タイトル:【BI】猛暑日の護衛行マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/24 12:55

●オープニング本文


 青く煌めくアラビアの海。
 カーティヤワール半島はカッチ湾とカンバート湾の狭間よりアラビア海に突き出している。
 インドが北西部、クジャラート州に属するこの半島は、昨年、シンド攻略の為の足がかりとしてインドと国境付近の街ラクパトを陥落させんと出撃したバーブル師団が、途中、後方の状況の変遷により生じた後顧の憂いを断つべく急遽目標を変更されて攻略に乗り出している半島である。
 バーブル師団は順調に勝利を重ねており、うちULT傭兵が加わった戦の結果だけでもマリア、ヒマットナガル、バーオナガル、マフバの四つの拠点と広大な範囲の平野を制圧している。
 しかし半島とはいうがカーティヤワールのそれは広大である。バグア軍は後退しながらも抵抗を続け、シンドを目指し出発してから一年が経過せんとしても未だ半島全ての奪還は完了していなかった。
 半島の半ばまでは制圧、奪還されていたが、補給線は進軍すればするほどに伸び、奪還したからには守らねばならず、街の防衛や復興、治安の維持や経済の再生、解放された人々への衣食住の手当てなどバーブル師団がこなさなければならない事は雪だるま式に増えていった。無論、応援を要請してはいるがすぐに他師団も動ける訳ではない。さらにバグア軍は飛行型キメラや中型HWからのキメラ散布を利用して後方の街や補給隊へ襲撃をかけさせており、さらに身動きが取りづらい状況になっていた。
「と、いう訳で傭兵の君達に依頼だ」
 マフバの街の軍の詰所、豊満な肢体を軍服に包む、疲れた顔したブロンドの女が傭兵隊より特別に募られた者達を前にして言った。能力者を中心とした大隊の指揮を取り、現在マフバの街の守備を任されているディアドラ=マクワリス少佐である。
 今日も冬にも関わらずこの街の空は青く太陽は強く輝いている。空調がまともに働く働かない以前にそもそも存在しないこの詰所内においては、温度計は三十度を余裕で越えていた。正確な所などみたくもない。かなり暑い。普段からこの辺りは冬でも暑いが、ここ数日は特別に暑いらしい。窓は全開だが風もなく熱気の籠った室内で士官が説明する。
「マフバより北西に伸びている街道を通って半日程行った所に先にUPCが奪還したサバーカンドラという名の街があるんだが、そこへ物資を届けて欲しいんだよ」
 現在では戦線はさらに西へと移動しているようだが、まだまだ飛行キメラが突っ込んで来る圏内であり、物資を届けようとする補給隊が次々に狙い撃ちされているらしい。
「現在よく確認されているのはハルピュイアタイプの物だ。まぁ一言で言うなら鳥女だね」
 とぴらっとディアドラは写真を取り出して机から身を乗り出し一同に見せる。顔から胸までが人間の女性で腕の代わりに翼があり下半身からは猛禽のそれという怪鳥である。
「特に火を吐いたりカマイタチ飛ばしたり電撃飛ばしたり催眠の歌うたったりとかはしないけど、その両脚の爪は鋼鉄も簡単に引き裂くくらいに強靭で鋭くて、おまけにとても素早いんだ。しかも空から稲妻のように奇襲して来るんだ。集団でね。これには一般兵ではとても太刀打ちできない」
 女は言う。
「そこで強力な護衛をつけてこれに対抗しようという事が決まった。受動的な策だけど、とりあえず急場を凌ぎたい。どうか軍の輸送トラックを守って無事にサバーカンドラまで送り届けてもらえないだろうか」

●参加者一覧

アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
Letia Bar(ga6313
25歳・♀・JG
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
春夏秋冬 歌夜(gc4921
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

