●リプレイ本文
「うーにーはひろいーなー、おーきーなーわー♪ あれ? ポリネシア?」
フェブ・ル・アール(
ga0655)の歌声が響くここはポリネシア、南の大海原に浮かぶ小島だ。
「わあ、海ですよ! すごく綺麗な海ですね!」
高速艇から南の島へと降り立ったティル・エーメスト(
gb0476)が碧眼を輝かせて言った。
「うみです! 青いです! 水平線です〜!」
アンジュ・アルベール(
ga8834)もまたティルの横に立ち、海を見てはしゃいでいる。
「いや〜! 青い海! 青い空! 癒されるね〜〜〜」
大泰司 慈海(
ga0173)が眩しい太陽に手を翳しながら言った。両肩、背に担ぐのは夥しい数の荷物。今回の仕事に対する気合は十分だ。主にバカンス的な意味で。ビーチパラソル、ビール、シュノーケリング用具等々が陽の光を浴びて輝いている。
「南国でバカンス、いいですね」
叢雲(
ga2494)がにこやかに笑って言った。
「こういう休暇でさえも『何かするべきこと』を探してしまうのが現代人の悪いところ」高速艇の中で、もっともらしくそう述べていたのが鯨井起太(
ga0984)である。曰く、暇を持て余すこと、それ自体を楽しむのが正しいバカンスのあり方だ、と。
しかし彼は島に降り立ち輝く海を見てウキウキモード120%に突入したようだ。
「一泊二日じゃやれることなんてたかが知れている。これは徹底したスケジュール管理が必要だ!」
前言を翻してそう宣言するなり、分刻みの綿密な予定を練り始める。とことんまで遊び倒すつもりらしい。
「バカンスのついでにキメラ退治、なんて素敵な依頼でしょう。存分に楽しませて頂きます」
不知火真琴(
ga7201)もまたぐ、と拳を握って言った。
「‥‥それを言うなら、キメラ退治のついでにバカンスでは?」
幼馴染だという叢雲がツッコミを入れる。
「細かい事は気にしない!」
一言で流した。
「まぁ、まずは海栗キメラの退治をしなくてはですね」
大曽根櫻(
ga0005)が言う。
「にゃ! ウニなんか瞬殺ニャ〜!」
ビーストマンの少女アヤカ(
ga4624)が拳をふって言った。
「キメラをちゃきちゃき倒していっぱい遊ぶのです♪」
それに要(
ga8365)が愉しそうに言う。
「よし、時の砂は黄金の粒よりも重い、だ。サクサク行こうじゃないか諸君!」
「おー!」
鯨井起太の声と共に一同は気合を入れると、島に唯一あるという村へと向かった。
●
例によって例により海栗キメラはサクッと倒れされた。
一同は海辺の必須アイテムを持ち浜辺へと向かう。なお起太青年は村長の家で「いかに無駄なく過ごすか」のプラン作りに没頭していたので浜へと赴いたのは彼を除いた九名となった。
叢雲とティルはまず寝床の作成に取り掛かった。それぞれテントを取り出し組み立てる。叢雲は覚醒しパワーに任せて手早くテントを張り終える。ティルの方は手隙なので、とフェヴが手伝って張った。一同はテントを張り終えると海から手頃な石を拾ってきて組み合わせコの字型に竈を作成する。アンジュもまた石を運んできて竈の作成を手伝った。不知火はその間に森へ入って薪になりそうな木を集める。何往復かすると結構な量が集まった。
準備を終えた五人はそれぞれ海へと向かう。
大泰司はダイバースーツを着込むとシュノーケルをつけ海へと潜っていた。ゴーグルから蒼く蒼く透き通る海を覗く。水面から太陽が差し込み、光のカーテンを作っている。透明度が高い。海底では岩が複雑な棚を作り、珊瑚が揺れ、色とりどりの魚が泳ぎ回っていた。
海は宝石の箱であると誰かが言ったが、この海の輝きはまさに百億の宝石にも勝るとも劣らない。
