●リプレイ本文
昔、ブロンドの女が笑って言った。自分が戦えば他の誰かが助かると。その事がとても嬉しいのだと。
炸裂する爆炎、荒れ狂う爆風、熱波を前に銃と盾を構えた。
女が一人、艶やかに笑う。ミリハナク(
gc4008)だ。
「あぁ、絶望的な戦場は心躍りますわね。ギリギリの状況を血反吐を吐いて一歩一歩打破していく姿は生を実感出来ますわ」
戦、戦、また戦の日々だ。昔の心は既に忘れた。何かを真面目に想っていた気がしたけれど、それは一体なんだったろう?
思い出せない。
戦争狂だと人は言う。爆風を割いて紅蓮の海へ。鋼の兵団が迫る。
「うわぁ‥‥また思い切った事してくれましたねぇ」
金髪の男が言った。リュドレイク(
ga8720)だ。
「ディアドラさんなら大丈夫‥‥と思いたいですが‥‥厳しい状況に変わりなし、と」
男は言った。
「とりあえず、いつも通りにやることやりましょう」
その言葉にミリハナクはええ、と頷く。
「いつだって戦車は友軍を奮い立たせるもの。ですからそれを壊しましょう」
女は笑って言った。
鋼を砕くと共に、敵の心を圧し折るのだ。
●
「し、司令部がっ? ね‥‥ねえ、さん‥‥‥‥?」
皐月・B・マイア(
ga5514)が頭上を突き抜けて行った鋼鉄の塊と、次いで起こった超爆発を目の当たりにして、呆然と呟いた。
直径百メートルの広範囲を熱波で焼きつくす超爆撃。フレア弾。傭兵達も使っている。バグア側にも同種の効果のものが無い訳がなかった。
あれの爆心地にいて、生き残れるものなのか。
少女は足元から、崩れ落ちるような感覚を覚えた。
「――い! おい! しっかりしろ!」
アッシュ・リーゲン(
ga3804)が声をかけマイアの肩を揺さぶっていた。戦場だ。地上の敵はまだ遠いが、砲撃は飛んで来るし、激突まで時間は僅かだ。
棒立ちしていたマイアはそれでようやく我に返った。
「ねえさんが」
「ココまで生き延びて来たアイツだ、そう簡単に死ぬような奴じゃない」
アッシュは言った。ディアドラは生身で居た訳ではない。戦車に搭乗していた筈だ。
「そ、そうだな‥‥」
マイアは胸中で落ちつけ、と自分に言い聞かせる。
「行こう! 今ならまだ間に合う!」
「ああ、行ってやってくれ」
「アッシュ殿は?」
「――俺にはやる事があるからな。あいつを頼んだ」
男は言って小銃をロードした。大丈夫だ、マイアに言った言葉は自分に向けた言葉でもあった。混乱している周囲の傭兵達に声をかけて編成した一隊で遠目にも加速したのが解るキメラ集団へと向かう。
「今から司令部の救助に向かうわ! ハーモナーとエレクトロリンカーの人は手伝って! お願い!」
他方、冴城は無線で隊に呼びかけつつジーザリオを回した。隊からの反応はなかった――彼等は生命線だ。抜けた穴を埋める者がいなければ、彼等の仲間は回復無しで戦う事になる。故に応えなかった。
そんな中、シンが名乗りを上げて言った。
「敵はこちらの指令系統を経つことで優位に戦闘を進めようとしていますが、逆に言うとこれが復活すれば勝利できないといっているようなものです」
故に自分が司令部で指令系統を復活させるつもりだと軍に伝え助力を乞うた。傭兵達の間で言葉が交わされ、それならやってみる値打ちはあろう、一隊くらいなら相互にカバーして、という訳で特に機械系に強いというリンカーが一人、同行する事になった。
「助けにいくなら俺も行こう」
さらに天原が言った。かくて天原、冴城、シンの三台のジーザリオが回され、綾河 零音(
gb9784)、マイア、リンカーがそれぞれ分乗し向かう。
他方、アッシュは駆けながら無線に言っていた。
「おいヤマト、まだ生きてるか? 簡単に落とされんなよ?」
『――アッシュさん』
ノイズ混じりに無線機から青年の声がかえってきた。
「仕事しなかったらディアドラにイヤミ‥‥イヤミより『いやあ、ヤマト君は頑張ってくれたよ、気にしない気にしない』とか慰められそうだな」
ククッと喉で笑って男は言った。
『うわぁ、彼女なら言いそう過ぎる』
「とにかくだ、マジで頼りにしてるからよ、期待してるぜ」
『任せて――死んでも嫌だから死ぬ気でいくぜ』
青年はそう答えた。全霊を賭けて働いてくれるだろう。元は、上官に保護されるのを、一人前と扱われないのを嫌って、軍の全てを棄てた少年だ。
ヤマトはアッシュとの交信を終えるとまたすぐに地上から声が無線に飛び込んで来た。
