●リプレイ本文
「えぇ〜っ、一緒に出発するんですか〜っ!?」
近郊の基地のブリーフィングルームでシエラ・フルフレンド(
ga5622)が言った。
「む? 作戦伝達が不正確だったか。緊急出動とはいえ‥‥司令ももう少し落ちついてやって欲しいものだな」
と言うのは正規軍の左翼隊長を務める男である。
「君達に斬りこんでもらい、敵を掻きまわしてもらって、その後から我々が掃討する作戦だ。後からといっても十秒か二十秒か、その程度だな。その十数秒が生と死の境界線ではあるが。時を置いては効果がないし、いくらKVとはいえ、こちらもすぐに攻撃に移らなければ君達を無駄死にさせるだけだろう。それは意味が無さ過ぎる」
との事である。正規軍の突入はかなり後からのものだと予想していたが、実際は傭兵達の突入のすぐ後に続くらしい。
左翼担当の一同は手早く作戦を練るとハンガーへと向かい、機器確認、通信確認、動作試運転を手早く実施する。
「予定とは少し違うが‥‥この際ジタバタしても仕方ない。精々愉しんで行くとしようか」
F‐108ディアブロのコクピットの中、黒江 開裡(
ga8341)が計器に目を走らせつつ言った。
「‥‥まああれだ、ガーッといってグワーッと片付けてくりゃいいんだろ? 問題ねぇさ――どちらにせよ、逃げ込んで来るヤツらを助けない訳にはいかねぇ」
アンドレアス・ラーセン(
ga6523)が無線に向かって答える。
「ですねーっ、絶対お助けしましょうっ。Storm隊二番機、S2シエラ、チェックOKですっ! 頑張っていくのですよ〜っ♪」
システムオールグリーン、愛機のチェックを終えたシエラが言う。
「こっちもOKだ。そんじゃま、騎兵隊の出撃と参りますか」
風羽・シン(
ga8190)が操縦桿を握り言う。各機は滑走路へと出る。エンジンをフルスロットに入れて轟音をあげて加速、機首を上げ東欧の空へと舞い上がって行った。
●戦場へと
二三〇の鋼鉄の翼が咆哮をあげ南の空へと飛ぶ。
「とっても盛観ですね〜っ♪」
ワイバーンのコクピットの中、シエラが後方へと首を巡らせて言った。
「‥‥ふふ、二週間に三回墜とされてまだ空にいるんですから、本当に度し難い」南部 祐希(
ga4390)がコクピットの中で自嘲気味に笑う「やって、やりますよ」
空の彼方を睨んで女は言う。
「まぁ‥‥なんとかなるだろう」
龍深城・我斬(
ga8283)が言った。彼はWind隊のW5に所属する。今回傭兵達は隊を二つに分けて編隊を組んだ。すなわち南部祐希を隊長とするWind隊と伊河 凛(
ga3175)を隊長とするStorm隊である。龍深城機の隣は所縁ある風羽シンが搭乗するF‐108ディアブロが飛んでいる。これも何かの運命か、などと龍深城は思う。
「今度の相手は随分と数が多いみたいだけど‥‥」
アズメリア・カンス(
ga8233)が呟く。司令部からの説明によればバグア軍は五百、かなりの規模だ。このバグア軍は潰走する要塞軍の追撃に出てきたという。
「数だけでしょう」
フォル=アヴィン(
ga6258)が言った。報告によれば中心となってるのは小型のキメラだという。強敵であるヘルメットワームやドラゴンタイプの超大型キメラは数が少ない。
「数の力は脅威ですが。俺達も二百以上います。初撃で流れを掴めば、押し切れる筈です」
それに鯨井起太(
ga0984)が言う。
「流れを掴む為には先頭の働きが重要になるね。精々派手に蹴散らしたいところだ」
