タイトル:間隙の攻防マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/12 09:10

●オープニング本文


「‥‥正気ですか?」
 司令室にまだ若い将校の押し殺した怒声が洩れた。鍛え抜かれた体躯を持つ偉丈夫、不破 真治(gz0050)である。
「少尉、言葉を慎みたまえ」
 厳めしい顔立ちの士官が言った。
「納得できません。せめて武器くらいは自由に使わせていただきたい。我々に死ねと仰るか」
「そんなつもりは無いが、物が無い。やってもらうしかない。君達ならやれると信じている」
 調子の良い事を!
 不破は再び噴出しかけた怒りを辛うじて飲み込む。
「――ヨーロッパの攻防の為に兵力が移動している。ここに残っている者で、君達以外にこんな事をやれそうな者がいるかね?」
 士官は卓上で手を組み、俯き加減に言った。
 不破真治は士官を睨み据えると、
「了解しました。一分、一秒が惜しい。しかし、せめて燃料は、十分な量がいただけるんでしょうね?」
「三十だ」
 耳を疑う。
「‥‥司令は折角取り戻した対馬島をバグアに売り渡したいのですか?」
「少尉、君は礼儀を知らんのかね?」
「ならばお聞きしますが、死地に赴く連中に武器はおろか燃料まで満足に渡さんというのが礼儀ですか。燃料ならばまだ余裕がある筈です」
「‥‥君は上官の命令には忠実だと聞いていたのだがね」
「納得できる命令なら従いますが、納得できない命令には従いません」
「長生きせんぞ若造」
「早死にしたいんですか年寄り。今回に限っては長生きしたいから言っている。貴方も良く考える事だ。節約なんてものは、勝利して初めて言える言葉です。我々が突破された時、貴方が座っているその椅子が、プロトン砲で射抜かれないという保証はどこにあるのです?」


「緊急発進司令だ」
 再建が進められている対馬空港で、居並ぶ傭兵達を前にして不破真治が言った。
「北方より小型ヘルメットワームの編隊が五機、対馬島に接近中との報が入った。
 司令部の見解によれば恐らくは威力偵察。こちらの戦力がどの程度残っているか確かめに来たのだろうという事だ。
 不味いことにこちらの兵力は減っている。だからこそ、ここで弱味を見せる訳にはいかん。
 最新の情報によれば、敵のヘルメットワームは従来のものよりさらに火力、装甲が上昇しているという。この辺りの連中に限っては機動力は据え置きのようだが、元々が速い。相当の腕か機体性能を持ち得なければミサイル以外はまず当たらんと考えて良い。
 これを、こちらが一機も撃破されずに撃退せよ、との命令だ」
 敵に弱みを見せてはいけない、という事情もあるが、兵力、物資、資金が逼迫しているという事情があった。パイロットが負担していなくても修理は実際にはタダではない。当然の事だが軍等が負担しているのだ。
「なお今回は――使用可能な武装は二つだけだ。主兵装が一つに副兵装が一つのみ、アクセサリ類はさすがに関係ないが、武器は二つのスロットしか使用が許可されていない。燃料に限っては百パーセント使える。こっちは命を賭けるんだ、遠慮はいらん、フルに活用しろ。
 これでも厳しいが、なんとかしなければならん。
 司令部の見解によれば、敵の目的はあくまで偵察、無理はしないだろうという話だ。撃墜される前に離脱するだろう、と予測を立てている。現在の情勢を鑑みれば、一理はある。
 だが俺が敵なら押せる時は押せる所まで一気に押す。そういう意味でも、弱味を見せる訳にはいかん。
 故に今回は初手の一斉同時攻撃は特に推奨できない。
 敵が一斉に同時攻撃を行えるのは、こちらがある程度の速度で固まっているからだ。同じ射程の武器でタイミングを合わせて一斉同時攻撃を行おうとすれば、自然そうなる。こちらは一斉に同時に撃てるが、相手は一斉に同時に撃てない、そんな状況は真っ正面から同射程でやる場合まずありえない。
 一機は撃破出来るが、引き換えにこちらも一機撃破される、という状況になりがちだ。
 故に同時攻撃はされぬように機動するのが無難だ。
 無論、相手の一波を防ぎきる自信があるのなら一斉攻撃を許可する。敵の一斉射を凌ぎつつもこちらの火力を集中させられれば、主導権は大きくこちらに傾くだろう。
 妙案があるならば、言ってくれ」

