タイトル:【PN】窮鼠背水・右軍マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/20 08:34

●オープニング本文


 四月某日、セルビア南部、ブジャノヴァクの前線陣。
 急ピッチで築城が進められたその陣の南に、ついにバグアの大軍が姿を現した。
 敵の先鋒はキメラだった。地平を埋め尽くす程の生物兵器の群れが、砂煙をあげ、地を揺るがして前進してくる。
「へっ‥‥ついにきやがったぜ」
 緊急指令が発令され、迎撃態勢を取る為に慌ただしく動いている陣地。兵士は塹壕に身を隠し、突撃銃を握りしめて呟く。口は不敵に歪められているが、手がカタカタと震えている。
「大丈夫だ。恐れるな。この陣の守りは堅い」
 別の兵士が言った。傭兵達の活躍や軍人達の奮起もあり、建造途中だった陣は完成していた。かなり堅牢な陣となっている。
 容易くは抜かれない。
「そうだったな‥‥これならきっと」
 やれる筈だ。
 兵士達の多くは皆、恐怖を抱えていたが、それでも士気は高かった。

●防衛戦
 櫓が吹き飛んだ。機関砲が爆砕した。戦車が踏みつぶされ、自走砲が砕け散る。
 地雷原に踏み込んだキメラの群れが吹き飛び、戦車砲の直撃を受けて大型キメラがよろめく。重機関砲が焔を吹き、無反動砲が煙を裂いて飛び、撒き散らされる手榴弾が爆発を連鎖させた。
 人が飛ぶ、人が飛ぶ、人が砕ける。
 キメラが飛ぶ、キメラが飛ぶ、キメラが砕ける。
「そ、空にHW編隊! 数8! フレア弾を投下してきましたッ!!」
「電撃竜を中心としたキメラ30がBP20を突破!」
「ヒュドラを前面とした大型キメラ群20、BP18を速度20で北上中!」
「レッド中隊壊滅! オイゲン大尉、戦死!」
「203歩兵大隊がヒュドラを撃破!」
「KV小隊が敵HW編隊を撃破! 制空権を取り戻しました!」
「101戦車中隊が電撃竜を撃破! BP18を南下中です!」
「グリーン中隊がBP20を奪い返しました! 損害は軽微! とのことです」
 激突から数日が経過し、暦は既に五月へと突入している。ブジャノヴァクの陣は激戦の最中にあった。
 十数キロに渡って敷かれた陣、その中央部、司令部となっている天幕の中で、一人の男が椅子に腰かけていた。
 エゼキエル・ジーク、齢は五十。階級は大佐。能力者だ。すっかりと髪の色を白に変えた厳めしい顔立ちの男は、次々にあがってくる報告に耳を傾けつつ陣図を睨んでいた。
「ラポヴォからの返答はまだか?」
 通信士に問いかける。ジャミング電波が満ちているので通信一つするにも時間がかかる。
 戦況は悪くない。敵の圧力が予想程ではなかった事と、しっかりとした陣地を作れたからだろう。後方にあるラポヴォ要塞からS‐01を三十も送ってもらえればあるいは反攻も可能かもしれない。
「‥‥大佐!」
 通信士の一人が顔面を蒼白にして声を張り上げた。
「ラポヴォ要塞が攻撃を受けている、との事ですッ!」
 その言葉に場に衝撃が走る。
 エゼキエルはしばしの沈黙の後に言った。
「‥‥なるほど、道理でバグアどもにしてはぬるいと思ったわ。山中を抜かれたか」
 敵は部隊を二手に分けていたらしい。陣が堅固と見て後方を奇襲で断つ事にしたのか。
 小賢しい手を、と大佐は思う。だが下手を打ったな、とも思った。
 ラポヴォの要塞司令アッラシードは百戦錬磨の古強者だ。エゼキエルと同様能力者でもある。アッラシードの指揮ならばきっと要塞に向かった敵部隊は手痛い目にあっていることだろう。
「アッラシードはなんと言っている? こちらから援軍を出して敵の背後をつくべきか?」
 少々きついが、多少の戦力を割いても陣はまだ維持できるはずだ。
 エゼキエルが素早く挟撃の構想を練っていると、
「その‥‥アッラシード司令官は戦死なされました‥‥」
 沈黙が降りる。
「現在はジャコヴァン中佐が指揮を取っています」
「‥‥アッラシードが死んだ、だと?」
 厳めしい顔立ちの男は自失の態で呟きを洩らした。
「‥‥‥‥どうやって死んだ?」
「それが‥‥詳細はこちらまで来ていないのですが、司令は突如として地中より現れた影に呑まれた、と」
 地中。バグアの新兵器か。
「なお要塞戦力は既に壊滅状態とのことです」
 司令が殺された直後の混乱を突かれたらしい。要塞が破壊されるのはもはや時間の問題だと。
 場が静まる。少し離れた前線から爆音が鳴り響いている。
「――現状は理解した」
 エゼキエル大佐は呟いた。
 援軍は来ない。背後は断たれた。補給路も断たれた。退路も無い。
「つまり、我々は孤立した、という訳だ」

