●リプレイ本文
鉄騎衆より十名の傭兵が選ばれ、麦県の地下に広がる空間へと降りる事となった。
「地下通路の地形はどうなっていますか?」
低い駆動音をあげながら降りてゆくエレベーターの中、優(
ga8480)が黒服へと問いかけた。
黒服が答えて言うには、通路は鋼鉄で四方が舗装されていて、平坦であると。幅は横三十メートル、高さ十五メートル程、通路全体の長さは二百メートル程。通路の端と端はメトロニウムのシャッターによって閉ざされているのだという。
「その芋虫型のキメラについて何か情報はありますか?」
「数は三匹程です。全長は六メートル程、口の直径は二メートル、開けば三メートルとも。噛みつきや、体当たりの他、口から礫を飛ばして攻撃してくるとか。西の方で暴れたアースクエイクというワームに少し似ているようですが‥‥」
それとは少し違う、という。
「‥‥夏になると成虫になる?」
クロード(
ga0179)が小首を傾げて言った。
「それは解っていません」
黒服は首をふる。キメラの生態の多くは謎に包まれている。
「地下を掘り進む芋虫、ですか。バグアもアースクエイクで味を占めましたかね」
斑鳩・八雲(
ga8672)が言った。
「わざわざこんな所にお出ましとはな。エサ目当てか、それ以外の目的か」
伊河 凛(
ga3175)が戦いに備え、手足を伸ばしつつ言う。
やがてエレベーターが止まり、一同は地下空間へと足を踏み出す。
広大な領域のあちこちで機械が駆動し、白い帽子と服に身を包んだ大勢の人々が、何かを生産している様子だった。
「Einschalten」
シエラ(
ga3258)が呟きと共に覚醒した。光を取り戻した瞳で周囲を眺めて言う。
「成る程、口外するな‥‥といわれた理由、なんとなく分かった気がします」
具体的に何を生産しているのか、外からでは解らない。だが、その設備にはかなりのレベルの技術が使われているのは解る。
「うわ、地下にこんな巨大な空間が‥‥すごい技術だなあ」
周囲を見回しつつ感心したように北柴 航三郎(
ga4410)が言う。
「ここの事はくれぐれも外で喋っちゃ駄目ネ、よろし?」
チャイナドレスに身を包んだ少女が、扇で口元を隠しながら切れ長の瞳を細め北柴を見据える。
「え? だ、大丈夫ですよ。他言無用の事を喋る度胸なんて、僕にはありませんっ」
北柴は慌てたように手を左右にふりつつ言う。
「こう見えて、口は堅い方です」
微笑んで斑鳩が言った。
「金を貰っているに違いは無い。ならこちらにも守秘義務というものがある」
と御山・アキラ(
ga0532)は言う。
「ここがゴーレムに襲われた事に何か関係があるのかもしれませんが‥‥深く詮索するつもりはありません」
シエラが呟くように言い、皇 千糸(
ga0843) もまたそれに頷くと、
「貴女とは、今後とも良い関係でいたいと思ってますから」
「有難う、感謝するネ」
にこっと笑って胡蝶は言った。
シーヴ・フェルセン(
ga5638)が述べる。
「こんな空間が地下にありやがるとは――驚きじゃありやがるですが、興味はねぇんで忘れろっつーのは問題無し。戦闘終了後の中華で万事OKでありやがるです」
「興味が無いと言ってる癖に、追加報酬を要求とは調子が良いアルネ」半眼で胡蝶が言う「ま、それぐらいなら良いけどネ。美味しい物用意しとくから、勝って戻ってくるヨロシ」
荘胡蝶はエレベーターに乗って地上へと戻り、黒服が後を継いで案内を進める。
「件のブロックはこの先です。ついてきてください」
一同は黒服の背を追って区画の奥へと向かって歩き出す。
「胡蝶さん、美人だったなあ‥‥」
北柴がそんな事を言っている。
「しかしホント広いわねぇ」
皇が呟いた。
