●リプレイ本文
遠来より爆音鳴り響く東南アジアの戦場。赤道近くの初夏の蒼天、第三○六独立大隊を率いる少佐村上顕家からの指令を受け、LHの十人の傭兵からなる第三傭兵分隊が西の草原へと駆けた。膝丈程の緑成す草が風に吹かれて揺れている。
「アッキー大尉――じゃなくて少佐、敵との推定接触時間は解るかしら?」
智久 百合歌(
ga4980)がトランシーバー片手に問いかけた。
「本陣までおよそ二分強ってとこだな」
「それまでに止めろって事ね?」
「そういう事だ。しくじるなよ」
「解ってるわよ。勝ち戦をしてきましょう」
傭兵達は分隊を五つに分けて索敵行動に出た。A1をアグレアーブル(
ga0095)、レカミエ(
ga8579) 、A2を智久、リュウセイ(
ga8181)。B1を伊河 凛(
ga3175)、寿 源次(
ga3427)、B2を西島 百白(
ga2123)、阿木 慧斗(
ga7542)、B3を美海(
ga7630)、アズメリア・カンス(
ga8233)とし、A班を両翼にまわし、B班で中央を固めた。
「例え、隠れていようが見つけるぜ!」
智久とペアを組み、最右翼を固めるリュウセイは探査の眼を発動させ、双眼鏡を用いて索敵を進める。
一方の逆サイド、最左翼を担う犬の獣人少女レカミエはブツブツと作戦内容を復唱し、忘れまいとしていた。
「大丈夫ですか?」
赤髪のアグレアーブルが言った。
「あ、はいっ、よろしくお願いします、アグレアーブルさん」
「こちらこそ宜しく、です」
二人の少女は射撃に備え、ある程度の距離を空けて索敵する。レカミエは磁石で方位を確認しながら進み「戦場では何がおきるかわかりません」と、時折立ち止まって全方位を見渡す。なかなか慎重だ。
一方、中央を固めるB班。
「あまり無茶はしないようにする。宜しく頼むよ」
伊河はペアを組む寿に挨拶をしていた。
「なに、自分がいる限り、怪我の心配は無用。思いっきりやってくれ」
サイエンティストの寿はそう答える。彼は伊河と組める事を光栄に思っていた。
「良いのか?」
「その代わり前は宜しく頼む」
「了解した。期待に負けぬよう最善を尽くそう」
両者は双眼鏡を片手に草原を見渡しながら進む。
B2班、阿木は視界を広く保ち、怪しい箇所を発見したら双眼鏡で確認する、という方法で索敵していた。
(「厳しい戦いになりそうだけれど‥‥必ず護る。その為に僕は力を手に入れた筈だから」)
少年は胸中で呟く。はたして力を証明出来るか否か。
「人型‥‥か‥‥」
阿木と行動を共にする西島は草原を見渡しながら呟いた。思うところがある。人型のキメラ、彼の故郷を襲い、家族を失わせたのも人型のキメラだった。
「ひさびさのがちバトルなのです。キメラなんてブッチラバしてやるのですよ」
物騒な事を言うのは、B3班所属、身長一○八センチ、年の頃十二、三に見える少女、美海である。稚けない外見だが殺意のオーラを迸らせている。そんなアンバランサーな少女はペアを組むアズメリアと共に双眼鏡で索敵を行う。小柄な身長は敵の攻撃を避けるのには向いてるが、周囲をよく見渡すのには厳しいか。グッドラックを発動させ、幸運を世界に願った。
●
しばしの時が流れ、肉眼で視界を広く取っていた阿木がそれを発見する。双眼鏡で確認。岩の肌を持つ鬼が映し出された。距離はおよそ千五百から二千といったところか。
「敵発見。十時の位置です」
さらに周辺を確認、一、二、三、四、五匹、全ている。トランシーバーを用いて仲間達に報告を入れる。
「相手の動きが遅いんだから、しっかりと準備を整えてから行きましょう」