●大佐の決断
「‥‥は?」
 その大佐の言葉を聞いて下士官は耳を疑った。
「全面攻勢に出る」
 初老の男はそう言った。
「しょ、正気ですか大佐ぁ?!」
 下士官は思い出す。そうだった。エゼキエル・ジーク、通称死神大佐。その苛烈な戦いぶりからついた渾名だった。
「単に後ろに下がっても喰いつかれる。そして例え犠牲を払って追撃を振り切ったとしてもE75街道上に敵はいるだろう。結局、前後を挟まれるだけだ。後ろに退けなければ前に出るしかない」
「しかしながら、だからといって、玉砕でありますか」
「玉砕? 違うな」
 大佐は口元を歪め、葉巻を咥えると言った。
「博打が適当なところだろう」
 いずれにせよ正気じゃねぇ、下士官はそう思った。
 大佐は火をつけると、煙を吐き出しつつ言う。
「戦力を削られる前に纏めてぶつけた方が、我々が生き残る確率は高い、と見る。幸いな事に前面に展開しているバグア軍の数はそれほどでもない。
 一斉に攻勢をかけこれを殲滅、追撃の手を断ってから改めて北上、街道の敵を突破し、道の分岐点を東南へと抜け、ソフィアへ逃げ込む」
「前面の敵部隊を殲滅する前に、南から敵の増援がやってきたら」
「来る前に潰す」
「そんな事が出来るんですか」
「‥‥貴官はいまいち理解していないようだから言っておくが」
 エゼキエル・ジークは淡々と言った。
「我々の八方は既に塞がっている。現状では我々には進める道がない。退くも出来ぬ、留まるも出来ぬ。我々がいるのは既に地獄の底だ。叩き斬って道を開かぬ限り、何処へも行けんのだよ」

●左軍
 圧力は予想よりも少ない、エゼキエルはそう言ったが、実際には敵はかなりの大軍である。
 右翼の陣を突破し、その奥にあるBP10と区分されている陣へと赤いゴーレムを中心とした部隊が迫ってきている。
 反攻に出る為にもこの赤いゴーレムが率いる部隊を撃破しなければならないだろう。
 赤ゴーレムが率いるこの部隊はドラゴニアンと呼ばれる対KV用の大型キメラが主力となっている。その剣は戦車を叩きつぶし、盾は砲弾を弾き、電撃は一直線に宙を駆け抜け進路上にあるものを薙ぎ払う。
 容易い相手ではない。だがやれない相手でもない筈だ。
 BP10に配置された傭兵の一隊は、KVのコクピットの中で、牙を研ぎ澄ませ決戦の時を待った――

●参加者一覧

セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
ヤヨイ・T・カーディル(ga8532
25歳・♀・AA

