タイトル:屋敷の大蜘蛛マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/29 20:15

●オープニング本文


「依頼です」
 まだ若いオペレーターが言った。
「内容はキメラ退治です。九州の某県の山に別荘が一つあるのですが、そこに大蜘蛛型のキメラが棲みついてしまったようです。目撃者の証言によれば体長はニメートル程です。動きはなかなか素早いようです。
 目撃されている数は二匹ですが、それより多い可能性もあります。
 大蜘蛛型キメラは壁や天井に張り付く能力を持ち、糸を吐き出して対象の動きを阻害します。動きを止めてから毒性の牙を撃ちこんできます。
 この糸に絡め取られると一切の行動が取れなくなってしまうようです。粘り気があるので通常の剣で切断するのは難しいようです。糸に火をつけて燃やす事は可能なようですが、自分自身と別荘を燃やさないようにしてください。
 屋敷に潜むキメラを全て掃討し、安全を確保してください。なお多少ならば、別荘の破壊は認めらています。壁に大穴程度までなら許容範囲です。別荘そのものを倒壊させたレベルになると請求が来るでしょう」
 淡々と少女は語る。
 そこで一旦言葉を切ったが、少し考えるようにしてからラナライエルは言った。
「そうですね‥‥私見を述べさせていただくのなら、糸に絡め取られてからどうにかするのではなく、糸に絡め取られないように立ちまわるのを第一とすべきかもしれません。勿論、絡め取られた時の対抗手段を用意しておくのも必須ですが。くれぐれも用心してください」

●参加者一覧

メディウス・ボレアリス(ga0564
28歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
増田 大五郎(ga6752
25歳・♂・FT
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

 九州の某県、某山にその別荘はある。
 大蜘蛛が棲み付いたと言われるその山岳の屋敷に十名の傭兵が訪れていた。彼等はまず双眼鏡を用いて遠巻きに屋敷の様子を観察した。先に入手した別荘の地図を参照しつつ間取りや逃走可能箇所を確認する。
「山林の屋敷に住み込んだ蜘蛛退治か」
 メディウス・ボレアリス(ga0564)が木立の間から屋敷を眺めて笑う。
「ガンシューのシュチュエーションでそういうのが有ったな。ココは一つ、楽しんでいくか」
「メディウスさんは余裕ありますねー‥‥」
 不知火真琴(ga7201)が拾った枝を片手に浮かない表情で言った。物憂げに嘆息する。
「もしかして不知火は蜘蛛、駄目なのか?」
 その様子を見たリュイン・カミーユ(ga3871)が長い銀髪を頭の後ろで纏めつつ言った。纏めた髪はヘルムの中に入れる。
「うっ、正直‥‥うち蜘蛛、苦手です。とても苦手です‥‥仕事なので頑張りますけど‥‥リュインさんは大丈夫なんですか?」
「うむ、特に苦手という訳ではないな。まぁ流石に巨大蜘蛛は気色の良いものではないが」
 言ってぽつりと付け加える。
「食えそうにないし」
「‥‥は?」
「‥‥いや、すまん、気にしないでくれ。馬鹿兄の思考が伝染してきた‥‥!」
 自分の思考にショックを受けたのか銀の麗人は軽くへこんでいる。
「しかし大蜘蛛、か。何を食ってデカクなったかは考えたくないが‥‥」
 伊河 凛(ga3175)が呟く。
「寂れた屋敷にお化け蜘蛛‥‥これだけで怪談になりそうです」
 斑鳩・八雲(ga8672)が言った。
「怪談ねぇ。そういえばもうじきそんな季節ね」
 地図上、ケイ・リヒャルト(ga0598)は確認を終えた箇所に印を入れながら呟く。
「自分の場合、クモはゴキブリ喰ってくれるから嫌いじゃないんですが‥‥キメラですからね」
 増田 大五郎(ga6752)が言う。
 それにホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が双眼鏡をしまいつつ頷き、
「蜘蛛は害虫・益虫の両面を持つ。キメラでなければ、倒さずに済んだかもしれない」
「でも、ここまでくると、そうも言ってられないわね‥‥」
 紅 アリカ(ga8708)が無表情でぽそりと述べる。
「放置する訳にもいかない、か」
 仲間達の言葉をまとめて風閂(ga8357)が呟いた。
「何にせよ大蜘蛛が別荘貸切なぞ贅沢! 丁重に退去願おうか」
 リュインの言葉に一同は頷くと屋敷の中へと向かった。

