タイトル:焔の道マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/01 12:45

●オープニング本文


 バグアと地球人類の競合地帯。そこでは常に戦火が吹き荒れる。
 押し寄せるキメラ、迎え撃つ軍隊、火球が爆裂し、砲弾が街並みを破壊する。
「南に本隊がいる! 早く、避難しろ!」
 キメラの群れに向かって、アサルトライフルを乱射しながら切迫した声で兵士が逃げ惑う人々に言う。
「子供が、うちの子供がいないんです!」
 雪崩のごとき人の濁流の中でまだ若い女が絶叫する。
「なんだと!」
「おい、あれっ!!」
 兵士の一人が頭上を指した。
 燃え上がるマンションのベランダ、煙にまかれながら十歳程度の少年と少女が泣き叫んでいる。
「ハジメ! ミサト!」
「ありゃあんたんちのお子さんか!」
「隊長! 三時の通路からキメララット接近中! 数、およそ十!」
「グレネードをありったけ叩き込め!」
「ラジャー!」
 兵士達がパンツァーファウストを構え、膝立ちの状態から一斉に撃ち放つ。爆音と共に砲弾が飛び、アスファルトの地面を爆砕し、鼠の群れを吹き飛ばす。
「助けて、助けてください!」
「十時の上空からドラゴンフライ! 数、三!」
「砲で迎撃しろ!」
「砲弾がもうありませんっ!」
「重機と煙幕でなんとかしろ! 落とさなくて良い、寄せるな!」
「了解!」
「ハチガネ、傭兵の一隊をマンションに回せ!」
「能力者を民間人の救出にあてるんですか?! しかし、それでは戦線が」
「能力者以外にやれる連中がいるのか?! てめぇらも俺の部下なら意地を見せろ! 民間人を見捨てたとなっちゃUPCの名が廃る! 抑えろ、まわせ!」
「無茶言わんでください、それじゃ到底もちませんよ!」
「泣き言なんざ聞きたくないね! 一時で良い! 民間人の大半は南へいった、俺達も傭兵が餓鬼どもを救出しだい後退する。だからそれまで踏ん張れ!」
「‥‥了解! こんな博打、どうなっても知りませんよ!」
 かくて傭兵の一隊が燃え上がるマンションに取り残された二人の子供を救出する為に突入する事になる――

