●リプレイ本文
廃墟と化した都市の高速道を西へと駆ける六台の車両、その後方からは体長およそ六メートル程度の巨大な大蜘蛛が二匹、高速で六本の脚を動かして追走してきていた。
――まるでトレーラーに脚が付いて動いてるみたいに大きい。
柊 理(
ga8731)は大蜘蛛を指してそう評した。
「おぉぉ‥‥でかいねぇコイツぁ! 殺虫剤買っときゃよかったよ!」
ローブをかぶった怪しい女、ファタ・モルガナ(
gc0598)が車両内で後方を振り返りそんな事を言っている。
「原寸大でも気持ち悪いのに、何でよりにもよってこんな生き物をモデルにするんだよ!?」
夜刀(
gb9204)が叫んだ。毎度の事だがまったくバグアの趣味はいただけない。
「大きな‥‥蜘蛛ですね」御鑑 藍(
gc1485)がぽつりと呟いている「物資も早く届けたいのですが‥‥」
飢えている者達が待っている、キャンプに一刻も早く着かなければならない。こんな所で時間を使っている暇は無いのだが。
不意に、けたたましい音が鳴り響いた。重い衝撃と共に車両が次々に停止する。前方からも超巨大な蜘蛛の化物が出現したのだ。挟まれた。
「虫だけに無視したいけど‥‥通してくれそうに無いなあ」
ユステズ(
gc3154)がぼやいた。足を止めた六台の車両の東西から剛速で巨大蜘蛛達が迫って来る。戦うしか道は無いようだ。
「別に虫が苦手ってぇ訳じゃあらへんけど、こない大きいのは願い下げやな」
輸送隊の隊長が迎撃を要請し傭兵達は武器を手に車両から飛び出す。
「時間は掛けられないですね!」
車両から飛び出しグッドラックを発動させながら柊が言った。
「今はイラついてるんだ‥‥即刻昇天してもらうからなっ!」
夜刀が言って真紅の直刀を手に走り出す。
「殺虫剤はないけど、鉛玉なら奮発してやるよ! 代わりに食ってけ!」
ファタが言って元はKV用に設計されたという大口径ガトリング砲を取り出す。
装甲車両につけられた重機関砲が焔を吹き弾丸が嵐の如くに吐き出され始めた。
「撃つと動く! 違うか。動くと撃つ! 動かなくても撃つ! とにかく撃つ!」
ファタは地に伏せると東から迫り来る大蜘蛛へとガトリング砲の砲口を向けた。練力を解放し制圧射撃を発動、エミタAIサポートの力を借りて猛烈な弾幕を解き放つ。百連の弾丸がアスファルトを薙ぎ払い、鋭い音と共に火花を巻き起こしてゆく。その掃射に東の大蜘蛛達は脅威を感じたのかその突撃速度を緩めた。
「っしゃ! 出鼻へし折ったぞ!」
弾幕を張りつつ女が叫んでいる。
レイミア(
gb4209)は手を赤く光らせると超機械をかざし練成強化を発動させた。ファタと世史元 兄(
gc0520)の武器にそれぞれ淡い光が宿る。
「はー早く元の姿に戻りたい」
世史元はそんな事をぼやきつつ剣と銃を手に東の前面へと出る。
「武器を強化したから頑張って!」
レイミアが声援を飛ばした。
「おう、纏え蛍火、おら! お前らの敵はコッチだぞ!」
世史元は速度を鈍らせつつもそれでも突っ込んで来る二匹の蜘蛛へとスコーピオンを向け連射。轟く銃声と共にそれぞれへと二発づつ飛び、右の大蜘蛛は素早くスライドして一発をかわすも一発に穿たれ、左の大蜘蛛に二連の弾丸が命中して体液を噴出させる。
