強そうな相手ですね」
その様を見据え斑鳩が言った。
「‥‥血の‥‥臭い‥‥」西島百白が呟いた「‥‥過去を思い出すな‥‥今は眼前の敵に‥‥集中しろ‥‥俺‥‥」
コンユンクシオを抜き放ち、構える。
迎え撃つ十人の傭兵は班を二つに分けて位置どった。班の間隔はおおまかに三十の距離。互いにすぐに援護にいけるだろう、と判断した距離だ。
敵方、狼達はまずケイ・リヒャルトに狙いを定めたらしい。五匹、B班の方へと一直線に向かってくる。
朧は腰溜めにドローム製SMGを構えて狼達を待つ。およそ六〇程度の距離、間合いに入った瞬間にトリガーを引き絞った。銃口が焔を吹き、轟音と共にフルオートで弾丸が飛び出し、重い反動が全身に伝わる。上へと跳ねあがる反動を抑え込みながら少女はマシンガンを連射する。
それに対し銀狼Aは斜めに跳躍して雨のような銃弾を回避しながら走った。速い。朧は疾風脚を発動させ、銃口をまわしてその動きを追う。この回避軌道の為、Aが若干遅れる。しかし四匹の銀狼はそのまま直進する。
「おいで、ワンちゃん達‥‥」
ケイ・リヒャルトが加虐的な微笑みを浮かべて呟いた。先手必勝を発動させ、スコーピオンを構えると銀狼Cに対して猛連射する。激しいマズルフラッシュと共に銃口から嵐の如く弾丸が吐き出され宙を割って狼へと突き進む。銀狼は素早く駆けまわり銃弾の嵐を回避し、太刀で弾き、咆哮をあげながら突撃してくる。止まらない。
四〇程度の距離、鳴神はS‐01に貫通弾を装填するとロードし、狙いを定めて撃ち放った。連射された弾丸が空を裂いて飛ぶ。銀狼Bは太刀を一閃させて弾丸を弾き飛ばし、低く斜め前方へと跳躍してかわす。しかし、そのうちの一発が銀狼の肩に食い込み血を噴き出させた。
「人狼の相手に人狐が相手をするとはね。消えてくれたまえ」
五匹が全てがB班へと突っ込むとあらば、ただそれを眺めている道理もない――ミハイル・チーグルスキなどの場合は特に――男は瞬足縮地で間合いを潰し、ケイの隣に並ぶと超機械を構えた。
「弱っているのをまずは叩くとしよう、初手は弾幕。それから物語は始まる‥‥」
眼光鋭く銀狼Cを睨み、その頭部を狙って超機械から電磁嵐を解き放つ。蒼き光の檻が荒れ狂う。鳴神からの銃撃を受けてるその銀狼はしかし、電磁の嵐を素早く加速してすり抜けた。速い。
B班の位置へと移動した蓮沼は酢の詰まった子袋の紐を開きばらまいた。酢の臭気が広がってゆく。銀狼達の動きがかすかに鈍った。
西島もまた酢の染み込んだ布を腰に下げつつB班の位置へと移動し大剣を構えて待ち受ける。
「右からいきますわ!」
迫りくる狼人に対し鷹司は月詠にエネルギーを極限まで集中させると振り抜いた。空が断裂し音速の衝撃波が巻き起こる。ソニックブームだ。逆巻く音速波が銀狼人Eを呑み込み、強打した。
距離が詰まる。射撃を行っていた者達は攻撃を停止し、近接戦に備えて武器を持ち変える。鳴神はS‐01を納めると月詠と蛇剋を抜き放ち構え、朧はベルニクスに持ち替えた。ケイはフォルトゥナ・マヨルーを取り出しイリアスを構える。
銀狼達がB班へと迫る。距離は十メートルほどか、激突せんとする時に九条命はリボルバーM92Fを構え横撃を仕掛けた。先頭を走る狼Dの上半身を狙い拳銃を連射する。
側面からの攻撃を銀狼は素早く身を沈めて悉く回避した。そのまま低い姿勢で突っ込む。
斑鳩もまた側面から射撃を仕掛けた。真デヴァイスターが咆哮をあげ、十二発の弾丸がばらまかれる。狼Aへと飛んだそれは六発が回避されたが、残りの六発が銀狼の毛皮を突き破り、その身を赤く染めあげた。
標的を変更するには距離が近く、そして勢いがついている。狼A、Dは横撃を受けつつもB班へと突っ込んだ。狼Aの狙いは朧、狼Dの狙いはケイだ。
「さぁ、覚悟決めろよ‥‥てめェ等も、俺もな‥‥!!」
