●リプレイ本文
「フェンリル01、出撃します」
故城基地の滑走路をES‐008‐2がSES機関より唸りをあげて走る。機体が浮き上がった。鋼鉄の翼が爆風を巻き起こして天空へと飛翔してゆく。篠崎 公司(
ga2413)のフェンリル01だ。
空には同様に八機のKVが上がり翼を並べていた。九機のKVは編隊を組んで北へと向かう。
「んーぅ。気合い入れて囮役に立候補したけど‥‥相手は新型なのよね? 正直、ぺちっと落とされるかもしんないとは思う」
うち一機、CD‐016G‐空飛ぶ剣山号を駆るエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)が言った。士気に関係するので周囲へは回線を開いてないが不安を抱えているようだ。
「ぺちっと、ですか」
臨時に基地管制を務めているラナライエルの声が無線から返って来た。エリアノーラは言う。
「いや、だってほら。同じ囮役を買って出た、あそこ飛んでる怪物くんたち‥‥剣一郎の流星皇や修司のディアブロとウチの子じゃあ、格が違うような気がするし」
「確かにお二人のKVは素晴らしいですが、剣山号も装甲は十分ですよ。良い機体です」
「そうだと良いんだけど‥‥ま、何とかするしかないわよね。うん」
「‥‥御武運を」
その通信を最後にノイズが増えてゆき、基地からのそれがやがて埋もれて消える。バグア軍のジャミングは相変わらず健在だ。
「バグアに各方面を制圧されて久しいだけに、故郷を取り戻そうとする人々にとっては尚更ここで躓く訳には行かない、か」
そのCD‐016G‐流星皇を駆る白鐘剣一郎(
ga0184)がチャンネルに呟きを流した。
中国、過酷な支配下に置かれている土地。
故郷の解放を願う声は大きい。
地上の軍の中にも多いと聞く。
「地上で戦う友軍の為にも、敵増援は必ず阻止しなくてはなりませんね」
榊 刑部(
ga7524)が言った。今回の乗機は新鋭機のF‐196‐隼鷹。
「しかし、こちらが優勢となりつつある空域に送られる敵増援、ですか‥‥説明にあった通り精鋭、ということでしょうな」
お馴染みのデフォルトカラーのF‐108を駆る飯島 修司(
ga7951)が言った。ここで空よりの増援を許しては戦局は一気に逆転されてしまう。
「なに、敵は精鋭が揃っているようだが、こちらも負けてはいない」
F‐201D/A3‐Chronusに搭乗する仮染 勇輝(
gb1239)が言った。味方はULTの中でも腕利きが揃っている。
「そうだな。彼等の想いを無駄にしない為にも、必ず敵を退けよう。負けられない戦いだ」
と白鐘。勝算は高いが、それだけに敗北すると士気は目も当てられない事になる。
「新型旧型関係無く、落とすだけだね」
吹雪 蒼牙(
gc0781)が不敵に言った。全くもってその通り。敵がなんだろうがやるだけである。
「叩き潰しましょうか、それも徹底的に」
だからこそ、と飯島。それもまた道理。
「この空域にこれ以上の増援は無意味だと、連中に思い知らせる程度にね」
味方がきつい事は敵もきつい。精鋭部隊を破れば戦局はさらにUPCの側へと傾く。
「ただ、敵は三機一組で一機を集中攻撃してきます。単純ですが、有効な手です。お気をつけて」
何時ものように、拳骨でモニタを小突いて願掛けをしつつイーリス・立花(
gb6709)が飯島へと言った。
「了解です。油断は大敵ですからな」
と飯島。今回はB班の先頭に立って囮を務める事になっている。
九機のKVは大気を掻き乱しながら北西へと飛び、そして北の空から九機のHWが南下する。
「レーダーにノイズあり。敵との接触までもう直ぐです。各機戦闘態勢へ移行してください」
篠崎の言葉の通り、少しして蒼空の彼方に光が出現した。九つの赤輝、HWだ。篠崎は中和装置を起動させ端から敵をナンバリングしてゆく。
「それでは打ち合わせ通りにお願いします」
「了解」
