タイトル:蒼い炎と破魔の兵マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/16 18:51

●オープニング本文


 日本国大分県某町。
 傾いて傾いて、ある意味かぶきまくってるんじゃないかと思われる程の町の中小企業の応接室のソファーで二人の人間が向かい合っていた。
「それはまさに悪霊の仕業ですね」
 一方の黒いグラスをかけ狩衣に身を包んだ少女が言った。
「やはり悪霊、ですか‥‥!」
 相対する蒼白い顔をした男はこの会社の三代目社長。酷く憔悴した様子である。それに白狩衣の少女は言う。
「ええ、きっと悪霊なので歌部の二番弟子たるこの西園寺が迅速堅実に退治して御覧にいれましょう!」
「ああ、依頼成功率99%を誇る高名な陰陽師である歌部星明先生のお弟子さんなら、これはとても安心ですね!」
 青い顔の男は手を組んで瞳をキラキラと輝かせて歓喜の声をあげる。
「で、西園寺さん」
「なんでしょう」
「その‥‥黒光するごっつい代物はなんでしょう?」
 ちらとソファーの横に走らせて男は問いかける。少女は頷くと、それを手に取り、
「歌部式退魔全自動小銃『ONMYOU』です」
「‥‥おんみょう?」
「はい、ONMYOUです」
「‥‥‥‥全自動‥‥というと‥‥フルオートな感じですか?」
「ええ、フルオートでアサルトな感じです。電磁弾を猛射します」
 間。
「あの‥‥西園寺さんて陰陽師さんで退魔師さんでらっしゃいますよね?」
「陰陽師で退魔師ですね」
「アサルトライフルですか?」
「アサルトライフルです」
 間。
「科学万能の世の中ですので」
 グラサン狩衣の少女は付け加えた。
「は、はぁ‥‥‥‥で、でも相手は悪霊なんですよね?」
「退魔の文字が入っているので大丈夫です。科学は霊魂をも滅ぼすのです」
「お、おお‥‥なるほど! 流石は高名な陰陽師先生の御弟子さんですね! 頼もしい!」
「では、私にお任せいただくのでよろしいか? ――有難うございます。ではこちらの方にまるっとサインを。え、報酬に0が一つ多くないか? あはは、嫌だなぁちゃんと説明したじゃないですか」
 その様子を三代目の側に立ち無言で見守っていた強面の秘書は思った。
(「先代‥‥当社は、先行き暗いかもしれません、色んな意味で」)
 三代目はあからさまに胡散臭い少女が進める契約書に笑顔でまるっとサインしていたのだった。


