タイトル:【ODNK】決戦マスター:望月誠司

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 50 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/23 19:29

●オープニング本文


 九州の山岳。生い茂る木々の陰。
「ボイナが死んだか」
 金髪の青年が呟いた。
「どうするよ、大将? 一応、義理は果たした。回収出来る技術も回収した。もうここに用は無いぜ」
 っていうかボイナの馬鹿野郎、頑張りすぎだろなどと悪態をつきつつ赤髪の男が言う。
 青年は珍しく無表情でアナンタを見ると。
「貴様‥‥‥‥この俺に退けというのか?」
「一緒に地下行ってたならともかく、俺達は外出ちまってる。燃料はなんとか確保できたケド、迷彩もねぇボロボロの二機だけで、あの包囲網の外周に攻撃仕掛けてもどうにもならんぜ」
 その言葉にルウェリン・アプ・ハウェルは沈黙した。
「退くんで良いナ?」
「――待て、まだ早い」
 手負いの竜は言う。
「西はどうなってる?」
「一〇〇機全て滅んだと」
「違う。二番手だ」
「さぁ、音沙汰ねぇな。出撃は見合わせたんじゃねぇ?」
「奴等があの狂人へと援軍を送るなら、俺達は退くべきではない。これに呼応して迫るべきだ」
「‥‥マジデ、まだやるってか?! 俺達は戦果は十分出してるだろ! UPCのエースもULTのエースもまとめて、こっち六機で七十六機ふっとばしてるんだぜ?!」
 働き過ぎだ、とアナンタは言う。
「こんだけやったのに負けんならそりゃ大分の連中が悪い。つーか、そもそも、援軍が来るかどうかすら解らんと思うんですガ」
「責任の所在だと? そんなものは評定の場でやれば良く、援軍が来ずにこのまま陥落するならその時にこそ黙って退けば良い。だがもし援軍が来たら? その時に俺達がいれば? 戦局をひっくり返す機会も、敵の大将の首を取る機会も、巡って来るのではないかな?」
「頑張り過ぎだって大将。んな頑張っても俺達獅子座派にはトクないぜ? 言っちゃなんだけど、所詮ここじゃ俺達外様よ?」
「得はあるとも」
「へぇ」
「厄介な連中は、殺せる時に、殺しておくものだ」
 獅子座は言う。
「敵の喉元に突き刺す刃は研いでおいて損は無い。援軍が来たら呼応して刺すぞ。善戦しようが奮闘しようが全体が負ければ意味が無い。逆転せねばならん。好機が訪れたら、決してそれを逃がすな」
 その言葉にアナンタは嘆息すると「了解」と答えたのだった。


 大分県を巡る天王山の戦い。
 陸上のKV大隊は全滅したが、空の大隊は勝利を収め、陸上隊との交戦で夥しい損害を発生させていたルウェリン・アプ・ハウェルはその圧力に押されるように撤退した。
 KVが獅子座に集中した事により生じた穴は歩兵の傭兵達がよく塞ぎ、敵軍を蹴散らして旅団は国東市を陥落させ、山岳部の要塞の地上部分を制圧させた。
 しかし大分バグア軍の司令ヴァイナモイネンは要塞部の地下に立て籠り、未だ反抗を諦めていなかった。
「最後の足掻きだな」
 山の要塞。そのホールまで赴いた旅団長村上顕家はそう呟いた。
「地下部分は堅牢な上に敵も死にものぐるいです。頑強な反撃にあい、攻めあぐねています」
 大尉の不破真治が言った。
「我々は現在敵を押し込めていますが、北九州の他の戦線は劣勢です」
 同じく大尉のハラザーフ・ホスローが言った。
「時間を稼がれると他より敵の援軍がこちらへと繰り出されるは火を見るより明らかですな。内外より挟撃されては、状況をひっくり返されかねません。敵の援軍がこちらへ来るよりも早く、この要塞を完全に陥落させ、ヴァイナモイネンを討たねばならんでしょう」
「素早く陥とさなければなりませんが、無理に地下へ突入かけると被害は多大なものになると見込まれます」
 と不破。
「どっか一方敵に退路を開けられりゃ良いんだがな。状況がそれを許さんか」
 舌打ちして村上が呟く。敵は厄介な技術力を持つ博士だ。逃がす訳にはいかない。
「傭兵隊をかき集めろ」
 大佐は言った。
「突入だ。道が詰まらない程度に兵力を投入する。ここまで来たら小細工は仕掛けようがねぇし時間もねぇ。正面突撃は下作だが、ここは巧遅より拙速だ。押すぞ」
「地獄の道になりそうですな‥‥先頭は傭兵なので?」
「俺は反対です。最も危険な箇所には、我々が立つべきです」
 不破真治が言った。
 村上は死んだ魚のような黒眼を向けると、
「奴等が最も破壊力があり、最も頑強で、最も死ににくい。なら、これを先頭に立てて突っ込ませるのに何の問題がある?」
「なら、俺が突入隊を率いましょう。傭兵で構成するにしても、これだけの規模になれば率いる隊長は必要な筈です」
「良いだろう。不破の傭兵隊が先頭、後詰をハラザーフの能力者正規隊。両隊の後に一応、非能力者の兵も備えさせるが、そこまで回って来た段階で勝ち目が薄そうだと判断された場合、撤退する。事実上、お前等が最大最強最後の一撃だ。敗れたら後は無い。行け」
 士官達は頷き、選抜された突入隊が編成されるのだった。


 日田のバグア軍基地。
「出撃準備はまだ整わんのか、国東は長くはもたんぞ! 何故こんなに時間がかかっている?!」
 剃髪の巨漢が吼えた。
「そ、それが、その、燃料貯蔵庫に穴があけられていたとかで‥‥至急他より運ばせている所です」
「‥‥ナニィ?!」
「恐らく、敵側の工作かと‥‥」
「警備は何をやっておったか! くそっ、忌々しい! あとどれくらいかかる?!」
「全隊完了まで、およそ十分程です」
「今すぐ動かせる数は?」
「指揮官機を中心に十機程、しかし、個別に出しては‥‥」
「解っている、補給を急がせろ!」
「はっ!」


「ヒヒヒヒ、ヒヒヒヒ、ヒャッハハハハハハ!!」
 国東市の地下深く、物言わぬサイボーグの群れの中、白衣に身を包んだ白髪の男が笑い声をあげていた。
「殺してやる、殺してやるぞ、地球人類ども! 全てを、我輩が、薙ぎ払ってやる! いくぞぉ! イルマリネン! アハティィィイイイ!!!!」
 男の言葉に応えるように側に立つ大小の影がゆらりと揺れた。


