タイトル:銅の石マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/07 23:17

●オープニング本文


 ユーラシア大陸の中央東、アジアの外れにあるその国は、以前からとても貧しい国であったが、バグアの襲来によりさらに貧しくなり、貧富の差を増していた。
 カシミール・シャー・ディーヴ青年はその赤貧国の高原の村に生まれた。
 その村には電気が通っていない。夜になれば周囲は漆黒の闇に閉ざされた。人々はカンテラの火を頼りに夜の仕事をこなす。義務教育は制度としてあるが、教科書やノート等を買えない為、小学校を卒業出来る者は五人に一人、科学的知識の欠乏から病気の治療等は祈祷や呪術に頼る、そんな場所だ。
 産物が値崩れし、農産物も不作であった時、村は貧困による飢餓と先天性の免疫に関する病の蔓延により死亡者が続出した。カシミールは兄弟や友人達がばたばたと倒れて骸骨のようになって死に絶えてゆく中で育った。病は現代医学を以ってしても不治のものだと言われていて、今も村を蝕んでいる。
 村の人間十人の十年の総収入が安物の誘導弾と同等、KV一台の値段となれば数百人の村人全員の一生分の収入に値するような、そのように貧しい村だ。
 カシミールの村の付近には鉱山があった。山を神聖なものと崇める一族が代々手放さずに所有している鉱山だ。彼等は山を掘る事に良い顔をしなかったが、これも村の為と採掘を許可し、鉱山を立てた。カシミールはその一族の長男だった。村の男達の大半はこのディーヴ一族の鉱山で働いていた。
 村の収入は少なかったが、しかし銅鉱石等の各種の鉱石は最終的には先進国によって数倍の値段で取引されていた。
 それが意味する事は、すなわち、仲買いによって安く買い叩かれている、という事だった。
 若者カシミールは街に赴き情報を集め考えた。私達の鉱石はもっと高く売る事が出来るのではないか? と。
 カシミールは父を説得し鉱山の運営に関わる事の了解を得ると、鉱石の取引先の業者と交渉した。
「買い値を今までの三倍にしろって? ディーヴさん、馬鹿いってもらっちゃ困る。そんな値段で買える訳ないだろう」
 中年の業者の男はそう言った。
「私はP市での相場を聞いてきました。それから考えると三倍でも十分、相場より安い筈です」
 淡々と言うカシミールにしかし男は笑みを浮かべて言った。
「まぁ落ちつけって、な? 冷静になれよ。あんたは売り買いの素人だろ? 誰に聞いたか知らないが、そんな値段じゃ商売にならないよ。うちが買わなかったら、あんたどうすんだい? 売れなきゃあんなもん、ただの石屑だぜ。石屑抱えてどうするつもりだい? あんたは頭が良い。どうするのが俺達にとって一番良いのか、解るだろう?」
「‥‥では他社と取引します」
「なにっ」
 瞬間、業者の男の表情から笑みが消えた。
「なぁディーヴのお坊ちゃん、あんまり冗談ばかりいっちゃいけないよ?」
「いいえ、真面目に言っています」
「わかったわかった、じゃあ二倍でどうだ?」
「実はP市でその話を聞いた時、四倍の値段でも取引したいと言ってくれる方がいました。貴方は今まで私達の石を買ってくれていたので三倍でも良い。三倍が駄目だったら、そちらの方と取引します」
「こ、このクソガキ!」
 業者は怒声をあげた。
「下手にでりゃつけあがりやがって。調子づくのも大概にしろよ!」
「‥‥残念です」
 カシミールは席を立った。
「おい、お坊ちゃん」
 立ち去るカシミールの背に業者の男が低い声をかけた。
「後悔するぞ」
 肩越しに振り返ると、細い眼がぬらりとした光を宿してカシミールを見ていた。
 青年はその目を睨みかえすと、背を向けて立ち去った。