●リプレイ本文

 ブジャノヴァクの前線陣、BP10には千人からの歩兵大隊と十機のKVが詰めていた。
「まさか要塞が落ちるなんて‥‥」
 コクピットの中、井出 一真(ga6977)が呆然としたように呟いた。
 先日まで陥落した要塞の201防空隊で戦っていただけに、ショックが大きい。
「口惜しくはありますが、ここは味方の為にも必ずや眼前の敵を撃破しましょう」
 櫻小路・なでしこ(ga3607)が無念を押し殺した表情で言う。
「そうですね‥‥今はとにかく、ここを切り抜けないといけませんか」
「ええ‥‥あとがあっても無くても、ここで何とかしなきゃならない事には代わりありません」
 ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)もまた言った。ベオグラードへの退路を断たれた形になったエゼキエル・ジークはソフィアへの撤退を決定した。
 だが、陣を放棄して撤退するには違いないが、ただ逃げるのではない。
 その前に、南で向き合っている敵を「殲滅」し追撃の手を断ってから北へと向かい、道中の敵も撃破し、それから途中の分岐点で南東へ向かう、というアグレッシヴ極まりない撤退戦だ。眼前のバグア軍を増援が来る前に短時間で完膚なきまでに叩き潰さねばならない。敵に押し寄せられているこの状況からそれを成せという。
「厳しいですが、なんとかする為にも、私達が斬り込み、反撃の道を切り開く必要がある‥‥」
 セラ・インフィールド(ga1889)が呟いた。
「味方を生き残らせる為の血路を開くか。望むところだ」
 威龍(ga3859)が口の端をあげ不敵に笑う。
「陣地の連中は必ず生きてソフィアに向かわせる」
 緋沼 京夜(ga6138)が決意を秘めて言った。
「運搬任務やここで話したあいつらの事、俺は気に入ってるんだ――必ず道を切り開く!」
「うむ京夜、私も尽力しようぞ。支援は任せておけい」
 藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が頷く。偶に緋沼の妹に間違われるが、実際には彼の恋人である。戦場においても息が合っていると定評があるが、さて、今回も上手く決められるかどうか。
 UPC軍と共に陣にて待機する一同の前に、彼方より地を埋め尽くさんとする程のバグア軍が押し寄せてきた。
「あれがドラコニアン‥‥対KV用キメラなのか‥‥!」
 体長七メートルを超える巨大な竜人を見やって井出が戦慄と共に呟いた。
 それに対し、
「‥‥おのれぇぇ!! 舐めたヤツラを投入しおってぇぇぇ!!」
 黄金の龍人、九条・運(ga4694)が激昂していた。
「感情移入したら如何してくれる! 殲滅するのが楽しくなっちゃうじゃないか! 金色のヤツが出てこないかな〜〜なんて思っちゃうじゃないか!」
 竜繋がりか。金色の竜。これまでの傾向から推して計るにアッパーバージョンとして存在しそうではある。
 九条は言った。
「ムカつくから生かしておくものか」
 至極解りやすい理由だ。
「‥‥まあ、なんとかなるだろう」
 UNKNOWN(ga4276)がふっと笑った。
「そうですね。敵も凄いが、こっちも精鋭です‥‥油断しない限り、何とかなるでしょう」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が頷く。
 迫りくるバグア軍を見据え黒服の男が告げる。
「いち早い行動が他の戦いも助ける。行くぞ諸君」
 戦いが、始まった。

