タイトル:【PN】北西の防衛戦マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/15 21:45

●オープニング本文


 イタリア半島での戦いはUPC軍の勝利に終わったかもしれない。だがバルカン半島では未だ激戦が続いていた。
 セルビア軍に所属していたジーク師団はセルビア南部のブジャノヴァクの戦いにおいてマケドニア・バグア軍の大軍を撃破殲滅し、E75を下ってきたバグア軍団も叩き潰し、ブルガリアの首都ソフィアへの撤退を成功させていた。
 ジーク師団、死神大佐と渾名されるエゼキエル・ジークが率いる精鋭部隊である。
 ジーク師団はソフィアを守るUPC軍と合流すると、満足な休息を取る間もなく同都市の北西の守りについた。セルビア方面からE80を下りバグア軍が押し寄せてきていたからである。
 ソフィアの北西に展開したジーク師団は再びバグア軍と激突し、激闘を繰り広げていた。


「撃て撃て撃て撃てーーーッ!!」
 ジーク師団の小隊長が号令を発する。戦線の一画、歩兵達が構える無反動砲から一斉に砲弾が飛びだし、爆炎の華を咲き乱れさせた。
「だ、駄目ですっ! 『黒騎士』止まりませんっ!」
 爆炎を裂いて黒い甲冑に身を包んだ一団が盾と剣を構えて突進してくる。人間のようにも見えるが体長三メートルを超える人間なんてものはそうはいないだろう。キメラだ。
「ここを抜かれる訳にはいかんのだッ! 何としてでも止めろッ!!」
 小隊長が激を飛ばし、歩兵達は小銃を乱射する。だが砲で止められなかった連中が銃弾で止まる筈もない。楯で銃弾の嵐を弾き飛ばしつつ、みるみるうちに迫ってくる。
「く‥‥くそっ!」
「隊長!」
 通信兵が言った。
「なんだっ?!」
「大隊長より、援軍として傭兵隊を繰り出した、との事! あと三分ほどで到着するそうです!」
「そうか!」
 隊長が歓喜の声をあげ――そして顔を曇らせた。
「‥‥だが、少しばかり遅かったようだな」
 黒騎士の一団は眼前にまで迫っていた。
「だがそれでも、ここを抜かれる訳にはいかんのだッ!!」
 手榴弾を引き抜き隊長が吠えた。
「貴様等ーーーッ! 死神師団の一員ならば意地を見せろ! 傭兵隊が来るまでなんとしてもここで足止めするんだッ!!」
「オオッ!!」
 かくて兵士達は戦い、キメラの進行速度を遅らせる。
 その小隊の兵が一兵残らず血の海に沈んだ時、南東より傭兵隊が到着した。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
ゼシュト・ユラファス(ga8555
30歳・♂・DF

