タイトル:それゆけLH劇場マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/10 17:44

●オープニング本文


 ラストホープ、最後の希望と名付けられた場所。それは異星人と戦う傭兵達の本拠地であり、どっかの洋上に浮かぶでっかい島。今日もすいすい波を掻き分けて進んでいるのかどうかは定かではないが、そのおっきな島には色々なものがある。
 軍事施設があり、街があり、店があり、物がある。人がいて、人生があり、そして夢と希望と絶望と悪夢がある。どの目が出るかはきっと運命のダイスの転がし方次第。賽は空の最果てで回ってる。イカサマはあるが待ったは無い。強い者が、頭を使った者が、運の良い者が生き残る。鉄火場に張るのは何か、運命の女神に捧げる貢物は何か。彼女たちは貪欲なので、貢いだ金額に見合うだけ微笑んでくれるとは限らない。
 かつて、希代の戦術家にして政治家にして女ったらしだった英雄は言ったものだが、女とは気を惹きたいが為に贈るものと、喜んでもらいたいが為に贈るものの違いを敏感に悟るのだという。名言だと思う。多分それに似ている。しかし、では悟れない者は女ではないのだろうか、というツッコミを入れたくもなるのだが、まぁそれは多分無粋って奴なんだろう。ちなみにその英雄は最後に腹心に裏切られて死んだらしい。ブルータスお前もか、とな。
 死が敗北だというならば、勝利とはなんだろうか。祇園精舎の鐘の声。万物必滅。ならば、生物は必ず負けるように出来ている――そうだろうか? 私はそうは思わない。勝利とはなんだろうか。きっと十人十色。
 さて、ここに一人の男がいる。原稿用紙の散らかった風通しの悪い部屋でペンを片手に唸っている。名を三千堂風月という。とある映画会社に所属する脚本家である。彼は勝利条件に永遠と、そして埋もれぬ事を求めた。
 多くの場合、断続する時を繋げて永遠という。この宇宙に始まりと終わりがあるのならば、きっと永遠というものは無い。されどまぁ一万年も続けば人の身としては永遠と扱って良いのではないだろうか、男が言うところの永遠というのはその程度のものだ。
 風が吹いて桶屋が儲かるのならば、きっと我々は世界の中を、永遠を、生き続ける。意味が解りにくい場合、「奴はお前の中で生き続けているんだ!」という台詞を思ってもらいたい、ちょっと違うがあれに似ている。それが時の流れであり歴史である。しかしAから子へ子から孫へ、時が流れるごとにAの本質というものに関しては時の分厚さに埋もれてゆくだろう。時に歪み、時に曲がり、似つかぬものになり、最後には消える。
 しかしながら人は百年で死んでも、文字は千年残る――場合もある。文学とは人が時の流れに対抗する為に編み出した術、とも言えるのではないだろうか。三千堂風月はそう信じた。
 かくて男は文学を志し、流れ流れて何故か今はB級映画会社の脚本家となっている。
「不味い、このままでは締め切りが‥‥」
 男は机の前で頭を抱えていた。
 御大層な理念を掲げてはいるものの、現実は厳しい。男は色々なものに行き詰まっていた。その中の一つに現在直面している映画のシナリオがある。
 ずばるところネタが無い。締切は目前、なんとか一本書き上げなければならない。書けませんでした、では済まされない。
「くっ、細部が詰まらん、どうしたものか‥‥」
 大筋は出来ているのだが、細かい所がしっくりこない。
「うちの会社、殺陣がめちゃくちゃなのだよな、ここがもうちょっとしっかりしていれば、後十年は戦えるものを」
 困った。男は考える。困った。
「そうだ、困った時にはアレじゃないか‥‥」
 最近巷でよく聞かれる言葉、困った時の傭兵頼み。
「細かい所は傭兵達に考えてもらおう。ついでに役者もやってもらおう、実際に刀剣ぶんまわしている傭兵達なら殺陣に凄みが出るに違いない。早速依頼だ!」
 という訳でLHの受付に一つの依頼が並べられる事になる。

●かくてLHに出された依頼
 以下のシナリオを使い物になるようにして欲しい。ついでに演じて欲しい。

・題目「N人の騎士」(Nは人数が入る)

・ストーリー
 とある辺境の村に盗賊団が略奪しようとやってきた! そこを通りすがりとか実は村にいました的なN人の騎士達が立ちあがり盗賊たちと戦う! 敵は多数、味方は少数、絶対絶命だ! どうする!