 簿路井建設会社のボロいビルの廊下。
「ふっかけやがって、問題は解決出来るんだろうな」
 強面秘書こと鬼津吉久は小柄な少女を見下ろして言う。
「私はどんな依頼でも成功率99%を誇る歌部の者です。ご安心を」
「噂は聞いちゃいるがな‥‥」
「結果はすぐに解りますよ。失敗したら報酬は結構ですので」
「当然だ」
 鬼津はふん、と鼻を鳴らし、じっと少女を見る。
「‥‥なんでしょう?」
 鬼津を見上げ、首を傾げて西園寺。
「‥‥‥‥悪霊なんて本当にいるのか」
「居るわきゃないでしょう」
 即答だった。
「‥‥おい」
「悪霊、という事にしておいた方が良いですよ。そちら、建設は止めたくないのでしょう?」
「今、お前が、工事を止めさせただろうが‥‥例のものの正体、知っているのか」
「一時的にです。すぐ再開できますよ。見当はついてます。この平成の世の中の場合、おかしな物は大抵ね、石でもぶつけりゃ赤く光るんですよ。赤い光が展開したんですよね?」
「報告によれば、そうだ」
「連中の共通項目です。特徴からキメラではないかと」
「‥‥キメラだと!」
「声、大きいですよ。建設は止めたくないんですよね? キメラが出たとなったら、規模や場所にもよりますが工事は自主的な一時中止で済む話ではりません。機関が安全を確認し報告し、検証して結果を降し、合格してから初めて再開が許可される。かかる時間は、如何程でしょう。まぁ薄路井さんのような場合は月単位でしょうね」
「‥‥‥‥‥‥‥ここで本格的に中止などとなったら、うちの会社は潰れる。そんな体力は無い」
「キメラならとかく悪霊騒ぎなら安全の為に停止しろ、と言うお役所はないですからね。ですので悪霊という事にしておきます。こちらでキメラを始末した後に除霊の儀式を行います。それで万事解決。速ければ三日、遅くても今週中には工事を再開出来るでしょう。退治の証拠として後で首をお持ちして参上する。大まかな段取りは以上でよろしいですかね?」
「駄目だ」
 鬼津は言った。
「俺もつれていけ。問題が解決されたかどうか、俺が判断する。でなければ銭は渡さん」
「はぁ、お気持ちは解りますがね、死んでも知りませんよ?」
「騙されるよりはマシだ」
「変わったお人ですねぇ。私を信じてお待ちになられた方が色々救われると思いますが」
「お前、信用させる気ないだろ」
 鬼津が言うと少女は一瞬、きょとんとしてから笑った。
「それは心外」
「抜かせ」
「ではお連れします。全力で守りますが十割の保証は出来ません。ああ、それと一つ確認です。伏せるとして被害者の遺族の方は抑えられてるので?」
「被害は出ていない」
 鬼津は断言した。大事な所らしい。
「失踪者ならばいるが幸か不幸か社員だ。金しか渡せんが黙ってもらう。県警にはコネもある。調査はするそうだが、大事にはしないでくれるそうだ。俺は世話になった先代よりこの会社と現社長を託されている。命を無駄に捨てる気はないが、必要とあれば我が身の一つや二つ、惜しくはない。全力で守ってくれるのだろう?」
「ええ。ではそういう事で」
「キメラはどうやって排除する気だ?」
「鉄と弾丸で」
「やれるのか?」
「一応、能力者ですから。それに一人ではありません。料金の説明の際にも申し上げたと思いますが助っ人を呼んであります」
「助っ人?」
「ええ、とても強力な助っ人です」
 少女は黒いグラスを外すと安心させるように微笑して言った。
「ですから、どうか、この西園寺燐火と破魔の兵にお任せください」

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
零崎 弐識(gb4064
24歳・♂・FC
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA

●リプレイ本文

 時は少し遡る。
「あら‥‥燐、火?」
 集まった傭兵の一人、ロジー・ビィ(ga1031)は依頼主の姿を見て驚いていた。
(「陰陽師になったと噂に聞いておりましたけれど‥‥」)
 彼女の記憶の中にある、かつて化粧をしてあげた少女とは――なんか、こう、色々な部分で違った。グラサン狩衣にアサルトライフル。むしろよく本人だと解ったというレベルである。
「‥‥あれ以来ですわね、燐火。覚えていらっしゃるかしら? ロジーですわ」
「ああ、ロジーさん!」
 少女はロジーの姿を認めると黒いグラスを外し笑顔を見せて言った。
「ええ、勿論、恩人の顔を忘れたりなんてしませんよ。お久しぶりです!」
 そう言う少女の顔は前に見たそれの面影を色濃く残していた。本人だと思える――が、その立ち振舞いに違和感を感じるのは、それだけ時間が流れたという事なのだろうか。
「よう燐火、久しぶりじゃねぇか。ちょっと雰囲気変わったか?」
 片手をあげながらアンドレアス・ラーセン(ga6523)が言った。他にも柚井 ソラ(ga0187)、叢雲(ga2494)、斑鳩・南雲(gb2816)も久しぶり、と挨拶をする。
「アンドレアスさんも皆さんも、お久しぶりです。いや、まいったなぁ、お恥ずかしい。ええ、まぁ、何時までも子供のままではいられませんからね」
 あははと頭を掻いて少女が言う。
「――風の噂では、陰陽師として一流になられたとか? 歌部さんも弟子が立派になって喜んでるのでは」
 くすくすと微笑して叢雲が言う。
「燐火さん、すっかり一人前なのですねっ。俺も負けてられないです。がんばらなくっちゃ」
 にこにこと笑い、きらきらと目を輝かせて柚井が言った。なお今回も直衣に烏帽子姿である。
「あ、いや、私などは一流には程遠いですよ。皆さんのおかげでなんとかいっぱしにはなれましたが」
 頭を掻いて西園寺。
「歌部さんは御元気ですか?」
「あの人は相変わらずの調子ですよー」
 そんな話をしつつ各自、再会の挨拶と自己紹介をする。
「空言さんとはお友達なのですー、仲良しなのですっ♪」
 和泉譜琶(gc1967)は自己紹介した後にそう言って、ハイターッチ♪ と空言 凛(gc4106)と手を打ち合わせた。小柄な和泉に対し空言はなかなか長身なので、空言的にはミドルタッチになっていたが。
「ま、そんな訳なんだ」
 と空言は頷き、
「で、なんだっけ。今回のその犯人の正体ってのは、キメラなんだろ?」
「ええ、その可能性が高いですね」
 かくかくしかじかと西園寺は詳しく状況を説明する。
「燐火ちゃん、妖怪っぽいキメラとは何か縁があるねー」
 斑鳩が言った。以前、燐火と依頼を受けた時も敵が妖怪っぽいキメラだったのである。
「まぁ、私こういう職業ですからね」
 ははは、と狩衣の袖を広げて西園寺。どうしてもソレっぽい依頼が舞い込む率が高いようだ。
「妖怪でも斬れるなら問題ねぇ。段取りはどうすんよ?」
 煙草を吹かしつつ零崎 弐識(gb4064)が問いかけた。
「ああ、それはですね――」
 と西園寺は計画についてその概要を話し始めたのだった。


 時は流れて簿路井建設会社の一室。鬼津が西園寺と共に部屋へと入って来た。
「こいつらか」
 強面の秘書は待機していた八人の傭兵達を見回して言った。うち一人、零崎は紫煙を吐き出しつつ鬼津を見返すと、
「あんたが鬼津さん? 話は聞いてるよ。マッジメだねぇ。いや、フマジメなのかね、生きるのに対して‥‥ま、保留?」
 けけけっと笑う。それに鬼津は目を眇め、ふん、と鼻を鳴らした。
 一行は挨拶もそこそこに駐車場へと移動すると会社の1BOXバンへと乗り込む。鬼津が運転し車道へと出て山へ向かう。
「で、社長と話して来たんだろ? 結局、悪霊退治だけか? 失踪者の生死は?」
 車内、アスが西園寺に問いかけた。人命に最善を尽くさないのは彼の主義に反する。
「えぇと、それは‥‥」
 男のその主義は知っているのか、少女は歯切れ悪く言葉を濁した。黒いグラスをかけ、言う。
「――生きている確率は零に近いかと。十のうち九は喰われて消滅していると思われます。退治の後、一度、他に脅威がないか周辺の捜索は行いますので、その時に合わせて。ただ、失踪者が発見できない場合でも、キメラの気配が感じられなければ、その一度で打ち切ります」
「そうか」
 行いはするが、あくまで損益が出ない範囲で、という事だ。人命に関する最善からは遠い。
「‥‥よろしいですか?」
「仕事だからな」
 アスは言った。勿論気に食わない。だが、それが仕事だ。
「そういえば、皆さんお知り合いなのです??」
 少しの沈黙の後に和泉が言った。
「ええ」
 西園寺は笑って頷き、ロジー、アス、柚井、叢雲には昔、病気だった時に依頼で来てもらって助けてもらったと述べ、斑鳩とは傭兵になった駆け出しの頃に一緒に依頼をこなしたのだと言った。
「病気? 何、傭兵に依頼されるような事があったの?」
 少し興味を持ったのか零崎が言った。
「昔は病弱だったんですよ私。これでも深窓の令嬢だったのです」
「深窓の令嬢? あんたが?」
 男は目を瞬かせると、次の瞬間、爆笑した。
「‥‥そんなに、おかしな、こと、ですかねぇ?!」
「いやぁ、でも確かに令嬢って感じではなかったですね」
「ちょっとぉ!」
 そんなこんなを話しつつ一行は建設現場へと向かったのだった。


