タイトル:【極北】凍てついた空マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/30 13:43

●オープニング本文


―――――――――
 地球、衛星軌道上にあるバグア艦隊の構成員の多くは、この星を見下ろした経験しかない。見知らぬ星『地球』において同胞が戦い、そして信じられぬことにその幾分かは打ち破られたという事実は知っていた。この星の住人は手ごわいのだろう。『上官』から現地の状況と共に転送された指示を見て、彼らの予想は確信に変わった。
『現地の無人兵器群と合流し、それを統率せよ。状況においては機械融合を行うよう指示する』
 自身の姿を捨て、醜い生体機械と化す融合を、罰ではなく生き残る為に使用せねばならない程の戦いが、眼下の青い星には待ち受けているのだ。バグアはあるものは激戦の予感に高ぶり、またあるものは冷静に作戦の成功の為の手段を練りはじめる。
―――――――――


 これはまぁそんな時代の話だ。
 天頂を見やれば漆黒の宇宙、見下ろせば輝く青い星。
 美しい星だ。遥かな記憶の彼方にある故郷に燃える偏方二十四面体の青い銀の火のよう。あの愛らしい生き物達は薄く青く輝く。
 この星の覇権を握っていた源生の二足歩行生命体は手ごわいらしい。未だ全土が制圧されておらず、捕獲した肉体をヨリシロとする者も結構な数がいるらしいから、なるほど、手ごわい奴等なのだろう。しかし所詮、奴等も俺も宇宙の闇に爆ぜるガスの塊のようなもの。やがては虚空に消えるが定めだ。
――オーズ、何を考えている?
 通信装置から女の声が響いた。もっとも女といっても――星の連中をヨリシロに使っていたので、彼女の声はやけに硬質だったが。
「何、どうやればお上が要求するように無事に『チューレ』とやらに辿りつけるか算段を立てていた所さ」
――あの話、本当だと思うか?
「機械融合までしろってんだから本当なんだろう」
 あの映像も、上がって来る情報も、嘘とは思えない生々しさだ。
――信じられんな。
 また別の声が響いた。耳障りな男の声。発声器官が優れているかどうかは、ある種ヨリシロを選ぶ基準の一つになると俺は思うんだが、アンタはどう思う?
「マァ、グダグダ言ってるより行けば解るさ。ただ俺ァ、無駄死にって奴が嫌いでね。機械と融合するってのも趣味じゃない」
――私は死など恐れぬ。
「じゃあ、お前、万一の際には融合して囮とかやってくれる?」
――よかろう。
 男はあっさり言った。
――漫然と生きるのにも飽いた。
 マジらしい。元からそういう性格なのか、それとも妙に淡泊な奴をヨリシロにしちまった影響か――俺には解らんが、その心情は多少は解らんでもない。俺は奴程じゃないがな。
 生き飽きるってのは問題だ。眼下に輝く青い星の生物達は生命への願望が強いと聞く。そいつらをヨリシロにすればかつてのように生きられるかね?
「そうかい、サヴァン。じゃ、悪いが、そんときゃ頼むわ。俺ァまだ、試したい事がある」
――了解した。では迎撃隊が来たらまずは交戦、手ごわそうなら私が機械融合、それでも危なくなったらお前等は逃走、と‥‥そのような感じで良いかね?
「大雑把過ぎねぇか?」
――危険があった方が血が騒ぐ‥‥その方が、生きている気がするだろう?