鯨井は思う。今回は撤退中の友軍の援護だ。流れを掴むのもそうだが、要塞軍が「これで生き延びられる」と思ってくれるのと、そうでないのとでは生存確率に大きな差が出てくるだろう。撤退中の要塞軍の士気高揚の為にも敵に強烈な打撃を与えたいところだ。
「そうね‥‥敵の右翼は私達でキッチリ切り崩しましょう」
アズメリアが頷く。彼女たちの担当は左翼先陣、敵の右翼を撃破するのが目的だった。
南へと飛ぶ一同のレーダーにやがて断続的に輝く光点が出現する。無線が交錯する。正規軍から各機交戦を許可する、との無線が入った。その間にも回転する線の反射を受けレーダーは光点を増やしてゆく。それは瞬く間に膨大な数まで膨れ上がった。
「‥‥よくもまぁ、無駄にこれだけ湧いたもんだわ」
空の彼方に無数に浮かぶ五百の敵影を眺め、風羽シンが半ば呆れたように呟いた。本当に自分達でやれるのか、一同の脳裏をそんな思いがかすめる。
「ふふ、ボクに不可能はないのさ」
鯨井起太が言いきった。一体何処からその自信が湧いてくるのか、やたらと強気である。根拠は不明だがしかし、少なくとも怯んではいない。こういった状況では、その強気は一同にとって頼もしい。
「そうだな。バグアどもの進撃もここまでだ。鼻っ柱を圧し折ってやる」
Storm隊のリーダー伊河凛もまた迫る敵を睨み据えて言う。
「虫退治の時間だ、全て叩き落としてやろう。行くぞ!」
「応!」
「了解ですっ!」
伊河の言葉に一同は頷く。Wind隊とStorm隊は各隊ごとに横並びに一線となり、それを二段に重ねて飛んだ。Wind隊が上、Stom隊が下である。射線を全開にした攻撃的な編成だ。
キメラの壁がみるみるうちに迫る。数百のキメラが蒼空を背に壁のごとく漂っている。接近するにつれ、その壁の厚さが圧力となって襲いかかってくる。
「各機、射撃用意――正面敵軍、標的は各自判断、照準合わせ」
Storm隊リーダー南部祐希は速度と距離から目算しタイミングを計る。
「照準合わせ、合わせ、合わせ」
音速の世界、長大な距離が瞬く間に詰まってゆく。各機、射程距離に入った。
「撃てぇッ!」
女の裂帛の声と共に傭兵達は一斉に火器を解き放つ。
「Storm‐3、FOX‐2!」
「抵抗しないで堕ちてくださいっ!」
「ウィンドフェザー、フォックス2!」
「Wind‐3、FOX‐2!」
「鬼ごっこはそこまでだ。今度はこちらに付き合って貰おうか!」
「蹴散らさせてもらうわ!」
「Jacket、FOX‐2! FOX‐2! FOX‐2!」
「まとめて痺れさせてやる!」
伊河機、シエラ機、風羽機、黒江機、龍深城機から誘導弾が猛射され、フォル機から六連のロケット弾ランチャーが放たれ、鯨井機、アズメリア機、アンドレアス機から電撃の腕が伸ばされ、南部機から合計五〇〇発の小型ミサイル群が撃ち放たれる。それぞれの火器が音速を超えて飛び、キメラの群れの先頭集団に炸裂する。世界を真白に焼き尽くす程の電撃の帯が荒れ狂い、ロケット弾が爆風を巻き起こす。夥しい数のミサイルは空に破壊の嵐を巻き起こした。前方の視界一杯に火球の華を咲き乱れさせる。もし南部機の五〇〇発のミサイルが、それぞれ別の対象を狙えていたなら、それだけで敵右翼の小型キメラは薙ぎ払えたかもしれない。しかし五〇発につき一対象しかロック出来ない仕様であった。
だがそれでも十機の傭兵達が巻き起こした破壊の嵐によってキメラの壁のほぼ半ばが消し飛ばされていた。無数のキメラの死骸が大地に向かって降り注いでゆく。凄まじい光景だった。
