●リプレイ本文
中国南部の農村、巨大カエルが出現したとの報を受けLHの傭兵達がやってきていた。
「はいはい、にーめんはぉー♪」
と笑顔で挨拶するのは蛇穴・シュウ(
ga8426)である。一同が村人の案内にしたがって田園地帯を進んで行くと、遠目にも巨大な緑の物体が見えた。
「暴れているキメラはあちらですか?」
村人に尋ねる。村人はそれに頷き、返事をしようとしたところへ目の良い瞳 豹雅(
ga4592)が彼方を眺めながら言った。
「あ。喰われた」
ぬかるんだ田んぼの中を少女が突撃してゆき、カエルキメラの舌に絡み取られて飲み込まれていた。
「‥‥なんですとー?!」
(「う〜ん、前とは違う意味で他人とは思えない‥‥」)
その突撃っぷりにミア・エルミナール(
ga0741)はそんな事を思う。
「キメラに一人で挑む勇気は買いますけど、それで飲み込まれては世話が有りませんわね」
鷹司 小雛(
ga1008)が嘆息しながら言った。
「まあとにかく、急いで片付けないとヤバイよね! 突撃して一気に叩こう!」
ミアが言い、一同は頷き、八人の傭兵が一斉に駆け出す。豹雅は事態を確認した時点で既に周囲を待たずに走り出しており、蛇穴は案内の村人に応援を頼んだ。
「UPCからの報酬‥‥は約束出来ませんが、田んぼの修復はお手伝いしますから!」
蛇穴が言った。
「へぇ、具体的には何をすればよろしいんで?」
「真水・お湯・地元の赤ひげなど、ありったけお願いします!」
「赤ひげ‥‥海賊ですか?」
「医者です」
蛇穴の言葉に首傾げる村人へ森里・氷雨(
ga8490)が横から述べる。
「医療機関に連絡を。それと担架や水運搬に使える農具などもお願いします」
「へぇ、解りやした」
そんなやりとりの間にもみづほ(
ga6115)は疾く駆け、巨大カエルとの距離をおよそ七十メートルまで詰めていた。練力を全開にして「影撃ち」「狙撃眼」「ファングバックル」の三種のスキルを発動、弾頭矢を長弓に番え狙いを定める。
(「注意をこちらに‥‥!」)
裂帛の呼気と共に矢弾を解き放つ。長弓から放たれた矢は曲線を描いて飛び、大カエルへと降り注いだ。二連の爆裂が巻き起こり、大ガエルの血肉が飛ぶ。
その間に、一同よりも先発して飛び出していた豹雅が畦道を駆け下り、カエルがいる水田に突入する。数歩駆け、瞬天速を発動させる。豹雅が履いているのは足袋に草鞋と通常の靴よりは泥に足を取られにくいが、やはり沈む。瞬間移動するが如き速度で加速――無理だ。足をとられてカエルの前にべちゃりと前のめりに水田に倒れこんだ。
カエルは攻撃を受けてみづほの方へと注意をやっていたが距離があり過ぎるので、目の前に転がった獲物の方へと視線を向けた。巨大な舌を伸ばして豹雅を掴み取ると、振り回して畦道に叩きつける。豹雅は腕で頭部をかばって受け身を取り、気絶を免れる。
「そう、せっつくな‥‥たっぷりと鉛弾を喰わせてやる」
御巫 雫(
ga8942) はデヴァステイターの射程距離まで距離を詰めるとカエルの頭部へと銃口を向けた。狙いを定め、引き鉄を絞り込む。連射。肩を突き抜ける反動と共に銃声が轟き、弾丸の嵐が宙を裂いて飛び、次々にカエルの頭部へと炸裂する。
「この距離では危険だ。早く避難してくれ!」
霧島 亜夜(
ga3511)がカエルキメラを遠巻きに眺めていた村人達へと駆け寄り避難を促す。
「しかし、人が‥‥」
「中の人間は俺達が助ける。だが水と塩が欲しい。その為にも一旦避難してくれないか」
「‥‥解った」
霧島は村人の避難を開始させ、自身も村へと向かう。
風閂(
