●リプレイ本文
『ここにいるぞ!!』
リーの独白に対し漸 王零(
ga2930)が高らかに答えた。流石に小隊も率いてる隊長、士気というものを解っているらしい。十二機のKVが暴れ回っているゴーアヘッドに向かって風の如く駆ける。
『おお、増援か! ――増援が来たぞ!』
無線から歓喜の言葉が返って来た。後半はきっと周囲の兵士達への言葉だろう。
『リーでいいのかな? お邪魔する、よ――そこは危険になるから、気を付けるといい』
次いでUNKNOWN(
ga4276)が大尉へと言葉を飛ばす。
『了解した。頼む!』
大尉は言って軍兵の後退を開始させたようだ。
「騎兵隊参上‥‥って柄でもないか。場合によっては惨状ってか?」
あー、笑えない、とミア・エルミナール(
ga0741)がKV内のチャンネルに言う。まぁ、『場合によっては』は場合によっては、そんなものだ。本当の所、どうなるかは実際にやってみなければ解らない。
「見た目はアレだけど‥‥あの運動性、手強いぞ‥‥!」
井出 一真(
ga6977)が一同に注意を飛ばすように言う。
「見た目は武骨ですが、強いですね‥‥」
とリゼット・ランドルフ(
ga5171)。
「トンデモ兵器は飽きるほど見たが、コイツはその中でも中々に強烈だな。まあ、此方が不利なのはいつもの事ではあるが」
時枝・悠(
ga8810)が答えた。そう思えば、この程度の相手改めて騒ぐほどのモノでもないのだろう。そう、このクラスでも騒ぐ程ではない。いつもの事なのだ。いつだって――概ねは――不利な状況下でも活路を見出して勝利を掴んできた。だが紙一重故に今回も上手くいくかどうかは解らない。
(「‥‥本当、勘弁して欲しい」)
こっそりちょっぴり弱気になる。人類が技術的に優位に立つ日は来るのだろうか。
「ゴーア砲とやらが厄介ですね。正面を避けて左右から攻めましょうか」
水無月 神楽(
gb4304)が、銀を担当する僚機にそう無線を飛ばす。
「了解、です‥‥砲撃に兆候があるのでそれに要注意です‥‥」
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)がそう言葉を返す。
「この戦況を動かす一戦になるのは間違いないだろう‥‥全力全開で叩き潰す‥‥!」
希崎 十夜(
gb9800)が闘志を燃やして言った。同時に、
(「‥‥それにしても、なんか見た事ある、様な‥‥気のせい、かな?」)
そんな事をふと思う。気のせいだ。きっと、限り無く気のせいだろう。犬型ロボットや人型ロボットや巨大ロボットを一機で数百機撃破とかやったりしない。奴等は手強いぞ。
「降下してくるタロスを防いだと思えば、次は強化タロスですか」
如月・由梨(
ga1805)が言った。
「戦える場が増える分には構いませんけどね」
戦姫は言葉と共に真紅のF‐108シヴァに同名の巨大剣シヴァを構えさせた。射程九十mの超絶巨大剣だ――九十m? 格闘武器で、九十m。ダレガツクッタコンナケン。物凄い得物を持って来た。いくら全長15.4mのディアブロでもなんでも一瞬で数十mも踏み込める訳はないのだから、その巨大さ、推してはかるべし。人とKVを同列に語って良いかは解らないが――戦国長槍やパイクとて多くはここまでの比率はしていない。せいぜい七m。それが、槍でなく端を持つ剣で、鋼の塊で、である。凄いぞKV、トンデモ度はバグアにも負けてない。
(「あのディアブロ‥‥振れるのか? あの鉄塊を?!」)
リーをはじめ、敵味方からそんな視線が如月機に集まっている。
「‥‥‥‥」
アンナ・キンダーハイム(
