タイトル:【PN】RS・Lightningマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/25 19:26

●オープニング本文


 地上でもっとも辛い戦いの一つ、それは撤退戦だ。
 指揮車両の中で地面の凹凸に揺られながらノエルはそんな事を思った。ノエル=N=ジャコヴァン中佐、フランス人の才媛だ。
 後ろからの攻撃に脅えながら逃げ、振り向きながら戦い、一部が喰われている間に逃げる、最悪だ。
 ラポヴォ要塞の攻防戦、頼りにしていた司令官は地中からの奇襲によってあっさりと逝った。
 優秀な司令官のあっけない死は、軍団の士気を恐ろしく低下させた。指揮系統も乱れた。
 堅牢であった筈の要塞も、守る者達が混乱していては十全の力を発揮する事はできず、バグア軍の速攻の前にあっという間に破壊された。
 万を数えていた軍団員も今では数千単位にまで落ち込んでいる。これは既に軍団と呼べる数ではない。壊滅状態だ。負傷兵が溢れ、隊の編成は乱れ、士気はどん底。どの程度の戦闘能力が残っているのだろう、ノエルには解らなかった。
「ベオグラードはまだですか‥‥」
 ノエルは呟いた。ベオグラードまでいけば味方が居る、そこまで行けば生き延びられる、その筈だった。
「中佐ーッ! 後方より飛行キメラ群が接近中! 数およそ五百! 約十分で接敵します!」
 敵の追撃は執拗極まりなかった――ベオグラードが、遠い。

●ベオグラード駐屯軍
 緊急発進司令だ。
 現在ラポヴォの要塞軍がE75を南から北上し、ここベオグラードに向けて撤退中だが、その後背より飛行キメラの大軍が迫っている、との報を受けた。
 当地の戦力も厳しいが、友軍を見捨てる訳にもいかない。
 防空部隊は至急出撃し敵を迎え撃て。
 敵は数が多い、足を止めると呑み込まれる。駆け抜けながら焼き払え。
 なお敵キメラ群の中にはヘルメットワームが多数、紛れ込んでいる可能性がある、注意せよ。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG

●リプレイ本文

 ――撤退戦の支援というワケだが、後続に正規軍の二百機のSES戦闘機部隊あるとはいえども、先陣切るのが右、左、中央含めて俺たち傭兵の三十機のKVのみ。
(「‥‥危険な箇所にはまず傭兵、か」)
 ハヤブサのコクピットの中で須佐 武流(ga1461)はそんな事を思う。だがまぁ大抵の場合、歴史的に見ても傭兵の扱いとはそんなものだ。
「なんともはや厳しい状況になったもんだな」
 無線からザン・エフティング(ga5141)の声が洩れてくる。風防の中から隣の滑走路を見やればディスタンのコクピットの中から、カウボーイハットの男が三本の指を開き、須佐へと軽く手を振ってみせていた。
「そうだな。五百に三十、普通ならふざけてるとしか言いようがないが‥‥」
 ブリーフィングルームでの右翼隊長の話に拠れば、傭兵隊が突入後、二十秒前後で正規軍も突入する手筈になっている。KVは非能力者の駆る戦闘機とは比較にならない程強力な戦闘能力を持つ。フォースフィールドを持つバグア軍を相手にする場合は特にだ。もっとも危険な場所へKVが立てば、全体での被害はかなり抑え込む事が出来る――筈だ。あくまで筈だ。戦に絶対は無い。
「だが面白い。やってみる価値はあるだろう‥‥!」
 須佐は操縦桿を握り、エンジンをフルスロットルに入れる。轟音をあげてKVが加速してゆく。
「そうそう、これぐらいの方が燃えるぜ」
「へー、結構、言うじゃないですか?」
 無線を聞いていた平坂 桃香(ga1831)がザンに向かって言う。
「こんぐらいの軽口ぐらい言ってないとやってらんねーぜ」
 カウボーイハットの男は肩を竦めてみせた。その言葉に須佐は苦笑を洩らす。
「ま、無理せず、確実に打撃を与えていこうぜ」
「空の塵にはなりたか無いからな、了解だぜ」
 かくて十機のKVが空へと舞い上がり、南へと向かった。