●屋敷の探索
 十人の傭兵達はまず班を二つ編成した。A班をケイ、ホアキン、増田、不知火、風閂の五人とし、B班をメディウス、伊河、リュイン、斑鳩、アリカの五人とする。
 A班とB班は始め共同で一階の探索を行った。玄関で靴を脱がなくてはならないような気もしたが、キメラを退治に上がり込むのにそんな事を言っている場合でもないだろう。靴を履いたままフローリングされた廊下を歩く。ついでを言うなら別荘内には蜘蛛の糸が無数に張り巡らされており、多少の汚れをどうこう言う段階でもなくなっていた。
「‥‥思ってた以上に荒れてるな」
 屋敷内の様子を見まわしながら伊河凛が呟いた。
「そうですね。蜘蛛の巣が随分と‥‥」
 斑鳩は事前に用意した棒で廊下に張り巡らされた糸をすくってみる。棒に白い糸がくっついた。新しいものか古いものかは不明だがいずれにせよかなりの粘着力が残されていた。ひっぱる。ゴムのような手応えがあった。ひっぱる。伸びる。
「‥‥なるほど、これは確かに、絡み付かれたらかなり厄介そうですね」
「どれ」
 メディウスは呟きと共にランタンの火を近づけてみた。まるで導火線に走るよう一瞬で炎が糸に沿って燃え上がった。斑鳩は急ぎ用意しておいた水をふりかけ広がった火を消化する。
「すまん。絡まれた時に火を近づけると冗談抜きで火達磨だな」
 かなり燃えやすいようだ。メディウスが目を細めて言った。
「火達磨になって現場を凌ぐチャレンジャーには惜しみない賞賛を送りたいところだが‥‥やむをえない場合を除いては、直接火は使わない方が良さそうだな。家が燃える」
「直接が駄目となると、間接か」
 リュインは刀をライターの火であぶってから糸を切断しようと試みる。あっさり切れた。熱されていない箇所で切ってみる。刃にくっついて切れない。
「熱した刃物は効果があるようだな。万一の際にはこれを第一に対処するのが良いかもしれない」
 万能ナイフを火で熱し、絡み付いた糸を削ぎ落しつつリュインは所感を述べる。傭兵達は一通りの実験を終えると覚醒し武器を構えて奥へと向かう。
「あまり固まらないようにな」
 互いの間の距離を取るようにと伊河が言う。
 傭兵達は適度にばらけ、リュインを先頭に糸を切り開きながら進む。扉を開いて踏み込み、屋敷内の部屋を虱潰しに探索してゆく。
 増田などは家財道具などもひっくり返して調査する徹底ぶりだ。また増田は調査扉を開ける時には先手必勝を発動させて奇襲に備えた。慎重な行動ではあったが、三つ程扉を開けたところで必要な練力が尽きた。後は覚醒維持の為に温存しておく。
 十数分後、傭兵達は一階を全て調査し終えたが、大蜘蛛とは遭遇しなかった。
 A班とB班は二手に別れ、A班は二階へ、B班は地下へと向かった。
 二階を捜索するA班はホアキンと不知火を前列に、中央にケイを挟み、後衛に風閂、増田の隊列で進む。
「奇襲で纏めて糸に絡め取られると危ないですから、適度にばらけていきましょう」
 不知火が言う。A班は一階の時と同様、互いの間隔をとって探索してゆく。不知火は全方向に注意を向け、ケイや風閂と共に進路上の蜘蛛の巣を枝と棒で払って探索してゆく。
「‥‥あら、駄目ね。取れなくなっちゃったわ」
 とケイ。糸が枝に張り付いてはがれなくなった。
「こっちもだ」
 風閂と不知火も同じ様子であった。仕方がないので糸に張り付けたまま放置する。五人は糸と糸の間を潜り抜けるようにしながら進んだ。
 地下室へと降りたB班、メディウス、伊河、リュイン、斑鳩、アリカの五人はまずは電源を探した。伊河は階段の横にスイッチを発見したので押してみる。変化無し。電源は切れているらしい。各々懐中電灯やランランをかざし進む。地下もまた蜘蛛の糸が張り巡らされていたのでリュインはライトを腰のベルトにとめ、ライター片手に刃を熱しながら糸を切り開いて奥へと向かう。
 リュインは進軍しながらでも耳をそばだてていた。蜘蛛といえども情報通り大型なら決して無音ではない筈だと。
 その時、仲間達が発する音以外に何か聞こえた気がした。振りかえる。
「‥どうした?」
 後ろに続くメディウスが小首を傾げて問いかける。
「いや‥‥」
 腰に固定した電灯が照らす先には地下のコンクリートの壁と家具が転がっているのみだった。
(「気のせいか?」)
 闇の奥から、じっと大蜘蛛達が様子を窺っている、そんな気がした。

