●リプレイ本文
日本国九州某県某市、街の中心を吹き飛ばし、巨大な樹木が天へと向かって伸びていた。
根を生やし、うねらせ、生物を捕え、貫き、その血肉を啜り、蠢く。柔らかな緑の葉をつけ、枝を伸ばし、巨樹は天へと向かって伸びてゆく。
UPC軍はそれをスパイアと名付けた。尖塔、という意だ。
突如現れた巨大樹木型キメラにより市の中央部には非常線が敷かれた。周辺住民は退避し、交通は遮断され、市の行政区は臨時のビルへと移された。多少混乱が見られたが、大事には至らぬように抑えられた。市に損害はかなり出ていたが、今はまだ致命的なものではない。今はまだ。
しかし、あの巨樹がこのまま居座り続け、成長してゆけば、市を放棄せざるをえなくなる可能性が高かった。少なくとも、この時点でスパイアを撃滅せぬ限り、市が致命的な状況に追い込まれるのは確実だと思われた。
無論、そうはせぬように軍は対策を講じ、未知生物対策組織に兵を要請した。ただちに退治の為にナイトフォーゲル乗りが募られ、そして十人の傭兵が派遣された。
「‥‥こんな人喰樹‥‥放っておくわけにはいかないよ」
ビル群を突き抜け、天へと向かって突き立つ巨樹をS‐01のディスプレイに映し出しながら月森 花(
ga0053)が呟いた。派兵されて来た傭兵の一人だ。平素は天真爛漫な調子の少女だが、覚醒している今は金色の瞳に冷えた光を宿している。感情が極端に抑制されているのだ。
「世界を支える樹じゃあるまいし、こんなものが街中にあったら迷惑極まりないですね」
F‐108ディアブロのコクピットの中、叢雲(
ga2494)が無線に向かって言った。二十歳程度に見える若い男だ。覚醒により常は黒い瞳が真紅に染まり、前髪の一部が銀髪化している。
「大きい分性質の悪いキメラね。早めに伐採したい所だわ」
炎の黒紋を浮かび上がらせた女が首肯して述べた。歳の頃は二十半ばあたりだろうか。アズメリア・カンス(
ga8233)だ。雷電に搭乗している。
「庭園に侵入してきた外来種は駆逐するのが庭師の勤め、よね」
ブロンドのメアリー・エッセンバル(
ga0194)が長い髪を揺らしつつ言った。二十代前半の若い女で、元庭師で英国貴族の庭園を先祖代々管理していたという経歴を持つ。今では傭兵部隊ガーデンの長だ。もっとも、今回は小隊を率いての参戦ではないが。
「ガーデン隊長兼庭師としての実力、期待させてもらいますよ?」
冗談めかした口調でレールズ(
ga5293)が言った。エメラルドグリーンの瞳を微笑ませている。こちらも二十歳あまりの青年だ。白をベースにし、青でアレンジしたディアブロに搭乗している。
「うちは、私の周囲が強いし優秀っていう部隊なので」
曰く、自分は旗印に過ぎないのだと女は苦笑する。あんまり期待しないでくださいよ、との事。
「‥‥何故かしら」
コクピットの中、煙草を咥えつつリン=アスターナ(
ga4615)がぽつりと洩らした。銀色の髪を持ち、銀のオーラを纏う若い女だ。
「この悪趣味な姿に妙に既視感を覚える‥‥それも、胸糞が悪くなるような感覚を伴ったもの‥‥」
「嫌な匂いがぷんぷんするぜ。毎度のことだが、バグアのキメラっていうのはろくでもねぇな」
浅黒い肌を持つ金髪碧眼の青年が言った。宗太郎=シルエイト(
ga4261)だ。覚醒により口調が大分粗野になり外見も変化している。
「‥‥嫌な予感はするけれど、尻込みはしていられないわね」
「ああ」
リンの言葉にシルエイトは頷く。
「敵は一体か‥‥しかしこれだけ大きいと、拠点制圧戦と考えた方が良さそうだな」
うっすらと瞳を赤く光らせつつ雑賀 幸輔(
ga6073)が言った。黒髪黒瞳中肉中背の、しかし鍛えたれた体躯を持つタフガイだ。あらゆる銃火器の取り扱いに長けた兵士でもある。
「どう攻めましょう」
真紅の両眼と二本の細角を持つ少女が問いかけた。歳の頃は十七、八か。口元の八重歯も伸び、まさに鬼のように見える。月神陽子(
