●リプレイ本文
出撃前、コタキナバル基地、ハンガー。
(「あたしはいつも臆病‥‥空は大好きだけど戦いは嫌い‥‥」)
リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は胸中でそう呟いていた。
だが彼女の父が愛した空を守り、宇宙へ行くのが彼女がここに居る意味なのだ。
「だから‥‥」
少女は愛機を見上げ、言う。
「あたしに勇気を‥‥力を貸して、イシュタル!」
そこには真紅のディアブロが静かに鎮座していた。彼女を守る戦神のように。
同じくハンガー、愛機のコクピットに入り機器のチェックをしていた新条 拓那(
ga1294)は、コクピット内につけらている必勝祈願のお守りへとちらりと視線を走らせた。相方から貰ったものらしい。
必勝を祈願されている。故にこそ勝たねばならない。
新条は気合を入れなおす。
「藍紗、勝利の美酒はとっときのやつを空けようぜ」
ハンガーへと向かう廊下。カツカツと靴音を鳴らしながら歩き、緋沼 京夜(
ga6138)が言った。
「んー、ではその美酒がさらに美味しくなるよう、皆無事で戻るのじゃ」
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が良い事を思いついたとばかりに微笑んで言った。
――昔、誰かが言った。映画などではそういった場合、ほぼ八割がた人間たちが守り勝つものだが、生憎と俺達の世界はそこまで優しくはない、と。
さぁ傭兵達は勝利を掴み空を守れるか否か。地獄の空への扉が開かれる。
●南へと
コタキナバル航空師団、爆撃機の護衛より十機のKVが割かれ南の空へと送り出される。
「今回の戦闘は味方120対敵77ですか。大混乱の戦闘になりそうですね。大型ワームとの戦闘も初めてですし、気を引き締めて挑みます」
ディアブロを駆るソード(
ga6675)が言った。
「戦力は友軍120対敵軍77。数的優位こそあれど、当方がやや押され気味、と。で、司令部はこれをKV10機の増援で押し返せ、と仰る」
飯島 修司(
ga7951)が唸る。今回もまた常識的に考えれば無茶な任務である。
「流石に数が多いですが‥‥負けられませんっ」
夕凪 春花(
ga3152)が言った。
「‥‥まぁ、この顔触れなら無理とは思いませんが」
飯島は共に空を飛ぶ僚機を見回して言う。精鋭、と言って良いだろう。強者が揃っている。このメンバーなら三倍の数のHWと正面から衝突しても打ち破れそうな気さえする。
「やれない事もないだろう」
須佐 武流(
ga1461)が頷いて言った。
「さぁて、大規模作戦以来の大乱戦だ。派手に行こうかね。魔法使いの駆る小夜啼鳥の力、魅せ付けてやろう」
ナイチンゲールに搭乗するエミール・ゲイジ(
ga0181)が鋭く空の彼方を見据えて言った。最近すっかり三枚目が板に付きつつあるが、やるときはやる。
空の彼方に黒点が見える。味方と、そして敵の群れだ。
「行きましょう」
南部 祐希(
ga4390)が言った。
傭兵達はそれぞれロッテを組み、索敵区域を分割設定した上で、まずはアローヘッド陣形で突入し、各方面へ散開する作戦を立てた。
須佐、新条のペアを北東。エミール、夕凪のペアを北西。南部、リーゼロッテを南西。緋沼、藍紗を南東。飯島、ソードを中央、それぞれを担当とした。
傭兵達はアローヘッドの陣形を組むと戦域へと迫った。
●出会い頭
アローヘッドで斬り込み、後に五方へ分散という事は、その性質上、まず敵の中央を目指す事になる。北から傭兵達は飛んだので、特に意識しない限り北面の中央からの突入となる。アローヘッドによる突入時、距離はおよそ三〇〇〇程度だろうか、先頭を飛ぶ飯島機が無線に言った。
「中型ヘルメットワームを発見」
突破する方向へ大将以外の最強の兵を配置するのは、まぁ良くあることだ。激突ラインの中心から直径一〇〇〇メートル以内では、中型ワーム一機、小型ワーム四機、そして八匹の火竜と七匹の妖精が暴れまわっていた。味方側はバイパーが四機、S‐01が三機、R‐01が三機、戦闘機が二十機ほど、激しく抗戦している。
