●リプレイ本文
春の某日、十人の傭兵がマドラガンの町の役場に集まっていた。
「俺は蓮沼千影。マドラガンの平穏のために、俺も尽力させていただきます、町長さん」
蓮沼千影(
ga4090)が熱い口調で言った。
「有難う、ミスター蓮沼。どうかよろしく頼むよ」
ルーサー=ハルドラッドが右手を差し出し握手する。次いでヘッドライトの貸与を希望する者達は町長からそれを借り受けた。
「盾で頭も護りつつ、絶対に壊させないスよ!」と蓮沼。
「備品は限られてるからね。そうしてもらえると有難い。ただ、ライトを守って命を落とすようなことはしないようにね」
「了解ッス!」
「町長、情報を纏めておきたいのですが、よろしいかしら」
一同が準備をしている傍ら、ラピス・ヴェーラ(
ga8928)がハルドラッドに問いかけた。
「うん、何を聞きたいんだい?」
「件の洞窟ですが、ホールの奥や通路途中に抜け道等はありますか?」
「うーん、鬼が手を加えてなければ、特には無いと思う。しかし完全に無いとも言いきれないな。こればっかりは、あちらさんの都合だからねぇ」
「なるほど‥‥」ラピスは頷き、「洞窟の地図があれば、お借りしたいのですが」
「地図は無いんだ。山にある無数の穴ぼこを調べる予算があったら、芋の一つでも買ってくれって町だからね。すまない」
と苦笑してハルドラッド。
「まぁ昔日の私の記憶を元に描き起こされるあやふやなもので良かったら、提供することは出来るけど」
「町長の?」
「山は良い遊び場だったんだよ。海はカナヅチだから寄りつかなかったけどね」
と言って男はさらさらと紙に地形を描きつけてみせた。
「町長」
受け取った用紙を眺めつつラピスは言った。
「‥‥絵心はあまりありませんのね?」
「ほっといてくれないかねぇ」
冴えない容貌の男はそういって口元をひきつらせたのだった。
●マドラガンの鬼人
「俺、この依頼が終わったら結婚するんだ」
風に揺れるアフロヘッドも凛々しい巨漢、増田 大五郎(
ga6752)が一同に言った。
「わ、わ、わ、増田さんおめでとうございます〜」
シエラ・フルフレンド(
ga5622)がぱちぱちと両手を叩き、破顔する。
「なにぃぃぃっ? そいつぁきっと死亡フラグだ。墓にはなんてぇ名を刻む?」
大剣を担いだ偉丈夫ががばりと振り返る。 雷(
ga7298)だ。
増田は答えて言った。
「嘘です」
一同から白い眼が突き刺さった。
「‥‥いや、ちょっと、不安にかられたもので」
と増田。曰く、彼は魂のアフロカツラは外すことが出来ないのでヘッドライトを使えない。故に、片手にランタンを持ちながらとなり、本来の戦闘スタイルでは戦えない事が予想されるのだった。
「じゃったら、そんな台詞言ったら余計危なかろうに」
妙齢の美女然とした秘色(
ga8202)が言う。
「マイナスと‥‥マイナスかけると‥‥プラスになるとは言うけれど‥‥」
年の頃十二、三の少年がぽそぽそと呟いた。リオン=ヴァルツァー(
ga8388)だ。
「いやぁ、なんとなく口走りたくなりまして」
一同がそんな事を言っていると、ヘッドライトを装着している瓜生 巴(
ga5119)が口を開いた。
「まぁ、大丈夫ですよ」
自身の額をさして言う。
「これ、むしろ的だから」
暗闇に光る。眼をひく、狙う、撃つ、頭部、急所、むしろ的。道理だ。
「‥‥注意した方が良さそうですねぇ」
ナオ・タカナシ(
ga6440)が頬を掻きながら言った。頭部を石榴にされたら能力者といえども一撃死だ。
そんなデス装備に身を固めつつ一同は山へと向かう。
「今度は鬼人か‥‥面白い‥‥如何なるキメラであろうと斬り捨てるのみだ‥‥」