 山内。
 工事現場に一台のバンが到着した。扉がスライドして開き、
「怨霊、物の怪、困った時は!」
 とーうっと声をあげて黒髪の少女が飛び出して来た。斑鳩・南雲である。
「すぐに呼びましょ、能力者〜っと――なんだか懐かしい気がする曲調ですねっ」
 ひょいっと降りて来て直衣烏帽子姿の青年柚井。結構昔に九州のどっかの名家で踊ったものである。
「さぁて、妖怪キメラか、どんな奴か楽しみだぜ!」
 空言がぱんっと拳を手に打ちつけて言った。
「おおお、おばけなんていないのですっ! 昼間のうちにキメラ退治できればいいのですけれど‥‥うぅ」
 ふるふるとしつつ和泉。おばけ>キメラな傭兵は割と多いらしい。
「さて、まずは現場に居合わせた方々から詳細を直に聞いてみたいですわね」
 とロジー。かくて一同は、工事中断の準備をしている作業場へと入ってゆく。
 ロジー、柚井、斑鳩は聞きこみを行い失踪者を目撃していた人物を鬼津の名前を出して掴まえるとその姿、行動、失踪者との位置関係、来た方向、去った方向等を聞き、確認する。
「目が赤く光った、ねぇ‥‥」
 アスは現場で三者の立ち位置を再現し実際に被害者の位置に立ってみる。
「そん時の距離は‥‥こんなもんかー?!」
「そんなもんだー!」
 離れた位置から目撃者が声を投げる。
「近いですわね」
 と女の位置に立っているロジー。
「意外に範囲は狭いのかもな。確証はねぇけど」
 その位置より眼が光った後ふらふらと行ってしまったとの事。
「やっぱり目が危ないっぽいねー」
 斑鳩がバケツの中身を棒で混ぜながら言う。
「皆、私が洗脳されたら殴って止めてね」
 ちなみに混ぜている中身はタバスコ、唐辛子、胡椒の三種を絶妙なバランスで配合して風味豊かに仕上げた兵器である。
「燐火さんも、俺がそうなった時は何があっても止めてください」
 と柚井。解った、と頷いて西園寺、私の場合も同様に、と少女は言う。
「ま、一応、虚実空間もある。こいつが効けば良いんだが」
 アスが言った。ちなみに西園寺は今回セットして来てないらしい。最初で最後の砦だ。
「操られるような人にはお仕置きですよ」
 と言うのは叢雲だ。拳銃で足をガスンといくようである。能力者の戦に慣れてる、というべきか。
 また、
「言葉ねぇ」
 繰り返される言葉にもしかしたら、失踪者の手掛りがあるかもしれないと考え、少し聞いてみようと零崎は思った。
 傭兵達は情報を集め地形を調べ終えると作業員たちが麓へと帰った後に誘き出しと迎撃の準備を進める。
「こう、班を三つと鬼津さんの直衛に分けて、AとCで十字砲火、隙を見てBで奇襲、といった感じで‥‥」
 叢雲が地面にがりがりと図を書いて作戦を説明している。
「ふむふむ、銃はあんまり使わないんだけど、こう、臨機応変だよね! 大人って感じ!」
 しゃきとハンドガンを見せて斑鳩。
「わぁ、一度『蜂の巣』ってやってみたかったのです〜」
 約一名、ほんわかとアサルトな事をおっしゃている。覚醒すると挑戦的になるようだ。
「あー、十時砲火ねぇ、私は銃とか使えねぇから、その辺は任せるぜ!」
 ぼりぼりと頭を掻いて言うのは空言だ。
「照明って使えますかね?」
「大丈夫じゃないかな」
「現場のライトがある、問題無い」
 そんなこんなをやりつつ一同は準備を進め、探査の目なども発動させつつ現場の陰で待ち伏せし、ソレが現れる刻を待ったのだった。


