タイトル:平成お宝ハンターズ!マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/26 09:38

●オープニング本文


 冬の某日。
 九州にある有栖川の屋敷では、キメラの騒動で蔵の一つが半焼していまして、それの取り壊しと立て直しの作業が進められていました。
 燃えた蔵には色々とガラクタが入っていて、無事だったものの運び出しが行われました。
 ガラクタといってもまったくの無価値ではないですからね。無くなってもたいしたことはないですが、捨てるのも勿体ないかも、というものです。例えるなら型落ちしたテレビとかですね。今使っているテレビがあるから用はないのですが、もし故障したら代わりに使えるからとっておこうか――そんな感じの品々です。
 ですが、そんな感じの品々に交じって一風変わったものがありました。
 そう、今回皆さんにお話する物語はこの運び出された一風変わった品に端を発するのです。
 
●宝の地図
「旦那様ー、これ、なんでしょう?」
 三角スカーフを頭につけつつ作業に勤しんでいた私は、ふと開けてみた箱の中から妙なものを見つけました。
 くるくると巻かれた茶色の紙、広げてみると何やら見慣れない地形が描かれていました。どうやら地図のようです。
「あぁ‥‥それは、何処にいってしまったのかと思っていたら、あの蔵に入っていたのかい?」
 縁側にいる旦那様に箱をもっていって見ていただくと、旦那様は少し驚いた様子でそうおっしゃいました。
「はい、大事なものなのですか?」
「そうだね、大事なものだ。それはご先祖様が残した宝の地図だよ」
「‥‥宝の地図?!」
 冒険小説などではよく聞くフレーズですが、まさか実際に自分がそんな代物を目にする日がこようとは。
「ご先祖様といってもそれほど昔の話じゃない。先々代の先々代の先々代あたりの話だね」
「随分昔の話のような気がするのですけど気のせいですか。っていうかどのあたりの時代ですかそれ」
 私がそう質問すると旦那様は指折り数えて、
「うーん、幕末かなぁ」
 幕末、百数十年以上前の話です。私にとって自分で見ていない時代は伝説も同じ。それは遙か遥か大昔の出来事のように感じられました。
「でも近代だよ。邪馬台国よりは遠くない」
 旦那様は鬼道を以って国を治めたという女王の時代を引き合いに出してきました。
「比べるものが間違ってると思いますが」
「そうかい? 僕の知り合いの地層学者なんて一万年前をごく最近とか言ってたよ。あの感覚には正直ついていけないよね」
 私も旦那様の感覚には時折ついていけません。
 しかしまぁ、とりあえずその地層学者さんとはお話しない方が良いと思いつつ(きっと頭が痛くなりますから)私は旦那様に言いました。
「では旦那様、何時出発しますか?」
「‥‥え?」
 私はずずぃっと顔を寄せると旦那様に言いました。
「何時、宝探しに出発しますか?」
「ええっ? ちょっと、まさか鈴花さん、この宝を探しに行く気かい?!」
「まさか旦那様行かない気なんですか!」
「え、なにその反応、もしかして僕の行動の方がイレギュラー?! だ、だって実際に宝があるかどうかさえも不明なんだよ?!」
「だからこそ行くんじゃないですか、あるかどうか解らないからこそ楽しいんです!」
「‥‥そういうもんなのかい。この地図、妙な謎かけとか書いてあってすごく胡散臭いよ? この場所島だし、海越えなきゃならないし、キメラの巣窟になってるし、すっごい危険だと思うよ?」
「そーいうもんでございます。古よりの伝来の地図、そこに宝があるというならば、謎を解き明かし、海原を乗り越え、キメラを蹴散らし、百の危険を踏破して、見事宝を『げっと』してみせるのが後世の者の役目にございます!
 いえ‥‥‥‥むしろこれは使命! これは過去からの挑戦にございます! 現代の有栖川の名にかけて! 受けてたたぬ訳にはまいりませんっ!!」
「す、鈴花さん、燃えてるね、背後に炎が見えるよ‥‥‥‥」
 何故か旦那様は退き気味になって、
「時折、鈴花さんの感覚にはついていけないなぁ‥‥」
 そう嘆息しながら呟いたのでした。むむぅ、失敬な。
 
