●リプレイ本文
東南アジア、タラカン基地。そのハンガーから十機のKVが滑走路へと進み出ていた。
「たった三機とはいえ、油断は禁物だね‥‥」
月森 花(
ga0053)が愛機S‐01のコクピットの中、自らに気合を入れ直すよう呟きを洩らす。
(「抜かれたら失敗‥‥と。見かけより厳しいぜ、この任務」)
極力言動には表わさないようにしているがアンドレアス・ラーセン(
ga6523)はそう思っていた。
アンドレアスはこれが戦闘依頼として初の出撃だという青年に言う。
「美弥、頼りにしてるぜ? ま、あんま堅くなんなよ。リラックスリラックス、っと」
「はい、大丈夫です」
美弥(
ga7120)がそれに頷く。
「関西に昔から『山よりデカい獅子は出ん』という格言が在ってな」
三島玲奈(
ga3848)が言った。
「どういう意味ですか?」美弥が問う。
「ん、腹を括れば怖い物無しって意味だよ」と三島。
「怖いもの無し、ですか」
榊 刑部(
ga7524)が呟く。
「そう、覚悟を決めればなんとかなるよ」
「ふっ、こちとら温泉帰りで気力充電。しかも魔弾のプーヤンと一緒だったら最高に縁起いいわよ。今だったら針の穴だって通せそう」
阿野次 のもじ(
ga5480)が言った。
それに玖堂 暁恒(
ga6985)が言う。
「針の穴、ねぇ‥‥ここが落ちたら、即終了‥‥っつーワケでもねぇだろうが‥‥むざむざやらせんのはシャクだ。頼むぜ」
「ワームを基地に近付けるわけには、行きません‥‥全機‥‥海に、叩き落してやります‥‥!」
決意と共に菱美 雫(
ga7479)が言った。
「うむ、さっさと見つけ出し墜とすとしよう。頼りにしてるぞ、菱美」
リュイン・カミーユ(
ga3871)が頷く。
各員はスロットルを全開に入れ愛機を疾走させる。十機のKVは轟音と共に滑走路を疾走し次々と蒼天へと舞い上がっていった。
●
セレベス海の洋上、海面すれすれを十機のKVが飛ぶ。
「セレベスの海の空‥‥絶対に守ってみせます!」
里見・さやか(
ga0153)は決意と共に機内のディスプレイへと視線を走らせる。傭兵達は岩竜を中心とした三隊を編成し、データをリンクして索敵に当たっていた。
中央にブラヴォー隊、三島のバイパー、榊のR‐01、里見の岩竜の三機を配し、右翼をアルファ隊、アンドレアスのS‐01、阿野次のディアブロ、玖堂のディアブロ、美弥の岩竜の四機、左翼をチャーリー隊、月森のS‐01、リュインのR‐01、菱美の岩竜の三機、という編成である。
一同は高度を敵に合わせ僅か100フィートまで落していた。そのおかげか、想定よりもかなりの遠距離でヘルメットワームをレーダーに捕捉する事に成功する。
「ブラヴォー3より味方全機へ。敵機を発見しました。位置は‥‥」
里見が報告を入れる。レーダー上では敵の数は三機、あちらも傭兵達を捉えたのか、迂回するような機動で散開し始めた。傭兵達は一隊に一機の割合でこれに当たる事にした。行く手を遮るように飛ぶ。
十機のKVと三機のHWとの詰まってゆく。輝く空の彼方に鋼鉄のカブトガニの姿が見えた。
「アルファ4、距離カウント頼むわ。派手にお出迎えしてやる」
「了解」
アンドレアスの言葉に美弥は頷く。
「やれやれ、迎えに出るのならもっと喜べる物を出迎えたい所だがな」
玖堂がくくっと喉を鳴らして笑った。
「カウントを開始します」
距離が詰まる。
「距離四百まで5、4、3、2、1――撃てっ!」
美弥が号令を下す。右翼に展開するアルファ隊は、四百程度の距離でカウントに合わせ一斉に火器を解き放った。
「必殺! Fサンダークラーッシュ!!」
「‥‥til helvede!(地獄へ落ちろ!)」