「新田、日田の基地に動きがある。今、動かせるKV隊の戦力はどれだけだ?」
 別府基地を預かる初老の准将、日向冬至がKV戦隊の長に問いかけた。
「こちらの師団のものは、前回無事だったものと修理が間に合った物を合わせて十機です。国東の村上旅団の方には十五機残存、うち十機をこちらへ回すとの事です」
 昏い目をした壮年の男が答える。大佐の新田貞治だ。
「参謀、ULTからは?」
「依頼を出しているそうですが、定員が集まるにはもうしばらくかかるそうです」
 黒髭の男がそう答える。
「新田、日田が動いたらもちこたえられるか?」
「難しいですが、日田だけでしたら、なんとか」
「獅子座の足取りは?」
「捕捉出来ておりません」
 参謀が答えた。
 沈黙が司令部に降りた。ややたってから准将が口を開く。
「最後まで、博打か」
 最後に立っているのは地球人類か、バグアか。
 運命というものがあるならば、その名を冠したダイスが音を立てて回っているようだった。

●参加者一覧

/ 緑川 安則(ga0157) / 白鐘剣一郎(ga0184) / 榊 兵衛(ga0388) / 鳴神 伊織(ga0421) / 如月・由梨(ga1805) / 叢雲(ga2494) / 終夜・無月(ga3084) / ベーオウルフ(ga3640) / アッシュ・リーゲン(ga3804) / 藤村 瑠亥(ga3862) / UNKNOWN(ga4276) / リン=アスターナ(ga4615) / 荒巻 美琴(ga4863) / 水無月 魔諭邏(ga4928) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 玖堂 鷹秀(ga5346) / 月神陽子(ga5549) / 井出 一真(ga6977) / 玖堂 暁恒(ga6985) / 周防 誠(ga7131) / 砕牙 九郎(ga7366) / サヴィーネ=シュルツ(ga7445) / 植松・カルマ(ga8288) / レティ・クリムゾン(ga8679) / リュドレイク(ga8720) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 鹿嶋 悠(gb1333) / 霧島 和哉(gb1893) / 赤崎羽矢子(gb2140) / シン・ブラウ・シュッツ(gb2155) / 八葉 白雪(gb2228) / ロレンタ(gb3412) / 堺・清四郎(gb3564) / アレックス(gb3735) / 鹿島 綾(gb4549) / 番場論子(gb4628) / ハミル・ジャウザール(gb4773) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / 月城 紗夜(gb6417) / 杠葉 凛生(gb6638) / 相澤 真夜(gb8203) / ゼンラー(gb8572) / 夢守 ルキア(gb9436) / 湊 獅子鷹(gc0233) / ソウマ(gc0505) / ジャック・ジェリア(gc0672) / イレイズ・バークライド(gc4038) / エメルト・ヴェンツェル(gc4185) / 弓削 一徳(gc4617

●リプレイ本文

「敵は地下で篭城の構えか。時間を延ばせば挟撃を食らいかねないし、かといって無謀に突っ込めば被害ばっかり増えると‥‥」
 集合しつつ現在の状況をまとめてジャック・ジェリア(gc0672)が呟いた。
「早期撃破しないと絶対増援部隊がくるな」
 それに緑川 安則(ga0157)が言う。
「獅子座も来るのでしょうか‥‥」
 如月・由梨(ga1805)が言った。
「陛下は、多分、まだ、近くに‥‥此処を、取れ、ないと‥‥きっと、来る」
 ルノア・アラバスター(gb5133)が言った。あの男ならこの状況でもひっくり返す事を狙ってる、根拠は無いがそんな気がする。
「ありえそうですね‥‥近くに居いても、奴の首を狙えないのが残念です」
 と鹿嶋 悠(gb1333)。
「獅子座か‥‥懸念すべき事柄は幾つもあるからな‥‥地下をさっさと殲滅出来ればいいが‥‥」
 イレイズ・バークライド(gc4038)が思案顔で呟く。
「援軍の期待できる篭城戦は強いからな」
 とジャック。なかなか苦戦が予想される所であった。