火線が荒れ狂い、ミサイルの嵐が爆裂し、淡紅色の光線と紫の光が空間を埋め尽くす。キメラの鮮血が宙に撒き散らされ、ミサイルがワームを直撃し、爆炎の中からワームが飛び出し、放たれる閃光にバイパーが飲み込まれ、戦闘機がキメラの冷気と火球の直撃を受け、爆裂を巻き起こし黒煙を噴き上げて墜落してゆく。
中央先頭、ど真ん中、激戦区中の激戦区、敵味方の精鋭が入り乱れる最前線だ。
「目標中型! 一点集中、一点突破、まずは武器を叩いて丸裸にするよ!」
新条 拓那(
ga1294)が言った。
「俺はコレと戦い、勝つために来た!」須佐 武流(
ga1461)が中型ヘルメットワームを睨み据えて言った「勝たせてもらうぞ! そして俺はその上を倒す!」
傭兵達が駆る十機のKVは足並みを揃えアローヘッドの陣形で飛ぶと、その戦域に雪崩れ込んだ。
相対距離をおよそ五○○程度まで詰めるとソード機がK‐01小型ホーミングミサイルで対象をロックした。目標は中型ヘルメットワーム、小型ヘルメットワームCA、CB、CC、CDの合計五機だ。
「おなじみのカプロイアミサイルです。退避してください。どーんといきますよ!」
味方の隊の無線チャンネルを開きそう述べると、一斉に五〇〇発の小型ミサイルを宙へと撃ち放った。夥しい数のミサイルが煙を噴出しながら宙を埋め尽くして飛び、バグア軍へと一斉に襲いかかる。敵も味方も慌てて回避機動を取った。少なくない数が途中でキメラに激突し、少ない数がKVに当たった。被害者は深く切り込んでいたR‐01が二機だ。
爆裂の華が咲き乱れた。前面視界一杯にいたるところで爆発が巻き起こっている。
「ジーザスッ! 何処のスットコドッコイだあッ!!」
「またカプロイアか!」
無線から悲鳴と怒号が荒れ狂い。中型ワームがミサイルの嵐に呑まれ、小型CA、CBが直撃を受けた。後の二体への分は途中でばらけて別のものに当たった。猛烈な破壊力を秘めたミサイルの嵐を受けて直撃を喰らった小型は既に大破しかけている。二機のR‐01はなんとか健在のようだ。まとめて命中しなければ致命的なまでの威力ではない。
「好機だ。仕掛けろッ!!」
大混乱に陥っている中、隊長らしき男の野太い声が無線に流れた。その声に我に帰った隊員たちが次々に翻る。
その間にも傭兵達はバグア軍に対して攻撃を加えていた。
ディアブロを駆る新条は四〇〇程度まで距離を詰めると中型ヘルメットワームを照準に納めロックした。安全装置を外し操縦桿のボタンを親指で押し込む。
「ライトニング2、フォックス2! フォックス2!」
解き放たれた誘導弾が煙を噴出して飛び、宙をうねり中型ヘルメットワームへと喰らいついた。二連の爆発が巻き起こり、中型の装甲を吹き飛ばす。
中型ヘルメットワームはプロトン砲を猛射して軍のバイパーを薙ぎ払っている。五連の閃光の直撃を受けてまた一機、バイパーがその装甲を消し飛ばされて堕ちていった。小型ヘルメットワームもまたバイパーを狙っているようだった。飯島機に反応したCCを除く三機はプロトン砲を集中させて連射し、別の一機を撃墜する。
「バルカンやガトリングといえ‥‥至近距離で喰らえばただでは済まない!」
須佐機は一気にブースト機動で突進し中型ヘルメットワームに迫るとガトリング砲を猛射した。嵐の如く弾丸が中型ヘルメットワームの装甲を打ち、その表面を削る。
飯島機もまた真紅の翼を翻してバグア軍の中へと飛び込んだ。このディアブロは軽装備級に動きが速い。無傷のヘルメットワームCCへと狙いを定めると長距離バルカンを猛射した。猛烈な破壊力を秘めた弾丸の嵐がヘルメットワームの装甲を突き破る。反撃に飛んできた十二連のフェザー砲を上昇してかわすと、再び機首を下げ試作型リニア砲で狙いをつけた。ガンサイトに納め引き金を絞り込む。砲弾が小型ワームに突き刺さり爆裂を巻き起こした。旧来強化のヘルメットワームには耐えきれる筈もない破壊力だ。内部から炎が膨れ上がらせ破片をまき散らしながら四散する。撃墜。