●参加者一覧

エスター(ga0149
25歳・♀・JG
稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL

●リプレイ本文

 対馬島の空港、その一室に十一人の能力者達が集まっていた。
「敵影確認後、各員担当敵機を確認。左より番号順に。ミサイルの射程に入る直前に散開、ロッテに分かれて機動。各機別の角度から侵入。目標に攻撃を仕掛ける――」
 稲葉 徹二(ga0163)がディスプレイの上へと指を滑らせつつ作戦の最終確認を行う。
「以上で問題無いでありますか?」
 一同は稲葉の言葉に頷く。
「今回の状況なら妥当だろう。いけると思うぞ」
 不破 真治(gz0050)はそう評した。
 迎撃部隊の隊員達は手早く作戦の打ち合わせを終えるとハンガーへと走る。
「兜ヶ崎以来ね、不破准――もとい、少尉。昇進おめでとう」
 リン=アスターナ(ga4615)が不破真治の横へと追いつくと言った。
「アスターナか、有難う。厳しい局面だが、行けるか?」
 不破は駆けながら肩越しに視線をやる。
「ハードなのは毎度のことよ。今回も私たちで何とかしましょ‥‥貴方も知ってる人の受け売りだけどね」
 戦友の顔が脳裏をかすめる。きっと、今日も何処かの空の下、煙草を吹かしながら戦っているに違いない。
「耳にタコができるほど聞かされてるとは思うけど、突出は厳禁よ?」
「解ってる。俺だってこれだけ言われりゃ大人しくしてるさ」
 苦笑して不破は言った。
 その逆サイドからくすくすと笑い声が響いた。
「空でも特攻してるんですか? 不破さん。何か不破さんの特攻、皆の中でも有名だったので」
 智久 百合歌(ga4980)が言った。
「俺は特攻はしていないぞ、突撃してるだけだ」
 と不破。突っ込む事には変わりなし。
「今回は特攻ならぬ、突撃師匠の不肖の弟子がガツンとHWを叩いてきますから、後方で支援しててくださいね」
 智久はそう片目を瞑って笑ってみせた。
「‥なるほど、そういえば、なんだかんだで智久が何時も斬り込み頭をやってるな」
 獲物と速度の関係でそうなるのだろう。不破は苦笑すると、
「弟子のが優秀そうだが、それではよろしく頼む。だが無茶はするなよ」
「了解!」
 各員はハンガーへと駆けこむ。
「あれだけ苦心して仲間と共にバグア共を対馬から追い払ったんだ。彼らの留守中に対馬を奪われるような事でもあったら顔向けが出来ない。何としてもヘルメットワームを墜とし、対馬を護りきってみせる!」
 F‐104バイパーのコクピットの中へと飛びこみ榊兵衛(ga0388)が言った。
「確かにな、せっかく取り返した対馬だ。そう簡単に渡せるか!」
 覚醒した鋼 蒼志(ga0165)もまた愛機へと乗り込み気を吐いていう。武装が制限されているが各員の士気は高い。
「しかし今回は家計のやりくりの為節約ッスか。無理しないと節制できねーってのは何処の家庭も同じッスね」
 無線に向かってエスター(ga0149)が言った。各種スイッチをONへと入れてゆく。
「こちらの台所事情が厳しいことは相手も薄々察しているようですね‥‥厳しいですが弱みを見せるわけにはいきません」
 セラ・インフィールド(ga1889) は機器へと視線を走らせる。システムオールグリーン。
「なに、ライフルとミサイルがあれば武装は十分、燃料も満タン。整備も十分なんだ、文句は無い。やってやるさ」
 伊佐美 希明(ga0214)が不敵な笑みを漏らした。
「少尉さん、皆さん‥‥そしてワイバーン‥頑張りましょう‥‥!」
 ワイバーンの操縦桿を握り、独白するよう呟いて、藤宮紅緒(ga5157)は小さく頭を下げる。
「目にモノ見せてやろー! おー!」
 ハルカ(ga0640)が快活に声をあげた。空への扉が開く。エンジンが焔を噴き上げる。
 十一機のKVが滑走路へと乗り出し、轟音をあげながら空へと躍りあがって行った。