大泰司は海面にあがり息を吹いてシュノーケルから水を噴出させると、目一杯に息を吸い込み、再び潜行を開始した。手足とフィンを上手く使い蒼い海の中を自在に泳ぎ回る。
「櫻ちゃんも‥‥スク水にゃか」
地上、アヤカが苦笑して言った。
櫻は紺色の学生水着にそのしなやかな身を包み込んでいた。少女は恥ずかしそうに頬を赤らめ己の身を抱きながら言う。
「こ、これしか水着が無いもので‥‥」
その豊かな肢体を包むには多少アンバランス感はあるが、泳ぐ分には問題ない。
「色違いだけどお揃いですねー」
要がにっこりと笑って言った。こちらは白のスクール水着である。要は十四歳前後に見える標準体型なのであまり違和感はないようだ。
ちなみにアヤカは上下に分かれたビキニタイプの水着を身につけている。
「櫻ちゃんはどうする予定にゃ?」
「村長さんから許可を頂きましたので、海に潜って何か食べられそうな物を捕ってみようかと。お二人は?」
「ビーチボールを使って一勝負ニャ」
とカラフルなボールを抱いてアヤカが言う。
「面白そうですね。後で参加しても良いですか?」
「勿論ニャ。あ、そうだ。二人とも日焼け止めクリームを塗ってあげるニャ。シミになると大変ニャ」
防水タイプだから海に入ってもある程度は大丈夫、とアヤカはぺたぺたと櫻と要の身にクリームを塗ってゆく。自分にも塗るが櫻が着ているのはビキニだ。背中には手が届かないので二人に塗ってもらった。
「サザエとかトコブシくらいは捕れたらいいんですが」
「サザエ‥‥この辺りにもいるのかニャー?」
「どうでしょう‥‥?」
小首を傾げる三人。
「とりあえず行ってみます。行けば解るさと偉い人も言っていましたし」
「了解ニャ、幸運を祈るニャー」
櫻は軽く手を振って二人と別れると小走りに身を躍らせ海中へと飛び込んだ。海の中、目を開く、刺すような刺激が伝わるが、しばらく我慢する。しばらくすると、和らいだ。蒼い光の世界が広がっていた。身をくねらせて海底を目指す。
一方のアヤカと要は海面を泳ぎながらビーチボールと戯れていた。波にゆらゆらと揺られながらボールを投げ合う。飛んできたボールをアヤカは海面に沈みこんでかわすと、飛び出し。ボールを掴んで投げ返す。水泳部に所属しているという要は素早く横に泳いで回避した。ボールを掴んで反撃。そんな調子で次々とボールを投げ合う。段々白熱していって剛速球になっていたりするのはまぁお約束だ。
「‥‥泳ぐの苦手なんです」
「さながら人魚の如しと謳われた様な気もする、このフェブ姉さんにまっかせなさーい!」
LHで買った水着に身を包んだフェヴ・ル・アールが、泳ぐことが出来ないというティルとアンジュに対して言った。
という訳で二人はフェヴにコーチをつけてもらう事にした。アンジュは自分とティルに日焼け止めクリームを塗ると、
「水に入る前には、ちゃんと準備運動、です」
という事で体操を始める。ティルとフェヴもそれに習って体操をした。
「まずは水に慣れることー」
フェヴが言った。三人は海の中に入る。波が勢いよく打ちよせてきて結構身体を揺さぶられる。
「慣れるって‥‥どうすれば?」
「最初は特に何も考えず漂ってれば良いよー、遊んでればそのうち慣れる」
「そんなものですかね」
「ティル」
「はい?」
「すきあり! です」
水鉄砲でびしゅっと少年の顔に水を撃ちかける。
「うわっ、やりましたね!」
ティルは海面から腕を振るって水をアンジュへと浴びせかける。アンジュはきゃっと笑いながら腕をかざして避けようとする。しばらく水と戯れてからフェヴが言った。
「それじゃ次はばた足ー」
フェヴはティルの手を取ると、ばた足の練習を行わせる。それをしばらく続けた後、
「はい、後はついてこーい!!」
と言って波の向こうへと泳ぎだす。