 カシミールと村人達はP市の業者と契約を結び、トラックに鉱石を積み街へと向かった。
 荒野を貫く道を石を満載してトラックが走ってゆく。
 しかし、
「‥‥なんだ?」
 運転手が声をあげた。
 丘の彼方より土煙をあげながら三台のジーザリオが猛然とトラックへと迫って来た。ジーザリオには複数の男達が乗り込んでおり、そして手には旧式のアサルトライフルを持っていた。
 銃弾の嵐が荒れ狂い火花がトラックより巻き起こった。不吉さを感じさせる音と共に土煙をあげながらトラックが転倒する。
 男達はトラックを取り囲むとカシミールと壮年の村人を席から素早く引きづり出し、銃底で殴りブーツの裏で蹴りつけ始めた。暴力を振るう事に対する慣れを感じさせる動きだった。
 カシミール達の顔が変形し、皮膚の色が変色し、動けなくなった頃にようやく男達は暴行を止めた。
 かろうじて、カシミールと壮年の村人は生きていた。半死半生だった。
 男達は何処からかさらにトラックを運んでくると鉱石を奪い取って移し嘲笑の声を残して去って行った。


 街での取引は中止になった。
 理由について言葉を濁していたが、取引先の業者へ嫌がらせが頻発したらしい。カシミール達と取引しようとする業者は減少した。
 襲撃された事について警察に訴えたが、犯人は未だに掴まっていない。
 しかし、それでもカシミールは諦めなかった。
 青年は身体が動けてる程度まで回復すると再びP市へと向かった。
 カシミール達に関わるとろくな目にあわないという噂を聞いていても取引しようとする業者を見つけ出し、再度契約を取りつけた。
「しかし、カシミール、前のようにまた襲撃されて奪われたらどうにもならないぞ」
「大丈夫です。今回は傭兵を雇った」
「傭兵」
「ラストホープの傭兵です‥‥彼等なら、盗賊になんか負けやしない」
「そんな金、何処に」
「借りました」
「街の銀行か?」
「銀行は駄目でした」
「じゃあ」
「俺達は今回の取引は絶対に失敗できない。必ず無事に取引を成功させなければなりません。鉱石が安定して売れるようになれば、皆上手くいく」
 青年はそう語り、壮年の男は沈痛な表情でそれを見据え、やがてわかった、と頷いた。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ウルリケ・鹿内(gc0174
25歳・♀・FT
エスター・ウルフスタン(gc3050
18歳・♀・HD
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 高原に秋の風が吹く。
「上手くやって、この先に繋げないとな」
 車上、那月 ケイ(gc4469)は呟いた。恋人の方を見る。今回の件、正義感の強い彼女の事、腹に据えかねている所もあるだろう――と思う。
「そうね――ねぇ、ケイ。バグア飛来前に地球で頻発していた紛争の原因って、何だと思う?」
 赤髪の少女は吹きつけてくる風の彼方を真っ直ぐに見据えながらそう言った。エスター・ウルフスタン(gc3050)だ。
「利権? 国粋主義? そんなのはお偉い様の理屈だわ。末端の兵隊が命をかける理由は何だと思う?」
「兵隊が命をかける理由か」
 男は己の思う所を述べ、そして聞いた。彼女はどう思っているのかと。
「根本的な所は教育だと思う」
「教育か」
「知らないということって、とってもひどいことなのよ。それを利用するのは‥‥許せない」


 古人曰く、敵を知り己を知れば百戦して危うからず。その言葉の意味は裏返しにすると実感しやすい。右も左も解ってない奴はカモだ。
 エスター曰く、知識は武器よ、との事。知というのは剣であり盾だ。
 武器を持たぬ者達の末路の多くの類型をZ村に見る事が出来る。良いように搾取される構造。
(カシミール・シャー・ディーブ)
 それを覆さんとする男。ちらりと青年へと視線をやって那月は思う。俄かの知を――粗末な武器を得て、反抗を志す男。
 那月の恋人はこうも言っていた、紛争の原因は教育だと。それはきっと事実の一つ。今回の件は二つの層の争いだ。知る者と、かつては知らなかったが今は知った者。優位を守ろうとする者と覆そうとする者。その激突。そういう戦だ。
(カシミールさんを守る事が依頼内容‥‥今後の安全確保も仕事のうちってね。ま、そういうの置いといてもほっとけないけど)
 男は胸中でそう呟いた。
「やれやれ。宇宙に出る前に足元でごたごたしてるようでは、ねぇ」
 他方、叢雲(ga2494)が言った。
「ま、人なんて目の前の事のほうが大事ですからね」
 納得か、諦観か、呆れか、嘆きか、それとも皮肉か、どの感情が主体であるのか余人には判断がつきにくい。基本、心の底は悟らせぬ男だ。
「バグアも山賊も同じ、ダニはダニである」
 美紅・ラング(gb9880)が淡々とした口調にかすかに怒りを滲ませて言った。
 彼女達は身を削って宇宙人退治をしているというのに、その後方では同じ地球人同士で相争っているのには正直うんざりだった。
 これが、数多の将兵や能力者達がその汗や涙や血肉や命と引き換えに守ってきた世界だ。否、正確に言うなら、世界の一端。
「弱きものを蹂躙する同族はバグアと何ら変わりがない」
 美紅は言った。バグア同様に害虫は駆除する。
 瞳がその意志を告げていた。
「よくあるよね。大きな事業って『こういうの』、入り易いんだ。一部じゃ明確に商取引を禁止するような法律もあったりするし‥‥」
 黒木 敬介(gc5024)がぽつりと呟く。
 事業と、競合と、暴力と、司法と、政治。構造は実に良く似ている。
「‥‥ま、遠い国の話はいいや」
 極東国の出身の男はそう呟いた。