土が剥き出しになっている山道、吹き荒ぶ風に黒衣を翻し八神零(
ga7992)が呟いた。
「お肉の味濃い目にしてきたんですけど小鬼さん達、美味しそうに思ってくれますかね〜っ♪」
ビーフシチューの入った容器を手にシエラがほのぼのと言っている。
「鬼人は恐らく雑食‥‥しかし、襲撃を繰り返す事から肉を好むと見る‥‥」
冷静に分析して八神。
「なるほどなのです。お肉多めで良かったですよ〜っ」
とシエラ。
「それにしても、時々街道に出て人を襲うなぞ、中途半端じゃのう。人を襲うは困るが、気張りようが足らん鬼人じゃな」
秘色が杓文字片手にそんな事を言っている。
「‥‥確かに、ふと思ったんですけど、夜行性の街道荒しってかなり閑職では?」
瓜生が小首を傾げ疑問を洩らす。
「うーん、昼間担当のキメラも別にいるんじゃないでしょうか? 鳥とか」
ナオ・タカナシが少し考えてから言う。つでにこの現代、陸海四方の道が交わるマドラガン周辺は夜でも十分以上の物流がある。トラックの運ちゃんは闇夜を疾走するものだ。
登山すること数時間、やがて一同は目的の洞窟付近までやってきた。
茂みの陰に隠れて様子を伺う。穴の前に鬼人が二匹立っている。体長は130センチのリオンより少し大きい程度、肌の色は赤で、簡素な腰布を巻いている。また腰に剣を佩き、小袋を提げていた。
密かに風上へと移動するとビーフシチューと肉を地面へとばらまいた。シチューの美味そうな匂いが漂ってゆく。
鬼人達が反応した。何やらフガフガと鳴き声を交わしている。やがて一匹が撒餌の方へとやってきた。一匹は穴の前に留まっている。
餌へと歩いてゆく鬼の横合い、茂みの陰から雷が足払いを繰り出した。赤壁が展開する。が、衝撃は通る。鬼が呻きをあげてバランスを崩す。蓮沼と増田が先手必勝を発動させて飛び出し、太刀を振って鬼を大地に突き倒した。咆哮が上がる。即、途絶えた。倒れた鬼の首に雷のコンユンクシオが叩き込まれていた。
「潰れちまいな!」
三人の剣士はさらに乱打して完殺する。
洞窟の前の歩哨にはナオとシエラが練力を全開にして弓矢で攻撃を仕掛けていた。共に即射を発動し、眼にも止まらぬ速さで次々と射る。凶悪な殺傷能力を秘めた煌きの流星が襲いかかった。それ対して鬼人が叫びをあげるよりも早く、ナオ・タカナシの豪矢が鬼の喉元を貫き通していた。構造上、急所は人と似通っているようだ。喉をやられては叫べない。喉元を抑えながら鬼人は仰向けに倒れ、動かなくなる。
ラピスが洞窟前の歩哨に近寄って生死を確認する。
「お亡くなりに‥‥なってますわよね?」
死亡しているように見えるが、相手は生命力が強靭な鬼だ。念の為、超機械を発動させて電磁嵐を叩き込んでおく。
一同は洞窟の前に落とし穴を掘って鬼人の逃走に備えると、洞窟内部へと突入した。通路で一度に横に並べるのは三人程度であったので、先頭、蓮沼、増田、雷。二列目、瓜生、八神、リオン。三列目、秘色、ラピス。殿、シエラ、ナオの隊列で進む。
闇の通路にライトやランタンを翳し進んでゆくとやがて北と西への分岐点に出た。
シエラは隊を離れ西側通路へと入る。
(「一人はちょっと心細いのですよ〜っ」)
そんな事を胸中で呟きつつ、山林で拾っておいた枝を通路に撒き、分岐点に戻ると北側で身を隠す。
一方、北通路を直進した本隊では雷が通路に煌きを発見していた。通路前方、くるぶしの辺り、線が伸びている。一同に制止を促しリオンを呼ぶ。エキスパートの少年が探査の眼で調べる。鋼線だ。壁の左右へと伸びている。見やれば窪みが出来ている。皿のようなものの上に石が乗っており、逆側には銅鑼のようなものがあった。
