●リプレイ本文
「償いにはならない、よな。人と戦うのが怖くて居残った私が今更‥‥」
皐月・B・マイア(
ga5514)は呟いた。それでもその島のどこかに居る大事な人達の役に立とうと少女はその依頼を引き受けたのだった。
東南アジア、戦カリマンタン島の北辺にある軍港。十人の傭兵と物資輸送の一隊が前線の陣へと向けて出発する為の準備を整えていた。
「こう見えても私の種族は日本では山姥とかガングロと呼ばれて畏怖されているの」
装甲車の運転手を務める兵士に向かって熊谷真帆(
ga3826)が言った。
「ワッツ、ヤマンバ?」
「デーヴィルみたいなものです」
と熊谷は説明する。
「オー、ということは悪魔VS死神ネ、これは凄い!」
あっはっはと兵士は笑った。
アルヴァイム(
ga5051) は無線機が運転手を含む各担当に一つずつ回るように調整した。自身は装甲車Aの天井部に搭乗し、銃座へとドローム社製SMGを設置する。
準備を続ける傍ら、アグレアーブル(
ga0095)は二回の襲撃の後ならこの荷の価値はより大きい、と思っていた。
(「補給の有難さは身に沁みて覚えていますから」)
届けなくてはならない。切り抜ける為には対策が必要だ。
「何かあった際には車を停止させ、座席深くに潜るよう、お願いします」
少女はタンクローリーに乗る兵士達に言った。
「了解した」
黒髪の兵士が仏頂面で頷く。
「オーケィ、よろしく頼むぜ」
金髪の兵士は軽い調子で笑顔を見せた。
「峠の死神とは、また何とも‥‥嫌らしいにゃ」
フェブ・ル・アール(
ga0655) が荷物を積み込みながら言った。
「私たちが今回通る場所は、曰く付きの場所のようですね」
というのは遠倉 雨音(
gb0338)だ。
「バグア連中も趣味が良いんだか悪いんだかー」とフェブ。
「ンま、珍しく生物キメラじゃないし‥‥ガチでイかして貰うよ☆」
聖・真琴(
ga1622)が言った。軍港から借り受けたスペアタイヤ四本と工具を装甲車に積み込む。
「既視感があるな‥‥ま、俺の場合は動機が単純過ぎるだけか」
踊り狂う死神の異名を取るゼラス(
ga2924)は、どちらの格が上か、死合って確かめたいらしい。
「何事も無く通過できれば言うことはありませんが、そうそう上手く行くかどうか」と遠倉。
「十中、八、九、出てくると見て間違いないでしょう」
アルヴァイムが言った。
「この死神キメラというのは‥‥まるでゲリラのような戦い方ですね。彼らは人間の戦法を学習しているという事なのでしょうか?」
地図を見ながらと比留間・トナリノ(
ga1355)が呟く。フェヴ曰く、可愛い後輩にして中隊長で昼寝仲間であるらしい。「折角だからカリマンタンのサンセットを拝みに行こうぜー!」と誘われてこの依頼に参加したとかしないとか。
「キメラが学習しているのか、バグアがそう配置しているのか‥‥いずれにせよ厄介そうですが、しかし、この積荷を待つ人たちのためにも、ヘマはできません」
「そうですね、死神だか知りませんが、キッチリ護らせて頂きましょう。それが、力を持つ物の役目ですしね」
フォル=アヴィン(
ga6258)がそう言った。
「私たちが来たからには3度目の正直! なぜならば! それがラストホープ、だからだっ。ふんぬ!」
気合を入れてフェヴが言ったのだった。
●
準備を終えた一同は単車二台、装甲車二台、タンクローリー一台という編成で出発した。単車に搭乗するのはゼラスと聖真琴の二名で、本隊より五〇〇メートル程先行して進んだ。
「今の所は特に異常無し‥‥かね」