『ヤマト! 今日はいつものはないぞ! だからって、勝手にしっ‥‥死なないでよ? ヤマト‥‥お願いだから』
マイアの声だった。
「‥‥まいったね」
刺し違えるも出来ないなら粉砕するしかない。何を犠牲にしてでもだ。
『解った。死ぬ気で頑張りつつ死なないよ。約束するから待っていて』
少年はそう言った。
それが出来るのは、相手に勝る場合のみだが。
●
「おいおいおいおい、なんだこりゃあ。窮鼠ネコを噛むって この事かよ、ちくしょう!!」
砕牙 九郎(
ga7366)が超爆発の荒れ狂った彼方を唖然としてみやりながら叫んだ。
「やってくれたな、ちくしょうめ!」
クラーク・エアハルト(
ga4961)が悪態をついた。
「どんだけ切羽詰ってたんだよあいつら‥‥!? こっちの戦力見えてねぇのかよ糞が!」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)もまた叫んだ。
(まさか、こういう手に出るとは‥‥ね。周りの皆さんが暴れ過ぎた‥‥という事でしょうか)
鳴神 伊織(
ga0421)は胸中で呟いた。
(窮鼠猫を噛むと言いますが‥‥まさかバグアがこんな戦い方をしてくるなんて)
とティリア=シルフィード(
gb4903)。
(「窮鼠猫を噛む」の典型じゃの。では、我はどうするべきか‥‥)
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)は思考を忙しく巡らせる。
「‥‥あーあ、やけくそだよ連中。でも確かにこれは‥‥有効な手段、だな」
M2(
ga8024)が言った。司令部が爆破され、臨時指揮官からは各隊独自判断で戦えと通達され、歩兵隊は――歩兵隊『も』混乱に陥っていた。
「ともかく、目の前の敵を撃て! 生き残る事を考えろ!」
クラークが声をあげていった。
「だがよ、後ろに目はついてねぇんだ。くそっ、目の前に集中しても本当に大丈夫なのか?!」
傭兵の一人が叫んだ。それに鳴神が言う。
「狼狽えるな‥‥! 死にたくなければ目の前に集中しなさい。味方を信用するしかないでしょう。集中を欠けば撃破されます」
「味方が崩れてたらどうなるッ?!」
その時は隊の背後、側面、死角を突かれて自分達も崩れる事になるだろう。しかしただでさえ数の上で圧倒的劣勢なのだ。隊の力を前に集中しなければ、正面からでも容易く撃破されてしまう。
クラークは言った。
「後方の事は考えるな。周囲の連中だけでもよい。協力できる所から協力していくんだ!」
「くっ‥‥! この状態で、やるしかねぇのか」
「ここでずるずると引き下がると敗走の混乱に陥るだけでしょう」
番場論子(
gb4628)が言った。
「体勢を立て直して気持ちを切り替え、更なる勢いを図って目標達成を向かいたいですね」
退くべきではないと女は言う。退けば負けると。そして負ければ追撃戦だ。
バグア軍による本気の追撃戦は最近では少ないが、かつては恐怖を与える為に星の数程の人間が為すすべもなく、北米で、アフリカで、圧倒的な力で虐殺された。焔は全てを喰らい尽くして焼き払う。
当たり前だが負ければ地獄だ。
「ここまでの道のりを無駄にはさせない」
白鐘剣一郎(
ga0184)が言った。
「ここでケリを着ける」
男はジーザリオに搭乗していた。奇策はあまり見ないが優勢でも劣勢でも安定感がある。
「此処が我慢の為所だ。俺たちが支える。皆、全力を振り絞ってくれ!」
軍属の傭兵達が白鐘を見る。この戦域では声望がある男だ。
「敵はこちらの最大戦力であるKV隊を狙ってくるはずだ。ならばそこを逆手に取る。タロスを押さえ込めれば逆転の目は十分掴める」
「ほんとかよ」
「恐らくな。それに他に手が無い。信じてくれ」
白鐘は無線に言った。
「地上よりKV隊へ、敵を低空へと誘き寄せ機を見てネットで地上へ引き摺り下ろす。やって貰えるか?」
『地上と連携か――解った。やってみよう』
KV隊の隊長からはそんな返事が返って来た。
「よし、俺はこれからタロスを叩きにいく。共に行く者はいるか?」
「奴等にゃあったまきた‥‥俺も行くぜ。全力で叩き潰す!! サポート頼むぜ、花!!」
シルエイトが言った。
「了解‥‥」
月森 花(
ga0053)が頷いて乗り込む。
シルエイトはSFに車の運転手として同行を要請し、一人が「対タロスが最大の勝負所だろう」と言ってそれを容れた。
他方。
「出して!」