阿野次が叫び、アンドレアスが吼える。阿野次と玖堂機はアグレッシヴ・フォースを発動させて猛烈な電撃を飛ばし、アンドレアス、美弥機もまたG放電装置を用いて爆雷を撃ち放った。四機のKVから一斉に電撃の腕が伸び、敵左翼のヘルメットワームを絡め取る。
「あなたたちをカリマンタンへ渡航させるわけにはいきません! フォックス2!」
「行かせるか! 砲弾の嵐!」
「Holywood、フォックス2!」
ブラヴォー隊もまた中央のヘルメットワームに対し距離四百から攻撃を仕掛けた。里見機が雷撃を解き放ち、三島機がライフル弾を撃ち放ち、榊機が誘導弾を飛ばす。電撃が宙を焼いてヘルメットワームへと伸び、弾丸が装甲を穿ち、ミサイルが直撃して爆発を巻き起こした。
「四百突入、3秒前‥‥2、1――今です!」
「ここから先へは行かせない‥‥」
「チャーリー1、フォックス2!」
左翼のチャーリー隊は菱美のカウントで一斉射撃を仕掛けていた。菱美機は放電装置を発動させつつラージフレアをばらまき、月森機はスナイパーライフルで攻撃を仕掛け、リュイン機はアグレッシブ・ファングを発動させてG‐2ミサイルを撃ち放った。
電撃の腕がヘルメットワームを絡め、勢い良く放たれた弾丸が装甲をぶち抜く。強烈な破壊力を秘めたミサイルが直撃して大爆発を巻き起こした。
攻撃を受けたヘルメットワームはしかし、右翼、左翼、中央、どの機体も速度を落とさず上昇し真っ直ぐに飛んだ。突破を狙っている。距離があっという間に潰れ、迫る。
「ちっ、味な真似を‥‥!」
アルファ隊の玖堂が舌打ちした。菱美はジェット噴射ノズル核を操作し、機体を滑らせるようにして急旋回させる。強烈なGの中、景色が高速で流れてゆき、風防越しに空気の逆巻く音が聞こえた気がした。
ヘルメットワームは加速して矢のように飛び、急旋回する傭兵達を飛び越え基地の方角へと向かう。
「簡単にイかせると思ったかよ!」
アンドレアスがブーストを点火させ叫んだ。各機ブースト機動でヘルメットワームを追う。加速ヘルメットワームの背にさらに超音速で加速するナイトフォーゲルが喰らいつく。アンドレアス機はヘルメットワームAの後背に迫ると九連のレーザー砲を浴びせかけた。閃光が嵐の如く飛び、ヘルメットワームの装甲を次々に削り取ってゆく。
「赤き鬼火よ、その力を見せろ!!」
玖堂が吼えた。アグレッシヴ・フォースを発動させ武器へのエネルギー付与を極限まで高めるとAAMを猛射する。誘導弾が煙を引き、音速を超えて飛んだ。命中。次々に直撃し大爆発を巻き起こしてゆく。三発目の爆炎に呑まれた時、ヘルメットワームは自らも爆発を起こした。空飛ぶカブトガニは黒煙を噴き上げ、炎に包まれながら海へと落下してゆく。十mを越える巨体が海面に激突し、盛大な水柱が上がった。撃墜。
「ここを抜けさせる訳にゃ行かないんだ!」
中央、三島機は空戦スタビライザーを発動させヘルメットワームBの後背へと詰めるとリニア砲と共にレーザー砲を猛射した。六時方向からの砲弾がヘルメットワームの装甲に直撃して突き破り、レーザー砲の嵐が装甲を焼く。
「ここで逃す訳にはいきません。速やかに本来居るべき場所にお帰り頂きましょうか。すなわち煉獄へ」
榊は言って照準にヘルメットワームの背を納めた。R‐01がガトリング砲を猛射しながらヘルメットワームへと接近してゆく。嵐の如く吐き出される弾丸がワームの装甲を穿つ。榊機はアグレッシヴ・ファングを発動させると加速しソードウイングで突撃を仕掛けた。しかしヘルメットワームは急上昇してその突撃を回避する。
「絶対に行かせん‥‥墜ちろ!」
