●リプレイ本文
離陸前。
暁・N・リトヴァク(
ga6931)は昔を思い出した。記憶はいつだって苦い。その記憶は、力の対価と言うには代償が大きすぎる。
それでも彼に求める、力を使えと――誰が? 人か? 時代か? 運命か? 己自身か? それとも――過去の記憶の中にあるものか。
戦えというなら戦おう。リトヴァクはキャノピーにつけた写真を見やり言った。
「‥‥皆、いってくる」
操縦桿を握りエンジンを点火させる。加速。EF‐006ワイバーンが滑走路上を走り空へと舞い上がる。空には三○○もの鋼鉄の翼が舞っていた。
「KVがこんなに並ぶと壮観ですね。大規模作戦を思い出します‥‥」
航空師団の中、比留間・トナリノ(
ga1355)が言った。何処を見渡しても味方の戦闘機が飛んでいる。
これだけの軍団が負けるところなど想像出来ない。そう――何時も、俄かには。しかしそれでも負ける時は負ける。比留間はこれまでの大規模作戦を見てきていた。
(「落雷の作戦‥‥上手く行けば良いのですが」)
コタキナバル航空師団は島の中部にある敵基地パランカ・ラヤを目指して飛んだ。
●第二次セレベス空戦
地球側とバグア側は互いに駒を進め、セレベスの空へと放たれたヘルメットワーム編隊の迂回を阻止する為に十機のKVが解き放たれた。
「セレベスの空を飛ぶのは、これで二回目です‥‥」
広がる青い海を見やり、岩竜を駆る菱美 雫(
ga7479)がぽつりと呟いた。
(「今回も、ワームの好きなようにはさせません、作戦の要である爆撃機には指一本触れさせない‥‥っ!」)
胸中で決意を固める。
一方、
(「此処で俺たちが万が一抜かれれば、後方の爆撃機の編隊に甚大な被害が出るのは間違いないだろうな」)
榊兵衛(
ga0388)もまた胸中で呟いていた。もしそんな事にでもなれば、今回の作戦自体が瓦解しかねない。
「責任重大だな」
槍使いの男は雷電のコクピットの中、気を引き締める。
「燕雀鴻鵠と言いますけどね‥‥私の燕は筋肉隆々よ♪ 旧型機でも立派に依頼をこなして見せます」
藤田あやこ(
ga0204)が言った。バイパーは悪い機体ではない。上手く戦えば良い成果を残してくれる筈だ。女は装備している兵装名をそれぞれあげてゆくと、
「食費削って買ったの! 機体は筋トレ、私は痩せて水着が着れる一石二鳥さね♪」
曰く、このヘビーガトリング砲なんて凄いのよ、重いけど物凄い威力なんだから! との事。
「そいつは頼もしいな。だが、敵さんも強化されてるって話だ。油断なんかすんじゃねえぞ〜」
ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)が言った。敵の小型ヘルメットワームは古い強化タイプのものよりさらに装甲と火力を強化したものだという。
「簡単にゆく相手では無いでしょうね。気を引き締めていきましょう」
音影 一葉(
ga9077)が頷いて言った。
「自分達はどうしますかねぇ‥‥目標目掛けて突撃かけるなら回避行動よりも多少のダメージ覚悟で真っ直ぐぶっ飛んで行ってやろうぜ?」
遊撃班のリーダーを務める鈴葉・シロウ(
ga4772)が言った。遊撃班は四機、鈴葉の雷電、比留間の雷電、リトヴァクのワイバーン、狭間のハヤブサといった編成だ。
「ガンガンいこう、でも命は大事に」
攻撃は最大の防御ともいう。やられる前にやれるか否か。
「‥‥了解」
リトヴァクが頷いて言う。
「うっうー、それじゃあ、私は突っ込む前にライフルで牽制入れておきますね」
「僕は後ろに回り込んでみる」
狭間 久志(
ga9021)が答えて言った。
「了解です」
鈴葉が答えていう。
(「初めての空戦‥‥上手くやれよ、久志」)