●右陣の攻防
 体長七mを誇る五匹の竜人と真紅のゴーレムを中心に、大地を埋め尽くすほどの大小様々なキメラが陣へと押し寄せてくる。
 それに対抗するのは十機のKVとUPCの歩兵大隊。火砲が火を噴き、無数の重機関砲が弾丸を吐き出し、塹壕に籠る歩兵達が無反動砲を撃ち放つ。バグア側からは大小様々なキメラからは火球、冷気、雷撃、石弾、特殊能力のオンパレードが飛ぶ。竜人が顎を開き、荷電粒子の渦を放ち陣を薙ぎ払った。
 歩兵が吹き飛び、大地が砕け、キメラが吹き飛び、炎の柱が轟音と共に噴き上がる。
 そんな戦場の最中にあってUNKNOWNはあくまで冷静だった。
「目標間違えず、一斉正射‥3‥2‥1‥Fire」
 合図と共に十機のKVが集中して一斉に射撃を加える。
 ドラゴニアンの左翼を狙う威竜のR‐01、ヤヨイのディアブロ、セラのディスタン、三機は初撃の目標がづれた。標的が各機合ってない。割とばらばらだ。判断が下しにくい状況の場合、何処を狙うか、もしくは仲間の誰に合わせるか、明確に決めておかないと難しい。陸上なので修正は効く、連射中に気づき各機、火線を合わせてゆく。
 ドラゴニアンの右翼を狙う井出の阿修羅、九条のワイバーン、櫻小路のS‐01、三機は事前の打ち合わせに従い敵の最右翼に標的を合わせて一斉に撃つ。阿修羅がバルカンを猛射し、ワイバーンがレーザー砲を放ち、S‐01がハンマーボールを投擲する。竜人は盾をかざし防御する。鉄球が激突し、強烈な衝撃が突きぬける。竜人が仰け反った。
「もらった!」
 井出が叫んだ。態勢を崩した竜人へとバルカン砲とレーザー砲が嵐の如く襲いかかり、蜂の巣にして撃ち倒す。
 ドラゴニアンの中央を狙うのはUNKNOWNのK‐111、エアハルトのバイパー、緋沼のディアブロ、藍紗のディアブロの計四機。UNKNOWN機は機槍を構え射撃に合わせての前進を試みる。緋沼機はUNKNOWNが狙う敵にターゲットを合わせる事を試みるが、UNKNOWNには射撃がない、少し待つ。
 中央突破を狙うなら必然的にど真ん中か、エアハルトは中央のドラゴニアンの頭部を狙ってリニア砲を発射する。UNKNOWN機はそれに合わせ中央の竜人目がけて動き出す。緋沼も中央へとレーザー砲を放つ。藍紗は竜人とゴーレムとの間に煙幕を張る為に前進し煙幕銃を発射していた。
 エアハルトのリニア砲が竜人の顔面に炸裂する。よろめいた。三条のレーザー砲が突き刺さる。小型のキメラを蹴散らしK‐111が飛び込んだ。グングニルの切っ先を繰り出す。精密に狙い澄まされた刃が竜人の額を打ち割り刺し貫く。
「どきなさい」
 引き抜いた。鮮血が舞う。竜人が倒れた。
 敵左翼、二匹の竜人が射撃を潜り抜け剣と盾を構えて突進する。白兵戦だ。竜人の一匹が大地を揺るがして踏み込み長剣を袈裟斬りに振るう。
「うぉっ?!」
 威竜機に鉄塊が直撃する。よろめいた。竜人が竜巻の如く長剣を振るう。火花が散りR‐01が吹き飛ばされる。歩兵達が慌てて逃げ出す。地響きを立ててR‐01が倒れた。追撃に走る竜人の前にヤヨイ機がヒートディフェンダーを抜き放って立ち塞がった。
「支援機だからって、白兵戦が苦手な訳じゃないですよっ」
 割って入り、振り下ろされる長剣をディフェンダーで受け止める。
 もう一匹はセラ機へと襲いかかっていた。尻尾を唸らせて走り、跳躍して斬りかかる。
「甘いですね」
 セラ機はシールドスピアをかざして受け止め、押し返す。竜の連撃。柄で受け流し、シールドで受け止める。セラ機がカウンターの槍撃を繰り出す。スピアーが竜人の皮膚を突き破り鮮血を噴出させた。
 威竜機が立ち上がる。
「悪いな、援護する!」
 横合いから超接し至近距離からヤヨイ機と斬り合っている竜人へと向けてガトリング砲を猛射する。竜人は素早く後方に跳びすさって回避する。
「その隙は逃しません!」