「お前さんがそれで良いならそれで良いがね。行くかい?」
――応。
――腕が鳴るね。
 かくて、俺は本星ヘルメットワームに、ズィーは新型に、サヴァンは強化タロスに搭乗すると雪原を目指して降下していったのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

「ディアマントショタオプ発進なのであります」
 美空・桃2(gb9509)が言って乗機を滑走路に走らせ、轟音を巻き上げながら凍てついた空へと飛翔してゆく。機種名が微妙に違うような気がするが、ナチュラルだったので、気づかなかった者も割といた。美空本人は素で間違えたようだった。
「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
 お馴染みの名乗りと共に空に上がるのはウェスト研究所所長ドクター・ウェスト(ga0241)だ。FFの分析、無効化研究が現在の所の主眼か。
「ただでさえ大規模中にさらなる強力バグアの来襲はいただけないので、任務の合間を見て速やかにご退散願うのであります」
 と美空。
「グリーンランドへの敵の増援、不安の種は早急に潰しておきたいですね」
 ヨハン・クルーゲ(gc3635)がその言葉に頷く。
(衛星軌道上から三機がグリーンランドに接近か‥‥少数精鋭らしい相手に緊急出動だけど大丈夫かな‥‥)
 愛機に乗り込み高空へと上昇を続けながらドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)は胸中で呟く。
「しかし、この時期に三機のみ‥‥? 無人機の補充とは考えにくい、か?」
 井出 一真(ga6977)が独白を洩らすように呟いた。この時期にわざわざ監視を掻い潜るように三機のみという事は有人のバグア搭乗機では? と思う。
 ティーダ(ga7172)もまたそう考えたらしく、
「本星型に強化タロス‥‥有人機だと厄介ですね。油断せずに行きましょう」
 裂光の女神はそう言った。
「敵機、特にタロスは機械融合などしてくるかもしれません。警戒しておいた方が良いかも、ですね」
 井出が言った。以前に掃除屋の有人タロスの機械融合で痛い目を見た事がある。その時の記憶が脳裏をよぎっていた。
「手強いと見た方が良さそうだな」
 鹿島 綾(gb4549)もまたその言葉に頷く。
「敵のエースが三機、腕が鳴るな!」
 堺・清四郎(gb3564)が意気高く言った。
「司令部からの言によれば有人機で北辺の無人機を統括する動きがあるようだがそうはさせん。地球に入ったとたんに返り討ちにさせてもらう!」
「‥‥そうね、見逃したらどれくらい戦局を左右するか分からないし、どこまでやれるか分からないけれど全力で止めるわ」
 その言葉に同意して小鳥遊神楽(ga3319)。
「これ以上厄介ごとを増やして欲しくないものですね‥‥」
 と言うのは鹿嶋 悠(gb1333)だ。しかし男は一方で別の事も考えていた。
(見るからに強敵そうですが‥‥獅子座ほどの敵か否か‥‥)
 脳裏に浮かんだ言葉に首を振る、自分は何を求めてこんな考えを抱いたのか。
(いや、今は目の前の敵を倒すことに集中しろ、思考を切替えなければ死ぬだけだ‥‥)
 男は振り払うように眼をすがめた。
(もしバグアなら僕は‥‥)
 ドゥも胸中で呟きつつ操縦桿を握る手に力を込めていた。少年もまた思う所がある模様。
 十二機のKVはスロットルを全開に天を昇ってゆく、雲を突き抜け、北辺の蒼い蒼い澄みきった空に出た。高度一万メートル、高高度の凍てついた空。レーダー、断続する光が示す先、音速を超えて飛ぶとやがて赤輝を纏って宇宙(そら)より降下して来ている三機のワームの姿が見えた。
「天から降臨するのは神か天使と相場が決まっているわ。バグアはお呼びでないわね」
 ロシャーデ・ルーク(gc1391)が淡々と呟いた。
「我が剣は牙なき者のために!」
 堺が吼えた。
 各機戦闘機動に入り接近してゆく。あちらも迎撃を察知したか散開して向かって来る。
「フライングダッチマンらしい戦い方を見せてやろう」