gc1170)は無言で戦況へと視線を走らせている。
敵に向かう途中、駆ける漸機、UNKNOWN機が近づいて来て何やら通信を送って来た。曰く、M‐181を撃つ時は銅の左斜前・左横・左斜後、金銀の左横を1〜2m程度ずらして狙わんかね、との事だ。自身は銅の右斜前・右横・右斜後、金銀の右横を狙うらしい。つまる所、位置的には金銀に対してはサイドを挟み、銅に対しては『()』の字に敵機を囲い込むような砲撃となる。榴弾は直径十m程度を焼き払うから、一、二mのずれでは重なっている部分も多い。要するに点射と面射の中間、という事か。
漸、どうする? 漸としては攻撃は避けられる場合を前提に敵機動を予測し、次撃を当てやすい位置や仲間が狙いやすいように敵を追い込みたい所だが。
(「ふむ‥‥撃破を狙わず、まず止める事を狙うなら、広く撃った方がこの場合においては有効か?」)
少しの逡巡の末にそう結論をくだした。一人でやるよりは二人でやった方が効率が良い。今回は漸も同目標が狙いだ。効果が高そうだと判断し、一つ提案容れる事にする。
「よし、乗った! 合わせよう。少し急場だがな!」
「すまないね。感謝する、よ!」
KV達が大地を揺るがして駆ける。相対距離一〇〇と少し、漆黒のK‐111と漆黒の雷電が大型の榴弾砲を構える。UNKNOWN、ブースト発動、漸、超電動アクチュエータ起動。
「GO!」
猛烈な反動と轟音と共に両機は砲から炎を吹かせ猛連射。二機合わせて十発の榴弾雨が金銀に二発づつ、銅に六発飛ぶ。金銀銅のゴーアヘッドは赤光を纏って腹部を輝かせ、銅ゴーア機がUNKNOWN機へと猛烈な弾幕を撃ち放つ。弾丸と榴弾の交差。降り注ぐ榴弾に対しゴーアヘッド達は赤い光を纏い高速で飛び退いてかわし直撃を避ける。しかし、榴弾は大地に炸裂して巨大な炎と破片の嵐を膨れ上がらせた。銅はさらに咄嗟に後方に飛んだが、後部を狙った二発に捉えられて呑まれ態勢を崩し、膨れ上がる爆炎の嵐に呑まれた。範囲が広い。避けられない。金銀も二連の爆裂嵐に呑まれた。全弾命中。いきなり銅があちこちおかしくなっている。壮絶な破壊力。ゴーア達はすかさず再生能力を発動する。
UNKNOWN機は横へと駆けながら弾幕を回避しつつエニセイ対空砲で三連の追撃を炎の中に放ち、
「こんなヤツで足止め喰らってる場合じゃねぇ、一気に行くぜ!!」
砕牙 九郎(
ga7366)が言って、砕牙機XF‐08D改‐爆雷牙、井出機XA‐08B改‐蒼翼号、時枝機F‐108改‐ディアブロがブーストで加速して飛びだしてゆく。アルブレヒト機Mk‐4D‐Schwalbeもまた銀ゴーアへと向かった。希崎機F‐201D/A3‐Rei−Crusader−は爆炎の中の銅ゴーアの輝く腹部砲へと狙いを定める。
(「やっぱり、なんか見覚えが‥‥」)
と思いつつも気にしてる状況じゃねぇっと思いなおし、スラスターライフルで発砲。希崎、陸戦は初めてだ。集中していきたい所。UNKNOWN機よりのエニセイ砲弾が銅ゴーアに炸裂して衝撃で動きを止め、希崎機から放たれた弾丸の嵐が砲へと叩き込まれてゆく。さらにブースト突撃中の井出機も砲へと狙いを定めるとバルカン砲で猛撃した。強烈な徹甲弾がゴーア砲に炸裂しその砲身を破砕する。
如月機は猛撃を受けている銅ゴーアへと一歩踏み込むと、砕機、時枝機、井出機に注意を払いながら巨大剣シヴァを八双に構える。空が陰った。ブースト発動、アグレッシヴフォース起動、ディアブロのSES機関がフルに回転し四連大型ブースターが焔を吹く。蒸気でも吹き出そうな勢いだ。外部スピーカをON。