ゼラスが一旦バイクを止め、周囲を確認して呟く。
「そうみたいだねゼラスさん」
真琴もまた周囲を見回し頷き、後続の本隊へと連絡を入れる。後続の本隊が追い付いてきたのを確認すると再び単車組は先行を開始した。
それを繰り返して進むうち、やがて太陽が地平の彼方へと沈まんとする時刻となった。辺りが茜色に染まる中、補給隊が峠を行く。
「無事かな皆‥‥姉さん」
マイアが遠い眼をして呟いた。
「いや、流石に女々しいな。これじゃ怒られる」
そろそろ噂の箇所だ。マイアは気持ちを切り替える。
「落日に染まる、死神の住まう峠の一本道――」
遠倉が呟くように言った。
「――なんて。縁起でもないですね、ごめんなさい」
やがて峠に突入した。一同は二台の単車を先行させ、細い崖上の道を装甲車、タンクローリー、装甲車という順番で進んでゆく。
三十分程も進んだ辺りだろうか、銃座から身を乗り出し崖下を覗く熊谷が、黒い布切れが崖に張り付くように昇ってくるのを発見する。手には鎌、背には羽。死神キメラだ。三匹あまりだ。
「キメラです!」
熊谷が言った。スコーピオンで狙いをつけて発砲する。運転手が無線にキメラ出現の報を叫び、車両がけたたましいブレーキの音をあげながら減速してゆく。
銃弾の嵐を受けて死神キメラの一匹が方向を横へと逸らす。が、死神キメラは一匹ではなかった。二匹ほどが道上に躍り出るとタンクローリーに肉薄し、すれちがいざま、鋼鉄の鎌を閃かせ、側面のタイヤを叩き斬った。
比留間が車上の銃座からSMGをフルオートで猛射し、アルヴァイムはSMGを回頭させると貫通式の弾丸をまき散らした。
二台の装甲車とタンクローリーが急停止する。傭兵達が装甲車の扉を開いて飛びだした。
「ちっ、直接いきやがったか!」
無線を受けたゼラスと真琴は砂煙をあげてバイクをアクセルターンさせると、方向転換し本隊へと急行する。
死神キメラAが前方の装甲車へと襲いかかった。アルヴァイムが迫る死神キメラに対して銃座に設置したSMGで猛射する。弾丸が黒の布きれを穿つ。キメラが迫る。熊谷はヴィアを抜き放ち振るった。鎌と直刀が激突し火花を散らす。死神キメラAは翼をはためかせそのまま抜けてゆく。
タンクローリーへと肉薄したうちの一匹、死神キメラBが運転席へと向かう。瞬天速で加速したアグレアーブルが間に割って入った。小太刀で斬りつけ、足の爪を蹴り砕くように繰り出す。死神キメラBは攻撃を受けて弾かれ、路上に着地する。
「声をかけるまで、動かないで」
少女はキメラと睨み合いながら運転席の兵士に向かって呟いた。
一方、死神キメラCは後方の装甲車へと向かっていた。比留間がSMGから放つ弾丸を受けながらも鎌をふりかざして迫る。銃座を守るフォル・アヴィンは左のパリィイングダガーで鎌の切っ先を弾くと右の朱鳳で反撃する。空を切り裂く刃がすれ違いざま死神キメラを切り裂く。肋骨の一本を斬り飛ばした。ゲル状の液体が断裂からまき散らされる。
「上からも来てるぜ!」
フェヴが言って上空へと向け練力を全開にしスコーピオンで猛射する。弾丸が宙を切り裂いて飛び、崖上から襲い来る死神キメラDを貫いた。
「大事な物を奪わせはしない!」
マイアが言って新手のもう一匹、死神キメラEへとS‐01を連射する。銃声が轟き、四連の弾丸が飛んだ。弾丸は死神キメラのまとう襤褸を貫き後方へと抜ける。
銃撃を浴びながらも接近した二匹のキメラはそれぞれフェヴとマイアへと大鎌で斬りつける。両名はそれぞれ太刀で打ち払い、身を翻して避けた。
遠倉はタンクローリーへと向かって駆けると、その上へとよじ登る。