 本星型HWの姿を確認しニコラス・福山(gc4423)がニヤリと笑って言った。彷徨えるオランダ人、愛する者の手によって呪いから解き放たれてもなお飛ぶのならば、やはりそれは亡霊だろうか。しかしニコラスのその名の意味は奈辺にあるか。男は極北の空に示してみせるか。
 司令部よりの情報では本星型二機と強化タロスという事だったが、実際には本星型は一機でもう一機は新型、そして強化タロスという編成だった。
 ウェスト、小鳥遊、ティーダ、ヨハンの四機が新型HWへと向かい、井出、鹿島、ニコラス、ロシャーデの四機が本星型へと向かった。堺、ドウ、美空、鹿嶋の四機が強化タロスへと向かう。
『地球へようこそ! パスポートを持って出直して来い!!』
 堺が言った。だが、聞いているのか聞いていても聞く気はないのか、ワーム達は弧を描いて突っ込んで来る。タロスを正面にHW達は左右に別れてKV達の後背へと回り込まんとする動きだ。出直す気はないらしい。
『ふん、ならば受け取れ! 歓迎の品だ!』
 堺は三方へ散ったワームのうち強化タロスをロックオンし――他の二機は機首方向にいず狙えそうにない――総計五百発もの小型誘導弾を撃ち放った。K‐02誘導弾だ。
「さて、招待状の無い来賓には早々の退場をお願いしますか‥‥」
 鹿嶋はブースト及び超伝導アクチュエータを併発、XF‐08D改2‐帝虎より五百発の小型誘導弾が堺機に続いて撃ち放たれた。例え有効打にならなくともミサイル迎撃能力の有無確認や、ミサイルの噴煙を煙幕代わりに各機が突撃し易いようにせんという心算だ。
 二機から波状で放たれた合計一千発の小型誘導弾が煙を噴出しながら強化タロスへと襲いかかってゆく。強化タロスは真紅に輝き猛加速した。慣性を無視した動きで直角に機動し誘導弾の嵐を次々に掻い潜り振り切ってゆく、が、五〇〇発をかわした直後に残りの五〇〇発が喰らいついて次々に爆裂の嵐を巻き起こした。堺はすかざす高分子レーザーライフルをリロードしつつ二連射し光線を叩きこんでゆく。
 次の瞬間、爆焔を切り裂き、光線を装甲に受けつつも黄金のタロスが飛び出して来た。それなりに装甲が削られている。両機ともに良い精度と威力だ。タロスは再生を開始する。
 鹿嶋機は爆風を巻き起こしてマッハ6まで加速して突っ込んでゆく。タロスは肩部の砲門を鹿嶋機へと向け爆裂する火球を八連射した。鹿嶋機はベクタードスラストで横滑りして回避せんとする。巨大な火球が唸りをあげて迫り、鹿嶋機の翼を捉えて大爆発を巻き起こした。さらに二発、三発と火球が次々に直撃して猛烈な破壊力を叩きつけて鹿嶋機の装甲を吹っ飛ばしてゆく。鹿嶋機は衝撃に揺らぎつつも鋭く機動して爆炎から脱出するも、また二発の火球が回避先へと打ち込まれ大爆発が連続して巻き起こった。さらに迫る二発をしかし鹿嶋機は素早く機動して回避した。鹿嶋機損傷率二割一分。
 鹿嶋機、火球を掻い潜って一気に強化タロスへと迫るとスラスターライフルで猛射。弾丸の嵐が飛び出し、タロスはスライドして回避。鹿嶋機はそのまま突き抜けてゆき、ブースト機動で旋回する。
 ドゥ機、タロスが回避した所へとすかさずアサルトフォーミュラを発動、精度と破壊力を増加させ84mm8連装ロケット弾ランチャーで十六発のロケット弾を撃ち放つ。焔と共に煙を噴出しながら次々にロケット弾がタロスへと襲いかかり、タロスは回転しながら急降下してロケット弾の嵐を次々にかわしてゆく。恐ろしく速い。
 旋回した鹿嶋機がスラスターライフルで猛射し、挟撃する位置へと美空機が飛んで一〇〇発の小型Gプラズマミサイルを射出した。弾丸の嵐をタロスは赤い残像を発生させながらスライドして回避しプラズマミサイルの嵐もまた次々に掻い潜ってゆく。ドゥ機、ガンサイト、高速で飛びまわるタロスへと狙いをつけトリガーを引く。ライフル弾が錐揉みながら飛び空を切り裂いて黄金巨人へと伸びてゆく。弾丸がタロスの肩を掠めてその装甲を削ってゆく。
 鹿嶋は思う。
(獅子座程の動きではない‥‥が)
 名のあるエースではあるらしい。簡単な相手では無さそうだ。
 他方、
「まずは、挨拶代わりです」