アズメリアが言った。一同はその言に従い迎え撃つべく態勢を整える。
「出来る限りのサポートをします。しっかり叩いてやりましょう」
暗赤の光の翼を広げ、阿木が静かに言った。西島は大剣を抜き放ち、それに頷く。
傭兵達は各自散開し、突出し過ぎぬようある程度の速度を揃えて前進する。
草原に立つ岩鬼達の姿が見える。体長ニメートル程度の岩の肌を持つ鬼。鬼達は接近する傭兵達を見据え、分厚い腕を向けている。
距離が詰まる。九十程度まで接近すると、岩鬼達はそれぞれ一斉に指の先から礫を撃ち出した。
狙う先はアグレアーブル、智久、伊河、西嶋、アズメリアの五名、五cmほどの石の塊が三連射され空を切り裂いて飛ぶ。
アグレーアブル、膝下を輝かせ紅蓮の長髪を靡かせ、側面に回り込むよう疾風の如く駆ける。二発の礫を鮮やかに回避するが、最後の一発が回避機動を鋭く読んで飛んできた。脇腹に一発当たる。鉄球が激突でもしたが如き衝撃に息が詰まった。かなり強烈な一撃だ、足元がふらついた。が、とりあえず撃つには人指し指を向けてくる事を確認した。
智久は獣の皮膚を発動させて外回りに弧を描くように駆けている。素早く駆けて飛来する礫を全弾回避した。速い。
伊河は積極的に前進しつつ、飛来する礫に備え体を左右に振る。礫の一発が唸りをあげて耳元をかすめていった。少し危なかったが全弾回避。
西島、己の方を向いているキメラの射線を外そうとしながら前進する。が、キメラはそれを捕捉、追尾していた。石の弾丸が迫る。避けきれない。三発の礫が次々に男の身に突き刺さる。肋骨が嫌な音を立てた。
アズメリアは思い切り良く加速して進んでいる。弾丸が迫る。一発目が身に直撃する、衝撃が走った。痛みを堪えて身を捻る。続く礫はなんとかかわすが、三発目が再び胴に直撃する。「くっ‥‥!」激痛に表情が歪む。肺から息が漏れた。
四十程まで距離を詰めたリュウセイが腰溜めにギュイターを構えた。全長1337mmの長大さを誇る小銃だ。長い銃身により優れた威力を持つ。
「唸れ ギュイターッ!!」
裂帛の叫びと共に強弾撃を発動させトリガーを引き絞る。狙いは最も右端の岩鬼。SES機関が重い手応えと共に焔の咆哮をあげ、フルオートで弾丸が吐き出される。
「おらおらおらぁっ!」
四十五連の弾丸の嵐が岩鬼へと向かって飛び、岩の皮膚に命中して火花を散らす。岩鬼の皮膚表面が削られ破片が飛んだ。智久を狙っていた岩鬼がリュウセイへと向き直り、その指先から石弾をリュウセイへと発射した。三連射。
リュウセイは自身障壁を発動させ、飛来する礫を撃ち落とすべくギュイターを掃射する。が、礫はプロの野球選手が投擲する球の数倍速く、そしてボールよりも小さい。直径五cm。剛速で飛来するこれを狙って撃ち落とすのはかなりの神業だ。
男は能力者の反射速度と弾幕で対抗する。銃弾の一発が礫に当たる、が、質量差から止まらない。しかし方向は逸れた。初弾はリュウセイの脇をすり抜けて大地に突き刺さり爆砕した。残り二発、すり抜けた。男の身に礫が炸裂し、衝撃が突き抜けてゆく。
「俺は、しぶといぜ‥‥!」
よろめきそうになる身体を激痛を堪えて踏みとどまる。岩鬼の射撃は強烈だった。
三十程度まで間合いを詰めた阿木は練成弱体を発動させようと思ったが、練成治療へと切り替えた。回復を優先させる。西島とリュウセイへと治療を入れる。両者の傷が瞬く間に癒えていった。改めて、西島の進路の先にいる岩鬼を狙って練成弱体を発動させた。特に外見上変化は起こらないので解らないが、恐らく効いた筈だ。
