タイトル:【AKRT】山奥の秘湯マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/18 19:59

●オープニング本文


 最近少し調子が悪い。
 倦怠感、というのだろうか、全身が重く、時折目眩がする。
「‥‥過労?」
 相良裕子がLHの医者に相談したところそんな事を言われた。十五歳で過労て、と軽くショックを受けているところへ医者はこちらの気持ちを察しているのかいないのか、朗らかに笑いつつ言う。
「練成治癒は便利ですが、やはり人体にとって強引です。人によっては、目に見えぬところで歪みが出ることもあります」
「どうしたら良い‥‥かな?」
「休めばよろしい」
 至極直球なことを御医者様はのたまってくださった。
「うーん‥‥」
「偶には休むことも必要ですよ? 倒れてしまっては元も子もない。聞けば九州軍では大規模作戦の慰労も兼ねて温泉へゆくとか、相良さんも羽を伸ばされてきてはどうです?」
「でも相良、ずっと九州で戦ってたからヨーロッパの作戦には参加してないんだけど‥‥お薬とかでなんとかならないかな?」
「薬は万能ではありません。戦ってた場所が違うから駄目なんてこともないでしょう。素直に湯治してきなさい。あ、そうだ、大分は別府の山奥に私の知り合いがやっている温泉旅館がありましてね。よろしかったらそちらへどうです? 秘湯って奴ですよ」
「別府の秘湯‥‥?」
 前にとある人から別府八湯について聞いた事を思い出す。あの教えてもらったうちのどれかなのだろうか。
「ええ、静かな山奥で森の音に耳を傾け、湯に浸かりながら酒でも一杯やりゃー大抵の疲れなんて瞬く間にふっとびますよ」
「相良未成年‥‥」
「ただ、困ったことがありましてね。その山の周辺に最近熊キメラが出るんですよ、こりゃークマったなんてね」
 ぬぁっはっはっは! と笑って医者。
「クマったって‥‥」
「ああ、でもブルーファントムの相良さんなら熊なんて一撃ですよね! たいした相手じゃあない、こりゃあ楽勝だ! 軽く汗をかいたところで温泉で一休み! 極楽って奴ですな!」
「えーと‥‥」
「その温泉旅館の場所はですね、ああ、そうだ地図があった。ちょっと待ってくださいね」
 ――なんだか話がオートで進んでいるような気がするのは気のせいかな? かな? そんな思いが胸中をかすめる相良裕子十五歳。
「ああ、あったあった、これだこれだ。はい、どうぞ」
「ど、どうも‥‥なんだよ」
「いやー叔父夫婦も――あ、その旅館ていうの私の叔父がやってるんですが、熊キメラには困ってましてね。正規のルートで依頼出すと高くつきますし。これで一安心です、叔父も喜びますよ」
 ははははと爽やかに医者は笑う。
「‥‥決定事項、なの?」
「いや〜‥‥駄目ですかね、やっぱ。熊キメラ、結構暴れてて皆困ってるみたいなんですよ‥‥なんとかなりませんか?」
「‥‥」
 相良裕子は少し考える、
「‥‥‥‥駄目、じゃないけど」
「有難うございます! いやっほう、さすがは相良さんだ! あ、そうだ。お土産に温泉まんじゅうよろしくお願いしますね。二パック程、久々に食べたくなりましてね。そうそう、記念キーホルダーと夜露死苦木刀も余裕があったらお願いします」
「‥‥夜露死苦木刀?」
「ほら、よくあるじゃないですか、土産物屋とかで売られてる奴」
 あるけど、あれを買って何に使うのだろう? と思わないでもない。
「これ差し上げますからお願いしますよ」
「‥‥これは?」
「良く撮れるすぐ撮れる使い捨てカメラです。旅の記念にぱしゃっとね」
「有難う‥‥」
「いえいえ」
「ねぇ先生」
「ん、なんですか相良さん」
「調子が良いとかってよく言われない?」
「はて? まぁ私は医者ですからね、健康管理のスキルはそこそこです。よく医者の不養生とか言いますけど、あんまり調子悪くなった事はありませんな」
 はっはっはとすっとぼけて医者は笑う。
 相良は嘆息すると、
「解ったんだよ、もうっ、先生の調子の良さは今に始まった事じゃないものね。皆に声かけて行ってくるんだよ。必要経費くらいはでるよね?」
 LHの受付で募集すれば何人かは集まってくれる筈だ――多分。
「ええ、報酬も出ますよ。たいした額じゃあありませんけどね。頑張ってきてくださいー」
 医者は相変わらずの笑顔でそんなことを言ったのだった。


