タイトル:【BK】風の吹く先マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/16 15:20

●オープニング本文


●東南アジアでの会話
「随分、ヤバそうな奴だったじゃねぇか」
「明言はしなかったが‥‥トカゲの大将の使いだな、ありゃ」
「トカゲ? ルウェリンか」
「その名を口に出すんじゃねぇ」
「ハッ! ビクビクしてんなよ、くだらねぇ! 俺達ゃ泣く子も黙るゼットだろ。かかって来る奴がいるなら全部ぶっ倒す!」
「クソが! 確かにな、どんな火の粉がかかっても振り払ってやるよ。だがな、弾はタダじゃねぇ。余計なドンパチを買って回る程ヒマじゃねぇんだ。道楽でこの商売やってのかテメェは、アァ?」
「‥‥チッ!」
「まぁまぁ、それで話はなんだって?」
「風林火山の大佐――じゃなくて今は准将閣下か、それの不正を流せとよ」
「おやおや、するとBKかい? 裏の戦いを表に引きづり出そうというのは、ホント、勝つ為なら手段を選ばないねぇ」
「だが、今となっちゃ確かにあの閣下のアキレス腱だな。莫大な資金源だが」
「BKの金が必要だったってのは解る。あの頃は手段を選んじゃいられなかった。だが、一定の所で手を切るべきだったな」
「それどころか逆に取りこんじまったからな。汚い物だと解っていたろうに。綺麗事だけじゃやってけないが、手を出しちゃならねぇ領域ってのがある」
「ふふ、苦労して手に入れた金山は中々手放せないもんだよねぇ。特にその量が絶大となれば。アレも人の子か」
「無敵の閣下の泣き所、か――敵にまわんの?」
「慣性制御装置‥‥こいつはあの『閣下』との縁を売り飛ばす価値があるとは、思わないか?」
「慣性制御! そりゃすげぇな。坂田晴美は空を飛ぶ、ってか。だがよ」
「美味い話には裏がある」
「それにあの閣下が黙ってる訳ねぇ。敵に回すとおっかねぇぞ、あれは」
「だがバグアの技術が手に入るなんて、二度とない機会だ」
「僕はあの閣下はあんま好きじゃないねぇ。悪党が言うのもなんだけど、あの人、冷たいよ。情が無さ過ぎる」
 間。
「俺達が矢面に立つ必要はねぇんだ」
「何?」
「俺達が相手にするんだったら流石にあの閣下はちいっとばかし厄介な敵だ。あちらさんも俺達相手には容赦しねぇだろうしな。だが、ULTならどうだ?」
「傭兵か」
「だが連中が動くか?」
「UPCの悪徳将校の不正を暴くとすれば良い」
「ほ、そいつぁ良い。さすが社長、面の皮が厚い」
「ぬかせ。俺は本来善良なんだよ」
「ははは、それは良い。これは悪い事じゃない。むしろ正義だ。世の中の不正を正す訳だからねぇ」
「勝算は?」
「十分あると見るね」
 間。
「やるか」
「異議なし」

●カリマンタン島での会話
「閣下を売れと?」
「あらぁ‥‥それはそれは?」
「対価はこれほどで如何でしょう」
「貴様等如きがどこから出せる?」
「獅子座の赤竜は健在です」
「‥‥、そうか。あの方はまだ戦っておられるのか‥‥」
「最近キメラの捕獲に対する疑惑も高まって来ているようですし、ここらで店を畳んでバカンスに出るのも良いんじゃないですかね? なんなら赤竜軍に合流するのも」
「出過ぎた事を言うな売女。身の程をわきまえろ」
「ははっ、申し訳ありませんねぇ旦那」
「でも‥‥悪い話ではないですね?」
「‥‥」
「わたくし、あの男の眼つきが気に入りませんの。光が消えてて、何処を見てるか解らない。死んだ筈の生首がじっとこちらを睨んでいるような‥‥気持ちが悪いんですの」
「‥‥‥‥上に頂くにはまだネジの抜けた異星人の方が気楽か。灰の男はミスを許さない」
「では」
「だが我々にも『立場』がある。解るな?」
「ええ、ええ、そちらの支障の無い範囲、出来る範囲で構いません。ただ頑張ってくだされば赤竜にはよろしく伝えておきましょう」
「‥‥良いだろう」
「ふふっ」
「良い商談でした。商売はお互いを幸福にします。とてもとても良いものですね」