ga5549)である。赤く塗装されたバイパー改『夜叉姫』に搭乗している。
「そうだなぁ‥‥」
傭兵達は手早く作戦を打ち合わせる。
「まずは根の外から攻める、という事で」
意志の疎通には特に注意を払っているのか、メアリー・エッセンバルが作戦概要をざっと説明し、互いの手順をよく確認して言った。
「肝はスピードとタイミング、攻撃の手を途絶えさせないことだな」
と補足して雑賀。
「了解だ。何処の誰の仕業か知らないが、緑化運動もここまで来ると物騒極まりない」
左手の甲に金色の刻印を出現させつつ黒江 開裡(
ga8341)が言った。十代後半に見える黒髪黒瞳の青年だ。
「自然を大切にしたいのも確かだが、相手が相手だ。一つこちらも物騒にKVで草むしり‥‥いや、剪定作業と行こうか」
「何処の馬鹿が作った物かは知りませんが、あのような存在は、生理的に気に入りません。一方的に、圧倒的に、徹底的に、破壊して差し上げます!!」
月神がスパイアを睨みつけ怒りを表して言う。
傭兵達はその言葉に頷くとKVの操縦桿を握り、天へと向かって延びる巨樹へと十機のKVを駆けさせて行った。
●
人気の完全に失せた静寂の街を鋼鉄の巨人達が走る。
「貴方達の進む道は私達がこじ開ける‥‥レールズ君、頼んだわよ」
R‐01を駆動させながらリン=アスターナが言った。
「了解です」
レールズが答える。
「ユグドラシル、恐ろしき者の馬か‥‥」
一同が南の道路から迫ると距離六○○程度で巨樹が動きを見せた。わさわさと張り出した枝の何本かを動かすと、地上のナイトフォーゲルへと向ける。
枝からさらに幾つかの枝が生えている。そのうちの何本かは空洞が空いていた。次の瞬間、凝固し石よりも硬化した樹液の塊が空洞から飛び出した。これだけの巨樹の枝である、夥しいまでの数だ。高さ数十メートルから、スコールの如き礫の嵐が一同に向かって次々と撃ちだされた。アスファルトの道路へと礫が降り注ぎ、爆砕して破片をまき散らす。
しかしまだ距離がある。シルエイト機からシャミング中和の援護も受けている。KV各機は降り注ぐ礫を冷静に見ると、KVを運動させ、回避、または武器で弾きながら距離を詰めてゆく。
「行くぜスクレイパー! 一気に突っ走る!!」
シルエイトが叫び声をあげ、ブーストを点火する。人型でジグザグに走り礫の嵐を掻い潜りながらスカイスクレイパーが爆砕するアスファルトの道を駆け抜けてゆく。
(「動け、手! 震えるな、足! しっかり前を見ろ、私! 皆の足手纏いにだけは‥‥なりたくないっ!」)
一方、メアリー=エッセンバルは月神機の後方からついてゆきながら前進していた。真紅のバイパーがセミーサキュアラーを振りかざしながら進む。左手一本で回転させるのは無理があったので、盾の如くかざしながら進んだ。斜め上方より降り注ぐ礫のほとんどは月神機が半月刀で打ち落としていたが、接近するにつれ、角度的にメアリー機へとすり抜けてくる礫が増えてくる。R‐01は時折の命中打に装甲を削られつつも進んだ。
叢雲機やリン機、レールズ機などは降り注ぐ礫の嵐に対し、道を逸れて建造物の陰に入ってやり過ごした。礫は遮断できるが、当然ながらその間は前進できないので遅れる。
アズメリア機は220mm6連装ロケットランチャーの射程に入ると、彼方に見える巨樹へと狙いを定め、撃ち放った。猛烈な爆音と反動をまき散らしながら煙を噴き上げて十二発の噴進弾が飛ぶ。雷電から放たれたそれは大木の幹に次々に炸裂すると強烈な爆発の嵐を巻き起こした。
「動かなくて大きいだけに当てやすいのは助かるわね」
アズメリアが呟き、同じ個所を狙ってさらにロケット弾を放つ。火炎が弾け、巨樹の表皮を吹き飛ばした。動く敵が相手ならばまず当たる距離ではないが、動かない敵ならば当たる。反撃の礫が飛んでくる。アズメリアは素早く駆動して回避した。ロケット弾を撃ち尽くしたので前進を開始する。
月森機は一五〇程度まで距離を詰めると跳躍し、バーニアを噴出させながら手頃な位置のビルの屋上へと降り立った。スナイパーライフルを構える。