二匹の大蜘蛛は突進しながら顎を開くとその咥内の奥から糸を世史元に向けて発射する。男は身を翻して一発をかわすも残りの一発の直撃を受ける。白い糸が絡みつきその動きを鈍らせた。二匹の巨大蜘蛛は世史元に左右から肉薄するとそれぞれその巨大な脚を振り上げ振り下ろす。二本の脚が動きの鈍った世史元の身を次々に強打し、装甲を突き破ってその身に爪を立てた。負傷三割、その身に毒が回ってゆく。
西、戦闘で駆けるのは御鑑。二匹の大蜘蛛は突進しながら四連の糸を御鑑へと吐き出す。女は疾風脚を発動させて脚部に光を纏い身をかわさんとする。素早くステップ。三発の糸がアスファルトに弾け一発が御鑑を捉えた。その身に絡みついて動きを阻害する。大蜘蛛がアスファルトを砕きながら突進してくる。御鑑は右手を握り締めると鉄甲から三条の光を発生させ糸を薙ぎ払った。白糸が燃え上がり切断されてゆく。迅雷を発動させ加速、宙に淡い残光を曳きながら稲妻の如くに一気に間合いを詰める。その大蜘蛛の咥内へと右手を叩き込む。光の爪が伸びてその咥内を灼き貫いた。蜘蛛の体内で粘液が燃え上がる、強打。大蜘蛛が苦痛の悲鳴をあげる。御鑑は円閃を発動させると蜘蛛の脚へと目がけて回し蹴りを放った。脚部の爪が大蜘蛛の右脚へと炸裂する。
大蜘蛛は後退しながら左右の脚を振り上げその鋭い爪を御鑑へと振り降ろす。もう一匹の大蜘蛛もまた迫りそれぞれ二本の脚を放った。四回攻撃。御鑑は右に一歩動いて振り下ろされた大木の如き脚をかわし、上体を沈めて袈裟に降ってきた一撃をかわし、三本目が左肩から入って、四発目に右腿を貫かれた。猛烈な衝撃、負傷六割二分。爪の先から麻痺の毒がその身に流しこまれてゆく。
「さっさと倒して道を空ける」
殺(
gc0726)が言って御鑑が攻撃を加えた蜘蛛へと突っ込んだ。大蜘蛛、初めて見る相手だ。だが、だからと言って負ける訳にはいかない。物資を待っている者達がいるのだ。
男は忍刀を右の逆手に構え疾風の如くに低く駆けると巨大蜘蛛の頭部へと迫る。円閃を発動、突進の勢いを込めて右足で踏み込んで薙ぎ払い、体を返して突く。二連の剣刃が宙に閃く。大蜘蛛は巨体ながらも素早く後退して弧を描く斬撃をかわすも突きを避けきれずにその頭部に刃を突きこまれる。殺は間髪入れずに左手に持つ金属筒から白銀色の極大の光刃を発生させ右袈裟に斬り降ろした。大蜘蛛はさらに後退して頭部の忍刀を無理やり引き抜き、光刃をかわす。空いている穴から血が噴出して殺と宙を赤く染めた。
片刃の直刀に爆熱の輝きが巻き起こる。紅蓮衝撃を発動させて突っ込んだ柊は大蜘蛛の頭部めがけアスファルトに破裂音を巻き上げながら踏み込むと蜻蛉の位置から袈裟に斬り降ろした。袈裟の一撃に対し大蜘蛛はさらに後退して回避せんとする。刃が空を切って抜けて行く。外れた。紅蓮の焔を身に纏っている柊は間髪入れずに踏み込み左から右へと薙ぎ払う。赤光が空を断裂し大蜘蛛の頭部に切っ先を入れて削り斬りながら横へと抜けてゆく、入った、強烈な破壊力。柊はさらに切り返して二連の剣撃を叩き込む。大蜘蛛の頭部が割れて鮮血が吹き上がった。
「片側に集中だ! そうすりゃキメラでも歩けなくなる!」
夜刀が言って御鑑が蹴った脚の付け根を狙って踏み込み火炎の位から真紅の太刀を落雷の如くに振り下ろす。唸りをあげて振り下ろされた刃が甲殻の隙間に入って半ばまで喰い込んだ。良い所に入った。渾身の力を込めて押しあてながら引き斬る。二回ヒット。盛大に血霧を噴出しながら大蜘蛛の巨木のような脚が一本、アスファルトに落ちてゆく。切断した。