 新型に突撃をかけるティーダ。鹿嶋機のK‐02の直後を狙いたかったが、撃てそうにないので自らが初手でゆく。SESエンハンサーを起動、FCSをホーミングミサイルRG‐04Eに切り替え、ロックサイトに新型HWを捉えると発射ボタンを押し込む、五連射。
 五連の誘導弾が煙を噴出して飛び出してゆき、新型HWは音速を超えて迫り来る誘導弾をひきつけると赤輝を纏い九十度に急旋回した。誘導弾に一発目が虚空を貫いて明後日の方向へと飛んでゆく、が、続く四発は新型HWの動きに鋭く喰らいついて追尾し、次々にその装甲へ牙を打ち立てた。誘導弾が爆ぜ、エネルギー爆発を巻き起こしてゆく。壮絶な精度、天空を爆砕する破壊力。
 ヨハン、壮絶な爆発に機動を鈍らせている新型HWをロックオンしすかさず誘導弾を四連射、小鳥遊もまた新型をガンサイトに納めるとスナイパーライフルで追撃に発砲、リロードしつつ二連射。ドクターウェストは超伝導アクチュエータを起動すると照準を合わせ対艦荷電粒子砲のトリガーを引いた。雷電より対艦用の極大の爆光が爆音を轟かせながら飛び出してゆく、ウェストはさらに百発もの誘導弾を空へ解き放った。I‐01「ドゥオーモ」だ。
 ヨハン機から解き放たれた四連の誘導弾が態勢を崩している新型HWへと次々に突き刺さって爆裂を巻き起こし、小鳥遊機から放たれた弾丸が新型HWの装甲へと突き刺さってゆく。直後に壮絶な光波がHWを呑み込んでその装甲を吹っ飛ばしてゆき、百発の誘導弾が次々に命中して壮絶な電撃の嵐を巻き起こした。傭兵四機、凄まじい猛攻だ。HWの装甲がいきなり猛烈な勢いで吹っ飛んでゆく。
 装甲の大半を消し飛ばされながらも爆炎と雷電を切り裂いて新型HWが飛び出した。猛然とティーダ機へと向かう。ティーダはヘッドオンの状態からDR‐2荷電粒子砲で爆裂する光波を撃ち放つ。新型HWは突進しながらスライドし、光がHWの端を掠めて灼きその装甲を猛烈な勢いで融解させてゆく。新型HWは既に満身創痍だ。しかし、意地の一手か新型は十六門のフェザー砲をPM‐J8へと向けると紫色の光線を嵐の如くに猛連射した。一二八条の紫の光が空を埋め尽くしてティーダ機へと襲いかかる。素早く旋回してティーダ機は八発の紫を回避したが百二十発がかわしきれずに次々に機体を直撃してその装甲を灼き削ってゆく。損傷率四分。本当にアンジェリカか? と問いかけたくなる程度には頑強な造り。
 他方、
「どの程度の奴なのか‥‥見極めさせて貰う!」
 鹿島機はパニッシュメントフォースを発動、本星型をロックオンすると螺旋弾頭誘導弾を撃ち放った。四連射。
 ロシャーデ機もまた同時に本星型をロックオンすると二連のAAEMを撃ち放った。即座にラージフレアを展開しつつ旋回する。
 二機からミサイルが次々に解き放たれ煙を噴出して本星型へと襲いかかり、本星型は素早く急降下して回避せんとした。
 鹿島は敵機の機動先を予測してガンサイトを合わせると、そちらへ置くように十式バルカンで猛射した。同時、井出機もまたターゲットを合わせて鹿島機と同時にバルカンで猛射してゆく。
 二機から弾丸が嵐の如くに飛び、鹿島機から放たれた銃弾が本星HWを捉え、速度が落ちた所へ井出機も合わせて次々にHWのその装甲を穿ち貫いてゆく。誘導弾が切り替えして喰らいつき次々に直撃して爆裂を巻き起こした。
 井出機がそのまま猛然と突っ込んでゆき、ニコラス機も距離を詰めてゆく。
「何もタイマンでやり合おうって訳じゃないんだ、幾らでも勝機はあるさ」
 ニコラスは爆裂に機動を鈍らせている本星型をガンサイトに捉えると真スラスターライフルをリロードしながら猛射した。一五〇発の弾丸の嵐が唸りをあげて飛び本星型を貫いてゆく。
 本星型は九〇発ほどをその身に受け、しかし途中で脱出して残りをかわした。井出機が迫り、それを迎え撃つように機首を向け淡紅色の大口径の光線砲を撃ち放つ。
 壮絶な破壊力を秘めた極大の光線が井出機へと向かって猛連射された。
 井出は突撃を中止し操縦桿を切った。極大の光が急旋回した井出機の後方の空間を灼き焦がして抜けてゆく、さらに七連の光が井出機へと襲いかかる。