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
デル・サル・ロウ(ga7097
26歳・♂・SN

●リプレイ本文

 地球人類とバグアの競合地帯。キメラの襲撃を受け燃え盛る街。爆炎が全てを砕き、人生を踏みにじる。そこはそんな場所だ。
 だが、それでも人は立ち向かう。彼等は多分、最後の希望。
「さぁて‥‥出番だな! ボサッとしてる暇はねぇぜ! さっさと行くぞ!」
 燃え盛るマンションを睨み、拳を打ち合わせてゼラス(ga2924)が言った。
「すぐに戻る。それまで持ち堪えてくれ」
 周囲は熱波の色に染まり、キメラが押し寄せ、吐き出される弾丸が必死にそれを食い止めている。そんな中でも落ち着いた様子で白鐘剣一郎(ga0184)が述べた。冷静さを欠けば、一瞬で呑み込まれる。
「了解した。火の回りが早い、いけるか?」
 部隊長が問いかける。それにエクセレント秋那(ga0027)が不敵に笑ってみせた。
「なぁに、子供は必ず助けてみせる。心配すんなって!」
 三人は走る。射撃がそれを援護した。煙を吐き出すマンションの入口へ三人の姿が消えてゆく。
 その背を見送った後、蒼羅 玲(ga1092)はキャンプ用テントを交戦中の兵士達の足元へ放った。
「キメラの方はこっちで何とか対応します。ですが救出メンバーが脱出の時飛び降りてくる可能性があります。すいませんが、数名の人はそれで救出用のマットが出来るように準備してください」
 銃を撃ちつつ顔を見合わせる兵士達。
「やれ! お前等よりこっちの娘さんが動ける方が戦力になる!」
「‥‥あいさー! 了解ッ!!」
「畜生、俺達を退かすんだからな! 食い止められなかったら承知しねぇぞ玲!」
「任せておいてください。抜かせはしませんよ」
 言って少女はショットガンをロードし発砲、散弾を撒き散らして東から向かってくるキメララットの群れを吹き飛ばす。だが一人では全ては止めれない。傷を負いつつも何匹かが抜けてくる。
 しかしながらそれも玲の予想の範囲だ。隠密潜行でバリケートの陰に位置取りしていたデル・サル・ロウ(ga7097)がハンドガンを発砲、連射された弾丸が突き刺さりネズミ達の息の根を止める。
「ドラゴンフライが来るぞーッ!!」
 隊員が叫び声をあげた。煙幕を裂き、焔に照らされドラゴンフライが次々に姿を現す。
「迎撃入ります!」
 叢雲(ga2494)がSMGを空へと向け、それの羽を狙い澄まして引き金をひく。荒れ狂う弾幕が音速ではばたく羽にぶつかり無数の跳弾と火花を生んだ。幾枚かの羽が傷つき大蜻蛉の身をよろめかせたが、蜻蛉は羽の一枚や二枚では飛行不能にはならない。速度を鈍らせつつもそのまま突っ込んでくる。
「‥‥花は散り際が美しいって言うけれど、この若さで散りたくはないのよねっ」
 ヴァシュカ(ga7064)がターゲットを叢雲と合わせ超機械を発動させた。三連の電磁嵐がドラゴンフライを包み込み、その甲殻を爆ぜさせる。体液を噴き出しながら大蜻蛉はあらぬ方向へと墜ちてゆき、民家に激突して動かなくなる。
 だが大蜻蛉は一匹だけではない。無傷のドラゴンフライが急降下しヴァシュカへと迫る。
 そこへ比良坂 和泉(ga6549)がガードを構えて割って入った。豪力発現を用いて筋力を増大させるとその突撃を体を張って受け止めんとする。
 三メートル近い巨躯を持つ大蜻蛉の質量が炸裂し比良坂の身が勢いよく吹き飛んだ。一方の大蜻蛉も飛行を継続できず地響きと共に地面に着地する。比良坂は勢いを殺しきれない。恐ろしい速さで地面を転がりながら民家の塀に激突し、後頭部を強打する。
 ロード音が響いた。男は倒れたままショットガンをドラゴンフライへと向ける。
「銃火器の扱い、ニガテなんですけどね‥‥ッ!!」
 頭部から吹き出る血に構わず発砲。散弾が唸りをあげて飛び大蜻蛉を直撃する。
 しかし、
(「硬い‥‥!」)
 何割かの弾丸は甲殻を穿っていたが、残りの何割かは弾き返されていた。硬くても衝撃は通る。ダメージが無いという事はないだろうが、しかし致命傷には遠い。
 大蜻蛉は再び高速で羽をはばたかせると、その巨体をふわりと浮きあがらせた。

●焔の道
 熱波が咆哮をあげ、黒煙が充満する焔の道。マンションへと突入した三人は飛びかかってくる小型キメラを蹴散らしつつ進む。
「邪魔だ! どけ!」
 ゴーグルで目を保護し、マフラーをマスク代わりにしているゼラスが階段を駆け上りながら蝙蝠を叩き落とす。
「っ‥‥煙が濃いね!」
 エクセレント秋那が追走し、側面から来るキメラを爪で斬り裂きながら言った。秋那もまたタオルを口に巻いて走っているが、煙は刺すように眼球に襲いかかり、その視界を妨げる。
 白鐘剣一郎は片手で口元を覆い、咳き込みながら刀を一閃させる。走りながらの戦闘により煙を吸い込んでしまったようだ。視界も悪く、その動きには常の鋭さがない。
 それでも三人は三階まで駆け上がると303号室へと急いだ。半壊している扉を蹴破り吹き飛ばす。立ち待ち黒煙が噴き出した。部屋の中には煙が充満し炎の舌が唸りをあげている。
「くそっ、見えねぇっ!」
 部屋へ踏み込んだゼラスが呻いた。一寸の先でさえ煙の為に見通せない。見えるのは灰色の煙だけだ。
 焔の暑さに肌が照らされ、吹き出る汗さえすぐ消える、煙の為に喉と鼻の粘膜が痛み、頭痛がした。子供の叫び声と銃声が聞こえる。爆音が鳴り響いていた。
「姿勢を‥‥低く、煙は‥‥上に登る、ようだ」
 最も煙の被害を受けている白鐘が咳き込みながら言った。
 一同は体勢を下げる、すると幾分かマシになった。煙中を這うようにして進み、なんとかベランダまで辿り着く。
 煙を割って出てきた三人の姿を見上げ少年と少女が目を丸くする。
「安心しな。正義の味方が来たよ!」
 エクセレント秋那がニヤリと笑って見せた。
 子供達が一斉に泣き出した。
「え、ええっ?」
「安心したんだろう」
 剣一郎が苦笑した。
「そら、もう大丈夫だぞ。こんな蒸し風呂みてぇなとこ、さっさと出ようか」
 ゼラスが言って子供を抱きかかえる。もう一人も秋那が抱きかかえた。
 一同は緊急用のロープを探そうとしたが煙と炎で位置がよく解らない。下では兵士達が布を広げている。
 白鐘が殿を固め、ゼラスと秋那は子供を抱えて飛んだ。