・とりあえず問題点
 N人の騎士達が戦う動機=不明
 盗賊団が村を襲う理由=不明、金目のものや村娘などの略奪がめあて?

・ロケ地
 中国南部、草原、荒野、湖畔、河のふもと、山林、岩山がチョイス可能。セット出来るのは村や洞窟等。

●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
阿木 慧斗(ga7542
14歳・♂・ST
ルフト・サンドマン(ga7712
38歳・♂・FT
水雲 紫(gb0709
20歳・♀・GD

●リプレイ本文

 黄天より南部四百海に禮雨と呼ばれる一族あり。河に拠りて水を治め地を耕して五穀を育む。村落を成し、他と易を成し、穏やかに暮らすという。
「‥‥ホント、平和なトコだね」
 酒場で男が茶を啜っていた。名をチカゲという。紫瞳を持つ長身の男で、中央帝国から派遣されてきた騎士である。
「こんな村に居ても、手柄なんてありませんよ? 早く帰ったら如何です?」
 狐の面をつけた少女が言った。水(シェイ)という。禮川村の娘だ。人との関わりを避ける彼女だが、騎士とは時々世間話をしている。
「いやー、帰ろうと思っても帰れないのが宮仕えの辛い所でして」
 はっはっは、と笑うのは鈴・白雲。帝国騎士だ。優秀ではあったのだが女関係で上司の怒りを買い、相棒ともども辺境に流されたという経歴を持つ。
「貴方もついてないですね、巻き添えなんて」
 とシェイ。
「いや、僕は結構気に入ってるよ今の生活。ここの時の流れはとても緩やかだ」
 微笑んでチカゲ。白雲がシェイを指して言う。
「美しい女性もおられますしね」
「白雲、私の素顔なんて見た事ないじゃないですか」
「おや、そういえばそうでしたね。でもきっと美人な予感がするのです。偶には面をとってみては?」
「何度も言ってますが嫌です」
「いけずですねぇ」
「私がお面をしていようと、貴方には関係ないでしょうっ」
 その時、不意に酒場が静まった。入口に巨漢が立っていた。あまり穏やかな雰囲気ではない。
 男は仲間を引き連れて店内に入ってくると、手近な客の首をいきなり大刀で吹っ飛ばした。
「騒ぐんじゃねぇッ!!」
 悲鳴が巻き起こるよりも早く、ダム、とテーブルを踏みつけて店内を睥睨する。
「げひゃひゃひゃひゃひゃ! 騒いだら殺す、動いたら殺す! 聞けぃ! 儂は天虹旅団、四影鬼が一人、音速剣の蛇戯(ジャギ)!!」
 天虹旅団。死者を操る凶悪無比な盗賊団だ。最近この辺りで派手に暴れまわっているという。
「この酒場にシェイって名の小娘がいるじゃろう! 出てこい!」
 ぴくっとシェイの身体が反応する。騎士達はさりげなく武器を引き寄せた。
「おおっと、そこの男、動くなよ! 動いたら‥‥この店内はどうなるかな? さぞ鮮やかに染まるだろうナァ!」
 暗に店内を血の海にすると巨漢は言う。
「‥‥卑怯なっ」とチカゲ。
「卑怯? 最高の褒め言葉じゃよ、クヒヒッ!」
「私がシェイですが。一体何用ですか」
 シェイが進み出る。
「ボスが貴様に用がある。少し来てもらおうか」
「‥‥選択肢は、ないのでしょう? 行きますから、皆には手を出さないでください」
「クヒヒッ、頭が良い女は嫌いじゃない。約束しよう」
「シェイ!」
「――大丈夫、すぐに戻ります」
 騎士達を振り返って少女は言った。
 ジャギは少女の手首を掴むと、店の出口へと向かう。
「これで邪龍の力が‥‥ククッ」
「ジャギ様‥‥このまま引き揚げるので?」
「あぁ? ‥‥そうじゃな、もうここは用済みじゃ、好きにしろ」
「ははっ!」
「なっ!」
 盗賊達が剣を振り回して村人達に斬りかかる。血風の華が咲いた。
「あなた、約束するって!」
 シェイが血相を変える。
「げひゃひゃひゃひゃ! 約束ぅ?! 知ったことか! 豚は死ねッ!!」
「貴様ぁッ!!」
 白雲とチカゲがジャギへと向かって飛びかかる。
「しゃらくさいわッ!!」
 ジャギは袈裟斬りに剣を一閃させる。爆風が巻き起こった。放たれた衝撃波がテーブルもろとも二人の騎士を吹き飛ばす。
「げひゃひゃ! 気も扱えないひよっこが! 他愛ない! 後は任せたぞ」
「はっ!」
 ジャギは暴れるシェイを片手で引きずると店の外へと出ていった。


