●リプレイ本文
東南アジアにあるその町の役場に十人の傭兵が集まっていた。
「ふふ、ぼんやりとした日々ですか。いいですね」
町長ハルドラッドの説明を聞き終えたサイエンティストの男、国谷 真彼(
ga2331)が言った。
「大トカゲかー! 町長さんも、尻尾切られちゃったクチ?」
おどけて言うのは眼鏡をかけた女傭兵フェブ・ル・アール(
ga0655)である。
「どうだろうね。私は彼の身体ではなかったからな。外野だと油断していたら、いつの間にかこの席に座らされる羽目になっていた、という感じかな」
冴えない外見の町長はそう答えた。国谷が言う。
「町長、退治にあたり生肉を用意したいのですが、この辺りで手に入れる事はできますか?」
「ああ、それくらいならこちらで調達しよう。小腹が空いてるなら焼いて食べてくれても良いよ」
本気か冗談かいまいち解りづらい表情でハルドラッド。。
一同はパックに詰められた生肉を受け取ると町の役場を後にする、
「随分と‥‥面白い、町長さんでしたね」
長身のスナイパー南部 祐希(
ga4390)が所感を洩らす。
「見かけよりは行動力が有るようだな」
褐色の肌を持つ御山・アキラ(
ga0532)がそう相槌を打った。町を出て南へと向かう。
町の南には緑成す草原の海が広がっていた。青い空には雲が浮かび、野鳥が声を響かせている。
「大蜥蜴ですか‥‥最近はモンスター的なキメラと戦う事が多かったので、普通の動物の延長線上にあるようなキメラはむしろ新鮮ですねぇ」
吹く風に目を細めながら鋼 蒼志(
ga0165)が言った。
「キメラじゃなくても割と凶暴なんだよなアレは‥‥」
と言うのはザン・エフティング(
ga5141)だ。カウボーイハットを抑えながら続ける。
「有名なコモド諸島の大蜥蜴も結構やばいらしい。動きは素早く群れで襲ってくるって話だ。今回の大蜥蜴キメラも習性は似たような物みたいだな」
「そのようですね‥‥町長の話では大蜥蜴の体長は3m程度、しかし相手は蜥蜴ですからね。”体高”はそれ程無いはずです。見晴らしの良い草原でも油断は出来ませんよ」
発見が遅れる可能性がある、と注意を飛ばすのは篠崎 公司(
ga2413)だ。
「草陰から奇襲されると厄介だな。注意していきましょうか」
アフロヘアーの大男、増田 大五郎(
ga6752) がショットガンを担ぎ直して言った。
「とりあえず‥‥餌でおびき出した所を攻撃、という事で良いのでしょうか」
赤毛の少女アグレアーブル(
ga0095)が作戦を確認して言う。それには国谷が答えた。
「ええ、敵は二匹で連携してくるようですので、こちらは三班に分かれましょう」
「了解です」
「うーん、それにしても美味しそうな生肉ですねー‥‥なんだかお腹が空いてきそうです」
十歳程度の童女に見えるリリィ(
ga0486)が手に持つパックの中身を見やって言う。まぁしかし、実際に食べる訳にもいかない。
一同は草原に別け入ると適当な箇所に生肉をばら撒いた。
「さて‥‥仕掛けにかかってくれると良いのですが」
国谷が呟く。一同は距離をおき草原の風上に身を伏せ、大蜥蜴が喰らいつくのを待った。
●二匹の大蜥蜴
「鳴るな、歯の根‥‥!」
緊張しているのか草の陰で南部が身を震わせている。覚醒すれば怖いもの無しの彼女だが、普段は大層臆病だ。
草をかぶって匂いを紛らしつつ、草原に伏せることしばし。それはすぐにやってきた。草の海が不自然に割れ、風下より何かが急接近してくる。
「――来たようです」
草の動きに注意を払っていた篠崎が一番にそれに気づき、仲間達に標的の接近を知らせる。
それを受けてファブ、鋼、リリィ、増田の一班は正面から大蜥蜴に向かい、アグレアーブル、南部、国谷の二班はその側面へと回り込むように移動する。御山、篠崎、ザンの三班はもう一匹の大蜥蜴の足止めに向かう。
一班が接近すると草を踏みつけて肉を喰らっている二匹の大蜥蜴の姿が見えた。でかい。
「ほぉ、これがドレイク‥‥ね」
覚醒した鋼は口調を鋭く変化させて呟やいた。
「オラオラ! 今度はお前らが生肉になる番だぜ!」
先刻までの愛らしい様子とはうって変わり粗暴な口調でリリィは言い放ち、月詠とシールドを構えて突進する。迫る人間達に気づいたか大蜥蜴が顎を開いて鳴き声を発した。来る。二匹揃って一班を目がけて動き出す。
最初に仕掛けたのは飛び道具を持つ面々だった。
(「当らずとも爆風で牽制を‥‥!」)
篠崎は大弓に弾頭矢を番え引き絞った。草の消えている箇所へと狙いを定めて撃ち放つ。矢は的確にドレイクBへと命中し爆発を巻き起こした。ザン・エフティングもまた篠崎が撃った箇所へとショットガンを向け引き金をひく。散弾が草原に撒き散らされた。
