●リプレイ本文
冬の九州の港、ご先祖が残したという財宝を取りにゆく為に八人の傭兵が終結した。
「鈴花さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
柚井 ソラ(
ga0187) がはしゃぎ気味に挨拶をしている。
「ああ、袖井さん、皆さんのおかげで大過なく。その節は大変お世話になりました」
使用人の鈴花が深々と礼をした。今回は常の和装ではなく探検服に帽子といった装いだ。見知った顔に安堵したのか緊張がちだった顔を綻ばせほっとしたように言った。
「皆さんがいれば安心ですね。今回もよろしくお願いします」
「任せておいてください」
袖井が胸を張って答えてみせる。
「いやー、しかしほんと久しぶりだよねェー」
「お元気そうで何よりですわ」
「今回は宝探しですか。冒険とは男のファンタジー。わくわくしますね」
「宝探しねぇ、ガキの時以来だぜマジで」
「ドキドキするわねー。何処にドキドキか自分でも不明だけど」
「結構結構。浪漫ってやつですねえ」
各自、再会の挨拶や自己紹介等を済ませると、わいわいがやがやと言葉をかわし始める。
(「‥‥たまにはこういう依頼もいい、ですよね?」)
アグレアーブル(
ga0095)はそんな光景を見やって無表情の中にも微笑ましそうに表情を綻ばせている。
「えぇっと、皆さん、頼まれていたものってこれで大丈夫ですか?」
鈴花がリュックの中から懐中電灯やザイル、無線といった冒険用具を取り出してみせていう。
「ん、全部あるわね。大丈夫よ」
智久 百合歌(
ga4980)が確認し微笑んで言った。
「準備はOKかな? それじゃ行ってみようか。船は確か有栖川さんの方で用意してくれてるんだよね?」
と国谷 真彼(
ga2331)。
「はい、こちらの方に、ご案内しますね」
鈴花の案内に従い一行は港の一角へと向かった。
●いざゆかん宝の島へ
「誰か俺を! 拾ってくれぇぇえ!!」
それはきっと二十代後半の叫び、アッシュ・リーゲン(
ga3804)が青い青い大海原を前に、船先に立ち、水平線の彼方を見やって、全霊を込めて叫んでいた。おお、海よ、この声が聞こえているか。
「‥‥拾う???」
船上の強風に帽子を抑え首傾げて鈴花。
「男には叫びたくなる時があるんですよ‥‥」
「はぁ」
嶋田 啓吾(
ga4282)がぽんぽんと鈴花の肩を叩き首を振って言った。そっとしておいてやれとの事なのだろう。
本日は天気晴朗なれども浪高し、そこそこの大きさの漁船は荒れる波を割って進んでゆく、朝の空には太陽が輝き、風は強く、澄んでいる。
「うがー! わ・か・ら・な・い!!」
地図を睨みつけるように見ていた獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)が頭を掻き毟るようにして爆発した。
「抽象的な言い回しには弱いんだよー、嫌いじゃないんだけれどさー」
例の謎かけのような一文を指して言う。
「一応、各フレーズが島の各地と符合を見せている事は理解した。でも‥‥どういうことなんだろうねぇ」
「自信をもって、きっぱりさっぱり分かりません」
大海原の風景を堪能していた鷹司 小雛(
ga1008)が獄門の呟きを聞きつけ言う。
「んー‥‥とりあえず、縦に積んでみますか?」
袖井がヒントに着眼し句読点で文章を改行して書き出してみせる。
北の西から数えて三つ
踊る王の死しゃれこうべ
星の母から水が注ぐなら
僕等の心は旅に出る
焔の獣皇は天地を断ち斬り
我が身はきっとその底に
「北おど‥ほし?」
これはこれで意味解りませんね、と鈴花。
