●リプレイ本文
――作戦前。
「私の故郷って福岡なんですよ」
基地内の廊下、鏑木 硯(
ga0280)が隣を歩くフェブ・ル・アール(
ga0655)に言った。
「へー、そうにゃのか」
「対馬は故郷の近くですし、解放戦の他の作戦に友人も参加してるんです。今回の作戦はぜひとも成功させたいですね」
少年はにっこりと笑うとそう言ったのだった。
●対馬島解放作戦
春の某日、福江島分屯基地のブリーフィングルームに十一名のパイロットが集まっていた。
「今回の作戦では囮を用いようかと思います」
みづほ(
ga6115)が棒でディスプレイを指しながら言った。
「囮か‥‥部隊を攻撃と防御に分ける。妥当な方針だな」
不破真治は画面を見ながら頷く。
「その作戦上、敵がフリーになる可能性が高いです。前線との距離が1kmでは数秒で詰められてしまいます。少尉には前線から3km離れた位置での飛行をお願いしたい」
「‥‥つまり、俺一人、安全な場所で突っ立っていろという事か? その位置ではいざという時でさえ、すぐには援護にいけないぞ。俺が乗るのは岩竜だからな」
不破は渋面を作って言う。不満そうだ。
「岩竜だからです。その役割はジャミングの中和が第一でしょう。ジャミングの中和は集団戦ではとても効果が大きい。それが万一落されるような事があっては、一気に不利になります」
岩竜のジャミング中和能力の恩恵は多大だ。命中と回避だけで見ても、全機が常にブーストをかけているのと同程度の向上が望める。避けられぬものが避けられるようになり、当てられぬものが当てられるようになる。
「‥‥言いたい事は解った」
不破真治は嘆息する、
「しかし――攻撃手が完全に一人減ることになるが、それで抑えきれるのか? 敵は手ごわいぞ」
「心配には及びませんよ少尉。新型も配備されこちらの戦力は増しています。私としても先日、リニア砲を入手しましてね‥‥むしろ試し撃ちの『マト』が欲しかった所でして、手頃な相手ですよ」
フフフとグラスを光らせつつ言うのはサイエンティストの玖堂 鷹秀(
ga5346)だ。
「予想戦力はHワーム五機にドラゴン五匹‥‥少々多いですが、新型機の慣らしにはこれ以上ない相手です。海上部隊の作戦の邪魔はさせません」
新鋭のFG‐106ディスタンを駆るセラ・インフィールド(
ga1889)もまたにこやかにな表情で不敵な事を言った。
「そうだな、お前達はラストホープ中を見渡しても強者の部類だ。そう簡単には遅れはとらんと俺も信じている」
その言葉に不破真治は頷き、しかし面差しを鋭くして一同を見据えた。
「――だが油断はするな。くどい事は言わん。俺からはそれだけだ。他に何かあるか?」
特に隊員達からは声はあがらなかった。
「準備は万全であります、サー!」
フェブ・ル・アールが敬礼し踵を鳴らす。
「ならば‥‥対馬島上空制圧隊、出るぞ」
不破はゆっくりと卓から立ち上がると一同を見据えて言った。
「現刻より状況を開始する。俺達こそが対馬島解放戦の初めの一矢だ。この作戦の失敗は絶対に許されん。KVの鋼鉄の翼でバグアどもを粉微塵に粉砕しろ。完膚なきまでにな。俺達の手でバグアどもを空から追い落とし、俺達の手で空を掴み取るのだ。俺達の手で、時代を変える――この一波が、地図を塗り変える先駆けと知れッ!! 行くぞ!!」
●遭遇
轟音を上げて福江島分屯基地より十一機のKVが対馬島を目指して飛んだ。
「ふん、今後に大きな影響が出る作戦か。成る程、やりがいがある」
暴風の異名をとる鋼 蒼志(
ga0165)がコクピットで不敵な笑みを漏らし呟いた。
一同が北上し対馬島に接近するとすぐにバグア側の防空部隊が飛んできた。
「四時の方向、雲の上、敵機です!」
特に注意して索敵していた麓みゆり(
ga2049)が一早く敵の接近に気付き注意を飛ばす。
「こっちよりも高所の後方からかっ?」
ベールクト(
ga0040)が舌打ちする。レーダーにはまだ反応はない。ジャミングが中和されていても距離があると捉えきれないようだ。
「数、三、四‥‥五? 大丈夫、情報より少ないわ! まだ距離があります! 旋回して迎撃を!」
コクピットから後方を見やりつつ麓。
「待って! 正面敵影! 黄金竜ですっ!」
麓と同様注意して索敵していたヴァシュカ(
ga7064)が空の彼方に輝く黄金の光を発見する。どうやら敵は二手に分けてきたようだった。キメラを正面から放し、機動力の高いヘルメットワームで回り込む。
「なにぃ? バグアの癖に味な真似をっ!」
九条・運(
ga4694)が叫ぶ。