ドレイクAへは正面より増田が向い、草の消えている箇所へと目がけてショットガンを連射する。
「僕らの班は、主力の攻撃している敵の側面を取ることです!」
国谷が側面へと走りつつ練成強化を同班の南部とアグレアーブルにかける。
「‥‥笑え。畜生が」
表情の全てを消し去った南部がSMGを構え、側面よりドレイクAの箇所めがけてフルオートで猛射する。強弾撃と鋭覚狙撃が乗せられた弾丸は次々に大蜥蜴へと命中した。
鮮血をまき散らすドレイクBへと向かって御山が踏み込んだ。イアリスを振り上げ疾風の如く斬りかかる。大蜥蜴は咆哮をあげて跳躍し飛びかかってきた。御山は一歩横に動いて迫る顎をかわすと振り下ろしの斬撃を浴びせる。一撃を浴びせると御山は味方の斜線を遮らぬように間合いを離した。
フェブ・ル・アールは練力を全開にするとドレイクAへと迫っていた。素早く間合いを詰めると紅蓮の輝きを宿した蛍火を最上段に振り上げ裂帛の気合と共に踏み込み全霊を込めて落雷の如く振り下ろす。三種のスキルを重ねがけした最高の一撃だ。蛍火は大蜥蜴の頭部に叩きつけられ、鱗を突き破って大打撃を与える。
「貴様を――穿ち貫く!」
鋼はよろめく大蜥蜴の側面へと回り込み体重を乗せてドリルスピアを繰り出した。音を立てて回転する穂先は頑丈な鱗を突き破り、鮮血をまき散らしながら肉を抉り取る。大蜥蜴は激しくのたうちまわりながらも突進しフェブの脚へと牙を撃ちこもうと迫る。しかしフェブは素早く後方に飛び退いて回避した。
その間に後方に回り込んだアグレアーブルは背面から大蜥蜴へ向かって地を這うような回し蹴りを放った。ドレイクの尻尾の付け根に刹那の爪が突き刺さる。身の軽さを武器に嵐のような連打を浴びせる。
「あんまり時間をかけてられないからな、とっておきを見せてやるぜ!!」
鋼とは逆サイドに回り込んだリリィは紅蓮の閃光を巻き起こすと嵐の如く刀を振って大蜥蜴を滅多切りに切り刻む。猛攻を受けた大蜥蜴は断末魔の悲鳴あげながらのたうち回り、鮮血をまき散らして動かなくなった。
篠崎は矢継ぎ早に弓に矢を番えて連射する。解き放たれた矢は弾丸の如く飛び、大蜥蜴に命中して鱗を突き破った。
南部は標的をドレイクBへと向けるとSMGで狙いをつけて攻撃する。増田も標的をドレイクBへと変更しザン・エフティングと共にショットガンで散弾をばら撒く。国谷はエネルギーガンを構えると光弾を解き放った。光の弾丸が次々に大蜥蜴に命中しその鱗を消し飛ばした。
十字砲火を受け鮮血をまき散らす大蜥蜴へと御山は再び間合いを詰めると、直刀を振りかざし旋風のような連撃を浴びせかける。斬り刻まれた大蜥蜴は血だまりの中で絶命したのだった。
●巣を探す
「まず一つ‥‥いや、まだ一つか」
御山は呟くと血塗れの剣を一振りして血を払い鞘に納めた。
その後、一同は大蜥蜴がやってきた痕跡を辿って巣を探した。しかし、
「うーん、見つからないな‥‥」
嘆息する増田。
「まあ、そう簡単には見つからんか」
とショットガンを担ぎながらザン・エフティング。
その後、長時間に渡って丁寧な捜索を行ったが結局発見はできなかった。
「巣が、無い‥‥‥‥?」
首を捻るアグレアーブル。
結局日暮れを以って巣の捜索は打ち切られ傭兵達は町へと帰還する事にした。
「あーあ、生肉見てたらハンバーグが食べたくなっちゃいましたよー」
帰る途中リリィが年長の傭兵に向かってそんな事を言っている。篠崎公司は冷静に分析する。
(「これはつまり奢れ、と‥‥そういうことか?」)
どうする篠崎。
それはさておき、町の役場に戻った傭兵達は成果を町長に報告する。
「――世の中には物好きがいます。これらのものも、そういう人たちにとっては価値のあるものでしょう」
大蜥蜴の爪や牙のサンプルを入手していた国谷はそう述べてそれらを町に寄贈した。
「ふむ、これはすまないね、有難う」
ハルドラッドは礼を言って受け取り。
「巣の捜索を行いましたが、場所は特定できませんでしたね。また大蜥蜴が出ることがあるかもしれない」
鋼蒼志がハルドラッドに注意するように呼びかける。
「ふむ、そうか‥‥」
冴えない容貌の町長はしばし考えるようにした後に言った。
「成果の方も巣は発見できなかったというが、二匹の大蜥蜴を退治してもらえたのだからそれで十分だよ。今回はご苦労だったね、ささやかながら夕食の席を用意させてもらった。もし良ければ出席していってくれ」
という訳でそれに出席する者は町のレストランで食事をし、町長や一同と諸々を話し合ってからLHへと帰還したのだった。