●パキスタンの虎
「――この事は、閣下には?」
「戦闘中です。ジャミングが酷く連絡が取れません」
「‥‥‥‥不味い。俺では止められん。至急お伝えしろ!」

●ULT
「あんたがラナライエル? 死んだ妹が何を運んでいたのか、知りたくない?」
「貴方達は‥‥!」
「真実は闇の中に沈められ続けるもの――でもね」
「沈め続けるのも結構手間なんですよ」
「偶にふわっと浮かび上がる」
「そいつを少しばかり、掬いあげてみたいと思わないか?」
「‥‥」
「ふふっ、私達は嘘は申しません。ええ、嘘はね。私達は貴女の敵ではありません、今はね。貴女が望むなら、真実の扉を開いてあげましょう。巨大な流れの表の裏で、どんな闘争が行われていたのか、知りたいとは思いませんか」
「‥‥メノミリアはそれに巻き込まれて死んだの?」
「ええ」

●かくて依頼
「依頼です」
 ULTの依頼受付場。まだ若い女が言った。
「依頼主は私、ULTオペレーター、ラナライエル=ミレニオン」
 緑髪、緑眼の女は、いつもの事務的な瞳の奥に、漆黒の火を宿して言う。
「依頼内容は東南アジア、カリマンタン島にある『バトルコロッセオ』の調査です。同地では軍が捕獲したキメラを不正に購入し、人とキメラとを争わせて賭博の対象としています。またそれに集まる裏の有力者達の取引の場ともなっています。武器の横流しなども行われており、あまり大きな声では言えませんが軍の有力将校が絡んでいるという噂もあります。事実であるならば、看過できません。白日の元に引きづり出し、不正を暴きます――私は、真実を知りたいんです。皆が、何の為に死んでいったのか」



■味方戦力
■依頼主
●ラナライエル=ミレニオン
 非能力者です。十秒で80m程度の全力ダッシュ力ですが、すぐ息切れして動けなくなります。SES拳銃クラスの弾丸一発で死にます。魚雷艇で待機するよう頼む事もできますが、説得できないとコロッセオ内に一緒に潜入しようとします。

■『協力者』達
●ブランドン・ハーツ
 ゼット運輸(実態は東南アジアの海賊)の社員。LV50超程度のイェーガー。二丁拳銃使いの青年。ULTのトップLV傭兵と互角以上に渡り合うレベル。恐ろしく強いです。ほっといても黒服達はほとんど一人でキリングしてくれます。

●エルディア・ランバルト
 ゼット運輸社員。通称エルダ。白ワイシャツにネクタイ、黒スラックス姿の小柄な女。エレクトロリンカー。LVは30程度。エネガン&特殊ノートPC装備。BKディスクが保管されているルートまでの案内、及び道の途中に幾つかあるメトロニウム隔壁のセキュリティ解除を行います。

■コロッセオ外
●アルファ
●チャド
●デイジー
●ファイン
 ゼット運輸の社長(アルファ)と社員達。コロッセオ付近の大河に魚雷艇を隠して待機している。
 PC達はコロッセオよりの追撃を振り切って艇に辿りつき脱出しなければならない。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD

●リプレイ本文

 サファイアブルーの海だ。
「また何だかキナ臭い依頼ね」
 高速で進む魚雷艇の甲板上、吹きつけて来る風の彼方を見やってケイ・リヒャルト(ga0598)が呟いた。
「BK‥‥か、まさかその名を今更聞く事になるとは思いませんでしたよ」
 同様に潮風に黒髪を靡かせながら鳴神 伊織(ga0421)が言った。
「闘技場というのも以前別件で訪れた所ですし‥‥」
「そうね、あの時の相手は銀狼だったかしら‥‥」
 BK。
(本当に色々ときな臭いですが‥‥)
 歯車は見えない所でクルクル回る。世界は揺らめき、遠く近く連鎖している。遠い日に埋め込まれた爆発物の欠片――? 否、それを土台の一つとして、彼等の事件が起こり続け、そして戦は動き続けている。
 火花の産まれる所。
「‥‥まずは目の前の事に集中しますか」
「ええ、とりあえずは目の前にある依頼をこなすのみ‥‥」
 魚雷艇が風を切り緑海を割って進んでゆく。水平線の彼方、巨大な島が見えて来た。東南アジアに浮かぶ宝石河の島、カリマンタン。
「‥‥だけれど、気になるわ」
 ケイは目を細めて呟いた。
「真実は‥‥何処にあるの?」
 大きな風が吹いている。


――相当胡散臭ぇけど。真実に手が届くなら乗る価値はある。
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は船室の中、メモ用紙を睨みつつ思った。
「BKとは場所であり、組織であり、それの息がかかった人間であり、行動である‥‥」
 三つはもう確定だ。だが行動――『BKを行う』、それはなんだ?
(裏に何が蠢いてるのか俺は知りたい)
 例え、それがどんなに醜悪な真実であろうと。


(BKねぇ‥‥)
 OZ(ga4015)は思い、考えた。この件で誰が得をして誰が損するのか? それを見極めて立ち回ればいい。
(不正を暴くだ? 笑っちまうぜ)
 確保すべきは己の利益。運輸達はOZに近い。何処に貧乏籤を押しつけ、何処で利益を掻っ攫うか。盾と囮は多い方が良い。
「――闘技場と軍の連中を敵に回すってのはよ、そーとーリスキーな仕事じゃねーの?」
 喫煙室、OZは煙草を吹かしつつ運輸社員達との雑談の中に織り交ぜ軽い調子で探りを入れた。リスクに手を出すからにはそれだけの見返りがある筈だ。運輸の社員達は追求をかわしていたが、OZはリスクは教えろと喰らいついてゆく。
「まぁ‥‥闘技場も軍も派閥がありますからねぇ」
 すると比較的人の良さそうなエルダが口を割った。
「全てを敵に回す訳ではないので、そこまで心配はいりませんよ」
 と安心させるように微笑する。ざっとこんな図式だと女は言った。大きく見ればBと敵対しているAという陣営でも、A壱、A弐と派閥があり、A壱がA弐を邪魔に思い、A壱がBと一時協調してA弐の足を後ろから引っ掛ける。ゼット運輸などはA弐寄りのC勢力だったが、その流れに乗ってBとA壱側へ鞍替えしてA弐潰しの謀略に手を貸し利益を掠め取る、という寸法――まぁよくある話だ。
「しかしよ、鞍替えってのは信用失うだろ‥‥結構リスク買ってるように思えるぜ? 随分良い条件貰ったみたいだな?」
「それは――」
「ま、裏切らせる奴が悪い」
 サングラスをかけた大男がハマキを咥えながら遮った。社長のアルファだ。
「慈善事業じゃねぇんだからな。お互いそんなもんだろ?」
 言って違う話をし始めた。何を約束されたかまではOZへ明かすつもりはないらしい。
(ケツの穴のちいせぇ野郎だ。クソハゲが)
 舌打ちしてOZ。狼の前に自分達が手に入れる予定の生肉を見せる気はないようだった。