●東の空の戦い
 東欧の蒼い空を背に轟音をあげながら南へと飛ぶ二三〇機の飛行団。一同のレーダーにやがて断続的に輝く光点が出現した。 回転する線の反射を受けレーダーは光点を増やしてゆく。それは瞬く間に膨大な数まで膨れ上がった。
「敵部隊、レーダー圏内に入りました」
 ヴァシュカ(ga7064)が無線で報告を入れる。無線が交錯する。正規軍から各機交戦を許可する、との無線が入った。
「見渡す限りのキメラ‥‥止まると圧殺されますね」
 空の彼方を見やって少女が言う。
「参りましたね‥‥本当にすごい数だ」
 周防 誠(ga7131)が嘆息を洩らした。
「‥‥いったい何処からこれだけ湧いて来るのかしら‥‥」
 ミオ・リトマイネン(ga4310)がぽつりと呟く。
「数‥‥五百‥‥」
 S‐01のコクピットの中、月森 花(ga0053)が身を震わせる。
「でも負けない‥ボクだって‥‥やれる!」
 少女は己に言い聞かせるように呟き、気合を入れ直す。
「体力勝負は気合と間合い、リズムです。ペースを掴みましょうイザ」
 セーラー服のリボンと前髪を揺らし、リズムを取って呼吸を整えつつ熊谷真帆(ga3826)が言う。
「ペース、ですか‥‥そうですね」
 アルヴァイム(ga5051)が思案しつつ述べた。
「これだけの数相手の戦いともなれば、先頭が流れを掴めるか否かで、その後の戦局も変わってくるでしょうね」
 その言葉に月影・透夜(ga1806)が首肯して言う。
「そうだな、今回は後続もいる。ダメージ重視とHWや強力なキメラを落とす方向でいこう。もちろん数は減らすがな」
「了解」
 右翼の傭兵達は隊をA班とB班の二つに編隊を分けていた。A班六機、ダイスの六のように並んで飛ぶ。B班四機、こちらも四のようにフォーメーションを組んでいる。
 二百を超える鋼鉄の翼が宙を駆け、異星人によって生み出された五百を超える者どもが軍が迫った。

●激突
 射程に入った。まず最初に平坂機が仕掛けた。迫りくるキメラの壁へと向けて限界射程からロケット弾ランチャーを放つ。熊谷機も動いた。スナイパーライフルで狙いを定め撃つ。
 残りの八機は先の二機よりも前に出る。須佐、月影、月森の三機は射程距離に入ると誘導弾を解き放った。ヴァシュカ機もまたポッドミサイルは届かないのでAAMを撃ち放つ。周防機はロケット弾を、ミオ機は電撃を、ザン機は誘導弾と電撃を撃ち放った。アルヴァイム機は十匹のキメラをロックオンするとそれぞれに五十発の小型ミサイルを発射する。
 弾丸が突き刺さり、ロケット弾が爆裂し、電撃が宙を焼き切る。夥しい数のミサイルが次々と命中し大爆発を空へと巻き起こした。紅蓮の華が空一面に乱れ咲く。赤い光が周囲を照らした。
 キメラは消し飛び、壁に大穴が空く。月影機と月森機は旋回し、残りの八機は真っ直ぐにキメラの群れへと突っ込んだ。炎を纏って大地へと散ってゆくキメラの死骸を横目に、空いた大穴を潜って、キメラの壁を突き破る。抜けた。薄すぎる。
 しかし前方にはしばらくの距離をおいて、またキメラの壁が見えた。気付く、バグア軍は柵のようにキメラの壁を何枚にも分けて展開していた。
 潜り抜けた八機の前に新たなキメラの壁が迫る。無数のキメラから火球が解き放たれ、雷撃が宙を焼き、冷気の渦が逆巻き、礫が弾丸となって襲いかかってくる。
 平坂機は群れの中から巨大な赤竜を探り当てると誘導弾を解き放った。襲い来る攻撃の嵐を急旋回して回避しようと試みる。弾幕が厚い、大半はかわしたが、かわしきれない数発が阿修羅の表面装甲を削り取ってゆく。
 須佐機はブーストを発動させると、急加速して猛攻の渦を潜り抜ける。隊列の堅持には拘らない。ローリングしながら急機動して機体を翻し悉くをかわす。ガドリング砲で弾幕の嵐を巻き起こす。弾幕兵器は小型の掃討とは相性が良い。進路上のキメラの群れを薙ぎ払いつつ突破を図った。月影機と月森機は一枚目のキメラの群れから距離をおいて周囲をなめるように飛び、誘導弾とSRD‐02で攻撃を仕掛けている。
 熊谷機はミオ機に追従し、共に前面のキメラの群れへと攻撃をかける。ミオ機のバルカン砲と熊谷機のレーザー砲が妖精型のキメラや鳥型キメラを次々に撃ち抜いてゆく。火球と電撃の嵐が迫ってくる。キメラの群れから降り注ぐ攻撃をミオ機と熊谷機は急降下して回避しようと試みる。攻撃の密度が厚い。かわしきれない。火球と雷撃の嵐が炸裂し、S‐01とバイパーの装甲を打った。
 アルヴァイム機はキメラの猛攻に打たれつつも敵の密度の薄い箇所を見計らい、バルカン砲を猛射しながら突き進んでゆく。弾丸の嵐にキメラが次々に蜂の巣になってゆく。周防機はワイバーンの機動性で矢のように突っ込みソードウイングで進路上に漂う小型キメラを片っ端から斬り裂いてゆく。降り注ぐ攻撃の嵐にワイバーンの装甲が削られる。礫は強固な物理装甲で弾き返せたが、火球や雷撃といった非物理攻撃が痛い。
「いくぜ、駆け抜けろディスタンっ!」
 ザン機はアクセルコーティングを発動させるとガトリング砲を回転させ高速で弾丸を撃ちだしつつ前進する。キメラの猛撃が爆裂する。コクピットに激しい震動が伝わる。礫は特殊能力のおかげでさほど痛くないが、非物理攻撃にがりがりと削られてゆく。
「いざ疾く速く、奔れ雷光の様に‥‥」
 ヴァシュカ機はバレルロールで翻ってキメラの攻撃をかわすとザン機の後方へとつけ、その背を守る。進路上のキメラへと狙いをつけAAMを解き放った。