「兜ヶ崎の撤退から二年半‥‥ここ数ヶ月は綱渡りの戦いばかりしていたような気がするけど‥‥ようやく追い詰めたわよバグアども」
 リン=アスターナ(ga4615)が言った。思えば、あの頃は後退に次ぐ後退だった。やっとここまで巻き返した。
「遂にここまで来ましたね‥‥」
 鳴神 伊織(ga0421)が言った。あの日、兜ヶ崎の村を捨てた時に、いつかの奪還を掲げつつも、本気でそれを信じていた者はどれだけいただろう? 解らない。だが、それを為そうとそれを信じた者達は確かに居て、今日まで長い戦いを続けて、ここまで来たのだ。
「この決戦に勝利して、奴らの手からこの地を奪還してやるわ!」
 リンが言った。今日のこの日は、負ける訳にはいかない。
「遂に辿り着いたか、敵の天守へ‥‥永い付き合いだったが、それも此処で終わりだ」
 玖堂 暁恒(ga6985)は何時も通りに髪を鉢巻で束ねつつ呟いた。北九州攻防線からの因縁だが、こちらも長い。何時もと同じだが、何時もとは少し違う。密かに、珍しく気合が入っている。
「随分な鉄火場のようですね‥‥」
 玖堂 鷹秀(ga5346)が言った。久々に兄と一緒に依頼へ出てみればこの状況である。まぁ、偶には危険に身を晒すのも悪くはない、と思う。
(「――近頃は全力を出す様な事もありませんでしたし、ね」)
 白衣を羽織った男はきらりとメガネを妖しく光らせた。
「いよいよ決着ですか‥‥」
 そんな中、リュドレイク(ga8720)が言った。大分の戦場に来るのはもう何度目になるだろう。その度に苦戦があったものだ。
「またとんでもない物持ち出してそうな予感がしますが‥‥とはいえ倒してしまえば、ここまでぶっ飛んだ連中ともお別れですからね。頑張りましょう!」
「応!」
 その言葉に周囲の傭兵達が頷く。
「不破大尉」
 白鐘剣一郎(ga0184)が軍の士官に声をかけた。
「突入は元より我々も納得して受けた任務だ。だがその我々をより有効に動かすのはこの場で大尉を置いて他にない。上手く使ってくれ。頼む」
 不破真治は白鐘を見ると、
「全力を尽くそう」
 そう頷いた。
「不破大尉、号令を。これが、大分へ平和をもたらすための最後の戦いです!!」
 月神陽子(ga5549)が不破へとそう言った。
「お願いするわ大尉。騎虎の勢いって奴で、一気に呑み込んでやろうじゃないの‥‥!」
 リンもまた不破へとそう言った。
「解った」
 不破は月神とリンの言葉に答えると、傭兵達の前に進み出て言った。
「俺が隊長の不破真治だ。突入隊に志願してくれた勇者達に感謝する。聞いての通り状況は困難だ。だが、俺達の手にこの国の未来がかかっている。勝たねばならない。そして俺は俺と貴方達ならばそれが可能だと信じている。これまでに多くの人間が解放を夢見ながらもその途上で倒れていった。傭兵に言うべき言葉ではない、と何処かで思う。だが貴方達には言おう。俺が倒れても、誰が倒れても、顧みずに屍を踏み越えて敵を撃破しろ。俺達の手で、この地をバグアの支配下より取り戻すんだッ!!」
「大分での戦闘に終止符を打つ為にもここで決着を付ける! 榊兵衛、微力ながらも最善を尽くそう!」
 榊 兵衛(ga0388)は槍を手にそう応えた。
「俺達は‥‥必ず、勝つ!」
 アレックス(gb3735)が言った。
「ここまで追い詰めたんです。この機を逃す愚は犯したくないですね」
 と叢雲(ga2494)。
「敵はかなり厄介ようですが‥‥不思議と負ける気はしないんですよね」
 不敵に笑って言うのはソウマ(gc0505)だ。そのキョウ運は今回は強と出るか凶と出るか。
「怯んだ方が負ける! 前進あるのみだッ!!」
 と言うのは堺・清四郎(gb3564)。
「この間ヘマを帳消しに、とは言わねーが、一発入れられたウサ晴らしはしとかないとな、精神衛生上ヨロシクない」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)は小銃を担いでそう牙を剥く。
(「一度目は押し負け‥‥二度目は壊され‥‥散々だな。然し、まだ終れない‥‥まだ、抗える‥‥教えてやろうじゃないか、人のしぶとさを!」)
 流叶・デュノフガリオ(gb6275)もまた静かに闘志を燃やしている。
「――現刻より状況を開始する。いくぞッ!!」
 かくて、号令がくだされ総勢五〇名の傭兵隊が要塞の地下へと突入を開始したのだった。