「了解っ。飛ばすよ、しっかりつかまっておいてねっ!」
シエル・ヴィッテ(
gb2160)はファルル・キーリア(
ga4815)を後部座席に乗せるとバイク型のAU−KVを発進させていた。
土煙をあげてタンダムのバイクが駆けてゆく。
「全く、冗談じゃないわよ! あれが指揮官の命令なの?」
ファルルは憤慨しつつ急ぎ砲兵中隊の元へと向かう。
他方。
上空。狙撃の為にヘリに搭乗していたムーグは状況を見て思っていた。
この戦場、タロスが鬼門だ。そしてそれを倒すには自走砲の活用が便利。しかし活用する為には、敵の自走砲や戦車が邪魔であり、陸路で敵を突破できる保証はない。予防策がいるかもしれない、と。
自走砲、車両破壊のために空路の利用を考えた。
「‥‥提案、ガ、アリマス」
男は言った。状況を引っくり返しにいきませんか、と。
『なかなか。激しいな。状況を伝えよう』
同じく上空。別のヘリに搭乗しているUNKNOWN(
ga4276)はVHに繋ぎ体を固定してヘリの外から戦場を見下ろして無線に言っていた。
『歩兵第三中隊、突出しすぎだ。今からLH傭兵が参加する。正式な指示まで、傭兵の動きに合わせてみろ』
男は探査の眼を活用し精度をあげて全体の状況を把握しつつ各隊へと指示を出してゆく。
『情報感謝する! だが貴官は何者か?!』
無線から声が響いた。
『ん? 私かね? まあ、ただの旅人、だよ』
アンノーンはそう答えた。
地上。シエルが自走砲の元へ辿り着くとファルルは身分証として三つの鉄菱勲章――ヨーロッパ、ロシア、ボリビアの攻防で功績をあげて獲得された勲章だ――を掲げて見せながら叫んだ。
「傭兵小隊所属のファルル・キーリアよ。こんな事態だからこそ、面会を要請するわ!」
開かれたハッチから男が身を乗り出し、視線を走らせてから言った。
「歴戦だな。それが直接来るとは。用件は?」
「あなたの今の立場は『大隊長代行兼砲兵中隊長』よ。そんな人物が、指揮を放棄して大隊が敗走したとなれば、確実に軍法会議にかけられるわよ」
「状況が好転するならやっている。だが、どう打開すれば良い。下手に指揮すれば悪化するだけだぞ」
「私がサポートするわ。まずは混乱を鎮めて、持ち直す所から始めるべきよ。負けるにしても、負け方ってものがあるわ」
ファルルは言った。
「まずは情報を集めないといけないわ。地図はあるかしら?」
「狭いが来い。やってみろ」
男は言って手を伸ばしファルルを自走砲の内部へと入れた。ディスプレイには周辺の地図と中隊の座標が示されていた。本来示されていたであろう他隊の座標は消失している。高度に電子化されていたが統括元がやられた為、全ての恩恵は失われていた。
各隊から通話で状況を集めるべきだとファルルはランバートへ言った。
『各中隊。状況を報告しろ』
大尉の言葉に各中隊から報告が返って来るが何処も大分混乱している様子だった。アンノーンが状況を伝え指示を出していたので、多少情報は行き渡っていたが、アンノーンは誰何の声に名を名乗らずに『ただの旅人』と返答した。
故に軍は彼の情報と指示を信用して従う者と信用せずに従わない者とに割れた。名前を出し実力とこれまでの実績を示せば信用した者の割合は大幅に増えたかもしれない。だが名乗らなかった為、怪しい、敵のスパイの流言かもしれぬ、という声があがり混乱が起こっていた。場は煮えたぎっている。
アンノーンは的確と思われる解決策を示した。だが自身を信用させる、という一点が抜けている為に全てが的確でなくなっていた。それでも情報の精度と指示内容を鑑みてあたりをつけここは従ってみようと思った者はいた。だが全てではない。いつもの女少佐が健在なら彼の言を信じろと皆に言って全軍を従えさせたかもしれないが爆破されている。
各所の報告を合計すると敵の数が実数と目されていたものの倍以上にもなっていた。報告が正しければ自軍の六倍もの敵が存在する事になっている。
ファルルは思う。この報告は、何処まで信じられるのか。これを信じて動かして良いのか。情報で最も大切な物の一つが信用度だ。他にも問題はある。
(どうしたものかしらね、これ‥‥士気はガタ落ち、戦力も相手の方が上、指揮系統も乱れてる‥‥持ち直すのは厳しいわよ。せめて、ディアドラがいれば‥‥)
流石の彼女も途方に暮れていた。
●
混乱に陥っている戦場。
「我、これより後方の敵自走砲部隊へ強襲をかける! 我こそはと思う竜騎兵たちよ、我について来てはくれぬか!」