ga8357)は畦道を走り、五十程度の距離まで迫ると矢筒から矢を取り出し長さ二メートルを誇る大弓に番えた。カエルの眼球を狙い限界まで弦を引き絞り、放つ。矢が勢いよく放たれ弓なりに飛ぶ。カエルは泥を跳ね上げ、宙へと跳躍して回避した。
(「狙うには、間合いを詰めた方が良いな‥‥すまぬが、もう少し我慢してくれ。必ず、助ける!」)
風閂は飲み込まれた少女に向かって胸中で呟き、大弓を手に再び畦道を駆け出す。泥を跳ね上げながらカエルが水田に降り立つ。
「射撃はあまり得意じゃないけど‥‥四の五の言ってられないわね」
紅 アリカ(
ga8708)は側面に回り込むと巨大ガエルの脚へと真デヴァステイターを向ける。精密に狙いを定め、連射。轟く銃声と共に弾丸が飛び出しカエルの脚に突き刺さり鮮血を噴き出させる。
「このバトルアックスを受けてみよー!」
ミア・エルミナールが水田に降り立ち、泥をかき分けながらバトルアクスを振り上げて正面から突っ込んだ。大刀を持つ腕に布を巻き終えた鷹司が横に並んで迫る。
豹雅を地面へと叩きつけていたカエルは、少女を絡めたまま、それをハンマーのように扱い、薙ぎ払うようにしてミアと鷹司へと叩きつける。
仲間を斧で受ける訳にもいかない。ミアは身を投げ出すように転がって避ける。舌の先端と豹雅がミアの背上を通り抜けてゆく。
鷹司は長さ三メートルにも及ぶ大太刀を振りかぶると、振り切られたカエルの舌めがけて斬りつけた。光の一閃。オレンジ色の舌が斬り飛ばされて宙を舞い、豹雅は水田の中に着地する。
霧島は畦道を村へと向かって疾風の如く駆けてゆく。みづほはカエルの右方前方へと回るとファング・バックルを発動させアラスカ454を連射した。45口径の回転式拳銃だ。重い銃声を轟かせて弾丸が飛びカエルの身を穿つ。
その間にミアは素早く起き上がると、大カエルへと練力を全開にして接近した。バトルアクスに紅蓮の光を宿し、渾身の力を込めて叩きつける。刃がカエルの緑の皮膚を切り裂き、体液を迸らせた。鷹司も同時に国士無双で攻撃を仕掛け、大ガエルの身を切り裂く。
風閂は畦道を駆け、十程度まで距離を詰める。御巫はデヴァステイターで攻撃を仕掛ける。蛇穴は大カエルの左側面へと回り込むとS‐01で狙いをつけ連射した。轟く銃声と共に弾丸が飛び、大ガエルの身を穿ち貫く。
紅はクロムブレイドを構えて大カエルへと突っ込み、斬りつけた。森里もまた剣を構えて肉薄し、斬りつける。
「水田を襲い、人を飲み込んだことを後悔するが良い! 米は日本人の主食だ。貴様にはわからぬだろうがな!!」
風閂が言って弓矢を曲射しカエルの眼球へと矢を降り注がせた。傭兵達は巨大カエルをへと総攻撃を仕掛ける。
豹雅が駆け寄って爪で引き斬り、鷹司はカエルの喉を狙って国士無双の切っ先を繰り出す。森里もまた喉を狙って太刀を突き入れた。鋭い刃がカエルの喉を貫き、斬り裂く。ミアはバトルアックスをカエルの頭部を狙って打ち込む。紅アリカもまたカエルの頭部を狙ってクロムブレードを振って連撃を仕掛け、その頭蓋を叩き割った。
「カエル野郎が、もう死んだかな? 死んだ? 死んだか? 死にやがった?」
久しぶりのキメラ退治でやや興奮している蛇穴はS‐01を乱射し続けている。御巫とみづほもまた横に動いて射線を確保すると銃口を向けて弾丸を叩き込む。
破壊の嵐が荒れ狂った後、巨大カエルは鮮血をまき散らしながら水田に沈んでいた。
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一同は協力してカエルを仰向けに倒し、ミアがナイフでカエルの腹を斬り裂いた。そしてカエルの胃袋の中から少女を引きづりだす。少女は半身が酸に浸けられていたらしく、煙をあげていた。