 井出は攻撃を控えて回避に専念し、距離を詰めながら軽快に機動して弧を描くようにしてかわしてゆく。懐に飛び込んでかわしきる腹だ。一発が翼の端をかすめたが、残りはかわしきる。損傷率七分。連続して直撃を受けると不味そうだが、そこまで当たらなければどうという事はない。


 タロスのパイロットは傭兵達を強敵と見て取ったのだろう。不意にその機体の形状を変化させた。
「やはり化けやがったでありますね。ここからが本番なのであります」
 美空が言った。タロスの装甲に有機体の如くに血管のような物が浮かび上がり、脈打ちその機体の速度が加速する。機械融合だ。
『バグアアアッ!』
 ドゥが我を忘れて外部スピーカへと叫んだ。憎悪と親愛を込めて。ブーストを機動させてロケット弾を連射しながら突撃しレーザー砲を猛射する。
「突出は無茶だ! エレメントを崩すな!」
 堺が無線に向かって言った。言いつつタロスへと向けて急降下しつつアハトから光線を放ち、スラスターライフルを猛射する。美空機もまたドゥ機を援護する為にEBシステムを発動させHL00対艦荷電粒子砲で極大の光波を撃ち放つ。
『そんな力を使ってまでまだ戦いたいのかアンタは! 残り二機を生かす為か? それとも‥‥』
 ドゥが叫ぶ。タロスは真紅の光を纏うとロケット弾とレーザーを慣性を無視した動きで回避し、光線と弾幕もまた赤い残像を残しながらかわす。極大の光がタロスの脇の空間を貫いて大気を灼き焦がしていった。タロスは両肩の砲をドゥ機へと向けた。巨大な火球が勢い良くドゥ機へと噴出される。
 ドゥ、咄嗟に操縦桿を切り、急旋回してかわさんとする。が、敵の火球が恐ろしく速い。一瞬でウォード・スパーダへと迫るとその翼に直撃して壮絶な爆裂を巻き起こした。衝撃に態勢を崩したドゥ機へとさらに七連の火球が連射され、大爆発が巻き起こって猛烈な勢いで装甲がひしゃげ融解してゆく。損傷率三十三割五分。次の瞬間、エンジン炉に引火し壮絶な超爆発を巻き起こしてドゥ機は木端微塵に四散した。焔に包まれた鋼の翼の欠片が虚空へと散ってゆく。大破。
『――己(おれ)は生きたいのだ』
 声が響いた。強化タロスのパイロットの声のようだった。
『ただ命だけがある状態など、死んでいないだけだ』
 ドゥは炎に包まれた脱出ポッドの中でそれを聞いていた。少年の声にならぬ叫びが発せられ、遥かな下方に広がる氷の海へと、脱出ポッドは墜落していった。
 鹿嶋機、タロスが攻撃に移った瞬間を捉えてブーストとアクチュエータを機動させジェット噴射ノズルを操作し、急角度の推進でタロスの後背へと捻り込んでいる。
「お釣はいりませんよ‥‥全弾持って行け!」
 ロックサイト、タロスの背を捉えた、赤く変わった。発射ボタンを押しこむ。十六式螺旋弾頭ミサイルを四連射。ドゥへと言葉を発していたタロスの背へと誘導弾の初弾が直撃し大爆発を巻き起こした。二発目もまた直撃し、しかし三発、四発と直角にスライドしたタロスの機動についてゆけずに虚空へと消えてゆく。
 タロスの装甲が再生してゆく。
『‥‥!、機体融合! ティーダ機、支援に向かいます!』
 ティーダは美空の声を聞いて強化タロスの方へと機首を回し離脱している。エンハンサーを継続、鹿嶋機の攻撃で爆裂している強化タロスへと向けて粒子砲を撃ち放ち、さらにつめてプラズマライフルを猛射する。荷電粒子砲の光をタロスは急上昇して回避、続くプラズマライフルの十五連射も十発が虚空を貫いてゆき、五発がタロスの装甲を灼き切ってゆく。双方、壮絶に速い。
 ウェスト機は新型HWのフェザー砲へと狙いをつける。音速戦で針の穴を通すような狙撃、やれるか? ウェストの操縦技量は高い。狙えない事はない。突っ込んで来るHWへと向けて強烈な電磁波を撃ち放つ、連射。解き放たれた一条目の電撃を、HWは赤輝を纏って急機動して回避、続く二条目がHWを捉え、その装甲を灼いた。だがピンポイントで砲門へと中てる、という訳にはいかなかったようだ。敵も雑魚じゃない。
「‥‥さすがにあの弾幕の中に飛び込んでいくだけの勇気はないわね。射程外からちくちくと攻撃させて貰うわ」