狭間は己に対して胸中で呟く。そう、男にとって初めてのKVでの空戦。対する敵は中型ヘルメットワームが二機、二段強化小型ヘルメットワームが四機。ギガワームやファームライド、ステアーやシェイド、そういったものを除けばかなり上位のラインナップ、敵は精鋭だ。初の実戦でやりあうのにはいささか重い相手かもしれない。
「だがやるしかない‥‥やれる、筈だ」
操縦桿を強く握り、空の彼方を見やる。黒点が見えた。
「前方十時方向、ヘルメットワームの編隊です」
緋霧 絢(
ga3668)がレーダーへと視線を走らせつつ言った。搭乗機は岩竜。黒をベースに暗赤色のエッジを持ち、左主翼にはIMPのロゴが入れられていた。
今回は管制とデータリンクが効いている。航空師団の管制機は二機の中型ヘルメットワームにそれぞれAとB、小型ヘルメットワームにC、D、E、Fとナンバーをふっていた。
六機のヘルメットワームは密集して飛び、猛然と向かってくる。十機のナイトフォーゲルがそれを迎え撃たんと翻る。ヘルメットワームとナイトフォーゲルがセレベスの空で今、再び激突せんとしていた。
●紅の空
相対距離およそ二〇〇〇、傭兵達は大まかに隊二つに分けて対した。戦線維持班と遊撃班の二つである。
「ようし、一番槍は任されたぜ」
英国人の若者ジュエル・ヴァレンタインは快濶な調子でそう言った。正面先頭に立つ。最も危険なポジションだ。
一同はまずジュエル機の雷電を先頭にその巡航速度に合わせて進んだ。ヘルメットワームは小型の戦速に合わせ、それでもかなりの高速でぐんぐんと迫る。
相対距離がおよそ八〇〇を切った所で雷電の四連バーニアが焔を噴き上げた。ジュエル機が超伝導アクチュエータを発動させブースト急加速して真っ向からヘルメットワームの編隊へと飛びこまんとする。
ワーム達のAIはその動きに即応し加速する。ジュエル機に対して集中射撃の構えを見せた。円錐底の密集形からプロトン砲を一点に集中させる。およそ四〇〇メートル付近、雷電の予測進路目がけてワーム達は一斉に淡紅色の光線を撃ち放った。その瞬間に他の戦線維持班のKVもブーストを点火させ、各機加速して散開して迫らんとする。遊撃班の面々は一拍タイミングをづらしてから加速した。
ジュエル機に対して二機の中型から八条の巨大な閃光が飛び、四機の小型から十二条の閃光が飛ぶ。空が淡紅の光に焼き尽くされた。ジュエル機のコクピットからは前面、紅の閃光ですべてが塗りつぶされる。猛烈な破壊力を秘めた光の本流が雷電の呑み込み、その装甲を猛烈な勢いで消し飛ばしてゆく。大気が焼き焦げ、合金が絶叫をあげ、フレームが焼き溶けねじ曲がる。ジュエル機のコクピットは形容しがたい程の激震に襲われていた。肝の底に氷のナイフでも突っ込まれたように冷気がこみあげてきた。
爆熱が大気を掻き乱した長く短い一瞬の後、雷電が淡紅色の閃光を突き破って飛びだした。
「その程度じゃ、雷電の橋渡しは止めらんないぜ‥‥!」
ジュエル機、雷電、健在だ。
損傷率八割四分、万物を焼き尽くす程の猛火に耐えきった。恐ろしい程に頑強でありえない程にタフである。装甲の薄さに定評があるKVなら八回は消し飛ぶ威力だ。
ジュエル機はヘルメットワームの編隊の中央に飛び込むと中心にいる中型ヘルメットワームAへと向けてグレネードランチャーを二発撃ち放った。砲弾が勢いよく飛び、中型の巨体に命中。猛烈な大爆発を巻き起こし、砲弾がはじけ破片を周辺空域に撒き散らし、群がる者どもを薙ぎ払う。その破壊は攻撃を放ったジュエル機にも例外なく襲いかかった。が、こちらは打撃力よりも装甲の方が厚い。たいした被害は出ていない。装甲の表面に多少傷が出来た程度だ。
中型は二機ともに被害を受け、Cは破片の半分を抜群の機動でかわし、半分を避け損ね、D、E、Fは回避できずに破片の嵐を浴びた。ワーム全機に被害が出ている。
ジュエル機に続いて榊機の雷電がブーストで間合いを詰めていた。中型AをロックオンするとAAMを撃ち放つ。
