●リプレイ本文
――出撃前。
薄暗いハンガーに無骨な機体の影が一つあった。
「初出撃だ、雷電‥‥頼むぜ」
ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)は愛機を見上げて呟いていた。
「この戦域にも、随分と通っていますねぇ。そろそろ動きが欲しいところ、ですが‥‥さて」
ラルス・フェルセン(
ga5133)が愛機ワイバーンの機器をチェックしながら言う。カリマンタン島で依頼をこなすのも三度か四度か、結構な数だ。
「やっと‥‥この戦域の戦いも‥‥おしまい、かな? もうすぐ。島を‥‥取り戻せる?」
ラシード・アル・ラハル(
ga6190)もまた愛機をチェックしながら首を傾げて言った。EF‐006ジブリールII、少年の翼。
「どうでしょうか。結構泥沼になっているっぽいですし‥‥今回の作戦が正念場でしょうね」
ラルスはパネルに視線を走らせつつ述べる。
「そうだな」ブレイズが言った「空さえ抑えりゃ敵の拠点にも一気に攻め込めるようになる。だが逆に制空権を取られるような事態にでもなったら‥‥」
「島を取り返すどころか、北の人類側の領域の存続も危ぶまれますね」
「そう、なんだ‥‥」
「UPCとしちゃ敵の航空戦力を無力化、までは贅沢だとしても、今回の爆撃作戦でその大半を削ぎたいんだろう」
「恐らくは。ただ、敵方も黙ってやられはしないでしょうね。決戦になるでしょう」
とラルス。
「だから、正念場‥‥か」
「今回の戦いは負けられないぜ」
ブレイズが言った。
「うん‥‥がんばる、全力で」
ラシード・アル・ラハルは頷き、愛機へと乗り込んだのだった。
●
二十に近い巨大な機影が大気を掻き乱しカリマンタン島の西の空を飛んでいる。
「小型HW8機が相手ね。相手にとって不足無しと言うべきなのかしら?」
小鳥遊神楽(
ga3319)が言った。こちらの戦域に回ってきた敵の数は八。敵本隊から分かれた一隊だ。中央戦力を迂回して爆撃機を直撃せんとしている。小鳥遊達十機のKVはそれを阻止する為に送られた隊だ。
HW八機。少し前ならS‐01が二十四機も必要だった相手だ。
「クソッ! 奴等チョロチョロ逃げ回りやがって‥‥」
六堂源治(
ga8154)が悪態をついた。今交戦を避けようとしているのは敵で、遮るように回り込んでいるのはこちらだが、敵は決して少ない戦力ではない。
(「十対八‥‥」)
九条・命(
ga0148)は考える。以前は三対一で互角に持ち込めていた相手、現状で一対一に近い状況を行なったらどうなるか?
「成長を図るには良い状況、良い戦況、良い経験だ。面白い、糧にさせてもらうぞ」
九条は不敵に言い放ち、愛機ディアブロを旋回させる。
「良い気合だけど油断はしないでね。此処を抜かれでもしたら、他の空域で戦う友軍に顔向け出来ないわ。きちんとあたし達と踊って貰わないと」
「解っている。抜かせはしない」
小鳥遊の言葉に九条はそう答えた。
「皆さん、頑張りましょう」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が言った。本隊で頑張っている友人の為にも、ここを抜かれる訳には行かない。
「っと、機動を変えた!?」
六堂が言った。逃げ回っていたヘルメットワームが機体を旋回させ八方に散る。戦(ヤ)る気って事ッスか、その様を見て六堂は思う。
「OH! われらが粘り勝ち、やっこさんたち、とうとう痺れ切らしてこちらに向かって来たわね」
阿野次 のもじ(
ga5480)が言った。
「好機です。ここで押さえ込ませて頂きましょう」
とヤヨイ・T・カーディル(
ga8532)が言う。
「ハッ、上等だ‥‥! ワームども全機、くず鉄にしてやるぜ!」
とブレイズ。
「お祈りは済ませた? 燃料の残はOK?」
阿野次が問いかけた。