「相手が大きいからって‥‥怖がってばかりもいられないよ」
スパイアの周辺は爆砕している。近くのビルは少し遠いだろう。ブレス・ノウを発動させ、枝の一本に狙いをつけるとライフル弾を撃ち放つ。SESの力を秘めた弾丸がスピンしながら空を裂いて飛び、スパイアの枝の一本へと突き刺さり破砕した。敵方からも即座に礫が飛んできた。相手の方が射撃点が高い。ビルの上も射線が通っている。月森機は咄嗟に宙へと身を躍らせると、礫の弾幕を受けつつも、ビルとビルの間の通りに飛び込んで大部分を回避した。
射程六〇〇に入ってから四〇秒あまりが過ぎたが、各機の位置はかなり分散している。元より足の遅い機体や、行動制限を受ける機体がいる為に速度が一定ではなかった。接近速度をある程度、合わせようと試みていた者もいたが、速度は元より各機の行動が様々な為、少し無理がある。
真っ先に距離四〇まで詰めたのがブースト加速で突進したシルエイト機。それだけに巨樹の射撃は激烈なものとなっているが、機敏に動いてほとんどを回避している。運動性がかなり高い。
三〇秒辺りからブーストを点火させた月神機もまた四〇程度の距離まで間合いを詰めていた。礫が嵐の如く襲いかかっているが、円月刀と装甲の厚さにものを言わせて悉くはじき返している。
黒江、メアリー機はスパイアから一二〇程度の距離の道路上を前進中、月森機は一五〇程度の距離にあるビルの間の通路からKVの半身を出しライフルを構えスパイアを狙っている。
アズメリア機は三六○程度の距離からロケット弾で射撃中、ディスタンの雑賀機や、隠れながら進んでいるリン、レールズ、叢雲の三機がその隣を次々に通り過ぎてゆく。
「面倒ですが、長期戦になりそうです。先行している機は後続の到着を待ちましょう」
月神がビルの陰へと飛び込みつつ無線に向かって言った。
「‥‥止むをないか。了解」
シルエイト機もまたビルとビルの隙間へと転がりこんだ。
ビルの陰に入ってしまえばとりあえずは礫は防げる。先行した機はビルの陰で後続の到着を待った。月森機は後続の前進を助ける為にビルの陰から射撃を続けている。スパイアの枝が破砕し、ビルの陰から身を出した瞬間にS‐01へと礫が飛んでくる。退避が遅れて一発肩をかすめた。精度も速度もかなり良いようだ。
「今のうちにスパイアの周辺へグレネードを撃ちましょう」
メアリーが先行している各機へ言った。曰く「例え死んでいたって‥‥それぞれが、誰かの大切な人でしょう?」との事。栄養源を絶つ事は元より、周辺の人間の死体を戦闘中にKVで踏み付けてしまうのを抑えたい気持ちが強い。
「了解です」
月神が答えた。後続を待つ間にメアリー、月神、黒江の三機はビルの陰からグレネード砲弾をスパイアの周囲めがけて炸裂させた。三機から放たれた砲弾は爆炎と爆風と破片を撒き散らし猛烈な破壊力をまき散らす。
「‥‥火葬代わりと思って、祟らないでくれると嬉しいね。南無」
黒江が呟いた。死体の山は爆風に吹き飛ばされ、焔に焼かれていった。そんな黒江に向けてすぐにスパイアから礫の嵐が飛んでくる。慌ててビルの陰へと機体を引っ込める。避けきれなかった分がディアブロの表面装甲を削った。損傷率一割五分。メアリー機も同様に被害を受けている。こちらは接近中に受けたものも合わせてやや損害が深い、損傷率二割九分。月神機は弾いた。
戦闘開始からおよそ二分弱ほど経過したところで、各々間合いを詰めビルの陰に飛び込んだ。攻撃に入る為にタイミングを合わせる。
ちなみに現時点で月森機も四割九分、シルエイト機も一割一分の損害を受けている。
「砲撃開始します。近接班の皆さん、頭上にご注意」