『この一撃、受けられますか?』
振った。
言葉と共に袈裟に薙ぎ払う。見上げたゴーアの視界一杯に、巨大な鋼の塊が、太陽すらも遮って、閃光の如き速度で爆風を巻き起こしながら迫り来る。ありえない。銅ゴーア、得物も無しに受けられる訳がないので回避せんとするも射撃の衝撃に態勢が崩れている。AIに感情があったなら、きっと絶望をその表情に浮かべていた事だろう。
それは果たして剣なのか? 天地を切り裂く鉄塊が、銅ゴーアに炸裂し、地面と挟んで爆砕し、地面そのものも爆砕して深く深く陥没させた。壮絶な轟音と共に隕石でも墜落したかの如く土砂が戦場の空へと舞い上がる。天地を貫く一撃。神話の中の破壊神の如き破壊力。撃破。
他方、
「これ以上は、行かせられません」
リゼット機CD‐016G‐Edainとアンナ機FPP‐2100‐Ninaは爆炎の中の金ゴーアへと射撃を仕掛けている。ペインブラッドが8.8mの巨大レーザー砲を構えて閃光を撃ち放ち、シュテルンが構えるガトリング砲の五本の銃身が、激しいマズルファイアを吹き上げながら回転し、猛烈な勢いで銃弾の撃ち放ってゆく。金ゴーアは焔の衝撃に揺らいでる所へ四百発の弾丸を頭部に喰らい、一発の閃光を喰らうも、続く弾丸に対しては炎の残滓を裂いて斜め上方へと飛びあがり追撃をかわす。金ゴーアは宙で姿勢を制御すると時枝機へと向かってゴーア砲を撃ち放つ。極大の猛烈な光の波動が時枝機へと飛んでゆく。ブースト機動中の時枝機は盾を構えて備えている。ゴーア砲から放たれた光が鏡のように光り輝く盾の表面に激突し、激しく鬩ぎ合う。壮絶な衝撃が機体を貫いてゆく。しかしながら時枝機、損傷率およそ六分。直撃でないとはいえ、凄まじい堅牢さだ。
アンナ機は跳躍する金ゴーア機に対して対空にフォトニック・クラスターを放たんとしたが、射程外だった。代わりに折りたたんである肩部の砲を素早く伸ばすと、宙を高速でスライドしながらリゼット機からの弾丸をかわしている金ゴーアをサイトに納め発砲。連射。眩い二連の閃光が宙を切り裂いて飛んでゆく。金ゴーアは慣性を無視した動きで上昇し閃光もかわす。速い。時枝機はアグレッシヴ・フォースを発動、バルカン・ファランクスが作動し千五百発の弾丸の嵐が金ゴーアへと飛んでゆく。ゴーアは撃たれつつも高速で翔けその半数を掻い潜る。
同じく他方、
「水無月・神楽、参る!」
中央の水無月機DH‐1790は会敵すると強化型ショルダーキャノンを伸ばし銀ゴーア機へとその砲口を向けていた。焔の中のゴーアヘッドの腰から下を狙う。敵の動きを制限して此方の回避と命中の上昇させたい所だ。発射ボタンを押しこみ、猛烈なマズルファイアと轟音を巻きあげ、重い反動を抑えつつ砲弾を撃ち放つ。
銀ゴーアは焔を裂いてジェット噴射を巻きあげ空へと跳びあがって飛来した砲弾をかわす。赤く輝いている腹部砲を大地へと向けた。
前進中のアルブレヒト。コクピットの中から銀ゴーアを視認する。
(「こちらを狙っていますか‥‥」)
その攻撃に対し、注意はしている。光線に対しては撃たれてから動いては遅い。マイクロブーストを発動、乱数機動を開始。距離を取る。荒野を駆けつつ牽制にレーザーカノンを構えて三点バースト。三条の光線をゴーアへと飛ばす。銀ゴーアはジェットを噴射しながら宙を滑るようにスライドして回避。水無月機も砲撃しているが銀ゴーアはそれも高速でかわしつつ、腹部砲をアルブレヒト機へと向けて爆裂させた。猛烈な閃光が迫り来る。光が回避に駆けるアルブレヒト機の肩部の端を吹っ飛ばして抜けてゆく。直撃は避けた。が、猛烈な衝撃。損傷率四割八分。伊達に軍のKVを吹っ飛ばしていないらしい。まともに喰らうとやばそうだ。