「えぇっ、いきなりですかっ」
「大丈夫、身体能力は問題ないんだから、後は気合の問題だよー」
猫顔でそう言ってフェヴはすいすいと彼方へと泳ぎ去ってゆく。
「ティルさん頑張って〜」
アンジュはその様子を見守りながら声援を送った。
「が、頑張りますっ」
少年は覚えたばかりの泳ぎで波を掻き分けその後を追うのだった。
浮き輪の上に乗っかった少女がぷかぷかと蒼い海をたゆたっている。不知火真琴だ。胸元に大きいリボンと腰にレースのパレオを巻いた白のビキニに伸びやかな身を包んでいる。
「そろそろ疲れたんですけど‥‥」
不知火の乗る浮き輪を押しながら泳いでいる叢雲が言った。
「えー、まだ遊びたーい」
少女は不満そうにそう言った。
「‥‥仕方ないですね。それじゃ素潜りでもやります?」
「面白そうだね。やってみよう」
一旦浜辺に戻って浮き輪を置くと、二人は海底へと潜った。蒼く輝く世界が広がっている。能力者だけあってかなり息は続く。底はさほど深くないのですぐに辿り着く。二人は魚が踊る海の底を泳いで回った。
「出来た!」
村長の家でバカンスのプランを練っていた鯨井起太がついにそれを完成させた。
そのプランとは、
14:00〜14:15 おやつ(カキ氷)
14:15〜14:30 カニを探す
14:30〜15:00 ビーチバレー
と、このような物である。
「完成だ! これこそパーフェクトな余暇の過ごし方!!」
それは確かに、そう悪くはないものだったのかもしれない。
そう、既に陽が落ちてさえいなければ。
「‥‥あれ?」
振り返る。家の戸口からは赤い陽が差していた。
夕日に鳴く海鳥の声が、とても物哀しく聞こえたのだった。
●
夜、一同は竃に火を入れ、カセットコンロを点火しそれぞれ料理を作り始める。櫻はサザエは取れなかったが他の種類の貝は取れた。
櫻とフェヴはバーベキュー、不知火は野菜と山菜のホイル焼き、叢雲はカレーだ。
「夏野菜のカレーです。お口に合えばいいのですが」
との事。水着の上からエプロンをまいた要や浴衣に着替えたアンジュが調理を手伝っている。
「そういえば、この海栗キメラは‥‥食べられるのでしょうかね?」と昼間退治した海栗キメラを持ち櫻。
「ULTのオペレーターの人の話だと食べられるって事だったけどにゃー」とフェブ。
「うに! うに食べたいのです」
勢いこんで要が言った。
「ふふふふふ‥‥」
その時、笑い声が響いた。鯨井起太の声だ。さっきまでめそめそと泣いていたのだが、元気を取り戻したのか、やおら立ち上がって言う。
「ウニが食べたいというのなら! 今こそお見せしよう、ポリネシアンおむすびをッ!!」
「ポリシネシアンおむすび?」
「伊達でおむすびマンの称号を持っている訳じゃない。まぁ見ていなよ!」
言って起太はウニと飯盒を取り寄せると、それなりにこなれた手つきでウニを割り、米を握り、海苔を巻き、それを作成してゆく。
「これが、ポリネシアン握りだ!」
ででんと完成品を皿に乗せて起太は言った。
曰く、あえてご飯は俵型に。その上にウニを乗せ、更にそれが落ちないよう周囲を海苔で包みこんだ至高の一品であるらしい。
「‥‥これって大きさ以外は軍艦巻きと同じじゃ」
「さあ食べてみたまえ、そして歓喜に打ち震え給え!」
ツッコミは流された。
あくまでオリジナルおむすび、あくまでポリネシアン、であるらしい。
「まぁ、これだけ大きければ別物といっても良さそうですが‥‥」
叢雲もまた呟きつつ食べてみる。普通にとろけるような甘みが口の中に広がる。
「あ、美味しい」
不知火が言った。
「ふ、ふ、ふ、鮮度が決め手だね!」
鯨井起太は胸を張ってそんな事を言ったのだった。
●