叢雲が言ってビルの陰から220mm6連装ロケットランチャーを構え、道路上に躍り出た。およそ百メートルの位置からスパイアの幹へと対して狙いを定め噴進弾を撃ち放った。轟音と共にロケット弾が飛び、スパイアめがけて突き進む。アズメリア機もまた滑空砲をスパイアへと向けて連射した。ディアブロから放たれた十二連の噴進弾が猛烈な爆発を巻き起こし、雷電から放たれた砲弾が巨樹の身に突き立ち破砕する。リン=アスターナ機もまた道路上に出るとバルカン砲で猛撃をかけた。激しく連射される弾丸が巨樹の表皮を打つ。
叢雲機、アズメリア機、アスターナ機へと向けてスパイアから猛烈な弾丸が降り注いでくる。百メートルを超す大樹から張り出した枝から撃ちだされる叩きつけるような礫の嵐。叢雲機は咄嗟に回避を試みる。避けきれない。礫の嵐にディアブロが飲み込まれコクピットを激震が襲う。叢雲は咄嗟にKVマントを払って巻き落とさんとする。何割か落としたが途中でマントが破れた。後はダイレクトに抜けてくる。損傷率四割九分。一気に半分もっていかれた。ちょっと不味いか。
アズメリア機は半月の大刀をかざして礫に対する楯とする。嵐の如き弾幕が分厚い合金の刃に当たり弾かれてゆく。衝撃が雷電を揺らした。損傷率は三パーセント程度だ。刀の防御が効いている。凄まじいまでに硬い。
アスターナ機はライトディフェンダーをかざして礫を受け止めようとする。が、少し動作が遅れた。弾幕が守護剣をすり抜けR‐01の身を次々に強打する。突きぬける衝撃にフレームが悲鳴をあげて歪む。アスターナ機は攻撃を受けながらもビルの間に飛び込んで弾幕から逃れる。損傷率二割三分。
砲弾の爆発と同時に他の各機もビルの狭間から飛び出していた。
「空爆ほどの威力じゃないですが‥‥それなりに有効なはずだ!」
味方に通達の後、六〇ほどの射程からレールズ機がG‐44グレネード砲を撃ち放っていた。爆炎を巻きながら接近し、さらにアグレッシヴ・フォースを発動させて撃ち放つ。砲弾が炸裂し強烈な爆風がスパイアを中心に吹き荒れた。スパイアの幹や根が焦げ、砕けてゆく。
月神機は四〇程度の距離からハンマーボールを構えた。頭上の礫をまきちらす枝群にはちょっと届かないか、狙いを根本へと定めると、鎖付きの鉄球を旋回させ投擲する。圧倒的な破壊力を秘めた鉄球が強固なスパイアの根を粉砕しぶち破った。轟音をあげて木端が吹き飛ぶ。スタビライザーを発動させつつ素早く引き戻して鉄球、五連打。巨樹の根が猛烈な勢いで粉砕されゆく。
(「なるほど、そうやって使うのか」)
夜叉姫の鉄球捌きを横目に見つつ、シルエイトはその撃ち方を把握する。見よう見真似でライトニングハンマーを旋回させると巨樹の根本へと勢いよく投擲した。鉄球が空を裂いて飛び、スパイアへと炸裂し、インパクトの瞬間に猛烈な電撃を巻き起こす。先のグレネードと合わせてスパイアが燃えてゆく。巨樹の身は真っ赤に染まっていた。炎と血と、そして炎に反応したフォースフィールドの色だ。
メアリー機は三叉槍を構えるとスパイアへと向かって撃ちだした。BCハプーンだ。切っ先が幹へと突き立ち炸薬が爆発を巻き起こす。幹から破片が飛んだ。
月森機は接近組が攻撃を開始したのを見てリニア砲を構えて接近を開始する。
「血を吸う樹を愛でる趣味は無くてね。大人しく割り箸にでもなってくれ」
黒江機はスパイアへと飛びこむとその根を狙ってレッグドリルで猛攻を仕掛けた。甲高い音を立てて脚部ドリルが根を抉り、切断してゆく。
「さぁダンスの始まりだ。先に息切れしたほうが、血のワインを奢るのさ‥‥!」
ブーストで加速したディスタンが白銀の翼を翻しスパイアの懐へと飛び込んだ。雑賀機だ。突進ざまソードウイングでかすめ斬る。翼の刃が幹の脇に入り、深く抉りながら後方まで抜けた。良い斬れ味だ。
足元から根が槍の如く突きだしてくる。ディスタンは機敏にステップしてかわす。移動は遅いが運動性は高い。危なげなく次々と襲い来る切っ先をかわすと、爆熱の剣を抜き放った。
「arachnoid clown‥‥糸を張る道化は、一度捕らえたら離さない‥‥」
機体を捌き、踏み込ませ、ヒートディフェンダーを振り下ろす。切っ先が焔を巻き起こしながらスパイアの幹の表皮を吹き飛ばした。