タンクローリーの脇でアグレアーブルと死神キメラBが格闘する。竜巻の如く振るわれる鎌をアグレアーブルは一気に懐に飛び込んでかわすとカウンターの爪撃を繰り出す。鞭の如く振るわれた蹴りが、死神の骨を砕いた。
アルヴァイムが死神キメラAの背へと向けて練力を全開にしてSMGを解き放つ。激しいマズルフラッシュと共にフルオートで発射される弾丸が死神キメラの背を穿ち、貫く。死神キメラAは身を旋回させると弾丸を掻い潜ってアルヴァイムへと迫る。熊谷が直刀を構えて前に立つと振るわれる鎌の刃を弾き、返す刀で斬りつけた。死神キメラAが失速して装甲車Aの脇に落ちる。
装甲車の脇に落ちた死神キメラCへと向ってフォル・アヴィン車上から跳躍し朱鳳を上段から振り下ろす。唸りをあげて振り下ろされた刃は、死神Cの頭蓋を叩き割り、爆ぜさせた。ゲル状の液体を宙へと撒き散らしながら死神キメラCは倒れ、動かなくなった。比留間は銃座からマシンガンを取り外すと、それを手に車上から降りる。
死神キメラDがフェヴに向かって鎌を一閃させる。女は蛍火で攻撃を受け流すと、カウンターの多段斬りを仕掛け、骸骨の化け物を叩き斬った。黒い襤褸をまとったしゃれこうべがゲル状の液体をまき散らしながら地に倒れる。
マイアは腕に白光を宿し死神Eの翼を狙って突きを入れる。しかし少し狙いづらい。素早く横に動かれて回避される。死神キメラからの反撃が飛ぶ。
「鎌が邪魔だ!」
後退しながら敵の攻撃を捌き、回避すると。身を切り返して一歩踏み込み、相手の手首を狙って太刀を振り下ろす。鋭い刃が骨の手首を切断し、体液を噴き出させた。
「死神に葬られるのは私たちではなく、あなたたち。道中、ゆめゆめ迷わぬよう――」
タンクローリーの上に立った遠倉は地に落ちた死神キメラAの頭蓋へと向けて鋭角狙撃で狙いをつけた。呟きつつ発砲。回転するライフル弾が空気を切り裂いて真っ直ぐに飛び、死神キメラAの頭蓋を撃ち抜いた。死神は頭蓋から液体を吹き出しつつ、倒れる。
「裂き飛ばす!」
戦場に到着したゼラスがバイクから降りると、練力を全開にしてディガイアで死神キメラBへと猛攻をかけた。アグレアーブルの攻撃で弱っていた死神Bはその連撃でバラバラに解体される。
「ホネは、とっとと地に帰れってンだよ!」
同様に駆けつけた真琴は真紅のルベウスをかざして死神キメラEへと肉薄すると、ラッシュをかけてこれの頭蓋を打ち砕いたのだった。
●
「‥‥鎌、ねぇ」
ゼラスは打倒した死神キメラの鎌を見下ろすと、
「キメラ相手には使えねぇだろうが‥‥ま、使い道はあるか」
ひょいと鎌を片手で肩に担ぐと夕日に背を向け仲間たちの元へと向かった。
先の戦い、結果として人的被害はさほど出なかったが、タンクローリーの片側のタイヤがことごとく切り裂かれていた。
故に傭兵達は真琴を中心にして申請しておいたスペアを使ってタイヤ交換をとり行った。
「タイヤ交換終了♪ 残り後少し。きっちり送り届けようよ☆」
なんとか修理を終えた一同は再び移動を開始する。
「銃座の担当になったのはラッキーでした、うっうー!」
車上で燃えるような夕日を眺めながら比留間が言った。どうやらカリマンタンのサンセットはゆっくりと拝めそうである。
「――夕日。こうして見ると、綺麗なものですね」
車内からぽつりと遠倉が呟きを洩らす。
「私にでも出来る事‥‥今からでも、きっと遅くない。往こう、物資を待つ全ての人達の下へ」
マイアもまた車内から夕陽を眺めて呟いた。
死神キメラを撃退した一同は、無事に峠を抜け、やがて前線の陣へと無事タンクローリーを送り届けたのだった。