阿木と同様に距離を詰めた寿は伊河へと練成強化を発動させた。伊河の持つ月詠が淡い輝きに包まれる。また伊河の進路上にいる岩鬼へと向けて練成弱体を入れつつ、敵の動きを観察する。
その間に智久が最も右端の岩鬼へと回り込むように迫っていた。リュウセイはそれを見て射撃を中断する。
「便利な玩具は没収よ――命もね」
智久は岩鬼Aの側面を取ると赤妖に輝く太刀を突進の勢いを乗せて振り下ろした。鬼蛍の刃が岩鬼の左手首に炸裂し、表面皮膚が砕けて石片が飛んだ。しかし、硬い。両断とまではいかなかった。反動で跳ね上がった刃を振り上げ再び振り下ろす。岩鬼は手首を引っ込めた。刃が空を切る。岩鬼が向き直る。刃を返して斬り上げる。左腕をかざして受け止めた。甲高い音と共に火花が散る。左のショットガンを右指の先へと突きつける。発砲、至近距離から散弾がまき散らされた。
逆サイド、距離を詰めたレカミエは左端の鬼に対して斜めに駆けながら注意を引くべくS‐01を連射する。三連の銃声が轟き、銀の拳銃から弾丸が飛んだ。岩鬼Eの分厚い肌に甲高い音を立てながら命中する。
岩鬼Eがレカミエへと向き直った、石弾を飛ばす。避けるには少し厳しい、レカミエの脇に石弾が命中し衝撃が身を襲う。バキっと肋骨が嫌な音を立てた。激痛が走る。
その間にアグレアーブルは疾風脚を発動させ左端の鬼へと向かって迫っていた。瞬天速で加速し一気に後背へと回り込む。岩鬼が振り向く。攻撃の方が早い。完全に向き直られるよりも前に、刹那の爪を叩き込む。
「――slowpoke.まだこれから、です」
結構言うようだ。流れるように足の爪とナイフで六連撃を繰り出す。しかし、硬い。岩鬼Eの指先が向く。即座に飛び退き回避運動を取る。二連射。一発、肩先をかすめた。強烈な衝撃に身体がゆらぐ。
伊河、強化された月詠を携え岩鬼Bへと迫る。三連の石弾が迎え撃った。先よりも距離が近い。避けきれない。全弾命中。石の礫が右肩、腹、左腿に炸裂する。それなりに伊河も頑丈だが、敵の破壊力は強烈だ。激痛に視界が揺らぐ。歯を喰いしばって走る。殺らなければ殺られる。
「見敵必殺、だ」
間合いを詰めると、練力を解き放ち肩の繋ぎ目を狙って切っ先を突きこむ。隙間に刃が滑り込んだ。引き斬る。ぎゃり、という音と共に火花が散った。腕の斬り落としを狙ったが、硬い。弱体と強化のおかげで、それなりの打撃は入っているが、腕を落とすまでには至らない。
「――ちっ!」
伊河は舌打ちすると刀身に紅蓮の輝きを発生させ、上段から敵の頭部目がけて落雷の如く打ちこんだ。鈍い手応えと共に刃が弾かれる。が、敵の頭部も少し砕け、破片が飛んだ。
西島は大剣を構え岩鬼Cへと駆ける。
「貴様ら人型を見ていると‥‥存在ごと‥‥消したくなるんでな!」
刀身にエネルギーを極限まで集中させ、横薙ぎに振り払った。空気が逆巻き、草原の草を巻き上げ、音速の衝撃波が飛ぶ。ソニックブームだ。不可視の衝撃が岩鬼の胴へと炸裂し破片を飛ばす。岩鬼が指先を向ける。反撃の礫飛んだ。西島は直撃を受けながらも一気に間合いを詰める。
「貴様らにも‥『地獄』を‥見せてやるよ‥‥」
爆熱の光を両手持ちの大剣に宿して振り上げ、踏み込み、渾身の力を込めて振り下ろす。狙いは手。剛剣が岩鬼の手を強打する。表面が砕け、破片が散った。しかし切断まではいかない。首関節を狙って大剣を薙ぐ。石片が散った。
アズメリアは活性化で傷を癒しながら進む。岩鬼Dから石弾が飛んだ。三発命中。直撃を受けた場所に鈍い痛みが走る。
その間に美海が間合いを詰めていた。
「命とったらーなのです」
