●リプレイ本文
激戦が続くベオグラード東部、連隊長からの指令を受け十機のKVが北東のA道へと向かっていた。
「さぁ、行こう‥ボクの王子様‥‥」
揺れるコクピットの中、月森 花(
ga0053)が愛機S‐01に向かって呟いた。
「っと、こんなこと宗太郎クンに聞かれたら何て言われるかな」
苦笑する。ちらりと後方を見やる。彼女が愛する男が駆るLM‐01が後方からついてきていた。
「大丈夫‥‥彼には勝利の女神がついてる」
少し早いが月森は覚醒する。瞳が金色に変わり感情の波が治まり意識が刃物のように鋭くなってゆくのが解った。
(「ベオグラードも‥‥大切な人も、護りきってみせる」)
一方のLM‐01を駆る宗太郎=シルエイト(
ga4261)もまた胸中で呟いていた。
(「だから、今度は最後まで戦い抜こう。スクレイパー‥‥!」)
魔天楼の名を持つKVが応えるように駆動音を唸らせる。果たして彼等の決意はこの戦場において結果を残せるか否か。
「ふむ‥‥ベオグラードは戦いが多く起きる場所と聞きますが。やはり今回も、ですか」
無線から鋼 蒼志(
ga0165)の声が流れ、各機に響いた。
「歴史では往々にして突破されるベオグラード攻防戦ですが‥‥」
白都と呼ばれるこの街は、悠久の時の中で、幾度となく戦火に晒されてきた。鋼曰く、その戦いの多くが守備側の敗北に終わっているのだという。
「ですが、今回は守り抜きましょう」
「ええ」
K‐111を駆る雪野 氷冥(
ga0216)が答えた。
「戦うからには勝つ。騎士の一撃というものは、そのためにあるのだから」
「そうですね」
雪野と同型の機体に搭乗する比良坂 和泉(
ga6549)が頷いた。
「この機体、かなりの暴れ馬ですが‥‥乗りこなして勝利をもぎ取って見せますよ」
比良坂の方はK‐111で出るのはこれが初となる。銀河重工のそれらと並ぶくらいカプロイア社のK‐111も尖った機体だった。
「くっくっく‥‥自分もそろそろ新機体が欲しいと思っていた所です、丁度良い機会かもしれませんね。そのお披露目の舞台としても」
ワイバーンのコクピットの中、眼鏡を妖しく光らせつつ玖堂 鷹秀(
ga5346)が笑う。
「しかし、すごいな、皆の機体は‥‥改造されてるのがよく分かるぜ」
リュウセイ(
ga8181)が感嘆を込めて呟いた。その言葉にディアブロのコクピットの中で顎髭を蓄えた壮年の男が口元に笑みを引いた。飯島 修司(
ga7951)だ。
「つくづく彼らも運が無い。猛者揃いもいいとこですよ、この部隊は」
飯島は確信していた。このメンバーならば、敵の勝機は万に一つもないと――運命の女神はどちらに微笑むか。
「必ず皆殺しにしてやる」
黄金の龍人、九条・運(
ga4694)が殺意の焔を瞳に宿して言った。連隊より敵の内訳を知らされた時、彼が放った第一声は「おのれ‥‥よりによって‥‥よりによって量産型だと!?」であった。
「畜生! 黄金のドラゴニアンだと?! 連中どういう了見で量産しやがった!」
九条はこの間の一件が有ったから可能性は考慮していたが出来れば実現して欲しくなかった。何故なら、
「まるで俺が量産されてるみたいじゃないか! 一山幾らの雑魚として!!」
コストに対する性能が良いから量産化されたと思うのだが、どうやらそれが龍人の逆鱗に触れたらしい。
「許せねえ! 必ず皆殺しにしてやる! 翼の無い幼竜にバリバリの成龍である俺が負けてたまるか!」
「なんだかデジャヴを感じるのぅ」
ブジャノヴァクで九条と共にバグア軍と戦った藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が呟いた。
「そういえば、奇しくも、マケドニアを突破した際と同じ戦力じゃな」
南方の陣地戦でもドラゴニアン五匹とゴーレムの編成だった。もっともあの時の竜人は金色ではなかったが。
「敵は強化されている‥‥じゃが、それはこちらも同じ」
ベオグラードの西では藍紗の恋人も奮闘している。藍紗も負けてはいられなかった。
「必ずここで侵攻を阻止し、殲滅してくれる」
少女は決意を込めて呟き、加速する。SES機関が咆哮をあげ、風の如く十機のKVが街を駆け抜けて行った。
●