「海栗、大好きです。幸せ‥‥!」
不知火を始めとして存分に海栗や各種料理を平らげた一同は、食後、浜辺で花火を行った。大泰司や要なども浴衣に着替えた。
「やっぱり、花火は欠かせませんよね」
ティルはロッタ特製ロケット花火をフェヴに渡して点火してもらう。
「爆発するにゃー」
フェヴが言った。
「爆発しますよー!」
おおはしゃぎしながらティルが言う。
ドンッ! と大気を震わせてロケット花火が焔を吹き上げ星々の空目がけて飛んでゆく。市販のものとは比べ物にならない猛烈な迫力だ。
フェヴは自らが買い込んできた花火も着火し爆裂させてゆく、他の一同も次々に闇に炎の華を咲かせた。
要は使い捨てカメラを使ってその様子を撮ってゆく。昼間も数枚撮っていたが記念に、という事らしい。
「綺麗‥‥ですね」
じじじと音を立てて燃える超線香花火を眺めながらアンジュが言った。
「‥‥こうしていると、バグアなんていないみたいですよね」とティル。
「こんな時間が、もっとず〜っと、続いて欲しいです」
アンジュはそっと微笑んだ。
「平和な世界を取り戻した後、また一緒に来ましょうね!」
少年は笑顔を返すとそう言ったのだった。
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就寝時、テントの中、ティルがアンジュに言った。
「僕、寝相が悪いらしいので、それだけには注意してくださいね」
「はい、解りました」
アンジュは頷くと、子守唄を歌い始めた。涼やかに穏やかに深く、透き通る。ティルはその声を聞きながらまどろんでゆく。
一方、櫻とアヤカのテント。
「にゃは☆ 櫻ちゃんの体、柔らかくてキモチイイのニャ〜☆」
「あ、ちょっ、あ、アヤカさんっ、変なことしないでくださっ」
なんだかドタバタしているようだ。
「昼から動き詰めだというのに、元気ですね」
叢雲は寝ようと思ったら天体観測に出ると叩き起こされたらしい。苦笑しながら不知火に言う。
「だって、空気澄んでいるんだもの」
不知火は夜の風を吸い込みながらそう答えて満天の空を見上げた。
「やっぱり南の島は星が綺麗だね! 何か星座見えるかなっ」
百億の星々が煌々と輝いている。その輝きに目を奪われていると、不意に足もとが抜けた。身体が傾いでゆく。
「っと、危ない。上ばかり見てるから転ぶんですよ」
転倒する前に叢雲がさりげなく不知火の身体を支える。
「転がってないよ?」
「俺が支えたからでしょう。まったく、危なっかしいんだから」
はぁと叢雲は嘆息する。不知火はくすくすと笑った。
大泰司とフェヴは村長宅へと向かった。大泰司は人々と交流したい旨を村長へと述べた。
すると村長は「キメラが退治された祝いに若い衆が村の集会場で一杯やってるらしいから顔を出したらどうだね」と言った。大泰司は村長に礼を述べると買い込んだ酒を手土産に村の集会場へと向かう。フェヴもまた好奇心が湧いたのでついていった。静かな島だと思っていたが、結構賑やかだ。
集会場では既に出来あがった村の若者達で満ちており、テンポの極めて速い、打楽器の独特の音が鳴り響いていた。焚火を囲み、幾人かの人々が楽器のリズムに合わせ軽快にステップを踏んで踊っている。
手土産の酒の効果もあったのか、キメラを退治した英雄という事もあったか、二人はすぐに村の若者達と打ち解けた。酒を酌み交わし、踊った。
二人は村長の家に泊まるつもりだったのだが、気がつくと夜が明けていた。
「‥‥こりゃ、まいったな」
「‥‥空が白いニャー」
どうやら勢いに任せて徹夜してしまったらしい。
寝相が悪い者がいるテントの内部は散々だったが、目覚めた一同は朝食を取った後、村人達に別れを告げ、高速艇に乗って帰還したのだった。