「先ずは、その足を止めさせて頂きますっ」
夕凪はハイマニューバを起動させ、照準を中型ヘルメットワームに合わせるとG放電装置を撃ち放った。爆雷の腕が連射されて宙へと伸び、四〇〇の距離を一瞬で塗りつぶして中型ヘルメットワームの巨体を絡め取る。強烈な破壊の雷がヘルメットワームの装甲を焼き焦がした。
エミール機は雷を追いかけるようにして加速すると、一気に中型ヘルメットワームの至近距離にまで飛ぶこむ。ガンサイトに中型機を捉えレーザー砲のボタンを押し込む。凶悪な破壊力を秘めた三条の光がヘルメットワームの装甲を突き破り、吹き飛ばした。中型機から爆発が巻き起こる。もう一押しだ。
「緋剣“レヴァンティン”、これがトドメだっ!」
緋沼機が鋼鉄の翼を閃かせて飛び込んだ。すれ違い様に剣翼一閃、中型機へと翼先を捩じり込む。装甲を削りつつ、ディアブロが中型機の後方へと抜ける。傷口から茨のごとき電撃が漏れた。次の瞬間、中型ヘルメットワームは猛烈な爆発を巻き起こしながら大地へと墜落していった。
南部機はロックサイトに小型ヘルメットワームCAを捉えると遠間から牽制にミサイルを撃ち放ち前進する。ミサイルがヘルメットワームへと直撃し、その一撃でCA機は爆裂四散した。ソード機のミサイルが効いている。
藍紗機はヘルメットワームCBに向かって飛び、一気に肉薄するとレーザー砲を撃ち放った。三条の閃光がワームを貫き爆散させる。
「こちらライトニング6。援護します! 被弾した機体は後退を、余力のある機体は体制を立て直してください!」
リーゼロッテは無線に向かって言いつつワームCDをロックサイトに納めると誘導弾を連射した。音速を超えてミサイルが解き放たれヘルメットワームに命中し爆発を巻き起こす。
生き残りのKVが20mバルカンとホーミングミサイルを猛射して小型ヘルメットワームCDにトドメを刺し、爆散させた。
八匹の火竜と七匹の妖精は二十機の戦闘機と格闘している。戦闘機乗りが上手く注意を引いているようだ。軍のKV乗りにも戦闘機乗りにも退く様子は無かった。正規軍の兵士は勝手に退く事は出来ないからだ。
代わりに、現場の隊長らしき男の声が無線から各機に流れた。
「有難う傭兵達。ここはもう大丈夫だ。別の箇所の援護に回ってくれ」
と。
●北東部
カリマンタン島の上空の戦域、S‐01、R‐01、バイパー、従来戦闘機を含め九十機あまりが飛び交っている。対するは体長十数メートルを超える巨大な赤竜、光の翼を持つ巨大な妖精といった超大型キメラが合計で五十匹あまり。そして大小のヘルメットワームが十二機、これが激しく入り乱れている。
「ったく、どこを向いてもキメラかワームか戦闘機か! 空戦兵器の見本市にしちゃ花火がある分派手すぎだってーの!」
他の仲間達と別れロッテを組み北東部へと飛んだ新条拓那が悪態をついた。
「拓ちゃん、突っ込むぜ!」
須佐がスナイパーライフルRの照準を戦闘機を追い回す妖精型のキメラに合わせながら言った。光の翼を持つ亜人、バグアの手先でなければ天使とでも崇められたのだろうか――余計な事は考えない。須佐は素早くトリガーを引き絞る。銃声と共にライフル弾が飛び出し、宙を切り裂いて飛んだ。リロードしながら連射。弾丸が妖精に突き刺さり鮮血を噴き上げる。キメラが咆哮をあげて振り向いた。
「了解!」
真紅のディアブロが弾丸を追いかけるように飛び、妖精型キメラに迫る。形だけは女の姿をしたそれは息を吸い込むと吐き出し、冷気の渦を逆巻かせた。
新条はジェット噴射ノズル核を調節し、機体を横滑りさせると回り込むようにして冷気の渦をかわした。横へと流れるGに身体の軋みを感じつつガンサイトに妖精を捉える。バルカンのトリガーを絞り込んだ。猛烈な勢いで弾丸の雨が飛び出し妖精型キメラの身を穿つ。妖精の背から光の翼が消えた。鮮血をまき散らしながら大地へと堕ちてゆく。撃墜だ。