「大丈夫‥‥僕は、大丈夫」
ラシードはそう答えた。
「じゃあ、景気よくじゃんじゃんばかばかいくことにしましょうか」
少年はその言葉に頷く。中央部隊で戦っている筈の兄と慕う青年を思い出し勇気を奮い起こし、愛機に向かって呟く。
「行こう。僕の翼『ジブリール』」
一方、嶋田 啓吾(
ga4282)は咥えていた火の点いてない煙草を吐き出していた。
「さて、S‐01よ」
マスクを被りなおし、敵を見据える。
「ロートルの意地、見せてやろうか」
相対距離が千に入った。八機のヘルメットワームが翻り、それぞれ向かってくる。迎え撃つべく十機のナイトフォーゲルもまた散る。今まさに島の西の空でHWとKVが激突せんとしていた。
●九条命VSヘルメットワームB
航空師団の管制機によりヘルメットワームはA、B、C、D、E、F、G、Hとナンバーが振られ各機にデータリンクされている。
九条命はヘルメットワームBへと真紅のディアブロを翔けさせた。突出に注意し戦速を抑え気味にして向かう。
九条は距離五○○程度でヘルメットワームを照準に捉えると127mm2連装ロケット弾ランチャーのボタンを押し込んだ。
ディアブロからロケット弾が勢いよく放たれ、煙を引いてヘルメットワームへと向かう。
ヘルメットワームは急降下して回避せんと動く。しかしロケット弾の方が速かった。宙を裂いて飛んだ噴進弾がヘルメットワームの上面部に激突し、その装甲を突き破り大爆発を巻き起こす。
九条機はさらに間合いを詰めるべく飛ぶ。爆炎の中から淡紅色光線砲が空に閃き九条機へと真っ直ぐに伸びてきた。
一瞬にして二連の閃光が九条機を飲み込み、その装甲を焼き尽くさんと荒れ狂う。
だが鏡面装甲が張られた九条機、なかなか頑丈だ。損傷率7パーセント強。たいした被害ではない。
真紅のディアブロはブーストを点火させると、閃光を突き破り猛然と飛ぶ。
猛烈なGに逆らって機体を翻し、揺れる照準にヘルメットワームの機体をねじり込む。サイトが赤く変わった。ロックオン。
「Thunder‐1、FOX‐2!」
三連の誘導弾が爆音と共に放たれる。音速を超えて飛んだ誘導弾は宙でうねりヘルメットワームに喰らいつき装甲を穿ち、突き破る。
爆裂。爆裂。爆裂。猛烈な破壊の華が咲き乱れた。ヘルメットワームの内部から紅蓮の炎を膨れ上がり、そして次の瞬間、その巨体が爆裂する。
四散した。
(「‥‥手ごたえが無さ過ぎる?」)
九条の脳裏を一瞬そんな言葉がかすめる。以前のものよりも弱体化されているのか――否。ヘルメットワームの実力に変わりはない。
(「‥‥俺が強くなったのか。操縦の腕も、機体の性能も上がっている」)
男は既に一段階改造のヘルメットワームは凌駕していた。真紅のディアブロは仲間を援護する為に機首を翻す。
破砕されたヘルメットワームの破片が青い海の上へと降り注がれていった。
●阿野次のもじVSヘルメットワームF
「カリマンタンの青空に綺麗な華、咲かせてあげるわ」
少女がコクピットで呟いた。F‐108ディアブロが飛び、ヘルメットワームが迎え撃つ。互いに向き合った状態から騎士の馬上試合の如く距離を詰め、四百程度の間合いまで迫る一斉に火器を解き放つ。
阿野次はアグレッシヴ・フォースを発動させて極限まで愛機のSES機関の出力を上昇させると、放電装置を解き放った。
「サンダースラッシュ! 改め必殺シューティング・スター・F!!」
威力が増幅された爆雷が、光をまき散らしながらヘルメットワームへと向かって破壊の腕を伸ばす。対するヘルメットワームは淡紅色の光線を猛射した。
爆雷がワームの装甲を焼き焦がし、二連の光線がディアブロの装甲を削り取る。阿野次機は攻撃を受けつつも速度を落とさず前進し間合いを詰める。ドッグファイトだ。