●撤退戦
「待たせたな。救出完了だ。急いで撤収を!」
 マンションから出て来た白鐘が隊長に言った。
「良くやった! 野郎ども、撤退だぁっ!!」
 隊長が命令を降し、兵士達が雪崩を打って撤退に移る。
「大丈夫、あと少しの辛抱だよ」
 秋那はぎゅっとしがみ付いてくる子供を抱きかかえながら走る。
 だがそう容易くは逃げられない。逃走路にもキメラの群れが立ちふさがる。
 着物姿の少女がショットガンを構えて飛びだした。蒼羅玲は散弾を撒き散らしキメラを薙ぎ払う。そこへゼラスが鋼鉄の爪を振りかざして斬り込んだ。
「炎の舞台だ。苛烈に舞いな! この世で最後の舞いになるからな!」
 キメラの群れの中を血風を巻き起こして踊る死神が駆け抜ける。切り開かれた道をデル・サル・ロウと兵士達が押し広げた。一同は切り開かれた道を南へと走る。
 一方の後方からは二匹のドラゴンフライが部隊に襲いかかっていた。一匹は負傷しているが、一匹はまるで無傷だ。
「送り狼は結構だ‥‥去れ!」
 白鐘剣一郎の月詠が唸り、突っ込んできた大蜻蛉の甲殻をすれ違いざま叩き割る。
 衝撃で地に落ちた大蜻蛉へ比良坂が肉薄し甲殻の割れ目へとショットガンを突きつけて発砲した。大蜻蛉の体内に散弾が叩き込まれ、肉片と共に体液をまき散らす。
 さしもの大蜻蛉も体内を穿たれては生存は不可能だ。しばらく痙攣していたがやがて動かなくなる。
 並列して突撃してきたもう一匹へはヴァシュカが超機械を発動させていた。蒼光の電磁波が荒れ狂い、大蜻蛉の甲殻を爆裂させる。
 一気に瀕死となったところへ強弾撃を発動させた叢雲が弾幕の嵐を浴びせ叩き落とした。
「流石に、頼もしいねぇ!」
 隊長が狙撃銃から吐き出される弾丸を後方へと撒き散らしながら言う。
「油断は禁物ですよ! 気を抜かないでください!」
 SMGで殿を守りながら叢雲が言った。
「解ってらぁ。おう、野郎ども! あんまりばらけんなよ、固まっていけ!」
「了解!」
 隊長の声に兵士達は答え、外側を傭兵達に任せて内へと固まって動く。
 比良坂の散弾が撒き散らされ広範囲を抑え込み、ヴァシュカの電磁嵐が荒れ狂い飛行キメラを撃ち落とす。それでも抜けてきた敵は白鐘の刀が叩き落とした。
 子供達はエクセレント秋那が守り、立ちふさがる壁には玲のショットガンが穴を開け、ゼラスが斬り込んで道を開き、後に続く者達がそれを押し広げてゆく。
 一行は行く手に立ちふさがるキメラを蹴散らし、背後から追って来るキメラも撃退し、無事に南へと撤退していったのだった。

●熱波を潜りぬけて
「おかーさん!」
 UPCの本陣で母子が抱き合って泣いている。
「有難うございます、有難うございます、皆さん!」
 母親が何度も何度も頭を下げていた。
 それにエクセレント秋那が笑って言った。
「礼を言われる程のことじゃないさ、なんせあたし達は正義のヒーローだからね」
 女格闘家はそう言うと煤で汚れたタオルを肩にかけ、片目を瞑り、こめかみをかすめるようにしてビッと敬礼をすると踵を返し去っていった。