●かくて依頼を
「言っておくけど鈴花さん、僕は行けないよ。仕事があるからね」
「えー」
「興味がない訳じゃないけど、当主の義務を放棄する訳にはいかないからね。その代わり、この件は君に任せよう。この地図の示す場所を調査してきてほしい」
「解りました」
「危険が予想されるからラストホープから同行者を募ろう。
 鈴花さん、君は能力者になりたいって言ってたよね。今回はじかに傭兵さん達を見る良い機会だ。彼等と行動を共にし、能力者になるということはどういうことか、よく見て欲しい」
「‥‥はい」
「この宝の地図だがこれはご先祖から伝わるもので、有栖川に苦難があった時に取りにゆけと言われている。まぁ今はバグアやキメラ等で苦難といえば苦難の時代だから、取りにいっても良いかな。
 地図に描かれているこの島は角力灘に浮かぶ某島だ。半日でいけるよ。漁船くらいなら用意できるから島に向かうにあたり、足については問題ない。ただし」
 旦那様は古ぼけた地図を広げていった。
「角力灘は波風の強い海域だ。おまけにキメラも出る。海と空の二点を警戒しなければならない。まぁ海も空も広いから、滅多に遭遇するものでもないと思うけど、万一船を叩き壊されたら全員海の藻屑に消える。解ってるね?」
「き‥‥きっと傭兵さん達がなんとかしてくれますよ」
「そうかい? そうだね、ULTの傭兵さん達は優秀だ。前回は優秀だった。だが今回も果たしてそうか? 傭兵の運用にあたって注意しなければならない点があるとすれば、それは質がピンからキリまであるということだ」
 だ、旦那様が珍しくシリアスやってる。それだけ危険ということなのかしら。
 私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「それでも一度託すと決めたからには彼等を信用し全てを託さなければならない。それが護衛を依頼する側の、守られる側の義務だ――つまり、私は君にその覚悟があるかどうか尋ねている訳だが、鈴花さん、どうかな?」
「あ、あります」
「よろしい。ならば続けよう」
 そう言って旦那様は縁側に地図を置くと地図の一点を指さしました。
「某島はキメラの巣窟となっている。それほど密度が高い訳じゃないらしいけど、キメラの島だ。当然注意が必要だね。棲息しているのは動物型のキメラが多い。
 またこの地図は島を表わしてはいるけど島の何処に宝が隠されているのか、その明確な位置を印してはいない。宝の位置は言葉で暗示されている」
 旦那様は指を滑らして地図の隅にある文字をなぞる。
「北の西から数えて三つ、踊る王の死しゃれこうべ、星の母から水が注ぐなら、僕等の心は旅に出る。焔の獣皇は天地を断ち斬り、我が身はきっとその底に」
「意味不明ですね」
「謎かけか、それとも暗号か‥‥とりあえずこれを解かないと正確な位置は解らないみたいだね」
 逆を言えば、これを解けば宝の位置は解る、旦那様はそうおっしゃったのでした。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
嶋田 啓吾(ga4282
37歳・♂・ST
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN

●リプレイ本文

 冬の九州の港、ご先祖が残したという財宝を取りにゆく為に八人の傭兵が終結した。
「鈴花さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
 柚井 ソラ(ga0187) がはしゃぎ気味に挨拶をしている。
「ああ、袖井さん、皆さんのおかげで大過なく。その節は大変お世話になりました」
 使用人の鈴花が深々と礼をした。今回は常の和装ではなく探検服に帽子といった装いだ。見知った顔に安堵したのか緊張がちだった顔を綻ばせほっとしたように言った。
「皆さんがいれば安心ですね。今回もよろしくお願いします」
「任せておいてください」
 袖井が胸を張って答えてみせる。
「いやー、しかしほんと久しぶりだよねェー」
「お元気そうで何よりですわ」
「今回は宝探しですか。冒険とは男のファンタジー。わくわくしますね」
「宝探しねぇ、ガキの時以来だぜマジで」
「ドキドキするわねー。何処にドキドキか自分でも不明だけど」
「結構結構。浪漫ってやつですねえ」
 各自、再会の挨拶や自己紹介等を済ませると、わいわいがやがやと言葉をかわし始める。
(「‥‥たまにはこういう依頼もいい、ですよね?」)
 アグレアーブル(ga0095)はそんな光景を見やって無表情の中にも微笑ましそうに表情を綻ばせている。
「えぇっと、皆さん、頼まれていたものってこれで大丈夫ですか?」
 鈴花がリュックの中から懐中電灯やザイル、無線といった冒険用具を取り出してみせていう。
「ん、全部あるわね。大丈夫よ」
 智久 百合歌(ga4980)が確認し微笑んで言った。
「準備はOKかな? それじゃ行ってみようか。船は確か有栖川さんの方で用意してくれてるんだよね?」
 と国谷 真彼(ga2331)。
「はい、こちらの方に、ご案内しますね」
 鈴花の案内に従い一行は港の一角へと向かった。

●いざゆかん宝の島へ
「誰か俺を! 拾ってくれぇぇえ!!」
 それはきっと二十代後半の叫び、アッシュ・リーゲン(ga3804)が青い青い大海原を前に、船先に立ち、水平線の彼方を見やって、全霊を込めて叫んでいた。おお、海よ、この声が聞こえているか。
「‥‥拾う???」
 船上の強風に帽子を抑え首傾げて鈴花。
「男には叫びたくなる時があるんですよ‥‥」
「はぁ」
 嶋田 啓吾(ga4282)がぽんぽんと鈴花の肩を叩き首を振って言った。そっとしておいてやれとの事なのだろう。
 本日は天気晴朗なれども浪高し、そこそこの大きさの漁船は荒れる波を割って進んでゆく、朝の空には太陽が輝き、風は強く、澄んでいる。
「うがー! わ・か・ら・な・い!!」
 地図を睨みつけるように見ていた獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が頭を掻き毟るようにして爆発した。
「抽象的な言い回しには弱いんだよー、嫌いじゃないんだけれどさー」
 例の謎かけのような一文を指して言う。
「一応、各フレーズが島の各地と符合を見せている事は理解した。でも‥‥どういうことなんだろうねぇ」
「自信をもって、きっぱりさっぱり分かりません」
 大海原の風景を堪能していた鷹司 小雛(ga1008)が獄門の呟きを聞きつけ言う。
「んー‥‥とりあえず、縦に積んでみますか?」
 袖井がヒントに着眼し句読点で文章を改行して書き出してみせる。