●対馬防空戦
 KVの編隊が北の空へと向かって飛ぶ。やがてレーダーに五つの光点が出現した。
「来たな、腕が鳴るぜ」
 伊佐美が言った。
「各機、識別は西から設定せよ。以降、交戦を許可する」
「了解」
 目視距離に入った。ヘルメットワームの編隊が蒼空の彼方に見える。不破機が機首を翻し、残りの十機のKVが加速する。ヘルメットワームもまた迎え撃つように加速した。
 傭兵達は射程に入る前に散開し、それぞれ別方向、別角度から向かう。
 八方から攻めても、通常の攻撃任務なら、ヘルメットワーム達は火力集中戦術への備えを確かめる為にも一当てするだろう。だが今回はある機動を懸念したのか、AIが博打を避ける慎重な設定になっていた。HWもまた八方へ散った。
「伊達に不破さんの突撃は見てないわよ!」
 智久機が編隊の端にいるHW1へと向けマイクロブーストで加速する。プロトン砲が飛んできた。閃光に装甲の表面が吹き飛ぶ。
「Cavalry2、FOX‐2!」
 稲葉機はHW2へとロックオンしていたミサイルを解き放つ。閃光が撃ち返された。一発避けて一発当たった。
「突っ込むよ!」
 ハルカ機はHW4へと格闘戦を仕掛けるべく飛ぶ。プロトン砲が迫る。閃光が翼を薙ぎ、削ってゆく。
「ディスタンの長所は硬さだけではないというところを見せてあげましょう」
 セラ機もまたアクセルコーティングを発動させHW5へと突進、その後方よりアスターナ機が空対空エネルギー砲を撃ち放つ。
「行くッスよ!」
「鋼鉄のバイコーンが巻き起こす暴風―――食らうがいい!」
 エスター機がHW2へと向けロケット弾を連射する。鋼機もまたブースト空戦スタビライザーを発動させ、HW3へと遠距離からロケット弾を撃ち放つ。迎え撃つよう鋼機へとプロトン砲が飛んできた。避けきれない。鋼機、物理装甲は厚いが非物理装甲は少し薄い。プロトン砲が装甲を削り取ってゆく。
 伊佐美機はスナイパーライフルD‐02で狙撃し、榊、紅緒の両機はそれぞれHW4とHW1へ雷撃を飛ばした。
 HW1は智久機へとプロトン砲を放って急上昇する。紅緒機からの雷撃が炸裂し放電の手に絡め取られる。プロトン砲を突き破って智久機が下方から超音速で突撃し、すれ違い様、刃の翼で掠め斬った。
 HW2が稲葉機へとプロトン砲を撃ち放ち、急降下する。二連のミサイルが直撃したところへ、さらにロケット弾が突き刺さり爆発が巻き起こる。
 HW3は迫りくる八発のロケット弾の半数をかわす。爆炎を裂いて飛びだし、間合いを詰め、鋼機へと反撃の閃光を撃ち放つ。二連のライフル弾が飛んできて、HWの装甲を穿った。
 HW4はハルカ機へと閃光を連打してから急旋回する。だが榊機から放たれた雷撃は逃がさなかった。放電の嵐がHWを捉える。ハルカ機が迫り、嵐の如くガトリング砲を叩き込んだ。
 HW5が急降下する。放たれる砲弾の一発を回避、二発目も避けた。セラ機が回り込み、ソードウイングをかざして迫る。ヘッドオン。HWはローリングしながら紙一重でその脇をすり抜けた。急上昇、アスターナ機へと向かう、音速で間合いを詰めプロトン砲を連射。光の帯が突き刺さった。損傷率二割一分。
 ヘルメットワームはそのままアスターナ機の後背へと回り込もうと旋回する。格闘戦だ。錐揉み状にKVとHWが旋回する。お互い簡単には背後は譲らない。ヘルメットワームの慣性を無視した機動にリンはKVのジェット噴射ノズルの噴出角度を調節して急角度の旋回で対抗する。
「食い破れ‥‥ッ!!」
 機体を捻り込みつつアスターナ機から集積エネルギー砲が発射される。空を切り裂いて砲弾が飛び命中、強化されたヘルメットワームの装甲を突き破った。
 ヘルメットワームが加速した。慣性を無視したマッハ6の速度で宙返り、アスターナ機の背後へと捻り込む。烈光が爆裂した。十六連のフェーザー砲が空を紫色に焼き尽くし、R‐01を飲み込み、次々に装甲を消し飛ばしてゆく。激震がアスターナ機を襲った。損傷率六割一分。少し不味いか。
「Cavalry7、FOX‐2!」
 セラ機から誘導弾が飛んだ。加速状態のHWが急降下する。ミサイルが追う。命中。爆発が巻き起こる。セラ機はHWへ向かって間合いを詰める。ソードウイングの間合いが遠い。軌道を読み、小回りを効かせて追う。