先よりの連続攻撃でダメージが蓄積していたのか、その一撃で失った血液が致命に到達したらしく大蜘蛛の瞳からふっと赤い光が消えた。動かなくなる。撃破。
「虫が人間様を食おうなんてちゃんちゃらおかしいわ。逆に食ったろうか、あぁ!?」
ユステズが言って西側のもう一匹の大蜘蛛へと突撃する。片手半剣を両手で構え大蜘蛛の頭部へと目がけ踏み込みながら打ち込む。大蜘蛛は素早く後ろに跳んで回避。下段に構えて追走し、踏み込んで猛然と突きを放つ。蜘蛛はそれに反応し脚を振るった。爪と長剣が激突して火花と共に甲高い音を打ち鳴らす。
御鑑は迅雷で加速し東へと向かう。
「後は、頼みます」
殺もまた東へと駆ける。
世史元、糸に備えて小型超機械αを所持している。しかしこれは対象地点に電磁嵐を巻き起こす代物だ。糸だけを狙うといった器用な使い方はできない。しかし、動きの鈍った体で大蜘蛛からの直撃を喰らい続けるよりかはマシか? 銃を納めペンサイズの超機械を取り出すと己の至近に電磁嵐を巻き起こす。
「さっ! 威嚇でお帰りしない奴等にゃ蜂の巣が妥当だろうよ!」
ファタは強弾撃を発動、左の大蜘蛛の頭部へと当たりをつけてガトリング砲で弾幕をばらまく。五十発の弾丸が嵐の如くに勢い良く放たれ大蜘蛛の頭部へと突き刺さってゆく。強力な破壊力。大蜘蛛の頭部から鮮血が吹き上がる。
世史元の身が強烈な電磁の嵐に呑み込まれ纏わりついている糸が燃え上がった。負傷率四割。右の大蜘蛛が脚を振りかぶって世史元へと振り降ろし、左の大蜘蛛がファタへと糸を飛ばした。
世史元は雷撃の嵐の中、炎を振り払い真紅の剣を振るって大蜘蛛の脚を弾いてかわし、カウンターの斬撃を放つ。一閃が命中し大蜘蛛から血飛沫が吹き上がった。二連の糸がファタに命中してその身に絡みつき、女へと突進しようとした左の蜘蛛を世史元が横合いから斬りつける。
「すぐに治療しますね」
レイミアは言って超機械をかざし練成治療を発動、世史元へと二重に解き放つ。男の細胞が活性化され傷がみるみるうちに癒えてゆく。全快。右の蜘蛛が世史元へと爪を叩き込んで血飛沫が吹き上がり「火力だけは凄いからね! 誤射させるんじゃないよ!?」ファタが言いつつガトリング砲をリロードし、左の蜘蛛が世史元へと三連撃を繰り出し、右の蜘蛛も追撃の一撃を放つ。世史元は一発をかわすも三本の脚を避けきれず爪が刺さりその体内に毒を打ちこまれる。身体が痺れて来た。負傷率五割三分。二連の迅雷で突っ込んで来た御鑑は左の蜘蛛の口を狙って機械爪を突き出す、三段。大蜘蛛は素早く後退して回避する。走り込んで来た忍が肉薄すると脚を狙って刀で斬りつけライトピラーで突き刺す。脚へと一撃入った。
「お待たせ、どっちを攻撃する?」
攻撃後、一旦、飛び退きつつ殺。左で、という言葉が返って来た。
西。柊が踏み込んで太刀で斬りつけ、反撃の蜘蛛の牙を障壁を張ったバクラーで受け止める。夜刀は缶コーヒーの蓋を開けると蜘蛛の咥内へと放り込んだ。曰く「どこかの番組で言ってなかったか? 蜘蛛ってカフェインに酔いやすいんだとか何とか‥‥」との事。蜘蛛にカフェインは効くが、この巨体を相手に瞬時に回る量があるかどうか。ユステズがバスタードソードを振り上げ蜘蛛の頭部に叩き込む。蜘蛛が爪を振るって女を突き刺し、柊が再度斬り込み、夜刀が横手に回って赤剣を脚の付け根へと叩き込む。蜘蛛が牙と二本の脚を振り回して三人を薙ぎ払い、柊がバクラーで止め、夜刀とユステズが爪に裂かれ血飛沫が吹き上がる。夜刀は後方へと走り、ユステズが脚を狙って剣を連打し、柊は飛び退くと太刀を上にかざしてふった。装甲車から激しいマズルフラッシュが巻き起こり重機関砲から嵐のように弾丸が飛んで大蜘蛛へと叩き込まれてゆく。