●リプレイ本文

 ソフィア北西の防衛戦線、ジーク師団の陣から最前線へとLHの傭兵達が送り出されようとしていた。
「大隊長、煙幕をいただけませんか?」
 大隊の天幕の中、叢雲(ga2494)が言った。
「煙幕?」
「お願いします。煙幕は成功の重要な一手なんです。ここで出し渋って仲間を無駄死にさせるか、私達に賭けて仲間を助けるか。良く考えて下さい」
「解った」士官は即断した「ならば兵器庫から持ってゆけ。必ず救援しろ」
 武器弾薬が置かれている天幕へと赴き、発煙筒を譲り受けた傭兵達は作戦を打ち合わせ北西へと走った。
「大気が張りつめている‥‥香ばしいな、これぞ火薬庫といった処か」
 地を駆けながら、ふん、と鼻を鳴らしゼシュト・ユラファス(ga8555)が呟いた。悪くない、男はそう思う。
「今回は時間との戦いですね‥‥迅速に事を成すとしましょう」
 鳴神 伊織(ga0421)もまた駆けながら言った。
「迅速かつ確実性が大事ですわね」
 ロジー・ビィ(ga1031)が頷いて言う。
「黒騎士‥‥どれ程、強いのでしょう」
 鳴神は呟き手を添えている腰に佩いた太刀へと視線をやる。この黒刀は敵に通用するかどうか。
 傭兵達は北西へと駆け件の陣の百m南東まで近づいた。しかしその時には既に、五体の黒騎士によって小隊の兵士達は皆殺しにされていた。遠目にも既に立っている者がいないのが解る。
「間に合わなかったか‥‥!」
 藤村 瑠亥(ga3862)が無念の声をあげる。
「‥‥大隊長も、もっと早く呼んでよね。死神が血の海に沈む前に敵軍を昇天させたのに」
 藤田あやこ(ga0204)が呟いた。
「‥‥クソッ!」アンドレアス・ラーセン(ga6523)が歯噛みした「全力で援護してやる。一匹だって通さねぇぞコラァァァ!」
 アンドレアスは左から順に敵にナンバーをふり仲間達に知らせる。
「闇よ‥‥我が求める仮面の形を成せ‥‥」
 漸 王零(ga2930)が覚醒し体から黒銀の闇を発し始める。他の一同もまた一斉に覚醒し戦闘態勢へと入った。
 この時、傭兵達は班を分けてバグア軍に当たった。大まかには囮班と主力班の二つであり、主力班はさらに攻撃と牽制の二つに分かれる。
 覚醒後、まず囮班の藤村、鳴神、不知火真琴(ga7201) が敵との間――およそ、五十m付近へと発煙筒を着火し投擲した。中心から左右におよそ十五mづつの間隔で転がす。瞬間的に煙幕が広がった。
 この発煙筒は無風状態の場合、煙幕はおよそ半径十五mに広がる。三つで南西から北東へ九十mの煙の壁を作る事になる。しかし今日は西風が強い。煙は西から押され気味に広がり、風に吹かれ東へと流れゆく。
 その間、五体の騎士達は傭兵達の姿を確認し南東へと向かって駆けていた。が、煙が展開するのを見て、煙幕からおよそ三十m地点で足を止め、盾と槍を構える。
 囮班の鳴神、藤村、不知火は進路を西北西へと取り駆ける。一拍遅れて主力組、藤田、ロジー、叢雲、漸、緋沼 京夜(ga6138)、アンドレアス、ゼシュトの七人が北北西寄りに前進を開始する。足並みを揃える関係上、全力では移動しない。アンドレアスは漸に錬成強化をかけつつ進む。煙幕がスクリーンになっているので互いに敵の姿が確認できない。
 黒騎士達は楯と槍を構えて出てくる敵を待ち受けている。囮班は少し速度を上げ煙幕の中に入る。主力は煙幕の手前まで前進する。アンドレアスが緋村へと練成強化をかけた。
 煙幕が薄れ強風に吹かれ東へと流れてゆく。囮班はキメラの位置を確認し、その左側面の地点まで駆けようとする。五体の黒騎士が囮班を狙って駆け出す。
 主力班のメンバーの位置からはまだ煙幕の残滓が残っている。囮班は攻撃を仕掛けただろうか? 視覚では解らない。聴覚、至近からの銃声はまだ聞こえない。主力組は囮班の攻撃を待ち待機。アンドレアスは叢雲、ゼシュト、ロジーに練成強化をかけた。
 不知火は足を止め、向かってくる黒騎士達へと腰溜めにSMGを構えると狙いをつける。前をゆく藤村と鳴神の背に当てぬよう端のキメラを狙い引き鉄をひく。SMGが駆動し、激しいマズルフラッシュと共に弾丸の嵐を吐き出した。黒騎士Dがかざす盾に次々に銃弾が命中し火花を散らす。
 藤村は最北の黒騎士A目がけて瞬天速で突っ込み間合いを潰すと、体長三mを超える鎧の化物の脇の隙間を狙い突きを放つ。黒騎士は盾をかざしてそれを受け流す。切っ先が盾の表面を滑り火花が散った。
(「守りが硬いか‥‥!」)
 胸中で呟きつつ、連撃を仕掛ける。当てる事を重視して盾を避けるように剣を振るう。鎧に刃が当たり、剣を握る手に鈍い手応えが伝わる。横合いから騎士Bが藤村へと間合いを詰めた。男の頭部を狙い剛剣を振り降ろす。藤村は咄嗟に身を逸らせて刃をかわす。
 黒騎士Aが藤村の頭部を狙い剣を振り下ろす。後退しつつ咄嗟に小盾をかざして受け止める。ハンマーで強打されたが如き衝撃が腕を貫いてゆく。
 黒騎士Cは間合いを詰めてきた鳴神へと向けて剣を振り下ろす。鳴神は剛剣の側面を月詠で打ち払って逸らせると、一歩踏み込み紅蓮の光を巻き起こして斬りかかる。真紅に輝く黒刀が黒騎士の装甲を斬り裂き、猛連撃が鎧を強打し窪ませる。鳴神は鎧の塊がよろめいたのを見ると練力を全開にし、月詠を逆袈裟に振り抜いた。烈閃が騎士の鎧を断ち、生じた音速波がその巨体を吹き飛ばす。轟音をあげて黒騎士キメラが大地に転がった。もう動かない。ありえない破壊力。黒騎士Eが鳴神の側面に回り込み連撃を仕掛ける。蒼白い燐光を纏う女は剛剣を鋭く太刀で払い、かわし、受け流す。伊達で戦鬼とまで呼ばれた訳ではないらしい。