「Strike‐2、FOX‐2!」
激しく煙を噴出し誘導弾が中型目がけて飛び、その装甲に突き刺さって爆発を巻き起こした。榊機はさらに放電装置を解き放って攻撃を仕掛ける。荒れ狂う雷撃の腕がヘルメットワームを包み込み、その表面を焼き焦がした。
ブースト機動で漆黒の中に赤を彩る機体が鋼鉄の翼を閃かせヘルメットワームの編隊へと飛び込んだ。目標はヘルメットワームC。岩
竜が音速を超えて迫り、ローリングしながらソードウイングでワームの装甲を叩き斬らんとする。刃が迫る。ワームが回避運動取る。機体を滑らせて追尾する。入った。ぎゃりぎゃりと猛烈な音をあげながら鋼鉄の翼がワームの装甲を斬り裂き、抉り抜く、そしてそのまま後方へと抜けてゆく。ここまでアグレッシヴな岩竜というのも珍しい、というレベルではない。きっと岩竜の外見をした別の何かだ。
痛打を受けたヘルメットワームだったが、伊達で強化されてはいない。まだ健在だ。急旋回して立ち直る。だがダメージはかなりの物があった。ワーム各機のAIへとダメージが伝達される。
音影機はブースト機動で一気に急上昇して中型Bへと迫った。音影機もまたディスタンである筈なのだが、やけに移動速度が速い。
「暫く私とディスタンに付き合って頂きますよ‥」
高空から加速して中型Bへと肉薄し、すれ違い様にKA‐01試作型エネルギー集積砲を撃ち放つ。
大口径から放たれた砲弾が中型ヘルメットワームの装甲を痛打し、爆裂を巻き起こした。音影機はそのまま後方に抜け、急上昇しながら旋回し、ラージフレアを展開する。
「一気に行きますよ!」
鈴葉が無線に向かって言った。四機の遊撃隊がブーストしヘルメットワームFへと襲いかかる。
「この星の空から‥出て行ってください! うっうー!」
まず比留間機からスナイパーライフルD‐02が発砲された。回転するライフル弾が大空を切り裂いて飛び、ワームFの装甲に突き立ち穿つ。
「Strike‐6、FOX‐2!」
鈴葉機雷電が咆哮をあげ二連の誘導弾が煙を引いて飛ぶ。
「お前達に足りない物、それは‥‥」
一方、狭間はブーストで突撃しつつハヤブサの翼面超伝導流体摩擦装置を起動させていた。機体は音速を超え、殺人的な機動で疾走し、肉体が叩き潰される程の猛烈なGが狭間に襲いかかる。
朦朧とする意識を振り絞って呟きつつ敵編隊の後方へと抜ける。機体が上下に回転し天地がひっくり返る。猛烈な空気抵抗を受けてハヤブサが流れてゆく。
狭間は眼を見開くと歯を喰いしばって照準に敵影を納めんとする。紙一重で意識を繋ぎ、捉える。サイトが赤く変わった。ロックオン。
「――‥‥速さが足りない!」
叫びつつAAMを撃ち放つ。
その間にリトヴァク機もまたワームFをロックサイトに納め二連の誘導弾を撃ち放っていた。
「アルバトロス、フォックス2」
ワイバーンから極めて精密に狙われたミサイルが勢いよく飛び出す。ワームFは咄嗟に回避運動を取ったがとても避けられるものではなかった。鈴葉機から放たれたAAMが突き刺さり、爆発を巻き起こし、リトヴァク機から放たれた誘導弾も同じく、命中し爆裂する。一拍遅れて狭間機から放たれたミサイルが炸裂し、爆発を巻き起こした。
三機から放たれた誘導弾の嵐は猛烈な爆発を生み出し、ワームFを爆炎の渦にのみ込み、その装甲を消し飛ばした。
爆炎を裂いてワームFが飛び出す。大分ボロボロになっているが、まだ健在だ。
藤田機はブーストでEへ向かう軌道を見せつつ進んでいたが、途中で急旋回してワームDへ距離を詰めていた。レーザーの射程距離一〇〇メートル以内まで入るとスタビライザーを発動させ、ワームDの後背へとレーザー砲を連射し、ガドリング砲を撃ち放つ。
「エンゲージ! ヘビーガドリングで風穴開けるよ〜」