ディアブロがバルカンを吐き出しながら迫り、ヘルメットワームと交錯する。弾幕の嵐を受けて装甲を穿たれながらもヘルメットワームは翻り、旋回、加速して阿野次機の側面からプロトン砲を三連射する。
ディアブロが淡紅色の爆光に飲み込まれ装甲が削られてゆく。損傷率三割二分。激震にコクピットが揺られる中、三撃目、意識がクリアになった。はっきりと見えた。完璧な機動で光の間を縫って脱出する。天と地が入れ替わり、景色が凄まじい勢いで流れてゆく。操縦桿を倒し、小回りでヘルメットワームの後背へと回り込む。ターゲット、ロック。
「Thunder‐6、FOX‐2!」
爆裂が巻き起こった。命中。阿野次は一旦距離を取るべく機体を加速させる。
「‥‥しぶといわね」
後方へとちらりと視線を走らせる、ヘルメットワームは爆炎を裂いて飛び出し阿野次機を追ってきていた。
●霞澄セラフィエルVSヘルメットワームA
霞澄機は戦場の最左翼、高めの高度から、敵の最右翼へと回り込むように迫らんとした。端を飛ぶヘルメットワームAはその動きに反応し、霞澄機の側面を衝くように小回りを利かせた半円の機動で動いた。霞澄機もまたそれに気づき、軌道を修正させる。両機、複雑な軌道を描きながらアンジェリカとヘルメットワームが互いに迫る。
射程距離まで間合いが詰まると霞澄はジェット噴射ノズルの角度を調節して機体を横に流し猛烈なGの中、照準にヘルメットワームを捉えんとする。気合でねじり込み放電装置を撃ち放った。
霞澄機より猛烈な破壊力を乗せられた電撃が宙を焼き尽くして飛ぶ。電撃がヘルメットワームを捕え、破壊の嵐を巻き起こした。だがヘルメットワームも負けてはいない、爆雷に打たれながらも慣性制御で素早く回頭し反撃のプロトン砲を撃ち放つ。
アンジェリカは素早く急旋回し、間一髪で一撃目をかわし、二撃目も後方へと置き去る。
霞澄はブースト空戦スタビライザーを発動させて加速すると、ヘルメットワームの後方へと回り込まんとする。ワームもまたアンジェリカの背後を取ろうと旋回する。
二匹の蛇が絡み合うような軌跡を描く中、霞澄は機体を減速させ、ヨーを聞かせて機首を予測されるヘルメットワームの軌道先へと向けるとSESエンハンサーを発動させてレーザー砲のボタンを押し込んだ。
SES機関が唸りをあげ、猛烈な威力となった九閃のレーザーが宙へと解き放たれる。眩いばかりのレーザーの嵐の中にヘルメットワームは飛び込み、その装甲を次々に爆ぜさせ消し飛ばした。
ヘルメットワームはその内部から次々に爆発を起こすと、黒煙を吹き上げながら高度を落としてゆく。やがて大爆発を起こして四散した。
撃墜だ。
●小鳥遊神楽VSヘルメットワームC
小鳥遊機は突出しないように周囲へと注意を払いながら飛んだ。ヘルメットワームCへと向かう。ワームの方も小鳥遊機をターゲットと定めたようだ。互いに向き合い、真っ向から接近する。
四百程度の距離まで間合いが詰まった時、小鳥遊はホーミングミサイルのボタンを押し込んだ。既にロックオンしてある。
「Thunder‐3、FOX‐2!」
煙を噴出しながら誘導弾が勢い良く飛び出す。ワーム側もプロトン砲を撃ち放たれた。ミサイルがワームに突き刺さって大爆発を巻き起こし、プロトン砲が小鳥遊機を飲み込み装甲を削り取る。
「くっ‥‥」
小鳥遊機の運動性では通常機動でかわすのは難しいようだ。
(「此処で墜とされて、みんなの脚を引っ張る事だけはしないわ‥‥!」)
小鳥遊はブースト空戦スタビライザーを発動させて急加速した。回避軌道を無理やり捻じ曲げる。意識が朦朧とする程の強烈なGが全身を襲う。しかし、その甲斐あってか二発目のプロトン砲は翼の端をかすめて抜けていった。AIを走らせる。現在の損傷率五パーセント。非常に硬い。小鳥遊機の装甲を以ってすれば、あまり必死になってかわす必要はないのかもしれない。
小鳥遊は機体を翻して機首を向けるとSESエンハンサーを発動させた。G放電装置の発射ボタンを叩きつけるようにして押し込む。