「いや‥‥これは多分、左から三番目を上から読めということでしょう。一行目はそういう意味だと思う。また、スタート地点も北西だと考えられます。
二行目は骸王樹ですね。三行目は星神橋だと思います。そこから四行目、水の流れを辿って青竜泉へという事でしょうか。
五行目は金虎岩と紅蓮溝ですね。六行目は上から読んだ西王母の獣身が紅蓮溝の底にある、と示していそうです」
国谷が板に水を流すように推理を述べてみせる。
袖井はほわーと感心した様子で目を輝かせて言った。
「凄い、よくすらすら出てきますね」
「いや、僕の世代は探検隊や埋蔵金の黄金時代だからね。暗号もよく作って遊んだんだよ。それにざっと言っただけだからね。合ってるとも限らないし‥‥皆も何か思うところがあったら言って欲しい」
「それでは‥‥西王母の獣身というのは、虎? ではないかと思うのですが」
アグレアーブルが言った。嶋田がひょいと地図を覗きこみ、
「その可能性が高そうですねえ。西王母は比較的新しいものだと美しい仙女だが、大元は虎の身を持つ死神みたいなものですからねえ」
それに智久が言う。
「そうなると獣身は金虎岩よね? これが目標かしら‥‥でも文章の順序も意味がある筈よね。順に辿る必要があるのか、各地点に必要な『何か』があるのか、そうでなければ、最終目的地が仄めかされている以上、途中にポイントを出す必要性を感じないもの」
「ふむむ、なるほどです」
「やっぱりこの星の母から〜の降りは川に沿ってゆくと何かあるのかもしれませんわ」
「焔の獣皇は〜の一節は光と影を現すのかもしれませんねえ」
「うーん‥‥」
一同はそれぞれ推論を述べあう。ひとしきり話し合った後、
「これ以上は‥‥現地で調べてからのが良いかもしれませんね。直感でしか、辿り着けない場所もありますし」
国谷がそう言って締めくくった。
航海は概ね順調に進み、途中キメラなどが寄ってくることもあったが、警戒を怠ることのなかった一行は早期に発見し、アッシュや袖井の飛び道具が唸り撃退した。
一行は五時間程の航海を経て無事に島へと辿りつき、北西の浜辺から上陸したのだった。
●上陸
白い浜辺が美しい。見上げると切れ切れの雲が見えた。潮風強く、遥かな上空でも風が強いのか雲が勢いよく流れてゆく。島の中心の方へと目をやればまず草原の丘が広がり、奥の方に森林が聳えているようであった。
古ぼけた地図によれば骸王樹は現在地より少し南東へいった場所にあるようだ。一同は船をネットや木々の枝で偽装すると隊列を組み南東へと向かった。
最前列をアグレアーブルと鷹司がゆき、次いで袖井、真ん中に鈴花と船員をおき、それをサイエンティスト三人衆が固める。殿はアッシュと智久が守った。
島は中央に向かって盛り上がっているようで、初め登りとなった。背の低い草が生い茂っている草原地帯をゆく。荷物を背負ってゆくとなるとそれなりに負荷がかかる。南の太陽に照らされてじりじりと汗が吹き出てきた。
うっすらと吹き出た汗をぬぐって鷹司が言う。
「皆さん、そろそろ休憩でも入れませんか? 焦って行っても良いことありませんし」
「そうだねェー」
「そういえば、ご飯もまだですしね」
「そろそろ昼食も兼ねて休憩にしますかねえ」
「りょーかい。あ、そうそう、約束通り握り飯作ってきたぜ。皆、良かったら喰ってくれ」
「あら有難う。リーゲンさんのお弁当楽しみにしてたのよー」
一同は丘の上に陣取ると、敷物をしいて弁当を広げる。
「へへ、遠足と言えば弁当、だろ? これがアグのシャケ、こっちはゆーりの和風ツナマヨとダシ巻き玉子、これはマヒト希望の醤油をかけた鰹節な」
握飯の種類を解説する傭兵。アッシュ、意外に家庭的である。
それにアグレアーブルがいただきますと呟いて握飯に口をつけた。