 番場論子(gb4628)は思う。
(カリマンタンに存在の闘技場。何やら軍不正の糸口が有りそうで、まさに地獄の何丁目辺りかと‥‥『論理の魔女』足るわたしが、斬り込みますね)
 その為には作戦を立てねばならない。一行は入り江の奥にある治安の悪い街に上陸すると海賊御用達の酒場で食事を取りつつ作戦を打ち合わせる。ラナライエル(gz0049)がどうするかの話になった時、
「同行は、反対だ」
 アスが言った。
「‥‥私も行きたいのですが」
「駄目だ。安全は保障できないし依頼に支障をきたす事もある。真実が知りたいなら待つのがあんたの仕事だ」
「私もラナさんの同行は絶対反対ですね」
 叢雲(ga2494)もまた言った。
「今回は全てを速やかに、なるべく隠密裏に進める事になると思うわ」
 とケイ。
「一般人まで構っている余裕は無いの、ごめんなさいね」
 それにラナは目を白黒させる。
「でも!」
「ラナライエルさんには魚雷艇で待機していただきたいです」
 鳴神が言った。彼女には今回の件に関する動機はラナの妹の事も大きい様に思えたが、それとこれとは話が別だ。
「同行していただいても利点がありません。逆に不測の事態における足枷は困ります」
「足枷‥‥」
「貴女は、真実を知りたいんですよね?」
 叢雲が問いかけた。女はその言葉に頷く。
「それが本当に心から願うのであれば、ついてくるという選択はないはず」
「私は‥‥!」
「あのな、俺だって真実が知りたいんだよ」
 アスが言った。
「既に若干関わっちまったのもあるが、派手な戦争の陰で人が闇に飲まれて死ぬ、それを知らないフリはしたくねぇの。あんた程じゃなくても、結構切実な動機なんだぜ」
 視線を向けて言う。
「本気で暴くなら付き合う。だから、待っててくれ」
 しばし見据えていると不意に女は俯いた。か細い声で言う。
「‥‥本当に、ちゃんと持ってきてくれますか?」
「ああ」
「信じます‥‥」
 女は顔をあげるとしかしきっとまたアスを睨みつけ言った。
「でも嘘ついたら呪います。オリエンタル藁ドール呪い殺します」
 頭に血が登ってるのか知らないが、割とアレな女である。
(いくら依頼人でもなぁオイ)
 無茶ばっか言うなよと顔を引き攣らせる傭兵達であった。


 アスは運輸の面子と手順を綿密に打ち合わせる。
(あんま信用してねぇが唯一の足掛りだ)
 鳴神とケイは手持ちの手榴弾に細工しておく。番場は各員が使う手榴弾の使用機会・合図等を聞きだして告知し共有化する。
 潜入方法、
「私は闘技場の腕試しの介添え人、辺りでいこうかと思いますが」
 と番場。
「あちらさんに口裏合わせて貰えりゃそれで通れそうだが‥‥それならバラバラじゃなくてまとめて入っちまった方が世話なくね?」
「闘技場側にも話が通ってるのですか?」
 番場が突っ込むと少年は顔を顰め「まぁな」と頷いた。
「全部じゃねぇが一部には話がついてる。じゃなきゃ、あそこのセキュリティ抜くのはハナから無理だぜ」
 との事。そんな調子で傭兵達は話しあいを進めてゆく。
「手榴弾を使って突入?」
「必要があれば。だが騒ぎを起こすのは不味い。出来るなら隠密、始末する必要がある場合でも音を立てないようにやらねぇと」
「あと血の処理が面倒なので、血が出ない方法で」
「監視カメラは?」
「向こうの協力者が誤魔化してくれるがアラートはどうにもならねぇ。先導はするが、引っかかるなよ」
「黒服のスーツって用意できるか? 変装しといた方が良いだろ」
「とにかく速度だ。スピード第一、逃げの一手」
「ああ、それとあの闘技場つったらキメラだよな」
 戦闘経験のあるキメラの情報、効果的な戦術を共有する。
 作戦を一通り立て、詳細も打ち合わせ終わると、最後に大男がジョッキを掲げて立ち上がった。
 海賊のボスは無駄に紳士な口調で言う。
「不正が撲滅されこの世に正義が示される事を祈って」
 白々しい、と多くの者が思い、幾名かがうすら笑みを浮かべたが、杯が合わされその後は飲み喰いとなった。