しかし、そのおかげで見えた。彼方の空に新たなキメラの壁。正面から見て無数のキメラが密集しているように見えたのは錯覚だった。バグア軍は柵のようにキメラの壁を複数に分けて配置していたのだ。レーダーはあくまで平面、配置を工夫すれば誤魔化せる。
(「バグアの癖に味な真似をする‥‥!」)
龍深城は胸中で舌打ちした。
ともあれ一枚目には大穴を開けた。Storm&Wind隊は焼け落ちるキメラの脇をすり抜けて一枚目の壁の奥へと抜ける。二枚目の壁が迫る。キメラの大群が咆哮をあげ飛来してくる。
「突っ込みますよ!」
南部が声を張り上げた。南部機を先頭に風羽機、黒江機、アズメリア機、龍深城機、Wind隊の五機が加速し、ほぼ横一線でキメラの群れへと突入してゆく。
Wind隊にキメラの群れから猛攻が繰り出される。巨大な火球が迫り、電撃の嵐が宙を焼き、冷気の渦が竜巻となって飛び、無数の石弾が音速を超えて放たれる。
レーザーを放ちながら先頭を飛ぶ南部機に最も密度の高い攻撃が襲いかかる。コクピットから見える視界一杯が火球と電撃とプロトン砲で埋め尽くされた。咄嗟に機首をあげて急上昇する。南部機の運動性もかなりのものだが、敵の攻撃密度が厚い。全ては避けきれない。猛攻にディアブロの装甲が削られ、吹き飛ばされてゆく。機体を激震が襲う。
風羽機は長距離バルカンでキメラの群れを切り裂き突入してゆく。小型相手に弾幕兵器は相性が良い。妖精型、蝙蝠型のキメラを蜂の巣にして撃ち落とす。襲い来る猛攻にはラージフレアを撒いて急降下し回避を試みる。だがそれだけで全てをかわせる程、薄い攻撃ではなかった。何割かはかわせたが、かわしきれない攻撃に装甲が削られてゆく。
風羽機とロッテを組む龍深城機、ガトリング砲で弾幕をまき散らしながら、不規則なジグザグ機動を取る。鋭角で素早く切り返せるのは、KVだから出来る運動だろう。敵に的を絞らせない。降り注がれる攻撃の密度が薄かった。全ては避けられないが、多くの攻撃をかわしつつ風羽機の後を追う。
黒江機は誘導弾を撃ち放ち爆発を巻き起こしながら進む。キメラの群れから爆裂が襲いかかる。黒江機は前進速度を優先し、旋回回避は行わず角度浅めの上昇、下降とヨーで切りぬけることを試みる。火球の嵐が爆裂し、冷気の嵐に呑み込まれ、電撃が装甲を焼き焦がした。猛烈な激震がコクピットを襲う。黒江機の運動性では、それだけで回避するのはきつい。かなりの直撃を喰らい、猛烈な勢いで損傷率が上昇してゆく。
アズメリア機は黒江機に追従する。黒江機が攻撃をひきつけているおかげか、彼女への攻撃密度は低かった。ガトリング砲で蜻蛉型、妖精型のキメラを効果的に撃ち落とし、スナイパーライフルで狙撃しながら進む。
Wind隊に続いてStorm隊も二枚目のキメラの壁へと向かう。ディスタンに合わせてやや遅めの移動だ。キメラの密度は一斉とWind隊の突撃により大分薄くなっている。
「座標82、46、54にワームですっ!」
遠距離から敵影を察知したシエラが無線に注意を飛ばす。無線に報告を入れると同時に遠距離からSRD‐02で狙撃する。ワイバーンは命中精度が良い。限界射程から放たれた二連の弾丸が小型ヘルメットワームに直撃した。
その報告にStormリーダーは即応した。XYZ、受ける側の頭の回転速度が勝負、伊河凛、戦闘空域はブリーフィング時に頭に叩き込んである。
「墜とすぞ!」
伊河は言いつつジェット噴射ノズル核を調節し、機首を上げて回転しながらキメラの宙を翔け抜ける。襲い来るGに逆らい、ヘルメットワームを照準に収めんとする。捉えた。ロックサイトが赤く変わる。誘導弾を解き放つ。