右翼、リュイン機は翻ってヘルメットワームCの背後へと距離を詰めるとアグレッシヴ・ファングを発動させAAMを猛連射した。蒼空を裂いて三連の誘導弾が飛び、咄嗟に回避運動をとったヘルメットワームの背へと突き刺さる。猛烈な破壊力を秘めたそれは装甲をぶち破ると大爆発を巻き起こし、火球の華を咲き乱れさせた。が、まだ飛んでる。爆炎を裂いてヘルメットワームが飛ぶ。
爆風に大気が逆巻く中、月森は機械の如き冷徹な思考を以ってロックサイトにヘルメットワームを納めた。
「捉えた‥‥」
静かに、そして素早く発射ボタンを押し込む。三連のAAMがうねるように放たれヘルメットワームへと次々に命中してゆく。爆発の嵐が巻き起こった。ヘルメットワームは弾かれるように水面へと叩きつけられ、水中で爆散した。巨大な水柱を噴き上がる。撃墜。
しかし、ヘルメットワームBはまだ健在だった。さらに加速し空の彼方へ超音速で飛び去ってゆく。
「追いつけない‥‥!」
コクピットの中、ヘルメットワームの背を睨み里見さやかが呻いた。里見機もブーストを発動させて追っているのだが足の遅い岩竜のこと、菱美機も美弥機も同様に追いつけない。攻撃の為に速度を落とした各機も追いすがっているが一旦離れた距離はなかなか縮まらない。このままでは不味い、基地に行かれてしまう。唯一、攻撃を控えた阿野次機だけが追いすがっていた。
「まだ。相手が基地攻撃に転じようとする瞬間、速度を落とさざる得ない筈。私はその一瞬に賭けるわ」
無線に向かって少女はそう述べた。
ヘルメットワームがセレベスの海を駆け抜け、十機のKVがそれを追う。水平線が途切れ陸地が見えた。基地が迫る。
長距離から基地の対空砲が飛んだ。凄まじい数の砲弾の嵐。だがヘルメットワームはその悉くをわずかな動きでかわし、飛ぶ。基地の手前で急上昇した。阿野次機が後背から矢の如く迫る。狙うは一か八かのソードウイングによる突撃。空では当てにくさに定評のある兵器だ。外したら一貫の終わり。またその攻撃で倒しきれなくても基地は攻撃を受けるだろう。阿野次のもじ、やれるか否か。
操縦桿を握りしめ、微調整しながら機影を睨む。通常兵器なら最悪FOX‐4でも止められるが、フォースフィールドを持つヘルメットワームとなるとそうもいかない。翼を当てなければならない。
ヘルメットワームが機首を下げる。攻撃態勢に入った。阿野次機が鋼鉄の翼をかざして迫る。裂かれてゆく空気の激流が見えた気がした。一秒が引き伸ばされ、世界から音が消える。
ヘルメットワームが滑るように横にスライドした。
――慣性制御。急旋回。流石に背後にくっつかれているのは解るだろう。フェイクだ。
「‥‥っ!」
阿野次は咄嗟にジェット噴射ノズル核を操作して軌道を修正する。ヨーとローリングを駆使して機体をぶつけるように飛ぶ。交差。翼は――入った。轟音と共に翼の切っ先がヘルメットワームの装甲を抉り斬る。が、浅い。火花を散らしながら、抜けた。
ヘルメットワームが弾かれる。降下、旋回、機首を下げる。基地を捉えた。砲門に紫の輝きが宿る。瞬後、猛烈な爆発に巻き込まれた。
「言った筈です、地獄へ御帰りいただくと」
榊が呟いた。全ての練力をブースト飛行に回したR‐01が超音速で接近していた。次々と誘導弾が炸裂してゆく。爆裂が大気を揺るがし、掻き乱した。それが収まった後、ヘルメットワームは黒煙をあげて失速し大地へ落下していっていた。基地の対空砲が嵐の如く放たれ、ぶち抜く。爆散。
息をつく傭兵達に基地の管制から連絡が入った。良くやった、と。阿野次が答えて言った。
「愛! 努力! 友情! そして勝利ね!!」
今回の戦い、愛の姿は見えなかった気がするのだが、不屈の努力と連携の勝利ではあるだろう。
かくてセレベス海よりやってきた三機のヘルメットワームは全て撃墜され、タラカン基地はひとまずの無事を得たのであった。