「なんだか解るか?」
蓮沼が声を潜めて問いかける。
「多分‥‥警報装置の代わりじゃないかな。鋼線をひっかけると、石が飛んで左のそれにあたって音が鳴るって仕組みだと思う」
覚醒により喋りが流暢になっているリオンが小声で説明する。
「外せるか?」
ひょいと上から覗きこみつつ増田。
「下手にいじるより、避けていった方が無難、かな‥‥ああ、でも、越える時は通路の左右へ避けて行って。鋼線を跨いだところの中央、多分、落とし穴になってる」
「二重かよ、危ねぇ」
雷がぞっとしたように呻いた。
リオンは再び後退し、一同はトラップを避けて前進する。ただし、小柄なリオンは思うのだ、三人の偉丈夫の後ろから、前が良く見えないな、と。しかし、隊列には様々な要素との兼ね合いがあり、一概には言えない。今回は最前列の雷も特に注意して警戒しているようだし、余程凝った罠でない限り大丈夫だろう、多分。
雷が罠を発見し、リオンがそれに対処する。それを繰り返しながら一同は奥へと進んでゆく。
やがて情報通り広い空間が見えてきた。八神は早速、照明銃を撃ちこもうと思ったが、ふと気付く。あれは一定距離を飛ぶか、何かに当たってから炸裂するものだろう。ホールの奥の壁に当てた場合、こちらが逆光になる。少し考えたが、上手い撃ち方が思い浮かばなかったので止めておいた。
一同はホール入口へと差しかかる。ライトで洞窟内を照らす。いた。光の中に鬼人が四匹、寝ている。鬼人の一匹が光を浴びて、身をよじらせ顔を向けた。
最前列の蓮沼は既に飛びだしている。鬼人の多くは寝ている、寝てる相手に照明銃を撃ちこんでも意味はない。増田はそのまま駆ける。雷もまた駆け出した。身をよじらせた一匹が目を開く、傭兵達を見た。
二列目、瓜生がホールに飛び込み、横に逸れつつ、レイ・エンチャントを発動させエネルギーガンを連射する。八神が駆けだす。鬼人が叫び声をあげた。瞬後、二連のエネルギーガンが爆裂する。起き上がる前に鬼人が吹き飛んだ。後方に転がりながら鬼人が立ち上がる。
秘色が間合いを詰める。その後ろからナオが続き、横にそれ、矢を番える。リオン、ラピスもまた前方へと走りホールへ飛び込んでいた。三匹の鬼人達が跳ね起きる。増田は足を止め照明銃を取り出した。雷は右に出るとトランシーバーを取り出し罠に注意しろと言いつつシエラに連絡を入れている。
蓮沼は盾と小太刀を放り捨て、蛍火を抜き放っていた。八双に振りかぶり、血塗れになっている鬼人へと間合いを詰める。裂帛の踏み込みと共に袈裟斬りに振り下ろす。切っ先が鬼の肩口から入り、腹へと抜けた。血飛沫が吹き出す。
「照明撃ちますッ!」
増田が合図を出す。その間に蓮沼が二太刀目を浴びせ、「手伝おう」と八神が蓮沼に並んで太刀を突き出し、鬼人の肩を抉っていた。雷はコンユンクシオを抜き放って駆けだしている。三匹の鬼人が石を振りかぶる。
近接がやりあっている鬼人に対し瓜生は斜めに位置どっている為、精密にやれば狙えない事もないが、二人と一匹が激しく斬り合っている状態だ。誤射が怖い。彼女のエネルギーガンは一撃の威力が凄まじい。押しているようだし危険を冒しての援護はいらないだろう。瓜生は一瞬でそう判断を下すと、フリーになっている一匹へと標的を変更し光線を連射した。ナオがそれに合わせて矢を撃ち放つ。リオンも盾を構えつつ拳銃を発砲し、ラピスが超機械を発動させる。
増田は照明銃の狙いをつけていた、何処を狙って撃つ? この状況、様々な原因が、ただ撃ちさえすれば良い訳ではないと言っている。一瞬で考える。振り返る。背後の壁に向かって撃ち放った。