 闇の中、光輝く水晶玉の前に女が一人座っている。球には店の様子が映し出されていた。
「ひいいいいっっっ! たーーすーーけーーーてーーー!!」
 男が二刀を振り回しながら必死に逃げ回っている。
「なんだ、都の騎士ってのは根性無しばかりか!」
 盗賊が哄笑をあげる。次の瞬間、石突が顔面に炸裂し壁まで吹っ飛んだ。
「あんまり舐めてもらっちゃあ困りますですよ?」
 短槍を使う男は軽快な動きで大立ち回りを演じている。突き飛ばし、薙ぎ倒す。二刀の男も叫びながら剣を振るう。さすがに軍の戦闘訓練を積んであるだけあって両者ともにやれば強い。
「雨(ユィ)様‥‥彼らに賭ける、と‥‥?」
 仮面の少年が女に言った。
「‥‥見込はあります」


 崖の上から地平を眺める女が一人。真紅のチャイナドレスに包まれた豊潤な肢体が艶めかしい。
「邪龍の力、私の物でないのはおかしくてよ」
 艶然と微笑み言う。彼女こそが天虹旅団を纏め上げる団長、死人さえも震わせるという天虹(ティエンホン)その人である。
「は、この地上の全ての力は我が君のものですわ」
 傍らに傅く女が一人、名をケイという。天虹に拾われて以来、彼女の為に全てを捧げてきた女だ。
「ほほほほ、まったくね。緋邪、計画の方は順調なのかしら?」
「はい、ジャギが上手くやったようですね」
 微笑みを張り付けたブロンドの男が現れる。名を緋邪という。団の参謀であり、邪竜の伝説についても彼が突き止めた。
「あら、そちらが、例の?」
 緋邪は仮面の少女を引き連れていた。天虹はぐったりとした様子のシェイを見下ろし、酷薄な笑みを浮かべた。
「己の宿命を恨むことですわ、お嬢さん」