 ハルカ機とHW4は蛇が絡み合うが如く激しく背後の取り合いを繰り広げている。榊機はブースト空戦スタビライザーを発動させて加速すると、小周りでHWの旋回の内側へ回り込もうと試みる。バイパーが音速を越えて飛び、ロールし、翼が空圧に悲鳴をあげる。
「ぬぅ‥‥!」
 コクピットが揺れ、天地が激しく入れ替わる。視界にHWの巨体が飛び込んできた。身を軋ませるGに歯を喰いしばって耐え、ガンサイトに機影を収める。操縦桿のボタンを押し込みレーザー砲を発射。六連の閃光が飛んだ。命中。ヘルメットワームが急上昇する。
「そこッ!!」
 ハルカ機は旋回してそれに追いすがるとリロードしつつガトリング砲を猛射する。強烈な威力を秘めた弾丸がスコールの如く降り注ぎ、HWを蜂の巣にしてゆく。
 不意にヘルメットワームの姿がハルカ機の視界から消えた。瞬後、風防から紫の光が溢れ、後方から猛烈な衝撃が機体を貫いてゆく。
 ヘルメットワームが加速し、慣性制御で翻っていた。ハルカ機の後背から十六連の猛攻をかける。R‐01の装甲が凄まじい勢いで削られてゆく。損傷率五割。ハルカ機、タフな造りだ。
「もらった!」
 鋼機が咆哮をあげた。暴風の如くロケット弾ランチャーをまき散らし、紅蓮の爆裂を巻き起こす。HW3が加速した。爆炎に呑まれながらもプロトン砲を猛射する。四連の紅の閃光が鋼機を飲み込み、装甲を抉り取ってゆく。損傷率七割三分、レッドランプだ。
「敵の新型に比べれば、ヘルメット程度‥‥止まって見える」
 爆炎の中のHWへと狙いをつけ、伊佐美機がライフル弾を撃ち放った。アグレッシヴ・フォースの威力が乗ったその弾丸はHWの装甲を穿ち、突き破る。
「やってやらぁな!」
 光を突き破りXN‐01が突撃した。稲葉は正面に敵機を捉えるとレティクルに機影を納め、レーザー砲のボタンを押し込む。ナイチンゲールのSES機関が唸りをあげ、蒼の閃きが連続して飛ぶ。HWが加速し、反撃のフェザー砲を解き放つ。十六の紫光が飛んだ。
 六連の蒼光がヘルメットワームへと閃き、十六連の紫光がナイチンゲールを飲み込む。ヘルメットワームの装甲が爆裂し、ナイチンゲールの装甲が吹き飛んでいった。
 両機は格闘戦に移行し、エスター機はHWへと精密に狙いを定めた。ガンサイトに機影を納めライフル弾を連射。二連の弾丸がHWへと飛び、その装甲をぶち破る。
 智久機とHW1は格闘戦に移行している。紅緒機はワイバーンの機動力を活かして素早くHWの背後に迫ると、レーザー砲を猛射した。HWの装甲が裂光を受けて爆ぜ飛んだ。HWが加速した。斜め上方へと翻り、急降下して紅緒機の背後に捻り込む。十六連の紫光が爆裂した。ワイバーンの装甲が猛烈な勢いで吹き飛んでゆく。
 智久機は機体を翻すと、HW1の下方からソードウイングで突撃をかけた。矢の如くワイバーンが天へと向かって抜けHWの装甲を叩き斬る。
 ヘルメットワームの巨体が揺らいだ。ワームは海面へと向かって落下してゆく。激突寸前、超加速し、海面を音速波で叩いて左右へと水柱を噴き上げつつ北の方角へと極超音速で飛んでゆく。
「逃がすわけないでしょ?」
 智久機は追いすがるとその背に向けSRD‐02を撃ち放つ。ライフル弾が命中。煙が噴き上がっているがまだ墜ちない。
 紅緒機もまたマイクロブーストを発動させた。「わわっ‥‥!」ワイバーンの速度に動揺しつつもHWの後背へと迫る。放電装置を発動。雷撃が宙を焼き切りHWを捉えた。雷撃に呑まれ、連続して爆発を起こしながらヘルメットワームが墜落してゆく。一機撃墜。
 HW2が身を翻した、HW3が身を翻した、HW4が身を翻した、HW5が身を翻した。撤退が連鎖し、HW達は超加速して北方へと逃走を開始する。
 数機が追撃に走る。鋼機は損傷の為見送った。敵の加速が良い。追いきれない。伊佐美機がブーストで飛びだした。ぎりぎり狙える位置だ。アグレッシヴ・フォースを発動させてSRD‐02を発射する。弾丸が突き刺さり、ヘルメットワームが爆発を起こす。
 だが――炎を吹いていたが落ちなかった。
「くそっ、惜しい」
 伊佐美が悔しそうに呟く。
 HW達はそのままマッハ6まで加速し北の空へと消えていった。