 黒騎士Dは盾で銃弾を弾き飛ばしながら不知火へと向かって間合いを詰める。巨人が地響きをあげて至近まで突進してきた時、不知火は銃撃を止めてくるりと背を向けた。女の姿がブレる。瞬間移動したが如き速度で加速し、残像を残して彼方へと移動する。そして再び振り向いて、SMGを構えた。黒騎士が人間なら呆然とするところだが――追いつける訳がない――不屈の闘志でキメラはその後を追った。
 その少し前には煙幕も晴れ、主力組の位置からも黒騎士達の姿が確認できていた。乱戦になっている。
 叢雲はSMGを構えて狙いをつけ、止めた。この距離この位置では敵に当たらなかった場合、その向こうにいる味方に弾が当たる可能性が高い。主力組は全速で駆け黒騎士の後背へと迫っていた。
 アンドレアスは攻撃対象を先に振ったナンバーに基づき指示しようとしたが、黒騎士は皆同じ姿なのでどれがどれだか解らなくなっている。故に「一番手前からだ! 弱体を!」と駆けながら叫んだ。挟んだ状態での飛び道具は味方に当たる可能性があるので撃てない。足を止め、漸、緋沼へと練成強化をかけなおした。
 藤田あやこは「私は予定調和が好きだ! こんな事もあろうかと‥‥」と謎の台詞を言い放ちつつ超機械を発動させて黒騎士E、B、Aへと練成弱体を入れる。
 疾風の如く、漸王零は二刀を携えて駆け、黒騎士Eの背に迫る。後背を打つというのはあまり趣味ではないが、みすみす逃す訳にもいかない。
「我が名は漸王零!! 万魂を断ち斬り葬る刃なりっ!!」
 男は名乗りをあげ長さ三mにも及ぶ特大の太刀を振りかぶる。鳴神と斬り合っている黒騎士Eが肩越しに振り向いた。漸は裂帛の気合と共に踏み込むと黒騎士Eの肩関節へと目がけて練成強化を受けて輝く刃を振り降ろす。太刀が轟音と共に黒騎士の肩を強打し、体勢を崩す。
「貴様らに許されるは我が刃にて死ぬまで舞い狂う事のみと知れ!!」
 漸は長大な剣を片手で振るい猛烈な連撃を浴びせかける。さらに鳴神が正面から刃を振って脚部を切り裂き崩す。そこへ緋沼が背後から練力を全開にして肉薄した。紅蓮の輝きを宿した太刀を巨人の頸椎部へと放つ。蛍火の切っ先が装甲の薄部を突き破った。
「苦しんで果てろっ。それが最高の供物だ‥‥!」
 男が呟き、太刀を引き抜く。黒の騎士は糸が切れたように崩れ、倒れた。
 牽制班のロジー・ビィは藤村へと攻撃を加えている黒騎士Bの背に回り込むと、その膝裏目がけて蛍火を叩き込んだ。巨人の膝が折れ、体勢が崩れる。駄目押しとばかりに逆側の膝へも流し斬った。傾ぐ巨人の身へと突き倒すようにさらに連撃を叩き込む。地響きをあげて黒騎士が転倒した。
 ロジーを援護する為に追従していたゼシュト・ユラファスが両断剣を発動させ倒れた黒騎士の首めがけて長さ二mの両手持ちの大剣を叩き込む。鈍い手応えと共に黒騎士の喉元に肉厚の刃が炸裂する。が、切断まではいかない。練成弱体が入っていてもまだ硬い。喰い込んだ刃を引き抜き再度振り下ろし、振り下ろす。三撃目の刃を黒騎士は盾を引き上げて受けとめる。しぶとい。
 黒騎士Aは藤村へと剣を振って猛攻を加えている。藤村は身を伏せてかわし、後退しながらバックラーで受け、三撃目をさらに後ろに跳んでかわす。騎士の剣が空を切った所へ体を切り返して踏み込み懐へと飛びこむ。
「大が小を兼ねると思うな!」
 至近から喉元を狙って突き上げる。月詠の切っ先が黒騎士の喉を強打した。素早く刀を引き戻し、連射するが盾をかざして受け止められる。体を捌いて横に回り、斬撃を放つ。黒騎士の鎧と刃の間で火花が散った。
 不知火は迫りくる黒騎士Dに対し横に動いて直線上から味方の姿を消すとSMGで弾幕を張った。その横合いからさらに銃弾の嵐が襲いかかる。ちらりと視線を走らせると叢雲が近距離まで詰めて来ていた。二人のガンナーからの強烈な十字砲火が黒騎士へと襲いかかる。銃弾の嵐を浴びながらも黒騎士は突進する。世には叩き斬る者もいるが基本的に黒騎士の装甲は頑強だ。これでも止まらない。不知火は瞬天速で味方がいる方へと退避する。剣は届かなければ攻撃できない。銃使いのグラップラーに黒騎士Dは引きずり回されている。
「北端を撃つぜ!」
「了解ー!」
 アンドレアス・ラーセンが指示を発し超機械を発動させる。藤田もまたスパークマシンから電撃を解き放った。
「真琴の前で、みっともねぇトコ、見せられっかよ!」
 アンドレアスが叫んだ。猛烈な破壊力を秘めた蒼光の電磁嵐が黒騎士を包み込んで荒れ狂い、同じく凶悪な威力の電撃の槍が騎士へと突き刺さる。黒騎士の装甲は非物理に対して極めて高い装甲を持っていたが、二人のサイエンティストの破壊力はそれを上回った。銃弾のダメージが蓄積されていたこともあり、蒼と白の光の中で削り倒される。
 ロジー、ゼシュトと格闘する黒騎士Bは倒れつつもゼシュトの足元へと剣を振るうが、そんな攻撃が当たる筈もなく後退されて回避された。盾をかざして粘るも、ロジーとゼシュトから連打を浴びて動かなくなる。
 藤村と格闘する黒騎士Aは漸、鳴神、緋村の三人が迫り、四人の剣士達から斬撃の嵐を受けて大地に沈んだのだった。