傭兵達は二機一組のペアを組むと九条、鋼組を道の前衛にその北方の平地にリュウセイ、飯島組を、道上十m西にさがった所に藍紗、花組を配置する。九条、鋼組より十m南東の街部にシルエイト、玖堂機を伏せ、さらにその十m東に比良坂、雪野組みを伏せる形を取った。伏兵による奇襲を狙ったのである。
東の彼方に黄金の輝きが見えた。体長七mを越える巨大な竜人の群れ。剣と楯を構えて突進してくる。その奥に赤いゴーレムの姿が見えた。
「――夜‥‥我を護ってくれ」
藍紗は左手の薬指に嵌めた指輪に軽く口付けて呟く。
射程に入るよりも前、ゴーレムが竜の咆哮が如き轟音を発した。その音と共に竜人達が道を逸れ、北の平地へと流れた。河沿いを進み、距離を詰めてくる。
「突破はさせんよ。俺達が鋼鉄の盾としてここを守っている限りは、な」
覚醒した鋼がコクピットの中呟く。限界射程からスナイパーライフルで射撃しつつ北への平野へと移動する。九条機がそれに続き、リュウセイ機と飯島機は河沿いまであがった。
「これより先、あなた方が踏むのは白都の土ではなく‥‥冥府の泥のみと教えて差し上げます」
前進してくるバグア軍に向け。飯島もまた長距離バルカンで攻撃を開始した。最も北のドラゴニアンを狙い弾丸の雨を飛ばす。一五○程度まで距離が詰まったところで藍紗機はM‐12帯電粒子加速砲を構えた。藍紗は考える。この機体の精度ならこの距離でも当てられるだろうか? 解らない。が、白兵戦になったら誤射を避ける限りは使えぬ代物だ。
藍紗は意を決して解き放った。凄まじいまでの破壊力を秘めた二連の爆光が宙を焼き切って黄金のドラゴニアンへと伸びる。SESエンハンサーによりさらに威力を増した光の洪水は竜人の一匹を呑み込み、そして消し飛ばした。黄金竜だった何かが平野の上にばら撒かれる。
残りの竜人達はそれでも怯まず河沿いを飯島、リュウセイから見て百程度まで距離を詰めてくる。ゴーレムは止まらず、平地を目指し南西へと駆ける。鋼機の放ったライフル弾の一発が竜人の一匹に命中した。飯島は20mmバルカンに切り替えた。バルカン、というと威力が低い印象があるが、飯島機から放たれるそれは強烈な破壊力を秘めている。おまけに飯島機はありえない程速かった。ディアブロにも関わらずスタビライザーを発動させているが如き勢いで弾幕の嵐を張る。猛烈な勢いで飛ぶ弾丸が黄金竜に突き刺さり、次々に鮮血を噴き上げさせる。
「男は黙って滑空砲っ! そうりゃっ!」
リュウセイ機が高初速滑腔砲を撃ち放った。爆音と共に三連の砲弾が宙を切り裂いて飛ぶ。竜人は身を屈めつつ素早く踏み込み、砲弾の嵐を掻い潜った。竜人の背後の地面が爆砕する。
四匹の黄金竜人の顎が開かれる。荒れ狂う雷光の帯が解き放たれた。飯島機に九連、リュウセイ機に三連の光が飛ぶ。飯島機は素早く機動し悉くをかわす。リュウセイ機は初撃を回避し損ね爆雷の直撃を受ける。コクピットに激震が走り、R‐01の装甲が吹き飛ばされてゆく。
「っなろ!」
それでもリュウセイは明滅する光の奔流の中より、素早く機体をスライドさせて脱出し、続く二条の閃光を回避する。
月森は突進してくるゴーレムを射程に捉えるとブレス・ノウを発動させた。まずは竜人を狙いたかったが、そちらは射程外だ。ゴーレムが突っ込んでくるのをただ見ている訳にもいかない。狙いを定めリロードしつつリニア砲を連射する。九条機はゴーレムへと向けて九連のレーザー砲を猛射し、藍紗機もまたエンハンサーを発動させレーザー砲を撃ち放つ。
ゴーレムが加速する。素早く機体を左右にふって、飛来するリニア砲の砲弾を回避し、三連のレーザー砲を回避し、残りの十五連の閃光に呑み込まれた。爆光の嵐がゴーレムに炸裂し装甲を次々に吹き飛ばしてゆく。
四十程度まで間合いを詰めたゴーレムは藍紗機と月森機の間の地面を目がけてグレネードランチャーを撃ち放った。大地に砲弾が炸裂して炎が膨れ上がり、周囲に爆風を巻き起こす。藍紗機と月森機が熱波に包みこまれた。
九条、鋼、リュウセイ、飯島、藍紗、月森の六機は装輪走行でバックし後退する。竜人が前進し、ゴーレムが加速し藍紗機めがけて突撃する。鋼機が後退しながら間に立ち塞がった。烈風の如く振るわれる大剣がバイパーへと襲いかかる。閃光のような連撃。轟音を巻き起こして、頑強な筈の鋼機の装甲が瞬く間に削り取られてゆく。並のKVなら一瞬で破壊されているところだ。