鈍名レイジは紅蓮衝撃を発動させコンユンクシオを爆熱の色に煌めかせると、高速で突っ込んできた狼Dの側面へと踏み込み、進路を遮るように流し斬りを浴びせかけた。疾風の如く鋭い、狙い澄まされた一撃だ。
側面からの鋭撃に対し銀狼は素早く反応した。重身を低くさばくと太刀をかざして受け止めんとする。コンユンクシオが空を裂いて迫り、狼人の太刀と激突し火花が散った。突き抜ける衝撃に銀狼の身が揺らぎ足が止まる。
レイジの左目から紅蓮のオーラが散った。眼前で散る火花のように鋭いオーラ。男は激突した大剣を素早く引き戻すと、猛然と上段に振り上げ、渾身の力を込めて斬り落としを放つ。
銀狼は太刀を傾ぐように掲げる。振り下ろされる大剣を掲げた太刀に当て、力のベクトルを斜に逸らすように受け流した。ピィンと金属の音が鳴る。銀狼は弧を描くような軌道で太刀をしならせ放つ。カウンターの斬撃。男は咄嗟に身を逸らせようとするが、大剣を流されて身体が泳いでいた。レイジの右肩を目がけて白銀の太刀が飛ぶ。動作が遅れる。狼の太刀がレイジの肩へと叩き込まれた。刃が肉に食い込む。狼は刃を押し当てながら引き斬る。肉を裂き、骨を削り、鮮血が宙へと盛大に舞った。よろめくレイジへとさらに喉元を狙って閃光の如き突きを撃ち放つ。読んだ。コンユンクシオで完璧にブロックする。狼が唸る。かすめるような連撃が飛ぶ。脇腹と腿が裂かれ、鮮血の華が乱れ咲いた。
レイジは血を吹き出しつつも相手の攻撃の呼吸を掴むと、力を溜め、反撃の斬撃を繰り出す。手数よりも一撃に重きを置いた攻撃だ。落雷の如く鋭い斬撃を、銀狼は太刀で的確に払い、打ち落とす。強い。
「こいつの攻撃は俺が見切る!!」
朧めがけて突っ込んできた銀狼Aに対し蓮沼が二刀を携え走る。左に構える直刀の切っ先を相手の腰下をめがけて放つ。銀狼は素早く左へスライドして回避した。切っ先が狼の身をかすめ、銀毛を宙に舞わせる。狼人は体を切り返しざま蓮沼の脇下を狙って突きを放った。切っ先が肋骨を強打し、鈍い音を立てる。
「ぐがあああああああっっっ!!」
蓮沼は突き抜ける衝撃を堪えつつ、咆哮をあげて左のヴィアで横薙ぎに払う。狼人はその斬撃を太刀を立てて受け止めた。一歩踏み込み、蓮沼の膝裏めがけて大木の幹のごとき足で蹴りつける。鉄塊の如きそれが蓮沼の足を打ち抜いた。鈍い音と共に激痛が走り、身体が傾いだ。
狼人は一歩後退しながら水平に太刀を払う。切っ先が狙うのは蓮沼の喉。唸りをあげて白銀の輝きが迫る、蓮沼は衝撃に逆らわずに体を流すと、双剣をクロスさせて受け止める。衝撃に押される、片足で自ら後ろに飛ぶ。宙で一回転すると、二刀を構えて地に降り立った。
迫り来る銀狼Cに対し西島がコンユンクシオを構え迎撃に走る。紅蓮の光を肉厚の大剣に逆巻かせ、無造作に踏み込み、強烈なパワーを込めて振り下ろす。銀狼Cは体を捌き、紙一重ですり抜けるように避ける。避けざま西島の脇腹を斬りつける。入った。切っ先が男の身を切り裂く。西島が反撃にコンユンクシオを竜巻のごとく振るう。銀狼は上体をスウェーさせて回避した。反撃の烈閃、西島の頭蓋を叩き割るように太刀が振り下ろされる。西島は首を動かして間一髪で直撃を避ける。肩骨に太刀が炸裂し鈍い音を立てた。狼は太刀を押し当てながら引き斬る。肉が裂け、骨が音を立てて削れ、噴水の如く鮮血が噴き上がった。よろめく西島に対し、狼人は首を貫くように突きを繰り出す。西島は後退しながら体を捌く。刃が首をかすめ、血が噴き出た。だが、浅い。まだ致命傷ではない。
血塗れの西島は間合いを取ると腰を落とし大剣を担ぐように構えた。敵の動きが速い。呟く。
「‥‥面倒‥‥だな‥‥」
負ける訳にはいかない。西島は注意深く眼前の敵を見据えた。