藍紗が声をあげた。
「後方へ強襲だと! そんな無茶な。戦力分散になるだけではないのかっ?」
「無茶の一つも通さねばひっくり返せんぞ! 敵方は司令部奇襲という博打に既に一度勝っておるんじゃ。無難手ばかり打っておってはこのまま押し切られる。竜騎兵の速度なら勝算はある!」
「むむむ」
ここは平場だ。竜騎兵が速度を出せる。逆を言うなら遮蔽が無いという事でもあったが。
「厄介なトコから潰して建て直しの援護だ! 砲を自由にさせとくと不味い!」
砕牙もまた言った。バイクを用意して来ておりそれに搭乗している。こちらも機動戦で砲を一気に狙うようだった。
砕牙、藍紗、この大隊では名声がある。ラナ・ヴェクサー
(
gc1748)と番場もまた参加を名乗り出た。
軍属傭兵達は少し迷った様子だったが、一人二人とドラグーン達が名乗りをあげ、どうせ行くならとドラグーンとハイドラグーンが全員でいく事になった。竜騎兵一〇騎、藍紗、砕牙、番場、ラナを加えてバイク兵十四機である。
ラナは精神安定剤を一つ呑んだ。
(リミットが来る前に、終われたら良いのですが)
胸中で呟きバイクに跨る。
「相手は捨て身じゃ! 真正面から相手にしては身体が持たぬ! 初撃は落ち着いていなし、すり抜けざまその横っ面を叩くのじゃ!」
藍紗の言葉に応、と声をあげながらバイク兵達は戦場の中央を迂回し後方を狙うべく大外へと回ってゆく。
他方。
「‥‥大隊司令部からの命令があろうがなかろうが、降りかかる火の粉は払わなくてはならないからな。キメラどもに戦場を蹂躙されでもしたら、戦線が完全に崩壊しかねない以上とりあえずその対処に回る事としよう」
正面。混乱する戦場の真っただ中、榊 兵衛(
ga0388)が言った。傭兵隊の最前列に立ち、怒涛の大海嘯の如く荒野一面を埋め尽くして突撃してくるキメラの群れへと槍を構える。
「我が槍の穂先に掛かりたい奴は、俺の前に出てくるのだな。キメラにもあの世というモノがあるならば、速攻に送ってやろうぞ」
吼え声をあげて赤鬼や豚鬼、狼人が迫り、榊が駆ける。鳴神もまた銃を手に駆け出した。
「さてこれほどの敵相手にどこまで行けるかのう」
湊 雪乃(
gc0029)も呟き走り出す。味方の側面を埋めるべくNAMELESS(
ga3204)もそれに続いた。周囲の傭兵達も駆け出してゆく。
「‥‥暑いのは慣れてる筈だけど、あの敵軍を見ると嫌な汗が出てくるね」
そのうちの一人、ノエル・アレノア(
ga0237)は呟いた。だが、支えたい人が傍にいるから、この戦いも必ず生き残ってみせる。
少年はまずはキメラを討つべく向かおうと言った、しかしティリアは最初の狙いは自走砲と定めていた。こちらでも混乱が起こっているようだ。二手に別れる事も検討されたが、自走砲は奥にいる為、まず手前のキメラから当たろうという事になった。
(ディアドラ少佐、浩志さん‥‥皆、無事だといいけれど‥‥)
ティリアは駆けながら思う。戦場は煮えたぎっている。
(でも、臆している暇はありません。ここで勝たなければ今までのインドでの戦いが無駄になってしまう‥‥!)
砲が炸裂し地上に爆焔が吹き上げる中、呼吸を整え武器を構える。
(――大丈夫、落ち着け。今は‥‥隣にいる一番大切な人と、勝ち残って、生き残る‥‥それだけを考える‥‥!)
少女は胸中でそう呟いた。
他方。
「隊長たち‥‥無事でしょうか‥‥心配ですけど‥‥ここで僕たちが失敗したら‥‥後で思い切り絞られそうですね‥‥」
苦笑してハミル・ジャウザール(
gb4773)が言った。
「敵も必死かもしれないけどさ、俺たちだってここで負ける訳にはいかないんだよね」
M2が言った。
「ええ、お仕事‥‥しましょう‥‥」
ハミルはSF、HG、M2と共にジーザリオに搭乗しキメラへと向かう。運転手にはSFがついた。隊員達は戦車や自走砲狙いの人達が動き易い様、キメラ相手に弾幕中心の機動戦を仕掛けるつもりだと説明したらあっさり頷いてくれた、元よりキメラ討伐が彼等の任務であるし実績からハミルも兵達から信用を受けている。ハミルの言葉に従って戦っても大丈夫だという信頼だ。不利益が出るような事はしない。
他方。
(大丈夫だろうか、今、彼女を失う訳には‥‥いや、だからこそ――、今を如何にかせねば、か)
流叶・デュノフガリオ(
gb6275)は思っていた。
(あぁ、そうだね‥‥此方が混乱しているなら、向こうにも混乱、して貰おう‥‥かね?)