 少し前。Z村へとやってきた傭兵達は事情を聞き依頼を引き受けた。
(依頼主は難儀な状況、か)
 紫藤 文(ga9763)は思った。上手く生きるってのは難しいもんだと。上を目指せば尚更だ。
「ま‥‥少しだけ、手伝わせてもらおう。悪い事荒い事はできる奴がやろうか、こっそりと」
 男は不敵に笑った。
 ウルリケ・鹿内(gc0174)はまずカシミール等に商会名、取引手続き、場所等、襲撃された際の状況を含め確認をし、聞きだした情報を全メンバーに周知した。
 一同は依頼人達と共に作戦を打ち合わせる。話し合いの末、手出しを加えられない限りは、こちらからは手を出さず油断させる事に決めた。そして撃退するだけに留めずカウンターを行う事にする。
「法的には問題ない?」
 エスターが問いかけた。
「傭兵ですからね」
 ウルリケが言った。状況と証拠が正統性を示せばある程度は問題無い。
 世界において傭兵は法規的にも特別だ。一部から傭兵が嫌われる原因の一つだが、こういう時にはその利便性を痛感する。
 手筈を整えると鉱石をトラックに積み村から出発する。自前の車両を持ち込んでいた者も多かったのでちょっとした車団となった。ウルリケは自前の足がなかったので那月のバイクの後部座席に乗っている。
 叢雲は荒野をゆく道すがら休憩に停車した時に茶を淹れ軽食を用意して緊張をほぐす事を心がけた。依頼人達から傭兵という言葉から来るイメージと違って優雅だと述べられれば、
「まぁ、傭兵とはいえ色々いますからね」
 と執事も務める傭兵は苦笑しつつ答えた。
 B街に到着すると紫藤は拳銃やダガー等の装備を懐や袖等に忍ばせ一団と別れた。B街には他に那月、ウルリケ、エスターが向かった。
 引き続き護衛に当たったのは大泰司 慈海(ga0173)、叢雲、美紅、黒木の四名だ。大泰司がジーザリオで一団の最後尾につき黒木がバイクで先行した。叢雲はトラックに同乗し、美紅は荷台の上に乗って警戒にあたっていた。
 B街を抜け高原の道を走って小一時間程した所で、黒木は左手に見える丘に嫌な予感を覚えた。視界が通らない箇所は、危険だ。
 無線で先行する旨を告げて加速し、石が転がる凹凸の豊かな斜面をバイクの機動力で登りきり頂上に出んとする。上に出ると不意に猛烈な銃撃が襲いかかってきた。単車に銃弾が激突して火花が巻き起こりタイヤが破裂した。
「伏せ勢だ」
 バイクから降り拳銃を抜きつつ黒木は無線に連絡を入れる。見下ろせば丘下では盗賊の物と思われしジーザリオが土煙をあげて走り出していた。黒木を迂回するように丘を登らんとする。
 黒木はS‐01を向け轟く銃声と共に五連射した。SESの弾丸が炸裂しジーザリオの片輪が吹き飛び車体が横転した。斜面を玉のように転が落ちてゆきやがて岩に激突し可燃物に引火したのか爆発して炎上した。
 他方、道を走るカシミール達の方へも別方向から二台のジーザリオが挟みこむように迫り来ていた。一台は道の真っ正面、一台は後方だ。カシミール等のトラックと大泰司のジーザリオへと迫ると突撃銃で猛射を開始した。道路に銃弾が突き刺さり土煙が巻き起こる。幾つかは車体にあたって火花を散らした。
「な、何故こんな事を‥‥っ?!」
 叢雲が怯えたように叫び声ををあげたが――演技だが――敵は手を緩める事なく攻撃を加えてくる。例え無抵抗でも容赦なく動けなくなるレベルまで痛めつけられそうだと判断した美紅は第一の作戦の遂行は困難であると判断し反撃にでる事にした。
「ダニ相手に表道具は使わぬのである」
 通常弾を狙撃銃に装填する。左右に激しく機動し揺れる車上では銃撃は中てにくい。美紅は荷台の上よりライフルを構え撃った。発砲音と共に肩に反動が伝わり銃口から弾丸が飛び出した。螺旋に回転するライフル弾は狙い違わずジーザリオの片車に突き刺さり、その猛烈な破壊力を炸裂させて車輪を吹き飛ばした。ワームに比べれば止まっているようなものだ。ジーザリオが弾き飛ばされたように回転しながら転倒し盗賊達が道に投げ出されてゆく。
 後方の相手へは大泰司が威嚇射撃を行った。エネルギーガンから放たれた光線は地面に命中し壮絶な破壊力を解き放って大地を爆砕した。ジーザリオがけたたましい音と共に横に逸れ、タイヤと砂利が擦れる音を立てながらドリフトして方向を転ずると泡を喰ったように猛加速して元来たB街への方へと走り去ってゆく。
 正面を撃破し振り返った美紅は追撃を入れられる射程だったが、何人かはわざと逃がして追跡組に任せた方が良いだろうと判断し発砲を控えたのだった。