(「地下に立てこもったり、何が彼等をそうさせるんだろうね」)
 夢守 ルキア(gb9436)は思った。
(「エースパイロットだったり、科学者だったり。結局ソンザイには変わりない」)
 要塞地下の坂、これを降った先に敵が待ち構えている。五十を数える突入隊員が通路にひしめき場には張り詰めた緊張が満ちていた。
「ソンザイは全て好き、敵もその他も、ダレカのユイイツ。でも、それは非ソンザイに変わる」
 だから向き合う、戦う為に。
 月神が言って不破が再び令を発し、ルキア、流叶、荒巻 美琴(ga4863)は傭兵隊の隊列を整える。
「こりゃあ壮観だねえ」
 湊 獅子鷹(gc0233)が言った。
 最前列に並ぶのは、左から白鐘、月城 紗夜(gb6417)、鳴神、月神、リュドレイク、悠、霧島、堺、アレックス、鹿島 綾(gb4549)の十名。
 中列、横隊の前に一人ゼンラー(gb8572)、横隊に並ぶのは左から緑川、ベーオウルフ(ga3640)、井出 一真(ga6977)、番場論子(gb4628)、ルノア・アラバスター(gb5133)、不破、榊、如月、叢雲、終夜・無月(ga3084)、横のスペースが無いので二列目にいってアッシュ、リン=アスターナ(ga4615)、荒巻、水無月 魔諭邏(ga4928)、クラーク・エアハルト(ga4961)、暁恒、周防 誠(ga7131)、砕牙 九郎(ga7366)、植松・カルマ(ga8288)、レティ・クリムゾン(ga8679)、三列目にユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)、赤崎羽矢子(gb2140)、杠葉 凛生(gb6638)、相澤 真夜(gb8203)、湊、ジャック、イレイズ、エメルト・ヴェンツェル(gc4185)、軍兵Aの三十名。
 中列三段の後ろに、UNKNOWN(ga4276)、鷹秀、サヴィーネ=シュルツ(ga7445)、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)、八葉 白雪(gb2228)、ロレンタ(gb3412)、ハミル・ジャウザール(gb4773)、流叶、ルキア、ソウマ、弓削 一徳(gc4617)の十一名が続く。
 幾つが残って、幾つが消えるか。弱い火は消し飛ぶ。
(「機関銃相手に突っ込む日本兵の気持ちが理解できるな‥‥」)
 最前列に並んだ堺が太刀を手に胸中で呟く。見下ろす坂の下が、生と死の境界線。生きて踏み越えられるか。
「‥‥皆、覚悟は良いな? 突入開始ッ!!」
 不破が吼え、傭兵達が猛然と走り出し坂を駆けおりてゆく。
 最前列の十名がホールに飛び込む、瞬間、猛烈な射撃が正面と左から襲い来た。中央に多腕の巨人が立ち、その左右にサイボーグキメラが二十四体銃を構えて並びフルオートで猛射し、ホールの壁側左端に十二体のサイボーグキメラが並び、やはり突撃銃で猛弾幕を解き放つ。巨人が四つの腕の先の黒点と顔面の穴に青炎を燃やしながら青い極大の光閃を爆音と共に連射し、その奥に白衣を纏った博士が双剣を手に構え横に並ぶ同じく白衣を纏った少年が突撃銃を構えて猛射する。叢雲は十字架銃をアハティへと向けバースト、その射撃を阻害するように猛射する。七百二十発のライフル弾と百発の銃弾と三十五本の光が空間を飛び交う。
 悠が小太刀を交差せて防御姿勢を取りつつも、七十数発のライフル弾の嵐に蜂の巣にされ、血飛沫を撒き散らし五連の極大青光波に呑まれた。その位置は撃たれる。吹っ飛んだ。負傷率十九割八分。体中穴だらけになり黒焦げになった男の身が床に叩きつけられる。
 鳴神、月神、リュドレイク、霧島へもそれぞれ七十を数えるライフル弾の嵐とアハティの五連光波が飛ぶが各々盾を翳し防御。負傷率、鳴神一割四分、月神三割五分、リュドレイク十割六分、霧島一割八分。かなりの強靭さとタフさを誇るリュドレイクが自身障壁を展開し光を盾で防ぎつつも、それでも横と斜めから盾を縫って入って来る弾丸に蜂の巣にされて血飛沫を噴出しながら倒れる。凄まじい射撃だ。鳴神、月神、霧島の三名は盾を翳して光と弾幕を突き破り装甲で間を縫って来る銃弾に耐え進撃する。ここまで来ると強靭ではなく化物である。
 白鐘、月城、堺、アレックス、綾へはアハティの光は飛ばなかったが、七十のライフル弾が同様に襲いかかっている。白鐘、イルマリネンからの連射も来て負傷率二割四分、こちらも化物。月城八割三分。血飛沫が吹き上がる。
「くそったれどもが!! まだまだぁ!」
 堺、咆哮をあげつつ太刀を手に弾雨の中を進む。凄まじく強靭。弾丸を悉く装甲で弾き飛ばして負傷一割四分。アレックス、霧島の陰に入って正面を防いでいるがサイドから横殴り弾雨を受けて負傷五割八分。綾、装甲に物を言わせて弾雨の中を突き進む、負傷二割六分、非常に頑強だ。
 最前列がそれぞれの標的へと突き進み、後続が次々にホールへと雪崩れ込んでゆく。
「怯むな! 落ちついて作戦通りに展開するんだッ!!」
 ユーリがホールまで突入すると防御陣形を発動させ声を飛ばした。五十一名の兵が打ち合わせ通りに展開してゆく。
「予言するよ、きみ達は此処で負ける!」
 ルキアが練成強化を、手数の多い順、UNKNOWN、白鐘、鳴神、赤崎、榊へと発動させつつ敵方へと向かって大音量で叫ぶ。弾丸の轟音と光線の爆音の中でも少女の声は良く通った。
 ロレンタ、弾丸が飛び交う中、身を低くしつつオルゴール型超機械をかざして練成治療を悠へと三連打。鷹秀もまた悠へと練成治療を五連打する。黒焦げになり穴だらけになっていた肉体がみるみるうちに再生し、負傷六割八分まで回復。悠は目を開いて跳ね起きサイボーグへと向かう。練成治療は偉大だ。
「ふむん!! 怪獣大決戦、といった感じだねぃ‥‥?」
 目に赤光を宿したゼンラーは杖を翳し魂の共有を発動させつつさらにリュドレイクへと練成治療を五連打、悠へと三連打する。血河の中からリュドレイクが立ち上がり弓を取り出す。流叶もまた雷光鞭をかざしつつ練成治療を発動させ月城へと四連打、みるみるうちにその傷を癒してゆく。
「実は後方支援に憧れてたのよね」
 真白はそんな事を呟きつつ超機械を掲げ叢雲、終夜、周防、カルマ、アレックスへと練成強化を飛ばす。