流叶もバイクに搭乗していたが迂回ではなく正面から突撃する事にした。突貫である。厄介な箇所ではなく、弱い箇所に的を定める。恐怖に乱れた味方は敵そのものよりも障害となると今まさに体験している。なら相手にもそれを与えてやれば良い。
女はアクセルを全開に回し、迫る敵軍へと向かってバイクで突撃を開始した。
「敵の戦車を潰す。援護を頼めるか?」
クラークは射手系の傭兵達に声をかけた。
「戦車か。必要はあるな。俺は構わん。だが、ここの対キメラ隊の援護は良いのか?」
軍属傭兵の言葉にクラークはアッシュを見た。
「任せとけ」
「アッシュさん、頼みます」
クラークは言って五名の射手を率いて戦車を攻撃に向かい、アッシュは残存を率いて迫るキメラの群れへと攻撃を開始した。
終夜・無月(
ga3084)、武器が無い、防具が無い、仕方が無いのでFFを持つキメラは避け、徒手空拳で敵歩兵へと向かって突撃する。
アルヴァイム(
ga5051)、ジャック・ジェリア(
gc0672)、植松・カルマ(
ga8288)の三名はSTを引き抜くと(大隊兵から一目置かれている男達が三名も集まっていたのであっさりいった)アルヴァイムの運転の元ジーザリオに搭乗しKVとタロスが激突している下方へと向かった。
通信手を任されたSTの報告では、KV隊は南よりに戦っているようだった。敵の対空砲火を嫌ったのと味方の砲を利用する為のようだ。
アルヴァイムは臨時司令部へと特殊砲弾の使用を打診しタロスに対する攻勢時機の調整を計らんとした。
今までは司令部からはすぐに返事が返って来たが、しかし今回は臨時司令部からは応答がなかった。
シエルは戦場の状況を探りつつ混乱が大きく危険そうな歩兵中隊に敵が迫るのをみて司令部へと状況を報告した。指示を求めたが、しかし、応答は返ってこなかった。
臨時司令部ではファルルがランバートと共に打開策を探していた。
次々と嵐の如くに無線に各隊から報告や要請や打診の声が飛び込んで来ていた。まさに統制が取れていない状況である。判断を降すどころか何を言っているのかさえ把握するのに苦労する。援軍をくれ、敵軍は二隊に別れた挟撃する気だ、特殊砲弾を使用してKV、地上、砲で連携して攻勢を、あちらの歩兵隊が非常に危険である、など様々な声が一斉に飛び交っている。
さらにKV隊は自隊の生き残りを優先したのか敵砲の射程外で戦い始めた為、砲撃が司令部の周辺に次々に飛んで来ていた。轟音と共に焔が広がりすぐ傍の大地を消し飛ばし熱波が自走砲の装甲を焼いてゆく。
混迷は極まっていた。際限などない。
「うーん‥‥虎に率いられた羊の群れは、羊に率いられた虎の群れよりも強い、だっけ? かなりまずい状態だよねぇ、これ」
シエルはそんな呟きを洩らした。
『こちらTyphoon‐3、中隊じゃないが、空より報告する』
そんな中、臨時司令部へと良く通る低いハスキーボイスが響いた。杠葉 凛生(
gb6638)だ。男はヘリより地上を俯瞰し、およそ正確な所を淡々と臨時司令部へと伝えてゆく。ファルルはそれにすかさず言った。
『臨時司令部よりTyphoon‐3へ、状況を掴める手段が乏しい。観測と報告を優先させて』
『――了解』
ランバートではなく女の声が返って来た事に杠葉は少し驚いたが、その指示を承諾した。傭兵だ。行動ロジックにも柔軟性のある男である。
「信じて良いと思うか?」
「信用出来るわ」
ファルルは言った。実際は消去法だ。だが、司令部へ渡された報告のうち最も精度が高いと思われた。空からなら地上からよりも良く把握出来る筈だ。
「ではそれに賭けてやってみるか‥‥」
ランバートが言った。状況を把握出来るようになれば手段はある。
「戦力は相手の方が多いわ。無謀な攻勢はとりあえず控えて。落ち着いて迎撃して。対処しきれない敵じゃないはずよ」
解った、とランバートは頷くと、
『こちら臨時司令部だ。左翼に第四を回せ。兵と砲は後退、能力者と戦車を前に出せ。まずタロスを墜とす。地上より傭兵の一隊が外れに向かっている。KV隊はその上にタロスを寄せろ。こちらで砲撃する――』