「大変そうだな、休んでられるヒマなんか無いか‥‥」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)はそう言った。ディアドラはへらっと笑うと、
「まぁこの気候で攻めの戦だしなぁ、仕方ない。そちらの調子はどうだい?」
 等とそんな事を言った。アッシュは幾つか言葉を返しつつ、
「せめて心配事の一つは減らせる様に頑張ってくるわ」
「有難う〜、どうか頼むよ」
「どの辺りでどうやって現れるのか解るか?」
「そうだな、今までの報告だと――」
 これまでに襲撃を受けた地点とキメラの出現パターンなどを幾つか聞いておく。
 情報を聞き終えた傭兵達は軍の詰め所を出ると街へと準備の為に向かったのだった。


「半島平定もまだ危険ですから補給活動にも護衛必要ですね」
 番場論子(gb4628)はそんな事を言いつつ買い物に付き合っている。彼女自身は特に購入予定はないが、今回は経費でいくらか落ちるので傭兵達は街で物品を購入していた。
「必要な物が無いって精神的にもキツイからね‥‥しっかり届けたいね〜」
 とLetia Bar(ga6313)。塩飴一袋とあと大量に飲料水を購入しておく。買った水は車両に積みこむ予定だ。ティナ・アブソリュート(gc4189)も塩飴と水を購入しアッシュも水を購入しておく。春夏秋冬 歌夜(gc4921)は水とタオルを購入した。功刀 元(gc2818)はキャメルバックを探したが軍のは高過ぎ、覗いた店にも安いのが無かった。飴と水を購入しておく。グロウランス(gb6145)は安物のサングラスと塩飴、水を購入し携帯する水筒にも水を満杯にしておいた。
「暑い‥‥ですけど、この先の街で補給を待っている人達がいる、ならこの程度の暑さに負ける訳にはいきませんよね、必ず護ってみせます」
 ティナがトラックに命綱用のロープを張りつつ言った。頭部にターバンを巻きソフトシェルに身を包んでいる。防塵、防塵対策のようだ。今回傭兵達は皆、トラックの上に登って守るらしい。シンドイが即応出来るのは魅力だ。能力者の体力だからこそ可能な事である。しかし番場などは「時速百キロで進む」事を提案したが、流石に厳しいので他のメンバーが想定していた五十キロで進む事となった。
 Letiaは持参したサングラスをかけて帽子をかぶりタオルを持参している。春夏秋冬もまた肌の露出は少なくしゴーグルをかけ、首の隙間に布のマフラーを巻いていた。
 グロウランスは灰色の外套にフェイスマスク、サングラスと実に怪しいオーラを発揮している。アッシュは閃光手榴弾に細工を施しておく、二秒で炸裂予定。また番場等と共に使用機会と合図等は周知了解して意志の疎通を図っておく。
 大型トラックはそれぞれ一号車、二号車、三号車とする事にした。
「戦闘は任せて、運転宜しく!」
 軍兵へとLetiaが言った。了解、との声が返って来る。運転は軍兵達とヤマトが行うようだ。
 グロウランスと春夏秋冬が一号車の助手席と鋼鉄箱の荷台の天井部に登り、Letiaと那月 ケイ(gc4469)が同様に二号車へ、アッシュとティナが同様に三号車へと搭乗した。功刀は幌付きのトラックへと搭乗し、番場はアーマー形態で装輪走行で並走する予定だ。
「今回は護衛任務なので愛用のパイドロスくんはお留守番ですー、お久しぶりですリンドヴルムくん暑さ対策お願いしますよー」
 功刀はそんな事を言いつつDN‐01をアーマー形態で装着する。ヤマトや皆と相談して幌車は最後尾を走る事とする。
「集中集中‥‥よし!」
 ティナが気合いを入れている。各員の準備が整った所で出発となりトラック四台とLL‐011が土煙をあげて荒野の道へと乗り出したのだった。