「ですが先に発見できればむしろ好都合! 各機、分担通りにいきますよ!」
みづほが司令を飛ばす。
『了解!』
ベールクト、セラ、九条の三機は正面の黄金竜へとそのまま向かい、残りの八機は旋回、上昇し迫りくるヘルメットワームを迎え撃つ。
KVとヘルメットワームとキメラとの距離が瞬く間に詰まった。
●VSヘルメットワーム
青い海の上、蒼空を背景に七機のKVと五機のヘルメットワームが互いに向き合った状態で真っ向から激突する。
「こっちの初手で流れを掴む!」
最初に仕掛けたのは鏑木硯だった。G放電装置の限界射程まで距離を詰めると、アグレッシヴ・フォースを発動させ荒れ狂う電撃波を解き放つ。
「お出迎えが来たみてぇだな!? 挨拶はハデに行こうじゃねぇの!!」
「オーケー! ロックンロール!!」
「バイコーンの巻き起こす暴風‥‥食らうがいい!」
「‥あらゆる状況を考えて、動じぬ心の手練れたれ‥Sleight of Mind」
鏑木とほぼ同時に各機一斉攻撃を仕掛けていた。鋼は127mm2連装ロケット弾ランチャー、フェヴはホーミングミサイル、玖堂はUKAAM、みづほとヴァシュカは短距離AAM、それぞれの火器をフルバーストする。
ディアブロが放つ世界を白く焼き尽くす程の猛烈な放電と共に無数のミサイルとロケット弾が一番前に出ていたヘルメットワームへと集中して飛ぶ。
しかしワーム側もそれに呼応するように一斉に撃ち返していた。ヘルメットワームから爆裂する淡紅光の奔流が放たれる。目を潰し、世界を塗りつぶすほどの爆光の嵐がただ一機のKV目がけて飛ぶ。
標的となった機体は最速かつ、最大火力の機体、かつ、運動性は低くはないが高くもない機体。機体、搭乗者ともに最速ということは一番前にいるということ、系統の傾向として防御は高くないが最強の火力を誇るF‐108ディアブロは敵からすれば速攻で潰したい機体であるということ。つまり狙われたのは鏑木機、文句なしに最優先ターゲットだ。
ヴァシュカ機がガードに入る予定だったが、ヘッドオンで一斉に撃ちあう時に鏑木機の射線を遮らずに敵の射線を遮るというのは不可能な話だ。
それらが炸裂した瞬間、その空には凄まじい破壊の嵐が巻き起こった。
●VSゴールドドラゴン
「黄金龍の癖に群れるとは‥‥フザケタ奴らだ!」
一方、黄金竜の群れへと向かった二対四枚の翼を持つ黄金龍九条運はコクピットの中で怒りの咆哮をあげていた。黄金龍的に敵の黄金竜が許せないらしい。
「黄金龍同士で群れるなぞ雑魚キャラの証明! 手前らは古の洞窟でたむろってろ! 誇りが有るなら一体で居ろ! 最終試練で左手用の剣を守ってろ! ココは一つ! 俺が! 黄金龍とは如何なるモノかを教えて‥‥やれたら良いな!」
死んだらやばいので、撃ち合いはディスタンコンビに任せてヒットアンドアウェイで勝負! という事で九条機は速度を落としベールクト機とセラ機の後方につけている。強気なんだか弱気なんだか良く分からない男だ。しかしFG‐106の性能を活かし己の機体も活かす的確な判断である。戦術的にはこのうえなく正しい。
「九条さん、ベールクトさん、そろそろ接敵しますよ!」
セラ・インフィールドが前方を見据え言う。
「了解、突っ込むぜ!」
ベールクトがエンジンをフルスロットルに入れる。
迫りくる五匹の竜に向かって二機のFG‐106を先頭にR‐01が続いて迎え撃つ。
「Dragon Killerの称号が伊達じゃねぇってトコを、見せてやるぜ!」
互いの距離が接近した時、両陣営は一斉に火器を解き放った。ベールクト機からホーミングミサイルが全弾発射され、セラ機からは二連のUKAAMが飛ぶ。
黄金竜側は顎を開くと咥内から光を発し激しく明滅させた。放たれるのは眼も眩むほどのプラズマブレス。荷電粒子の渦が宙を焼き切り、セラ機とベールクト機に襲いかかる。
「しゃらくせぇっ!」
ベールクトは機体をロールさせるとジェット噴射ノズルを操作して急旋回し、螺旋の軌道を描いて爆裂の嵐をことごとくかわす。セラ機も回避運動をとったがこちらは全ては避けきれず半数以上が直撃する。
しかし、
「‥‥意外に、たいした事ないようですね?」
猛烈な光の奔流を浴びせかけられても張り巡らされた鏡面装甲はびくともしなかった。損傷率一割以下、硬いにも程がある。
そして両機が放った誘導弾は黄金竜の一匹に直撃し、鮮血を撒き散らさせていた。
「もらったぜッ!」
そこへ、ブレスが止んだ間隙を縫って九条機が接近し、AAMを撃ち放つと即、機体を旋回させて離脱する。放たれたミサイルは黄金竜の一匹に命中し爆発を巻き起こした。