●戦い終わって
「足手まといから‥‥卒業できたでしょうか‥‥」
 ヘルメットワームが逃げ去っていった方角をみやりつつ紅緒が呟く。
「十分戦力になってるわよ。助かったわ」
 ロッテを組んでいた智久が笑って無線に言った。
「今までいかに恵まれた戦いをしてきたかが、今回よく分かった」
 榊兵衛が感慨と共に呟いた。
 それに伊佐美が言う。
「でも多分、まだまだ序の口だね。戦況によっては‥‥燃料も足りなくなるかもしれない」
「そうか‥‥そうだな。また、このような、いやそれ以上の戦いを強いられる事もあるかも知れない。その時には今回の経験を役立てたいものだ」
 武人は顎を撫でながらそう呟いた。
「こちらRock1、敵戦力の戦域からの離脱を確認した。各機帰投せよ」
 不破真治の声が無線から流れてくる。
「おういえ〜、それじゃ〜帰りますか〜!」
「了解ッスー」
 各機は蒼天に身を翻す。
 やがて対馬島の空港が見えてきた。無論、無事である。
「今回も、なんとかなったわね」
 リンが軽く息を吐く。
「敵機を全滅させる事は出来ませんでしたがァ、こっちの被害は零、上々でありましょう」
 稲葉が言った。
「少し危なかったが、押し切れたようだな」
 と鋼。彼の機体は撤退ラインまで損害が出ていた。
「ディスタンは機動戦になると‥‥格闘戦を仕掛けるには少し厳しいかもしれませんね」
 うーんと唸りつつセラはそんな事を呟いている。真っ向勝負には強いが、長い距離を動き回る敵には工夫が必要だ。
 それぞれの感慨を胸に各機は次々と滑走路に着陸してゆき、基地の隊員達から歓声と共に迎え入れられたのだった。

 了