六連の光線がワームの装甲を削り、ガドリングが宣言通り穴を穿つ。藤田はその効果をよく観察する。この機体ではざっと見た所ではレーザーよりもガドリング砲の方が効いているような気がした。
一団よりも後方に位置している菱美機はジャミング中和装置の発動を維持しつつ戦況を観察しながらラージフレアを展開し後退する。
榊機は中型ヘルメットワームAを追走し、ヘビーガドリングとレーザー砲で攻撃を仕掛ける。嵐の如く吐き出される弾丸が中型の装甲を穿ち、レーザー砲がその表面を焼いた。
中型ワームAは榊機の攻撃を受けつつもジュエル機の撃墜を優先した。唸りをあげて加速するとジュエル機の後背へと回り込む。ジュエル機はワームEへとD‐02ライフルを二連射していた。中型の接近に気づき機体を急降下させる。が、中型ワームBは慣性制御で滑り込むようにして後背に喰らいついた。特殊能力を発動させているが、振りきれない。中型がフェザー砲を猛射し、二十連の紫光の嵐が雷電に襲いかかった。
爆光の嵐に飲み込まれ、先の攻撃で深手を負っていた雷電が次々と爆発を巻き起こしてゆく。コクピットが激しく震えレッドランプが一斉に点灯し、アラートがけたたましく鳴り響いている。損傷率が百パーセントを超えた。
「‥‥ここまでか」
ジュエルは呟きを洩らした。ワームEを含め敵全機に打撃を与え、初撃を防いだ。仕事はした筈だ。が、無念は無念だ。男は顔歪めると緊急脱出用のボタンを押し込んだ。身体が勢いよく外へと噴出される。
しばらくの間の後、雷電が大爆発を巻き起こした。焔に包まれながらその機体は海へと墜ちていった。
中型Bは翻って音影機を追うよりも、加速して緋霧機へと機首を回しフェザー砲を撃ち放っていた。二十連の紫光線砲が岩竜へと向かって飛ぶ。回避運動を取るが、避けられない。猛烈な光の嵐に岩竜の装甲が消し飛ばされてゆく。
緋霧機はソードウイングを閃かせ、ワームCを目がけて突っ込む。Cは迎え撃つようにフェザー砲をまき散らした。十六連の紫光が緋霧機へと襲いかかる。避けられそうもない。ローリングしながら突っ込む。光の嵐に飲み込まれ、岩竜が悲鳴をあげている。装甲が吹き飛んでゆく。音速で光の嵐を突き破る。眼前ヘルメットワーム。交差。鋼鉄の翼で叩き斬る。深く入った。斬って斬って斬って斬る、抜けた。
緋霧機の後方で大爆発が巻き起こる。小型ヘルメットワームが爆炎を撒き散らして四散し、海へと堕ちていった。
緋霧は岩竜を翻しつつAIを走らせて損傷率をチェックする。
「損傷率71パーセント‥‥現時点の装甲では止められませんか」
敵もどうやら半端ではないようだ。側面より紫の光の嵐が襲いかかってきた。激震がコクピットを襲う。ヘルメットワームEの攻撃だ。損傷率九割五分。激震に座席が揺れ、レッドランプがけたたましく鳴り響いている。
戦域から離脱する為に機体を翻す。正面、淡紅色の光線が煌めいた――離脱を図る敵は放っておいた方が有利な状況だが、敵からすればどれが離脱しようとしている機体か、最後まで戦おうとする機体か、戦域にいる間に見分ける方法はあるだろうか? 無い――光の帯が音速を超えて飛来し、岩竜の致命的な何かを吹っ飛ばした。ワームFの攻撃だ。操舵がまったく効かなくなる。
緋霧は緊急脱出のボタンを押し込む。宙へと身が投げ出される。瞬後、岩竜が爆散した。
ワームDは慣性制御を用いて翻ると藤田機の側面を正面に捉え、フェザー砲を猛連射した。藤田機はラージフレアをばら撒き対抗する。が、藤田機の運動性ではこの距離でも回避は難しい。紫の光の奔流がバイパーに次々に炸裂し、身を削り、焼き尽くしてゆく。損傷率五割六分。
藤田は急降下と急旋回を織り交ぜてつつ、機首をワームへと向け、ヘビーガトリングをリロードしつつ嵐の如く吐き出して反撃する。弾丸がヘルメットワームの装甲を貫き、無数の穴を穿ってゆく。