●一戦、終わって
「息のあるヤツ、手ぇ挙げろッ‥声でもいい‥‥畜生!」
 アンドレアスが小隊が守備する陣に入った時、そこは既に血の海だった。全滅しているのは遠目にも解ったが確認せずにはいられない。が、やはり生きている者はいない。最後まで一兵残らず戦い抜いたのだろう。
「‥‥間に合わなくて、ごめんなさい」
 不知火がカッと目を見開き天を睨んでいる亡骸に手を当て、眼を伏せさせつつ呟く。
「小隊の皆さんの行為、決して無駄にはしません」
「お前らが貫いた死神師団の覚悟、確かに受け継いだぜ」
 緋沼が言った。
「戦いで奴らを弔う。ジーク師団の仲間を守り、勝利への礎となる」
 男は決意を胸に剣を手にし北西を睨む、バグア軍の新手の一団が迫って来ていた。
「そのためになら――黒き焔の獣にもなろうっ!」
 緋沼が叫ぶ。西から強い風が吹いている。漸王零が風を受けながら大太刀を手に緋沼の隣に並んだ。
「次はここの維持か‥‥戦いに次ぐ戦い‥‥これも一つの道か」
 聖闇の当主はそう呟いた。
「ここで散った者の為にも、此処は必ず死守する」
 藤村もまた剣を携えて立ち、言う。
「ええ、これ以上、進ませませんわ」
 盾と銃へと武装を換えロジー・ビィが頷いた。
 キメラの群れが押し寄せてくる。ゼシュト・ユラファスが無言で剣を地に突き刺しホルスターから銃を抜く。ソフィアの北西の地で激闘が続いた。



 かくて、傭兵達は壊滅した小隊の後を受け、戦線の維持に腐心する。
 ジーク師団は押されていた戦線を押し返し、バグア軍のソフィアへの侵攻を防ぎ続けたのだった。


 了