 ヤヨイ機がアグレッシヴ・フォースを発動させワイヤーを飛ばす。鋼線が竜人に絡みつく。電流を流し込みつつ突進する。凄まじいスパークが巻き起こった。身を震わせる竜人へと灼熱の長剣を掲げて肉薄し、体当たりするようにして突き出した。爆熱の剣が竜人の身を貫通する。掻き回して引き抜く。竜の巨体が倒れた。
 敵右翼、フリーの竜人が井出機に向かって爆雷を三連射する。
「遅い!」
 鋼鉄の四足獣は素早く飛びのいて回避する。竜人へ唸りをあげて鉄球が飛んできた。竜人が身を伏せて回避する。「隙ありだッ!」
 九条機が前進しながらレーザー砲を撃ち放った。六連の閃光が竜人の身を穿つ。竜人の口から咆哮が漏れた。
「このっ!」
 櫻小路機は素早く鉄球を引き戻し、再び投擲した。巨大な鉄塊が飛ぶ。竜人は盾をかざして受け止める。衝撃を殺し切れずよろめいた。その足元へと目がけて井出機が突っ込んでいた。すれちがいざま、備えつけたチェーンソーで竜人の片足を削り切る。膝から下を失った竜人がよろめき倒れ、阿修羅は足をドリルに変形させると、竜人の身へと撃ちこんで抉り抜いた。断末魔の悲鳴をあげながら竜人が絶命する。
 左右の竜人とKVが激しい攻防を繰り広げている間、赤いゴーレムは空中へ高々と跳躍していた。宙でライフルを構え閃光の嵐を地上へと降り注がせる。狙いはUNKNOWN機。
 距離がある、および宙で狙いが甘い。UNKNOWN機は間一髪で飛び退き、機槍で閃光を切り払って回避する。k‐111の背から炎が噴き上がった。k‐111がブーストし前進する。
 エアハルト機が前進しながらリニア砲を撃ち放つ。ゴーレムは宙で慣性制御を発動させると、バーニアを吹かせてスライドする。距離がある。避けられた。
 漆黒のK‐111がバーニアを吹かせ跳んだ。空中戦だ。K‐111が黒き閃光の如く宙を駆け抜け、ゴーレムの上に出る。急降下。ゴーレムが機動する。予測する。機槍を引き絞り、繰り出す。狙いはライフルを持つ肩関節の繋ぎ目、加速する穂先が音速を超えて放たれる。命中。装甲を破り、深々と突き立った。
「落ちたまえ」
 UNKNOWN機は後背からバーニアを吹かせると、そのまま貫き落とさんと槍を突き刺したまま大地に向かって加速する。高速で落下してゆく途中、ゴーレムが生きている腕を用い背からビームアクスを引き抜いた。光の刃を横殴りにK‐111に叩きつける。
 回避。避けきれない。斧刃がk‐111の横腹に叩き込まれる。激震がコクピットを襲い、天地が激しく入れ替わる。
 赤のゴーレムと黒のKVは独楽の如く激しく回転しながら錐揉み状態で地面へと落下してゆく。UNKNOWNは機槍を引き抜く事を試みた。抜けない。深く刺さり過ぎている。諦めた。ゴーレムの身体を蹴りつけ反動で後方へ飛ぶ。動かない。斧が深々と喰いこんでいる。腕で払う。抜けた。地面に激突する寸前再度蹴りつけて離脱、横に跳ぶ。機体を回転させバーニアを吹かせる。勢いを殺し切れない。小型キメラ十数匹を巻き込みながら大地を爆砕した。
 ゴーレムは慣性制御を発動させて地面に降り立つ。小型キメラを蹴散らしながら装輪装甲で駆け、煙幕を突き破って緋沼機がチャージした。機槍ロンゴミニアトを繰り出す。ゴーレムは斧で払った。穂先が焔を噴き爆炎が巻き起こる。
「藍紗!」
 緋沼機は間髪入れずに横に跳ぶ。閃光が空間を縦に割っていた。ゴーレムのビームアクスだ。これを回避しようとした訳ではなかったが、結果的に避けた。
 射線が通った。
「一点突破、一撃必殺こそ、ディアブロの本領――」
 緋沼と共に煙を抜けた藍紗機はM‐12帯電粒子加速砲をチャージし狙いを定めていた。アグレッシブ・フォースが発動しSES機関が唸りをあげる。
「行くぞ《鴇》!!」
 爆裂する電磁の波動。眼も眩む程の光の洪水が赤いゴーレムに向かって解き放たれた。