「クソ蛙め。溶かしていいのは服だけだろうが!」
森里はそんな事を毒づきつつ叫び、みづほが広げるシートの上へと乗せる。防御服は頑丈なので溶けてはいないが、隙間から酸が入り込んでいるようだった。傭兵達はシートの端を掴んで畦道へと移送した。とりあえず少女の様子を確認する。脈はある、呼吸も正常だ。ただし意識が無い。付着した酸で溶けていっている。応急処置をする為に、酸に浸かった服を脱がす。
「水は?」
「まだ」
村人や霧島が村の家を回って水を確保しに行っているが、まだ戻ってこない。救急キットを使って応急手当しながらしばし待つと、霧島が塩の入った袋を腰にさげ、水を湛えた甕を両手に抱えてやってきた。霧島は塩を水に溶かして食塩水を作った。傭兵達はそれを少女の身にかけて傷口を洗い流す。やがて甕の水が無くなりそうになった頃、霧島に要請された医者と村人達が甕を抱えて次々とやってきた。
「とりあえず酸を落とした後に移送する。手伝ってくれ」
傭兵達は医者と共に甕の水をかけて少女の身を洗い流すと、担架に少女を乗せ村の診療所へと運びこんだのだった。
●
「‥‥力を持って敵を倒すだけが、救いではないからな。微力ではあるが、手伝わせてもらおう」
御巫が言った。御巫の他、風閂なども少女を医者に任せキメラに破壊された水田の補修に当たった。なおキメラの死体は鷹司が処理した。村人達と共に泥に塗れて数時間格闘していると、診療所の使いより少女が意識を取り戻した事を知らされる。
一同は各々作業を切り上げると診療所へと向かった。
病室に足を踏み入れると金髪の少女が白いシーツに引かれたベッドに、包帯をぐるぐる巻きにされて横になっていた。
「御加減はどうですか?」
みづほが問いかけた。
「おかげさまでなんとか、生きてます」
少女はそう笑って答えた。傭兵達は軽く自己紹介をかわした。どうやら彼女の名はイングリッドというらしい。
「ケロたん先輩、自分には胃袋まで行く勇気はありませんでした。先輩すげーや」
「行きたくて行ったんじゃないのです。もうキメラの胃袋に収まるのは二度と御免なのですよ」
「‥‥冷静さを欠くと、こういう目に合うのよ。もう少し状況を判断する力が必要ね‥‥」
紅アリカが少女に言った。
「はう、面目ないです。どうも皆様にはとても迷惑をおかけしてしまったようで」
「全く、無茶をする‥‥いくら優れた力を持っていようと、使い方を間違えれば意味が無い」御巫が嘆息して言った「孫子曰く。敵を知り、己を知れば、百戦危うからず‥‥よく状況を確認し、自身を弁えて行動せよ。下手な行動が、味方を危険に陥れることもあるからな」
そう注意を与えた後、少女は柔らかく微笑むと、
「だが貴様の義侠、殊勝である。これからも良く精進し、弱き者の為にその力を使うが良い」
「うう、なんだか自分よりちっちゃな子にそんな事いわれるのは複雑なのです。でも言い返せないのです。頑張るのですよ」
イングリッドはシーツの端を噛んで言った。
「ああ、そうだ」霧島が言った「バイクは診療所の前に留めてあるから。剣は先生に預けてある」
「はい、重ね重ねすいませんです」
「なに、良いさ。今度は無茶するなよ!」
霧島は笑って言い。傭兵達は診療所を後にする。
村を立ち去る時、風閂は村人達に言った。
「これからも、良い米を育てて俺たちに美味い米の飯を食わせてくれ」
腹が減っては戦は出来ない。今年の稲穂は実るだろうか。実り多き事を、豊穣の神に祈ったのだった。