篠崎よりデータを受け取ってレイヴァー(
gb0805)。今回はH‐223B‐骸龍『改』で管制を務める。
「さて、いい加減にまともな結果を残しませんと‥‥」
機器を操作してデータを入力しつつレイヴァーは独白を洩らす、
(「骸龍さんは遠慮しますね、かっこ笑顔かっこ閉じ等と言われてしまいましたし、ね‥‥はて。とは言え、何がどうなればまともなのか‥‥」)
尖がった機体に搭乗する者にも悩みはあるらしい。まぁいいや、と思いつつ無線に言葉を流す、まずはこの場だ。
「戦闘を開始致します」
爆風を巻き起こして九つの鋼鉄の翼が一定の距離を置いて三手に散開する。うち一機づつが突出している。左翼、エリアノーラ、中央、飯島、右翼は白鐘だ。他は距離を離して後方よりついてゆく。左翼に四機と偏重させている。集中して破るようだ。
「囮役各機、距離と速度を合わせてください。進路を送ります」
レイヴァーはモニタと数字を睨みつつ各囮役が正確に敵ケッテを分散させられるように調整する。ここを誤ると六機や九機が一機に集中しかねない。
少し後、HW、それぞれ囮の各機に対して近い方から三機づつに別れてゆく。
「素早く正確で一糸乱れぬ動き‥‥どうも有人型ではないようだな」
白鐘がその様から確信を込めて言った。精密で素早く、そして融通が効かない。傭兵達は目論見通りに分割する事に成功する。
戦闘が、始まった。
●
「囮としてカチ込むのは異議ありませんが‥‥接近中に攻撃くらいはしても構いませんよね?」
アフターバーナーから焔を吹き爆風を巻き起こして極超音速で超加速するF‐108がHWへと突っ込む。飯島、HWとの相対距離六〇〇、三機をマルチロックオン。発射コードと共にボタンを叩きこむ。武器へのエネルギー強化が増大された五〇〇発の誘導弾が空にばらまかれ、同じく極超音速で直角に機動するHWへと喰らいついて次々に超爆裂を巻き起こしてゆく。全弾命中。
相対距離四〇〇まで詰め、エニセイ対空砲を向ける。HWは凄まじい動きで照準から逃れんと動くが飯島はそれを逃さない。六連射。レイヴァー機と篠崎機の援護が効いている。鋭く飛んだ砲弾は次々にHWを捉え、その強靭な装甲を貫いて爆砕した。超爆発と共に一機が蒼空に散ってゆく。撃破。鬼神に近い。
「篠崎さん、カバーを頼みます。ペガサス、エンゲージ!」
白鐘、ブーストを点火し三機のHWとヘッドオン、全神経を回避に集中させる。赤輝のHWは極超音速で白鐘機へと迫ると極大の紅光波を三機同時に猛連射した。大気を一瞬で制圧し焼き焦がしながら流星皇へと光が迫り、白鐘は操縦桿を切って急降下し三本の極光波を回避する。翼が風圧で軋みGが身に襲いかかる。
「直線状とは言え、範囲攻撃となると厄介か‥‥!」
白鐘、一機を盾にせんと白鐘機は空気の団層を横滑りし、しかし三機のHWは慣性制御で巧みに後背やその上を取って、十二連の極大光波を連発する。恐るべき機動。だが、全力回避中の流星皇もまた急角度で切り返し次々に光をかわしてゆく。既に戦闘機の空戦と呼ぶには別の何かな勢いの戦い。
他方、左翼A班のエリアノーラ、PRMSを全開に抵抗力へエネルギーを集中させる。
「――行くわよ」
相対四〇〇、HWの一機へと牽制射撃。機銃を猛射する。弾幕がHWの装甲を削り、そして距離が詰まって三機のHWから極大の爆光が迫り来る。
エリアノーラ、操縦桿を切りラダーを踏み込み急旋回、避けきれぬとしてもエンジン、尾翼、コクピット、重要な箇所への被弾は極力避けられるように意識を配る。三機の激しく赤く輝くHWが直角に曲がってエリアノーラに喰らいつき、特大の光が迫り来てCD‐016Gを呑みこんでゆく。一機五連、三機で十五連射。衝撃がコクピットに激震を巻き起こしてゆく。損傷率一割、落ちない。装甲が極めて厚い。
飯島へと向かった二機が同様に極光波を炸裂させているが、飯島機もまた二発の直撃を受けても損傷は軽微。本当に人類は劣勢なのか?