●烈閃
 セラ機と格闘する竜人が竜巻の如く剣を振り回す。セラ機はシールドスピアで受け流し、払い、巻き上げる。槍を剣を絡め抑えにかかる。竜人の動きが一瞬止まった。
「今です!」
「応!」
 威龍機が狙い澄ましレーザー砲を放つ。命中。竜人がよろめいた。ヤヨイ機がワイヤーを放つ。感電させている間に接近し、ヒートディフェンダーで斬り倒す。敵右翼の三機はキメラを蹴散らしつつ前進している。
 光の波動がゴーレムに襲いかかる。宙を焼き切り、凶悪な破壊力を秘めて飛ぶ。赤いゴーレムは慣性制御を発動させている。横にスライドする。光の帯はゴーレムの左肩を焼いて通り過ぎていった。
「ヒートディフェンダー、ロード・カートリッジ!」エアハルト機が間合いを詰めている。「【シャスール・ド・リス】所属、クラーク・エアハルト、行きますよ!」
 灼熱の長剣を振り上げ大地を揺るがして斬りかかる。ゴーレムはビームアクスを掲げ、長剣を受け止める。地響きをあげて激しく押し合う。ゴーレムの肩で火花が散った。ゴーレムが飛び退く。エアハルト機が連撃を繰り出す。ゴーレムは横にスライドしてかわす。
 UNKNOWN機が焔を噴き上げながら肉薄した。腕を伸ばす、掴んだ。突き立っているグングニルを引き抜く。地上なら抜ける。構えた。ゴーレムの斧が振り下ろされる。機槍を加速させ放つ。
 ビームアクスがk‐111のコクピットに叩き込まれている。グングニルがゴーレムの脚部を貫いている。
「惜しいな」
 UNKNOWNが呟いた。斧が男の頭上、風防に食い込んで止まっている。ゴーレムの左肩から激しい漏電が見えていた。
「――チェックメイト。お前の心の神に、幸あらん事を‥‥」
 緋沼機が横合いから突っ込んだ。ゴーレムが斧を手放し、槍を引き抜き飛び退く。ディアブロが追う。ロンゴミニアトを繰り出した。突き立つ。瞬後、爆裂が巻き起こり。ゴーレムの装甲が内側から吹き飛ぶ。猛烈な破壊力が荒れ狂った。
「お前は強いが、俺達の連携だって負けてなかった‥‥って事だな」
 緋沼機はSES機関を全開にさせると雪村を引き抜いた。長大な蒼い光が出現する。振り下ろされた刃は、真紅の装甲を深々と斬り裂く。致命傷を負ったゴーレムは次々と爆発を起こし、ついに倒れる。
 それを見ていたUPC軍から盛大な鬨の声があがった。

●結果
 かくて指揮官機を撃破し竜人を全滅させたBP10KV隊はUPC軍の歩兵大隊と共に前進し、敵左翼のキメラの群れを潰走へと追いやった。
 他の二陣の部隊も敵を撃破し反攻を開始していた。エゼキエル・ジーク率いる部隊は前面攻勢にうって出るとバグア軍を散々に叩きのめし、これを撃破した。
 特に被害の軽かったBP10部隊はKV隊を先頭に立てて快進撃を続け、全体の作戦に大いに貢献した。
 傭兵隊のKVは左翼で大破したのは二機のみであったが、中央は死闘であり九機が大破していた。エゼキエル・ジークは破壊されたKVはバラして貨物車に搭載させ、大破まではいかなくとも損傷の出ている機へは応急処置をするよう命令をくだした。
 ブジャノヴァクの師団は準備を整えると手早く陣を引き払いKV隊を先頭に立てE75街道を北上した。
 ジーク師団は南下してきたバグア部隊を撃ち破ると道の分岐点を南東へと入り、E80を下ってソフィアへと撤退したのだった。