「大鴉の一撃‥‥存分に味わえ!」
叢雲が天上の枝を目がけ220mm6連装ロケットランチャーを撃ち放った。六発のロケット弾がスパイアの枝に炸裂し、それを次々に吹き飛ばす。
「雷電用の重機関砲って謳い文句は、伊達じゃないわよ‥‥!」
アスターナ機は間合いを詰めるとヘビーガトリング砲で攻撃を仕掛けた。嵐の如く撃ちだされる弾幕が幹の表面を削ってゆく。
「外から爆竹を当てても少し焼けるだけ‥‥だが!」
雑賀機のソードウイングが斬り裂いた傷口を狙いレイルズ機がBCハプーンを構え撃ち出す。
「‥‥中で爆発させれば破裂する!」
傷口からより深く突き刺さった槍の切っ先が炸裂しその内部から爆発を巻き起こした。
月森機は幹に狙いを定めるとリニア砲を撃ち放った。強烈な砲弾が表皮をぶち破り、木端をまき散らす。
月神機がスタビライザーを発動させ、ハンマーボールを次々に投擲する。轟音と共に、幹が爆ぜ、巨木が猛烈な勢いで削られてゆく。
各機の猛攻により、一部の幹が大分、細くなった所でシエルエイト機、がロンゴミニアトを構えて突進した。
「そういやぁ‥‥いつかのキメラの中身も、こうやって燃やしたっけなぁ!」
寸勁の要領で深く突き刺すとロンゴミニアトの穂先から猛烈な爆炎を巻き起こす。凄まじい破壊力と共に巨木に大穴があいた。
巨樹は、極限まで幹を削られ、自らの自重さえも支えきれなくなった。天をも貫く巨木はメキメキと凄まじい音を立てながらゆっくりと倒れて行ったのだった。
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「負けた‥‥ユグドラシルが負けただとぉおおおおおおおおおお?! 馬鹿なっ、そんな馬鹿なっ!!」
何処かは知れぬモニターの前で、その戦いの様子を見やっていた博士が金切り声をあげていた。
「畜生、畜生! 完全に成長さえすれば‥‥完全に成長さえしきればこんな結果には‥‥! おのれぇえええええ!! 忌々しきはKV乗りどもめぇえええええええええ!!」
「似てますね」
ふと少年が言った。
「何がぜよイリマリネン?!」
「ユグドラシルにトドメを刺したあの槍の一撃、兜ヶ崎で戦った者達の動きに似てませんか?」
「アハティのかね? 知るか、あっちは生身でこっちはKVだぜよ? 偶々だ!」
「‥‥そうですかね」
「偶々に決まってる! ‥‥そうでなければ、そうでなければ、我々はまた同じ奴に妨害されたという事になるぞっ! そんな不愉快な話があってたまるかッ!!」
「はぁ‥‥まぁ別にこっちの感情など相手にとっては知ったことではないと思いますが」
激昂する博士に対してイルマリネンはそんな相槌を打ったのだった。
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「‥‥仇は取りましたよ。少しは無念、晴れたでしょうか?」
周囲で焼かれた死体の山を見ながら、シエルエイトが言った。死者のことは死者しかわからないが、しかし、留飲はくだったのではないだろうか。
傭兵達はスパイアを伐採するとスコップやドリルで掘り起こし焼却作業に移った。
「先端技術の塊で土木作業とは新鮮ですね」
レールズが笑って言った。フレア弾を使って焼却する案もあったが、空から投下する以外に有効な起爆方法がなかったので見送りされる事となった。
幹や枝、根を適当なサイズにカットし高火力武器で焼き、道路下の根も徹底的に処分すべく、グレネードで焼却する。
「‥‥食えるかな、これ」
スパイアを指して雑賀が言った。
「‥‥さすがにそれは無理じゃないかしら」
アズメリア・カンスがセミーサキュアラーで残った幹や枝、根を切って処理しやすくしつつ言う。
スパイアの処理は全員で行うのではなく、叢雲などは周囲の警戒に当たった。しかし特に怪しい影が接近する気配は感じられなかった。
傭兵達は地道な作業の末に張り巡らされたユグドラシルの根を根絶すると、その街を後にしたのだった。