 五十一名の突入隊員のうちそれ以外の、飛び道具を持ち射線を通している者が射撃を開始し、格闘武器を持つ者がそれぞれの標的へと突っ込んでゆく。
「まあ――素早く済まそう。重体者を出さずに」
 隠密潜行、探査の目、GLを発動させているUNKNOWN、坂道に構えている。ヴァイナモイネンを狙いたいがアハティが塞いでいる。坂で屈射に構えて高さと安定を稼ぎつつ猛連射。十連の壮絶な爆光が巨人へと突き刺さりその皮膚を爆ぜさせてゆく。
「エキスパートになったからってやること変わりませんね‥‥支援、始めますよ!」
 同じく周防、坂の途中でスナイパーライフルを屈射の構え。アハティ右の比較的長身の敵の上半身を狙って発砲、連射。貫通弾が錐揉みながら飛び次々に突き刺さってゆく。
「まずは、厄介そうなデカブツからだな‥‥」
 暁恒、疾風脚と高速機動を発動、アハティの顔面へと銃口を向け四連射。弾丸が空を割いて飛び次々に突き刺さってゆく。
 カルマ、ゼンラーから魂の共有の支援を受けつつ両断剣・絶を発動、
(「こいつは外したくねぇ、ど真ん中だ!」)
 真白から練成強化を受けた170cmの大弓に矢を番え裂帛の呼気と共に三連射。剣の紋章と共に輝く矢が音速を超えて飛び巨人の胴へと次々に突き刺さってゆく。表面が爆砕した。大穴が生じ鮮血が滝のように吹き出してゆく。想像を絶する破壊力。
「化け物め、さっさとくたばっちまいな」
 弓削は狙撃眼を発動、アハティへと狙いを定めるとライフルを構えて連射してゆく。飛来する弾丸に対しアハティが腕をかざし次々に命中して衝撃を与えてゆく。砕牙もまたアハティへとリボルバーで轟音と共に貫通弾を連射、菫の刃を手に突っ込んでゆく。
 さらに鳴神、月神、不破、アレックス、綾の五名がアハティへと突撃し、緑川、ベーオウルフ、荒巻、水無月、リュドレイク、悠、エメルトの七名が巨人の左に展開している十二体のサイボーグへと攻撃を仕掛ける。巨人の右に展開する同じく十二体のサイボーグへと如月、アッシュ、サヴィーネ、堺、ハミル、イレイズ、相澤の七名が向かい、ホールの左端に縦に展開している十二体のサイボーグへと白鐘、リン、クラーク、井出、赤崎、番場、月城、ルノア、杠葉、ソウマ、ジャックの十一名が攻撃を開始する。
「一気に押し込めろ!」
 レティは中央で全体を把握しつつ声を飛ばしつつ支援射撃。アハティなら狙えるか? 十mの巨人の上半身へと向けてクリムゾンローズで轟く銃声と共に貫通弾を猛射する。巨人の白身に赤い華が咲いてゆく。
 湊は駆けつつ端のサイボーグを狙ってショットガン猛射し散弾を撃ち放ってゆく。十二発の散弾のうち三発命中、キメラのボディスーツを穿つ。
「‥‥頑張って倒したんですけれどね。劣化版とはいえこうも簡単にコピーされてしまうと‥‥」
 シン・ブラウ・シュッツは風神のなれの果てのサイボーグ・キメラを見据えて呟いた。
(「ちょっとハラワタ煮えくりかえりますよね?」)
 表情に変わりはないが、眼に静かな怒りが宿っている。
 相澤は瞬天速で壁へと走る。垂直のそれを駆け昇るのはちょっと難しいので三角飛びで斜め上へと飛び、空中で身を回転させて大弓に矢を番える。
「頭の上がお留守ですよ!」
 言葉と共に矢を撃ち降ろす。意表は突いたが、弓矢を撃つには態勢がちょっと厳し過ぎる。狙点がブレている。飛んだ矢をキメラは身を捻って回避。瞬間にシンが合わせて光線を叩きこみ爆裂を巻き起こしてゆく。
(「あの時も‥‥思った、けど。つくづく‥‥戦士じゃない‥‥よね」)
 霧島は胸中で呟いていた。
(「最後の足掻き、とか。起死回生の一手、とか」)
 終わるその瞬間まで。どれ程絶望的な状況でも諦めないその姿勢に酷く気持ちを揺さぶられる。それはきっと絶望を滅ぼす盾を自称し目指す霧島にとって、理想とも言える姿勢だからだと。
「後で絶対請求してやるか。買い占めた分の弾頭矢だ。報酬には上乗せしてもらうぞ」
 緑川、そんな事を呟きつつ狙撃眼と強弾撃を発動、アルファルへと矢を番え正面左のサイボーグキメラへと矢を連射している。三発射って二発命中、爆裂を巻き起こす。
「一先ず、頭を抑えるとしますか」
 クラーク、制圧射撃を発動、エミタサポートの力を借りつつホール左端に展開するキメラへとケルベロス拳銃で猛射を加えてゆく。ジャックもまたブリッドストームを発動、左端に展開する十二体のキメラへと向けて貫通弾を装填したガトリングガンを向ける。練力を全開にフルバースト、六百発の銃弾の嵐がサイボーグ達に次々に襲いかかり、血飛沫と火花を巻き起こしてゆく。クラークは、制圧射撃の十八発を叩きこむと素早くリロードし強弾撃と影撃ちを発動、九発の弾丸をサイボーグへと叩き込み血飛沫を噴出させる。またクラーク、事前に火力の集中を要請している。ルノアもまたクラーク、ジャックに合わせてサイボーグへとケルベロス拳銃で狙いを定めて連射し、杠葉もまたターゲットを合わせて初手から火力を全開に急所突き、二連射、影撃ちを発動、貫通弾を装填した二丁の拳銃で十六発の弾丸を打ち放っている。ジャック、クラーク、ルノア、杠葉からの銃撃を受けたサイボーグキメラは全身から鮮血を噴出してよろめき、弾幕が収まった所へすかさずルノアが瞬天速を発動させて飛び込み、巨大な光剣を出現させて斬り倒した。撃破。
 アッシュ、周囲を飛び交う弾丸を気にも止めずに足を止め、正面右、射線の通っているサイボーグへと狙いを定める。アサルトライフルの銃床を肩につけ、精神を極度まで集中させて構え、発砲。サイボーグを囲むように牽制射撃する。
 隠密潜行しているサヴィーネ、それへと狙いを合わせるとアンチシペイターライフルを構え抑えこむように猛射し、弾丸を次々に直撃させてゆく。
「さぁ、突撃(シュトゥルム)しろアレックス!」
 轟音の中、聞こえているかどうかは解らなかったが、それに応えるように声が響いた。
『ランス「エクスプロード」、オーバー・イグニッションッ!!』
 爆音と共にミカエルを纏ったドラグーンが脚部からスパークを発生させ、竜の紋章を猛火の色に輝かせ、槍を構えて猛加速し、一気にアハティへと突っ込んでゆく。次の瞬間、空間を揺るがす七連の超爆発が巻き起こった。槍が繰り出されるごとに爆裂が巻き起こり、巨人の身が猛烈な勢いで削り飛ばされてゆく。