 北の西から数えて三つ
 踊る王の死しゃれこうべ
 星の母から水が注ぐなら
 僕等の心は旅に出る
 焔の獣皇は天地を断ち斬り
 我が身はきっとその底に

「北おど‥ほし?」
 これはこれで意味解りませんね、と鈴花。
「いや‥‥これは多分、左から三番目を上から読めということでしょう。一行目はそういう意味だと思う。また、スタート地点も北西だと考えられます。
 二行目は骸王樹ですね。三行目は星神橋だと思います。そこから四行目、水の流れを辿って青竜泉へという事でしょうか。
 五行目は金虎岩と紅蓮溝ですね。六行目は上から読んだ西王母の獣身が紅蓮溝の底にある、と示していそうです」
 国谷が板に水を流すように推理を述べてみせる。
 袖井はほわーと感心した様子で目を輝かせて言った。
「凄い、よくすらすら出てきますね」
「いや、僕の世代は探検隊や埋蔵金の黄金時代だからね。暗号もよく作って遊んだんだよ。それにざっと言っただけだからね。合ってるとも限らないし‥‥皆も何か思うところがあったら言って欲しい」
「それでは‥‥西王母の獣身というのは、虎? ではないかと思うのですが」
 アグレアーブルが言った。嶋田がひょいと地図を覗きこみ、
「その可能性が高そうですねえ。西王母は比較的新しいものだと美しい仙女だが、大元は虎の身を持つ死神みたいなものですからねえ」
 それに智久が言う。
「そうなると獣身は金虎岩よね? これが目標かしら‥‥でも文章の順序も意味がある筈よね。順に辿る必要があるのか、各地点に必要な『何か』があるのか、そうでなければ、最終目的地が仄めかされている以上、途中にポイントを出す必要性を感じないもの」
「ふむむ、なるほどです」
「やっぱりこの星の母から〜の降りは川に沿ってゆくと何かあるのかもしれませんわ」
「焔の獣皇は〜の一節は光と影を現すのかもしれませんねえ」
「うーん‥‥」
 一同はそれぞれ推論を述べあう。ひとしきり話し合った後、
「これ以上は‥‥現地で調べてからのが良いかもしれませんね。直感でしか、辿り着けない場所もありますし」
 国谷がそう言って締めくくった。
 航海は概ね順調に進み、途中キメラなどが寄ってくることもあったが、警戒を怠ることのなかった一行は早期に発見し、アッシュや袖井の飛び道具が唸り撃退した。
 一行は五時間程の航海を経て無事に島へと辿りつき、北西の浜辺から上陸したのだった。