礫が瓜生、雷、ラピスへと向かって飛び。エネルギーガンが炸裂し、矢が突き立ち、銃弾が抉り込み、蒼光の電磁嵐が爆裂を巻き起こす。
照明弾が炸裂し、傭兵達は閃光を背負う。逆光に鬼人達が怯む。
「終わらせる‥‥!」
八神の月詠が紅蓮の光を纏った。左の太刀を突き刺すと、間髪入れずに右の紅蓮を振るった。唸りをあげて月詠が振り下ろされ鬼人の頭部を叩き割る。
先に放たれた礫が光の中を豪速で飛ぶ。飛来した石弾を瓜生は頭を振って間一髪で避ける。音速で礫が飛来する。ラピスへのそれはリオンが盾を掲げてブロックした。轟音と共に盾に石がぶち当たって砕ける。展開した障壁をも突きぬける衝撃に盾持つ腕が痺れた。雷への礫は直撃していた。
「堅忍不抜!」
男は割れた額から血を流しライトの破片をまき散らしながら閃光の中を突進する。ヘッドライトがクッションになったおかげで一撃で死ぬまではいかなかったようだ。視界が回って吐き気がしたが気合で走る。投擲してきたフリーの鬼人へと向けコンユンクシオを振りかざした。爆熱の輝きが大剣に巻き起こる。
「奥義・神殺しの血炎葬ーー!!」
鬼人に肉薄すると、竜巻の如く紅蓮の大剣を振るう。入った。横薙ぎの一撃を受けて鬼人が吹っ飛んでゆく。だが真っ二つとはいかなかった。鬼人は地を転がりつつ砂煙をあげて起き上がる。
吹っ飛んだ鬼人へ追いすがり秘色が間合いを詰めていた。至近距離からスコーピオンをフルオート射撃させ弾丸を吐き出しながら突っ込み。側面に踏み込んで小太刀で流し斬る。
「成敗!」
血飛沫が飛んだ。だが鬼人は頑強だ。みるみるうちに傷口が再生してゆく。
蓮沼、増田、八神が駆けだす。瓜生、ナオ、リオンはターゲットを合わせて別の鬼人へと射撃を集中させる。エンチャントされた四連の閃光が爆裂し、二連の豪矢が突き刺さり、猛射された弾丸が鬼人の肉体を抉ってゆく。血塗れになって鬼人が吹き飛び、動かなくなった。
「私の前で倒れることは許しませんわよ」
ラピスは雷へと練成治療を二重に発動させる。痛みが引き細胞が再生していった。秘色はスコーピオンを連射する。鬼人は横に動いて軸を外して回避し、剣を振るう。肩をかすめ斬られた。血飛沫が飛ぶ。雷が突っ込み、横合いからコンユンクシオの切っ先を突き出した。鬼人はスウェーして回避する。体勢が崩れた所へ秘色がスコーピオンを猛射し、弾丸を叩き込んだ。
そこへ蓮沼、増田、八神が突っ込んできた。
「再生する間もないくらい、素早く倒してやらぁっ」
「擂り潰してやる!」
怒涛の如く三人の剣士によって十二連の刃が振るわれ、鬼人は滅多斬りにされ血飛沫をあげながら倒れる。ラピスは秘色へと練成治療を発動させた。肩の傷が癒えてゆく。
最後の鬼人は背を向け逃走に移るも、後背から瓜生のエネルギーガンとナオの弓、リオンの拳銃と、秘色のスコーピオン、ラピスの超機械が襲いかかる。烈光が閃き、矢が音速を超えて突き刺さり、弾丸が次々と撃ちこまれ、蒼光の電磁嵐が荒れ狂う。圧倒的な破壊力の前に細胞を再生する間もなく絶命し、倒れた。
「皆さん、援護にきたのですよ〜!」
アサルトライフルを構えてシエラがホールに飛び込んできた。
「‥‥あれ?」
途中の罠に少しひっかかったのか、多少煤けてる少女はきょろきょろと周囲を見回す。
「もしかしてっ、もう終わっちゃってますか〜?!」
一同は少女を見てこくりと頷いたのだった。
かくて洞窟の鬼人は退治され、マドラガンの町を取り囲む脅威はまた一つ減少した。
しかしキメラの数は無数であり。町にはまだ脅威が残っているのが現状だ。
だが別の脅威に関してはまた別の話であり、洞窟の鬼人にまつわる物語は、これにて一巻の終わりとさせていただこう。
了