エンハンサーにより破壊力が増幅された電撃がヘルメットワームに向かって放たれ、絡め取った。電撃が荒れ狂いワームの装甲を焼き焦がす。
互いに至近まで距離が詰まる。小鳥遊はレーザー砲を連射する。ワームからプロトン砲が放たれる。レーザーがワームの装甲を貫き、スタビライザーで加速したアンジェリカが光線を紙一重でかわした。
●ブレイズ・S・イーグルVSヘルメットワームH
「堕ちろォ!!」
赤髪の男の叫びが雷電のコクピットに響き渡る。ミサイルの射程、およそ距離四〇〇程度まで間合いを詰めたブレイズ機がヘルメットワームHに対して、UK−10AAMを撃ち放っていた。素早く武装を切り替え、スナイパーライフルによる射撃も加える。ヘルメットワームHもほぼ同時に二連の淡紅色光線を撃ち返してくる。
音速を超えてミサイルがワームに激突、爆発を巻き起こし、回転するライフル弾がその装甲を穿つ。閃光が雷電へと襲いかかり、その表面装甲を削る。ブレイズ機、なかなか頑丈でそして極めてタフだ。損傷率5パーセント、まったく問題ない。
雷電は超伝導アクチュエータを発動させ、四連バーニアから光の帯を噴出させて突進する。ヘルメットワームがプロトン砲を猛連射する。損傷率一割五分。
射程、捉えた。ブレイズ機は至近まで距離を詰めるとバルカンをまき散らしながら位置を合わせ大口径無反動砲バルバロッサに照準を切り替える。
「テメェには特別にプレゼントだ、とっときな‥‥!」
弾幕の嵐を追いかけるように巨大な砲弾が飛び出した。砲弾はヘルメットワームの正面装甲にぶち当たり、爆裂する。ワームから破片が撒き散らされた。
●ラルス・フェルセン&六堂源治VSヘルメットワームE
EF‐006ワイバーンとF‐104バイパーがヘルメットワームEを目がけて飛ぶ。ラルス機と六堂機だ。
ラルス機は突出せぬように速度を抑え気味に飛ぶ。ワームEは六堂機に標的を定めたようだ。青年の駆るバイパーへと真っ向から向かってくる。
「‥‥上等ッス。【あの人】と肩並べて戦うってんならHW如きに遅れを取る訳にはいかないッス!!」
六堂機もまた迎え撃つように飛んだ。四〇〇程度まで距離を詰めると誘導弾を連射する。
「Thunder‐9、FOX‐2!」
四発のG‐1ミサイルが焔を吹き上げて飛び。身をうねらせながらワームに襲いかかる。ヘルメットワームの方も淡紅色の光線を連射する。四連のミサイルがワームに喰らいつき次々に爆炎の華を咲かせる。一瞬で宙を制圧した光の帯がバイパーを呑み込み、その表面装甲を吹っ飛ばす。
「まずは1発‥‥」
三〇〇程度まで間合いを詰めたラルス機が8式螺旋弾頭ミサイルを撃ち放った。先端がドリルと化しているミサイルがヘルメットワーム目がけて飛ぶ。爆炎の間を縫ってワームに突き刺さり、さらに爆発を巻き起こした。
ラルス機はスナイパーライフルD‐03をリロードしながら連射しつつ旋回して距離を保つ。弾丸がワームの装甲に穴をあけてゆく。
一方の六堂機はそのままワームへと突っ込んだ。ワームから三連の閃光が飛び、六堂機の装甲を抉ってゆく。損傷率三割七分。まだいける。
六堂機は至近まで間合いを詰めるとバルカンをまき散らしながら進み、すれ違いざまに三連のレーザー砲を撃ち放った。光の筋がヘルメットワームに突き刺さる。バイパーの後方でヘルメットワームが爆発を巻き起こしながら落ちてゆく。撃墜だ。
「やったッス!」
「護る意志の無い機械には負けません」
六堂とラルスは目標の撃墜を確認すると、他の機体を援護すべく機首を翻した。
●ラシード・アル・ラハル&嶋田啓吾VSヘルメットワームD
ミサイルの射程、距離四〇〇、ラシードのジブリールIIと嶋田のS‐01改はヘルメットワームDを狙い、その距離へと到達すべく飛ぶ。ワームDはラシード機に狙いを定めたようだ。一直線に向かってくる。