次々に指令を発してゆく。シエルは挟撃に回り込まんとする敵の隊の迎撃に向かう歩兵隊の援護を指令され、援護に向かった。ファルルは報告や要請の内容をまとめつつ大尉が迷った時に助言を与えた。
他方。上空では、超長距離狙撃を用いて敵ヘリを撃墜せんと味方のヘリが数機突っ込んでいた。基本対地が優先としても流石に自らを殺しに迫りに来る者達がいればそちらを迎撃する、ヘリ同士なら撃ち合える。傭兵達が敵ヘリのローターを狙って一撃必殺を狙っていたように自軍のヘリの装甲もその程度だ。ムーグやアンノーン、イェーガーが射撃する前に――SES兵器を二倍した所で射程が違い過ぎる――攻撃ヘリ同士でミサイルとミニガンを応酬し合い、味方のヘリは敵ヘリの連携の前に次々に撃墜されていった。味方は三機で他ヘリとは互いに連携していなく相手は十機、副操縦手もいなく数が違う。ヘリは錐揉んで落下し荒野に激突して爆発し四散した。
真白は弓ではヘリへ届きそうもないのでキメラへと向かっている。
●
空よりタロスがKVへと猛攻を加えKV隊は防御に集中しながら作戦決行地点へと飛行してゆく。
杠葉は上空からの状況を司令部へと報告している。
地上の最前線では突撃するキメラに対しアッシュ、鳴神を初めとした飛び道具を持つ軍属傭兵達が四十名程度が射撃を開始した。少し遅れて真白も到着し魔創の弓で矢継ぎ早に射ってゆく。
ハミル等はキメラの群れの側面へとジーザリオを回し、ジーザリオの上からM2とヘヴィガンナーがSMGで大型ガトリング砲でキメラの足元を掃射した。ハミルもエネルギーガンを連射してゆく。
数は多いがこの戦域のキメラは脆い。夥しい量の弾丸と矢、電磁嵐や光線が飛びばたばたとキメラ達が倒れて行く。
だが総勢五百匹の大群だ。死体を踏み声、太刀を振り上げ斧を振り上げ、狼人や鬼達が突っ込んで来る。しかし前が倒れる、あるいは止まる事により勢いは鈍り、動きも乱れていた。
それに対して榊、鳴神、ノエル、ティリア、湊、NAMELESS等を含む
白兵武器を持った傭兵達が突撃した。
榊はさらに敵の隊列を乱す事を主眼に突撃し、槍を縦横に旋回させてキメラ達を次々に吹き飛ばして転がしてゆく。
鳴神は前衛に合わせて射撃しながら突撃し、距離が詰まると腰から太刀を抜刀ざまに一閃させて赤鬼を両断した。
ノエルとティリアは並びつつ迫るキメラへと短剣と小太刀を振るって打ち倒してゆく。
湊は右足を前に構え、振り降ろされる斧をかわしざま豚鬼の懐へと飛び込むと右のライトニングクローを素早く顔面へと打って豚鬼の前進を止め、怯んだ所へスコルを用いて蹴り飛ばした。豚鬼が吹き飛び、脇から狼人が太刀を突きこんで来たのを後方にステップしてかわす。
「けけけけけ! キメラ方面、敵は数が多いが味方のがツエーな! 問題ないぜー!」
NAMELESSは斬り合っている味方の側面を長槍を振るって援護しつつ無線に状況を報告してゆく。
「ここが勝負所だよ! みんな、耐えて!」
AU‐KVを装着したシエルは敵の歩兵集団へと弾幕を受けながらも突き破って包むとS‐01で猛射した。龍の翼で加速し抜刀して突っ込んでゆく。
「強化もされてないただの人間が、私達、能力者なんて化け物に勝てるとでも思ってるの! 命が惜しいなら退いて!」
少女はそう叫んだ。
一方、終夜は探査の眼を発動させ瞬天速で加速して砲弾をかわし、時に弾幕を身に受けつつも間合いを詰めると手刀を敵兵の首へと叩き込んで一撃で圧し折りながら吹き飛ばした。素手でそこらの戦車以上の破壊力。
「ば、化物だ!」
兵士達が悲鳴をあげながら銃を乱射する。
他方。バイクで突撃していた流叶は銃撃の嵐を受けつつも砲火を掻い潜って前進し、歩兵達がそれに向かって対戦車誘導弾を撃ち放った。流叶はバイクから飛び降りてそれをかわしつつ着地すると迅雷で一気に加速した。
「ほぅら、来てやったよ? ‥‥キミ等の恐れる存在が、ね?」
近距離からの砲弾を前に進みながらかわすとグローブ型の超機械を翳し電磁嵐を重戦車へと巻き起こすと二刀小太刀を振るって砲門を斬り飛ばした。零距離からの歩兵達の射撃を未来が視えるかのようにすり抜けるように回避してゆく。