両手剣は持って来てないので小太刀を左の逆手に持ち、柄頭に右の掌を当て、それを腰溜めに構えると、レイ・エンチャントと布斬逆刃を発動させて駆ける。岩男Dの側面から肉薄し、体当たりするように紅光を宿す小太刀を突き刺した――が、硬い。むしろ非物理に対する防御の方が圧倒的に高い。光の刃が岩鬼の表面を滑る。
小太刀を右手に持ち替えて斬りつける。三連斬。甲高い音が鳴り、刃と石の皮膚の間で火花が散った。
リュウセイはギュイターで撃つと味方を巻きこむ恐れがあるので背に小銃を収めると片手半剣を抜き放って駆けだした。レカミエも同様にイアリスを構えて走った。
「一体も抜かせない‥‥嫌味言われるもの!」
智久が赤妖の太刀で岩鬼Aへと斬りつけた。破片が飛ぶ。岩鬼の両手は健在のようだ。反撃の弾丸が至近から放たれ次々に女の身に命中する。
アグレアーブルが岩鬼Eへと高速の六連撃を繰り出した。火花の嵐が巻き起こる。E鬼が反撃の礫を飛ばす。三発命中。激痛に目が霞み、足元がふらついた。当ててくる相手は苦手か。
伊河が機敏に動き回りながら淡く輝く月詠で岩鬼Bへと連撃を繰り出す。岩男の頭部が強打されよろめく。岩鬼Bが礫を飛ばす。全弾命中。ごき、と骨が軋む。歯を喰いしばって踏みとどまる。
「『地獄』への片道切符だ‥‥」西島が大剣に爆熱の輝きを宿す「遠慮はいらん受け取れ」大地を揺るがして踏み込み、岩男Cの首元目がけてコンユンクシオを叩き込んだ。轟音が巻き起こり、岩鬼がよろめく、踏みとどまる、反撃三連、礫が西島の身を強打した。
「美海は蝶のように舞い、蜂のように刺すのですよ〜」
美海は小柄さを生かし、岩鬼Dの死角をつくように動き、小太刀による四連撃を繰り出す。鈍い手応えと共に火花が散った。岩鬼Dは斬られながらも美海の姿を捕捉し、指先から三連の礫を連射する。美海は咄嗟に小太刀で初弾を斬り払う。が、残り二発は太刀をすり抜け、少女の身に直撃した。バキッと骨が鳴る。激痛が走った。
「本陣には攻撃させないわよ」
その間に岩鬼Dの後背へと回り込んだアズメリアが月詠に赤光を宿し斬りつけた。両断剣だ。強烈な破壊力を秘めた赤き四連の閃光が岩鬼Dを滅多斬りにし、その体躯を傾がせる。が、踏みとどまった。恐ろしくタフで硬い。
「言った筈だ、傷の事は気にするなと」
寿が言って超機械を発動させ伊河に一重、アグレアーブルに二重に練成治療をかける。
「‥‥敵は手ごわいようですが、無理はしないようにしましょう!」
阿木もまた全体へと声をかけながら西島に一重、美海に二重に練成治療をかけた。治療を受けた四名の身体から痛みがひき、傷が癒えてゆく。
「接近戦だってやれる筈だぜ!」
リュウセイは言いつつ、岩鬼Aへとバスタードソードで斬りかかり智久を援護する。
一方、岩鬼Eの後背へと迫ったレカミエはアグレアーブルと共に頭部と脚部を狙って同時攻撃を仕掛け岩鬼を転倒させる事を試みていた。が、両者ともに一発が軽い。岩鬼の身は揺るがない。
岩鬼は傭兵達の攻撃を受けきると、反撃の礫を飛ばす。
本陣の西の平野で激闘が続いた。
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岩鬼はなかなか倒れず、戦いは長引き、礫は強烈な威力と精度で傭兵達を苦しめた。
しかし二人のサイエンティストの支えの元に一同は粘り強く戦った。やがて、敵が礫を放ってこなくなった。どうやら弾数制限があるらしい。岩鬼は礫攻撃の威力は高かったが、肉弾攻撃はその見た目に反し、小型キメラにも劣る貧弱さであった。
好機を捉えた傭兵達は猛攻撃に出ると、乱打の末に全ての岩鬼を打ち倒したのだった。