 深夜、強烈なライトが照らす工事現場、山林の間よりセーターとスカート姿の女がふらりふらりとやってきた。
 女が現場を進むと次の瞬間、左右から猛烈な勢いで弾丸が襲いかかった。赤光が展開し女の身から血飛沫が吹き上がってゆく。キメラだ。
 廃材の陰、西より叢雲とアス、南に斑鳩、空言、零崎が飛び出している。
「思わずついてく程のイイ女にゃ見えねぇがね!」
 光線銃を翳し練成弱体を入れつつアス、好みではないらしい。叢雲は十字架銃を腰溜めに構え猛烈な勢いで弾幕を解き放ち、斑鳩は拳銃を両手で構えて発砲している。
(「さてさて、どっちに逃げるかな?」)
 空言。十字砲火でキメラが移動する方向を見定めんとする。血飛沫を吹き上げながらもキメラは駆け、斑鳩目がけて突っ込んで来る。やる気らしい。
「こっち来るぜ。ほんとに聞くのか?!」
「まー、俺一人操られたとこで手足の四本や五本でもぶち折ってくれりゃ済むっしょ!」
 零崎、空言にそう返答しつつ鞭状剣を抜き放つ。低く構え練力を全開に稲妻の如く駆ける。宙に残光を曳き一瞬で飛び込み目にも止まらぬ豪速の突きを繰り出す。女は半身に身を捻りすり抜けるようにかわし、零崎は間髪入れずに蛇腹剣をバラして薙ぎ払いへと繋げる。瞬間、女の目が光った。何かを呟いている――
『天国へ逝きましょう』
 失踪者の皆は、旅立ったらしい。
(「クソが」)
 蛇刃が炸裂して女の身から血飛沫が吹き上がり、零崎の視界が歪み、引き延ばされ、意識が消えてゆく。同時、空言は零崎が放った刃の直撃に合わせラッシュを仕掛けんと飛び込んでいた。
「オラァッ!!」
 踏み込みと共に右のアリエルを女の頭部目がけて打ち降ろす。鈍い手ごたえ、命中。よろめく相手へと間髪入れずに弧を描いて左のブローを放――とうとした所で後ろに飛び退く。鞭状剣が直前までいた空間を薙いで抜けてゆく。女の目が光って、何かを呟いている。
(「何ブツブツ言って――同じ事を繰り返して暗示を掛けやすくしてんのか?!」)
 空言、視線を外し言葉を聞かないように声をあげ意識も逸らす。視界は、乱れなかった。しかし、注意が逸れた隙に女の爪が空言の脇腹に突き刺さっていた。衝撃に空言がよろめき、零崎が剣を振り上げ、アスが放った虚実空間を受けて固まっている。斑鳩が例の三種ブレンドの詰まった水風船爆弾を取り出し眼を狙って投げつけ、女はスウェーして回避。
「このっ――」
 その隙に空言は西園寺よりの練成治療を受けつつ後退して間合いを外す。他方、照明外の暗闇の中で和泉は1.8mの和弓に矢を番え引き絞っていた。弓手の伸ばした人差し指の先、よろめく女、隙あり、今、極限まで精神を集中させて撃ち放つ。雷上動、妖怪変化を射落とした弓。闇の奥より、閃光と化した矢が飛び出し、身を反らせている女の脇腹に突き立った。輝く矢が深く刺さり破壊の衝撃を炸裂させてゆく。
「悪霊退散、です」
 鬼津と西園寺の守りについていた柚井もまた練力を解放し死点射を発動。光を纏った洋弓より四本の矢を同時に撃ち放つ。矢が稲妻の如く宙を奔り次々に突き刺さって、一本が爆ぜて大爆発を巻き起こした。さらに暗闇の奥から光線が放たれ、それを追いかけるように女が一人飛び出して来る。ロジーだ。
 光が爆裂してキメラが鮮血を噴出し、ロジーが踏み込む。練力を全開に左右の小太刀で瞬時に八連の剣閃を巻き起こす。鮮血の華が咲き乱れ、斑鳩が第二弾を投射して爆ぜ、女の目に液体が付着する。叢雲は射線を通すと黒猫で精密に狙いながら発砲し、女の足へと弾丸を叩き込んでゆく。
 後退した空言は身を切り返すと瞬天速で加速、弾丸のように再度飛び込んだ。踏み込み渾身の力を乗せて右の拳を放つ。右のアリエルが炸裂し直撃を受けた女の身が木の葉のように吹っ飛んでゆく。ロジーがすかさずそれを追いかけ――ようとした所で追撃を止めた。
「‥‥なるほど」
 しばらくの後、鬼津はキメラの元まで歩き、それを見下ろして呟いた。
「圧倒的だ」
 キメラは二度と、動く様子はなかった。