●待ち伏せ
「‥‥ここも蜘蛛の巣だな」
 二階、ホアキン・デ・ラ・ロサが扉を開き、部屋の中を覗きこんで言う。その部屋も糸が張り巡らされていた。奥の窓が割れている。何度も繰り返している作業だと気を引き締めていても徐々に緩みがちになってくる。油断はしない男なので、気を張り詰めて探索にあたっているが、なかなかしんどくなってきた頃合いだ。
 張り巡らされている糸を潜って部屋の中に踏み入れる。不知火真琴もそれに続き部屋の中へと踏み入れる。真上をみあげた。部屋に入ってすぐ上、黒い巨大な塊が天井に張り付いている。居た。蜘蛛が持つ無数の赤眼と視線が合う。
「――っ!」
 目を見開く不知火に向かって真白な糸の塊が吐き出された。咄嗟に後方に飛び退く。眼前を抜け不気味に輝く糸が床へと張り付いた。
「入口の上っ、います!」
 不知火が叫ぶ。ホアキンが振り向いた。分断されてる。部屋の中も外も糸だらけだ。場所が悪い。
「ちっ!」
 ホアキンはフォルトゥナ・マヨルーを天井の巨蜘蛛に向け、リロードしつつ四連射する。銃声が怒涛の如く轟き、蜘蛛の赤眼の一つを爆砕した。同時に糸がホアキンへと向かって撃ち放たれていた。男は既に張り巡らされている糸の間へ飛び込むように掻い潜って回避する。弾丸を受けた蜘蛛は目からどす黒い体液を噴出しながら奇声をあげ、床に落ちた。
「ふふ、縛りはあたしも十八番よ?」
 地に落ちた蜘蛛へと銃口を向け、ケイ・リヒャルトが笑みを浮かべる。胸部と腹部の繋ぎ目を狙って発砲。重い銃声と共に弾丸が次々と命中し、蜘蛛の肉を穿ち爆ぜさせ、体液を噴き上げさせた。
「奥の廊下からも来ているぞ!」
 周囲を警戒していた風閂が注意を飛ばす。右手の廊下の奥、壁の側面と天井、部屋の中のものよりも二回りほど小柄だが、それでも巨大な蜘蛛がわさわさと六本の足を高速で動かして迫ってくる。その数二匹。小蜘蛛は急速に接近すると白糸を廊下にいる後衛へと向かって解き放った。

●闇の中から
 地下。光の中に照らされて、家具が転がっているだけだ。本当にそうか? 伊河もまた後方へと振り返った。天井へとライトを向けた。光に照らされて巨大な蜘蛛が三匹いた。特に大きなのが一匹、天井に逆さまに張り付いてこちらへと向かってきている。
「上だ!」
 伊河の叫びが飛ぶ。バックアタック、三匹の大蜘蛛から、後衛へと通路を埋め尽くす勢いで白糸の塊が降り注がれる。
「危ない!」
 斑鳩がメディウスと糸と間に割って入り糸を受け止める。メディウスは難を逃れたが、斑鳩は白糸に絡め取られてしまった。
「ちっ、人間シールドが一枚やられた!」
 飛び退いたメディウスは小太刀をランタンの火で熱しつつ舌打ちする。
「鬼ですかあなたわっ」
 糸の中でもがきつつ斑鳩が言う。
「火達磨になっとく?」
「遠慮します。普通に助けてくださいよ」
 軽口を応酬しつつもメディウスは小太刀で糸を切断にかかる。
 その間にも伊河とアリカは太刀を抜き放って前へと飛びだし、リュインはフォルトゥナ・マヨルーを発砲していた。三発の弾丸が天井中央の大蜘蛛へと炸裂し、足の関節、頭部、腹部を爆ぜさせる。
「行くぞ、化物‥‥!」
 左の蜘蛛へと向かって伊河凛が跳躍する。地下の天井だ。さほど高くは無い、届く。振り下ろされた刃が小蜘蛛の頭部を強打し、吹き飛ばして通路へと叩き落とす。一方の小蜘蛛は天井を蹴りアリカへと向かって飛びかかってくる。
「このっ!」
 紅アリカは小太刀と剣を交差させて受けとめる。衝撃に歯を喰いしばって耐え、小蜘蛛を押し返す。
「ふっ!」
 少女は鋭く呼気を発すると、地へと落下した蜘蛛へと向かって踏み込み、脚を狙ってクロムブレイドを振り下ろした。