東、御鑑、蜘蛛の糸は熱に弱そうだ。チャッカマンと簡易スプレーの簡易火炎放射ならファタに絡みついた糸を焼き払えそうだったが、同時に火達磨にしそうなので止めておく。左の大蜘蛛の口を狙って光爪で三段突き。殺もまた左の大蜘蛛へとライトピラーの薙ぎから颯颯での突きから斬撃へと繋いでゆく。世史元は少し動きが毒で鈍っている。左の蜘蛛へと壱式を用いて三段斬り。二匹の蜘蛛達が脚を振るって四連撃で三人を薙ぎ払う。
「弾丸の味はどうだぁ?! チキンの味がするか? まだまだ沢山あるから、腹一杯食わしてやるよぉ!」
ファタは強弾撃を発動してガトリング砲を爆裂させ右の蜘蛛へと百連の弾幕を叩き込んでいる。光爪の二段が左の大蜘蛛の咥内に突き刺さり、忍刀の連撃が入って体液を噴出させた。真紅の刃が大蜘蛛を切り裂き、弾丸の嵐がその巨体を穿ってゆく。大蜘蛛からの三連の爪撃を御鑑は疾風を発動させてかわし、殺が避けきれずに二発を受けて血飛沫を吹き上げ、二連の爪牙に世史元が穿たれアスファルトを赤く染めてゆく。レイミアは世史元へと練成治療を連打して回復させてゆく。
西。
「デカい図体が仇になったな‥‥とっておきをくれてやらぁ」
夜刀は練力を全開に弓に兵破の矢を番えると柊とユステズが斬りつけて衝撃に動きが止まっている瞬間を狙い澄まし、その頭部目がけて撃ち放った。錐揉み回転しながら空を切り裂いて飛んだ矢は吸い込まれるように大蜘蛛の頭部へと突き刺さり、インパクトの瞬間に猛烈な衝撃力を解き放った。矢が蜘蛛の頭部を砕いてその半ばまで入る。動きが止まった瞬間に柊とユステズが猛打を仕掛けて斬り殺した。撃破。
東。御鑑、殺、世史元の三人が攻撃を集中して左の大蜘蛛を打ち倒し、ファタがリロードしつつガトリング砲で右の大蜘蛛を撃ち抜いてゆく。練力が50%を割ったレイミアは前進するとエネジーガンで二連の閃光を解き放った。初撃が外れたが二発目が大蜘蛛の身に炸裂し強烈な破壊力を解き放ってゆく。
最後の大蜘蛛は爪牙を振り回して抗ったが御鑑の光爪と殺の二刀と世史元の赤剣が唸ってやがて鮮血の海に沈んだのだった。
「負傷した人は手を上げてください」
レイミアが言って負傷者を練成治療で癒して回っている。殺もまた救急キットで治療に努めた。
「輸送車は無事か?」
「おかげさまでなんとか」
車両には被害は無いようである。
「それは何よりです。補給物資、待ってる方が沢山ですもんね」
と柊。
夜刀は一足先に車両に戻って携帯電話をいじって暗い顔をしている。
「俺だって‥‥俺だって受験生なんだぞこんちくしょー!!」
そんな叫びをあげている。
「はぁ〜、帰って早く汗を流したい」
世史元は嘆息してそんな事を言っていた。
手当てを済ませた一同は車両に乗り込み再び難民キャンプへと出発した。
「配達運ちゃん今日も往くー♪ 昨日は西へ、今日は北ー♪」
ファタの軽快な声が響く中、六台の車両は目的地へと向かって進んでいったのだった。
かくて、廃墟の高速路を塞いでいた巨大蜘蛛達は退治された。
物資は無事に難民キャンプへと送りこまれ、人々からは盛大な歓声があがったという。
了