一旦、空域を離れて態勢を整えた遊撃班が再度突撃を敢行する。
「トドメをFへ。クールに行きましょうねっ」
ロックサイトを合わせてながら鈴葉が言う。
「うっうー! 雷電の名前は‥‥伊達じゃないですっ!!」
比留間機は超伝導アクチュエータを起動し、短距離高速型AAMの照準を合わせる。
「い‥‥意識が‥‥」
遠のく。ハヤブサを駆る狭間は襲い来るGに耐えきれず特殊能力の制御に失敗していた。ハヤブサが猛烈な速度で明後日の方向へと錐揉みしながら落下してゆく。空と海が蒼と青が、凄まじい勢いで回転しながら次々に入れ替わってゆく。狭間久志、墜落する前に機体を立て直せるか否か。
「Strike‐6、FOX‐2!」
「Strike‐3、FOX‐2!」
「アルバトロス、フォックス2」
遊撃隊の三機が一斉に誘導弾を解き放った。ミサイルの嵐がワームFへと突き刺さり、大爆発を巻き起こす。さしもの強化型ワームもここまでやられては耐えきれない。ワームFが焔の嵐に包まれて消し飛んだ。
「余所見はさせません、貴方の相手は私だと言ったはずです」
音影機は機体を翻らせると急降下し、ソードウイングを翳して中型Bへと向かう。合金の翼が中型の巨体を叩き斬った。強烈なインパクトと共に装甲がガリガリと音を立てて削られてゆく。ディスタンが後方へと抜ける。中型ヘルメットワームの傷口から焔が吹き上がった。だが、まだ飛んでいる。
菱美機は状況把握に努め、戦況を各機へと伝えてゆく。今のところ最も危機的状況にあるのはコールサインStrike‐1、藤田機だ。菱美からの報告を受け、遊撃隊はワームDの撃破に向かう。
「ぬぅ‥‥!」
榊兵衛は戦況報告を受けて呻き声をあげた。現状、敵は集中して僚機を落として回っているようである。最大火力で仕掛けた方がよさそうだ。榊はロックサイトに中型ヘルメットワームAを捉えると、8式螺旋弾頭ミサイルを猛射した。三連のドリル弾が音速を超えて飛び、中型ヘルメットワームの装甲を突き破り、大爆発を巻き起こす。
が、ヘルメットワームは相変わらず他機を狙っていた。傭兵達が遊撃隊を編成しているのと同じ理由である。それを逆手に取った対抗策はあるが、原則、標的は集中させた方が良い。
中型ヘルメットワームAは藤田機へと烈光を爆裂させた。淡紅色の光線の嵐がバイパーを呑み込み、猛烈な破壊力で消し飛ばしてゆく。大分オーバーキルの勢いで装甲が爆裂し、バイパーが紅蓮の火の球と化して墜落してゆく。藤田は辛くも緊急装置を作動させて脱出した。
中型ヘルメットワームBは慣性制御を駆使して巨体を急旋回し音影機を正面に捉えんとする。ディスタンはラージフレアを撒くと急上昇に移る。ヘルメットワームの二十連フェザー砲が爆裂した。紫の光線群が一斉に音影機に襲いかかる。
音影機は菱美機のジャミング解除の援護を受けつつ抜群の運動性能で縫うように閃光の嵐を避けてゆく。横にスライドしてかわし、急旋回し、ローリングしながら光の雨をすり抜ける。全て完璧に避けた。
「計算通り‥‥完璧です、ディスタンっ」
回避しつつ間合いを詰めると中型へと肉薄しソードウイングで叩き斬った。轟音と共に中型の装甲が深々と切り裂かれる。中型ヘルメットワームから盛大に焔が噴き上がり、漏電が茨の如く荒れ狂っているがまだ飛んでいる。あと一押しか。
小型ヘルメットワームDとEは音影機へと機首を向けようとしていたが、中型の攻撃が失敗に終わった直後、急速に身を翻した。海へと向かって落下中の狭間機へと機首を向け、淡紅色の光線砲を解き放つ。
一方、錐揉みしながら回転していっている狭間機、唇を噛み締めて朦朧とする意識を呼び戻すと操縦桿やペダルを操作し必死に機体を立て直さんとしていた。
(「くっ――」)
コクピットから青い色が一面に広がる。海だ。当然だがこの勢いで海面に激突すればいかなKVといえどもただでは済まない。機体を制御し損ねて海面に激突死、というのは避けたい所だ。