「Stom‐3、FOX‐2!」
フォル機もまた伊河機に追従し鋼色の機体を翻すとエネルギーをチャージしガンサイトにワームの姿を収め操縦桿のボタンを押し込む。エネルギーが急速にチャージされ、強烈な威力を秘めた砲弾が空を切り裂いて飛ぶ。間髪入れずに兵装を切り替えロケット弾ランチャーを撃ち放った。
二連の誘導弾が爆裂し、集積エネルギー砲が直撃し、ロケット弾が爆風を巻き起こしてヘルメットワームを炎に包みこんだ。爆炎を切り裂きヘルメットワームが加速する。伊河機に向かって四連のプロトン砲が撃ち返す。降り注ぐ光にR‐01が呑み込まれ装甲が猛烈な勢いで吹き飛ばされてゆく。損傷率が五割を超えた。黄色ランプだ。
「Storm‐1、なんかデカイのにFOX‐3!」
キメラの猛攻を浴びながらもS‐01が飛んだ。アンドレアス機はヘルメットワームに接近するとヘッドオンからレーザー砲を連射した。ヘルメットワームが急降下する。六条のレーザー砲が飛び、そのうちの三条がワームの装甲を削り取る。後は外れた。
ナイチンゲールが加速した。ハイマニューバを起動させヘルメットワームが降下した先へと回り込む。鋼鉄の翼を閃かせ、すれ違い様に叩き斬る。ヘルメットワームが慣性制御でスライドする。翼の先がかすめた。入ったが、浅い。
ワームはまだまだ余裕がある様子だ、滑るように翻りStorm隊の後背につける。
「BG11よりSWへ、攻撃を開始する」
次の瞬間、紅蓮の光が後方より巻き起こった。
フォルがディスタンのコクピットから後方を振り返ると、そこには爆炎の華が咲き乱れていた。
●左翼乱戦
合計で三段を数えたキメラの壁を左翼で最初に突破しきったのは黒江機であった。大分損傷が激しかったが突破には成功した。速度重視で駆け抜けた結果だろう。少し遅れてWind隊の面々は全機、キメラの群れの後背へと抜ける。
Storm隊はキメラの群れの中であった。二枚目と三枚目の間で挟まれ、包み込まれた。乱戦の中、小型ヘルメットワームを撃墜する事に成功するが、引き換えに隊長機である伊河機も撃墜されてしまっていた。さらに戦場には正規軍が突入し、敵味方合わせて二〇〇近い数が入り乱れている。
「リヒターよりWind‐3へ。再突入した方が良くないかね」
南部はStorm隊が抜けて来るのを待ってから再突入を計る予定だったが、どうも速度的に抜け切る前に脇から詰められてしまったようだ。
「Wind‐3、了解。およびWind隊各機へ。これより再突入をかける。隊列は崩しても構わないが、ロッテは堅守せよ」
『了解』
Wind隊の五機は鋼鉄の翼を翻すと百数十の敵味方が入り乱れる空域へと飛びこんだ。
●結果
左翼部隊は激闘の末、敵右翼のキメラの群れを撃破した。左翼での軍の被害は初期の予想よりも生じなかった。傭兵隊が圧倒的な火力で一枚目の壁を半ばまで消し飛ばしたおかげだろう。
全戦域を通して、劣勢になってもキメラの群れは全滅するまで戦った。そしてその隙にHWが離脱に走った。その数八機、炎を噴き上げている中型機の存在も見えた。
HWの多くは取り逃がしてしまったが、元々撃墜を見込んだ作戦ではない。要塞軍の撤退援護が目的である。
目論見通り地球側の航空戦力はバグア軍を打ち破った。作戦は成功したと言って良いだろう。
空からの追撃を免れた要塞軍は撤退を成功させ、なんとかベオグラードへと辿り着いたのだった。