●死闘
荒れ狂う光の本流がF‐108を飲み込み、激震と共に装甲をことごとく吹き飛ばし、雷撃と爆炎の嵐がヘルメットワームを木端微塵に打ち砕く。
アラームがけたたましく鳴り響くコクピットの中、鏑木は霞む目で計器を見やる。
「損傷率96%‥‥」
F‐108は瀕死の状態でかろうじて飛んでいる。
「鏑木、無茶するな、退がれッ!」
無線から不破真治の叫び声が聞こえる。
「‥‥了解」
鏑木は歯を噛みしめるとブーストを点火し、高空へと離脱した。
フェブ機と組んで動く鋼機は積極的に距離を詰めると、フェブ機がガトリングを猛射しながら追い回しているヘルメットワームをサイトに捉え、ロケット弾ランチャーを撃ち放った。四発中二発が命中し爆発を巻き起こす。
みづほ機はフェブ機の後背に回り込もうとしているヘルメットワームへと向けて誘導弾を連射する。ミサイルは音速を超えて飛び、ヘルメットワームへと突き刺さった。ついで状況を確認しようとするが、空の戦いは音速だ。特に慣性制御機能を持つヘルメットワームとそれに対抗する為にジェット噴射で急旋回を繰り返すKVの戦いは一瞬で目まぐるしく状況が変わる、簡単には把握できない。把握できても喋っているうちに、それは過去の状態となる。
僚機を失ったヴァシュカ機へと向かってヘルメットワームが距離を詰め二機がかりで追い回す。
ヴァシュカ機はスプリットSやバレルロールで振り切ろうとするが振り切れない。閃光の嵐が次々と襲いかかりS‐01を強烈に打った。
「対Hワームに特化したこの機体‥‥そうそう堕ちはしませんよ!」
派手な震動が機体を襲っているが、その言葉通り被害の程は浅い。まだまだ余裕だ。
しかし攻撃を受け続けている状況は不味い。
そこへ麓機がガトリング砲をまき散らして突っ込んだ。慣性制御で回避に移るヘルメットワーム。
「ククッ、真っ正面だぜぇっ!!」
逃げてきたヘルメットワームを玖堂機が捉えた。ガンサイトに機影を収めると試作型リニア砲をリロードしつつ連射する。強大な破壊力を秘めた砲弾がヘルメットワームに突き刺さり、その装甲を轟音をあげてぶち破る。
「ヒャハハハハハ! デケぇ穴が開いたなぁ? 最高にイカすぜ! コイツはよぉ!!」
玖堂がコクピット内で哄笑をあげる。惚れぼれする威力だ。
だがその威力が目についたのか、A班が攻撃していた二機のヘルメットワームが機体を急旋回させプロトン砲の嵐を玖堂機に向かって遠レンジから集中して解き放った。玖堂機は回避にうつるが避けきれない。爆裂する光の渦がS‐01を直撃し、瞬く間にその装甲を削り取ってゆく。損傷率五割八分、ちょっと不味いか。
ヴァシュカ機はインメルマンターンで背後を取り返すと、ヘルメットワームへと向けてミサイルを撃ち放った。
●三翼
激闘が続いている。
「片翼がもがれ落ちたって構わねェ! この場で全て滅ぼしてやるぜ!」
ベールクト機は煙幕の中から飛び出すと急降下してゴールドドラゴンに突撃をかける。ゴールドドラゴンがプラズマブレスを吐き出した。突進しながら機体をロールさせて回避し違いざまコーティングされた翼の刃で叩き斬る。黄金竜の首から鮮血が吹き出し、その速度が急速に落ちてゆく。
「LH5、FOX‐2!」
セラ機からミサイルの嵐が飛んだ。三連の誘導弾は動きの鈍った黄金竜に直撃し大爆発を巻き起こす。
「滅・殺!!」
さらに九条機が加速して距離を詰めレーザー砲で猛攻を加えた。強靭な生命力を誇る黄金竜もその攻撃でついに力尽きる。断末魔の咆哮をあげながら海に向かって墜落していった。
ゴールドドラゴンは決して弱い訳ではなかったが、この三機は良く機能していた。強烈なプラズマブレスもベールクト機はマニューバを駆使してことごとく回避する。一方のセラ機は回避は劣るが強烈な筈のプラズマブレスの直撃を受けても揺るぎもしない。未だに損傷率が三割程度だ。この二機が敵の攻撃を抑えている間に九条機が一撃離脱でレーザー砲を浴びせて削ってゆく。
ゴールドドラゴンの方も頑丈なので、いまだ四匹が健在だったが、三機はそれと互角以上に渡り合っていた。
●終局
戦いは長いようでいて短い。
数分に渡る交戦の末、玖堂機が撤退し、鋼機が大破寸前まで追い込まれたが、一同は五機のヘルメットワームと五匹のゴールドドラゴンの全てを撃墜してみせた。
「さぁ、お膳立てはした‥‥期待してるぞ? サラスワティ」
激闘の跡の残る機体を駆り、対馬島近辺の上空を編隊を組んで飛び警固しながら鋼蒼志は呟いた。
かくて対馬島上空の制空権は確保されたのだった。