囮と敵HWが交差し、旋回した所でイーリスはアフターバーナーに火を入れていた。
「距離、十分です。‥‥ブースト、オン」
ACS‐001A‐RandgrizNachtが爆風を巻き起こし音速を超えて加速してゆく。フォーミュラA発動、相対距離六〇〇、エリアノーラ機へと猛射している三機のHWの後背をロックオン。五〇〇発の小型誘導弾を撃ち放つ。篠崎機とレイヴァー機の電子援護、ブースト、フォーミュラ、位置取りが効いている、精度が極めて増大された誘導弾は次々にHWへと喰らいついて爆裂の嵐を巻き起こした。威力が増している爆裂がHWの装甲を削り飛ばしてゆく。
レイヴァー機もまた焔を吹かしてマッハ6まで一気に加速する。風の壁を突き破り十式機銃の間合いまで接近、ガンサイト、爆裂から飛び出して来たHWへと回している。高速で移動するHWを捉え、トリガーレバーを引く。砲身が振動して回転し猛烈な勢いで徹甲弾がHWへと襲いかかる。敵も速いがレイヴァーの方が速い。逃がさない。弾丸は赤く輝く兜蟹に喰らいつき瞬く間に穴だらけにしてゆく。猛烈な破壊力。
「銀の奴は仕留め損なったからな――今度は逃がさねぇ!」
仮染、F‐201Dのブースターと追加搭載の四連高出力ブースターより焔を吹き上げて上方より迫り、弾幕を受けているHWをサイトに納める。この状況なら囮はいらないか? AAMに切り替えロック、赤く切り替わった瞬間に発射コードと共にボタンを叩きこむ。
「アルファ2、フォックス2!」
三連のミサイルが音を立てて焔と煙を吹き上げて射出され高速で動くHWを追尾して直角に近い曲線を描き、レイヴァー機の弾幕と交差する形でHWを挟んで次々に爆裂を巻き起こしてゆく。全弾命中。吹雪機もまたブースト機動で迫ると爆裂の中のHWをサイトに納めている。動きが鈍った瞬間を狙ってP‐115mm高初速滑腔砲で砲撃、勢い良く解き放たれた砲弾がHWに直撃して爆裂を巻き起こす。さらにイーリス機が詰めて追撃の螺旋誘導弾を撃ち放ち爆裂を巻き起こしてゆく。吹雪は火器を90mm連装機関砲に切り替えると猛烈な勢いで四百発の砲弾を叩き込んだ。
「連携を崩せば被る被害も減るはずです」
篠崎機、敵は照準を合わせ続けている。射撃中の敵機へとガンサイトを合わせ、それを妨害するように射撃。ライフルの砲身から錐揉み回転する弾丸が飛び出し、空を切り裂いてHWへと伸びてゆく。HWは赤輝き直角に機動、弾丸、かわした。篠崎、高速で機動するHWへと照準を追わせつつ、すかさずリロードし連射。一発の弾丸がHWの装甲を直撃し穴を穿つ。敵の精度は乱れている筈だ。集中攻撃を受けている流星皇は光の嵐を掻い潜ってHWの攻撃を全弾回避。
「さて、【隼鷹】の初陣となるこの戦闘。無様な真似を曝す訳にはいきませんね」
F‐196に搭乗する榊、飯島機へと射撃しているHWの後背目がけて突っ込む。フォーミュラAを発動、うち一機へとSRD‐02で銃弾を撃ち放つ。未来位置を予測して放たれた弾丸がHWへと突き刺さり榊はさらに螺旋弾頭ミサイルを連射する。HWが重力を無視して上昇し、炎を共に煙を噴出して飛んだ誘導弾がほぼ直角に切り返して追尾しその装甲へと喰らいついた。二連の爆裂。装甲を削り飛ばしてゆく。他班の合流を待つよりも二機で叩き落とそうかという姿勢。