 盗賊達は西の山へと消えたという。チカゲと白雲は盗賊を追った。しかし途中、竹林で無数の影に囲まれる。
「ふふっ、貴方達ごとき、我が君が御手を穢すまでもないわ」
 真っ赤な唇を加虐的に歪め妖艶な美女が笑う。
「お兄ちゃん達はここから先へは通れないよ? ‥‥生きている限りはね!」
 歳の頃は十歳程度だろうか、盗賊団の道士服に身を包んだポニーテールの童女が騎士達の後背を断っている。
「うっ、て、天虹旅団の団員っ?」
 チカゲと白雲は背中合わせに立ち、構える。
「そうだよっ、天虹旅団、四影鬼が一人、死人使いの蘊嶺(ユンリン)!」
「シビトツカイ? 生気が感じられない‥‥まさか!」
 くすくすと童女は無邪気に笑う、死人の群れを従えながら。
「お兄ちゃん達もお人形さんにしてあげるね? どっちが先?」
「ど、どっちって」
「同じく四影鬼が一人、二挺拳銃のケイ」ふふと女は笑い「ぐずぐずする男は嫌いよ。あたしがお相手してあげるわ?」とチカゲを見据えて言う。
「こ、怖いけど‥‥騎士だから行かなきゃダメだよね‥‥白雲?」
「ふむ。あの腰つき。あの娘はかなりの美人ちゃんに育ちますね、間違いない」
 きりりとした表情で白雲は言った。
「白雲、守備範囲広すぎないっ?!」
「は、は、は、そちらは任せますよ。貴方に子供は殴れますまい。あちらのお嬢さんとは私が戯れてきます」
「くすくす、お兄ちゃん、その余裕がいつまでもつかなっ? 銀姫!」
「さぁダンスの時間よ騎士様! 華麗に舞ってね!」
 ユンリンは手を八極に回転させ気弾を放つ。ケイは二丁の気銃から光弾を打ち出した。死人銀姫を中心にキョンシーの群れが騎士達へと襲いかかる。
 チカゲと白雲は左右に別れて飛び退き、気弾と光弾をかわす。死人を相手に斬り結ぶ。二刀が竜巻の如く唸りをあげ、槍の穂先が流星の如く繰り出される。死人達が吹っ飛んだ。瞬後、何事もなかったように起き上がる。
「馬鹿な、流し突きが完全に入ったのに‥‥」
「あははっ、気を操れないお兄ちゃん達じゃ不死人は葬れないよっ」
 童女が愉しげに笑いながら迫る。
「ぐああああっ!!」
 光弾を受けチカゲが吹き飛んだ。
「ふふ、そうして地を這い蹲ってる姿‥‥堪らないわ」ケイは加虐的な笑みを浮かべ光弾を連射する「それなりにイイ男だけど、弱い男は嫌いなの!」
 チカゲは転げるようにして逃げ回る。
「ぐっ‥‥つ、強すぎる! 無理だよ‥‥勝てるわけないよぅ」
 光弾が足を撃ち抜いた。宙を舞う。
(「やっぱり、どうせ僕なんてダメなんだ‥‥」)
 騎士の身が大地に激突しぐたりと転がる。
「諦めるな騎士達!」
 不意に凛とした声が竹林に響き渡った。
「誰かなっ?」
 盗賊達が振り返る。大岩の上に仮面をつけた少年が中国服を靡かせ立っていた。
「我が名は朴泉。故あってそこの騎士達にお味方する。死者を操る者どもよ、覚悟されい!」
 仮面の騎士は気を集中させると、猛烈な電磁嵐を発生させる。キョンシーが数匹吹っ飛んだ。
「いきなりご挨拶な男ね!」
 ケイが電撃をかわし二丁の気銃を発砲する。
「あーもう! ユンリンのお人形さんが減っちゃったじゃない! 銀姫! あいつをなんとかするのっ」
 ユンリンもまた気弾を放ちつつ死人に命をくだす。少年は爆砕する岩から跳躍すると、竹に飛びつき、しなりを利用して竹の間を次々に飛ぶ。矢の如く宙を舞い、電撃を地上へとまき散らす。
 盗賊達はこちらが強敵と見たか、一斉に少年へと向かってゆく。
「は、はでー‥‥」
 チカゲがぽかんとして見上げていると不意に、その隣に女が姿を現した。
「もし」
「うわっ、誰だい貴女っ」
「私は朴泉の師、仙女の雨と申します‥‥」
 女はそう名乗った。数百年前、邪龍を封じ込めた女仙であるらしい。
「邪龍を解き放とうとする輩を止めなければなりません。シェイこそが邪龍を封印している鍵なのです」
「なんだって!」
「助けなければなりませんが今の私には力が有りません。朴泉だけでは不可能でしょう。力をお借りしたいのです」
「シェイを助けるのは私たちの目的でもあります」と白雲。
「死を纏ろう者達を倒す為に、奥底に眠る力を引き出しましょう。気を操れるようになる筈です」
 言って雨は二人の騎士に気を送り込む。
「こ、これは‥‥なんだろう、この強い力‥‥!」
 チカゲの頭髪が紫の色に変化する。
「力が、湧き上がってきます‥‥!」
 白雲が髪を白く変化させて言った。
「『紫光』と『真白き熊』、それが力です騎士よ。今の貴方達ならば死をも斬れる筈」
「有難う。必ず邪竜の復活を阻止してみせる、この力で!」
 気の力を得た二人の騎士が戦場へと雪崩れ込んだ。死人達を吹き飛ばす。
「‥‥もう、僕は逃げない!」
 チカゲが二刀を振るって紫光の剣閃波を撃ち放った。猛烈な閃光が一帯を飲み込む。
「う、うそっ、銀姫ーーーっ!」
「っく、まさかこんな所で‥‥?!」
 光が爆裂し、破壊が荒れ狂った後、立っている不死者は周囲にはいなかった。

●数日後
「けひゃひゃひゃ! 貴様らが来ることなどお見通しよ!」
 旅団のアジトに辿り着いた三人の騎士の前にジャギが立ちはだかった。
「悪いが時間がない。押し通る!」
 電撃が荒れ狂い、槍が裂き、紫光が爆裂する。団員も奮闘するが、気の力を得た騎士達の前にあっという間に追い込まれてゆく。
「ば、馬鹿な!? わしが負けるじゃとっ!?」
 騎士達は怒涛の勢いで敵を蹴散らし進む。
「おや? 賑やかな事で、此処まで来るとは、やりますねえ‥‥」
 岩の十字路、緋邪が立ち塞がった。男は微笑みながらパチンと指を弾く。
「精一杯歓迎させていただきましょう」
 床が開き、わらわらと死人達が溢れ出てくる。
「罠か!」
「ここは私が引き受けよう」朴泉が言った「君達は一点を突破し奥へ向かえ」
「しかしっ」
「時間がないのだ、行け!」
「くっ、解りました!」
 朴泉の電撃が空間を薙ぎ、敵が避けた所へチカゲと白雲が突破してゆく。
「おやおや、無駄な足掻きですねぇ」
 憐れむように緋邪が言う。
「お前の相手は私だ」
「ふふ、あの二人だけで我らが天虹様に勝てるとでも?」
「ならば私は貴様らを掃討し援護に向かうとしよう」
「この緋邪に対してそれが可能だと? ‥‥ふ、ふ、ふ、やってみなさい仮面の騎士ッ!!」
 無数の死者達が一斉に朴泉へと襲いかかった。