「降伏勧告なんぞやってる暇はない。お互いに、覚悟済みだろ?」
クラークもまた瞬天速で加速すると砲弾と銃撃を掻い潜りながらケルベロス拳銃を猛射する。戦車の周りを固める歩兵達が弾丸を受けて吹き飛び、弾丸が重戦車のキャタピラに炸裂して破壊を巻き起こした。軍属の傭兵達が続いて戦車へと猛射し爆裂の嵐を巻き起こして破壊してゆく。
「敵の武器だろうがなんだろうが、使えるものは何でも使え!」
クラークは言いつつ破壊した戦車の陰へと入って盾にしつつ、打ち倒した歩兵からMANPADSを奪い取って上空へと向けた。地上へと対地ミサイルを猛射している敵ヘリをロックし撃ち放つ。焔の光を放ちながらミサイルが天空高く飛翔し、やがて落下しながらヘリへとうねるようにしながら喰らいつき大爆発を巻き起こした。敵ヘリが破片を撒き散らしながら墜落してゆく。FFを纏っていない敵には効く。クラーク随行の傭兵達も同様に敵の武器を奪い取って射撃を開始し歩兵を薙ぎ払ってゆく。
ミリハナクは襲い来る戦車砲に対し五角盾を構えて前進する。砲弾が盾に激突して大爆発を巻き起こし、しかし焔を裂いて突き進んでゆく。
シエルクラインの射程まで一気に詰めると猛撃を発動、キャタピラを狙って弾丸の嵐を叩き込んで破壊を撒き散らす。同様に自身障壁と探査の眼を発動しながら砲火の爆炎を突き破ったリュドレイクは両断剣を発動、動きの止まった重戦車の砲身目がけて太刀を振り抜いた。鋼の塊が両断され、次いで男は機関砲へも太刀を振い戦車を破壊してゆく。
ミリハナクは無力化された戦車の残骸の陰へと入るとアンチマテリアルライフルを取り出し設置した。FFを備えた重戦車を遮蔽物に防御しつつ射程内の敵を狙撃してゆく。
他方。
「僅かな間でいい、押さえ込んでくれ!」
白鐘が上空を仰ぎ見つつ無線に言った。砲兵中隊は敵の自走砲からの砲撃を受けて三機程が既に破壊されていたが、残存の三機がタロスへと砲撃を仕掛ける。
それに合わせて八機のKV隊がネットを射出し三体のタロスが回避し三体のタロスが槍で切り払い二体のタロスがネットに絡まれた。直撃させたフェニックスは赤い力場を発生させて変形しながらネットを引き地面すれすれを飛行しながらタロス達を低空へと引きずり降ろさんとする。アルヴァイムは魂の共有を発動させつつ進路を指示し、ジャックは練力を解放すると四肢砕きを発動タロスへと向けてSMGで嵐の如くに弾幕を張ってゆく。植松カルマが走行するジーザリオの上で立ち上がり1.4mの両刃の魔剣を構えた。両断剣・絶、スマッシュ、ソニックブームを発動、練力を全開に解き放つ。『ジャイアントキリング』と名付けた必殺剣。
「食らえェッ! もっぱァつ! 更にもっぱァつ! 釣りはいらねぇ! とっときなァァァッ!!」
剣の紋章を吸収した剣が、天を爆砕する程の超絶な――最高クラスのKVの超絶な一撃よりもさらに勝る破壊力の超絶な――音速衝撃波を巻き起こし、到底生身から繰り出されたとは信じられぬ一撃が動きを阻害されているタロスへと襲いかかってゆく。四連射。
圧倒的な爆圧がタロスを呑みこみ、そしてその装甲をひしゃげさせ貫通し荒野の蒼天を突き抜けていった。鬼神の一撃。タロスは次の瞬間漏電と共に超爆発を巻き起こし粉々に砕けて散る。人外魔境の殲滅力。
月森は弓に矢を番えると援護射撃をすべくもう一体のネットにかかったタロスへと向かって矢継ぎ早に射かけ、シルエイトはバラキエル拳銃を構えるとタロスの砲を狙って猛射した。凶悪な破壊力を秘めた弾丸が次々にタロスへと襲いかかり貫いてゆく。
白鐘は黄金のオーラを纏いつつ両断剣・絶、急所突き、ソニックブームを発動させると太刀を突き出した。
「天都神影流『秘奥義』穿孔破っ!」
超音速の波動が唸りをあげてタロスへと襲いかかり装甲の薄い場所を貫いて壮絶な破壊を撒き散らしてゆく。衝撃に揺らいだタロスへとすかさずフェニックスとアルヴァイムが追撃を入れて爆砕した。撃破。
他方、バイク兵の集団は手薄な箇所を回って敵陣の後方へと雪崩れ込んでいた。
「脚を止めるな的になるぞ! 疾く疾く駆け抜けるのじゃ」