「どこかで見た事があると思えば‥‥兜ヶ崎の時に会いましたか」
 同じくアハティへ向かう鳴神が言った。巨人へと肉薄してその右足へと黒刃を振るい、壮絶な破壊力を炸裂させて鮮血を噴出させる。さらに月神が右腕を、不破が左足を狙って太刀を叩き込んで切り刻んでゆく。
「障害は、実力を以って排除する!」
 綾が入って天槍「ガブリエル」を振るいアハティの左足を叩き斬った。凶悪な破壊力が炸裂し血飛沫が舞い散る。砕牙が走り込んで来て菫色の刃を叩き込んだ。
「ダラダラ戦ってる余裕は無いな」
 ベーオウルフ、瞬天速でサイボーグへと踏み込み屠龍剣を一閃させた。大剣が命中してサイボーグの身から火花が散る。連撃。銃と剣が二度激突し、一撃が身に入る。
 少し遅れて入った荒巻は瞬天速で加速し正面左のサイボーグへと爪を振るう。サイボーグが掲げた銃と爪が激突して鈍い音を立てた。左右の爪で四連撃。三発止められて一発入った。敵も雑魚じゃない。
「水無月魔諭邏、参ります!!」
 壁際のサイボーグへと向かって走り、女は腕を狙ってイアリスで流し斬りを放つ。一撃がサイボーグの腕を掠め斬り血飛沫を飛ばす。返す刀で連撃。剣と銃身が三度ぶつかって火花を散らした。
 エメルト、射撃に注意を払いつつサイボーグキメラへと接近。その銃を叩き落とす事を狙って大剣を振り降ろす。サイボーグは刃の側面を払うように受け流した。身を切り返して腕狙って薙ぎ払いから袈裟斬りに繋ぐ二連斬。風を巻き起こして迫る大剣をサイボーグは素早く後退してかわしてかわす。速い。
 リュドレイク、射線の通っている正面左端のサイボーグを狙って弾頭矢を二連射。一発かわされ一発命中。激しい爆裂を巻き起こす。
 榊は迅雷を発動させると正面右のサイボーグへと宙に残光を引きながら突っ込む。一瞬で間合いを詰めると刹那と二段撃を発動、眼にも止まらぬ速度で振り上げから振り降ろしの二段槍撃を繰り出す。目にも止まらぬ速度で繰り出された連撃がキメラを切り裂いて血飛沫を噴出させる。榊はさらに六連撃を繰り出し、キメラは二発を打ち払うも四連の槍撃を受けて被害を増してゆく。
「うおらああああ!!!」
 堺が強刃を発動させ音速波を撃ち放った。唸りをあげて飛んだ衝撃波が右面のサイボーグキメラへと直撃して猛烈な破壊力を撒き散らす。衝撃波を追いかけるように突進した堺は最上段に太刀を振りかぶり全霊を込めて振り降ろした。落雷の如くに振り降ろされた刃がサイボーグキメラを叩き斬って抜け、盛大に血飛沫を噴出させる。
 同じく右面のサイボーグキメラの一体へとハミルが刹那を発動させながら飛び込んだ。蒼のクロックギアソードを振り上げ雷光の如くに袈裟に振り降ろす。キメラが防御に掲げた銃と刃が激突する。瞬間、イレイズがサイドから流し斬りで踏み込み、如月が逆サイドから竜斬斧を振り上げて踏み込み、ハミルはすぐさま飛び退いた。サイドを取ったイレイズが蛍火に灼熱の輝きを巻き起こしながら振り降ろし、如月が長柄斧を振り降ろす。太刀と斧刃が炸裂し、血飛沫と共に猛烈な衝撃が巻き起こった。体が崩れた所へハミルが再び踏み込んで蒼剣を振るってサイボーグを切り裂き、イレイズはさらにサイボーグの背後へと回ると脚甲で膝裏を蹴り抜き、如月が横殴りに斧刃を叩きつけてサイボーグを吹き飛ばした。床に転がったサイボーグへと三人は太刀と斧を振り降ろして粉砕する。撃破。
 リンは疾風脚を発動、さらに瞬天速で加速すると左面に展開するサイボーグキメラへと突撃する。瞬間移動したが如き速度で間合いに踏み込むと50cm程のナイフで五連撃を仕掛ける。防御に掲げる銃の合間を縫って四発の刃を叩きこみ、一撃が銃と激突して火花を散らす。
「むざむざ側面を衝かせはしない。参る!」
 白鐘もまた太刀と盾を構え動きをよく見据えつつ左面のサイボーグへと突撃。間合いに踏み込むと八条の剣光を嵐の如くに閃かせる。防御に掲げた銃ごと泥のように斬り刻まれたキメラが血飛沫を吹き上げ爆発を巻き起こしながら倒れた。カミソリのような鋭さと従来の常識的な桁を超えてる破壊力。撃破。
「地の底は魔人共の巣窟にてまさに地獄、では魔女として蜥蜴の爪を振るいましょう」
 番場、竜の角を発動。左面へと一気に間合いを詰めると手甲より三本の光爪を出現させサイボーグキメラへと向かって横薙ぎに振り抜く。キメラは素早く後退してその一撃をかわす。追いかけるように一歩踏み込んで上から爪を振り下ろす。サイボーグキメラもまた一歩番場へと踏み込み光爪ではなく鉄甲へと銃身を打ち当てて攻撃を受け止める。井出が練力を全開にダッシュで肉薄し鬼蛍で突き込む。サイボーグキメラは後退しながら銃剣で打ち払う。番場が光爪を一閃させてキメラの胴を切り裂いた。井出もすかさず急所突きと強刃を発動させて連斬を叩きこむ。
「安心して下さい、痛いのは最初だけですよ。すぐに気持ち良く眠れますから」
 GooDLuckを発動させ瞬天速で現れたソウマが冷笑を浮かべながら指揮棒型の超機械振るい、さらに四連の蒼光の電磁嵐をサイボーグキメラへと叩き込んでその身を灼いてゆく。
 月城もまたサイボーグの一体へと向かうと蛍火を振るって五連の剣閃を巻き起こす。鋭い刃がサイボーグの防御を縫って入り、刃が炸裂して鮮血を噴出させる。
「情けは無用‥‥思い切り壊させて貰います」
 ほぼ全快まで回復した悠が走り急所突きを発動、サイボーグキメラの一体へと二刀小太刀で四連の剣閃を巻き起こす。二発が銃剣と激突し二発がサイボーグの身へと叩き込まれて強烈な破壊力を炸裂させる。
 練成強化を受けた赤崎は瞬速縮地を発動させてサイボーグキメラの一体へと斬りかかる。稲妻の如き速さと凶悪な破壊力。細身の剣から繰り出された高速の八連斬がキメラの男を防御する事すら許さず一瞬で斬り刻む。
「あんた達の無念、あたしが引き受ける。だからもう休んでて」
 赤崎はそう呟いた。サイボーグの男は無表情のまま全身から血飛沫を噴出させて倒れた。撃破。赤崎の予想は事実であったが、世の中知らない方が良い事もある。
 終夜は迅雷で混戦の中を突き抜け正面左のサイボーグの男へと稲妻の如くに斬りかかる。巻き起こった七連の剣閃が無表情のサイボーグを切り刻んだ。こちらも壮絶な破壊力。なます斬りにされたサイボーグキメラが銃を取り落として倒れる。撃破。
「ヒャッハァアアアッ!!」