一団が西へと進んだところで、その後方の市街地より四機のKVが飛び出した。
実際の所、ゴーレムは重力波で敵の位置を感知するので姿を隠していても市街部に四機のKVらしき質量が存在しているのは解っていた。動いていないので確信はできないが怪しい。故に警戒していた。が、悲しいかな、街の大きな道はともかく、細かい道までは把握していなく、ゴーレムの飛び道具は使いきりのグレネードだけであり、率いているのはキメラで複雑な命令は遂行できない。行くしかなかったのだ。
キメラが予測より北に動いているので完璧ではなかったが、傭兵達はバグア軍の前後を挟んだ。
「いくぜ成金ドラゴンども! パーティーの始まりだ!」
シルエイトが叫び、駆ける。時が到来した。
「ガチンコだけじゃねぇぜ? 人サマの戦術ってモンを教えてやるぜ」
玖堂はA道上に出るとガンサイトに最も南側の竜人を収める。さらに照準を絞る。狙いは黄金の鱗に包まれた左の脚。玖堂は精密に狙いを定めると発射ボタンを叩きつけるように押し込んだ。ワイバーンのSES機関が唸りをあげリニア砲・羅候からエネルギーが膨れ上がる。轟音と共に巨大な砲弾が飛んだ。衝撃波を巻き起こして飛び左後方より竜人の足に炸裂、一撃の元に粉砕する。
さらに転倒した竜人めがけて雪野機が突進し機槍をその背に突き降ろした。大地と竜人を挟み込み串刺しにする。ロンゴミニアトの切っ先から火炎が漏れた。凄まじい爆裂が巻き起こり竜人の身が弾け大穴があく。
振り向いた竜人の一匹めがけて比良坂機が肉薄し巨大なチェーンソーを繰り出した。甲高い音を立てて駆動する刃が竜人の鱗を抉り斬り、鮮血を噴き上げさせる。
よろめく竜人へシルエイト機が突進しロンゴミニアトを叩き込んだ。切っ先が黄金の鱗を突き破る。瞬後、その先端から炎が膨れ上がり竜人の身を体内から爆散させる。機槍を携えた二機は圧倒的な破壊力をまき散らした。
一方、ゴーレムの猛攻を耐えきった鋼機は、ブーストスタビライザーを発動させ反撃に出ていた。
「鉄人穿つはバイコーン、てな。いくぞ――穿ち貫く!」
バイパーが地響きをあげて踏み込み、腕部をドリルへと変化させ突き出す。ゴーレムは大剣で打ち払って避けた。鋼機は機体を捌いて衝撃を流すと、脚部をドリルへと変化させ竜巻の如く蹴りを放つ。ゴーレムが身をかわそうと動く。が、LM‐01の支援を受けている鋼機の攻撃は速く、精密だった。激しく回転する先端がゴーレムの胴を捉えた。甲高い音を巻き起こしながら装甲を突き破り、さらに押し込んで抉り、抉り抜く。ドリルの切っ先がゴーレムの背までを貫通した。引きぬく。赤ゴーレムから茨の如き雷電が漏れ、連続して爆発を巻き起こした。赤いゴーレムがよろめき倒れてゆく。
包囲状態では誤射が怖い。敵が倒れた時や、敵に回避された時、その向こうに立っている味方に当たる。月森機はハイ・ディフェンダーを、九条機はソニック・ブレードを、飯島機はロンゴミニアトを構えて駆けだす。藍紗はワイヤーを、リュウセイはブレイク・ホークを引き抜き、玖堂はヒートディフェンダーを携え一斉に押し寄せる。
「このまま押し切りますよ!」
比良坂機は竜人に肉薄し金曜日の悪夢で斬りかかった。チェーンソーが唸りをあげ、その身を削り切る。竜は鮮血を噴き上げながら倒れた。
シルエイト機もまた別の竜人へと機槍を突き刺しトリガーを引く。爆裂三連、凄まじい破壊の炎が膨れ上がり黄金竜の身を爆砕した。竜人は半身を爆ぜ飛ばされて宙を舞う。
最後の竜人へは雪野機がロンゴミニアトをその眼前で空打ちし怯ませた所を、側面に回り込んで突き刺し、火炎を爆裂させて消し飛ばしたのだった。
かくてA道上より突破を狙ったゴーレムの一団は撃滅された。連隊長のノエルは傭兵隊に余力有りと見て前進を命ずる。北側を突破した傭兵達は河沿いを南下して圧力をかけ、連隊はそれに呼応しついに東側のバグアを潰走へと追いやったのだった。
飯島は連隊を見る。東側のバグア軍は潰走したが、ベオグラードにはまだ敵の部隊が押し寄せている。連隊の部隊の幾つかが火器を手に爆音の鳴り響く道を駆け抜けてゆく。
その顔にはどれも疲労の色が濃かったが、士気は高いように見えた。全体の勝敗はまだ解らないが、順調であると飯島には思えたのだった。