●その攻防の行方
 二階、増田に向かって白糸の塊が飛んでくる。男は一発目を右手のソードで払い、二発目を左手のソードで払い、三発目も素早く抜刀して新たなソードで受け止めた。
「俺の剣は五本目まであるぞ!」
 歩く武器庫か、と思わずつっこみを入れたくなる勢いで次から次へと剣を取り出す増田。糸が絡まったソードを放り捨て、また新たにイリアスを抜き放ち駆ける。張り巡らされた踏み込み小蜘蛛へと刃を振り下ろす。命中。蜘蛛の脚が切断され体液が吹き出した。
 もう一方の小蜘蛛へは不知火がスコーピオンを構え狙いをつけていた。両手でしっかりと保持し発砲。轟く銃声、宙を裂いて弾丸が飛び、大蜘蛛の頭部に炸裂した。蜘蛛の頭が穿たれ、体液が吹き出す。風閂は銃の衝撃で小蜘蛛がよろめいたのを見てからクロムブレイド構え突進した。長剣を振りかぶると、最上段から唐竹割りに振り下ろす。閃光の如く走った刃は、鈍い音と手ごたえと共に蜘蛛の頭部を叩き割り、体液を噴出させて絶命させた。
 部屋内の大蜘蛛はホアキンとケイが銃弾を連射し蜂の巣にして葬り去る。最後の小蜘蛛もまた増田がイリアスで串刺しにして止めを刺していた。


 地下。紅アリカが振り下ろしたクロムブレイドが唸りをあげ、小蜘蛛の頭部へと炸裂する。蜘蛛の頭蓋が割れ体液が噴き上がった。だがまだ動いている。
 斑鳩を救助し終えたメディウスは練成強化を斑鳩、アリカ、伊河へとかける。それぞれの武器が淡い光に包まれた。
「やれやれ、僕が虫なら恥も外聞も無く逃げ惑うところです」
 糸から脱出した斑鳩は天井の大蜘蛛へと向けてデヴァステイターを構えた。発砲。十二発の弾丸が嵐のように飛ぶ。蜘蛛の身体に次々と弾丸が抉りこまれてゆく。鉛玉で体重を増やした大蜘蛛は奇声をあげ体液を噴き上げながら地に落ちる。
「鬼の刃に喰われるがいい!」
 瞬天速で加速したリュインが跳躍し、鬼蛍を逆手に持ち落下の勢いを乗せて突き降ろした。体重の乗った刃が大蜘蛛の頭部を貫通し床へと縫い止める。大蜘蛛はしばらく痙攣した後、動かなくなった。
 小蜘蛛の一匹へは伊河が追撃に走っている。糸が放たれる。伊河は突進しながら軸を外し回避する。月詠を振り上げながら床を破裂させる勢いで踏み込んだ。渾身の力を込め刃を振り下ろす。蒼白い刃が闇を断裂し、それと共に小蜘蛛の頭部を泥を裂くように両断した。
 最後の一匹、眼前の少女に向かって糸を吐き出す。紅アリカは剣を突き出していた。全身を糸に絡まれつつも蜘蛛を串刺しにする。小蜘蛛は糸を吐き出しながら、奇声をあげてしばらくもがいていたが、やがて絶命した。


 一同はその後も探索を続けたが、どうやら別荘に住み付いていた蜘蛛はこれで全てだったようである。
 屋敷内に張り巡らされた糸の駆除も考えたが量が膨大過ぎたので、それは依頼主へとまわす事にした。
「蜘蛛退治はいいのだが‥‥蜘蛛の巣が張り付いて気持ち悪いな‥‥早く風呂に入りたいものだ‥‥」
 屋敷から出る時に風閂がそんな事を言った。
「まったくです」
「‥‥そうね」
 斑鳩とアリカが同意する。
「今日は、良い経験となった。この経験を今後も活かしていきたいと思う」
 最後に風閂は仲間達にそう挨拶をした。
 かくてキメラを退治し終えた十人の傭兵達は屋敷を後にし、ラストホープへと帰還したのだった。