 小鳥遊が言って狙撃銃をリロードしその銃口をHWへと向ける。ヨハンがHWの注意をそらさんとD‐02ライフルを発砲する。リロードして再度発砲。二連の弾丸が唸りをあげて飛び出し新型はスライドして一射目をかわし、切り替えして二射目をかわす。その機動先へと小鳥遊が同じくD‐02ライフルで発砲した。ライフル弾が空を切り裂いて真っ直ぐに飛び新型HWの装甲へと突き刺さる。
 新型HWはウェスト機へと迫るとフェザー砲を一二八連射した。光の弾幕がウェスト機へと襲いかかり、ウェストはさけんとするが、弾幕が厚い、次々に直撃してその装甲が灼き削られてゆく。損傷率二割五分。ウェスト機、なかなか頑丈な造りだ。
 他方、
「こちらは引き受けた。行ってやってくれ!」
 鹿島、井出へと言いつつブーストを発動、本星型HWの後背へと捻り込む。本星型は井出機を狙って爆光の嵐を連射している。井出機は急機動しながら本星型の猛攻を避けてゆく。
「最大火力を行使する。3カウントで離脱しろ!」
 鹿島、Pフォースを発動、本星型をロックすると螺旋誘導弾を四連射する。本星型は急旋回するも誘導弾をかわしきれず四発が次々に直撃して大爆発が巻き起こった。井出機が強化タロスの方向へと旋回し、ニコラス機が切りこんでスラスターライフルで猛射し、ロシャーデ機がAAEMを猛射する。鹿島機は間髪入れずにM‐12強化型帯電粒子加速砲を放たんとして、止めた。本星型HWが真紅に輝くフィールドを纏って爆発を突き破って飛び出し、ニコラス機からの弾幕を回避し、ロシャーデ機からの弾幕も鹿島機へと旋回しながら次々に回避してゆく。本星型HW、誘導弾のダメージを受けていない。強FFだ。
 本星型は猛然と大口径の砲門を鹿島機へと向けると壮絶な爆光を猛連射した。六連の巨大な光が一瞬で空間を制圧して迫り来る。鹿島はブースト機動で急上昇して光波をかわさんとし、四発をかわして二発が直撃した。損傷率四分。タフな造りだ。
 井出機はブースト機動でタロスへと迫るとその頭部へと機銃で猛射しながら突っ込んだ。剣翼突撃だ。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ! 当たれっ!!」
 蒼い阿修羅が爆風を巻き起こして宙を翔け抜け、しかし、弾丸の嵐とその回避先へと向けられた極超音速の突撃をタロスは直角に機動してかわした。鹿島機はHWの上を取ると機首を回して機銃で撃ち降ろした。迫り来る弾幕をHWは素早くスライドして回避してゆく。


 強化タロスは赤光を宙へと引きながら急旋回すると鹿嶋機へと向き直り火球を猛連射する。鹿嶋はブーストとアクチュエータを継続して発動しつつ帝虎を旋回させる。加速しているが、相手の方がさらに速い。七発の火球が放たれ、それが次々に全弾直撃して大爆発を巻き起こしてゆく。融合前よりも精度と破壊力が増している。損傷率八割三分。コクピット内を赤いランプの光が満たし警報音がけたたましく鳴り始める。
 帝虎へと強化タロスが攻撃している隙に堺機は再びタロスの上方へと出ていた。
「うおおおらあああ!!」
 操縦桿を切り剣虎を急降下させながらアハトでレーザーをスラスターライフルで弾丸を猛射してゆく。井出機もまた再びガンサイトを強化タロスの頭部へと合わせると機銃で猛射しながら突撃してゆく。美空機も旋回しながら、最適の攻撃ポイントは敢えて外して、次善のポイントからの攻撃を仕掛ける。ロックサイトに強化タロスを納めると百発の小型Gプラズマミサイルを撃ち放った。
 強化タロスは光線をかわし、二機からの弾幕を次々に掻い潜って回避し、襲い来る百発のミサイルも次々にかわしてゆく。回避中の強化タロスへと井出機が剣翼を翻して迫り――タロスが密かにハルバードを持つ腕に力を込める――井出は嫌な気配を感じて旋回し、間合いを外した。
 ティーダ、仲間の位置と火線の交差から敵の軌道を予測し、仲間達の波状攻撃に時間差をつけて仕掛ける。リロードしつつプラズマライフルを猛射し、二十五条の光波を爆裂させる。大気を焦がし、壮絶な光の嵐が強化タロスを次々に捉えてその装甲を爆ぜさせてゆく。全弾直撃。ティーダ機なら連携して回避先の確率を絞れば中てられる。