藍紗が叫んだ。砲撃や歩兵達の携行対戦車誘導弾や無反動砲で数機の竜騎兵が吹き飛ばされて脱落していたが、その半数以上が自走砲へと肉薄せんとしていた。
砕牙は砲を射程に捉えるとリボルバーを向け轟音と共に強烈な弾丸を発射しキャタピラを破壊してゆく。ハイドラグーン達が光を噴出させて突撃し群がる歩兵達を薙ぎ払った。砕牙は砲に肉薄すると太刀を振って破壊してゆく。
ラナはバイクから降りると迅雷を発動し急速接近を試みる。射撃に撃たれつつも跳躍して自走砲に取りつくとライトニングクローを砲身に叩き込んで破壊した。
藍紗が扇を振って竜巻を巻き起こし、番場はAU‐KVを装着すると敵の側面へと回り込みつつ射撃を合わせて十字砲火で砲を破壊してゆく。
シン、冴城、天原、綾河、マイア等は爆撃された跡地に辿り着くと救助に当たっていた。
「あっ‥‥つぅ! 負けるかぁぁぁ!」
マイアは大破している戦車のひしゃげて灼熱しているハッチを掴み、無理やりこじ開けた。天原と冴城が中から搭乗員達を引きずりだす。変わり果てた姿を見てマイアは息を呑んだ。
焼けただれている人間達に対しシンは練成治療で、マイアと綾河は蘇生術で治療を開始した。
「姉さんっ! 姉さんっ!! 目を開けてよ! 聞こえてるんでしょっ!? 姉さんっ!」
マイアが叫んだ。
「――どう?」
冴城が問いかけた。
「解りません」
シンは冴城が無線を手にしているのを見て、少し迷った後に正直に答えた。対応の為、正確な所を告げた方が良いと思ったからだ。能力者なら息があれば大抵なんとかなるが、非能力者の場合耐えられるかどうか解らなかった。
リンカーはシンから多目的ツール等を借り受けると指揮戦車の中に入って修理を開始していた。情報網を立て直すつもりのようだ。
冴城は臨時司令部に現状を伝えつつ戦車内で何か指揮に関するメモがないかを探した。が、見つからなかった。冴城、天原、綾河は一旦の救助を終えると再び前線へと向かった。マイアは場を護衛するという名目でその場に留まった。
「‥‥ゴメンね。姉さんなら自分に構うなって言うんだろうけど‥‥」
持ち場を守れ、きっとそう言う。
「ゴメン。無理だよ‥‥そこまでして、戦えないよ‥‥わたし‥‥」
俯いてマイアはそう呟いた。
●
タロス達の猛攻によりフェニックス達は次々に落ちてゆき、UPCの自走砲もバグア軍の自走砲の猛撃を受けて次々に爆砕されたが、バイク兵達の突撃もあって全てが殲滅される前にタロスへと特殊弾を放ち、KVがネットを噴出して引きずり降ろした。ジャック、月森、アルヴァイムの援護射撃の元、カルマ、白鐘、シルエイトの猛撃が唸って地に降ろされたタロス達は一瞬で破壊されていった。
臨時司令部となっていた自走砲もやがて砲撃によって爆破されたが、その頃にはタロスは全滅されており、生き残りのKV達が敵ヘリを狩り始めていた。脱出したファルルとランバートはシン等が復旧させた司令部へと赴きそこで再び指揮を取った。
杠葉は復旧後、ヘリはKVに任せ地上を狙撃しようとしたが歩兵からの携行ミサイルを受けてヘリは撃墜されて四散した。
対キメラの傭兵達は鳴神や真白の十字撃が唸ってキメラの群れを大量に吹き飛ばし、後は地力で粉砕した。
対戦車戦は優勢に進み押し返していたが、対歩兵は手薄になっており味方の歩兵中隊の幾つかは壊滅して潰走を開始した。
しかし、やがて自走砲が破壊しつくされ、対キメラ班が援軍に向かい、空を制したKV隊がヘリを撃墜して対射撃を開始した為に戦況は再度一変した。
両軍は夥しい損害を発生させながらも、ドワルカのバグア軍が打ち破られ市にはUPCの旗が翻った。
他の二市も勝利を収め、半島の解放が宣言されたのだった。
「よぉ、今回は災難だったな」
戦後、病院を訪れたアッシュは安心で柄にもなく少し涙目になって言った。
「ヤマト君から聞いたよ。私が倒れた後、奮闘してくれたんだってね」
ディアドラは微笑すると言った。障害は残るだろうが治療が迅速だった為に命だけは助かったらしい。
「有難う。貴方は私の隊の皆を助けてくれた‥‥すまない、心配をかけた。御免、御免な」
女は俯くとそう言った。
了