(「でもなんでこんな隠すように? 何度も進攻されそうになっているわけだし、バグアが無視できない代物がここにあるのかしら?」)
などと思いを巡らせつつ進む。
黒服に先導されて歩くことしばし、通路を抜け、周囲から人の気配が消えた頃、巨大なシャッターが一同の眼前に現れた。
「私が案内できるのはここまでです」
黒服が足を止めて振り向いた。
「さてと‥‥では地下のお掃除を始めるとするか」
阿木・慧慈(
ga8366)が言う。
一同は黒服と別れるとその脇にある人間用の扉を開き、通路の奥へと踏み込んだ。
●
傭兵達は通路の中頃で体長六メートルという馬鹿でかい芋虫が蠢いているのを発見する。数は三。
一同は班を三つに分けていた。すなわち囮A班、シエラ、阿木の二名、囮B班、御山、斑鳩の二名、集中攻撃班、クロード、皇、伊河、北柴、シーヴ、優の六名、という編成だ。
「うわ、大きい。というかキモい」
皇が蠢く大芋虫を見やって呻き声をあげた。
「随分でかい芋虫だな。一体宿り蜂を何匹養えるか」
御山が言った。
「‥‥何の幼虫なんでしょう? モ●ラ? ‥‥それとも●ガロ?」
クロードが首傾げて言った。とりあえず妖精の姿は周囲には見えない。
「とりあえず、最初に潰すのは‥‥向かって右の奴にしましょうか」
集中攻撃班の皇が端の芋虫を指して言った。
「了解、害虫駆除を始めましょう」
優が月詠を抜き放って答える。
覚醒した一同は武器を構えて散開し通路を進んでゆく。距離が九十程度まで詰まると芋虫はその口を開き石の礫を乱射してきた。拳大の石が一同に向かって雨あられと降り注がれる。
伊河は前進しながら横にスライドして礫を回避する。御山は左端へと走りながら礫の雨を掻い潜るとSMGを腰溜めに構えて最左の大芋虫へと狙いをつけ、トリガーを絞った。強烈なマズルフラッシュと共にフルオートで弾丸の嵐が解き放たれ次々に大芋虫Aの巨体を穿ってゆく。
御山はそこで一旦引いて攻撃班から引き離そうかと思ったが、あちらの方が射程が長い、ちょっと無理そうだ。
斑鳩も御山同様、左端の芋虫Aを狙い真デヴァステイターで四連射した。轟音と共に十二連の弾丸をばらまき、大芋虫の身から鮮血を噴き上げさせる。
阿木慧慈は芋虫BへとカプロイアM2007拳銃で芋虫Bへと狙いをつけた。片手で構え四連射。宙翔ける銃弾が槍の切っ先の如く次々に突き刺さる。
大芋虫から放たれた礫がクロードの肌をかすめて削ってゆく。鮮血が舞った。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
クロードは練力を全開にし掲げる太刀へとエネルギーを極限まで集中させると落雷の如く振り下ろした。刀の間合いの外だ。剣が空を割り、断裂が風を逆巻かせた。ソニックブーム。三連の音速波が唸りをあげて飛び、最も右端の芋虫Cへと炸裂し、強打した。女はさらに拳銃を発砲し追撃を入れる。
「とっとと駆除されなさい!」
皇がエネルギーガンを片手で構え、芋虫Cの側面へと回り込むと閃光を連射した。光弾が宙を焼いて飛び、芋虫の体躯へと次々に命中する。肉が爆ぜ、破壊の嵐が巻き起こった。
「歩脚狙うにゃ‥‥短ぇでありやがるです」
シーヴはジャコと、拳銃をスライドさせると芋虫Cの胴へと狙いをつけ連射する。轟く銃声と共に四連の弾丸が飛び出し、その体躯を次々に穿った。
優は前進しながら太刀にエネルギーを極限まで集中させ、下段から振り上げ、振り下ろす。剣閃が宙を断ち、風が逆巻き、二連の衝撃波が音速を超えて飛んだ。衝撃波が大芋虫の身を強打し、肉を爆ぜさせて鮮血を噴き上げさせる。優は太刀を構え大芋虫に向かってさらに駆ける。