●上陸
 白い浜辺が美しい。見上げると切れ切れの雲が見えた。潮風強く、遥かな上空でも風が強いのか雲が勢いよく流れてゆく。島の中心の方へと目をやればまず草原の丘が広がり、奥の方に森林が聳えているようであった。
 古ぼけた地図によれば骸王樹は現在地より少し南東へいった場所にあるようだ。一同は船をネットや木々の枝で偽装すると隊列を組み南東へと向かった。
 最前列をアグレアーブルと鷹司がゆき、次いで袖井、真ん中に鈴花と船員をおき、それをサイエンティスト三人衆が固める。殿はアッシュと智久が守った。
 島は中央に向かって盛り上がっているようで、初め登りとなった。背の低い草が生い茂っている草原地帯をゆく。荷物を背負ってゆくとなるとそれなりに負荷がかかる。南の太陽に照らされてじりじりと汗が吹き出てきた。
 うっすらと吹き出た汗をぬぐって鷹司が言う。
「皆さん、そろそろ休憩でも入れませんか? 焦って行っても良いことありませんし」
「そうだねェー」
「そういえば、ご飯もまだですしね」
「そろそろ昼食も兼ねて休憩にしますかねえ」
「りょーかい。あ、そうそう、約束通り握り飯作ってきたぜ。皆、良かったら喰ってくれ」
「あら有難う。リーゲンさんのお弁当楽しみにしてたのよー」
 一同は丘の上に陣取ると、敷物をしいて弁当を広げる。
「へへ、遠足と言えば弁当、だろ? これがアグのシャケ、こっちはゆーりの和風ツナマヨとダシ巻き玉子、これはマヒト希望の醤油をかけた鰹節な」
 握飯の種類を解説する傭兵。アッシュ、意外に家庭的である。
 それにアグレアーブルがいただきますと呟いて握飯に口をつけた。
「ん‥‥美味しいです」
「お、そうか?」
「こっちもダシが効いてて美味しいわ! どうやってるの?」
「ああ、そいつはダシの取り方にコツがあって‥‥」
 と解説をするアッシュ。そのように概ね好評であったのだが、
「ぶほっ!!」
 嶋田が唐突に吹き出した。口内に広がる凄まじい衝撃に盛大にむせ込み肩を震わせる、
「み、水、水っ!」
「は、はわわわ! は、はい、お水です〜!」
 袖井から水筒の水を受け取って一気に飲み込んで、ようやく人心地ついてから、
「な、なんだこりゃ? 一体何を入れたんだお前はっ?」
 笑い転げているアッシュに叫ぶ嶋田。
「ん? あぁ、それか。紅茶ゼリー握りだな。ほんのり甘めの紅茶ゼリーをダイス状に仕込んだとゆー」
 凄まじい破壊力である。解説するアッシュを嶋田は半眼で睨み据えると、
「リーゲン、お前、今度の大規模作戦、単機で突撃な」
「ええっ?! そりゃねーぜ嶋サン! 普通に死ぬって!」
 一同がガヤガヤとそんな事をやらかしていると不意に獄門の銀髪が一本ピィン! と稲妻状に突き上がった。
 覚醒した彼女はがばりと十時の空の方をみやると、
「‥‥来た、来た、来た来た来た来たぁああああ! 危険が迫ってきてるネェー! 獄門の直感が迫りくる危険を伝えている!」
 何やら天空からの電波を受信したらしく立ち上がって叫ぶ。
「えぇっ?」
「ふぃふぇんでふか?」
 握り飯を食べつつ鈴花。
 根拠が電波というのがアレだが、獄門の直感力は侮れないものがあるし、用心に越したことはないと荷物を取りまとめて警戒に移る。
 ――湿った風が吹いた。
 空の彼方から真っ黒な雲が押し寄せて来て、辺りを急速に暗くしてゆく。
「‥‥冗談きついぞ。おいリーゲン、俺は幻覚を見だしたようだ」
 急に暗くなった空の彼方をみやって嶋田が言った。
「残念ながら嶋サン正常だぜ。俺もまとめてトチ狂ったんじゃなければ」
 雷鳴が吠えた。閃光のきざはしが天地を繋ぎ、爆雷が生んだ影の彼方から空を覆い尽くすほどの数の翼蛇が押し寄せてくる。
「――不味いですね。何か、眼が合ったような気がしましたよ、今」
 国谷が笑みを引き攣らせて言う。
 雷が爆ぜると共に、翼蛇の群れの一部が島へと向かって急降下し始めた。どうにか出来る数ではない。
「走れぇえええええええっ!!」
 アッシュの叫びに一同は弾かれるように覚醒し島の中央へと向かって全力で駆ける。
「森に逃げ込むんだ!」
 嶋田が言った。雷鳴と共に滝のような雨が降り始めた。
「前方にもキメラですわ!」
「なにぃ?!」
 いつの間に現れたのだろう。森と一行の間に熊型のキメラが仁王立ちして立ち塞がっている。
「速攻で片づけましょう!」
「了解したねェー!」
 獄門がアグレアーブル、鷹司、智久の三人に、嶋田がアッシュと袖井の二人に練成強化をかける。眩い光が武器を包み込んだ。
 国谷が熊に練成弱体を入れエネルギーガンを放つ。閃光を追いかけるように袖井の矢とアッシュの銃弾が飛び、智久と鷹司が流し斬った所を、瞬天速で間合いを詰めたアグレアーブルが神速の五連斬で一気に解体した。強化と弱体が入ると手数が多い者の破壊力は飛躍的に増すようである、全体でなど言うにも及ばない。
 十秒もかからず熊を打ち倒した一行は森へと飛びこみ、間一髪で翼蛇の群れの襲撃から身を隠した。