一方、銀狼Eは鷹司へと斬りかかっていた。疾風の踏み込みから袈裟斬りの斬撃を放つ。少女は楯をかざし狼人の太刀を受け止めんとする。白銀の太刀と掲げられた太刀との間で火花が散り、衝撃が炸裂し、轟音が鳴り響いた。
鷹司は楯持つ左腕に力を込めると一歩踏み出す。楯で力任せに太刀を押し返す。相手が僅かに退いた。機を逃さず袈裟斬りに月詠を一閃させる。望美と銘打たれた月光の太刀は、銀狼の左肩から入り、腹をかすめて斜め下方へと抜けた。血飛沫が舞い、狼が吼え声あげ、反撃の太刀を振るう。少女が気合の声を発し楯を翳して受け止める。
「貴方は速い。けれど、道具の扱いではファイターに分がありましてよ!」
少女は激しく斬り結びながらも昂然と言い放ち、嵐の如く突きを連射する。動きが速い相手への対策か、射手の指輪を重ねて身につけている少女の攻撃は的確で速かった。臭気により機動がやや鈍っている狼人には避けられない。血風の華が咲き乱れた。
銀狼Bは鳴神へと咆哮をあげて突きかかった。流星の如き突きの連打。鳴神は月詠をガードに振り上げる。すり抜けた。太刀の切っ先が少女の身に突き立つ。衝撃が体躯を襲う。が、軽い。
鳴神は狼人の鼻先目がけて月詠を突きだす。狼人は上体を横に振って回避する。間髪入れずに水平に払う。立てた太刀で受け止められた。
刃を押し当てながら距離を詰めると左の蛇剋を狼人の脇腹目がけて叩きこむ。切っ先が狼の毛皮を破り、筋肉を貫き、骨の間を縫って深々と差し込まれた。手首を返して刃を捻り、引き抜く。狼人がよろめいた。漆黒の月詠を振り上げると一歩後退しながら袈裟斬りに叩き斬る。銀狼の身から血しぶきが舞った。
一方、九条命は状況的に射撃は厳しいと思われたので間合いを詰めるべく走る。斑鳩もまた刀を手に駆けた。
「援護頼むっ」
蓮沼が言って銀狼Aと再び二刀を構えて突っ込む。朧が重爪を構えてそれに続いた。
狼は咆哮をあげると男の喉元を狙って切っ先を繰り出す。蓮沼、読んだ。蛍火を振って相手の太刀を跳ね上げる。甲高い音と共に銀狼が仰け反る。
朧はその機を逃さず限界突破を発動させると、瞬天速でその側面へと踏み込み右の重爪を振り抜いた。弧を描き、唸りをあげて爪が獣人の脇腹に叩き込まれる。突き刺さった爪、引き切りながら抉り取る。銀の毛と肉が裂かれ赤銅の色が宙を舞った。体を捌くと踏み込み、左の爪を突きだす。体重を乗せて貫く。押し込んで回転させて抉り、引き切る。鈍い手ごたえと共に何かを断ち斬った。
衝撃によろめく銀狼へと蓮沼は間合いを詰め素早く双剣を振るってその脚部を斬り裂いた。狼が咆哮をあげ、太刀をめちゃくちゃに振りまわす。大振りだ。朧と蓮沼は一歩後退して回避する。
この状況だと飛び道具は扱いにくい。超機械は後ろに抜けないだけ幾分かマシか。ミハイル・チーグルスキは戦況を見据え、攻撃を叩きこむチャンスを窺う。
鳴神は狼の顔面めがけて小袋を投げつけた。胡椒や唐辛子の粉末が宙を舞い狼人を包み込む。狼人の身が震え、動きが止まった。
少女は黒刀を振り上げると、練力を全開にし爆熱の輝きを刀身に宿した。最上段に構え踏み込み、真っ向から落雷の如く打ち降ろす。豪速で振り下ろされた太刀が狼人の脳天に入った。狼人がよろめく。鼻先を狙って刃を突き出す。切っ先が骨を砕いた。太刀を水平に振るう。噴水の如く血柱があがり、狼の首が宙へと舞った。
ケイは西島と斬り結ぶ銀狼Cへと間合いを詰める。急所突きを発動させ、敵の喉元を狙い、イアリスの切っ先を伸ばす。銀狼は太刀を横に振るって剣を弾くと、女へと逆襲の太刀を振るった。閃光の如く刃が振るわれケイの身から血しぶきが飛ぶ。