(「‥‥勝負事は護りに入った時点で不利を抱えますからね」)
そんな考えである。攻め気だ。
吹雪機は対バグアロックオンキャンセラーを発動、重力波が激しく掻き乱されてゆく。三機からの猛攻を受けるエリアノーラ機、PRMSを全開に継続して爆裂する光に呑まれつつも防御しつつスラスターライフルで弾丸を撃ち返す。反撃の弾幕がHWへと突き刺さり、レイヴァー、イーリス、仮染、吹雪の四機が集中攻撃して一機を爆砕して叩き落とす。
「二番へ!」
レイヴァーは標的を2番に割り振ったHWへと移すとまたバルカンで猛射し、それに合わせて仮染が高速AAMとAAEMを撃ち放ち、吹雪がブースト機動から滑空砲弾と弾幕を叩きこみ、イーリスがAFAから螺旋誘導弾を二連射して爆裂を巻き起こしてゆく。
他方、二機から集中攻撃を受ける飯島機、一方へとブーストで突っ込み光を突き破って抜ける。ジェット噴射ノズルを操作して強引に機首を切り返しエニセイ対空砲をリロードしつつ七連射。砲弾の嵐がHWを貫いてゆく。榊機、AFAから二連の螺旋誘導弾とUKAAEMを撃ち放つ。直撃。爆裂と共にHWが四散し虚空に散ってゆく。撃墜。
篠崎、白鐘を攻撃する三機のHWのうち一機へとライフル弾と誘導弾を飛ばして攻撃を妨害する。白鐘機は光線の嵐を鮮やかにかわすと篠崎機からの誘導弾を受けてHWの一機が爆裂に呑まれた瞬間に切り返しレーザーカノンから十八連の光線を飛ばし、スラスターライフルから三十発の弾丸を発射してHWを蜂の巣にして叩き落とす。
エリアノーラ機、飯島機、白鐘機、三機ともにコクピットへのラッキーヒットでも貰わなければ落ちる気はしない。
A班の一機がまた五機から集中攻撃を受けて叩き落とされ、B班の最後の一機も飯島機と榊機によって爆砕され、C班の一機も反撃する白鐘機と篠崎機によって装甲を削り飛ばされてゆく。六機からの集中攻撃を受けてA班の最後の一機も粉砕され、白鐘機と篠崎機によってC班の二機目も撃墜された。
「これで最後にしよう。喰らえ!」
HWの最後の一機は九機のKVから集中攻撃を受けた所へ白鐘機の剣翼を受けて真っ二つにされ、次の瞬間、超爆発を巻き起こしてアジアの東の空に散ったのだった。
かくて増援として送り込まれたバグア軍の空戦隊は九人の傭兵の活躍により完膚なきまでに叩き潰された。親バグア兵達にとってこの圧倒的な敗北の光景はその心に暗澹たる気持ちをもたらす事となった。
地上に部隊は航空支援により優位に展開、各所で敵部隊を撃破して順調に進撃、やがて石家庄空軍基地の制圧に成功する。包囲の末に生門たる石家庄市そのものも陥落させ、十年十一月これをついに制圧したのだった。
北京を囲む環状包囲網のうちの一角、生門はここに陥落し、同地は地球人類側の手についに奪還された。
地上ではUPCの兵士達があげる歓声が割れんばかりに響いていたという。
了