●雨中探索
「あ‥‥KVがキメラの群れと交戦してます!」
 木陰から空をみやって袖井が言った。
「そうか、競合地帯だったねこの辺りは」
「KVに勝って欲しいわね」
「欲しいっていうか、連中に負けられると俺達も終わるぜ。地上だけでも厄介なのに」
「ええ‥‥空ばかりを気にしてはいられませんわ。周囲から気配が消えません」
「つけられてるのかしら?」
「恐らく」
「こっちの練力が切れて弱ったところを、ってところだろうねェー」
「獣なりに賢い賢い‥‥なんてぇ島だい、ここは」
「‥‥交代で、覚醒しましょう」
 木々の陰から響く得体のしれない獣の叫び声に肝を冷やしつつ、一行は森を進んだ。
 やがて一行は奇妙な物を発見する。一本の大木の周囲、しゃれこうべを積み上げて造られた塚が時計の形に積まれていた。
「これが骸王樹‥‥」
「‥‥踊ってみます?」
 薄暗い森の中、それを懐中電灯で照らしつつ濡れ鼠になっている鷹司が問いかける。一行、色々用意したが、防雨装備だけがスコーンと抜けていた。
「止めとくわ」
 同じくずぶ濡れになっている智久が寒さか恐怖かかすかに身を震わせながら首を振る。
「これは、死神がモチーフだね。時は死の化身だ――いや、逆かな。しかし、時計を示す物があるという事は‥‥」
 国谷は必然性から推理し周囲を捜索する。
「北の西から数えて三つと‥‥」
 一時の箇所の塚を調べると髑髏の中に鉄の鍵があった。一同はそれを手に入れ、次の星神橋へと向かう。
 星神橋というのは石造りの水道橋であった。始まりは滝であり、橋下にあった洞窟へと入って置かれている鍵を手に入れる。水の流れる方向に沿って向かった。途中破壊されていて、水路が途切れていたが、辿る事に問題はない。かつて泉となっていたらしき石で舗装された窪みの底を探り三つ目の鍵を手に入れる。
 その時点で雨は止んだが日が落ちてきたので、一行は星神橋の根本にあった洞窟へと入りキャンプを張った。
 洞窟の入り口あたりで焚き火などを起こして周囲を警戒しつつ、服等を乾かし、食事を取る。キメラ達の気配はあるが仕掛けてはこなかった。
 夜は嶋田とアッシュが洞窟の外に出て交代で見張りに立つ。
 大自然の中で輝く星空を眺めて少し人生を振り返ったアッシュであった。

●宝とは
 朝が来た。まだ暗いうちに携帯食で軽く腹を満たしつつ一行は再び探索行に出発する。
 目指すは金虎岩だ。
 大昔に溶岩が作ったと思われし低地を進む。相変わらずキメラの気配はつかず離れず、油断すれば襲いかかってきそうな雰囲気であった。一行の練力も消費が激しい、急がねばならない。
 朝焼けが周囲を照らす中、一行は金虎岩に辿り着く。そこには向かい合う四体の虎象があった。
「さて‥‥どうしましょう?」
 袖井が問いかける。
「うーん‥‥鍵があったんだから、やっぱり何処かで鍵を使うんだと思う。鍵穴とかないかい?」
 国谷が推理しつつ言う。
「こーいう時ゃ経験者にお任せあれ」
 と言ってアッシュが調査を開始した。
「罠とかはなかったな。鍵穴もなかったが‥‥口の中にランプがあった」
「ランプ?」
 一行は夜を待ち、火を入れた。
 夜空を仰ぐ虎の口から炎の光が伸び天地に軌跡を描いた。四本の光が交わる地点があり、一行はその地面を掘る。
 すぐに硬い何かに当り土をどかすと鉄の扉が出てきた。一行は一つ目の鍵を用いて扉を開ける。地下への階段だ。
 石造りの地下室へと進むとさらに扉があった。二つ目の鍵を用いて開く。
 奥へと進むと祭壇らしきものがあった。生死を司る神の像が両脇を固めている。
 祭壇の上には鉄の箱があった。一行は最後の鍵を用いてそれを開く。
 中には一枚の紙切れが入っていた。
 一同、激烈に嫌な予感を覚えつつ、鈴花が書かれている内容に目を通す。
「えー‥‥現代語に訳します」
 ひきつった顔で鈴花は言った。
「我が子孫よ、今、お前の傍には誰かがいるだろうか? いるのならば、それがお前にとって最高の――」
 数瞬後、一同の怒号やら「こんなことだろうと思ったよ、はっはっは」的な叫びが室内に大反響するのは、やはりお約束というものであった。

 了。