●分裂
 平坂機はドラゴンに一撃を与えると機体を翻し、東へと飛んでキメラの群れの狭間からの脱出を図る。目論見通りドラゴンはついてきた。しかし、釣りだした所を複数機で袋叩きにしようと考えていたが、月影機と月森機は一枚目のキメラ群れと交戦中で、他のメンバーは皆、突撃中だ。一騎撃になった。
 距離をとって戦う月森機と連携している月影機へとキメラの群れが殺到してきている。月森機はライフルを放ちつつ、機体を翻し、月影機もまた誘導弾を放ちつつ距離を取る。
 須佐機は二枚目のキメラの壁を突き破ると三枚目へと向かう。突破に成功したのは熊谷機とミオ機、周防機、アルヴァイム機も進行を優先させ突破に成功している。ザン機は少し遅れている。前方からは三枚目の壁が迫り、後方から二枚目のキメラの追撃を受ける形になっている。ザン機の後方を守るヴァシュカ機に攻撃が集中した。ヴァシュカ機はマニューバを駆使し機体の頑強さでなんとか耐えしのぐ。
 三枚目へ向かったのは五機、的が減った分、それぞれの攻撃への密度が増し、さらにヘルメットワームが出てきた。須佐機はブースト機動を継続するが、さすがにかわしきれない。キメラの猛攻と共に飛来するプロトン砲に装甲が削られてゆく。熊谷機とミオ機もキメラの群れから降り注ぐ猛攻に厳しい状況へと陥った。周防機も損傷率が勢いよくあがってゆくが、回避を捨ててワイバーンの速度で駆け抜ける。アルヴァム機は機体の装甲にものをいわせてキメラの猛攻を弾き返している。比較的薄い部分を狙って突っ込んだ為もあり、さほど被害は出ていない。
 緊急出動であったせいか、各機それぞれ連携を取ろうという意志はあるのだが、根本となる方針がづれている。連携を取ろうと思うだけでは連携は取れない。それでも各員は死力を振り絞って戦う。
「BG21より、Alfa&Bravo隊へ。これより攻撃を開始する」
 UPC正規軍が突入をかけた。分裂している状況は把握しているのだろう。半数が一枚目のキメラ群の掃討を開始し、半数がそのまま突きぬけて二枚目へと向かう。やがて右翼の戦域は二百以上の敵味方が入り乱れる乱戦となった。