ゴーア機は横から飛んで来た拳型の弾丸を避けている。アルブレヒトは距離を五十程度まで詰めつつ回避先へと狙いをつけてレーザーカノン、バースト二連。六条の光線が銀ゴーアへと襲いかかる。三条の光が銀のゴーアの機体を擦過し蒼空へと抜けてゆく。
一方、その少し前、ミア機XA‐08B改‐王虎、ブーストを発動させ装輪走行で東へと駆けていた。改造を極限まで重ねてあれば話は別だが、阿修羅は装甲が低めな設計だ。フェニックスを瞬殺する相手に正面から挑むのは好ましく無い。どのゴーアが相手でも真正面に立つのは厳禁したい所である。
ミア機は銅ゴーアへと巨大剣を振り上げている最中の如月機の後方を通って大外を回り込む。途中、鉄塊が振り降ろされて銅が爆砕されたり土砂が吹き上がったり、戦場は何か物凄い事になっているが、意識を乱す事なく、その奥、極大のプロトン砲をアルブレヒト機へと撃ち放っている銀ゴーアへとガトリングナックルのサイトを向ける。発声と共に拳型の銃弾の嵐を飛ばす。銀ゴーアはその攻撃にも即応してかわし、地上からのレーザーカノンが抜けてゆく、ミア機はさらに距離を詰めると火炎放射機で紅蓮の焔を噴出させて空を薙ぎ払った。ゴーアは赤輝いて重力を無視した動きで降下して焔をかわす。井出機、銅が粉砕されているので隣の銀へと方向を転じ向かった。
他方、ブーストで突撃する時枝機と砕牙機が金ゴーアへと迫る。砕牙機、バーニアを吹かせつつ金ゴーアの左から宙へと跳ぶ。それに合わせ時枝機も右から跳んだ。空中戦。左右からの挟撃。砕牙機が担ぐその反り身の大刀も半端でなくデカイ。グレートザンバー、その射程五〇m。こっちも規格外だがまだ解る――か? 否、十分ありえない位にでかい。一方、時枝機が担ぐビームコーティングアクスはそれよりやや小さくて射程三〇m。人間比でおよそ4m以上の射程を持つ大斧が小さく見えるというのはどういう事か。化物達が争う戦場で雷電がフル出力で爆風を巻き起こしながら鉄塊を金ゴーアへと振り降ろし、アグレッシヴ・フォースを発動させているディアブロが光を纏った大斧を稲妻の如くに薙ぎ払う。ゴーアはジェットを噴出させて慣性を無視した動きで天へと上昇してザンバーを回避するも、続く斧刃をかわしきれずに胴に一撃を受け、その壮絶な破壊力に吹き飛んだ。時枝機はさらにバーニアを吹かせながら追撃に翔け。猛打と共に大地に金ゴーアを叩き落とす。ゴーアは回転しながらも姿勢を制御して足から地面を爆砕しつつ降り立つ。間髪入れずに砕牙機が猛然とグレートザンバーを担ぐような態勢から身ごとぶつけるかの如くに機体全体の自重をかけるかの如く振り下ろす。遠心力で加速した切っ先が唸りをあげて振り下ろされ、身を反らしたゴーアの装甲を切り裂きながら下方へ抜け轟音と共に大地を爆砕した。地面が陥没し盛大に土砂が吹き上がってゆく。時枝機がすかさず追尾して大斧で振り降ろしと薙ぎ払いの連撃を繰り出し、ゴーアは身を捻って振り降ろしを避け、突進しながら跳躍して薙ぎ払いをかわし、両手に輝く長大な光の刃を出現させて五連の剣閃を一瞬で巻き起こした。時枝機、鏡の盾で一発を防ぎながらかわし、ビームアクスで一撃を流し、バーニアを吹かせながら後退して一撃をかわし、二発の閃光が突き抜けて装甲を吹っ飛ばしてゆく。損傷率一割五分。激突前に勘弁して欲しいと言ってたが、時枝機も大概な領域だと思われる。良い勝負だ。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ。当たれば儲け物だ!」