新条は助けた戦闘機パイロットと会話をかわそうとレーダーから味方機の所属隊を割り出し無線のチャンネルを開いた。その瞬間、断末魔の悲鳴やら、猛烈な怒号やら叫びやら、吼え声やらが入ってきてどれがどれだか到底解らない勢いだ。
面喰らっている間に前方から竜に追われている戦闘機が向かってくる。時間は一瞬、どうやらこの辺りはのんびり話している余裕は無さそうだ。無線が激しく叫んでいる状況のまま狙いをつけ、バルカン砲を猛射した。弾丸を受けて赤竜が耳をつんざく咆哮をあげ翻る。竜の咥内から火の球が膨れ上がった。巨大な火球が新条機めがけて飛ぶ。新条機は急降下して火球を回避する。竜は翼を空打ちして回転すると俊敏に新条機の後方へとつける。
ハヤブサが翻る。須佐機は竜の背にガンサイトを合わせると、ガトリング砲のトリガーを引き絞った。猛烈な勢いで弾丸が噴出し、竜の鱗を突き破り蜂の巣にする。須佐機の猛攻を受けた赤竜は断末魔の咆哮をあげ、弾丸で体重を増やしながら落ちていった。
●中央部
敵味方が激しく入り乱れる中、飯島機は周囲の戦闘機と連携を取るようにして戦っていた。と、いっても専ら援護するばかりになっているが。その飯島機の背中はソード機が守った。二人は順調に巨大キメラを葬り去ってゆく。
「三時方向に小型ワームです。数二」
視界を広く取っていたソードが気づき言った。右手の方向で小型ワームが二機、二機のKVと格闘している。というよりもむしろ二機のKVが逃げ回っているといった方が正しいか。
飯島もまたコクピットの中から視線を走らせて一瞥し、確認する。迫り来る火球を翻ってかわし、バルカン砲を連射して火竜を蜂の巣にするとリロードしつつリニア砲を炸裂させて撃ち落とす。
ロングレンジからソード機が妖精型キメラに向かってロケット弾ランチャーを撃ち放ち、猛烈な爆発を巻き起こして叩き落した。
飯島機とソード機は旋回すると加速して飛び、小型ヘルメットワームへと向かった。KVは飯島、ソード機の下を抜けてゆく。ヘルメットワームが正面に見えた。飯島はヘルメットワームへと狙いを定めるとやはりバルカンを猛射しリニア砲を撃ち放った。小型ヘルメットワームがプロトン砲を撃ち返してくる。飯島機は一条の閃光をかわし、二条目に直撃を受けるが装甲で弾き返した。先に放たれた弾丸が小型ワームを穿ち貫き、リニア砲弾がその装甲を粉砕する。小型ヘルメットワームCEは爆裂を巻き起こして大地へと墜落してゆく。
ソード機はもう一機のヘルメットワームをサイトに納めるとロケット弾ランチャーを連射した。砲弾が直撃し、爆風が大気を掻き乱す。炎を裂いてヘルメットワームが飛び出した。ソード機へと向けてプロトン砲を猛射してくる。ソード機は急降下して回避した。
飯島機は機体を翻らせるとバルカン砲を猛射した。ヘルメットワームは穴だらけになって爆発、四散した。
●北西部
北西方面では六匹の火竜と四匹の妖精型キメラ、そして二機の小型ヘルメットワームが暴れまわっていた。対抗しているのは一機のS‐01と八機の戦闘機。大分押し込まれているようだった。
エミールはS‐01を背後から追い回しているヘルメットワームに対し小回りを効かせて旋回し、肉薄すると、ガンサイトにその背を納めレーザー砲を連射した。六条の閃光がヘルメットワームの装甲を突き破り、焔を吹きあがらせた。瞬後、爆発を巻き起こし大地へと落ちてゆく。
エミール機、既に一段階強化のヘルメットワームは平均二回レーザーの引き金を引けば撃ち落とせる。恐ろしい威力だ。魔法使いというのも、あながち伊達ではないらしい。
夕凪機はもう一機のワームをロックサイトに捉えるとAAMを撃ち放った。猟犬の牙の如く二連の誘導弾が飛び、ヘルメットワームの装甲に喰らいつき、爆発を巻き起こす。
ヘルメットワームは攻撃を受けながらも戦闘機を狙う。しかし戦闘機は全力で防御に専念して逃げ回り、夕凪機の方へと向かってくる。