「ん‥‥美味しいです」
「お、そうか?」
「こっちもダシが効いてて美味しいわ! どうやってるの?」
「ああ、そいつはダシの取り方にコツがあって‥‥」
と解説をするアッシュ。そのように概ね好評であったのだが、
「ぶほっ!!」
嶋田が唐突に吹き出した。口内に広がる凄まじい衝撃に盛大にむせ込み肩を震わせる、
「み、水、水っ!」
「は、はわわわ! は、はい、お水です〜!」
袖井から水筒の水を受け取って一気に飲み込んで、ようやく人心地ついてから、
「な、なんだこりゃ? 一体何を入れたんだお前はっ?」
笑い転げているアッシュに叫ぶ嶋田。
「ん? あぁ、それか。紅茶ゼリー握りだな。ほんのり甘めの紅茶ゼリーをダイス状に仕込んだとゆー」
凄まじい破壊力である。解説するアッシュを嶋田は半眼で睨み据えると、
「リーゲン、お前、今度の大規模作戦、単機で突撃な」
「ええっ?! そりゃねーぜ嶋サン! 普通に死ぬって!」
一同がガヤガヤとそんな事をやらかしていると不意に獄門の銀髪が一本ピィン! と稲妻状に突き上がった。
覚醒した彼女はがばりと十時の空の方をみやると、
「‥‥来た、来た、来た来た来た来たぁああああ! 危険が迫ってきてるネェー! 獄門の直感が迫りくる危険を伝えている!」
何やら天空からの電波を受信したらしく立ち上がって叫ぶ。
「えぇっ?」
「ふぃふぇんでふか?」
握り飯を食べつつ鈴花。
根拠が電波というのがアレだが、獄門の直感力は侮れないものがあるし、用心に越したことはないと荷物を取りまとめて警戒に移る。
――湿った風が吹いた。
空の彼方から真っ黒な雲が押し寄せて来て、辺りを急速に暗くしてゆく。
「‥‥冗談きついぞ。おいリーゲン、俺は幻覚を見だしたようだ」
急に暗くなった空の彼方をみやって嶋田が言った。
「残念ながら嶋サン正常だぜ。俺もまとめてトチ狂ったんじゃなければ」
雷鳴が吠えた。閃光のきざはしが天地を繋ぎ、爆雷が生んだ影の彼方から空を覆い尽くすほどの数の翼蛇が押し寄せてくる。
「――不味いですね。何か、眼が合ったような気がしましたよ、今」
国谷が笑みを引き攣らせて言う。
雷が爆ぜると共に、翼蛇の群れの一部が島へと向かって急降下し始めた。どうにか出来る数ではない。
「走れぇえええええええっ!!」
アッシュの叫びに一同は弾かれるように覚醒し島の中央へと向かって全力で駆ける。
「森に逃げ込むんだ!」
嶋田が言った。雷鳴と共に滝のような雨が降り始めた。
「前方にもキメラですわ!」
「なにぃ?!」
いつの間に現れたのだろう。森と一行の間に熊型のキメラが仁王立ちして立ち塞がっている。
「速攻で片づけましょう!」
「了解したねェー!」
獄門がアグレアーブル、鷹司、智久の三人に、嶋田がアッシュと袖井の二人に練成強化をかける。眩い光が武器を包み込んだ。
国谷が熊に練成弱体を入れエネルギーガンを放つ。閃光を追いかけるように袖井の矢とアッシュの銃弾が飛び、智久と鷹司が流し斬った所を、瞬天速で間合いを詰めたアグレアーブルが神速の五連斬で一気に解体した。強化と弱体が入ると手数が多い者の破壊力は飛躍的に増すようである、全体でなど言うにも及ばない。
十秒もかからず熊を打ち倒した一行は森へと飛びこみ、間一髪で翼蛇の群れの襲撃から身を隠した。
●雨中探索
「あ‥‥KVがキメラの群れと交戦してます!」
木陰から空をみやって袖井が言った。
「そうか、競合地帯だったねこの辺りは」
「KVに勝って欲しいわね」
「欲しいっていうか、連中に負けられると俺達も終わるぜ。地上だけでも厄介なのに」
「ええ‥‥空ばかりを気にしてはいられませんわ。周囲から気配が消えません」