 小鳥遊、ウェスト、ヨハンVS新型HW。新型HWは赤輝を纏うと急降下し北の空へと加速してゆく。逃げる気だ、と傭兵達は思った。出会いがしらの際の大ダメージが響いているのだろう。
「逃がしませんよ!」
 ヨハン、まず一機は戦果を取っておきたい。新型HWの背へと向けて放電装置で猛射し誘導弾を放って追撃を入れる。小鳥遊機もショルダーキャノンから焔を吹かせて砲弾を三連射しウェストもまた誘導弾を二連射した。直線機動に入ったHWの背を電撃が灼き、二機から放たれた誘導弾が次々に命中し、砲弾が直撃して大爆発を巻き起こしてゆく。
 やはり出会い頭が響いたか、新型HWは漏電を発生させると次の瞬間壮絶な超爆発を巻き起こして四散した。撃破。
 本星型HW、鹿島機へと狙いをつけて猛射。鹿島機、ブーストを発動、エンジンをフルに使って緩急をつけつつ上昇しつつ横転を多用して螺旋に機動する。本星型HWは鹿島機の後背を捕捉して猛射し、鹿島機は味方の射線上へと敵機を引っ張りながら踊り出る。
「食いついたな‥‥いけるか?」
 後方を肩越しに振り返りつつ操縦桿を切って爆光を回避しつつ僚機へと無線を飛ばす。
「合わせるわ」
 ロシャーデが言った。
「了解ー!」
 ニコラス機は鹿島機の後方に喰らいついている本星型HWの後背へと捻り込む。ガンサイト、本星型の後部を納めると軽量小型G放電装置の発射ボタンを押し込む。轟音と共に電撃が宙を貫いてHWへと伸びてゆく。本星型は射撃を停止すると急降下して電撃を回避した。ローシャデはロックしたまま機首を本星型の機動する先へと向けると誘導弾を二連射した。ラージフレアをばらまきながら即旋回する。ニコラス機もまた長距離ASM「トライデント」を撃ち放った。十二連射。煙を噴出して次々に誘導弾が本星型へと向かって飛び出してゆく。
 本星型は誘導弾のうち十一発をかわしたが四発が命中して爆発を巻き起こした。真紅のフィールドが展開して爆炎と破片を吹き散らす。無傷。翻った鹿島機が機銃で三十連射したが本星型HWは鋭く機動し二十発をかわし、十発を赤壁で吹き散らした。


 強化タロスが装甲を再生させてゆく。鹿嶋機はブーストとアクチュエータを継続起動させつつ、ベクタードスラストで空気の断層を滑るようにスライドしてゆく。機首を強化タロスへと向けスラスターライフルで猛射。対する強化タロスもまた同様に弧を描くようにスライドしつつ二門の砲門を鹿嶋機へと向け猛連射。格闘戦だ。互いの弾丸の嵐と七連の火球が交差し、その円の外側より井出機が機銃で、ティーダ機がプラズマライフルで、堺機がスラスターライフルで、美空機が小型誘導弾を、それぞれ発射する。
 四方からの弾丸の嵐に対してそれでも強化タロスは驚異的な機動性で動きまわって避けるが、ティーダ機の二十連のプラズマ光波に捉えられてその壮絶な破壊力に態勢を崩し、鹿嶋機、井出機、堺機からの十字砲火の弾幕に呑まれて装甲を穿たれ、美空機よりのGプラズマミサイルを受けて放電に飲み込まれる。
 さらに新型HWを撃墜したウェスト機と小鳥遊機が彼方より飛来してそれぞれHL00対艦荷電粒子砲とCK‐05Bアサルトライフルで射撃し、それぞれ極大の光波と弾丸を叩きこんでゆく。
「‥‥HWとの戦闘だと使いづらかったけれど、距離さえ間違えなければ使い易い火器なのは間違いない無いモノね」
 小鳥遊はCK‐05Bを発砲しながらそう言った。
 他方、鹿嶋機も迫り来る火球を回避せんと機動したが避けきれずに七連の爆炎に飲み込まれて装甲を消し飛ばされ、損傷率十四割四分、爆裂を次々に巻き起こして失速し、翼を砕かれて錐揉み、黒煙を吹き上げ炎に包まれて遥か一万メートル下の海へと落下してゆく。大破。翼の破片が蒼空を流れていった。
 だが強化タロスも無傷ではない、再生よりも破壊してゆくペースの方が勝っており、徐々に装甲に損傷が目立ち始めていた。
『人間を舐めなるなよ、寄生虫ども!!』
 堺が弾幕を叩き込みながら外部スピーカに向かってそう吼えたのだった。
 本星型は鹿島機を落とし難いと見たかニコラス機へと機首を回す。
 ニコラス、その基本戦術、