夕凪機はヘルメットワームの正面に出るとレーザー砲を猛連射した。蒼白い光が爆裂し、小型ヘルメットワームの装甲を消し飛ばした。ワームは爆発を巻き起こしながら大地へと堕ちていった。
その後もエミール機と夕凪機はUPC軍を援護した。エミール機がバルカンをまき散らして大型キメラの注意を引きつけ、敵キメラ群の中心を飛び、アウトレンジから夕凪機がAAMを撃ち放ち、キメラにトドメを刺してゆく。ミサイルを撃ち尽くした後はレーザー砲による格闘戦で射抜いていったのだった。
●南東部
「そらよ、真っ赤な天使の登場だっ。ここは任せとけ!」
南東部に到着した緋沼は周囲の隊のチャンネルを開くと無線に向かってそう述べた。
「ずいぶん、荒々しい天使よの‥ここは京夜と我が抑える、援護をお願いするぞ」
と藍紗が付け加える。
「生憎、任せる訳にはいかん。ここは我々の持ち場だからな」
隊長らしき男の声が無線からそう流れてきた。下がりたいのは山々だが、正規軍としての立場があるのだろう。
「だが危険な場所に立っての援護ならば歓迎する」
しかし、傭兵にも色々な人間がいるように、軍の士官にも色々いる。こちらの隊長は多少、頭が柔らかいようだ。妙な言い回しをしてきた。
「‥‥軍人ってのも大変なんだな。了解」
緋沼が苦笑して答える。南東部の隊長の一人は部下を一斉に『転進』させると、緋沼と藍紗機に前面を任せて後方から援護する形を取った。
「ここの連中は長生きする気がするのぅ」
レーザー砲でキメラを撃ち抜きつつ藍紗はそんな事を述べたのだった。
●南西部
南西部へと向かう南部機とリーゼロッテ機の前に二機のヘルメットワームに追い回されているR‐01が姿を現した。三機あまりの戦闘機がワームへと攻撃を仕掛けているがワーム達はまったく無視してR‐01を追い回している。
一方のR‐01も敵機を引きずりまわす事に専念しているらしく、つかず離れず微妙な距離を保って反撃に出ようとしなかった。
南部機は軌道を読んでワームの一機の上方を取るとソードウイングで突撃をかけた。凶悪な破壊力秘めたの翼が閃き、小型ヘルメットワームの装甲を深々と削り取った。ディアブロが抜け去った後、傷口から激しく焔が噴き上げ、次の瞬間、ワームは爆裂四散した。
弾かれたようにヘルメットワームが機動を変えた。生き残りの一機は慣性制御で翻ると南部機へと集中して六連の紫光を猛射する。真紅のディアブロは急降下してその悉くをかわす。
リーゼロッテは四〇〇程度の距離を保ちつつホーミングミサイルでヘルメットワームへと攻撃を加える。爆発が巻き起こった。ヘルメットワームが焔を吹き上げている、が、まだ堕ちない。後もう一押しか。友軍機のR‐01がブースト機動で翻った。アグレッシヴ・ファングを発動させバルカン砲を猛射すると、ヘルメットワームを大地へと叩き落した。
「貴君等の援護に感謝する」
R‐01のパイロットらしい男がそう述べた。
「いえ、あたしたちが負けたらまた犠牲が出てしまう。みんなでこの空を守りましょう!」
リーゼロッテはそう言った。
「貴隊はこのリーゼ機と連携をとって動いたらどうだろう」
南部がそう提案する。
「そうだな」
R‐01の男はしばしの思考の後に言った。
「何より大事なのは犠牲を減らす事だ。うちの隊は貴方達と共に行く事にしよう」
その言を受け、南部機とリーゼロッテ機は一機のR‐01と三機の戦闘機を加え南へと飛んだ。
かくて、傭兵達の活躍によって正規軍はバグア軍の攻撃を押し返した。蓋を開けてみれば、傭兵達においては快勝だったと言って良い。そのあまりの強さに、これは明らかに勝てないと判断したのか、バグア軍はキメラをその場に残すと雪崩を打って南方へと逃走していった。
戦闘機部隊はパランカ・ラヤ基地上空の制空権を奪取した。
やがて二十機の爆撃機が基地の上空へと到達し、落雷の名の如く猛烈な爆撃を加えバグア軍の航空基地を焼き払ったのだった。
この作戦の成功により、カリマンタン島の戦いのイニシアチヴは、人類側に大きく傾いたのだった。