「つけられてるのかしら?」
「恐らく」
「こっちの練力が切れて弱ったところを、ってところだろうねェー」
「獣なりに賢い賢い‥‥なんてぇ島だい、ここは」
「‥‥交代で、覚醒しましょう」
木々の陰から響く得体のしれない獣の叫び声に肝を冷やしつつ、一行は森を進んだ。
やがて一行は奇妙な物を発見する。一本の大木の周囲、しゃれこうべを積み上げて造られた塚が時計の形に積まれていた。
「これが骸王樹‥‥」
「‥‥踊ってみます?」
薄暗い森の中、それを懐中電灯で照らしつつ濡れ鼠になっている鷹司が問いかける。一行、色々用意したが、防雨装備だけがスコーンと抜けていた。
「止めとくわ」
同じくずぶ濡れになっている智久が寒さか恐怖かかすかに身を震わせながら首を振る。
「これは、死神がモチーフだね。時は死の化身だ――いや、逆かな。しかし、時計を示す物があるという事は‥‥」
国谷は必然性から推理し周囲を捜索する。
「北の西から数えて三つと‥‥」
一時の箇所の塚を調べると髑髏の中に鉄の鍵があった。一同はそれを手に入れ、次の星神橋へと向かう。
星神橋というのは石造りの水道橋であった。始まりは滝であり、橋下にあった洞窟へと入って置かれている鍵を手に入れる。水の流れる方向に沿って向かった。途中破壊されていて、水路が途切れていたが、辿る事に問題はない。かつて泉となっていたらしき石で舗装された窪みの底を探り三つ目の鍵を手に入れる。
その時点で雨は止んだが日が落ちてきたので、一行は星神橋の根本にあった洞窟へと入りキャンプを張った。
洞窟の入り口あたりで焚き火などを起こして周囲を警戒しつつ、服等を乾かし、食事を取る。キメラ達の気配はあるが仕掛けてはこなかった。
夜は嶋田とアッシュが洞窟の外に出て交代で見張りに立つ。
大自然の中で輝く星空を眺めて少し人生を振り返ったアッシュであった。
●宝とは
朝が来た。まだ暗いうちに携帯食で軽く腹を満たしつつ一行は再び探索行に出発する。
目指すは金虎岩だ。
大昔に溶岩が作ったと思われし低地を進む。相変わらずキメラの気配はつかず離れず、油断すれば襲いかかってきそうな雰囲気であった。一行の練力も消費が激しい、急がねばならない。
朝焼けが周囲を照らす中、一行は金虎岩に辿り着く。そこには向かい合う四体の虎象があった。
「さて‥‥どうしましょう?」
袖井が問いかける。
「うーん‥‥鍵があったんだから、やっぱり何処かで鍵を使うんだと思う。鍵穴とかないかい?」
国谷が推理しつつ言う。
「こーいう時ゃ経験者にお任せあれ」
と言ってアッシュが調査を開始した。
「罠とかはなかったな。鍵穴もなかったが‥‥口の中にランプがあった」
「ランプ?」
一行は夜を待ち、火を入れた。
夜空を仰ぐ虎の口から炎の光が伸び天地に軌跡を描いた。四本の光が交わる地点があり、一行はその地面を掘る。
すぐに硬い何かに当り土をどかすと鉄の扉が出てきた。一行は一つ目の鍵を用いて扉を開ける。地下への階段だ。
石造りの地下室へと進むとさらに扉があった。二つ目の鍵を用いて開く。
奥へと進むと祭壇らしきものがあった。生死を司る神の像が両脇を固めている。
祭壇の上には鉄の箱があった。一行は最後の鍵を用いてそれを開く。
中には一枚の紙切れが入っていた。
一同、激烈に嫌な予感を覚えつつ、鈴花が書かれている内容に目を通す。
「えー‥‥現代語に訳します」
ひきつった顔で鈴花は言った。
「我が子孫よ、今、お前の傍には誰かがいるだろうか? いるのならば、それがお前にとって最高の――」
数瞬後、一同の怒号やら「こんなことだろうと思ったよ、はっはっは」的な叫びが室内に大反響するのは、やはりお約束というものであった。
了。