既に両機ともにロック済みだ。「Crescent‥‥ターゲットインサイト‥‥FOX‐1!」ラシードは射程に入った瞬間にAAMを連射した。ヘルメットワームがラシード機に向かって淡紅色光線砲を猛射する。「Thunder‐4、FOX‐2!」嶋田機はブレス・ノウを発動させ誘導弾を撃ち放った。
二機合計三発のAAMが宙を裂いて飛び、ヘルメットワームを追尾する。ワイバーンの的確さとブレス・ノウの未来予測によってそれぞれ精密に狙われた誘導弾は次々にヘルメットワームを捕え爆発を起こし赤い光を放射し大気を震わせる。破片が空に舞った。
淡紅色の光線がラシード機を飲み込む。装甲が焼かれてゆく。だがジブリールIIの鏡面装甲も強固だ。損傷率6パーセント、たいした被害ではない。
ラシード機は旋回しつつスナイパーライフルD‐02に武装を切り替えるとリロードしつつ連射した。回転するライフル弾が宙を裂いて飛び、ヘルメットワームDに突き刺さる。焔が噴き上がった。ワームからプロトン砲が撃ち返される。三連の光波がジブリールの装甲を削った。損傷率一割五分。
その攻防の間に嶋田はヘルメットワームの軌道に当たりをつけて背後に回るように機体を小回りに旋回させて距離を詰めんとする。
多少、予想よりも右に流れたが修正できる範囲か。ジェット噴射ノズル核を操作して機体を横滑りさせる。強烈なGに身体が軋む。
(「こちとら名古屋の空以来、コイツとはツーカーの仲だ‥‥」)
歯を喰いしばって操縦桿を傾ける。光が猛烈な速さで流動してゆく中、ワームの機影をサイトにねじ込む。赤く変わった。ロック。
「旧式だからと舐めてもらっちゃあ困る!」
ボタンを叩きつけるように押し込みつつ叫ぶ。S‐01が咆哮をあげ二連の誘導弾が大空へと解き放たれた。AAMが音速を超え、白煙を引いてうねり追尾して飛び、ヘルメットワームの背に吸い込まれるように突き刺さった。爆裂。紅蓮の火球が咲き乱れる。
ヘルメットワームDは次々に爆発を起こし、破片をまき散らし、黒煙を噴き上げて墜落していった。
●ヤヨイ・T・カーディナルVSヘルメットワームG
アンジェリカが蒼空を背に飛んだ。ヤヨイ機だ。ヘルメットワームGへと向かう。ワームの方でもヤヨイ機を標的とみなしたか真っ直ぐに向かってくる。
(「流石に一機では厳しいかもしれないですね‥‥」)
ヤヨイはワームを見据えながら胸中で呟いた。
一対一では不利だとは思うが、最低限遊撃ないし他の味方の援護が入るまで何とか出来れば、女はそう考える。
照準にヘルメットワームを納め、放電装置の射程四○○まで間合いを詰めるとヤヨイは操縦桿の発射ボタンを押し込んだ。
SES機関が唸りをあげアンジェリカから強烈な雷撃が宙へと放たれる。電撃の腕が光と爆音を撒き散らしながら蒼空を裂き、ヘルメットワームGを捕えんとする。ワームは猛然と機首をヤヨイ機へと向けるとプロトン砲を猛射した。淡紅色の閃光が唸りをあげて飛ぶ。
雷撃が激しくヘルメットワームを打ち、プロトン方がアンジェリカに突き刺さった。両機の装甲が削れ光が散る。が、ヤヨイ機も硬い。損傷率6パーセント、問題無し。
ヤヨイは照準にヘルメットワームを正面から捉えると武装をAAMに切り替えトリガーを押し込んだ。
「Thunder‐10、FOX‐2!」
三連の誘導弾が音速を超えて飛ぶ。ワームがプロトン砲を猛射する。アンジェリカは素早く翻り、一閃をかわし二閃目もかわす。三発目がかわしきれずに、その装甲を削られた。一方のミサイルは全弾がヘルメットワームに突き刺さった。爆発が巻き起こり、ヘルメットワームの装甲が吹き飛んだ。
だがまだ動く、焔を裂いて飛びだしヤヨイ機へと迫る。
●終局
「Thunder‐5よりThunder‐6へ、援護頼める?」
阿野次が無線に向かって言った。