 傭兵達は二台のジーザリオから放り出された盗賊達のうち息のある者をまとめると尋問を行った。盗賊達を軽く威圧し雇い主が誰かを聞きださんとする。
「大人しく喋ってくれないと、困るんだよね」
 黒木が言った。
「旧軍式とか、体験してみる?」
 遺体を消し炭に出来る火力があるから、山の中なら人一人を死体に紛れ込ませるのは簡単、拷問もやり放題だとほのめかす。
 盗賊達は青褪めた。
 そこへ大泰司が言った。
「自白したら君たちきっと助かるんじゃない?」
 などと言いつつさらに金をチラつかせて盗賊達へと甘言を吹き込み始める。
「い、言えば見逃してくれるのか?」
 大泰司はにこりと笑った。
 雇い主はカシミールの前取引先であるらしい。
 盗賊達の自白は携帯で録音し、荷台に乗せてP市まで到着した傭兵達は盗賊達を警察署へと突き出した。
「話が、違うっ!」
 縛られていた盗賊達は足をばたつかせ罵りの限りの言葉をあげていたが、やがて警察に顔を何度か殴られて砕かれ静かになった。物でも壊すように容赦がない。
 殴られた男はぐったりとして警察に引きづられてゆき、それを見て他の盗賊達も黙り込み大人しく連行されていったのだった。


 他方、先にカシミール達と別れた紫藤はB街において、貧乏で音楽好きな頭の悪い旅人の振りして街の女性ナンパし、噂話に混じる前取引先の黒い噂や武装盗賊等の情報収集に当たると共に街の地図を購入していた。ついでにB街が必要としてる物資、金回り良い警官、信頼される警官等の噂なども収集しておく。
 ウルリケはのほほんとした風情で前取引先の建物の周辺を把握し人の出入りと裏口の位置の確認を行いつつ、対象業者の主の動きを監視した。さらに近隣商店から極々控えめに評判や人の動きなど探っておく。
 紫藤とウルリケの集めた情報から判断すると、前取引先にはやはり黒い影がチラついているようだった。もっともそういった影がない業者を探す方が難しい有様だったので、取り立てて珍しい存在という訳でもないらしい。武装盗賊はこの地域社会に深く根を張っているようだった。中には必要悪だと述べる者達もいた。断固として一掃を目指すべきだと言う者達もいた。噂話によれば、後者の勢力で代表的なのがP市に赴任してきた新署長とその一派らしい。その影響で武装盗賊排除の声が最近は強まっているようだった。署長一派は声は強いが金は無いらしい。理想高いがそれが障害となって利害調整が不得手だとも言う。他方、反対勢力と思われる警官達は羽振りが良く、その為、善悪に拠らぬ味方が多い。利害だけでつながっている者達も多かった。
 総合的に見て、武装盗賊排除運動の成功は難しいだろうというのが多くの住民達の予想であるらしかった。『どうせ駄目さ』である。
 そんな情報を集めているとB街のメンバーは武装盗賊撃退の連絡を護衛班から無線で受けた。
 彼等は街に盗賊達が逃げ帰って来るのを待ち伏せた。
 が、それらしき姿はついぞ発見できなかったのだった。