 カーティヤワール半島のマフバから北西、サバーカンドラへと伸びる道を輸送隊は進んでゆく。鉄の荷台の上にはそれぞれ傭兵達が乗って見張りについている。太陽光と熱さにやられないように三十分毎に車内と交代する予定だ。
「あっついねぇ〜。飲んだそばから汗で出てくよ‥‥」
 太陽光が照りつける車上、Letiaが双眼鏡を手に汗だくになりながら呟いている。スカーフをつけふわふわクッションを敷いていたが、道をカーブする時に滑ってずり落ちそうになったので今はクッションは敷いていない。塩飴を口にペットボトルで水分補給する。飴と水がやたらと美味しく感じられる所である。
「鳥さーん、くるならサッさと飛んどいでぇ〜っ」
 そんな事を言ってじたじたとしたが、すぐに来てくれるものでもなし、車は荒野を走り時が過ぎてゆく。
「見晴らし良好っと‥‥ほんと見渡す限りなんにもないねぇ」
 やがてLetiaと交代した那月が車両の上に登って呟いた。命綱を手に外套を敷物にして座る。助手席でも思っていたが、高所に登ると一段とそう感じる。せいぜいフレア弾等やら砲弾やらが炸裂したらしき大小のクレーターが偶にある程度だ。不毛の大地である。戦火がそう変えた。
「不毛の荒野‥‥か」
 俺の心と似ているな‥‥と、グロウランスは命綱一本で一号車の荷台上に乗り、片膝を立てた姿勢でしゃがみ、周囲を警戒するなか呟いていた。表情はマスクと黒いグラスで窺い知れないが、恐らく無表情だろう。
(敵に獣程度の知能あれば、初撃に最大威力攻撃を仕掛ける位の事は考えるだろう)
 男はそう思う故に「まず敵の早期発見が要」と考えた。そして初撃を凌ぐ事。報告によれば敵には機動力と、そして高い火力がある。奇襲の威力は絶大だ。適宜水と塩飴を取りつつ、天頂及び全周を見回すように双眼鏡で警戒する。太陽がある南だけは使用を外した。風上と風下に注意を払っておく。上は速度、下は察知のしにくさだ。
「うぅー。中も、外も、あっつい‥‥」
 やがてグロウランスと交代した春夏秋冬は焼けつく鉄板の如くになっている車上でゆだっていた。普通に火傷しそうである。水を撒くとじゅうと音がした。げんなりする。
「こんな時、先生だったら‥‥‥‥平然と、してそう」
 肝の据わった人のようだ。少女は双眼鏡を取り出して前方を警戒する。
 ティナはアッシュと交代しつつ命綱を腰に巻き双眼鏡を使用して三号車の上での周辺を警戒している。また軍兵にも飴を渡しておいた。
 番場は装輪走行で車列の最前方を駆けている。足元不注意で転倒すると結構なダメージなので上下へと視線の移動が忙しない。なかなか疲れる所であった。時たま車両の陰に入ってAU‐KVの熱を冷ます。
「いやー暑いですねー‥‥え? まあ、中身は快適ですが、皆さん暑そうだなとー」
 最後尾の幌車、AU‐KVの中で功刀がにこにこと微笑しながら言った。
 解ってて言うんだから良い性格してる、などと運転席のヤマトから声が飛んできたがニコニコと笑っていなす功刀である。幌を少しまくって後方を警戒しておく。
 そうして荒野を走る事数時間、やがて以前に被害が生じた辺りに車両は突入し、一行は警戒を密にした。
 最後尾で後方を警戒していた功刀が蒼空の彼方に小さな黒点を発見した。見間違えかとも一瞬思ったが、徐々に大きくなってきている。
「キメラを発見しましたーっ! 全車両臨戦体勢お願いしますーっ!」
 男はすぐさま無線に警告を発し、瞬く間に車両は停止し上に乗っていた傭兵達は命綱を解き、助手席の傭兵達とヤマトは外へと出る。
 ハルピュイア達は後方から見る見ると接近し瞬く間に一行の真上へと迫った。豆粒の如き大きさに見える高空で一度旋回すると、一気に急降下して来る。