西島が大剣を構えて突っ込み打ちこみをかける。銀狼Cは半身になりすり抜けるように回避した。太刀を振るう。刃が西島の脇をかすめ斬る。西島が男がよろめく。銀狼が太刀を振り上げる。態勢を立て直したケイが突きかかる。銀狼は上体を反らせて回避した。横薙ぎに女の首元を狙って刃を繰り出す。ケイは咄嗟に後退する。喉がぱくりと避けて血が溢れ出た。が、動脈に達するほどに深くはない。
狼は太刀を回すと、トドメを刺さんと猛然と踏み込む。女は左の銃口を向けた。カウンター。
「鉛の飴玉のお味は如何?」
零距離射撃。フォルトゥナ・マヨルーが焔を吹いた。貫通弾が至近距離から銀狼の胴に叩き込まれ鮮血を噴き上げさせる。銀狼がよろめく。コンユンクシオが紅蓮の光に輝いた。西島だ。渾身の力を込め、狼の頭部めがけ落雷の如く打ち降ろす。肉厚の大剣が狼の肩に食い込み、骨を砕いた。引き斬る。血霧が舞った。が、まだ動く。
狼D、獣の速度で踏み込むとレイジの喉を狙って突きを放つ。男は大剣を立てて受け止める。レイジは防御を重視して油断なく立ちまわる。衝撃に逆らわぬように後ろに跳んで後退する。
銀狼が飛びかかる。その途中、猛烈な電磁嵐が発生した。ミハイルの攻撃だ。蒼光の嵐の中に狼人は飛び込み、その身を激しく打たれる。
ロシア人の脚本家はこの機を逃さずさらに超機械を連打する。が、追撃が発生するよりも速く、狼人は素早く跳躍して電磁嵐から脱出した。
地に降り立つと、牙を剥き、咆哮をあげてミハイルを睨みつけ威嚇する。その隙にレイジが間合いを詰めていた。大剣を振るって疾風の如くかすめ斬る。狼人の手首から血しぶきが舞った。狼人は呻き声をあげて後退する。レイジは追撃に踏み込みコンユンクシオの連撃を放つ。銀狼は素早く左手に太刀を持ち変えると、斬撃を受け流した。
鷹司が望美を振って銀狼Eへと猛然と斬りかかる。烈閃の刃は嵐を巻き起こし、次々に銀狼を切り裂いてゆく。銀狼からも反撃の太刀が飛ぶが少女は楯を上手く使って有効打を許さない。
斑鳩は乱戦の場へとたどり着くとその床に酢をばらまき始めた。瞬く間に臭気が満ち、狼達の動きがさらに鈍ってゆく。
レイジと斬り合う銀狼Dの側面へと迫ると、太刀を横に構えて踏み込み、交差ざま逆袈裟に振り抜いた。素早く身を切り返すと、衝撃に硬直している銀狼の延髄へと太刀を叩きこむ。何かを砕く手ごたえが腕に伝わり、鈍い音が響いた。狼人の身から鮮血が噴き上がる。駄目押しとばかりにレイジの大剣が脳天に叩き込まれ銀狼Dは崩れ落ちるように沈んだ。
九条は臭気に喘いでいる銀狼Cの後背に素早く回り込むと、踏み込み、鞭のように足をしならせ狼の背を蹴り抜いた。砂錐の爪がフォースフィールドを突き破り、銀狼の背に深々と爪を立てる。引きぬいて、膝裏を打ち抜く。銀狼がよろめく。足を払った。転倒した。
倒れた狼のその顔面めがけて西島がコンユンクシオを叩きつけた。骨が砕ける手ごたえが腕に伝わる。まだ動く。乱打する。やがて動かなくなった。
臭気で動きの鈍っている狼人Aへと朧と蓮沼は猛攻をかけてこれを瞬く間に打倒した。同様に狼人Eも鷹司が叩き斬って、これを屠る。
「へへ‥‥どうせなら所持金全額俺等に賭けとくんだったな」
銀狼達が倒れ伏す中、カメラに向かってレイジは笑い、そう述べたのだった。
「ふふ、実に楽しかったですわ‥‥まだ胸が高鳴っていますの」
終了後、剣を抱いて鷹司が言った。
傭兵達は救急キットを用いて傷の治療を行ったが、大分深く入っている者も多く、そのメンバーは全快には至らないだろうと思われた。さすがに、今回は負傷の残る者の方が多い。
ともあれ一人も倒れる事なく銀狼を打倒した。快勝と言って良いだろう。道具を使って相手の動きを鈍らせたことが大きい。傭兵達は勝利の報酬を受け取ると、地下から地上へと出る。
「二度あることは三度‥‥また、ここを訪れるような気がします」
最後に斑鳩は地下闘技場への入り口を振り返って呟いた。
十人の傭兵達はそれぞれの感慨を胸に、その地を後にしたのだった。
了