「あ・が・れぇええええええええ!!」
ジェット噴射ノズル核を操作しつつ、空圧により半端ではなく重くなっている操縦桿を思いっきり引く。海が迫る。機体の回転が止まる。ハヤブサの翼が安定する。機体が垂直から水平に戻らんとする。高度一〇〇フィート、落下が止まらない。
衝撃が海面を突き破り、巨大な水柱が天へと向かって噴き上がった。ソニックブームだ。
ハヤブサが海を割り水柱を左右へと噴き上げつつ、海面すれすれから浮上する。刹那、空から淡紅色の光線が飛来し、片翼を撃ち抜いた。光の嵐が迫る。ヘルメットワームDとEの猛攻だ。衝撃に揺れる機体を歯を喰いしばって制御し、斜め上方へと回転しながら捻り上がる。光線の雨がすぐ近くの空間を焼き尽くして通り過ぎ、海面へと突き刺さって次々に爆砕してゆく。
翼を撃ち抜いた攻撃から続く七連の攻撃を、ハヤブサは避けた避けた避けた避けた避けた直撃、避けた。一発もらったが光の大半をかわしきる。回避性能は抜群だ。損傷率二割四分、損害は軽微。
一連の攻防の間に隊列を整えた遊撃隊の三機がヘルメットワームへと迫る。
比留間機はリロードしつつスナイパーライフルD‐02を撃ち放つ。弾丸が飛び、ヘルメットワームの装甲をぶち抜いた。
鈴葉機とリトヴァク機は距離四〇〇まで間合いを詰めるとAAMを連射した。浮上した狭間機もまたワームDをロックサイトに捉えAAMを撃ち放つ。解き放たれた誘導弾が空を切り裂いて飛び、ヘルメットワームDに命中、爆裂を巻き起こす。
ヘルメットワームDは爆発を起こし、黒焔を吹き上げながら海へと向かって落下していった。撃墜だ。
「次はEですっ」
鈴葉が言った。
「了解」
班員達がそれに答える。
一方、ヘルメットワームAは慣性制御を発動させると榊機へと向き直っていた。至近距離からフェザー砲を爆裂させ、紫光の嵐を解き放つ、榊は超伝導アクチュエータを発動させ、最期の螺旋弾を撃ち放つとジェット噴射ノズル核を操作し機体を横滑りさせ回避せんと試みる。
急激なGがかかる中、ヘビーガトリングの照準を合わせカウンター、猛攻をかけた。
「やらせはせんよ! 此処で墜ちる訳にはいかぬからな!」
四連バーニアが焔を噴いた。榊は機体を巧みに滑らせて回り込み、放たれる閃光の六割をも回避する。ジャミング解除の援護があるとはいえ、この雷電、零距離から避けるか。損傷率一割三分、やはり硬い。
解き放たれたドリルミサイルが中型ヘルメットワームの装甲を穿ち爆発を巻き起こし、ヘビーガトリング砲から放たれた嵐の如き弾丸がワームAの装甲を貫き、ついに致命的な箇所をぶち抜いた。
中型ワームAは大爆発を巻き起こしながら盛大に煙を吹き上げ、海面へと落下してゆく。撃墜だ。
中型ヘルメットワームBと小型ワームEは鈴葉機へと狙いを定め、プロトン砲を猛射した。中型から五条の、小型から四条の淡紅色光線が伸び、鈴葉機を飲み込み、その装甲を次々と吹き飛ばしてゆく。損傷率八割。一気にレッドランプが点灯する。
そこまでが、ヘルメットワーム達の攻撃だった。
中型Bは翻ってきた音葉機にソードウイングで断ち切られ、爆裂の元に四散した。小型Eは逆襲の鈴葉、比留間、リトヴァク、狭間の四機から猛攻を受けた末、鈴葉機のヘビーガトリングに撃ち抜かれて大破したのだった。
一同は敵を掃討後、海の落ちた仲間達を救助後、基地へと帰還した。
基地で聞いた話によれば、航空師団は他方面のバグア軍も殲滅、壊走に追いやり、敵基地上の制空権を奪取し、爆撃作戦を成功させたらしい。
二十機の爆撃機から投下されたフレア弾は地上のバグア軍基地を焼き払い、人類側が大分有利になったらしい。
「犠牲は多かったが、作戦は成功した。貴君等もよくやってくれた」
司令部の士官はそう言って傭兵達に敬礼したのだった。
了。