 海から河へと乗り入れ闘技場付近まで進む。マングローブに船を隠し上陸し潜入班は迂回して付近の村へと向かう。運輸の二人が先行し、数日が過ぎてから無線に合図が入った。手筈は整ったらしい。
 深夜、漆黒の闇の中、寂れた村に不釣り合いな黒塗りの車がやって来て傭兵達はそれに乗り向かう。運転は黒服が務めていた。道を進み森の中に入り、薄暗い森道を進み、地下へと入る。地の底にそれはある。
 ライトに照らされる地底。地下道を進んでゆくとやがて見上げる程に巨大な門の前に出た。警備に立つ黒服が無線に合図し、扉が開いてゆく。
「腹をぶち抜かれたお礼、しないとですね」
 叢雲がぼそっとそんな事を言った。


 能力者らしき者達が無言で席に腰かけモニタにはリングの様子が映されている。闘技場の控室だ。
 見知らぬ能力者の幾名かが扉から出て行き、そしてそのまま帰ってこなかった。
 やがて黒服が二人やってきて傭兵達の名前を読み上げた。顔に覚えはないが、声はブランドンとエルダのものだった。出番という事らしい。
 連れられてゾロゾロと出てゆき、いつかのように入り組んだ道を通って殺し合いの場へと向かう――途中で道を逸れて部屋に入った。ブランドンがロッカーを開いてスーツを投げて寄越した。傭兵達はそれを着込むとそれぞれサングラスをかける。
「ルートです」
 エルダが地図をよこした。迷路のように描かれたそれに線が引かれている。
「こっからは見つかったらアウトだぜ」
 とブランドン。
 傭兵達は運輸の二人の手引きに従ってコロッセオの通路を進んでゆく。
 初め黒服達には不思議と会わなかった。
 途中、警備の一隊と遭遇したがOZと叢雲が隠密潜行で忍び寄って音もなく仕留めた。猿轡をかけ縛って目立たぬ箇所へ転がしておく。極力騒ぎを起こさぬよう闇討ちと処理を繰り返して進んでゆくとやがて目的の部屋の前に辿りついた。合金の障壁の端へとエルダがノートPCを取り出して線を繋ぎキーボードを叩き始める。
「時間かかるか?」
 それなりに、との事。アスは電子魔術師を発動させて覗き込む。エミタが言っている、ちょろいロックだと。
「貸してみな」
 横から手を出して操作する。瞬後、あっさりと障壁が開いた。
「‥‥そういえば、ありましたねそんなスキル」
 羨ましそうにエルダが言った。海賊に万能キーは渡らないようになっているらしい。
 傭兵達は合金に覆われた室内に入り、奥へあった巨大な金庫をやはり電子魔術師であっさり開ける。
「ああ、ありました。これです」
 エルダが四角い透明なケースに入れられたそれを金庫内から取って抱える。百枚近くもあった。OZは様子を観察しておく。
「急いで脱出しましょう」
 番場が言った。一同はそれに頷き元来た道を戻る。
「脱出する際は別ルートで、出口は爆破します」
 とエルダ、しかし順調に脱出ルートを進んでいた傭兵達だったが流石に気づかれたらしい。黒服サイボーグや大猿、銀狼、天使等、十体あまりのキメラが通路の前後から寄せて来る。
「あの天使達はやべぇぜ、テメェでやれるか?」
 OZは駆けつつ、後方より迫る三体の天使を指してブランドンを挑発、けしかける。青年は「楽勝だンなもん!」と左右の拳銃で猛連射して二体を一瞬で撃墜した。
 傭兵達は手榴弾をそれぞれ投擲、閃光と爆音が炸裂してゆく。さらに前方へと叢雲が制圧射撃を発動、通路に固まる黒服と銀狼の五体を薙ぎ払い榴弾を叩き込んで爆裂を巻き起こしてゆく。鳴神が太刀を抜き放ち焔を裂いて飛び込みサイボーグ達の首を一発で吹っ飛ばし、銀狼を滅多斬りにして斬り伏せて駆け抜けてゆく。国東や前の闘技場の時の敵とほぼ同じだ。
「ふふっ、その瞳‥‥良いじゃない‥‥ゾクゾクする‥‥」
 後方から高速で迫る天使へとケイは二連射と影撃ちを発動、リボルバーと光銃を向け猛連射。番場とOZもまた弾幕を叩き込んで天使を蜂の巣にしてゆく。鮮血を撒き散らしながら天使は翼を折り、通路に墜落して動かなくなった。最後に前方より出て来た大猿もまたアスとエルダが光線の嵐を叩き込んで一気に撃ち殺し、傭兵達は足を止める事なく駆け抜け後方通路天井を爆破しながら進み追撃を断つ。さらに前方や横合いから出て来る敵も手榴弾をばらまき火力を叩きつけ蹴散らし、道を塞ぐよう降りてきた障壁もエルダが端子へと繋いでアスが電子魔術師で解除した。
 やがてコロッセオの壁を運輸の榴弾で爆破し、地下水路を通って地上へと脱出した一行は全速力で闇夜を駆け、河辺で待つ魚雷艇まで辿りついた。
「皆さん、ご無事で!」
 八人が甲板へと飛び乗るとラナが歓喜を表情に浮かべて一行を出迎えた。
「上手く行ったわね」
 ケイが言って一つ息をつく。しかしその時、かすかに船とは違うエンジンの音が聞こえた。
「ブリッジ! 出せッ!!」
 OZが無線に吼えた。それに応えて魚雷艇が急発進し大河をかけてゆく。瞬く間に音が近づき、河辺にライトが投げかけられ軍用車が爆音をあげて突進して来た。ライフルを手に巨漢が車から飛び出し魚雷艇へと銃口を向ける。猛射。弾丸の嵐が解き放たれ壮絶な破壊力が荒れ狂い、水面を爆砕して水しぶきを天へと吹き上げてゆく。
 だが、間一髪、射程外だった。SES武器は射程が短い。魚雷艇はそのまま快速で岸から離れて行く。
「あれは‥‥ハラザーフ・ホスロー?」
 番場が言った。ライトの中で銃を構えていた巨漢の顔、大分戦で見た事がある。
「間違いねぇ。UPC特殊部隊の部隊長だ」
 とOZ。カリマンタンで見た。
「‥‥不正をしている軍というのは彼等なのでしょうか」
 番場が言った。
「今現れた以上は黒に近いかと‥‥」
 鳴神は岸の彼方を見つつぽつりと呟いた。国東ではあの男の指揮下で戦ったものだが。