●参加者一覧

神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
忌瀬 叶(gb0395
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

 六月の某日、LHのホール。周辺を荒らしているという熊キメラを退治の後、旅館で疲れを癒そう、という主旨で九人の傭兵が集まっていた。
「裕子ちゃん、はじめまして! 俺は企業戦士の蓮沼千影だ。よろしく頼むぜ」
 集まったメンバーの一人、蓮沼千影(ga4090)がにこと笑って言った。
「初めまして‥‥傭兵の相良裕子です。今回はよろしくお願いします、なんだよ」
 相良裕子は蓮沼にぺこりと礼をする。集合したメンバーには各人、知り合い等もおり再会の挨拶や初対面の者に対して自己紹介を行った。
 神無月 紫翠(ga0243)はふと相良の顔をみると、
「裕子さん‥前回の怪我は‥治ったようですが‥‥無理してませんか?」
 先日、相良裕子は重体を負って死にかけていた。そこをLHの傭兵達に救出してもらったのである。神無月はその時のメンバーの一人だ。またノビル・ラグ(ga3704)と葵 コハル(ga3897)もその時のメンバーである。
「無理はしてないつもり‥‥なんだけど」
 少女はやや表情を曇らせ呟いた。訊ねてみると、先日、医者に見てもらった際に過労と診断されたらしい。
「15の身空で疲労〜!?」
 ノビル・ラグが素っ頓狂な声をあげた。
「うぅ、自分でもショックなんだよ」
「‥‥まぁ、毎回毎回激戦区で戦ってるもんなー、疲れも蓄積すっか」
「姉の治療が至らなかったばっかりに、相良さんにはご負担をかけてしまった様で。帰ったら叱っておきますね」
 忌瀬 叶(gb0395)がにっこりと笑いつつ言った。
「と、とんでもないっ」相良裕子は目を見開くと「至らなかったなんてそんな、叶さんのお姉さんは命の恩人なんだよ。過労だっていうのは単に相良の体力が無いだけで‥‥」
「そうですか〜?」と叶。
 それに蓮沼は思案するように顎に手をやり、
「まぁ、体だけじゃなく、心の疲れの可能性もあるしな」
「傭兵業自体がハードだしね」
 葵コハルが言った。
「大規模作戦だけじゃなくて、その前からゴーレムと殴りあったりゴーレムと殴りあったり、もーあたしはクタクタです。そして疲れには温泉が鉄板、裕ちゃんもそう思うでしょー?」
「うん、温泉は疲れが良く取れるんだよ」
 こくりと相良は頷く。
「それじゃ‥‥当日は、さくっとキメラを退治して湯治といこうか‥‥」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が言った。
「賛成ー、旅のしおりは私が作るわね」
 と阿野次 のもじ(ga5480)。
「それじゃ段取りを相談しましょうか」
 平坂 桃香(ga1831)が言った。かくて、傭兵達は日程等を相談すると翌日、九州へと向けて旅立ったのだった。

●ごろごろ女子
 阿野次のもじ配布しおり・綿密なる完璧オペれーしょん=男子は山に熊刈りに、女子は川に心の洗濯に。
 女性陣は一足先に旅館に入り、荷物を降ろして部屋でごろごろとしていた。
「畳だねー、良い匂いー」
 葵コハルが横になって心地良さそうに呟く。
「‥‥い、良いのかな? のんびりしちゃって」
 相良裕子が何処となく落ち着かない様子で言った。
「NONNON♪ 本来なら熊キメラ相手に『絶☆真紅抜刀爪』とか私も必殺技炸裂させたいところ。でも男衆の心意気無駄にしちゃ駄目だよ」
 阿野次は指先を伸ばし頬をぷにぷにとひっぱる。
「わ、いひゃいんだよー」
「まぁ、情報的にもそんな危険な感じじゃないですし、たぶん大丈夫でしょう」
 平坂がくすくすと笑いつつ言う。
「女の子の前でカッコつけたいという男心をわかってあげるのも乙女の勤めですからね!」
「‥‥そんなものなのかな?」
 頬をさすりつつ小首を傾げて相良。
「そんなものなのです」平坂が頷く「まぁ、帰ってきたらねぎらいの意味も込めて救急キットで治療してあげましょう。あと牛乳ぐらいなら奢っても良いかも」