 ヴァイナモイネン、奇声を発しアハティを攻撃しているアレックスへと突撃すると左右の剣で七連の剣閃を巻き起こす。
(「二刀流だと? 『凍火の剣聖』ほどじゃねェが‥‥厄介だなっ」)
 青年は向き直り槍で受け流そうとするが、速く、重く、鋭い。受けられない。高速で振るわれる刃がAU‐KVの装甲を瞬く間に斬り飛ばしアレックス負傷率七割三分。
 ユーリは引き続き防御陣形を発動させて味方に指示を飛ばしている。
 UNKNOWN、狂博士、狙えるか――付近で格闘している味方に当たる。後頭部に当てでもすると味方が一撃KOだ。引き続きアハティへと爆光を猛連射し爆裂を巻き起こしてゆく。
 巨人は光に灼かれつつも虚ろな穴から光剣を噴出させて頭部と四本の腕を振り回さんとする。
「倒し甲斐のあるデカブツだこと‥‥そら、寝てろ!」
 綾は練力を全開にするとボロボロになっているアハティの脚へと素早く天地撃を叩き込んだ。猛烈な衝撃に巨人が足を滑らせ仰向けに転倒してゆく。綾はアハティの頭部へと向かい剣劇を発動させると怒涛の勢いで九連撃を繰り出し始める。
「――狂咲」
 鳴神もまた猛撃と共に剣劇を発動、残像すら残す勢いで怒涛の十六連斬をアハティの急所各部へと流れるように叩き込んでゆく。最早言葉にならない殲滅力。二人の女が踊った後には鮮血の海とかつて巨人であったものの欠片が辺りに飛び散っているだけだった。
「貴ぃ様ぁらぁあああああああッ!!」
 ヴァイナモイネンは三連の剣閃を巻き起こしてアレックスを斬り刻んで血河に沈めると、血走った眼で怒声をあげ、鳴神へと二刀を振り上げ突進してゆく。
「お久しぶりですね。私の顔は憶えておいでで?」
 血濡れた黒刀を一払いして構え直し鳴神。
「こっの疫病神めぇええええッ!! 斬り落としてサイボーグに改造してやるぜよぉおおおおお!!」
 どうやら記憶にあるらしい。口汚く罵声を浴びせながら突っ込んで来る。血走った眼の博士が踏み込み、着物姿の女剣士が迎え撃つ。右の剣が振り上がり、左の剣が薙ぎ払われる。半回転四連斬。閃光が空間を突き抜け、鳴神の身から血飛沫が勢い良く吹き上がってゆく。負傷率三割三分。
 不破が踏み込み軍刀で斬りかかり博士が飛び退いてかわし、月神が鬼蛍で突きかかり博士が太刀で打ち払ってかわす。練成治療を受けたアレックスが再び立ち上がりヴァイナモイネンへと迫り爆槍で流星の如く突きを繰り出し、狂博士は避けて避けて避けて避ける、囲まれぬように小刻みに動きながら七連撃を全てかわし、打ち払ってゆく。
「植松さん、正面左頼む!」
 レティが状況を見ながら銃撃しつつ叫ぶ。
「ウィース!」
 カルマは答えて剣を抜き放って正面左のサイボーグへと突撃し、砕牙、暁恒はコピー・イルマリネンへと向かう。弓削、ヴァイナモイネンを狙いたいが射線が厳しい。混戦になればなるほど飛び道具はきつい。撃てない。
 白鐘は飛びかかって来た三体のサイボーグキメラの総計十五連斬を身をかわし、盾で防ぎながら、猛撃を発動して剣閃を巻き越す。四連斬がサイボーグの一体を叩き斬り、さらに四連撃を叩き込んでもう一体も血河に沈める。
 ベーオウルフがサイボーグからの五連斬を回避しながら大剣を振るって銃剣と火花散らしながら二発を直撃させる。
 荒巻が爪を振るいサイボーグが銃剣を振るい、爪がサイボーグの身を灼き、銃剣五連斬が入って女の身から血飛沫が吹き上がる。負傷率六割一分。
 水無月の剣閃とサイボーグの剣撃が交差し、サイボーグの身から火花が散り、水無月の身から鮮血が散る。負傷率七割五分。
 エメルトもまたサイボーグの銃剣とコンユンクシオを嵐の如くに振るって激しく斬り合う。剣刃が突き抜け負傷率十二割八分、倒れた。
 終夜がサイボーグキメラの銃剣を一発を身に受けつつも四発を大剣で受け流して負傷一分、反撃に明鏡止水を振り上げ稲妻の如くに剣閃を奔らせる。七連斬が炸裂して血飛沫を吹き上げながらまた一体のサイボーグが倒れる。撃破。
 リュドレイク、盾と太刀を構えてサイボーグの一体へと斬りかかる。五連斬。三発の刃がキメラを強打し、二発が銃剣と激突し反撃の五連斬を盾で止めて止めて止めて止めて、
弾き飛ばす。一対一なら打ち負けない。
 フリーの六体のサイボーグキメラのうち二体がレティからの射撃を受けつつもベーオウルフへと入って三体で囲んで銃剣を振るって四発を当てて負傷率五割三分。一体が水無月へといって、銃剣を繰り出して滅多突きにして五発命中、負傷率十五割、水無月が血河に沈んだ。一体が荒巻へと突撃して銃剣の銃底で殴りつけ刃で突き刺し五連撃、負傷率十二割二分、倒れた。
 一体が終夜へといって猛撃を繰り出し、終夜は後退しながら大剣で五発を撃ち落とす。二体がリュドレイクへといって三体で囲んで疾風十連撃。リュドレイクは後退しながら盾で五発を止め、五発に縫われて負傷率七割五分。
 カルマが突撃して来てリュドレイクへと仕掛けている一体へとガラティーンで六連の剣閃を巻き起こした。受けに掲げた銃剣ごと叩き斬り、ズタズタに断たれたサイボーグが血飛沫をぶちまけながら吹っ飛んでゆく。どうみても撃破。半端じゃない。
 緑川、エメルトが斬り合っていた一体へと狙いをつけ弾頭矢を連射。再び爆裂を巻き起こす。湊もまたリロードしつつショットガンを猛射して散弾を叩き込んでゆく。
 正面右。
 堺、太刀を袈裟に振るって瀕死のサイボーグにトドメを刺し斬り捨てる。二体のサイボーグキメラが堺へと同時に飛びかかって銃剣を繰り出し、堺は太刀で六発叩き落とし、四発を身に受ける。銃弾同様装甲で弾き飛ばして負傷率一割八分。
 榊、サイボーグの銃剣が届く前に槍のリーチを活かしてカウンター。目にも止まらぬ速度で七段突きを叩きこみサイボーグを吹き飛ばす。倒れた男は機械部分から爆発を起こして動かなくなった撃破。その間に二体が肉薄して十連撃、槍の柄で五発を捌き、五発が直撃、負傷率六割四分。
 イレイズ、ハミル、如月へもそれぞれ二体づつが仕掛ける。
 イレイズ、反撃の刃を繰り出しつつ、左右からキメラの十連撃を受けて負傷率十三割五分、一気に持ってかれた。倒れた。ハミル、防御には自信が無い。二体を引き付けつつ後退して後衛への射線を解放する。叢雲がすかさず十字架銃で榴弾をそれぞれへ四連射、三連射して爆裂を巻き起こし、アッシュが貫通弾を突撃銃へと装填し強弾撃と影撃ちを発動、爆裂に態勢を崩しているキメラの胴へと二発撃ち込んでさらに衝撃で動きを鈍らせ頭部へと二連射する。ライフル弾がキメラの頭蓋をぶちぬいて粉砕した。ヘッドショット。撃破。