 船内。アスは自前のPCにディスクを差し込むと立ち上げた。
「‥‥パスワード、だぁ?」
 電子魔術師を発動させたが解らなかった。男が呻いていると横からエルダがひょいと手を伸ばし、ぱちぽちとキーを叩いていった。
 するとファイルが開かれ、数字と文字が映し出される。各種『商品』と諸々の取引相手とその決済が記されていた。
「取引記録と顧客名簿ですね」
 と鳴神。
「ハ、こいつぁ‥‥大物、ってヤツ?」
 アスは鼻を鳴らす。そこにはUPCの高級将校の名前が幾人か記されていた。中にハラザーフの上司も居た。准将村上顕家。ラナが息を呑んだ。
「閣下はこれをネタにUPCのあちこちに無茶言わせてたみたいですけど、ここを乗っ取ったのは欲かき過ぎましたねー」
 うふふと微笑してエルダ。
「それじゃ、よろしくUPCの受け取り人さんにこれ渡してくださいね」
「そいつが握りつぶさないって保証は?」
「大丈夫ですよ。村上閣下とは対立する派閥の方ですから」
「‥‥一応聞いておく、俺達が後で消される可能性は?」
「危険なポイントはもう乗り切ったので安心してください。ULT傭兵を報復の為に消すという事は村上旅団はやらないでしょう――多分ね。もっとも、お隣のラナさんみたく団員の誰かが怨みに思ってとか、そういう個人的なパターンまでは知りませんけど」


 アスはコピーを取り、傭兵達はディスクをUPCへと渡した。
 後日、水面下で噂が流れULTのオペレーターと六人の傭兵の手によってUPC将校の不正が暴露されたと囁かれるようになる。



 了