「ふふ、まさかここまで来るとはね」
 洞窟の最奥のホール、中国刀と扇を持った女が現れる。少女が床に倒れていた。
「シェイ!」
「ほほほほ、そう簡単には渡さなくてよ」
 女が間に割って入る。
「封印がまだ残ってるみたいなのよねぇ‥‥貴方達かしら?」
「なにっ?」
「退いていただきましょう。天虹!」
 槍を構えて白雲が言った。
「ふふっ、退かしてみなさい騎士様?」
「言われずともっ!」
 二人の騎士が攻撃を仕掛ける。紫光が爆裂し、槍が閃く。迎え撃つ刀。短く長い間、激しく斬り合う。
「それでも戦っているつもり?」
 天虹は切っ先を扇で払うと、気を爆裂させて二人を吹き飛ばす。ドレスの背が弾け、漆黒の翼が出現した。
 宙へと浮かび上がると、その身をブレさせる。猛烈な速度で加速したのだ。女は白雲を踏みつけぐりぐりと捻る。
「ら、らめぇぇぇっ! 何か体の奥底から湧き上がってくる表に出しちゃいけないっぽいものがーっ!?」
「そろそろ遊びは御仕舞い、ご機嫌よう――あら?」
 不意に音がした。白雲の頭部が熊のそれに変化してゆく。
(「気が、膨れ上がっている‥‥?!」)
 驚愕の天虹。刀を振り上げる。横合いから光弾が飛来し、手から刀を弾き飛ばす。
「何者!」
「知れたこと、封印を完全にする為に来ました」
 浮かび上がるように雨が空間から現れた。
「貴様は仙女の‥‥! そうか、騎士達を囮にして透過術で潜り込んでいたなっ!」
「ほほほ、チカゲさん白雲さん、シェイを助けます。しばらくその女の動きを抑えていてください」
「豪ッ!」
 獣人と化した白雲が咆哮を上げて立ち上がる。
「もう、僕は逃げないと、決めたんだッ!!」
 極大の紫光波が天虹へと襲いかかる。
「くっ!」
 女が宙へ逃れるが、白熊が槍を構えて跳躍し猛烈なラッシュを加えてくる。
(「私が、押されるなんて‥‥っ!」)
 天虹が悲鳴をあげる。
「シェイ、シェイ、目覚めなさい」
 雨が少女へと力を注ぎこむ。
(「私は‥‥」)
 少女が覚醒した時、力が解き放たれた。


「‥‥覚醒した力っていうのは、凄まじいものだなぁ」
 崩壊した盗賊団のアジト入口を眺めてチカゲが言った。
「邪龍を完璧に封印しました。これであなたは自由です。今まで本当にありがとう」
 シェイを抱きしめて雨が言った。鈴がひょいと素顔のシェイを覗きこみ言う。
「うん。やっぱり私の予感したとおりですね――時よとまれ、貴女は美しい――そして時間は動き出す」
 男はそう言って笑った。
「馬鹿っ‥‥!」
 シェイは泣きながら噴き出す。
「でもありがとう‥‥本当にありがとう‥‥」


 かくて邪龍は完全に封印され少女は笑顔を取り戻した。
「許しません‥‥わ」
 瓦礫の中から密かにぼろぼろになった女が密かに這出たりしているが、それはまた、別のお話。


●スタッフロール
チカゲ 蓮沼千影(ga4090
白雲 鈴葉・シロウ(ga4772
朴泉 阿木 慧斗(ga7542

シェイ 水雲 紫(gb0709
雨 雨霧 零(ga4508

ジャギ ルフト・サンドマン(ga7712
ユンリン 愛紗・ブランネル(ga1001
ケイ ケイ・リヒャルト(ga0598
緋邪 神無月 翡翠(ga0238
天虹 智久 百合歌(ga4980


fin