 その後、カシミール等は無事に取引を終えた。
 大泰司はG町において小さな町ということでZ村のようにカモにされていないか調査しその結果カモられている者達が多いと知った。Z村との協力体制を築けないかと思案し町役場に赴いたが門前払いされた。
 カシミール曰くでは、今回の対応やその他諸々からG町の町長は武装盗賊と連携して町人達からカモっている側の気がするらしい。
 後日、入金と共に借金返済にカシミールはゆく事になりエスターがその借入先を追及した。少々危険そうな場所だったので、大泰司がそれに同行した。返済時、大泰司の睨みが効いていたのか事務所で難癖をつけられる事なく無事に完了した。武力があると平和である。
 その帰り、P市署長から連絡が来た。傭兵達のおかげで証拠とアジトの場所を掴んだので警察は摘発に動くらしい。寸志で申し訳ないが報酬を出すので協力してくれないかとの事。カシミール等からの頼みもあり傭兵達はその依頼を引き受け警察と共に武装盗賊のアジトへと踏み込んだ。
 屋内戦は傭兵達の参加もあり激しくも僅かな時でケリがついた。
「奪った鉱石はどこへやった?」
 打ち倒した首領らしき男の頭部をつかみ上げて引き起こし那月が言った。
「いつもなら紳士的に聞くんだけど‥‥相方怒ると死人出るんだ」
 紫藤は拳銃に新たなマガジンを込めながら口元に薄く笑みをひく。
「腕か、脚か、さっさと話そうぜ?」
 盗賊は突きつけられた銃口に顔を歪めつつ鉱石の在り処を喋った。
 さらにウルリケは帳簿の在り処を自白させるとそれを確保し警察に渡した。Z村だけでなく近隣の村ともかなり足元を見て交渉していたようだ。反抗は武装盗賊の力で抑えつけ利益と自社の安全を確保していたらしい。
「私は国民が悪逆な暴力に脅える事のない公正な祖国が欲しい。こんな世の中で何をと誰しもが言う。だがこの世こそが我々が今生きている世界だ。他ならぬ現実だからこそ、誰かが立ち向かい、より良い現実に変えねばならない。協力に感謝する」
 署長ジャンムーはそう言っていた。彼の瞳に宿る決意は固いようだったが、それだけに危うさも感じさせていた。
「‥‥署長が胡散臭く見えるのは疑心暗鬼というものか?」
 壮年の村人がぽつりと呟きをもらしていた。綺麗事過ぎる、と。闇を見続けると光が信じられなくなる。
 味方を信じられなければ困難には立ち向かえない。だが狐を信じれば化かされて獲物にされる。本当に味方同士で信じ合う事が出来るのか。それもこの場所では大きな問題のようだった。


「インフラを整備してみませんか?」
 ウルリケはカシミールにそう提言した。
「お金がありません」
 と青年は首を振った。例え捻出しても国道に手を加えるのは国の仕事であり民間で可能な事ではないそうだ。政治に働きかける必要がある。
 周辺の街・村に関して、雑貨・食料の輸送時の交易中継点にしないかという事に関しては村に無い物を購入するのはまず最寄りのB街からであるので物流の中継という意味では既に行っているという事だった。
 エスターは雑穀、ハーブ、その他荒地でも安定して育つ作物を選定し、種と一緒に育て方もカシミールへと渡しそして教育の重要性を説いていた。
「昔ながらのやり方だけで駄目なら、変えなきゃだめよ。何でも試さなきゃ。生き延びるのは、今じゃなく未来の為よ」
 少女は言った。知識は武器だと。
「魚と釣竿、あんたはどっちがほしい? ってことよ」
 その言葉にカシミールは笑った。
「私達の多くは今日を生きる為の魚を手に得る為に明日を生きる為の釣竿を売らなければなりません。釣竿を振るえるだけの体力が無い。やがて魚を喰い尽くし、釣り竿も失っているから新たな魚も得られず、困窮し、奴隷のようになってゆく。そして新しい事を試して失敗すれば一家は首を吊るしかありません」
 青年は言った。
「私は答えます。あなたの言う事は正論だ。有難う異国の人。私は釣竿を手に入れる為に戦ってゆきます」



 傭兵達はカシミールと署長から報酬を受け取ると帰路についた。
 空では赤い星が輝いている。



 了