 一号車の上のグロウランスは間合いと速度を図った。敵の時速六百km。手榴弾は三十秒後に起爆、炸裂まで間に合いそうもない。使用を見送る。アッシュは相対距離およそ一二五〇で調整しておいた閃光手榴弾のピンを抜き真上へ投擲する。二秒後に炸裂予定。
 ハーピーの軌道先、全敵輸送車一択。雷光の如く一瞬で距離が詰まって相対距離九〇、一号車の上によじ登った春夏秋冬、狙撃眼を発動、既に弓に矢を番え引き絞っていた。上、敵は太陽を背負っている。眩しい。鋭角狙撃を発動。鋭く矢を蒼空へと撃ち上げる。矢は稲妻と化して飛び急降下する鳥女の肩に見事に突き刺さった。だが鳥女、殺意を秘めて猛然と突っ込んで来る。ヤマトも猛射したが止まらない。春夏秋冬は弓を放り置き、腰から名刀「薄」を抜刀する。
 相対距離八〇、アッシュは先手必勝、強弾撃、影撃ちを発動、三号車へ迫るハーピーの一匹を狙う。WI‐01で二連射。弾丸が強く鋭く飛んで命中、命中、鮮血が宙に吹き上がった。Letiaは前衛に合わせる為に様子見中。距離六〇、ティナ、三号車を狙う別の一匹へと黄金の銃口を向け轟く銃声と共に二連射。弾丸が唸りをあげて飛び、ハーピーはローリングしながら一発を回避、一発を受け赤い色を散らすも突っ込んで来る。風が唸る。距離五〇。先にアッシュが投擲した閃光手榴弾が炸裂した。光と爆音が撒き散らされる。ハーピー達が叫んで軌道を逸らし、突撃の勢いが弱まる。
 番場、間髪入れずに竜の角を発動、先頭のハーピーを狙って超機械を翳す。猛烈な勢いで二連の蒼光の電磁嵐が空に巻き起こる。ハーピー、目が眩んでいる。次々に直撃して全弾命中。鳥女を灼き焦がしてゆく。
 同じく距離五〇、功刀、
「トラックはやらせませんよーっ!!」
 同様に即座に竜の瞳を発動していた。M‐121ガトリング砲をほぼ真上に向けてフルバースト。激しいマズルフラシュと共に一二〇発の弾丸を蒼空へと撃ち上げてゆく。功刀は竜の瞳で鋭さが増し、敵は閃光で目が眩んでいる。全弾命中。鳥女の羽が舞い散り肉片と鮮血がぶちまけられてゆく。
 那月、まだ唯一無傷のハーピーへと古風な小銃を構える。翼を狙う。発砲、二連射。ライフル弾が飛び出し閃光に態勢を崩している鳥女の翼をぶち抜いた。片羽より鮮血が噴出して鳥女の態勢が崩れる。
 間髪入れずにLetia、影撃ちを発動、宙で態勢を崩している鳥女の頭部を狙って猛射四連、恐怖の名を冠した小銃より悲鳴の如く銃声が轟き、鳥女の頭部へと弾丸をめり込ませて爆砕した。血飛沫を撒き散らしながら鳥女が大地に落ちる。撃破。
 ティナ、注意が三号車より逸れているのを確認すると翼を狙って射撃、命中。機動して引き離しにかかる。
 相対二〇、グロウランス、極限までエネルギーを集めクロスに大鎌を振るう。二連の音速波が飛び出し飛行する鳥女へと襲いかかった。直撃、直撃、ハーピーはよろけながらもグロウランスへと迫る。男は注意が向いたのを見ると間髪入れずに一号車から飛び降り引き離しにかかった。鳥女は追尾し急降下滑空から脚爪を繰り出す。グロウランスは素早く横にステップして身をかわしつつ鎌の刃を置くようにして鳥女をひっかけた。刈るように引き斬る。鈍い衝撃と共に血飛沫が吹き上がり、鳥女が裂かれて墜落した。大地が爆砕され、男はすぐに振り向いて鎌を振り上げ胴部へと振り降ろし突き刺して引き、臓腑を掻き斬った。赤がぶちまけられ鳥女が動かなくなる、撃破。