●少し前
「実は一つ、提案があるんだが――」
 現地へ赴く時、蓮沼千影は男性陣だけでの熊キメラ退治を提案していた。
「そうですね。相良さんの手を煩わせたくないのですよ」
 忌瀬が頷く。一見チャイナドレスを着込んだ美人だが男だったりする。
「過労で療養に来たのにそこでも働くなんて体によろしくないですよね」
 平坂もまた頷いた。他の一同も蓮沼の提案に同意を示す。かくて男性陣だけでの熊退治となったのだった。
 一同は旅館や近隣の人にキメラの出没場所や数を聞き込んで、大体の当たりをつけると、
「熊キメラ位、俺達に任せときな! 裕子は大船に乗ったつもりで、ゆっくり休んでろ」
 旅館の前、ノビル・ラグが相良に言っている。その陰でユーリが女性陣に囁いていた。
「何としてでもまったりモードに引きずり込むんだ。絶対にこっちには来させないように!」
 その言葉に葵コハルが頷く。
「了解です。それじゃあ、熊退治はお願いしちゃいますね」
「ええ、力仕事は男の仕事です。任せておいてください」
 神無月が請け負った。彼も一見女性に見えがちだが男である。かくて男性陣が熊退治に出発する。
「さて、情報では数は一匹だけという話ですが‥‥?」
 男達は、探査の目を持つユーリと忌瀬を先頭に山の調査を進めたのだった。
 

 数時間後、探索の末に男性陣は山の中で熊キメラを発見する。
「フフ、綺麗に片づけて、やろうじゃないか。援護してやるが、自分の身は、自分で守れ」
 覚醒した神無月が和弓に矢を番えて撃ち放ち、ノビル・ラグは突撃銃を構え発砲する。
「これで女子に援軍を! ってことになったらカッコワリィぜ‥‥!」
 飛び道具を追いかけるように蓮沼が練力を全開にして突っ込み、ユーリもまた二刀も携えて突撃する。忌瀬は刀と扇子を手に熊へと迫った。
 咆哮をあげて大熊が二本足で立ち、剛腕を振り上げる。山中で五人の男達と熊キメラが激突した。
 

 結果から述べるならば、男達の総攻撃により熊キメラはあっさりと一瞬で解体された。熟練の戦士が多い、さしものキメラも五対一では耐えられる訳もない。かくて一仕事終えた男達は旅館に帰還し温泉に浸かって疲れを癒す事にした。
「あ〜〜〜体の疲れ、癒されるぜ‥‥」
 煌々と輝く満月の元、湯船に盆を浮かべ、蓮沼は猪口を口元に運び呷る。熱い湯に浸かりながら良く冷えた清酒を呑む。辛口の酒が喉を焼き、食道を滑り、胃まで落ちてゆく。
「く〜〜〜っ! 効くなァ。未成年組もよかったら日本情緒予行練習、どうだ?」
 三十路目前、蓮沼千影は至福の表情を浮かべ、盆に並べた瓶の一つを手にとって振ってみせる。
「良いんですか?」
 胸元までタオルを巻いた姿で叶が首傾げる。
「ああ、こっちの中身はリンゴジュースだから」
「‥‥ジュースかよっ」
 ユーリが淡々とツッコミを入れる。
「実物飲んだら予行じゃないだろう?」
 蓮沼がニヤっと笑う。男達が漫才をやっていると薄闇の彼方からきゃっきゃと女性陣がやってきた。
「聞いてはいたけど‥‥何で素っ裸の男女が一緒に風呂に入らにゃならんのだ? に、日本人の考える事って、良く判らんっっ!」
 ノビル・ラグが言ってぶくぶくと顔の半ばまで湯船に沈める。少年の様を見て蓮沼がはははと笑い声をあげた。
「流石にタオルは巻いてるみたいですけどね」
 猪口を片手に日本酒で一杯やりつつ、のんびりと神無月が言う。
「さっきぶりー、よろしくやってるみたいねっ」
 やってきた阿野次が片手をあげて言った。
「月を眺めながら一杯、良いものですね?」
「大人の特権って奴だな」
 神無月が言い蓮沼がうんうんと頷いている。
「酔っ払い達めー」
「林檎ジュースならあるぞ、こっち来て飲むか?」
「アリガト、それじゃ、身体洗ったら行くわね。それまで男子はこっち見ないこと!」
「了解ー」
 そんな調子でのんびりと時が過ぎてゆく。
「髪の毛キレーイ‥‥あたしも伸ばしてみよっカナー?」
 葵が相良の背中を洗いながら言った。
「有難う‥‥それはきっと海産物効果‥‥」
 曰く、お母さんがお味噌汁よく作るからとの事。
「そ、そうなんだ?」
 ざぱーと手桶で相良の背に湯をかけつつ葵。それだけで髪が綺麗になるなら世の女は苦労しないのでは、などと思う所である。
「コハルちゃんなら伸ばしても似合うと思うんだよ。でもショートが一番合ってそうな気もするんだよ」
「んー、でも、偶には変えてみたくなったりしない?」
「‥‥普通は、なるのかな?」
 相良はくるりと向きを変え葵の背を洗いつつ言う。相良裕子、あまり外見には頓着しない性格らしい。
 一方、湯煙と月下の蒼闇の中、平坂桃香は思っていた。
(「誰かアレなハプニングでも起こしませんかねー」)
 と、ちょっと期待だ。洗い終わった頭に湯をかぶって、長い黒髪をふるふると振りつつ手拭で拭いて立ち上がる。振り向いて一歩足を踏み出す。するっと足元が滑る。何か踏んだ。さっき使った石鹸だ。
「え」
 視界が流れる。身体が傾く。悲鳴が口から洩れる。が、そこは熟練のグラップラー、体を捌いてぎりぎりで態勢を立て直し、転倒を避ける。
「どうした?」
 男性陣から声が飛んでくる。
「な、なんでもないです」
 はだけかけたタオルの前を抑えつつ、心臓を抑えて呟く。気をつけよう、うん。