「Thunder‐6、了解、援護します」
ワイバーンを駆る遊撃のラルスが答えた。
「そっちへ引っ張るわ」
阿野次はラルス機の方角へと機首を翻す。
「了解」
ディアブロを追うヘルメットワームFへとラルス機がマイクロブーストを使用して横合いから迫った。SRD‐03を撃ち放つ。ヘルメットワームは慣性制御を使用し急降下して逃げる。
その隙に阿野次機が翻り、ワームをロックサイトに収めた。
「Thunder‐6、FOX‐2!」
二連の誘導弾がヘルメットワームに突き刺さる。ミサイルは爆裂を巻き起こし、ワームの巨体を四散させた。撃墜。
一方、ヘルメットワームCと格闘する小鳥遊機。操縦桿を倒し込み機体を急角度で倒しこんで、正面にヘルメットワームの側面を捉えるとガトリング砲をその進路上にばらまいた。嵐のような弾幕にヘルメットワームの装甲が次々と穿たれ、やがて焔を吹き上げた。小爆発を連続して巻き起こし、黒煙をあげる。小鳥遊機は宙で翻ると駄目押しにレーザー砲を叩きこんだ。ヘルメットワームCが爆裂を巻き起こし四散した。
ブレイズ機もまた超伝導アクチュエータを発動させて、ヘルメットワームHを正面に捉えるとバルカンを猛射した。蜂の巣にされたワームは爆発を起こし、盛大に焔を吹きながら落ちてゆく。撃墜だ。
ヤヨイ機へと向け、プロトン砲を撃ち放ちながら突進ヘルメットワームGが突進してくる。アンジェリカを淡紅色の光線の嵐が飲み込んだ。しかし、ヤヨイ機まだまだ健在だ。紅の閃光を突き破り、ヘルメットワームの眼前まで迫る。SESエンハンサーを起動させ、交差ざま六連の爆光を解き放つ。威力が高ければ高いほど破壊力が飛躍的に増すのがエンハンサーの特徴だ。強烈な閃光がヘルメットワームの装甲を貫き、そして大破させた。
最期のワームもまた大爆発巻き起こし、焔に包まれながら青い海の上へと落下していった。
●そして乱戦の最中へと
「向うは大丈夫でしょうか‥‥心配です」
霞澄がコクピットの中で呟きを洩らした。と、その時不意に全機に対して無線が入った。
「こちらストームヘッド。そちらは全機無事のようだな。敵勢力の沈黙を確認した」
後方の管制機、すなわち司令部からだった。
「西からの脅威は貴君等のおかげで排除できたが、中央ではまだ戦いが続いている。余裕があるならそちらへ増援に赴いてもらいたいのだが、いけるかね」
「んん、皆もうヒト頑張りできる?」
阿野次が仲間に問いかけた。
「俺は大丈夫だ」
ぶっきらに九条が答えた。
「私も問題ないですね」
と霞澄。
「意外といけるものね」
小鳥遊が言った。古いタイプの小型ヘルメットワームでは既に相手に不足があるのかもしれない。
「やれやれ‥‥老兵をあんまり扱き使わないでやって欲しいんだがね。ま、いけない事はない」
嶋田が肩を竦めて言った。
「こちらは無傷です。大丈夫ですね」
とラルス。
「Thunder‐10もまだ飛べます。行けますよ」
ヤヨイが言った。
「俺はちょっと被害が出てるッスが、まだまだ戦えるッスよ」
六堂が計器に目を走らせつつ述べる。
「ん‥‥ジブリールも大丈夫みたい」
ラシードが愛機をチェックしていった。
「という訳でストームヘッドへ、こっちは全機いけます」
阿野次が司令部へと言う。
「そうか。では貴君等に追加任務を一つ頼む。現在、カリマンタン島上空では敵空軍戦力が――」
ストームヘッドから新たな任務を引き受けた一同は南東へと向かって飛び、そして激戦の空へと向かったのだった。
が、結局の所、西の航空隊が到着する前に増援に送り込まれた中央十機の傭兵達が猛威を奮いバグアの航空戦力を壊走へと追いやっていた。
一同は敵基地上の制空権の確保に努めながら、爆撃作戦の成功を見守った。
二十機の爆撃機から投下されたフレア弾は地上のバグア軍基地を焼き払い、人類側へと大きくイニシアチヴを傾けさせたのだった。
了。