(ようは私が狙われれば回避に専念すれば良いし、他のメンバーが狙われればその隙に後ろから攻撃すれば良い)
 わざわざ正面に向き合って打ち合いなんかしてやる必要はないぞ、と考える。一対一でなく全体では優勢にある状況下――つまりこの戦場では実にその通り。ニコラスは即座にブーストを発動させ、ラージフレアをばらまき急旋回する。全力回避専念だ。八連の超巨大な爆裂光波がHF‐031Ex‐大殺界へと襲いかかる。
 が、ニコラス機の性能でここまで回避に専念されると本星型でもなかなか中るものではない。一発が直撃して一発があわやという所をかすめたが六発が虚空を貫いて抜けてゆく。損傷率一割二分。全弾直撃となれば大破しそうな勢いだが、当たらなければ無問題である。
 鹿島機は横手から本星型HWへと剣翼で突撃し、ロシャーデ機は二連の誘導弾を撃ち放った。HWは剣翼を回避し誘導弾をかわす。鹿島機はバルカンで弾丸を猛射しうち三十発程度がFFに弾かれた。ヨハン機が飛来してD‐02を撃ち放ち、本星型は横にスライドして回避した。


「これでどおおだ!!」
 堺機が急降下して、井出機が機銃で強化タロスへと弾幕を張り、ティーダ機がプラズマライフルを猛射し、ウェスト機が電撃と誘導弾を、小鳥遊機がライフル弾を、美空機がHL00対艦荷電粒子砲を撃ち放った。
 強化タロスは集中攻撃を受けながらもティーダ機に向かって八連の火球を撃ち放った。圧倒的な精度で飛来する火球が次々にティーダ機へと直撃し爆裂を巻き起こしてゆく。損傷率五割。
 本星型はローシャデ機へとターゲットを移し、ロシャーデは距離を取らんとし、HWが追いかけ、鹿島機、ニラコス機、ヨハン機が猛射する。HWは弾丸を強化FFで吹き散らしてロシャーデ機へとプロトン砲を七連射し、ロシャーデ機はラージフレアをばらまき、試作型斥力制御スラスターを発動させる。放たれた爆光のうち四発を回避し、三発が直撃して機体を灼いた。損傷率七割八分。レッドランプだ。
 強化タロスは四機(ウェスト機、美空機は主兵はチャージで他弾切れ)からの集中攻撃に装甲を次々に爆ぜさせながらもティーダ機に猛射しティーダ機は損傷九割五分、まだ堕ちない。
『やってくれるじゃないか、地球人類』
 本星型は外部スピーカで言って、直線機動に入って加速し始めた。逃げるつもりらしい。
 射程外に逃れられるよりも前にヨハン機はD‐02を連射、ロシャーデ機は誘導弾を放ち、ニコラス機はブーストと超限界稼動スキルを併発、スラスターライフルで全力攻撃を仕掛ける。鹿島は追撃はかけずにタロスへと向かった。ライフル弾が炸裂し、誘導弾が命中して爆裂を巻き起こした。スラスターの弾幕が次々に直撃して本星型の装甲を穿ってゆく。
 が、本星型、堕ちない。余力は十分に残していたようだ。そのままトップスピードに乗るとチューレ方面へと飛んでゆく。鹿島機が機銃で集中攻撃に加わる。
 強化タロスはついにティーダ機を撃墜し、集中攻撃に耐える。ロシャーデ、ニコラス、ヨハンの三機が飛来して攻撃に加わる。
 次には堺機へと狙いをつけて火球を連射し、堺機は損傷四割三分。だが、そこまでだった。チャージを終えたウェスト機も爆光を撃ち放ち、井出機が剣翼で突撃し、堺、鹿島、小鳥遊、ニコラス機が弾丸を猛射し、ロシャーデ機がレーザーを、ヨハン機が誘導弾を猛射する。
 傭兵各機の猛攻を受けてついに強化タロスはその身から漏電を発生させ、大爆発を巻き起こして虚空へと散っていったのだった。



 かくて、傭兵達の活躍により、一機には逃げられたが二機のエースワームが撃墜された。
「有人機が増えてるな‥‥次も厳しくなりそうだ‥‥」
 堺がぽつりと漏らした。だが三機健在の時と比べその脅威はぐっと減った事だろう。
 ロシャーデは撃墜された味方の位置を各機に連絡し基地から救助隊が派遣される事となった。
 後、海中から引きあげられたドゥは結果を聞き胸中で呟いた。
(‥‥戦うだけ戦い死んだ果てに何を見た? ‥‥僕は知らない。それでいいのか‥‥?)
 その答えは、きっと人それぞれ。
 空には赤い星が輝き、極北の戦は続いていた。



 了