「イェイー☆」
 阿野次のもじ、すらっとした手足を伸ばし温泉水泳を慣行中。
「わ、泳ぐなっ!」
 ノビル・ラグが叫ぶ。
「タオル巻いてるから多少暴れても大丈夫!」
「そういう問題かッ!!」
 大分、騒がし気味になった湯の中、葵コハルは縁に背を預け頭に手拭を乗せている。
「温泉は日本の宝だよねー、極楽ごくらくー♪」
「ごくらくー‥‥」
 相良は上気した頬で湯の中に手足を伸ばしている。
「本当に疲れが取れますねー」
 平坂がふぅ、と息を吐きつつ呟く。
 そんな女性陣の様子を叶はちらりと見やる。月光を浴びて薄闇に浮かび上がる女達の白い肌が艶めかしい。見てはいけないような、見たいような。
 その肩にぽんと手が置かれる。
「‥‥気になる?」
 振り返るとそこにユーリ・ヴェルトライゼンが居た。クールな表情は相変わらずだが、どことなく眼が笑っているような、いないような。
「‥‥お、俺も一応、年頃の男の子ですから!」
 見た目美人だが忌瀬叶もY染色体の落とし子である。
「綺麗なもんだな。状況的効果というか‥‥」うーん、と酒を呷りつつ蓮沼「くっ、彼女と来れれば‥‥!」
「来れれば? ‥‥蓮沼さん?」
 神無月はひらひらと蓮沼の目の前で手をふってみる。蓮沼、遠くを見ている。愛しの君は今何処か。


「目指せ154cm!」
 風呂上がり、浴衣姿の阿野次のもじが言って牛乳瓶に口付ける。
「‥‥くーッ! この為に生きてるーっ!」
 同様にノビル・ラグが浴衣姿で牛乳を一気飲みして感嘆の息を洩らした。髪を解いたユーリも浴衣に扇子姿でコーヒー牛乳を飲んでいる。基本、らしい。ちなみに男性陣のものは平坂の奢りだそうだ。
 一息ついた所で一同は置かれた卓球台の前に群がる。
「さぁ男女卓球だ! あたしはD仮面様との最強コンビね!」
 蓮沼とペアを組む阿野次が言った。
「よーし、やってやろーぜ、のもじちゃん!」
 浴衣の袖をまくり蓮沼が言う。
「ノビルくん、やるからには勝ちに行くよ!」
 葵が闘志を燃やして言う。
「OKコハル、スナイパーの底力、見せてやるぜ!」
 ラケットを構えてノビル・ラグ。
 ユーリがスコアを持って中央に立ち、試合が始まったのだった。