「頼みますよベルゼブブ!」
 相澤、友達からもらった大事な弓だ。自分を守ってくれると信じてる。仲間も守ってくれるかどうか、素早く矢を番え爆炎の中へと二連射。サヴィーネもまたアンチシペイターライフルで爆炎の中の一体へと連射して銃弾を叩き込む。矢と弾丸が炸裂し、キメラが銃剣を振りかざして炎を割いて飛びだし、ハミルが切り返してソードを振るう。キメラの銃剣がハミルの頭部へと炸裂し、ハミルの剣がキメラの首を貫く。捻りながら横に払って吹き飛ばす。キメラが倒れた。撃破。一方のハミル、負傷率八割三分。紙一重。
 周防はイレイズを斬り倒した一匹へと弾丸を叩き込んでいる。
 一方「自身で戦うのは得意でありませんが」と語る如月、二体のサイボーグから猛攻を受けて六発止めて四発直撃、負傷率三割一分。反撃の竜斬斧をキメラへとふるって一発流されるも四発直撃させて破壊を撒き散らす。
 リン、相対するサイボーグの五連斬を全て見切ってかわす。速い。脚部から光を発生させつつ疾風の如くナイフを閃かせてサイボーグを切り裂き、後退しながら左のショットガンで散弾を猛射する。十二発弾丸がキメラの胴へと直撃して鮮血を噴出させ、リンは後退して射線を開く。クラーク、杠葉、ジャックが銃で猛射して蜂の巣にして粉砕する。
 白鐘、二体のサイボーグキメラからの攻撃を後退しながら盾と剣でブロックしつつ猛撃を発動、四連斬を叩き込んで一匹を斬り倒し、もう一匹へも四連斬を叩き込んで瞬殺する。二体撃破。
 赤崎へと二体のサイボーグキメラが斬りかかる。赤崎、残像斬を発生させ十連撃を残像を発生させつつまさに神速の動きで悉く回避、眼を疑う回避力、さらに悉くにカウンターを合わせて凶悪な破壊力の斬撃を入れてゆく。カウンターを終えると切り返してそれぞれへと三連の剣閃を巻き起こして追撃を入れて斬り倒す。二体撃破。
 番場、サイボーグキメラからの銃剣をバハムートの装甲で受け止めつつ反撃の四連爪撃を振るい、さらに井出が太刀で六連斬を放ち、ソウマが指揮棒で四連電磁波を巻き起こしてサイボーグの一体を撃破する。一体のサイボーグがソウマへと銃剣で五段攻撃を繰り出し、ソウマは自身障壁を張り、バクラーで連撃を捌く。五発止めて負傷率一割五分。
 悠、サイボーグからの銃剣二発を受けつつも練力を全開に強靭、急所突きを発動、二刀小太刀で三連斬を直撃させて切り倒す。
 ソウマへと仕掛けているサイボーグへと赤崎が踏み込んで二連斬を叩き込み、悠もまた連撃を叩き込んで負傷させ、ルノアが狙い澄まして頭部へと光刃で烈閃を巻き起こして粉砕する。撃破。
 月城はサイボーグと斬り合い五発を盾で悉く止めて負傷率一割。反撃の五連斬を鋭く叩き込んでサイボーグの身から血飛沫を噴出させる。
 暁恒、疾風脚と高速機動でイルマリネンへと踏み込む。コピーは鋼鉄の左腕を向けて来た。オリジナルのそれを見た事がある。これはとても――
(「不味い」)
 盾を翳して全力防御。瞬間、空間が断裂し爆風が巻き起こった。壮絶な破壊力が青年が構える盾に炸裂し、衝撃が全身を貫いてゆく。負傷率四割四分。砕牙がサイドから飛び込んで太刀で斬りつける。コピーは回避。爆風を割いて暁恒が踏み込み斬りつける。コピーは飛び退いてかわした。砕牙が豪力と共に四連斬を繰り出し、暁恒が蛍火で三連斬を繰り出す。刃の悉くが空を切ってゆく。劣化コピーとはいえ腐ってもイルマリネン、背後から不意をつくか囲んで集中攻撃でもしなければとてもではないが当たらない。
 霧島はベーオウルフを囲んでいる一体へと突撃すると盾で体当たりし咆哮で吹き飛ばして援護に入る。
 倒れている人数が多い。ルキアは拡張練成治療を二連打、直径六十m以内、自軍全員の傷を癒してゆく。さらにシン、鷹秀、ロレンタ、流叶、ゼンラー、真白が練成治療を発動させ傷が深い者へと治療を連打して再び立ち上がらせてゆく。
「九尾桐島のこと覚えてる?」
 ヴァイナモイネンへと向かった赤崎は周囲と連携して激しく斬り合いながらそう問いかけた。
「はぁ? クビキリィぃい?」
 ヴァイナモイネンは驚いた事に――あるいは当然の事として――九州の南海に浮かぶちっぽけな島の事など、すっかり忘れている様子であった。島の人々――前代の村長も、仙波灘安も、安藤美恵も、そして――赤崎はその場にいなかったが――杵築市で死んだミサキの事も記憶すらしていない。
「下種が‥‥! 人を踏み躙って何とも思わないのなら、その痛みを思い知らせてあげる」
「ヒャハハハハ! 山でムシケラを踏みつぶす事をイチイチ気にしていて頂上に昇れるかヨォオオオオオッ!!」
「お前の研究ほど下らないものはない。あんたのは造るんじゃない。いろいろなものを壊してるんだ! その研究ごと、あんたをあたしが壊したげるよッ!!」
 激闘が続いたが、サイボーグは減る一方なのに対し、傭兵達は倒れても次々にまた立ち上がる。コピーも囲まれてやはり倒され、ヴァイナモイネンは自己回復で粘ったが、戦局を覆すには至らなかった。
 やがて駆け回るヴァイナモイネンの足をシンの閃光が捉えてその態勢を崩させると、
「鳥人間にしてやるよ‥‥飛びな?」
 綾の天地撃が炸裂して宙へと撃ちあげた。
「こうやって直接相見えるのは初めてね、悪趣味な科学者殿! はじめましてこんにちは、そしてさようなら‥‥よ!」
 宙へとリンがショットガンを向け散弾を猛射する。ヴァイナモイネンは宙で傭兵各員からの銃撃で蜂の巣にされている所へ、
「消し飛べ」
「――終わりです」
 アレックスが跳躍して不敗の黄金竜を発動させ彼の先輩からの狂博士への伝言と共に爆槍を叩き込んで爆裂を巻き起こし、鳴神が両断剣・絶で滅殺の破壊力を叩き込んで真っ二つに断ち斬った。


 大分県バグア司令ヴァイナモイネンは国東要塞の地下に滅ぼされた。
 キメラは未だ跋扈しており、大分県の全てが取り戻された訳ではないが、大分バグア軍の主力は福岡への撤退を開始し、組織立った戦いはここに一先ずの終結を見たと言って良いだろう。
 人類側の勝利だ。



 了