 車上、春夏秋冬、ハーピーが迫る。避けると角度的に一号車が粉砕される。滑空するハーピーが身を捻って脚爪を繰り出し、春夏秋冬は迎え撃つべく太刀を振り上げる。斬撃と脚爪が激突し壮絶な衝撃が巻き起こった。手首が嫌な音を立て吹き飛びそうな壮絶な衝撃が伝わる。カーティヤワール・ハルピュイアの滑空攻撃の威力は常の三倍と言われている。当たると半端じゃない破壊力。ハーピーの脚が切り裂かれて血飛沫が飛び、激突した勢いで身がもつれて春夏秋冬にさらに激突、少女が転倒して一号車の屋根に叩きつけられ天井が爆砕されてもろともトラックの内部へと落ちてゆく。
 地上の番場、超機械を納め手甲より三尖の光爪を噴出させる。鳥女が豪速で脚爪を突きだし、番場は迎撃のレーザーエッジを繰り出す。交差。鳥女の脚爪が空を抜けて、一方の光爪が鳥女の身を切り裂き灼き焦がす。
 アッシュ、三号車の上、繰り出される脚爪に対して小銃を掲げる。激突。壮絶な衝撃が巻き起こって銃が圧し折れ男の身に爪が喰いこんで天井に叩きつけられ、鈍い轟音と共に穴があいてトラックの中に雪崩れこんだ。
 ティナ、鳥女の滑空攻撃に対し銃を捨て抜刀・瞬で盾を取り出し、エアスマッシュを発動して突き出す。白銀の翼の盾より爆風が巻き起こし鳥女の脚爪に炸裂して打撃を与える。爪が盾に激突したが威力が半減している。ティナは押されて土煙りをあげながらも倒れずに踏みとどまる。
 鳥女が地上に降り、ティナは金属の筒を振り上げる。眩い光が伸びた。莫邪宝剣だ。光の刃で袈裟に一閃、繋いで四連撃。鳥女の身が灼き斬られてゆく。鳥女は斬られつつも跳躍して脚を振り回す。ティナは後退しながら盾でブロックした。
 番場、竜の角を継続発動、空へと上昇せんとする鳥女の背へと再び超機械をかかげ三連の電磁嵐を巻き起こす。鳥女の背が爆ぜ地に落ちる。仕留めた。
 物資でごちゃごちゃしているトラック内部。ハーピーがアッシュへと飛びかかり、男は強弾撃を発動、スパイダー散弾小銃を構えリロードしつつ三連射。至近距離から勢いよく飛び出した散弾が鳥女の胴部を爆砕して打ち倒した。撃破。
 グロウランスとヤマトは一号車へと駆けて天井へと跳躍、内部を目指している。Letia、那月、功刀はティナと格闘している鳥女へと射線を通し横合いから十字射撃、蜂の巣にして撃ち殺す。
 一号車の内部、ハーピーが春夏秋冬へと跳躍し、少女は身を起き上がらせて太刀を構える。鳥女は猛然と脚の豪爪を春夏秋冬の首を狙って振り回す。少女は首元へ伸びる爪を身を捻ってかわし、頭部へと突き出される爪を伏せてかわし、宙で身を捻りざま竜巻の如くに薙ぎ払われた右の爪を刃を振り上げながら後退する。背中に米袋がぶつかったが避けた。敵はまだ目が眩んでいる。前へ切り替えして太刀を振り降ろす。鈍い手応え。鳥女が叩きつけられて転倒し、少女はその心臓目がけて刃を突き降ろす。貫通。撃破。
「‥‥無事か?」
 声に見上げると、天井に空いた穴よりフェイスマスクの怪しいオッサン――もといグロウランスが逆さまに首を伸ばしてきていた。車内の様子を探らんとしたのだろう。
「なん、とか」
 春夏秋冬は動悸を落ちつけつつそう答えたのだった。



 かくてハルピュイアは撃退され、傭兵達はサバーカンドラへと辿りついた。天井や物資に多少の損害がでたが許容範囲である。多くの物資は無事にUPCへと届けられた。きっと未来の助けとなってくれるだろう。
 半島の状況は未だ予断を許さないが、徐々に徐々にその解放は進んで来ているのであった。


 なおグロウランスが街の酒場に入り「一番良いミルクを頼む」と注文するとバーテンは木彫りの像を差し出して来た。曰く、
「これはミルクさんだ。ブッディズムが教え広めたマイトレーヤの別名‥‥いや、弥勒菩薩か。上手く拝めよ」
 との事。
 インドは深くて広いらしい。


 了