「回転サーーブッ!」
 蓮沼がピンポン球を宙へと放り投げ鋭くスピンをかけたサーブを放つ。
「必殺打球! 烈風弾!!」
 攻防の末にチャンスボールがくれば葵が鋭く踏み込んで打ち込み、
「ムーン(中略)あったーく」
 阿野次が月的中略アタックを仕掛け、
「うおぉぉおおっっ! 唸れっっ 必殺のファイヤースマッシュ!!」
 ノビル・ラグが渾身の力を込めて強打する。
「‥‥‥‥ここ、何処のオリンピック会場?」
 激しく飛びまわるピンポン球の行方を追いつつぱらぱらとスコアボードをめくってゆくユーリ。
 両組の実力は伯仲しており、デュースに次ぐデュースで、なかなか決着がつかなかった。総合的に見て打球の正確性では葵、ノビル組に分があったが、持久力と敏捷性では蓮沼、阿野次組が勝っていた。激戦の末、勝利を収めたのは蓮沼、阿野次組であったのだった。

 軽く汗をかいた後に一同は大部屋へゆき夕食を取る。
「良い汗かいた後に美味しいご飯、もー言う事ナシだねぇ」
 などと言いつつ葵コハルは、御代りしつつぱくぱくと平らげた。叶も好き嫌いはないらしく箸をさくさくと進めている。
「美味しかったです‥‥」
 腹をさすりつつ言う、満腹である。
 さらに時は流れて女性陣の部屋、
「体に歪み? 筋がゆがんでいるって言われたの? なら、こないだ東南アジアいったとき修得したタイ式マッサージがうってつけ。出番だわ」
 阿野次が満面の笑みを浮かべて相良裕子に言った。
「ふふふ、任せて、葵ちゃんにもさっきやってあげたし」
 なお葵コハルは布団の上にうつ伏せに倒れている。動かない。
「‥‥さ、相良はちょっと急用を思い出したんだよっ」
 少女は身を捻り後方を向く、にゅっと伸びた腕がその肩を掴んだ。
「何故逃げる」
 キラーンと阿野次の目が光る。
「ひ‥‥ひーっ!」
 BFにパロS、というのは果たしてマッサージなのか。少女の悲鳴がその部屋から響いたという。


 夜が明け、朝が来た。
「ふぁ」
 平坂が欠伸を洩らした。女性陣、寝る前に恋話に華を咲かせていたらしく眠そうだ。一同は旅の締めくくりにと旅館で土産物を購入した。
「そういえば、あいつ誕生日だったな‥‥」
 ユーリは呟きつつ饅頭を手に取る。一方、ノビル・ラグは購入したキーホルダーの一つを相良に渡した。
「ほら? 俺等って修学旅行とか、中々行け無ぇだろ? その代わりっつーか‥‥俺一人で修学旅行気分ってのも寂しいんで、思い出共有っつーの?」
 その言葉に少女は目をぱちくりとしていたが、
「有難う」
 キーホルダーを受け取ると、そう言って笑った。
「笑顔こそビクトリー(勝利条件)皆で写真撮るべし」
 阿野次が言った。相良は売店の婦人に頼んで医者にもらったカメラで撮ってもらう事にした。
 旅館の前に九人の傭兵達が各々ポーズを取って並ぶ、
「はい、チーズ」
 婦人は微笑んでシャッターを切った。相良は礼を言ってカメラを受け取る。
「あ、裕子ちゃん! 写真の焼き増しよろしく」
「了解なんだよ」
 蓮沼の言葉に相良は頷く。この報告書が上がる頃には郵送されている事だろう。アイテム化はされないのが残念だが。
「皆さん‥いい思い出が‥できたみたいですね? とりあえず疲れは‥取れましたね?」
 神無月が言った。
「ばっちりー」
 葵コハルが笑って言い、相良もまたこくこくと頷く。
「楽しかったぜ!」蓮沼が言った「またこうやってゆっくりしに来たいぜ♪」
「そうですね、またこういった機会を持てれば良いのですが」
 叶が頷いて言った。
 かくて一同は旅館を後にし、それぞれの日常の中へと帰還して行ったのだった。