バーニアを吹かせて大地を疾駆する鋼鉄の獣が宙の銀ゴーア目がけて跳躍した。井出機だ。剣翼でその足を薙ぎ払わんと機銃で徹甲弾を猛射しながら突っ込む。火炎放射の焔を銀ゴーアはスライドしてかわすもその回避先へとバルカンを叩き込まれて穿たれてゆく。銀のボディに弾丸が突き刺さって削られ火花が散る。削られながらも銀ゴーアはカウンターのドリルランスを井出機へと突き出す。長大な螺旋の槍が唸りをあげて回転し阿修羅へと迫った。井出機はスラスターを吹かしながらロール。射撃の衝撃でゴーアの穂先が鈍っている。ドリルが空を貫く。かわした。井出機、一瞬で間合いを詰め、交差ざまに剣翼で足元めがけて薙ぎ切る。轟音と共に猛烈な衝撃が巻き起こった。銀ゴーアが咄嗟に突き出したゴーアブレードと井出機の剣翼が激突している。激しい火花を撒き散らしながら両者が左右に弾かれ地に落ちる。井出機が大地を爆砕しながら四肢から降り立ち。宙で回転途中のゴーアが着地しようとした瞬間、鉄塊が天空から降って来た。巨大な鉄の塊が銀ゴーアを大地と挟んで叩きつぶし爆砕する。如月機のシヴァだ。しかしながら銀ゴーア、ドリルとブレードを交差させて受け直撃を避けていた。剣が戻されるとジェット噴射と共に宙へと飛び出す。被害は出ているが健在だ。如月機は旋風を巻き起こしながら鉄塊を横に払う。銀ゴーアはドリルとブレードを交差させて受け、衝撃に押されながらもジェットを噴射して刃から脱出する。
UNKNOWN機、各機の損耗へと注意を走らせる。目視では正確な所は解らないが、右翼で酷い事になってる機体はなさそうだ。奏歌機が危なそうだが銀に対しては井出機が、金に対しては時枝機と砕牙機が詰めている、あの位置ならば大丈夫だろう。エニセイを宙の銀ゴーアへと向けて猛連射。手数がある。壮絶な破壊の砲弾が焔と共に次々に撃ち放たれてゆく。漸機は加速前進し距離を詰めにかかり、水無月機もラージフレア『幻魔炎』とブーストを発動させバーニアを全開に銀ゴーアへと突撃を開始している。井出機は大地を駆けて銀ゴーアの後背へと回り込まんと動きつつ腹部砲へとバルカンを猛射する。ミア機もまた背後を取らんと動いている。如月機は大剣を構え直し、激しく機動している銀ゴーア周辺を追尾しながら味方を巻き込まない瞬間を狙う。アルブレヒト機はバーニアをフルに吹かせて跳躍、空へと舞い上がっている。銀ゴーアは赤光を纏い腹部砲を輝かせながら空を機動して井出機を狙う構えだ。
井出機からのバルカン砲が銀ゴーアの腹部砲に炸裂し、銀ゴーアから振り降ろされたブレードが回避せんと伏せた阿修羅の上背をかすめ斬って抜け、UNKNOWN機からの対空砲が炸裂してその衝撃に態勢を崩し、ミア機が後背からクラッシュテイルを銀ゴーアの脚部へと突き刺した。電磁パルスを叩き込みつつ、そのまま尾を足に絡めんと巻くように周囲を走る。
「‥‥地上と真上からの連携攻撃‥‥これで決めます」
アルブレヒトが言った。次々にエニセイが炸裂するなか真上からレーザーカノンで三点バースト、弧を描きながら降下してゆく。銀ゴーアが爆音と共に罅の入った砲身を砕けさせながら放たれた極大の閃光を井出機へと放つ。井出機は弧を描く機動で駆けながら残りの行動力を全開にスライドして全力回避、光が空間を至近から貫いて猛烈な破壊力を炸裂させて大地を爆砕する。阿修羅には当たっていない。井出機、完璧に避けた。こちらも速い。五十程度まで詰めた漸機は好機を見て取って、スラスターライフルを構え猛弾幕を張る。
「リミッター解除‥‥全力、全開――ッ!!」