●大乱戦
 キメラの狭間から包み込まれる前に脱出した平坂機は宙返りして後方から迫りくる赤竜を迎え撃つ。赤竜が咆哮をあげ巨大な火球を吐き出した。阿修羅からは二連の誘導弾が解き放たれる。ミサイルが音速を超えて赤竜に突き刺さり、鱗を突き破って大爆発を巻き起こした。強烈な破壊力が荒れ狂う。飛来する火球を平坂機はロールしてかわした。ドラゴンは鮮血を噴き出しながらもまだ健在だ。一騎撃が続く。
「スコープシステム‥‥誤差無し」
 正規軍とキメラが入り乱れる後方、リロードしつつ月森機は大蜻蛉型キメラへと狙いをつける。発射。回転するライフル弾が蜻蛉の頭蓋を打ち砕いた。
「Bravo‐1、FOX‐2! FOX‐2!」
 正規軍と共に戦っている月影機から誘導弾が解き放たれ、怪鳥型のキメラに炸裂し、爆風を巻き起こす。大鳥はその体躯を四散させバラバラになって大地へと落下していった。
 一方、キメラの群れに包まれているザン機とヴァシュカ機は四方八方から攻撃を受けていた。上も下も右も左もキメラだらけだ。火球が炸裂し、雷撃が弾け、冷気の渦に飲み込まれる。
「くそっ、こんな所で落ちてたまるか。突破するぜ!」
 激震が襲うコクピットの中、ザン・エフティングはガトリング砲のボタンを叩きつけるように押し込む。猛烈な勢いで弾丸が吐き出され、前方のキメラの群れを切り裂いてゆく。
「‥‥あらゆる状況を考えて、動じぬ心の手練れたれ‥‥Sleight of Mind」
 激しく揺れる機体と爆音が鳴り響く中、ヴァシュカもまた三十の小型ミサイルを空へと解き放ち、爆裂を巻き起こしてキメラの群れからの突破を試みる。
 先頭、須佐機は猛攻を受けつつも三枚目のキメラの突破していた。もう前方にキメラの群れはない。広がっているのは蒼い空とセルビアの地平のみだ。
(「‥‥抜けた!」)
 息を突く間もなく操縦桿を倒して急降下する。すぐ上をプロトン砲が薙いでいった。追って来ている。須佐はブースト機動からジェット噴射ノズルを操作して急角度で機体を翻すとロックサイトにヘルメットワームを捉える。
「Bravo‐3、FOX‐2!」
 AAMが煙を噴き上げながら高速で飛び、ヘルメットワームを捉え、爆発を巻き起こす。
「‥見つけた‥」
 三枚目の壁を抜けてきたミオ機がそのヘルメットワームへと攻撃を仕掛けた。レティクルへとヘルメットワームの機影を収めると操縦桿のボタンを押し込む。ミオ機から眩い電撃の嵐が放たれた。迸る電撃がヘルメットワームを絡め取り、装甲を焦がした。
 その電撃と共に熊谷機もまた翔けていた。ヘルメットワームに肉薄する。
「霧中突破爆尽撃!」
 ガンサイトに納め、レーザー砲を解き放った。レーザー砲が次々とヘルメットワームへと命中してゆく。
 さらに高空から青い機体が飛来した。周防機だ。鋼鉄の翼を閃かせ、交差様にヘルメットワームをソードウイングで叩き斬る。入った。ワームの装甲が深く削り取られる。
 壁を突破したアルヴァイムは機体を翻しヘルメットワームへと照準を合わせんとする。機体がぶれる。軌道を読む。ロックサイトが赤く変わる。捉えた。
「Alfa‐4、FOX‐2!」
 煙を噴き出し、音速を超えてミサイルが飛ぶ。誘導弾はワームの装甲を貫き爆風を巻き起こした。
 だがヘルメットワームはまだ健在だった。加速すると周防機の後方へとつけ四連の爆光を解き放つ。ワイバーンの装甲が猛烈な勢いで吹き飛ばされていった。
「簡単には、やらせてくれないか‥‥!」
 周防は呟き、機体を翻す。右翼の部隊は激闘を続けた。

●かくて
 平坂機は猛攻を加えドラゴンを叩き落とした。ザン機とヴァシュカ機も被害は出ていたが撃墜されずに突破に成功する。最終的にヘルメットワームに狙われた周防機はなんとか生き延びたが、ヘルメットワームもまた撃墜する事はできなかった。劣勢を悟ったワームは逃亡に移っていた。
 右翼部隊は死闘の末、敵左翼のキメラの群れを撃破する事に成功する。右翼のUPC軍にはかなりの被害が出ていたが、敵部隊は壊滅させた。成功の範疇である。
 全戦域を通して、劣勢になってもキメラの群れは全滅するまで戦い、HWは撤退に移った。その数八機、炎を噴き上げている中型機の存在も見えた。
 地球側の航空戦力はバグア軍を打ち破り、要塞軍へと向けたれた空からの追撃の手を断ち切った。
 ラポヴォの要塞軍は撤退を成功させ、なんとかベオグラードへと辿り着いたのだった。