 戦後。
「被害の総量が少ない方、ってのは間違っちゃいねぇけどよ」
 山岳を眺めながら煙草を吹かしアスが言った。
「なんですか?」
 叢雲が手近な廃材に腰を降ろし聞く。
「燐火」
「ああ、そうですね‥‥人は変わるんですよね。燐火さんは‥‥」
 ふっと目を細めると叢雲は言った。
「随分と擦れたようで、おぢさん悲しい」
 間。
「冗談です」
「信じよう」
「まぁ‥‥その変化が良し悪しかは本人次第と言う事で、私は燐火さんの変化はいい事だと思いますよ?」
 微笑して叢雲は言った。
「‥‥まぁな、こんな時代だ、傷付かない考え方を覚えるのはいい事かもしれない」
 アスは煙を吐く。
「けど、燐火は本来感受性が強い。歌部のオッサンと同じように振舞っても澱は蓄積する‥‥少し心配だ」


「燐火‥‥笑顔を、笑顔を見せて下さいませんか?」
「え?」
 ロジーは西園寺の顔を見詰めた。少女はじっとロジーの瞳を見ていたが、やがて少し表情を歪めた。
「‥‥ロジー、私は、皆みたいに、何かを守れる人間に、なれたのかなぁ?」
 言って、俯く。
「燐火‥‥」
「‥‥‥‥御免、大丈夫」
 しかし、すぐ顔をあげて燐火は言った。
「有難う、ロジー、私は、大丈夫。貰った物が、沢山あるから。私は歩いてゆける」
 にこっと笑って、そう言ったのだった。


 かくて、キメラは討伐され、山の捜索の後、除霊の儀式が執り行われ現場は安全の回復が宣言された。
「またこうやって呼んでもらえると嬉しいです」
 安全確認と除霊の儀式等、最後まで手伝ってから柚井が言った。歌部も燐火も青年にとって応援した人なのだという。
「‥‥有難う。とても嬉しい」
 燐火はそう言って笑うと、
「何かあったらまたULTに依頼を出すと思います。その時に都合がつくようなら、是非また来ていただけると嬉しいです――またいつか会える日まで、どうか、御達者で」
 高速艇が風を巻き起こし天へと飛び立ってゆく。
 冬の風は身を切るように冷たく、しかし空は今日も青く澄んでいた。


 了