ブーストを発動させさらに出力を上げてオーバーブーストを発動。希崎機がバーニアを吹かせながら宙を飛び突撃。相討ち覚悟。向かう先の銀ゴーアはエニセイ砲弾に砕かれ、レーザーに削られ、足にアンカーを撃ちこまれて機動が制限されて、さらに漸機から放たれた弾丸の嵐に撃ち抜かれて猛烈な勢いで装甲を削られていっている。銀ゴーアは弾丸の嵐の中、砕かれた装甲を宙へばらまきながらも足を振るって尾を振り払わんとする。態勢はかなり酷い事になっている。銀ゴーアがドリルを構えるよりも先に希崎機、槍の間合いに入った。猛然と穂先を繰り出す。ドリルとブレードよりも間合いが広い。希崎の攻撃の方が先に届く。ゴーア、身を傾かせつつも咄嗟にブレードを振り払う。光と化して突き出された白銀の二又の穂先の間にゴーアブレードが激突する。猛烈な衝撃が巻き起こりゴーアが後方に弾かれてゆく。足に刺さったテイルが抜けた。
「此処で決めさせてもらいます!」
ブースト機動で水無月機が追撃へと跳ぶ。位置的に後背に回り込むのは厳しいか? 好機を活かす方を優先。神天速Aを発動させてリヒトシュヴェルトを吹っ飛んでるゴーアへと振り降ろす。命中。さらに打たれたゴーアは角度を変えて大地へと叩きつけられて大地を爆砕し。天空から舞い降りたアルブレヒト機が駄目押しのF・I・ナックルを閃光と共に叩き込んだ。爆裂が巻き起こって銀ゴーアが大破する。撃破。
腹部を輝かせる金ゴーアと斬り合っている時枝機。相手の癖を見抜かんとする――癖、と呼べるか解らないが、致命的な部分に装甲が空いてれば、狙えそうならそこへ叩き込んで一撃必殺、かわされそうなら当て易い箇所へ、隙のある所へ、といった攻撃パターンだろうか。時枝機を手強いと見て当てに来ている。直線的だがAI特有の高速反応で一撃が恐ろしく速い。
間合いが近い。離そうとするが踏み込んで喰らいついてくる。持ち手を滑らせて斧の柄を短く握って後退しながら薙ぎ払う。連斬。薙ぎ払い、振り下ろす。ゴーアは前進を停止して光刃で止め、振り降ろしを半身で斜め前に踏み込んで距離を詰めながら回避する。反撃の二刀三連斬。時枝は盾でかわし、斧でかわし、腹を掻っ捌かれて装甲が灼き斬られる。このレーザーブレード、並のディアブロなら急所狙い等なくても二発で破壊出来る威力なのだが、損傷率一割九分。この戦場にはありえない機体が多過ぎる。砕牙機はデアボリングコレダーを叩き込まんと間合いを詰めている。
リゼット機、味方機に当てないようによくよく注意して狙いをつけている。重機関砲をリロード。アンナ機もまた射線上の味方や、味方がブラインドになって確認できない敵の挙動を警戒している。アンナが現状把握した範囲では数の上ではこちらが有利。性能では敵に対しては運動性だけを見るなら時枝機、井出機あたりが匹敵し、如月機とUNKNOWN機が勝っている感じか。自機とは残念ながら性能差が大きい。態勢が万全の所へ撃ってもかわされよう。上手くやりたい所だ。
アンナ、金ゴーアが時枝機へと斬りつけた瞬間を狙ってリロードしたショルダーレーザーキャノンで射撃。空を一瞬で制圧して飛んだ光線をしかし金ゴーアは上体を反らして回避。態勢が僅かに崩れる。リゼットがその瞬間に合わせて射撃を開始。GPSh‐30mm重機関砲を激しく振動させながら嵐の如く秒間八〇発の弾丸を撃ち放つ。金ゴーアは慣性を制御してスライドして弾丸の嵐を回避してゆき、アンナ機が回避先を狙って再度レーザーを撃ち放つ。閃光が黄金のワームの装甲を貫き、衝撃に揺らいだ所へリゼット機が追尾して銃弾の嵐が腹部砲へと命中してゆく。即席だがなかなか連携が取れている。数は力だ。