北柴はクロードへと錬成治療を入れる。女の身から痛みがひき、傷が瞬く間に癒えていった。北柴はさらにスパークマシンを振って雷撃を飛ばした。爆雷が芋虫の身に突き刺さり、その体躯を焦がす。
大芋虫が反撃の礫を放つべく口を開く。
「冥土の土産だ、食らえ!」
距離を詰めていた伊河が練力を全開にして月詠を振り抜いた。瞬後、空気が逆巻く。放たれた礫が伊河の身へと次々に突き刺さる。バキと肋骨が嫌な音を立てた。
伊河の太刀から放たれた音速波が礫の幾つかを弾きながら大芋虫Cの口の中に飛び込んだ。豪閃が芋虫の体躯を内側から突きあがらせる。芋虫Cの身が震え、動かなくなった。
シエラは放たれる礫を瞬天速で掻い潜ると、足元から光を発しながら槍の間合いまで距離を詰めた。大芋虫の真っ正面へと立ち、自らの身の丈よりも遥かに長い槍を振り上げ、振り降ろす。雷色の槍が唸りをあげて大芋虫の顔面を強打し、肉を断ち切った。素早く槍を引き戻すと嵐の如く連撃を浴びせかける。
芋虫Aは銃弾の嵐を浴びながらも斑鳩目がけて突進する。身を唸らせて巨体を跳躍させると、巨大な口を開いて飛びかかる。
斑鳩は素早く後方へと飛び退いて回避する。大芋虫と鋼鉄の床が激突して震え、轟音を響き渡らせた。
「囮で足止め、更に耐える役割というのは、多少デジャヴを感じますねぇ」
斑鳩はのほほんと呟きつつ、斜め後方へと走り距離を離す。駆けながらデヴァステイターを再装填すると肩越しに連射し、芋虫の肉を破砕させてゆく。
側面を取っている御山は猛烈な勢いでSMGをフルオート射撃している。銃身が重い震動と共に駆動し、空の薬莢が甲高い音を立てて床に転がってゆく。芋虫の体躯は襤褸雑巾のように穴だらけになっていた。
芋虫Bが巨大な口をあけてシエラへと襲いかかった。開いた顎の直径は三メートル、身長一メートルのシエラなら二、三人まとめて呑み込めそうな勢いだ。
シエラは槍を立てて構えて軽く跳躍すると――そうしないと足を払われる――芋虫Bの口の中に飛び込んだ。口が閉まる、槍が突き刺さる。芋虫の口内、穂先が刺さっている箇所から血が吹き出し、フロスティアの柄がみしみしと悲鳴をあげた。今にも折れそうだ。
芋虫Bの斜側面をとった阿木は拳銃を三連射するとクロムブレイドを一閃させた。銃弾が芋虫の身を穿って鮮血を吹きあげさせ、逆巻く烈波が衝撃となって大芋虫の身を強打する。
皇がエネルギーガンから爆光を連射して芋虫Bの身を焼き尽くした。光弾が肉を爆ぜさせ、血を焦がし、猛烈な破壊力が荒れ狂う。さらに伊河、クロード、優、シーヴが剣を片手に肉迫した。
伊河が月詠で薙ぎ払って裂き、同じくクロードが月詠で多段斬りを浴びせ、優もまた月詠で烈閃を浴びせ滅多斬りにする。
「ここにゃ芋はねぇんで――還りやがれ、です」
シーヴが言って紅蓮に輝く大剣を振り降ろした。コンユンクシオが芋虫の身を深々と斬り裂き、鮮血を噴き上げさせる。大芋虫Bの動きが鈍り、そして止まった。
北柴は伊河へと練成治療をかけて回復させると、大芋虫Aへと向けて爆雷を解き放った。爆熱の電撃が芋虫の体躯を焼き焦がす。御山がSMGをリロードし再度銃撃の嵐を浴びせかけると、芋虫Aも動かなくなった。
シエラは咥内から抜け出すとなんとか槍を引っぱり出す。
「‥‥ちょっと曲がってますかフロスティア?」
少女は愛槍を眺めて呟く。LHの鍛冶屋――というか研究所で修復が必要そうだった。
●
「風呂入りてぇかも‥‥」
地上へと戻るとシーヴ・フェルセンが言った。
「ああ、もう、ならさっぱりしてくるヨロシ」
胡蝶が苦笑して言った。ついでなので一同は荘家の屋敷で湯を借りた。荘家の浴室は金持ちだけあって広かった。
一同は小奇麗になると、中華料理――ペキンダッグの丸焼きや春雨等々――を平らげてから休息についたのだった。