砕牙機が金ゴーアの横手より踏み込む。金は射撃に撃たれながらも振り向きざまに光剣を振るって二条の閃光を巻き起こし、腹部砲から猛烈な光波を撃ち放った。砕牙、ナックルフットコートで相手の腕を払うには間合いが遠い。腕を翳し装甲の厚い箇所で受け止めんとする。激突。長大な光の刃が雷電を切り裂き極大の光波が猛烈な勢いでその装甲を吹き飛ばしてゆく。しかし砕牙機損傷率四割三分。耐えた。こちらも非常に堅牢だ。その攻防の間に時枝機は金ゴーアの後方へと回り込むとビームコーティングアクスで連斬を叩き込む。猛烈な破壊力が炸裂して金ゴーアの装甲を削り取りその崩させる。
「コイツでぶっ壊れやがれ!!」
砕牙が吼え、大剣を担いだ雷電が装甲を融解させながらも閃光を突き破ってゴーアへと肉薄している。態勢が崩れた瞬間を狙って左足で大地を爆砕させながら踏み込み、機体を回しながら電極型の篭手を嵌めた右拳を金ゴーアの腹めがけて振り抜く。電撃のブロー。デアボリングコレダーが腹部砲に激突して激しい爆雷を巻き起こし、その砲へと猛烈な勢いで罅を入れてゆく。吹っ飛んだ。
少し前、如月機、多数が集中している銀へ攻撃するのは諦め目標を金に転じていたが、それでもシヴァ、非常に振りにくい。手元が狂えば敵でなく至近戦を行っている味方を叩き潰してしまう。威力が本気で洒落にならないだけに慎重にならざるをえない。これは、味方が大勢いる時に乱戦になると非常に使いにくい代物のようだ。止む無しとパージして身軽になると機刀「建御雷」を抜刀して金へと向かった。こちらは長さ5.7m、比較するとナイフに見えるが剣ならこれぐらいが普通なのである。
「回復する隙など、与えませんよ」
砕牙機が腹部砲を吹っ飛ばした次の瞬間に太刀の間合いまで踏み込んだ如月機は、八双に太刀を振り上げ袈裟に振り下ろす。剣の雷光が一瞬で空を断って金ゴーアの装甲を切り裂きながら抜けてゆく。
金ゴーアはそれでも二刀の光刃を振り回して奮戦したが、時枝機から四連の大斧を叩き込まれ、如月機から六連の剣閃を喰らい、砕牙機からはザンバーは味方を巻き込みかねないので拳の連打をもらい、衆寡敵せず、ついに爆砕されたのだった。
「この三機倒しただけで戦況がひっくり返るってわけでもないだろうけど、これで多少は流れが変わるか‥‥?」
とミアは呟いていたが、傭兵のKV十二機は戦況をひっくり返すには十分な戦力であったらしい。
ゴーアを撃破した一同は、勢いを盛り返したUPC軍に協力しながらバグア軍を怒涛の勢いで蹴散らし、基地の敷地に突入し砲座を爆砕しキメラを薙ぎ払い、兵士達が突入していって、ついに臨沂東のバグア基地を陥落せしめた。
地にはUPC中国軍の兵士達の歓声が響き渡り、空に地球人類の旗が翻る事となった。
戦後、
「この基地を陥落させたのは兵達一人一人の力であると私は信じるが、それでも傭兵諸君らの働きが最も大きい所だろう。今回は助かった、感謝する」
大隊長リー・イェンロンは傭兵達にそう言って手を合わせて礼をした。
「さて、失礼しよう。次の場所に応援に、ね」
鋭い瞳と優しい微笑を併せ持つ紳士は咥え煙草で紫煙を吹かしながら再び漆黒のK‐111のコクピットに乗り込むと東の空へと飛び立って行った。なかなか忙しい男であるようだ。
かくて山東省臨沂東基地は人類側の支配する所となり中華の大地の地図がまた一つ塗り替えられた。
この広大な大地の全てを取り戻す日はいつか来るのだろうか。それは神ならざる身では解らないが、ここに一つ確かな前進を刻んだ。この力が集まり、いつか空に浮かぶ星を撃ち抜く事を祈ろう。
空には赤い星が輝いている。
了